大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・035『自衛隊めし・3』

2019-06-21 14:21:42 | 小説
魔法少女マヂカ・035  
 
『自衛隊めし・3』語り手:マヂカ  

 

 

「三食出そうかと思ったんですけど、一週間分じゃ二十一食になってしまいますから、ランチに絞りました」

 

 健康優良児が、そのまま大人になって自衛隊に入ったような広報さんが言う。

 海鮮丼 肉じゃが 草鞋とんかつ 鶏肉の竜田揚げ フェットチーネパスタのステーキ載せ カツカレー ビーフシチュー

「副菜は似たり寄ったりですので、味噌汁とお新香一食分です。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください。七日分になるので量は半分にしてありますが、今日のメニューのカツカレーはお代わりできますから🎵」

 半分といっても、小学校の給食なら一食分の量だ。

「えと、食後にアンケートとか感想言ったりとかあるんですか?」

 タダ飯の義務を果たそうと、友里が質問する。

「おしまいにミーティングしようと思ってるけど、特に食事の感想は求めません。そのぶん、食事風景をカメラで撮らせてもらいます。いいかしら」

 森さんの説明に「ハーーーイ」と一同返事して食事に掛かった。

「か、蟹がプリプリ」「料亭なみのお出汁ぃぃぃ!」「サックサク! ジューシー!」「ココ壱に勝ってるぅぅぅ!」「うう、味の文化祭ぃいいい!」「作った人婿に欲しいぃぃぃ!」

 みな口々に感嘆の声をあげる。ちなみに、最後のは安倍先生。

「なーるほどぉぉぉ……」

 モニターを見ながら感心しているのは広報さんとキッチン担当と思われる隊員さん。

「なに感心してるんですか?」

 爪楊枝でシーハーしながら先生が聞く。

「いや、箸をつける順序とか、何口で食べるとか、いろいろ面白い」

 なるほど、社交辞令の感想なんかより、食べっぷりを戦術的に分析した方が分かると言うことか。担当さんの後ろには上官とおぼしき眼鏡に髭のオジサンがニコニコしている。

「ちなみに、このメニューの中で航空機搭乗員は食べてはいけないものがあるんだけど、分かるかなあ」

「ハイ!」

 ノンコが手を挙げる。正直意外だ。

「海鮮丼です!」

「おお、正解、よく分かりましたねえ」

「まんいち、飛行機に乗って食中毒になったらいけないからですぅ!」

「大正解! 搭乗員は生ものは禁止なんだ」

「エヘヘ、小さいころ飛行機に乗ってて食あたりしたことあるからあ」

「そう、なにごとも経験。食後は各種体験イベントを用意してます。ロッカールームへ行ってください」

 森さんの宣言でロッカールームに向かい、戦闘服(ほんとは課業服というらしい)に着替える。

 

 障害走路といってサスケの自衛隊版みたいなのをやって、装甲車に乗せてもらったり、パラシュートの降下趣味レーションやら、VRゴーグルを着けてゲームをやったり、終わった時には、あれだけランチを食べたにもかかわらず腹ペコになった。

「まあ、虫やしないですが」 

 担当さんがコンビニのそれよりも大きいお握りを配ってくれて、みんなペロリと平らげてしまう。

 

 帰りは営門まで担当さんと上官殿が見送ってくれる。

「ありがとうございましたあ」「お世話になりましたあ」「おいしかったでーす」「またきたいで~す」

 口々にお礼を言うと、上官殿が眼鏡を外し、髭をむしり取った!

 

 ゲ! 特務師団の来栖一佐!?

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記⑥』

2019-06-21 07:11:41 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記⑥』

 
 

 両手をつかって気をとばすイケスミ、数メートルふっとんで地面に体を打ちつけられるあすか。

あすか: ……
イカスミ:……
イケスミ: 我が名はイケスミだ、二度とまちがえるな!
フチスミ: この子は恐ろしいんだ……もう戻してやった方がいい。そんな顔してると禍つ神になってしまうわよ。
イケスミ: ……そ、そうだったな。ここまでだけの約束を、ついひっぱり過ぎた。すまん、あすか……ほら、約束の成績票。
あすか: あ、ありがとう……!?
フチスミ: どうかした?
あすか: オ、オール5だ……あたし、こんなには賢くないよ。
イケスミ: あすかの頭も、それにあわせてよくなっている。
あすか: ほんと?
イケスミ: フチスミさん、なんか問題言ってやって。
フチスミ: うーん……じゃ、微分方程式ってなーんだ?
あすか: 未知関数の導関数を含んだ方程式。未知関数が一変数のとき、常微分方程式といい、多変数のとき偏微分方程式という……え?
フチスミ: 和文英訳「日本語のおはようは、英語のグッドモーニングと同じです」くりかえそうか?
あすか: ううん「オハヨウ イズ ジャパニーズイクォリティー トウ ジイングリッシュグッドモーニング」……おお!?
フチスミ: 古文法、推量の「ら」を用いた著名な和歌は?
あすか: 春すぎて、夏きたるらし白妙の、衣干したり、天の香具山……万葉集巻一、持統天皇の御製。ちなみに持統天皇、名はタマノハラノヒメ、またはウノノサララ、天智天皇の第二皇女で天武天皇の皇后、草壁皇子没後即位、第四十一代の女帝。ちなみに神田うのの「うの」は、このウノノサララからきている……すっげえ!
イケスミ: な、賢くなったろう。
あすか: ありがとう、頭の中に百万個電気がついたみたい。
フチスミ: ちょっと甘すぎない?
イケスミ: 同じ学校受けられる水準にはしといてやらないとな、真田ってイケメンと。
あすか: ああ、それないしょ、ないしょ(;'∀')!
フチスミ: あははは……そうだったわね。
あすか: え……?
イケスミ: 神さまに内緒は通じないからな。
フチスミ: がんばってね。
あすか: もう……!
イケスミ: それから、その成績票、破いたり傷つけたりするなよ。
あすか: うん!
イケスミ: 元のバカにもどっちまうからな。
フチスミ: 元のあすかも悪くないわよ。
あすか: もう、フチスミさんたら(*ノωノ)。
フチスミ: ……南東のケモノ道がまだ無事のよう。まだ日が高いから、少し教えてあげれば一時間で轟って街につく。
あすか: トドロキ……
イケスミ: このへんにしては大きな街だからすぐに、駅が見つかる。特急に乗れば一時間ちょっとで東京。ほれ、電車賃……バカ透かすんじゃない、本物。葉っぱなんかじゃないからな。
フチスミ 南の方はまだ息をひそめているけど、北の禍つ神達が雑魚のように群れはじめている。その藪の中に武器が隠してある。間に合わないときは、それで始めといて。さ行こうあすか、こっちよ。
あすか: うん、イケスミさん無事でね! 死ぬんじゃないわよ……!

 あすか、フチスミにいざなわれ上手に退場、イケスミ一人残る。

イケスミ: 心配すんな、まかしとけ!……あいつ初めて正しくイケスミって言ったな……神さまは死なねえよ……ただ変にひねくれちまって(北の方角をにらむ)ああいう禍つ神になっちまう奴がいるけどな……(北の彼方で禍つ神達の気配。イケスミ、そこに一瞥をくれると藪を探る)なるほど、さすがフチスミ、どう見ても竹や、枝の切れ端だけど、みんな鋭い殺気がこもっている。ロケット弾、重機関銃並のものまであるじゃないか……このへんが手ごろ……(ふりむきざまに、手ごろな小枝をとり意外に近くの北の空をめがけて撃つ。機関銃のような音と手応え。奇声を発して、鳥のように禍つ神の落ちる音)けっ……意外に近くにやってきている……(続いて撃ちまくる)
 
フチスミ: イケスミ!

 フチスミが、上手から転がり出るように駆けもどり、たった一人の戦闘に加わる。手ごろな武器を持ち二人で撃ちまくる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・里奈の物語・1『13日の金曜日』

2019-06-21 07:01:29 | 小説3
里奈の物語・1『13日の金曜日』                


 こんな日でなくてもいいだろうと思う。

 だって、今日は13日の金曜日。あたしはジェイソンじゃない。
 車窓から見える空はドンヨリ……午後は雨の気配で降水確率60パーセント。
 
 ……でも、この空模様だから決心できたのかもしれない。

 あたしは雨が嫌いだ……あの日も雨だったし。
 晴れ晴れとした上天気もかなわない……その日はピカピカの日本晴れだったし。
 
「あ、あべのハルカス……」

 日本一の超高層ビル……でも、立派には見えない。
 ポツンと一人そびえている姿は、なんだか孤独……へんかな、こんな風に思うって。

 ま、いいや、あたしが行くのは、あんな街の真ん中なんかじゃない。あたしは……。

 あ、止まらない……

 電車は今里駅を、アッという間に通り過ぎていった。
 急行は停まると思っていたのに……あたしの中で、今里のランキングが落ちた。
 難波とか阿倍野とかの都心はいやだけど、ウラさびれて幽霊みたいな町もいやだ。
 それに今里から向こうは検索していない。

 心細くなってくる……あたしのやることって、しょせんこんなもの。

 終点まで行って人に聞くなんて御免だ。そんなことをするくらいなら出てきたりはしなかった。

 心配と後悔が胸の中にムクムク。

 と思ったら、電車は減速し始め、次の鶴橋駅に停まった。
 黄昏色のキャリーバッグを引っぱって、向かいのホームへ、ちょうど入ってきた普通電車に乗る。
 たったこれだけのことなのに、手のひらや腋の下が汗ばんでいる。
 
 一駅もどって今里に着いた。

 今里駅はホームが三つもある。だからグーグルで見た時は急行が停まると思い込んだ。
「見かけで判断しちゃ……」
 ダメという言葉を飲み込んだ。だって……ダメダメ、また考えてしまう。

 改札を出てすぐに城東運河。ネットで見た時よりも存在感。
 目的地はこの運河の向こう側。
 この運河を逆に超えるのは、いつの日だろう。
 13日の金曜日……やっぱ、おあつらえ向きなのかも。

 橋を渡って二つ角を曲がると目的地『アンティーク葛城』伯父さん夫婦がやっているアンティークのお店。
 とりあえず「こんにちは」……それで話は通るはず。
 でも、手のひらと腋の汗がひどくなってくる。キャリーバッグを停めて深呼吸。

「さ、いくぞ、里奈」

 何十日ぶりかで自分に掛け声、最後の角を曲がる。

――本日休業――

 目的地『アンティーク葛城』には無情の掛札……今日は、やっぱり13日の金曜日だ。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・高安女子高生物語・2〔こんなもんです大晦日〕

2019-06-21 06:47:31 | 小説・2
高安女子高生物語・2
〔こんなもんです大晦日〕           


 夕べのレコード大賞は乃木坂46『シンクロニシティ

 二年連続!?

 まあ来年はないやろし、AKBでも三年連続はなかったし。シンクロニシティはユングの提唱した言葉で「共時性原理」という意味らしいねんんけど、この意味がよう分からへん。ググると「意味のある偶然の一致」やそうで、なんか女子高生が好みそうなフレーズやね。そやけど「シンクロにしてえ」と聞こえるんは河内少女のイチビリ根性かな? わたしと人生シンクロしてくれるオトコが現れたらねえ……これは願望。

 高校生をあなどったら、あきまへん。

 浪花高等学校演劇連盟のコンクールは、もっとひどい。
 信じられへんことに審査基準が無い。審査員の主観という名の好き嫌いで決まってしまう。
 うちのOGH高校の演劇部は、自分で言うのもなんやけどレベルは高い。過去三年間地区大会一等賞。で、本選では落ちてくる……その程度には。
 今年は『その火を飛び越えて』という南風先生の本をやった。いつも通り「すごいわ!」「やっぱ、勝たれへんわ!」などの歓声が上演後におこった。美咲なんかは「先生、本選は土曜日とってくださいね。うち、日曜は検定やさかい」と、早手回しに息巻いてた。
 上演後の講評会でも、審査員は「演技が上手い」「安心して観ていられる」などと誉めちぎってくれたけど、審査発表では二等賞やった。
 会場が一瞬「なにかの間違い?」というような空気になった。
 一等賞は、府立平岡高校やった。せやけど、歓声も拍手も起こらへん。当の平岡の生徒たちも信じられへん顔をしてた。瞬間、会場はお通夜のようになってしもた。

 柳先輩が、パンフを見たときの言葉が浮かんだ。

「チ、審査員、浦島太郎やんけ……!」

 ちなみに柳先輩は、身長160センチのベッピンさんで、けして柄の悪いニイチャンとちゃう。
 そのベッピン柳先輩をしてニクテイを言わしめるほどに、劇団大阪パラダイスの浦島太郎は評判が悪い。一昨年の本選で、当時は統合前やった鳥ヶ辻高校の作品を『現代性を感じない』とバッサリ切った前科がある。現代性が尺度なら古典はおろか、バブル時代の本かてでけへん。
 問題は、いかに作品の中に人間を描きだすか。わたし的にはオモロイ芝居にするかが尺度である。

 浦島太郎は、こんなことも言うた。

「二年前もそうやったけど、なんで、今時こんな芝居するかなあ。バブルの時代の話しでしょ。それも不景気な大阪を舞台にして大阪弁でやんのん?」
 柳先輩、武藤先輩は、こう呟いた。
「あの芝居は東京が舞台で、東京弁で演った芝居やねんけど……」
 それだけ軽く見ているっちゅうか、思いこみの強いオッサンなのである。
 ちなみに浦島太郎というのはキンタローと同様に験担ぎの芸名。幼稚園の生活発表会で浦島太郎の役をやって当たったんで、そのまんまで、やっている。
 もっとも当たったのは、その日の弁当の食中毒で、本人はシャレのつもりでいてる。名前から来るマイナーなイメージには頓着してない……ところが、この人らしい。

 我が第六地区には、生徒の実行委員が選ぶ地区賞というのがある。

 我がOGH高校は金賞をもらった。通称「コンチクショウ」という。まさに字ぃの通り。
 平岡高校は銅賞にも入らへんかった。
「どうしようもないな」
 そう言ったら、南風先生に「アスカ言い過ぎ!」と怒られた。

 腹の納まらんあたしらは「アドバイスをいただきたい」ということで、浦島太郎を学校にお招きした。

 一応相手は、プロで大人やさかい、礼は尽くした。
「先生の審査の柱は?」「わたしたちに高校演劇として欠けているものは?」「演出の課題は?」「どうやったら先輩たちのように上手くなれるんでしょう?」「高校演劇のありようは?」「道具の使い方のポイントは?」
 浦島太郎は「道具を含むミザンセーヌのあり方が……」「演出の不在を感じた」「エロキューションはうちの劇団員よりいい。でも、それだけではね」などと言語明瞭意味不明なことを述べ、あたしらは、ただ「恐れ入る」ということを主題に演技した。

 あたしは思た。アカンと思ったら落とすための理由を審査員は探す。イケテルと思たら上げるための理由を探す。審査基準が無いためのダブルスタンダードの弊害や。

 西郷先輩が、帰りの電車で浦島太郎のオッサンといっしょになった。
「いやあ、君たちのような高校生といっしょに芝居がしたいもんだ」
 西郷先輩は、そのままメールでみんなに知らせてくれた。

――どの口で言うとんねん。ですわ!――

 あたしは、そう返した。
 なんか、がんばらなアカンという気持ちになって台本を読む。

「言いたないけどな、明日香、いつになったら部屋片づけのん!?」
 お母さんの堪忍袋の緒が切れた。
「あ、今やろ思てたとこ」
 白々しくお片づけの真似事を始める。
「今から、そんなんせんとって。ゴミ収集が来るのは五日やで!」
 大人の言うことは理不尽や。
「買い物行ってきて。これリスト」
「ええ、生協で買うたんちゃうのん!?」
「それでもいろいろ漏れるのん。それが年末いうもんや。さっさとせんと昼ご飯ないで!」
 あたしは、玄関でポニーテールが決まっていることだけを確認。
「よし!」

 ほんで、外環状のホームセンターと近所のスーパーをチャリンコで回った。

「ええ……ディスクのRWに電池、ベランダ用ツッカケ……たかが三が日のために、年寄りの正月はたいそうやなあ」

 そう思いながら、大事なものが抜けていることに気いついた。しめ縄がない。
 で、気を利かして1000円のしめ縄を買うた。

「明日香、アホか。うちは喪中でしめ縄なんかでけへんやろ」
 お母さんははっきり口に出して、お父さんは背中で非難した。
 そうや、この七月にお婆ちゃん(お父さんのオカン)が亡くなったんやった……。

 自己嫌悪で締めくくった大晦日やった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女BETA・35《コスモス坂から・8》

2019-06-21 06:28:25 | 時かける少女
時かける少女BETA・35
《コスモス坂から・8》


「マスター(修士)になるんじゃなかったの!?」

 スーツ姿の兄が胡散臭く見えた。
「そんなla tour d'ivoire でぬくぬくしてる時代じゃないんだよ。ほうら、おまえら食うか?」
「なあに、アメリカのお菓子?」
 久美子が長閑に聞いた。
「ばかね、英語でキャットフードって書いてあるじゃないの」
「え、猫のエサなの!?」

 勲がボールに開けたキャットフードに、タマも、ミーも寄ってきた。ただ、どういうわけかモンローだけは近づこうとしない。
「la tour d'ivoire なんてフランス語は分からないけど、今のお兄ちゃん日和ってるようにしか見えないよ」
「象牙の塔って意味だよla tour d'ivoire は。ただの細胞として安保反対を叫んでいるだけじゃ世の中変わらない。もっと自分を生かすやり方があることに気づいたんだ」
「それが、その酔っぱらいのスーツ姿なの?」
「オレは、今は新聞記者だ。ペンの力で岸内閣を倒し、10年かけて日米安保体制は崩してやる……モンローもこっち来いよ!」
 モンローは一声「ニャー」と言ったきりそっぽを向いてしまった。

 安保条約は、その年の5月には国会で強行採決されて成立批准されてしまっていた。勲は、安保改定阻止には失敗したと冷静に分かっていた。次の改訂は1970年。良く言えば、そこに焦点を当てての長期戦に入ったと言えなくもないが、芳子には、ことの良しあしはともかく、身勝手な戦線離脱にしか見えなかった。現に安保闘争は、安保反対から岸内閣打倒へと矛先が変わり、その運動は国会周辺に連日30万人のデモ隊が出るほどに高揚していた。

 そして犠牲者が出た。

 T大学の女子学生が、デモ中に転倒、デモ隊と警官隊が錯そうする中踏みつけられて圧死してしまった。他にも連日のように怪我人が出ている。勲は、それを安全な場所から取材し、デモ隊の後輩たちから情報を得て、駆け出しの記者にしては、そこそこのスクープ記事を書いていた。

『カツオとワカメの兄妹日誌』

 ワカメからカツオへ

 もう安保闘争は勝負がついたわ。岸総理は辞職覚悟でやり遂げた。だから「岸内閣打倒」を叫んでも、それが実現してもカツオくんたちの勝利にはならない。もう死者まで出ている、怪我をしないうちに手を引いて。  ワカメ

 カツオからワカメへ

 負けかもしれないけど、オレたちは歴史を作っているんだ。ここまで戦ったという実績と覚悟をのちの時代の日本人に記憶してもらうために。オレたち日本の若者は、心から絶対平和の日本を目指すんだ。   カツオ

 そうして、恐れていたことが起こった。

 カツオである白根が警官隊との衝突で重傷を負ってしまったのだ。芳子は初めて学校を無断欠席し白根が入院している病院へ急いだ。

「真一、しっかりして!」

 芳子は、初めて下の名前でカツオを呼んだ……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・42』

2019-06-21 06:13:21 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・42 

 
『第五章 ピノキオホールまで・3』

「ダルマサンガコロンダ、今日はしないの?」

「あの芝居中止になった……」
「なんで、お母さん楽しみにしてたんだよ。はるかの初舞台」

「出られない子が、三人出ちゃって……」
「その子たち、バイトでしょ?」
「家庭事情って子もいるよ」
「ほら、バイトの子もいるんだ。でしょ?」
「……これ、代わりにやる本」
「ん……『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』どれどれ……」
 お母さんは、それまで読んでいた旅行案内を置いて熟読しはじめた。

 手持ちぶさた。アクビ一つして、ベランダの向こうの空を見上げる……。

「あ、流れ星……!」
 とっさにつぶやいて、願い事……間に合わない(くそ!)

「この本、おもしろい。わたし好きよ、こういう切ないファンタジー。それに、はるかの台詞多いじゃん。まさか主役!?」
「ん……準が付くけど」
「ハハ、去年の学園祭も準だったよね」
「どうせわたしは、一等賞にはなれない子なんです」
「ひがむなひがむな……そうだ、来週発表だよ!」
「なにが?」
「ジュニア文芸。ノミネートされてんでしょ?」
「なんで知ってんの!?」
「商売道具だけじゃないのよ、パソコンは。ね、お願いしとこうよ目玉オヤジサマにさ」
「だって、あれは……」
「いいから、いいから」

 久々に仰ぎ見る目玉オヤジ大権現……ウソ、後光が差している!
 と、思ったら。赤、白、青の光がしずしずと……伊丹空港に降りようとする飛行機。これもなにかの瑞兆(ずいちょう)かと手を合わせた。
 どこかにマサカドクンの気配……気づくと、エアコンの室外機の上で、いっしょに振動しながら手を合わせておりました。


 翌週、稽古はいきなり佳境に入った。本番まで一ヶ月ちょっとしかない。

「毎日、稽古やりましょ!」
 乙女先生の鼻息は荒かった。
「まあ、ぼちぼちで、いきましょ」
 あいあかわらずのコンニャク顔。
「ほんまは、季節が一回替わるぐらいのスパンが欲しいんですけどね」
「ほんなら、なおのこと……」
「まあ、最短で芝居仕上げた新記録目指しましょ。オレの記録は二十五日やから……二十四日。これでいきましょ」
「そんなアホな……」
 わたしたちも同感だった。
「本気やで、かつ統計的に出した合理的な日数や。ここに居てる三人。まあ、お手伝いさんの山中さんは置いといて、平均出席率は0・九や。これを三回かけて0・七、これに残りの日数三十八をかけて……なんぼや、タロくん?」
「えーと……二十六・六です」
「これに、乙女先生の介護の日ぃとか、考えると妥当な線やと思いますよ」
「……」
 と、みんな。乙女先生は渋い顔。
「試しに、一回、日程組んでみよか。タマちゃん、ホワイトボ-ドにカレンダー書いてくれる。で、みんな都合の悪い日入れてみい」
 書き入れてみるとみんな二三日都合の悪い日が出てきた。
「他に、教員採用試験の会場になってるから、一日。電気点検で、半日使われへん日ぃがありますね」
 なるほど、二十四・五日という日数になった。
「これで、日に五時間の稽古として……」
「百二十時間です」
 タロくん先輩が即答した。

 かくして、わたしたちの百二十時間が始まった。

 気合いが入っていたので、台詞は四日で入った。エッヘン!
 でも、演出の手が入ると、とたんに台詞は怪しくなる、なんで!?
「台詞は、機械的に、感情抜きで覚える。そやないと、解釈が変わったり、相手の芝居が変わったりしたら、すぐに抜ける」
 五日目、台詞は完ぺき。早くも芝居らしくなってきた。
「あかん、あかん、芝居が走ってる。それにガナリすぎ。自分をコントロールでけてへん。昼メシ食べたら、グランド集合」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする