大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・高安女子高生物語・5〔明日香のファッション〕

2019-06-26 08:24:05 | 小説・2

高安女子高生物語・5
〔明日香のファッション〕
      
 
 

     

 あたしはファッションには凝らん方

 ただオンとオフの区別はつけてる。

 学校行くときは完全な制服。家帰ったらラフっちゅうか、お気楽がコンセプトの気まま服。  まあ、ルーズにならん程度の体を締め付けへんもの。上は薄手のセーターで、外出するときはフリース。ちょっと遠いとこやったら、その上にダッフルコート。共にチャリでいける距離にあるユニクロ。  履き物は、ほん近所はサンダル。冬用と夏用があって、冬用は足の甲のとこにカバーが付いてるのん。夏はヒモとかベルトだけのん。じゃまくさい時はお父さんのサンダルをそのままひっかけたりする。  ちょっと遠いとこはスニーカー。学校行くときはローファーに決めてる。買うのんはユニクロの近所のABCマート。理由は簡単、近所にあるから。

 明日から稽古が始まるんで、制服をチェック。

 制服は気に入ってる。

 男子は詰め襟に似てるけど、襟が低くて、角が丸い。そんで色が紺色。右の袖にイニシャルのGをかたどった刺繍でボタンは平べったい金ボタン。  女子は、一見男子と同じ色のセーラー服。前開きなんで着やすいし、リボンをせんかったり短こうしたりすると、前のジッパーが見えてしもてかっこ悪い。ほんで袖にGのイニシャル。  スカートは普通のプリーツみたいやけど、裾の下に黒で学校のイニシャルが入ってて、簡単には改造でけへん。さすが大阪府。長年制服の改造に悩まされてきたんで考えたある。

 

 その制服を、明日に備えてチェック……OK……と思たら、ローファーがいかれてた。

 

 右足の底がつま先の方から剥がれかかってる。で、八尾の西武の中にあるABCマートまで買いに行く。チャリで二十分ほど。台詞が半分通せた。信号やら車に気い取られて止まってしまう。まだ覚え方がハンパな証拠。帰りに残り半分賭けてみよと思う。

 せっかく八尾駅前まで来たんで、アリオの中にある映画館を覗いてみる。『ザ・ファブル』が観たかった。観てもかめへんねんけど、二月の一日には芸文祭の舞台が控えてる。観たら影響される予感がして我慢してる。  予告編だけ、プロジェクターで二回観た。  岡田准一がかっこええ、かっこ良すぎる。クールな殺し屋やねんけど、どこか三枚目。ヒラパーのCMやってからの岡田さんは大好き。イチビリのイケメン、完全にあたしのツボや!  あたしに与えられた台本は『ドリーム カム トゥルー』、ファンタジーや。岡田さん観たら、絶対影響される。そない思て、エレベーターに向かうと……目に入った、入ってしもた。

 関根先輩と美保先輩が、ラブラブで入っていくのんが……。

 心臓が口から出そうになる。  昨日に続いて二日連続の遭遇。    もう悪夢や!

 

 昨日も、山本神社行って二人でお祈りして、おみくじひいて二人揃て大吉、マクドでかる~く「映画でも観にいかへんか?」「うん」「なんや、中味も聞かんと、うんかいな」「うん。学といっしょやったらなんの映画でもかめへん」「アホやなあ」  もう、その時の情景まで映画の予告編みたいに頭に浮かんで、パニック寸前。

 

 帰りは、案の定台詞の稽古忘れてしもた。

 

「明日香、滝川とこで新年会やるけど、付いてくるか?」

 帰るとお父さんに勧められた。滝川さんは、お父さんの数少ないお友だち。あたしらガキンチョでもオモロイオッサン。二つ返事でOK。

 宴会では、フランス人とのハーフのニイチャンと、二十歳過ぎのベッピンさん。オッサン、オバハンは記憶には残ってない。  まあ、この人らのことはおいおいと。

 明日から、稽古が始まりますのですのよ!

 痛!     舌噛んでしもた。

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん②』

2019-06-26 07:14:47 | 戯曲
連載戯曲『梅さん②』      


 
 
 スマホの地図を見ながら、紺の袴に矢絣姿、パンフのモデルそのままの「梅」が、衣装箱を持って、水野家の玄関にいたる。  

: ごめんくださいませ……
: はい……?
: 常磐衣裳でございます。御注文のお衣裳をお持ちいたしました。
: ……かっこいい。
: ありがとう……あなたパンフのモデルをやってらっしゃった……(パンフとみくらべる)
: はい。モデル自身が御注文と同じお衣裳で、おとどけいたすことになっております。
 社員なのでプロのモデルではございませんが、この姿をご覧いただいて、最終的にご判断いただき、
 お気に召していただければ、着付けのお稽古などもさせていただきます。
: まあまあ、それはごていねいに(^▽^)。
: お母さん、だんぜんこれがいい(#^0^#
)!
: なにもかも勝手に決めてって、文句言ったのは、どこの誰だったっけ?
: いいものはいいの、それでいいじゃん。いいと思ったことは素直にみとめる。
 年格好というか、姿形というか、あたしによく似た美人さんだし、あたしもピシッときめれば、こうなるんだ!
: ありがとうございます。
: それじゃ、あたし近所の寄合に行ってますんで。どうぞ上がっていただいて。
 着付けの指導とかしていただいてもらいな。その梅の鉢も忘れずに入れとくんだよ。じゃ、よろしくね。
: はい、承りました。いってらっしゃいませ。
: こっちよ、玄関入ってくれる。

 庭のセット(物干しに植え込み程度)が瞬時に片づけられ、居間の設定になる。

: 失礼いたします。
 (渚が開けた無対象の玄関を閉じ、框で草履を脱ぎそろえ、下座とおぼしきあたりに正坐をし、作法どおりに頭を下げる)
 改めてご挨拶いたします、このたび水野様の担当をさせていただきます、水野梅と申します。よろしくお願いいたします。
: あ、ども、こちらこそ……同姓なんですね、水野さん(梅の鉢をもったまま、一応正坐で礼をする)
: おそれいります。どうぞお楽になさってくださいませ。あ、その梅の鉢はわたくしが……
 とりあえず出窓の方でよろしゅうございますでしょうか?
: う、うん。
: まことに、見事な剪定でございますね。枝の詰め方といい、葉の刈り方といい……
 あら、思い切って間引いてございますね。
: でしょ。花が開いたときにちょうどよくなるって、おかあさんもそう言うんだけど……
: ……
: あたし的には、自然にボサッとパンクしててさ、ゴシャッとしているのがよかったんだよね。
: ここまで……
: どうかした? 
: いえ、蕾の間引き様に驚いてしまいました……
: でしょでしょ、ほっときゃそれなりにお花がいっぱいになったのにね……
: さ、ではさっそく着付けのお稽古をいたしましょう。
: うん、どこまで脱ぐ?
: コートをお脱ぎになって……
: はい。
: あら、お覚悟の良い、ショートパンツでいらっしゃいますのね。
: うん、部屋の中でゴシャゴシャと着てるのウザったくって、コートだけごつくして、中味は、夏とそうかわんないの。
: それでは、そのセーターとレッグウオーマーを……
: ブラとかパンツは?
: ホホ、そこまでは、お稽古ですから、Tシャツとショートパンツで……

 襦袢、着物、帯、袴と要領よく着せていく。
 その間「いいプロポーションでございますこと」「へへ、そうかしら」「足袋をお履きになって……」
 「旅から帰って足袋だ」「おみ足もおきれいでいらっしゃいますこと」「へへ、どうも」
 「はい、やっぱり今のお方ですものねえ……」「おねえさん、いい香り」「さようでございますか?」
 「なにかつけてんの?」「いいえ特別なものは」「ううん、なにかつけてるよ」「ホホ、椿油とヘチマコロンを少々……」
 「ヘ、ヘチマ?」
 「レアものでございますのよ、ホホ……お袖を通しますわね……そう、リラックスなさって……この襟元がコツでございましてね」
 「へえ……どうだろ、髪型とかは?」
 「おまとめになって、お手伝いしますね……そう……おリボンもセットされてございますから」
 「わ、おっきくてかわいいね、このリボン」「お似合いですわよきっと……帯をしめます、息をお吐きになって」
 「ハー……」「はい!」「……帯ってこんなにきつい……おねえさんの性格……?」
 「いいえ、」「すっきりしあげるためには、ここが肝心!」「ギョエッ……」
 「でも、私どもの……いえ、昔にくらべますと、かなり略式になってございますのよ。
 はい、ではお袴はこんな……感じでございましょうかね」
 「ま、毎日着るわけじゃなし……へえ、袴の位置ってこんなに高いんだ」「料金はお安くしてございます」
 「ハハ、うまいこと言うジャン」「はい、鏡をどうぞ……」
 「ワッ、カッケー、脚がすんごく長く見える。こんなの制服にしてお店開いたら、アンナミラーズとか、今流行のメイドカフェより繁盛うたがいなしかもね」
 「ホホ、そういうときには襷がけなどいたしますと、二の腕あたりがチラリと……色っぽうございますわよ」
 「ハハ、おねえさんもなかなか言う……」「さ、できあがりました、ひとまわりしていただけます……(かるく襟元などを手直しする)はい、よろしゅうございます」「ありがとう」など。
 着付けの時間無言になったり、テンポをくずさぬよう、着付けの練習と会話の練習をしっかりしておくこと
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・7〔ドリーム カム スルー〕

2019-06-26 07:06:20 | 小説・2

高安女子高生物語・7

〔ドリーム カム スルー〕 

 

 

 我が町高安はちょっとした新築ブーム。

 

 あたしの中高安町らへんも、築二十年ちょっとぐらいの家に足場が組まれて、外壁の塗装工事かと思たら、解体。更地になった明くる日には、もう新築工事にかかってるようなとこが、あっちこっちにある。秋に迫った消費税の10%への引き上げを見越した駆け込み需要かは、ようわからへん。けど、庶民のドリーム カム トゥルーやねんやろなあ。

 高安だけかと思たら、電車の窓から見えるあちこちで似たような工事をやってることに気ぃついた。

 近鉄の高架から見える都心が日ごとに変わってていくのは楽しみやけど、自分の身の回りの景色が変わっていくのは寂しい。

 新学期が始まった今日は、中学生やら小学生も道でいっしょになったけど、子どもは新築が他人事ながら楽しいみたい。あるいは、そないやって建て替わっていくのが当たり前いうような顔で歩いてる。

 

 あたしは、まだ十六歳やけど、変化にはついていかれへん。

  高安のホームで、関根先輩を見かけてしもた。

  ちょうど通学のラッシュ時で、ホームは高校生で一杯。

  当然その半分が女子高生で、その子らが、みんな関根先輩のこと見てるような気がする。そこに田辺美保なんかが来たら、精神の平衡が保たれへん。せやから、ちょっと車両を外す。関根先輩が隣の車両に居てるの分かってるから、どうしても意識がそっちに行ってしまう。それで外の景色を見てしもて、さっき言うたみたいに、あちこちで新築工事やってるのに気がついた。

 三学期の始まりは、冬休みが短いせいもあって、一学期の新鮮さも、二学期のうんざり感もない。

 ああ、始まったんやなあ……それだけ。

 学校にはクラブの稽古で二日前から来てる。稽古は始まってしもたら……まあ、まな板の鯉。と、言うときます。ほんまは頭打ってるねんけど、今日は、それには触れません。

 

 体育館で、寒いなか校長先生を始め生指部長、進路部長の先生のおもんない話と諸連絡。

 

 話いうのは、エロキューション、つまり滑舌と発声。それとプレゼンテーション能力。演劇部やってると、先生らのヘタクソなんがよう分かる。音域の幅が狭うて、リズムがない。つまり声が大きいだけ。

 やっと終わった……かと思たら、保健部長のオッサンが最後に出てきた。

「今から、大掃除やります!」

 七百人近い生徒のため息。

 ため息も、それだけ揃うと迫力。なんや体育館の床が瞬間揺れたような気がした。オッサンはびくともせんと大掃除の割り振りを言う、ただ一言。

「教室と、いつもの清掃区域!」

 わたしは思た。大掃除やるんやったら、つまらん話なんかせんと、チャッチャとやらせて、ホームルームやって、さっさと終わって欲しかった。

 だれですか、お前らもう終わってるて……?

 あたしらは、学校の北側校舎の外周。下足に履き替えならあかん。

 下足のロッカー開けて……びっくりした。来たときには入ってなかった封筒が入ってた。

 直感で男の手紙やと思た!

 すぐにポケットにしもて、校舎の北側へ。掃除するふりして、薮に隠れて手紙を読んだ。

 

――放課後、美術室で待ってます。一時まで待って来なければ、それが返事だと諦めます――

 

 最後にイニシャルでHBと書いてある。一瞬で頭をめぐらせて、そのシャーペンの芯みたいなイニシャルの男を考える。クラスにはおらへん……あたしも捨てたもんやないなあ。一瞬関根先輩の影が薄なった。

 ホームルームが終わると、あたしは意識的に何気ない風にして、美術室へ行った。

 美術教室は、ドアに丸窓があって、そこから小さく中が見える。そこから見た限り人影は見えへん。

 ちょっと早よ来すぎたかなあ……そう思て、こっそりとドアを開けた。

 「あ……!」

  思わず声が出てしもた。

 そこには、美術部のプリンスと、その名も高い馬場さんが居てた。

 

 ほんで目ぇが合うてしもた!

 

 馬場さんは、三年の始めに東京から転校してきたという珍しい人で、絵ぇも上手いし、チョーが三つぐらいつくイケメン。どないくらいイケメンか言うと、イケメン過ぎて、誰も声掛けられへんくらいイケメン。声かけるんはモデルのスカウトマンぐらいのもん。

 その馬場さんが声を掛けてきた。

「なにか用?」

「あ、あ、あ……」

 声聞いただけで、逃げ出してしまいそうになった。

「あ、その手紙!?」

 やっぱり、手紙の主は馬場さんやった! で、次の言葉で空が落ちてきた。

「間違えて入れちゃった……オレ、増田さんのロッカーに入れたつもり……ごめん!」

 増田いうのんは、あたしのちょうど横。AKBの選抜に入っていてもおかしないくらいかいらしい子。今の段階では、なんの関係もないので、詳しいことは言いません。

「増田さんがツボやったんですか!?」

「まあ、絵のモデルとしてだけど……」

 と、言いながら、馬場さんは、あたしの姿を上から下まで観察した。なんや服を通して裸を見られてるみたいで恥ずかしい。

 「失礼しました! あたしクラブあるよって、失礼します!」

 あたしは、いたたまれんようになって、その場を逃げた。

 
  あたしのドリームは、こうやってカムスルーしていく……。

 

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高校ライトノベル・里奈の物語・6『中国の団体さん』

2019-06-26 06:54:48 | 小説3
里奈の物語・6『中国の団体さん』

 

 日に二度ほど店に出る。

 出ると言っても一人じゃない、伯父さんかおばさんが居る。
 お客さんたちは店の売り子だと思ってくれる。
 実際、売り子の仕事をするんだ。

「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の他に、簡単なものならラッピングとかの包装もやる。

 お祖父ちゃんが生きていたころ、横についていて憶えてしまったんだ。
「おや、店員さん?」
 お得意さんが聞く。
「妹の娘です」
 伯父さんが、そう答える。
 あたしは笑顔で商品を包み「ありがとうございました」。
 商品を包む手際と挨拶は堂にいっているので、それ以上の詮索はされない。
 店番の里奈ちゃんということで、お客さんは温かい目で見てくれる。

 女子高生というカテゴライズは嫌い。クラスメートというカテゴライズはもっと嫌い。

 何を言われるか、何をされるか分かったもんじゃない。
 店番の里奈ちゃんはいい。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」。
 それだけで、人に温かく接してもらえるし、それ以上深入りされることもない。

 お昼を食べて、伯父さんと交代。おばさんと店に出る。

 え…………?

 戦車みたいな音がして(戦車なんて見たことないけど)観光バスが店の前に停まった。
 太ももの後ろからお尻にかけてザワってきた。学校じゃ、しょっちゅうきた感覚。
「逃げろ!」のサインが頭の中で点滅。でも、いつものように体は動かない。
「ニーメンハオ!」
 おばさんが、店の前に立って、バスから出てきた団体さんに声をかけている。
 見かけは日本人と変わらない団体さんが、狭い店の中に入ってくる。
 あたしの身体がやっと動いた。
「い、いらっしゃいませ!」
 それだけ言って、店の奥に引っ込む。
「里奈ちゃんは奥で包装だけやってくれる?」
 伯父さんが、そう言って、お店に出撃。お店は、さっきの倍ほどの賑やかさになった。
 伯父さんもおばさんも団体さんと同じ言葉でやり取り。レジに行った方がいいのは分かっているけど、足が動かない。

 ニ十分ほどで、団体さんは帰って行った。
 その間、おばさんに手伝ってもらい、百ほどのアンティークをレジ袋に入れるだけという簡易包装。

 こないだ仕入れた鉄瓶が全部売れた。

 レジの中は諭吉さんでパンパン。
「なんで、鉄瓶ばっかり売れたんですか……?」
「中国は健康ブームでね、鉄瓶でお茶を入れると鉄分が補給できるんや」
「はー……」
 返事はしたけど、意味は分からない、鉄分の補給なら他にもあるだろう。十万前後するアンティークでお湯沸かす意図は分かんない。
「でも、それをレジ袋に入れただけでよかったの?」
 お客さんにも商品にも悪いような気がした。
「うん、ちゃんと包装しても空港でゴミになるだけ」
「それに、レジ袋に入れただけでも、中国のお客さんは大事にしてくれるわ」
「安い買い物やないさかいな」
 伯父さんは、そう言いながら三つ目の諭吉の束にゴムバンドをかけた。

「はてな……あなたも水が漏れなきゃ、中国に買われていったかもよ」

 頬杖ついて、はてなの鉄瓶にため息ついた。あやうくカナヅチで叩き割られるとこだった鉄瓶に親近感。

 あたしが、ここに来て一週間がたっていた。


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高校ライトノベル・時かける少女BETA・40≪国変え物語・1・プロローグ≫

2019-06-26 06:47:00 | 時かける少女
時かける少女BETA・40
≪国変え物語・1・プロローグ≫ 


 朝日の眩しさで目が覚めた。部屋の様子や体の感覚で任務が終わったことが分かった。

「ご苦労様でした。二十年近い仕事で疲れたでしょ」
「ええ、正直……あたし、ほとんど芳子になってました。真一のこと本気で好きになっちゃいました」
「でも、よく耐えてやってくれたわ。あ、起きなくていい、もう少し眠っていらっしゃい」

 コビナタの声に安心し、ミナは今少しの微睡みを自分に許した。

 次に気づくと、陽は逆方向から差し込んでいた。
「……やだ。半日も眠っていたんだ」
 ミナは、体を起こすと大きく伸びをした。同時に大あくびが出た。芳子なら、たとえ一人でも口に手を当てるとかするだろう……芳子の面影はすっかり無くなっていた。

「夕陽がきれい……」

 コビナタの仮想空間なので、本物の夕陽であるわけがないのだが、ミナは心から、そう思った。
「あれは、あなたが変えた歴史の照り返し。上手くいった証拠よ」
「北C国の拉致は無くなったんですね?」
「ええ、あれがきっかけで日本人は世界の怖さと自分たちの認識のギャップに気づいた。左翼政党も、子供みたいな理想論を言わなくなったし、真一君ががんばったおかげで阪神大震災の犠牲者は4000人も少なくて済んだ……あとは、自分たちの力で歴史を繋いでいってくれるでしょ」

 二人は、どちらともなく歴史の木に目をやった。一つの枝が明るい緑を取り戻していた。

「その目は、もう新しいことを考えている目ですね」
「うん……ちょっとスケールが大きいの。やってくれる?」
「はい。引き受けざるを得ないことなんでしょうから」
「そう、嬉しい。じゃ、今夜はゆっくり休んで、明日……」
「いえ、今すぐにかかります」

 ミナは、初めて自分の意志で飛んだ。400年以上の時を遡って……。



 峠を超えると、目の前に河内平野が広がり、遠くに、普請中の大坂城が見えた。

 美奈は、こんなに大きな城を見るのは初めてだった。これまで見た(インストールされた)どの城よりも壮大で豪華な様子は、まだ五分にも満たない普請の様子からも知れた。大和川沿いの街道を歩いていても、行き交う旅人や通行人の歩調が軽やかで、田畑で麦や稲の世話を焼いている百姓たちの表情にも祭りの前日のような活気があった。

 本能寺で信長が死んでから、まだ二年しかたっていない。

 その間の秀吉の働きは目覚ましい。

 明智光秀を瞬くうちに討ち、一か月後の清州会議では、実質自分が信長の事業継承者であることを宣言。反対する柴田勝家を始めとする織田家の家臣団を打ち破り、あるいは臣従させ、今こうして、大坂の地に天下無双の城を築きつつあった。しかも、民百姓に負担をかけることなく、逆に後の世の公共投資のように普請をおこし、天下を明るくしている。

 美奈は、そんな明るく軽やかな時代の空気を吸うだけで、田楽の手振りをしながら走り出したくなるような衝動にかられた。

 行き交う人々のほころんだ顔を見ているうちに、久宝寺、平野の町を通り過ぎてしまった。
「しまった、商売忘れてた!」
 美奈は、大和の国で薬を仕入れて、大坂に売りに来ていたのである。庶流であるが、この時代の名医と言われた真瀬道三(まなせどうさん)の血縁にあたる。
 美奈は真瀬家と血縁であることは、めったに名乗らなかった。別段本家から禁じられているわけではないが、美奈は、自分の力と技術で身を立てていた。女の身ではあるが、生まれついての医者であると思っている。

「うわー、川を掘ってるんだ!」思わず声に出た。

「なに言うてんねん、女子し(おなごし)これは、大坂城の外堀じゃ!」

 人足の親父が、もっこを担ぎながら、明るく言った。まるで、自分の城を作っているような誇らしげだ。
 十間ほど先に露天の櫓があり、その上で、ひときわ大きな声で差配している男がいた。のびやかな口調ではあるが、指示が的確であるのだろう。あちこちの人足たちは連携していて動きに無駄がない。
 
 ああ、このお人は……

 この男こそ、ミナミの運河にその名を残す安井道頓であった……。
 
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・47』

2019-06-26 06:27:13 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・47
 
 
『第五章 ピノキオホールまで・8』 


 かっこいい……。

 わたしの網膜には、しばらくトコさんの残像が残った。

「あいつも、損な性分や」
「トコさん、なにしてはるんですか?」
「理学療法士……のエキスパート」
「ああ、リハビリの介助やったりするんですよね?」
「あいつは、訪問で、リハビリもやって、病院勤務もやって、非常勤で理学療法の講師までこなしとる。今日も休みやねんけどな、ああやって言われると、救急車みたいにすっ飛んで行きよる。で、月に二度ほど、ここに来て毒を吐いていくいうわけや」
「今日は、あなたたちが毒消しになったわね」
 と、毒が言った。


 帰りは一駅分逆向きに天六商店街を通って帰った。堺筋はもう暑い。
「昨日、あんた、ラブラブシートやってんてな」
 由香が左のお下げをひっぱった。
「え……?」
 一瞬なんのことだか分かんなかった。
「ああ、あれか」思い出した。
「あれかて、あんた……」
「そんな怖い顔しないでよ」
「なんかもろたやろ。吉川先輩が、えらい真剣な顔で渡してたて、評判やで」
「もらったんじゃないよ、見せてもらったの。『ジュニア文芸』よ」
「ふーん……」
「言っとくけど、ただのワンノブゼムだからね」
「そやけど……」
「わたしは、吉川先輩の心に住民登録した覚えはないからね。あそこはまだ空き地。強引に住んじゃえばいいよ。犬も三日も居着けば情が移るっていうよ」
「あたしは犬か!」
「そういう意味じゃなくって」
「分かってるよ、はるかの気持ちは。そやけどなあ……あ、今度先輩のコンサートあるねん。知ってるやろ。先輩がサックスやってんのん?」
「コンサートのことは知らないよ。サックスやってんのは知ってるけど」
「え、うそ!?」
「なんにも聞いてないよ」
「ほんま……うーん……」

 由香の乙女心に火がついた。

 わたしは、なんとなく分かった。わたしにコンサートを知らせなかった理由。
 わたしだって、あの佳作、あんまり進んで見せたくはなかった。
 でも、コンサートのチケットにはノルマがあるんだろう。
 言われないかぎり、知らんぷりしておこう。

 あの洋品店が見えてきた。

 あ、あのポロシャツまだ残ってる。プライスダウンされている。
 偶然だろうけど、オレンジ色の自転車と同じ値段。

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