大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・022『パソコンと紫陽花』

2019-06-03 14:10:38 | ノベル
せやさかい・022
『パソコンと紫陽花』  

 

 

 中古パソコンをもらった。

 

 詩(ことは)ちゃんが買い替えたんで、お下がりをもらった。

 元々はテイ兄ちゃんが学生時分に使てたもんで、それが三年の歳月を経てあたしのもとにやってきた。

 詩ちゃんは写真とかのデータを残すぐらいにしか使ってなかったから状態はいい。

「スマホで事足りるもんね」

 あたしが気ぃつかわんように言うてんねんやろけど、ほんまにきれい。

 キーボードって、エンターとかAとかOとかKとか、よう使うキーがすり減ったりテカってたりすんねんけど、きれいなまんま。

「キーボードだけ買い直したんよ。兄ちゃんの手垢と脂にまみれたキーボードは気持ち悪いでしょ」

 なるほど……やねんけど、テイ兄ちゃんかわいそう。

 

 わたしもスマホで十分やねんけど、28インチモニターの迫力は嬉しい。

 スマホの5インチもない画面に比べるとモンゴルの大草原のように広い!

 こんな大草原にほり出されたら、どないしてええか分からへんなあ。

 じっさいパソコンは6年の時にチョロッと習ただけ。初期化されてセキュリティーしか入ってないパソコンは、どないしてええか分からへん。

 せやさかい、風呂上がりのテイ兄ちゃんを掴まえる。

「パソコンでなにがしたい?」

「ええと……動画が見たいかなあ」

 スマホで時々見るけど、画面がちっこいんで、28インチで見たら迫力あるやろと思う。

 ほかにもスカイプやら、エクセルやらも入れてくれる。

 

 オーーー、YouTubeが大迫力!

 

 気ぃ付いたら夜中の二時。

 今朝は、めっちゃ起きづらかった。

 せやけど、がんばって起きる。こんなことで遅刻なんかでけへん。なんせ、六月最初の月曜日。

 もうじき、うっとうしい梅雨も始まるやろし、ハツラツといかならあかん。

 それでも遅刻してしもた。

 運の悪いことに、クラスで遅刻したんは、あたし一人。

「なんで、遅刻したんや!?」

 菅ちゃんが、めったにせえへん説教を垂れよる。

 なんでも、六月の第一周は遅刻撲滅週間やとか、掲示板にポスターが貼ってある。

「えーと、紫陽花の蕾に見惚れてました」

 山門の脇に紫陽花が蕾を付けてたんを思い出す。

 べつに、大感激して立ちつくしたわけやないねんけど。瞬間思い浮かんだのはそのこと。

 三月の末に堺に引っ越してきて、確実に季節は流れてるんやなあ……そない思うと、不覚にも涙が滲んできた。

 菅ちゃんは慌てて「明日からは気ぃつけるように」とだけ言うておしまい。

 六月は変な始り方をしてしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)6

2019-06-03 06:57:27 | 戯曲

連載戯曲

すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)6  

   

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり
  
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役


 すみれの友だちのユカがカバンをぶらさげてやってくる。

ユカ: 一人でなにブツブツ言ってんの? あぶないよ。だいじょうぶ? 二時からの約束覚えてる?
すみれ: え……うん(かおるを見る)でも、気が向いたらって言ったんだよ。
ユカ: まただ、すみれの気まぐれ。言いたかないけどね……。
すみれ: だったら言わないで。
ユカ: 言うよ、言わせてもらいますよ。今の放送部始めたのだって、すみれの付き合いだったんだからね。
 その前はソフトボール。そのまた前は演劇部。そして今は帰宅部。
すみれ: ちがうよ、文芸部。
ユカ: 文芸部!?
すみれ: うん、こないだから。
ユカ: 文芸部なんてあったっけ?
すみれ: あたしが作ったの、部員わたし一人……ハハハ。
ユカ: いいかげんにしてよね。あたしも付き合いいいほうだけどね、気まぐれもたいがいにしてちょうだいよね。
すみれ: でも、今部長なんでしょ、放送部?
ユカ: あのね、うちの放送部三人しかいないんのよ。
 田中、鈴木、佐藤。で、全員が三年生、だから、今度の新入生五人は入れないと引退もできないの。
 受験をひかえてるってのに。すみれ、進路のこと、なんか考えてる?
すみれ: うん、少しはね……。
ユカ: だめよ。今から決めておかないと、進学なんて間にあわないわよ……あ、また決心遅らせようなんて。
 すみれの悪い癖、移り気なわりにはぼんやりで。
すみれ: ぼんやりなんかしてないよ。春休みの宿題をやろうと思って図書館に行ってたんだよ(本を示す)
ユカ: 「この町の女たち」……かたそうな本。
すみれ: この町に関係のあった女性のことを歴史的に書いてあるの、弥生時代から現代まで。
 知ってた? ヤマタイ国のヒミコって、この町にいたんだよ。
ユカ: うそ!? ヤマタイ国って九州とか奈良とか……。
すみれ: この本にはそう書いてあるの。
 水戸黄門の彼女が、この町の出身でさ。
 旅芸人とかしてて、黄門様は、そのおっかけをするために、全国漫遊とかしてたんだよ……。

 ユカとかおる、のどかに笑う。かおるの笑い声の方が大きい。

すみれ: ほんとうだってば!
ユカ: どっち向いて言ってんの?
すみれ: 樋口一葉がね……。
ユカ: 五千円札の女の人?
すみれ: 頭痛と肩こりがひどくって、この町のこう薬とか薬とか、よく買いにきたんだって。
 それを売っていたのが新撰組の土方歳三の姉さんでさ。
 一葉が薬を買いにくるたんびに、日頃のうっぷん喋りまくってさ。
 つまり思いのたけをね、ぶつけあって、それがもとで「たけくらべ」とか名作が生まれたんだって(二人ずっこける)
ユカ: オヤジギャグじゃん……。 
すみれ: だって、そう書いてあるもの!
ユカ: 分かった分かった。でもさ、読書感想文の宿題なんてあったっけ?
すみれ: ……ううん。
ユカ: え……宿題やりに図書館に行ったんでしょ?
すみれ: しようと思ったんだよ。そしたら、この本がおもしろくって……。
ユカ: すみれらしいわ。
すみれ: ……あたし、宝塚歌劇団うける!
ユカ: え!?
かおる: え……!?
すみれ: アハハ、やっぱりおかしいよね。
ユカ: なによ?
すみれ: 言ってみただけ。口に出してみればなにか響くものがあるんじゃないかなって思った。
ユカ: それがどうして宝塚?
すみれ: あ……。

 この時、上空を多数の飛行機が通過する音がする。

すみれ: となり町の基地からだね……。
かおる: …………。
すみれ: 戦争でもおこるのかなあ……。
ユカ: まさか……まさか、本気で宝塚考えてんじゃないでしょうね。
 だったら親友として忠告しとくけど。あんたにその才能はないよ。
すみれ: わかってるよ。言ってみただけだって。
ユカ: 逃げ口上言ってる場合じゃないわよ。真剣に考えて準備しておかないと、受験なんてあっという間にくるんだからね。
 下らない本とか、飛行機に気をまわしてるヒマないの。
すみれ: うん、分かってるよ……。
ユカ: じゃ、あたし一人で行くよ、たった一人の文芸部さん。バイバイ。
すみれ: イーだ!
ユカ: ウーだ!
すみれ: せっきょう屋!
ユカ: 気まぐれ屋!
二人: ふん!(ユカ去る) 
かおる: アハハ。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・17《大和と信濃と・2》

2019-06-03 06:39:38 | 時かける少女
時かける少女BETA・17
《大和と信濃と・2》                


「右舷後方に敵潜水艦です」
 
 準備を終えた兵が、まるで子犬を見つけたような気楽さで言った。

「対艦噴進砲ヨーイ!」
「班長、まだ甲板への固定が出来ていませんが」
「担いで撃て。三人で担げば撃てんこともないだろ」
「散布界が、広くなって仕留められないかもしれません。一撃で仕留めなければ、潜水されて攻撃が困難になりますが」
「そこをうまくやれ、仲間を呼ばれたら面倒だ。かかれ!」
 軽井中佐は蠅を追うようなしぐさで命じ、鞄から頑丈な鏡のようなものを出した。興味を持った阿部艦長が覗きこむと、そこには信濃の位置を中心とした東海地方と太平洋が示されていた。中佐が画面を指でつぼめるようなしぐさをすると、画面は拡大され、米粒のような信濃と護衛の駆逐艦三隻の姿が見えた。
「中佐、これは何かね?」
「携帯用の電探受信機です。映像は先日打ち上げた発信機が高度3000キロで樺太からフィリピンあたりまでを警戒しております。この映像は赤外線で受像したものです……こいつだな。バラオ級潜水艦のようです」
「通商破壊用の潜水艦だな。金剛を沈めたのと同型のやつだ。しかし信じられんな、こんなものが実用で稼働しているなんて」
「我々の班以外では空技廠の一部の者しか知りません。軍機に属します。ご承知おきください」
「分かった。この任務に関する範囲で承知しておく」

「攻撃準備完了!」

 ブリッジ後方で用意していた兵が、完了の報告をした。いかにも重さに耐えている様子である。
「テーッ!」
 中佐は簡潔に命じた。
 噴進砲から薄いオレンジ色の光を引いて噴進弾が発射された。
「この緑の輝点が噴進弾です」
「……おお、弾道が曲がった」
「自動追尾装置が付いておりますので、二十度の散布界の中に入っておれば必中です……弾着まで二十秒です」

 やがて右舷後方で閃光が走った。

「命中だな……艦長。浜風が一番近いようです。敵の乗員の救助をさせていただけませんか」
「この伊豆沖の海でか、敵がどこに……」
「どこにもいません。潜水艦については陸攻に警戒させます。おーい、陸攻は対潜哨戒にあたれ!」
 陸攻は信じられない鈍足で発進したが、信濃の乗組員が心配する中、無事に発艦した。

 潜水艦はアーチャーフィッシュだった。噴進弾は砲弾にして120ミリの榴弾ほどの威力なので、潜水艦はすぐには沈まない。陸攻が対潜哨戒をする中、浜風が生存していた52名の乗員を救助した。
 そして、信じられないことに、アーチャーフィッシュの乗員は明け方には信濃に収容された。

「これも、本作戦の一つです」細井中佐は、ずったズボンをたくし上げながら阿部艦長に説明した。
 このダボンダボンの細井中佐の力と見た目アンバランスに阿部艦長は、受け止めように困った顔をした。

 あたしだって同感。

 細井中佐に擬態しているミナ自身もそう思った……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・051『ノッポマッチョ』

2019-06-03 06:23:05 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・051
『ノッポマッチョ』




 抜けていく……

 最初に感じたのは、この感覚だった。

 むろんホールを抜けていくという感覚なのだが、もう一つは魂が抜けていく感覚だ。
 千早自身は楠正成の娘で、七百年も昔に人としての存在は終わっている。
 だから、その肉体はアバターのようなものなのだけれど、自分の意思以外で抜けるようなことは無い。

 あ……

 ボタンの外れたコートが脱げて行くように体は後方に飛ばされてしまい、完全に抜けた瞬間に泡のように消えてしまった。
 魂だけの存在、貧血を起こしたように気が遠くなる。

 意識が無くなる寸前、視界は全て蒼空になり、その蒼空の真ん中、手を伸ばせば届きそうなところを紙飛行機が飛んでいた……。

 照代、大丈夫か?

 半分笑ったような声が降ってくる。
 むせるような草いきれに包まれて息がしにくい。どうやら草っぱらの真ん中でうつ伏せに倒れているようだ。

 う~ん……えと……?

 仰向けになると、青い空を背負ったように聳えるバタ臭いノッポマッチョの姿が見えた。

 え……だれだっけ?

「久々に記憶喪失ごっこか、なら大丈夫だな」
 それだけ言うと、ノッポマッチョは長い足で跨いで草いきれの向こうに行ってしまった。
 半身を起こして自分の姿を見る。
 草の汁が付いた手はほっそりとして指が長く、なによりも日本人離れした白さだ。
 立ち上がった姿は、紺地のオーバーオールで背中にはオッサン臭い麦藁帽を背負っている。

「お~い、大丈夫なら照代も捜してくれよ」

 ノッポマッチョが草いきれの向こうでプータレテいる。
 ノッポマッチョの顔立ちは映画俳優になれそうなくらいの男前だが、ひどくバタ臭い。
 それに、そのなりは昔の陸軍の軍服だ。

 滲みだすように自分とノッポマッチョの情報が湧いてきた、いや、インストールされたと言った方がしっくりくる。

「雄(ゆう)飛ばし過ぎよ!」
 文句を言いながらも照代という子は良い声だと思った。
「飛んで当たり前だ、俺は陸軍航技中尉、飛行機に関してはプロ中のプロだぞ」
 腰に手を当ててふんぞり返る姿は、シカゴ時代の腕白そのままだ。
「二十六にもなって、その決めポーズはないと思うよ。仮にも帝国陸軍の航技中尉なんでしょ」

 そう、ノッポマッチョは兄貴で陸軍のパイロット。わたしは帝都女学院の女学生。

 そして、兄貴の雄は、この年の二月十七日に不幸な死を遂げる運命にある。

 この兄を死なせてはならない……これが時空ホールを閉じる唯一の手段だと思い至った。

 時に昭和二十年二月三日の荒川河川敷であった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・24』

2019-06-03 06:10:24 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・24   



『第三章 はるかは、やなやつ!6』

 お母さん、原稿こそはパソコンだけど、校正は一度紙にしないとおさまらない。

 受賞したころは、まだアナログな原稿用紙だったから、その名残ってか、験担ぎ。パソコンに打ち直した後は紙くずになるんだけどね。

「ああ、ゲラか……」
「そう、著者校正」
「もうできてんじゃないの?」
「なんだけどね、なんだか今イチ……これかなあって言葉使っても、時間置いて読むと、しっくりこない。表現を変えると、ただ長ったらしい文章になるだけ。思い悩んでるうちに、これだって思っていたものが、いつの間にかドライアイスみたく、消えて無くなっちゃう……ああ、スランプ!」
「簡単に言わないでよね。このために離婚までしたんでしょ」
「グサ!」
 お母さんはテーブルに突っ伏した……ちょっと言い過ぎたかな。
「……お母さん?」
「そっちこそ、簡単に言わないでよね。このために離婚したのか、離婚したためにここまでやってるのか、二択で答えられるようなことじゃないわよ」
「それって……」

 開き直り……という言葉を飲み込んだ。

「だめねえ、はるかに八つ当たりするようじゃ坂東友子も、たそがれか……」
 バサリ……とゲラの束をテーブルに投げ出した。
 勢いで半分ほどが床に落ちて、散らばる。
「勝手にたそがれないでよね……」
「はいはい……」
 ノロノロとゲラを拾い集める。
「はいは一回だけ……って、お母さん言ったよ、小さい頃」
「はーい」
「もう……」
 ノロノロとわたしも手伝う。
 ゴツンと音をたてて、二人の頭がぶつかった。
「イテテ……」
 ぶつかり具合なのか、お母さんはケロッとしている。
「大丈夫?」
 人ごとのように聞く。中も外も頭は鈍感なようだ。
「たんこぶができたよ」
「どれどれ……ああ、たいしたことないよ」
 頭に、なにか生ぬるいものを感じた。
「なにしたの?」
「ツバつけといた」
「やだあ、お風呂はいったばかりなんだよ」
「効くんだよ、小さい頃よくやったげた……イタイノ、イタイノ飛んでけえ~」
 と、頭をナデナデ。
 
「今日、帰ってくるの遅かったけど、デート?」
 こういうことには鋭い。
「ち、ちがうよ」
 反射的にそう言ってしまう。
「だって、今日のお芝居マチネーでしょ。三時には終わってるよ。ブレヒトの『肝っ玉お母とその子供たち』だよね」
「なんで知ってんの!?」
「そこにパンフ置きっぱ」
「あ……」
「まあ、今時ブレヒトでデート、ありえないこともないけど。わたしは、お芝居観た後の待ち合わせだと思うなあ。はるか、ブレヒトの本に栞はさんだまんま。大橋さんに借りたんでしょ。今はお芝居に首っ丈、アベックで観てたら芝居どころじゃないもんね」
「待ち合わせてたわけじゃないよ……!」
「やっぱしね」

……ひっかかってしまった。

「お相手は、吉川裕也クンかなあ?」
 名前を言い当てられて、なぜだか口縄坂の三階建てが頭に浮かんで、顔が赤らむ。
「な、なにも変なことはしてないわよ」
 なんて答えをするんだ……。
「怪しげなとこ行ってないでしょうね?」
 名探偵のように、赤ボールペンを指先でクルリとまわした。
 仕方ないや。わたしは正直に答えた……三階建てに、ビックリしたことを除いて。

 名探偵はおもむろにパソコンを検索し始めた。

「ハハ、これだ」
「え……」
 パソコンの画面には『青春のデートコース 天王寺の七坂』
 そして、二人で通ったのと同じコース。吉川先輩の説明と同じ解説が……。
 でも、そのコースにも解説にも三階建てのことは載っていなかった。
「これをカンペ無しでやったんだ、誉めてあげていいわね」
「うん、でも……」
「ああ、喫茶店での人物評?」
「いや、それは……」
「かわいいもんじゃない、そうやって心の平衡をとってんのよ。やり方は違うけど、はるかと同類かもね。フフ、はるかは嫌い……苦手なタイプかもしれないけど」
「もう」
「まあ、適当にお付き合いしときなさいよ。数を当たれば男を見る目も肥えてくるから」
 気を取り直したのか、お母さんは、大きなため息ついて、ふたたび赤ボールペンを片手に、ゲラの束を繰り始めた。
 これ以上絡むのも絡まれるのもご免被りたいので、ベランダに出た。

 梅雨入り間近の高安山、ほのかなシルエットになって目玉オヤジ大明神。
 こうやって手を合わせるのは何度目だろう……。
「ねえ、はるか。駅前のコンビニで聞いたんだけどさ……」
 気が散るなあ……。
「その目玉オヤジね、気象観測用のレーダーなんだって」

……なんだって!?
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