大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・029『ダージリン』

2019-06-27 14:54:54 | ノベル
せやさかい・029
『ダージリン』 

 

 

 アッ!と思うことはたびたびある。

 山門脇の桜が見事に満開になったとき、紫陽花の花の色がコロッと変わったとき、校長先生の髪がアデランスやと分かったとき、ファイナルファンタジーⅦのリマスター版発売が発表さっれたとき、お父さんの失踪宣告が決まったとき、ほかにも色々……。

 いま、アッと思たんは頼子さんのヘアスタイルが変わってたから!

 頼子なんちゅう昭和チックな名前やけど、イギリス人とのハーフでブロンドの髪にブルーの瞳。フルネームは夕陽丘・スペンサー・頼子。いつもはロングの髪を肩に垂らして不思議の国のアリスみたい。

 それが、なんちゅうか一見ショートヘア。

 よく見ると、後ろの方でまとめてあって、ショートよりもかっこええ!

「アハハ、暑いからね。と言って、ショートにするのもなんだしね。おかしい?」

 留美ちゃんと二人、フルフルと首を振る。

「素敵な人は何をしても素敵ですねえ……」

「そんな感心しないでよ、三つ編みをまとめただけなんだから」

「三つ編みなんですか?」

「うそ?」

 留美ちゃんが後ろに回ってシゲシゲと観察。頼子さんはティーカップを持ったままクルリと回って見せる。下手に恥ずかしがらないし、はしゃぐわけでもなく、自然に留美ちゃんの興味に合わせてる。いかにもレディーという感じ!

「ダージリンに似てます!」

 え? 似てますじゃなくて、文芸部の紅茶はダージリンなんですけど?

「あ、ああ、あのダージリンか!」

 頼子さんも納得やけど、わたしには分からへん💦

「これだよ、桜ちゃん」

 部室のパソコンをチャチャっと操作する留美ちゃん、なんとブラインドタッチです。

「ほら!」

 嬉しそうに出したんは、ユーチューブ。ガルパン映画の予告編。  

「あ、ああ……」

 納得した。聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンにソックリや。

「わたしはダージリンほどには格言知らないけどね。ハハ、ローズヒップって言われなくてよかった」

「嫌いですか、ローズヒップ?」

「見てる分には好きよ。友だちに、こういうのが一人いたら面白いとは思うんだけど。あんたたちも十分面白いよ」

「そ、そうですか?」

「留美ちゃん、水泳の授業『うまい班』なんだって?」

「え、あ、まあ」

 そうそう、見かけによらずと言うてはなんやけど、留美ちゃんは水泳の授業では『うまい班』なんだ。

「で、さくらは『金槌班』なんだ」

「そ、そうですけど」

「「アハハハ」」

 二人そろって笑い出す。わたしもいっしょに笑てしまう。たった三人の文芸部やけど、ええクラブやと思う。

「『金槌班』はA班になるらしいわよ」

 これには、留美ちゃんも「え?」やった。

「『苦手班』はB班、『うまい班』はC班なんだって」

「なんですか、それは?」

「名前の付け方が差別的だってクレームが来たらしいよ。来週の授業から変わるって」

 

 うーーーーーん。

 

 どうなんだろ?

 田中さんの『制服切り裂き問題』には何の対応もせえへんのに、しょうもない水泳の班の名前のクレームにはアッサリ対応。

 それも『金槌班』が『A班』……当たり前の感覚やったら『C班』やろと思うねんけど。

「それで、田中さんは?」

 あとで思うと、頼子さんの関心は、田中さんのことにあった。

 田中さんのことを真っ先に聞くと変に意識してしまうのんで、いろいろの前振りやったと思うのは、もっと後のこと。

「いや、それが、今では水泳の師匠なんですよーー!」

 田中さんのスパルタ指導を説明すると、コロコロ笑う文芸部でありました。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん③』

2019-06-27 07:00:30 | 戯曲
連載戯曲『梅さん③』 


 
 
: よろしゅうございます。恐れ入ります、そこにおなおりいただけますか。
: おなおり? 
: お座りくださいまし……正坐で、背筋をお伸ばしなさいまして……
: は、はい。
: 失礼いたします(スマホを出して写す)元締め……上役に最後のチェックをさせていただきます……
: イエィ! 百点満点!(スマホに向かってVサイン)
:(スマホで話をする)はい……でも……はあ……はあ……やはりそうですか。
 はい、承知致しました……(みぞおちのあたりに力をいれるようにして)申し上げます……わたくし実は……
: 実は……?
: 貸衣裳屋、常磐衣裳とは、世を忍ぶ仮の姿。実は……剪定士でございます。
: え……植木の散髪屋さん?
: 植木ではなく、なんというか……人間の……
: あ、美容師さん!? やだよあたし、リボン付けんのはいいけど、入社式までは、ヘアースタイル変えるつもりはないんだからね!
: 美容師ではなく……いわば、人間そのものの剪定士。
: え……
: 放置しておくと、この先世のため人のためにならない人間を剪定するのが役目。
: え……
: 元締めと呼ばれる……神さまと申しあげればよろしいかと……その元締めから、この人間を剪定せよと申しつかり、このように種種様々な方法で剪定される人様に近づくのです。そして、念には念を、ただ今元締めによる最終チェックをいたしました。
: それって……え? え?
: 残念ですが、冗談でもドッキリでもございません(懐剣を取り出し床に据える)
: ゲ!……渚のこと殺すの!?
: いいえ……この懐剣は、渚さんの肉体と魂を切り離すためのもの……
 通常は(ピストルのようなものを取り出す)このピストル型の人消しを使います。
: 人消し……
: 存在そのものを消し去り、このカートリッジ(銃からカートリッジを取り出す)に魂を回収します……
 たとえば、筋向かいの池田さんのおうち。去年定年をむかえたご夫婦だけで暮らしてらっしゃいますよね。
: そうだよ、水野さんちは渚ちゃんがいていいねって、小さい頃からかわいがってもらって……
: 若い頃から不妊症かと思って、ずいぶん努力を……
: そうだよ、病院を何軒もまわって、体外受精とか、いろいろやったけど、結局……
: (カートリッジを示して)実は、この中に、池田さんの息子の魂が封じ込めてある……
: え……?
: ……(カートリッジをガチャリと銃にもどす)
: ……池田さんちに子供なんていないって。
: ……よくできた盆栽の剪定といっしょ。初めからそういう形であったかのように見える……
 その梅の盆栽も、半月もすれば、始めから、自然にきれいに枝や花が整っているように見えるようになるわ。
 池田勇君て子がいたの、記憶は消えてしまっているけど、渚とは保育所のころからいっしょ。おもしろい子だったけど、中学のころからくずれはじめ、たばこにシンナー、お酒にクスリ……ここまではいいとしても、
 将来、とんでもない災いのもとになる……元締めからそういう依頼があって、先週剪定した……つまり存在そのものを消した。
: 消した?
: 親でさえ、その存在を忘れ、彼がこの世に存在していた痕跡の全てを消してしまうの。あの子の部屋は、そこ……あの家の少しゆったりしたカーポートの半分を占めていた増築部分……今は跡形もないけどね。
: うそ……
: ほんと。
: ……魂は?
: 初期化して、問題がなければ、またどこかの赤ちゃんとして生まれ変わる……そして、今度剪定の依頼をうけたのが、あなた水野渚さん……(じっと見つめる)よろしく。
: (耐えられずに、戸や障子を開けて逃げようとするが、ことごとく鉄の扉のようにロックされており、ビクともしない)……そんなあ……(;゚Д゚)
: まあ、そんなにお騒ぎにならずにお座りなさい……(指先で渚を、そして元の座っていた位置を示すと、見えざる手によってつかまれたごとく、元の場所に正坐する渚)
: ……あ、あんた魔法使い?「千と千尋」の湯バーバみたいな!?
: どうせ言うなら銭ーバくらいにしてもらいたかったわね……少しは情ってものがあるのよ、私にも……
 わがままで見栄っ張りで、面倒くさがり屋で、人の世話をするのが大嫌いで、こらえ性がない……こんなにかわいいのにねえ……将来は、結婚と離婚を繰り返し、二人の子供を車の中に置き去りにして、渚はパチンコに熱中。子供は車の中で熱中症で死亡。悲観のあまり自宅でガス自殺。そのガスに引火して大爆発。
大勢の人がまきぞえをくって死んだり怪我したり……そして、その死に至るまで、通りすがりの人や近所の人達に数え切れない悪影響を及ぼすんだそうよ……
: そ、そんな……
: という元締めの話。
: どうしてそんなふうになるってわかるのよ!?
: 言ったでしょ……運命の神さま。人がこれからどんな生き様を示すかを見通す、剪定士の元締め。どの枝を切り、どの花を生かせば、人や人の世が平和になるかを見通される。その的中率は九十九点九パーセントだといわれる。
: だ、だからって、まだやってもいないことに責任とらされるなんて理屈に合わないよ!
: これをごらんなさい。
池田君が存在し続けていた場合の、つまりわたしが彼を剪定しなかったらこうなったという別次元の新聞、
 日付は一昨々日の夕刊。
: ……暴走男、男女五人を轢き殺し、他四人重軽傷……親と口論の末、酒を飲んで暴走……父親は責任を感じて自殺……
: 死んだ人の名前を見てご覧なさい。
: 死者は、太田豊子、新田幸子、水野渚……!? 
 三人は卒業旅行の待ち合わせのため、水野さん宅前の路上を歩いているところを……
: そう、放っておいても渚は死ぬことになっていたんだけど、他のまきぞえくって死ぬ人はもっとかわいそうでしょ。理不尽だわ、加害者のお父さんは責任感じて自殺に追い込まれるし、渚のお父さんやお母さんも、嘆き悲しむ。警察は余計な仕事が増えて、喜ぶのはテレビのワイドショーくらいいのもんでしょ。それで、これがその現場写真。
: (チラッと見て顔をそむける)なんでこんなものが……
: 超正確な天気予報みたいなもの。近い未来は確実に見通せる。
 渚なんて、車の下に巻き込まれて五十メートルも引きずられて……もう人間の形してないよ。
: ……
: 普通、元締めはここまで見せたり、教えたりはしてくれない。ただ「だれそれを」剪定してこい……こんなに詳しく教えてくれるのには訳がある。渚……あなたはわたしのやしゃごだからよ。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・8〔あたしの神さま〕

2019-06-27 06:49:51 | 小説・2
高安女子高生物語・8
〔あたしの神さま〕         


 今日もS君が来てへん……。

 まだ新学期が始まって三日目やけど、二学期もよう休んでたさかい気になる。
 クラスの何人かは心配してるみたいやけど、大半の子ぉは「Sは、もうあかんで」と思てる。
「放課後は、あしおらんさかい」
 担任の毒島(ぶすじま)先生は、昨日も、そう言うてた。きっとS君とこの家庭訪問や。
 お父さんが元高校の先生やから、よう分かる。
 毒島先生は、S君をもう切りにかかってる。あかん生徒には無事に自主退学してもらうために家庭訪問が増える。

 正直S君は弱いと思う。

 苗字が『宇宙戦艦ヤマト』に出てくるキャラクターと同じなんで、一学期に、ちょっとからかわれた。せやけど、イジメなんちゅうもんやないと思てる。クラスには鳩山君いうのもいてて、この子もずいぶんからかわれた。せやけど、そんなんほんの一カ月ほど。案外しっかりした子ぉで、学級委員長にも選ばれて、周りからは、こない呼ばれてる。

「鳩山の皮を被った阿倍」

 S君は、ちょっとからかわれたことを理由に引きこもってるだけや。あんまり同情はせんけども、どないかせいと思う。
 名前言うたら、うちの担任もたいがい「毒島」やもんな。ついでに、先生の一人称は「あし」やけど、立派な、どっちか言うとベッピンの部類に入る女の先生。
 他の地方の人には、分かりにくいやろけど、河内地方では女の一人称は「あし」「わし」になる。あたしもそない言うときもあるけど、注意して「た」を抜かさんようにしてる。
 お母さんにちっちゃいころから言われたり、保育所の先生に言われたこともあるけど、直接はお父さんの影響。
「あしで、ええ。河内の女はあしや!」
 事あるごとにいわれてたんで、あたしは「あたし」と言うようになった。

 お父さんは、いらんことを教える。

 しょ 処女じゃない♪ 
 処女じゃない証拠には♪ 
 つん つん 月のものが 三月も ナイナイナイ♪

 これを『しょじょ寺の狸ばやし』で覚えてしもて、保育所の先生に怒られたことがある。
 他にも、『インターナショナル』と『軍艦マーチ』を歌える。これも、お父さんが保育所の行き帰りで、無垢なあたしに覚えさせたもん。
「おおきなったら、右翼にも左翼にもつぶしがきく」
 というのが名目やけど、ようは「おもろい子ぉ」にしたろというイチビリ根性。

 で、お父さんの言うことは、あんまり信用してない。

 せやけど、一つだけ、あたしの中で定着したもんがある。
『高安山の目玉親父』
 保育所行くときも、うちの三階の窓からも見える。
「お父さん、あれ何?」
「あれは、目玉親父大権現さまや」
 そない言うて、手ぇ合わせたさかい、それからあたしの心のなかでは神さまになってる。
 さすがに、手ぇ合わせたりはせえへんけど、なんとなく守り神みたいに感じてる。
 ほんまは、高安山気象レーダーやいうのは、小学校になって教えてもろた。

 せやけど、あたしには神さま。

 今朝も、なんとなく「うまいこといきますように」と具体的なことなしで願掛けしてきた。
 で、S君は来てへん。まあ、ええけど。
 クラブの稽古では、ダメ出しばっかりされて凹んでしもた。まあ、本番まで三週間しかないさかい、しゃあない。けど、胃が痛い。

「佐藤君、改めてモデルを頼みたいんだけど」

 部活が終わって帰ろ思たら、美術部のイケメン馬場さんに呼び止められた。

  これて、神さまの御利益やろか……!?
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高校ライトノベル・里奈の物語・7『空飛ぶ鉄瓶・1』

2019-06-27 06:41:04 | 小説3
里奈の物語・7『空飛ぶ鉄瓶・1』



 誰かの眼差し(まなざし)で目が覚める……と言ったら笑われるかな?

 あたしは、それで目が覚めたことがある。
 うんと昔、まだオムツとかしてたころ……ちょっと信じられないだろうけど、あたしは覚えている。

 思い込みかもしれないけど、十七年の人生で、数少ないイイコトだったから。

 ホワホワとした温さで目が覚めた。
 冷めた目の先に、お父さんとお母さんの顔があった。二人とも顔いっぱいの微笑みで、あたしを見ていた。
 あたしが居ることで、二人とも幸せなんだ……そのことが、とっても嬉しい。

 あたしは存在していていいんだ……!

 そんなこと、赤ん坊が思うなんて、ね……ありえない?
 でも、きのう東からお日様が昇って一日が始まったのと同じくらいの、確かな記憶なんだよ。

 それと同じくらい温かい眼差しで目が覚めた。

「あ…………あなた?」

 その子は、胸から上が黄色い切り返しになったワンピースを着て、机の上に座っていた。
「いいお天気ね。昨日までの雨が嘘みたい」
 そよ風が人の姿になって口をきいたら、こんな感じ……。
 その子が誰なのか、そんなことどうでもいいと思っちゃうぐらいの爽やかさ。
「カーテン開けるよ……うんしょ、うんしょ」
 その子が歌舞伎の緞帳のようにカーテンを開けると、ベランダのサッシもいっしょに開き、秋の風が日差しといっしょに、部屋に注ぎ込んだ。
「うわ……」
 穴から出てきたモグラみたくたじろいで、お布団を被る。
 そのお布団の上を、なにかがよぎった。

「こんな朝は、飛ばなやもったいないね!」

「え、飛ぶ?」
 お布団ずらして、目を上げるとベランダの向こうに黒々とした特大の甕の口が浮いていた。
「さ、乗って」
 その子は、ヒラリと甕の口に飛び込み、あたしにオイデオイデをした。
「これって……大きな鉄瓶……はてな?」
 振り返ると、机の上のはてなの鉄瓶が無かった。さっき、お布団の上をよぎった……。
「そうよ、こんないい日は、鉄瓶だって空を飛ぶ!」
「そうなんだ!」

 二人を乗せたはてなの鉄瓶は、そのままグーンと秋の蒼空に舞い上がった。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・41≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫

2019-06-27 06:29:34 | 時かける少女
時かける少女BETA・41
≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫ 


 美奈は道頓に見とれてしまった。

 と言って、惚れた腫れたではない。その異相にである。茶人のような風体から武士でないことは分かるが、造作が大きい割には威嚇を人に感じさせず、面構えは、この戦国末期の世では、一国の大名に相応しい。
「あ、そこちゃうがな!」
 なにか差配と作事に食い違いがあったのだろう、道頓ははじかれたように立ち上がった。立つと顔に似合った偉丈夫の胴ではあるが、手足が滑稽なほどに短い。

 美奈は思わず吹き出しそうになった。

 道頓は短い手足で、梯子を降りようとしたが、最初に足を降ろしたところで梯子を踏み外し、三間ほどの高さから、ずどんと落ちてしまった。
「痛、いたたた……足を、足をいわしてしもた!」
 正直に苦悶の表情を浮かべて、道頓は転がりまわった。
「だれか、医者じゃ、医者を呼んで来い!」
 年かさの配下のものが叫んだ、人足や町人たちが周りを見まわすが、おいそれとは医者は見つからないようだ。
「利助!」
 年かさが利発そうな若者に名前だけで命じた。若者は、それだけで分かったようで駆け出そうとした。

「わたしが診ます!」

 利助がつんのめった。
 美奈は薬箱を降ろしながら、道頓を囲む輪の中に入って行った。
「ねえちゃん、怪我も診られるんか?」
 年かさが、驚いたように言った。
「いささか……右足の下の骨ですね。これ、痛みますか?」
「痛っ!」
「骨は折れていませんが、ヒビが入ったようです。しばらくご辛抱を。そこの棒を……」
 利助が、添え木であろうと理解して、紐といっしょによこした。
 美奈は、薬箱から塗り薬を取り出し、右足の膝から下に刷り込んだ。美奈は、ほんの小娘なので、年かさや利助たちは心配げに見ていたが、当の道頓は累代の医者に診せているように落ち着き払っている。やがて添え木をあて、紐で巻き上げて治療が終わった。
「嘘みたいに、痛みが引いた。あんた若いのにすごいなあ!」
 道頓は他人事のように感心した。
「痛み止めがきいているからです。七日ほどは歩けませぬ。日に二度、この薬を……」
「でや、いっそ治るまで、うちの屋敷に来てくれへんか?」
 子供のように打ち解けた笑顔で道頓が言った。打ち解けると満腹になった竜をマンガにしたような人懐っこさになる。

 で、美奈は久宝寺の道頓の屋敷に、とりあえず七日間滞在することになった。

「道頓さまには、みな懐いておりますね」
 薬を塗り、添え木を当てながら美奈は正直に言った。二日目の朝である。
「ああ、有り難いこっちゃと思てる。大坂は関白殿下が来られてから、風通しがようなって、それが儂みたいなもんにもお裾分けの差配がでける」
 美奈は、道頓がおべっかではなく、心から思っているように感じられた。このオッサンに欲を持たせたら、いっぱしの大名にはなるだろうと思った。
 道頓には良くも悪くも「欲」が無い。人が喜ぶことをするのが好きでたまらぬ性分のようで、大坂城の外堀の作事も秀吉が喜んでくれることと、なにより、この作事で河内近在の百姓や町人に銭が潤沢に回るようになり、皆が喜んでくれることが嬉しくてたまらぬ様子であった。

「美奈はん。あんたは歳に似合わんなかなかの医道の達人やと思う。よかったら作事が終わるまで居てくれへんやろか。作事場では毎日大小の怪我人やら病人が出る。要費と礼は儂が出すよって、頼まれてくれへんやろか?」
 言いようが、まるで女を口説くような熱と稚気があった。美奈は笑いながら引き受けた。

 こうして、美奈は、道頓を通して戦国末期の歴史に関わることになった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・48』

2019-06-27 06:17:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・48 



『第五章 ピノキオホールまで・9』


 ナイスお下げ!

 この一発から稽古が始まった。
 てか、自主練やるために、わたしは一時間も早く学校に来た。そしたら、プレゼンの前で、大橋先生が中庭のソフトボール部の練習を見ていた。
 この先生は、退屈を知らない。放っておくと、何かしら人を見ている。
時々「ホウ」とか「ヘエ」とか「ナルホド」とかつぶやいている。
 ソフボの子たちは、ウォーミングアップのため、ユニフォームではなく、ハーパンにTシャツ。それに日陰とは言え、もう八月。汗だくだ。

 知らない人が見れば、ただの不審者。

「先生、早いんですね」
 プレゼンを開けて、エアコンをつける。
「ああ、稽古前に乙女さんと話そ思て早よ来たんやけど、お母さんの介護やろなあ、まだ来てへん」
「ケータイ買えばいいのに」
「死んでもイヤ! それに、こういう偶然の出会いもあるしな」
 ソフボの子たちを見ていたとは言わない……。
「お下げにはしてほしかったんやけど、今時の子ぉは嫌がる思て言いそびれてた」
「トコさんには、一ヶ月前からメガネかけさせたんでしょ」
「え、トコ知ってんのか!?」
「昨日、志忠屋でいっしょでした」
「ええオバハンになっとったやろ」
「ううん、とってもキャリアでナイスオネエサンでしたよ」
「そうか、キャリアか、あいつもドラマチックな青春しとったさかいにな」
「ロマンスの多い人だったんですか」
 女子高生としては、しごく当たり前の想像をした。
「それもあるけどな、あいつはいっつも、人生の最前線におらんと収まらん性分でな」
「人生の最前線?」
「もとは高校卒業してS銀行に行きよった。あ、今のMS銀行」
「MS銀行! 大卒でもめったに入れませんよ」
「まあ、時代がちゃうけどな、学年でもピカイチやった。芝居は……まあ、それなりやったけどな」
「でも、今は理学療法士さんでしたよ」
「ああ、ある災害事故で、ボランティアに行きよってな。MS銀行にはボランティア休暇があってな。で、そこで偉いドクターと運命の出会いをしよった」
「あ、そこでロマンスが!?」
「話は最後まで聞け」

 台本で頭をポコンとされた、我ながらいい音がした。

「ドクターは女医さんや」
「なんだ」
「その女医さん、ガンに侵されてはってな、そんな自分の病気はほっといて働いてはった。ほんでいろいろあって、トコは、その女医さんの最後を看取りよった……それで、人生の大転換。オレにも多くは語りよれへんけど……そのお下げ、トコが言いよったんか?」
「まあ、そうかな。トコさんが台本を見て、メガネの話になって、由香とお母さんがノっちゃって」
「うん……まだ取って付けたみたいやなあ」
「自分でもそう思います」
「これに着替えといで」
 紙袋を渡された。中味はセーラー服……!
「先生、なんでこんなもん持ってんですか!?」
「そんな変態オヤジ見るような目ぇで見るなよ。昔、劇団持ってたから、そのころのん見つくろうてきた。他にもいろいろ入ってるやろ」
 なるほど、よく見ると、モンペや防空ずきんなどが入っていた。準備室で着替えて、鏡に映してみた。

 カオルがそこには居た……。
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