大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・033『自衛隊めし・1』

2019-06-14 14:48:53 | 小説
魔法少女マヂカ・033  
 
『自衛隊めし・1』語り手:安倍晴美   

 

 

 調理研の四人娘を乗せて246号線を西に向かっている。

 

 学校では三限目が始まろうという時間に、教師と生徒四人、ほとんど遠足気分でドライブしているのには訳がある。

 雑誌の編集を生業にしている友人が泣きを入れてきたのだ。

――ポリコウに調理研あったよね!?――

 うん、あるよ。

 気軽に返事すると――生徒貸して!――と頼まれてしまった。

 雑誌の企画で、自衛隊メシを女子高生が試食しまくるというのをやるんだって。

 丸の内高校の調理研を予定していたのが、季節がらか部員全員が食中毒になってキャンセルしてきたのだ。ネットで調べまくると日暮里高校にも調理研があるのを発見! それで、同窓のよしみであたしに言ってきたのが、昨日の今頃。

 それで、顧問に頼むと、あっさりOK。

 ただ、条件が一個あって、いっそ調理研の正顧問をやること。

 で、正顧問最初の仕事が四人の公欠をとって一限目終了と同時に車で学校を出たというわけよ。

 グ~~~~

 後部座席から陽気な音がした。

「だ~~~~れだ?」

「す、すみませ~ん(^_^;)」

 顔を真っ赤にして応えたのは、調理研一番のお子ちゃまノンコこと野々村典子だ。

「さては朝ごはん抜いてきたなあ~」

「ぬ、抜いてませ~ん! トースト一枚にしただけです!」

「ハハ、タダ飯だと思って、食べる気まんまんなんだ!」

「ち、ちがいます!」

 ムキになるノンコに車内は爆笑だ。

「友里んとこは、お母さん残念がってなかったか?」

「あ、そうなんです、よく分かりましたね!?」

「マヨネーズエッグ、職員室でも評判だったもんね、友里のお弁当作るの生き甲斐なんだろ、お母さん」

 友里の両親はコブ付きで再婚したばかり。お弁当が縁で、やっと近ごろ親子らしくなったんだ。このくらいの冷やかしで応援してやるのがいいんだ。

「取材協力費なんて出るんですかね?」

 ちゃっかりしているのは藤本清美だ。根はとっつきの悪い優等生なんだけど、友里つながりで調理研のメンバーになって砕けてきた。

「いくらかは出ると思うけど、なんで?」

「たまには、ゴージャスな食材でパーっとやってみたいじゃないですか! あ、むろん安倍先生もいっしょに!」

「おー、いいねえ。食い物はアテ程度でいいから、お酒のいいやつを……」

「授業の一環です、アルコールはNGです!」

「それはキビシイ~」

「先生、バックミラーアアアアアアアアアアア!」友里が叫んだ。

「な、なんだ!?」

 バックミラーには、猛スピードで軽ワゴンが、あちこちの車にぶつかりながら突っ込んでくるのが映っている!

「ヤバい、暴走車だ!」

 二秒足らずで通過するか衝突するか!

「みんな、体丸めろ!」

 そう言うのが精いっぱい。ハンドルを左に切るが、おそらく間に合わない!

 

 ぶつかる!!

 キキキキーーーーーーーーー!!!

 次の瞬間、悲鳴のようなブレーキ音をさせ、わが愛車の直ぐ後ろで暴走車は停止した。

 運転席には八十過ぎくらいのクソババアが目をまん丸くしてたまげている。

 この顔は、自分でブレーキを踏んだ顔ではない。

「おまえが、やったのか?」

 小さく呟くと「え、なんおことですか?」とオトボケ。

 こいつが一番の問題児、渡辺真智香。

 ほんとは魔法少女マヂカという。ひょんなことで素性を知ってしまったんだが、ケルベロスって双頭の黒犬に口止めされていたりするんだ。

 クラッシュしていないので、ゆっくりアクセルを踏み込む。

 目標の練馬駐屯地は目と鼻の先だ。

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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑧)

2019-06-14 06:35:59 | 戯曲
連載戯曲
ダウンロード(改訂版⑧)



ノラ:……アダムのルーター(しばらく見つめているが、そっと自分の耳に装着する)
 ……さすがに最高級品……振動もショックもない。
 ……あ、アダムのメモリーに繋がった!?(一度抜いて、再びためらいながら、耳に入れる)
 ……このバーチャルファミリー、本物の孝之助さんがつくったんだ。最初は半分ジョークのつもり……
 事業に成功して……ずっと独身だったから、人からいろいろ縁談をもちこまれて……
 まあ、お金持ちのお嬢さんやら、タレントさんやら……
 ハハハ、それを断るためにバーチャルファミリーをこさえて……
 そして、あの地震で死んだことにしたんだ。
 ……すごい、一日ごとに家族三人の生活を書き込んでる……習慣とか、細かい体の特徴とか……八歳で盲腸。
 ……うん癒着して大変だったんだよね。
 ……え、わたし出ベソ!?(自分のおヘソをさわる)
 ……ほんとだ。出ベソのオードリー……フフフ。
 ……このケーブルつないでリセット押したら、ブロックが解けて、わたしの本来の記憶がよみがえる(つなぐ、電気の流れる音がする)
 ……すべてのサーバーが起動した……血の流れる音に似ている。
 ……この状態で全てオフにしたら動力サーキットを切ることもできる。
 ……自殺回路だ。
 お父さん、これにタイマーをかけたんだ(いったん、ケーブルを抜く。電流音とまる)
 どうしよう……ようし、星が一つ流れたら、ブロックを解除する。二つ流れたら、このまま何もしない。
 三つ流れたら……自殺回路……

 間、じっと夜空をにらむノラ。やがてキョロキョロと夜空を探す。

ノラ: そんなに都合よく星は流れてくれないよね……
 それにハンパよね「このまま」という選択肢をいれるのは……
 よし、コインの裏表で決めよう!
 表が出たらブロック解除。裏が出たら自殺回路……
 背水の陣、ケーブルでつないでおこう(電流音)
 いち、にの、さん!……(勢いが強すぎ、天井につきささる)
 天井にささちゃった……
 もう一度、別のコインで。いち、にの、さん!……
 ハッ! ハッ! ハッ!(無意識のうちに、曲芸のように空中でコインをさばきつずける)
 ……わたしって、やる気あるのかしら……
 あ!(コインに気をとられ、よろめいて、マシンのリセットボタンを押してしまう)押しちゃった!
 ……リセットボタン……すべてのブロックが解除される!

 唸りをあげてフル稼働するマシン。ランプが赤や黄色に点滅する。いつもに倍するスパークと振動音……ゆっくり顔をあげ、目を開くノラ。その顔に幸子の面影はない。不思議な笑みをうかべつつ、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、ノラ本来の姿になる。いたずら好きな少女のようなイデタチ。同時に、ハンガーのあらゆる開口部に、防護シャッターの降りる音。モニターが起動し、慌てふためいたオーナーが現れた様子。


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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・062『いっぺん死んでこいよ!』

2019-06-14 06:23:58 | ノベル2

時空戦艦カワチ・062   

 『いっぺん死んでこいよ!

 

 

 イギリスやフランスが強いのは漢字が無いからなんですよ。

 

 静かに来輔は言う。

 

 来輔は物静かな男だ。

 生まれつきのものではなく、越後の百姓の家に生まれ、その後の転変の中で自己教育してきた賜物である。

 元来は、この幕末期に事をなした若者たちのように軽はずみで軽躁なところがあって、日ごろは押えている。

 物事に弾みのいい心と軽率なくらいの行動力が無ければ歴史や時代を動かすことなどできないのかもしれない。

 

 坂本龍馬や近藤勇などが、その軽躁若衆の代表である。

 龍馬は土佐の田舎から出てきて、たちまちのうちに北辰一刀流の免許皆伝になるほどの剣術の達人であるが、生涯にわたって刀で勝負したことが無い。護身用に龍馬が携えていたのはアメリカ製の五連発銃だ。

 じっさい寺田屋などで命を狙われた時に龍馬が使ったのは刀ではなく五連発だ。古い、もしくは年配の剣客ならば刀を抜く。抜いて大太刀回りしているうちに取り巻かれ命を失っていたであろう。

 江戸に居たころ、当時の若者がそうであったように龍馬も尊攘の熱に浮かされ、開国論者で幕府の軍艦奉行である勝海舟を切るべく、その屋敷を訪ねる。闇討ちではなく、堂々正面玄関から訪れたというのが龍馬の明るさであり軽躁なところであろう。

 そして、龍馬は逆に世界の情勢と日本の現状を諄々と説かれ、即座に攘夷を捨て勝の弟子になってしまった。

 多摩の百姓の小せがれであった近藤勇は、剣の腕さえ上げれば、いつか武士になり戦国武将のように、その腕で大名にも成れると夢想していた。土方歳三らの仲間と小さな道場を立ち上げ、近隣の道場破りをやっているうちに名が上がった。

 折から、幕府は有名無実になった所司代の代わりに京の街の治安を守り尊攘派の浪人たちを取り締まるための実働組織を作ることになった。実直さに置いて天下一の会津藩に京都守護職を命じ、実働部隊としては腕に覚えの浪人たちを集め京都に向かわせた。これに応募した近藤たちは実働部隊の中で頭角を現し、競争相手を文字通り打倒すことによって新選組を捏ね上げ、幕府方最強の剣士集団を作り上げた。

 

 軽躁過ぎる、早晩両名とも命を失う。どんな運や才能があろうと、志半ばで死んでしまっては何にもならない。

 

 来輔は冷静に思ったし、思った通り龍馬も近藤もアホらしい死に方をした。

 いや、何事かを成したという点では両人とも了とするところがある。多くの軽躁な若者は、なにも為すことなく夜明けの鶏のようなけたたましさの中で身を滅ぼしていった。

 無駄に飯を食うだけのつまらん人生だ。

 

 来輔はじっくり考え、これだと思うことを、それを成す力と立場のある人物に進言することを天賦の仕事にしなければならないと思った。そのため、龍馬や近藤に通じる軽はずみは厳に戒めている。

 自分には着想と企画の才だけがあって、人に号令して働かせるような明るさも力もないと思っている。まるで、良い教師が生徒の能力と性向を見抜くように自分を理解している。

 奈何は、こういう冷静な来輔を好ましいと思っている。

 だから、新婚初夜からほったらかしにされても、応援こそすれ恨みがましく思ったことは無い。

 

 だからこそ「イギリスやフランスが強いのは漢字が無いからなんですよ」という来輔の着想はダメだと思った。

 

 実のところ、冷静に物を見て的確に判断する力は奈何の方が夫の来輔よりも奈何の方が数倍勝っている。

 ただ、この時代の女性としての慎ましさから、奈何は毛ほどにも思わない。

 何よりも、奈何は、自分でも気づかない軽躁さ、龍馬や近藤に比べれば折り目正しいと言っても良いそれを好ましく思っていた。

  しかし、漢字の廃止は有りえない。

  百五十年後の女子高生なら、こう言っただろう。

  いっぺん死んでこいよ!

 

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・28《コスモス坂から・1》

2019-06-14 06:07:38 | 時かける少女
時かける少女BETA・28
《コスモス坂から・1》 


 目が覚めたのは、コビナタの庭の四阿(あずまや)だった。太ももに懐かしい違和感があった。

 そっか、スカート穿いてるんだ。ミナは指をくるりと回すと目の前に姿見が現れた。
「やだ、細井中佐の癖が残ってる」
 ミナは、開きっぱなしの膝を閉じて立ち上がると、姿見の前でひらりと回ってみた。姿見には17歳の少女らしい生成りのワンピース姿が写っていた。
「よし、らしくなってきた!」
 セミロングの髪を手櫛で整えると、鏡の中に、オフホワイトのブラウスにラベンダー色のフレアースカートのコビナタがやってくるのが見えた。

「お疲れ様。おかげで諦めていた枝が元気になったわ」

 四阿の窓から見える世界の木。どの枝が元気になったかは分からなかったが、コビナタが言うんだ。きっとパラレルワールドのどれかが生き返ったんだろう。
「まあ、お茶でも飲んで」
 コビナタは、いい香りの紅茶を出してくれた。
「あ、ウィスキーが入ってる」
「体と心の両方が温まるように」
「もうちょっと、入れていいですか」
 ミナは、返事も待たずにウィスキーの小瓶から、カップにウィスキーを足した。
「まあ、そんなに入れて。オッサンみたい」
「さっきまでオッサンでしたから」
 そう言いながら『ハリーポッター』の映画の中に、こんなシーンがあったことを思い出した。そうだロンのお父さんがやってたっけ。
「ごめんなさいね。こないだのアナスタシアといい、メタボの細井中佐といい、荒っぽい仕事ばかりだったものね」
「う~ん……てことは、今度は女の子でやれってことですか?」
「フフ、察しがいいわね。今度は、少し青春してきてもらおうと思ってね」
「いいですよ、楽しみですね」
「ちょっと長い青春になるかもしれないけど」
「まあ、もう一杯紅茶をいただいてから……」
 今度は、ウィスキーを入れずに飲んだ。ラベンダーの香りが強くなってきた……。



「芳子、ちょっと、こっち来てごらんよ!」

 お母さんが陽気な声で呼んでいる。また野良猫の子でも見つけたのかと、ややうんざり。
 足にまとわりつく三匹の猫をあしらいながら庭に出た。
「お母さん、また子猫?」
「ハハ、いくらあたしでも、猫は三匹でたくさんよ」
「じゃ、いったい…………うわー、なにこれ!?」
 庭一杯に咲いたコスモスの中に、ひときわ大きな子供の手の平ぐらいのコスモスが咲いていた。
「こりゃ、オオスモスだわね」
「ハハ、なによ。まるでお相撲さんみたい」

 このあたりはコスモス坂と呼ばれている。

 戦前から自生しているコスモスで、ご近所の庭や道端もコスモスだらけ。まあ身も蓋もない言い方をすればコスモスは雑草といってもいいんだけど、秋桜の和名があるように、とてもきれい。他の雑草を時々抜いてやるだけで、ノンノンと育つ。江ノ電の海側から見ると、このあたりのコスモス色はきわだっている。
「まあ、このあたりだけでも平和にね」
 世間は来年に控えた安保改定に向かって騒然としている。兄の勲は、東京の大学で、いささか過激な安保闘争にあけくれて、この三月ほどはろくに家にも帰ってこない。

「「いってきまーす」」

 妹の久美子といっしょに極楽寺駅を目指す。  「昔の極楽寺駅」の画像検索結果
 低血圧の妹に足を合わせる。
 別に妹を気遣ってのことではない。コスモスをゆっくり愛でるためだ。          

 芳子のありふれた秋の一日が始まった。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・35』

2019-06-14 05:49:45 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・35





『第四章 二転三転6』

 ハ……ハ……ハ……ハーーーーックチュン!

 案の定、風邪をひいてしまった。
 熱いシャワーを浴び、身ぐるみ着替え葛根湯を飲んだ。
「あ、制服乾かさなきゃ」
 濡れた制服をバスタオルで挟んで、半分くらいの水分をとり、体育座りしてドライヤーで乾かす。
 モワーっと、やな臭いが湯気とともに立ちこめる。

 制服って、見かけよりずっと汚れている。まだ二ヶ月足らずなのに……。

 臭いとともに慶沢園でのことが思い出される。
 吉川先輩の言うことは、表現はともかく、断片としては正しいことが多かった。
 でも、全体として受けるメッセージは腰の引けるものであった。
 お母さんは「案外、はるかと同類かもよ」って言う。
 吉川先輩は、大阪弁と標準語ってか横浜弁を使い分けている。まあ、向こうは中学入学と同時に大阪に来たんだから、当たり前……この当たり前には、それ相当の苦い経験もあったんだろうけど。わたしは「大阪くんだり」とは言えない。
 だって、由香を筆頭にかけがえのない大阪の人たちがいる……。
 気がつくと、マサカドクンが同じ姿勢で、ドライヤーをかける仕草。よく見ると、手にはドライヤーを持っていないのに、当てているところからは、小さな湯気が立っている。
 そう言えば、菓子箱の湯船で「ポッカーン」をやっていたときも、お湯もないのに泡がたっていたっけ……でも、どうしてわたしの真似をするようになったんだろう。

 テストは、三日目の数学でコケた。

「はずれたね、ヤマ」

 帰り支度をして、すぐ横の由香に話しかけた(テストのときは、出席簿順なので、由香が真横にくる。部活以外は単調になってきた学校生活のささやかな喜び)
「ごめんな、あたしの読みが甘かった」
「そんなことないよ、二人で張ったヤマだもん」
「せやけど、はるかは転校してきて最初のテスト。あたしは、ここで七回目のテストやのに」
「わたしも、東京から数えたら七回目だよ」
「せやけど、ほんまにごめん」

 由香の「ごめん」は、校門を出るときには六回目になっていた。
「このごろの由香『ごめん』て言い過ぎだよ」
「そうかな、ごめん」
「まただ、テストと同じ数になった」
 駅前のタコ焼き屋さんに行くまで、由香は無口だった。

 わたしが三つ目のタコ焼きを、口の中でホロホロさせて(やっと、大阪の子並にできるようになった)いるときに、由香は重い口を開いた。もっともタコ焼きは食べ終わっていたけど。
「あたし、吉川先輩にニアミスし始めてんねん……」
「え……?」
「ねねちゃんのことで、いろいろ話してるうちに……気ぃついたら……」
「好きになっちゃった?」
「せやけど、吉川先輩は、はるかの彼氏やんか。あたし、心にいっぱい鍵かけてんねん。せやけど、せやねんけど、毎日鍵がポロって、はずれていくねん……」
「なんだ、そんなことか……」
「え?」

 うかつに、わたしは四つ目のタコ焼きを頬ばってしまった。

 由香のすがりつくような眼差し。

 早く食べなくっちゃと、ホロホロ口の中で、タコ焼きを転がす。
 熱くて、なかなか噛めない……涙がでてきた。
「ごめん、ごめんな。はるか」
「いいよ、いいんだよ、そんなこと」
 やっと飲み込んだ。
「そやかて、そんなに涙浮かべて……タコ焼きかて、まだ二つ残ってる」
「これ、一個づつ食べよう」
「食欲なくなってきたん?」
「違う。話ができないから」
 二人で、ホロホロ、ホロホロ……。
 やっぱし、由香の方が食べるのが早く。見つめる視線がおかしく、少し痛かった。
「わたしの彼なんかじゃないからね、吉川先輩は」
「え?」
「つき合ってはいるけど、ワンノブゼムよ。たくさん居る友だち(実は、そんなに居ないんだけど)の一人。由香より浅いつき合いよ」
「そんな、あたしに気ぃつかわんでもええねんよ。はるかが『あかん』言うたら、今やったらあきらめられる!」

 由香に分かってもらえたのは、架線事故で十五分遅れで電車がホームに入ってきたところだった。
 わたしは事故に感謝した(他の乗客の人には申し訳なかったけど)
 電車の中で話せるようなことじゃないもんね。
 でも、わたしが吉川先輩に持っている微かな、感性というか感覚の違いは言わなかった。
 説明がむつかしいし、変な予断を与えることにもなるもんね。
 しかし、遅着ですし詰めの電車はまるでサウナ。ゲンナリだった。
 でも。胸のつかえがとれた由香は気にもならない様子。
 まあ「めでたし、めでたし」ということにしておこう……。
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