大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真夏ダイアリー・27『紅白歌合戦』

2019-10-02 07:15:45 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・27  
『紅白歌合戦』    






 東都放送のスタジオで大変な体験をしてしまった。
 時間を止めてしまったのだ。

 おかげで、ライトが落下して大事故になることを止めることができた。しかし、それはわたし(真夏)の運命が変わっていく、ほんの入り口にすぎなかった。


 省吾のお父さんは、わたしに一杯の情報をダウンロードしていった。わたしは、まず根本的なことから解凍していった。根本的? どうして根本的って分かるんだ?
 
 解凍の順番もプログラムされているようだ。

 省吾のお父さんは、300年ほど先の未来からやってきた。どうも未来はうまくいっていないようで、過去の世界を変えることで克服しようとしている。
 歴史というのは、例えば、一本の大きな木のようなもので、枝の数だけ違う歴史があるパラレルワールドらしい。だから、一つの枝がだめなら、その枝を切って別の枝が生えるようにしてする。その枝の分岐点に働きかけ、新しい芽を出させることが、省吾のお父さんの任務。  
 ところが、省吾のお父さんは300年遡ることが限界で、それ以前の歴史を変えないと、正しい歴史としての枝は芽を出さないようだ。
 そのために、タイムリープの力が優れた省吾に300年以上の過去にリープさせて歴史を変えようとしたが、省吾一人の力では限界に達し、同様な能力を持ったわたしに白羽の矢を立てのだ。
 わたしの力を伸ばすアイテムが、ハチ公前でもらったラピスラズリのサイコロ……ここまでが解凍できた答え。

 夕べは、ぐったり疲れて、家に帰るとすぐに眠ってしまった。

 夢の中で、わたしはラピスラズリのサイコロを振ってみた、五六回やると思い通りの数字が出せるようになった。ま、夢の中なんだからと、開き直っている自分がおかしかった。
 十回やって納得すると気配を感じた。
 梅と葉ボタンの気配……お母さんが買ってきたんだろう。しかし気配はするけど、エリカのように強いオーラは感じられず、人の姿になって現れることもなかった。

「やっぱ、力が付いたんだ……」

 朝起きて、机の上でサイコロを転がした。全部思った数字が出た。
 今日は、紅白歌合戦だ。去年までは観る側だったけど、今年は、なんと出演者。AKRとしても初出場なので、一度事務所に集まって気合いを入れてから行くことになっている。 「昨日のレコード大賞は、AKBに持って行かれたけど、わたしたちもやるだけやって、『コスモストルネード』で優秀作品賞をいただけました。三つ葉の潤ちゃんたちは、東都放送ご苦労様でした。で、今日は、全員で紅白がんばります。みんなよろしく!」  リーダーの大石クララさんが檄を飛ばした。  そして、バス二台に分乗して、会場のNHKホールに向かった。

 なんせ、初出場。

 プロディユーサーの黒羽さん、吉岡さん、リーダーのクララさんたちが、あちこちの楽屋に挨拶回り。それだけで、一時間近くかかってしまった。わたしたちは、服部八重さんが中心になって、振りと立ち位置の最終チェック。
 挨拶回りから帰ってきたメンバーは、もう、それだけで疲れた様子だったけど、クララさんの顔色が一番悪いような気がした。 「さあ、三十分後に、わたしたちのリハ。立ち位置大丈夫ね。知井子、先週の歌謡フェスみたいに間違えないでね」 「は、はい~」 「じゃ、いくぞ!」  クララさんは、直ぐ元気な顔になって、円陣を組んで、最後の気合いを入れた。

 そして、それはリハの最後の決めポーズの直後に起こった。



「ウウ……」


 絞るようなうなり声をあげて、クララさんが倒れた。お腹を押さえて、エビのように丸くなって脂汗を流している。
「クララ!」 「クララさん!」
 クララさんは苦悶の表情で、気を失いかけていた……。
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宇宙戦艦三笠・18[クレアが見せてくれた夢]

2019-10-02 07:14:57 | 小説6
宇宙戦艦三笠・18
[クレアが見せてくれた夢] 



 

 

 東郷少尉は、無表情のまま水盃を飲み干した。

 真珠湾で三飛曹で参加して以来の、数少ないベテランの生き残りである。ガダルカナルの攻防に負けて以来、部隊はラバウルから、横浜鎮守府の飛行隊に移され、そこを拠点に各地で予科練生の飛行訓練に明け暮れていた。
 
 予科練生が特攻に使われることは分かっていた。

 基本の操縦技術を教えると、航法や戦闘訓練はおざなりに合格点を付けさせられた。旧式のグラマンF4Fならともかく、米軍の主力戦闘機であるF6Fやコルセア、ムスタングなどに太刀打ちできる技術ではなかった。それでも東郷少尉は合格点を出した。次に待ち構えている急降下爆撃や超低空飛行による爆撃訓練に時間を割くためである。
 急降下爆撃は降下角70度でやらせる。普通は、せいぜい60度であるが、それでは米軍の優れた対空火器に落とされてしまう。70度でも危なかった。上空500で数秒間80度にさせる。敵の対空砲の最大仰角を超えている。つまり敵の弾に当たらないように突っ込む訓練である。ただ、80度の急降下にゼロ戦は耐えられない。せいぜい30秒が限界である。敵弾の命中率が上がる500メートルで80度にさせるのである。ただ訓練なので、80度は、ほんの数秒で水平飛行に戻させる。
 10人に1人ほど、低空飛行に向いた者がいて、彼らには低空飛行を教えた。

 東郷少尉たち下級のベテランは気づいていた。敵の対空砲の命中率がいいのは米兵の腕ではなく、砲弾そのものに仕掛けがあることに。

 何度か、試しに超低空で敵艦に接近爆撃して気づいた。海面近くに飛んでくる敵の弾は、とんでもない場所で爆発する。海面3メートルほどの高さで飛んでいると、敵弾は発砲直後に、爆発していた。あきらかに仕掛けがある。だから超低空ならば、敵弾に当たらずに接近が出来る。そのために、超のつく急降下爆撃と低空爆撃の訓練に力をいれた。

 本当は、こういう訓練は不本意であった。どちらも爆撃を終えた後急上昇し、敵の対空砲火に無防備な腹を晒すことになり、確実に撃墜される。でも、彼らには、それを回避する訓練は不要だった。

 そのまま敵艦に体当たりするのだから。

 東郷は、別のベテラン教官といっしょに、飛行長や飛行隊長に意見具申をしたことがある。
「二機一組で低空爆撃を加えます。一機はそのまま爆撃して姿勢を戻して離脱します。もう一機は我々がひき受けます。敵の直前で投弾して真横に振って離脱します。敵は我々に気を取られ、僚機の生還率が高くなります」
「高いと言っても、何度かやるうちには貴様たちも墜とされるぞ」
「体当たりさせるよりは、生還率が高くなります」
「われわれに必要なのは、確実な戦果なんだ。無駄な訓練をやっている余裕も燃料もない」

 東郷は、その名の通り決め弾を出した。

「これをご覧ください」
 東郷は不発の40ミリ弾を出した。
「中に、小さな真空管が入っています。これが米軍の仕掛けなんです。おそらく近接信管……一定の距離になると自爆する砲弾です。これを使われていては、通常の攻撃は通用しません!」
「だからこその、神風攻撃だ!」
 東郷らの意見具申は握りつぶされた。

 そして、昭和20年の8月には、東郷自身にも特攻命令が出された。
 操縦席に入って、人の気配を感じた。
 ゼロ戦は、操縦席の後ろにわずかな空間がある。そこに人がいたのである。
「き、君は……」
 それは、幼馴染の美智子だった。たしか挺身隊にとられて、埼玉に居るはずだ。
「旋盤に巻き込まれて、このとおり……」
 美智子が見せた右手には手首が無かった。
「よく分かったな」
「これでも服部家の末裔ですよ」
 美智子の家は代々半蔵門の警備が担当の幕臣で、当然ながら伊賀流の使い手であった。長い付き合いだったので、互いの覚悟は分かっていた。
 
 離陸するまでは無言だったが、上空に上がり直援機も引き返すと、二人は堰を切ったように僅かな、でも二人にとっては特別な昔話をした。
 ピケット艦が近くなると、超低空飛行にうつった。東郷少尉は、それでも昔ばなしの続きが出来るほどの腕だった。

 二人は運よく大型空母への接敵に成功し、海面から3メートルの高さで接近。東郷はセオリー通りに対空射撃をかわし、急上昇し、敵の飛行甲板の真ん中に激突し、甲板に並んでいた米軍機も道ずれにして敵空母エンタープライズは大破。大戦中二度と現役復帰することはできなかった。

 この同じ夢を、修一と樟葉は観た。クレアが見せてくれた時空を超えた二人の運命を暗示……まさか。

 4人それぞれの過去と想いを載せて、三笠は二度目のワープに入ろうとしていた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・11『浜寺公園は高師浜』

2019-10-02 07:03:50 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・11
『浜寺公園は高師浜』
         高師浜駅

 

 浜寺公園には五千本以上の松がある。

 でも、それだけ。


 運動部の子らが走り込みの中継点やらに使うぐらいで、あたしら一般生徒は球技大会とか、罰ゲームみたいな耐寒マラソンで走らされるというマイナスイメージしかないとこ。せやから、わざわざ誘い合って行ったりすることはない。

 こんなところに来てみたかったんだ!

 姫乃の喜びっぷりには、ちょっと驚いた。
 ゲーセンのクレーンゲームで袋一杯のお菓子をゲットしたんで、すみれを呼んで、三人でお茶会をやった。
「ね、転校してきてから、学校と、その周りしか知らないんだけど、面白いとこないのかなあ?」
 高石市というのは基本的に住宅地。そうそう面白いところはない。
 あたしらが「遊びに行こう!」ということになると、南海電車に乗って堺を素通りして難波に行く。ファッションやらアミューズメントいうことになると大和川を渡らんと話しにならへん。
 ただ、難波まで出るにはアゴアシを考えると、最低樋口一葉さんを連れていかなあかん。余裕を持つなら諭吉さん。買い物しよと思たら諭吉さん二枚は欲しい。バイトもしてへん高校生には、しょっちゅう行けるとこやない。
「クリスマスにでも行こか?」
 事情を説明して妥当な提案をすると、姫乃はかいらしい目をパチクリさせた。
「え、あ、そういうとこじゃなくって……」
「え、じゃ、どんなとこ?」
「えーー例えば高師浜!」

 ということで、浜寺公園に来ている。

 高師浜と言われて、あたしもすみれも一瞬ピンとけえへんかった。
 高師浜と言われて、一番に浮かんでくるのは、わが大阪府立高師浜高校。
「そう言えば、浜寺公園て高師浜やったんとちゃう?」
 すみれが思い至って「あー、そうか」ということになった。

 三人で松林の中を歩く。

 子どものころから来てる浜寺公園やけど、あんまり松林の中を歩くことはなかった。
「ねえ、浜に出てみたい」
「え、浜?」
「だって、高師浜でしょ?」
 そう言われて、ちょっと目から鱗。高師浜なんだから浜には違いないはずや。
「だけど、浜ねえ……」
「とりあえず行ってみよ」
 すみれの提案で『浜』を目指す。

「ここが『浜』やった……」

 そこは道路を挟んでコンクリートの土手が行く手を阻んでいる。
「昔は浜だったんやけどね、臨海工業地帯が出来てからはこんな感じなんやなあ……」
 恥ずかしながら、あたしは川やと思てた。
「ちょっと検索してみるね」
 姫乃はスマホでグーグルアースを調べ始めた。
「ほんと、目の前のは海だ。ほら、ここから西は全部埋め立てでしょ、海岸線がカクカクしてる。このカクカクしてるところを無いと想像したら……ほら、目の前が浜辺になる」
 姫乃が画面を一撫ですると、臨海工業地帯が消えて、いま立っているところが海岸線になった。
「「「…………」」」
 目の前の景色に目をやると、圧倒的なリアリティーで工業地帯が見えて、海は川に戻ってしまう。
「もうちょっと想像力がいるみたいやねえ」
 すみれがため息をつく。
「ね、すみれ、弓を射るかっこうしてくれない」
「え、ここで?」
「うん、那須与一とかになった気になってさ」
「え、那須与一?」
 あたしは分かれへんかったけど、すみれは「ああ……」と声を発して臨海工業地帯の方を向くと、エアー弓を引き絞った。
 すみれの弓は何回か見たけど、かっこええ。なんか、ギシギシギシとしなっていく弓の音が聞こえてくるような気がした。

 ピューーーーーーーーン   バシ!   命中!

 きれいに矢を放つと、すみれは口で擬音を入れながら矢の行方を見定めた。
「当たったん?」
「放つとこまではええねんけどね」
 命中はハッタリらしく、ペロっと舌を出した。
 姫乃は土手に上がって矢の行方を追ってたけど、フッと力を抜いて振り返った。

「また来ようよ、イマジネーションが強くなったら見えるかもしれないから」

 気が付くと、西の空が茜色に染まりかけ、三人の影が長く伸びていた。
 かすかにウミネコの声がして――海や――と思った。
 
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高安女子高生物語・105〔The Summer Vacation・8〕

2019-10-02 06:53:48 | ノベル2
高安女子高生物語・105
〔The Summer Vacation・8〕
           


 

 ハワイロケは忙しかった。

 ワイキキビーチからダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター、ハナウマ湾、カラカウア通り、モアナルア・ガーデン、クアロア牧場、記念艦ミズーリ、と二日間かけて、撮影許可が下りるとこでは全部撮った。

 親会社のユニオシ興行のやることに無駄はありません。

 うちらはリカちゃん人形みたいに行く先々で着替えて、水着からアロハの短パン。支給された私服(?)なんかに着替え、3台のカメラで、延べ40時間分ほどの撮影。
 なんせ、曲が1950年代のアメリカンポップスの代表『VACATION』
 年寄りから若者まで、アメリカ人も日本の観光客もノリノリでノーギャラのエキストラに付き合うてくれはる。むろん、うちらが可愛いて、イケてるからやねんけど(笑)市川ディレクターと夏木インストラクターのやることはインスピレーションに溢れてて、ミズーリの前では、どこで調達してきたんか、水兵さんのセーラー服を着て『碇上げて』を即興の振り付けでやらされました。
 夜は、泊まってるホテルの要請で急きょミニライブ。これで宿泊代が三割引き。ほんまにうちのプロダクションは……!

 そんな過密スケジュールで、さすがに線が切れかかったうちらに、なんと半日の自由時間。メンバー22人は4、5人ずつのグループに分かれて、ちょっとの間のVACATION。ただ、ビデオカメラを持たされて、とにかく撮りまくりさせられました。
 これはアイデアでした。
 プロのカメラマンやのうて、素人のうちらが、好き好きに撮るんやさかい、いろんなビデオが撮れます。あとは編集するだけで、経費も手間もかかりません。

 ほとんどの子は、いわゆる名所を回りましたけど、うちは、ちょっと勇気出してアリゾナ記念館に行きました。

 アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして沈めた戦艦アリゾナの上にあります。いわゆる日本の『スネークアタック』と呼ばれる、アメリカ人には忘れられへん歴史記念建造物。日本人観光客は、あんまり行きません。
 あえて、ここを選んだのは、アメリカ人の生の反応が知りたかったから。

 入館は無料。

 沈んだままのアリゾナの真上を交差するように浮桟橋みたいな仕掛けで記念館があります。56メートルの「潰れた牛乳パック」と言われる白い箱みたいな記念館です。
「中央部はたしかにたるんでいるが、両端はしっかりと持ち上がっており、これは最初の敗北と最終的な勝利を表している。大きなテーマは平静であり、人々の心の最も奥にある悲しみの表現は、その人それぞれに感じ取るものでありデザインでは省略した」もんやそうです。
 亡くなった乗組員の銘板と、英文の説明文がありました。さぞかし日本の悪口が書いてあるんやと単語を拾うようにして読んでたら、いかついアメリカ人のオッチャンが寄ってきた。一瞬ビビったけど、オッチャンはにこやかに握手を求めてきた。
「NMB47のメンバーだね」
 きれいな日本語でした。聞くとアメリカ海軍の退役軍人さん。で、うちらが読みあぐねてた文章を日本語に訳してくれはりました
「アメリカ人には悲劇だけども、これは君たちのひいおじいさんたちが、どんなに勇敢に高い技術で戦ったかを書いてある。あの開戦は当時の情報技術では、悲劇的な行き違いだったけど、アメリカ人も日本人も死力を尽くした。そのことが書いてある。ここから何を読み取るかは、それぞれの人の心の問題だ」

 なんや、アメリカに一本取られたような気がした。

 そのあと、オッチャンは当たり前のアメリカ人に戻って、いっしょに記念撮影。Tシャツにサインしたげたらムッチャ喜んでくれはった。

――なかなか粋なオッサンや―― 
 
 正成のオッサンが感心した……。
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小悪魔マユの魔法日記・51『フェアリーテール・25』

2019-10-02 06:45:57 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・51
『フェアリーテール・25』   


 
 どこかで、見たような……

 そう思いながら、マユは飛行機をポピー畑の黄色い道に着陸させた。
 飛行機を降りて、その眠っている子を見て気がついた……。

 その子は、白と水色のギンガムチェックにフンワリ半袖のワンピースにツィンテールで、ポピー畑の中で眠っていた。
――この子、32章から33章にかけて出てきた子だ。
「ドロシー、ドロシー、やっと眠ることができたんだね」
 ライオンは、優しく、その子の髪をなでた。
「この子、わたし会ったわよ」
「え、ドロシーのこと知ってるの!?」
 気弱なライオンは飛び上がって驚いた。その振動で、半径2メートルほどのポピーがなぎ倒された。
「白雪姫の庭で会った……そう言えば、ライオンさんを探してるって言ってたわよ」
「それ、ボクのことだ……」
 ライオンは大粒の涙を流しながら言った。
「……でもね、この子が探してたのは、勇気を誇りにしているライオンさんだって言ってたわよ。あなたとは……」
「ボクは、ドロシーの前では、勇気あるライオンで通しているんだ……そうか、ドローシーはボクのことを探してくれていたんだ」
「あの……」
「なんだい……?」
 ライオンは、しゃくりあげながら聞いた。
「この子のこと、ドロシーって呼んでるけど……この子、やっぱり『オズの魔法使い』のドロシー?」
「そ、そうだよ。カンザスから、このオズの国に家ごと飛ばされて……竜巻でね、それで、家が東の魔女の真上に落ちて、魔女を殺しちゃったんだ、むろん事故だよ。でも妹の西の魔女が恨んじゃって……あ、ドロシーが、東の魔女の靴を履いちゃったせいもあるんだけどね。それは、魔女をやっつけたものが自動的に履くことになっていたから、ドロシーのせいじゃないんだ」
「知ってるわ。ドロシーは、カンザスに帰りたかっただけなのよね」
「そうだよ、そしてオズの魔法使いに頼みに行ったんだ。ほら、あのエメラルドの都まで」

 ポピー畑の向こうに、キラキラ輝くエメラルドの都が見えた。

「……ということは、これからオズの魔法使いに会いにいくところなのよね?」
「いいや、もう、オズの魔法使いには会ったよ。そしてオズの魔法使いに『西の魔女のホウキを取ってきたら、望みを叶えてやる』って言われてきたところなんだ」
「待って……ドロシーがポピー畑で眠ってしまうのは、エメラルドの都に行く前に西の魔女の魔法にかけられたからのはずよ。それに、かかしさんとブリキマンがいっしょのはず。それと、犬のトトも」
「ドロシーは眠れないんだよ……」
 ライオンは、またひとしきり泣いた。
「どういうことなの、話が見えてこないんだけど」
「確かに、このポピー畑には、西の魔女の魔法がかかっていて、ボクやトトは眠ってしまったけど、ドロシーは眠らなかった。かかしとブリキマンは脳みそと心がないから眠りようもないんだけどね。でも、ドロシーは眠らないんだ。一見元気そうに見えるけど、このオズの国に来てから一睡もしていない。エメラルドの都を出てから心配になってきたんだ。この眠らない元気さは異常だって」
 マユは思い出した、白雪姫のところで会ったドロシーの異様な元気さを……。
「そう言えば、ちょっと元気すぎる感じがしたわね」
「エメラルドの都で、ドクターに診てもらったら、重度の不眠症だって……で、睡眠薬や催眠術を試してもらったんだけどね、ちっとも効き目がなくて。ドロシーは『構わないから、先に行こう!』って言うし。それで、ボクたちは、ドロシーを寝かせるために三人で手分けして、ドロシーを眠らせる方法を探しに行ったんだ。まだ、かかしとブリキマンは戻ってきていないみたいだけど……そうか、そうなんだ、ボクたちの帰りが遅いもんで、ドロシーの方から、ボクたちを探しに行って……そして、探し疲れて、ここで……やっと眠ったんだ」

「それは……ちょっと違う」

 ポピー畑から、ひどく疲れた声がした。振り返ると……誰もいない。
「ここだよ……ここ……」
 弱々しく声が答えた。
「だれ……?」
「足もとを見ろよ……」

 二人が足もとを見ると、ドロシーの飼い犬のトトが、うなじを垂れてお座り……というより、気絶の寸前の様子。
「トト、口がきけるのか!?」
 ライオンが驚いた。
「ライオンが喋るんだ、犬だってしゃべるよ……」
「あ、わたし小悪魔のマユ、初めまして……」
 
「あ……悪魔!?」

 ライオンは、一気に50メートルほど逃げてしまった。
「あ……」
 マユはあっけにとられた。
「あのバカ……」
 トトは、いっそううなだれた。

 十分ほど、説明して、ようやく、小悪魔がこわいものでないことを理解してもらった。マユは少し後悔した。落第の話をしたところで、ライオンが笑い転げてしまったからである。
「で、話はもどるけど、トトは、なんでそんなにくたびれてるんだよ?」
 トトは、あぐらをかいて腕組みをした。ひどくオヤジに見えたが、マユは失礼だと思って、笑うのをこらえた。
「おまえたちが帰ってくるのが遅いから、ボクが見かねてやったんだよ」
「どうやって……?」
「羊を数えてごらんて、ドロシーに言ったんだ」
「そんなことで、ドロシーは眠ったの?」
「ボクだったら、羊が怖くて、できないけどな」
「ドロシーは、やったよ。でも100匹ぐらい数えると、いろいろ考えることが頭に浮かんで、ダメになる……そこで、仕方なくボクがやったんだ」
「羊を数えたの?」
「羊になったんだ。ドロシーの周りをグルグル回って、目の前に来たときに数えさせたんだ……で、9999匹目でやっと……おかげで、もうクタクタ。左回りに回ったもんだから、左脚が少し短くなったかも」
「そうか……そこまで、ドロシーのために……」
 ライオンが、また泣きはじめた。
「いいかげんにしろよ、でかいナリして」

 そうして、ライオンは泣き疲れて、トトはもともと疲れ果てていたので、ドロシーといっしょに眠ってしまった。
「しかたないわね……」
 マユは、三人が目覚めるのを一人で待つことにした。ま、そのうちかかしもブリキマンも戻ってくるだろう……。


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