大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・084『前の廊下で話声がする』

2019-10-28 14:27:45 | ノベル

せやさかい・084

 

『前の廊下で話声がする』 

 

 

 前の廊下で話声がする。

 

 廊下を挟んだ向かいはコトハちゃんの部屋やから、コトハちゃんが誰かと話してんのやろか?

 ……どうも声が違う。

 女の人と、まだ幼い女の子の声。

 目玉を動かすと、かすかに見える電波時計は午前一時半を示してる。

 不思議と怖いいう感じはなくて、だれが喋ってるのかいう方に興味が湧く。

 寝返りを打って、襖の方に顔を向ける……すると、襖の中心が半透明になって、二人の姿が、ちょっとずつ明らかになって来る。

 廊下の幅は一メートルそこそこやのに、なんでか本堂の外陣くらいの広さ……アンティークな家具と敷き詰められた絨毯、宮殿の一室みたい……窓際のスツールのようなのに腰かけてる二人。

「まら、うまれかわいにはなえないの?」

「分かってしまった?」

「うん、らって、ゆめのなかれしかあえないんらもん」

「夢だって、バレてた?」

「しょぇは、ひとのすがたれ、ひとのことばれしゃべってゆのだかや、ゆめにきまってゆ」

「聡いのね○○○は」

 え? 名前を言うたみたいやけど、聞こえへん。

「ここれはダミアとよばれていゆの」

 え、ダミア?

「では、ダミア」

「なに、おうひしゃま?」

「オリンピックには生まれかわるから、その時には、わたしの側にいてちょうだいね」

「わかじにしなければなやない。やっとうまれたばかぃなのに」

「ごめんなさいね、人はタイミングよく生まれかわったりはできないものだから。でも、オリンピックは特別だから、必ず生まれかわることができてよ」

「おねがいしゅゆ。ネコは百まんかいうまれかわゆといわれゆけど、ほんとは百かいあゆかないかにゃのよ」

「だいじょうぶ、きっとよ」

「ゆびきりしゅゆ!」

「いいわ、指切りげんまん、嘘ついたら針千本……」

「まって」

 小指を絡め合ったまま、二人はあたしの方を向いた。

 ヤバイ!?

「ひょっとして、見られてる?」

「……だいじょぶ、ねてるみたい」

「いっそ、あの子たちの命を頂いたら? 三人分も喰らったら、確実なタイミングで生まれ変われる……一人は、わたしに近いヤマセンブルグ王家の血筋」

「らめえ、そんなことをねがったや、またギロチンにかけられてしまうわよ」

「だめよ、思い出すじゃない、あ、ああ、首が……」

 王妃の首が左回りに回ったかと思うと、胴体から回転しながら外れてしまった!

 キャ!

「「ン!?」」

 王妃の首と女の子の視線が、あたしに注がれる! 

 布団をかぶって息を殺す。

 

 何十秒かして薄目を開けると、女の子がペットボトルの蓋を閉めるように、王妃様の首を締め直しているところだ……。

 

 もう一度息を殺して……目覚めると、何ごともなかったように朝のあたしの部屋だった。

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真夏ダイアリー・53『禁断のテレポテーション』

2019-10-28 06:57:13 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・53
『禁断のテレポテーション』        




「やあ、ミリー。ま、上がってくれよ」
「思ったより元気そうじゃないの、安心した」
「病気じゃないからね。ただ熱中しちゃうと、もう学校に間に合わない時間になってしまってさ」
「まさか、女の子がいっしょにいたりしないでしょうね?」
「もっとエキサイティングで魅力的なもの」

 フレンドリーだったのは、そこまでだった。

 玄関のドアを閉めると、厳しい顔で、わたしを睨みつけた。
「誰だ、お前は……ミリーは実在の人物だぞ!?」
 
 ウソ……と、わたしは思った。ミリーは、この時代のアメリカに来るために作られたアバターだと思っていた。オペレーターはだれだか分からないけど、実在の人物のアバターを使うなんて、かなり余裕がない証拠。
「ここに来るまでに、誰かに会ったか?」
「ええ、ジェシカに。ついさっき、この家の前で」
「ジェシカは、いまごろ本物のミリーに会っているかもな……ここまでリスクを冒しながらやってくるなんて、相当情報を掴んだ幹部……オソノさんか?」

 省吾は、わたしの正体は分からないらしい。黙っておくことにする。省吾がトニーというアバターでやろうとしていることは、とんでもないこと……らしいことは分かっている。そして、その実行が目前に迫っていることも。ただ、以前ワシントンDCに来たときよりも情報もアバターの設定も不十分だった。ことは急を要するもののようだった。
「わたしが、だれだか明かすことはできない。でも、あなたが、これからやろうとしていることは、どうしても阻止するわ」
 省吾は指を動かしかけた。テレポテーションの前兆だ。わたしは反射的に――やめろ――と思った。
「くそ……テレポテーションを封じる力も持っているのか」
 わたしは、自分にそんな力があるとは知らない。ただ――やめろ――と、思っただけ。
「省吾……いや、ここじゃトニーね。トニーがやろうとしていることはルールから外れてる(具体的には分からないけど)やらせることはできないわ」
「まあ、いいさ。今日はまだ二日だ。時間に余裕はある。アバターといえ人間だ、いつまでも緊張状態で、僕の行動を邪魔できるわけじゃない」
「そう、あなただって同じ……根比べね」
 わたしたちは、外見的にはソファーに座ってリラックスしていた。まるで恋人同士がくつろいでいるように……でも、精神的には、全力で対峙していた。一瞬も息を抜けない。

 そのとき、ドアのノッカーが鳴った。

「わたし、ジェシカ。やっぱ心配でやってきちゃった……トニー、トニー、居るんでしょ。ミリーもいっしょなんでしょ」
「ご指名だ、君が出てやれよ」
「いいわよ。近くに居さえすればテレポブロックは解けないから」
「半径どのくらい?」
「地平線の彼方ぐらい……はい、待って。いま開けるから」
 ドアを開けると、ジェシカの明るい顔があった。
「やっぱ、気になってやってきちゃった……真実が知りたくて」
 ジェシカの、すぐ横に本物のミリーが現れた。ドアの陰に隠れていたようだ。

「誰よ、あなた……!?」
 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。

 瞬間の動揺。やつはテレポしてしまった……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・18『ブラボー!』

2019-10-28 06:48:18 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・18   

『ブラボー!』 

 
 
「初日、中ホリ裏の道具置き場を見に行ったよ」

「マスター、ハイボールおかわり!……で、お化けでも居ました?」
「いたね、ヌリカベの団体さん筆頭にいろいろ」
「あれはね、フェリペが中ホリから後ろ半分使わせてくれないから……」
「逆だね。あんなに飾りこまなきゃ、道具はソデに置いて舞台全体が使えた。芝居の基本は……おい、大丈夫かマリちゃん?」
「大丈夫。お説拝聴させていただきます」
 わたしは九十度旋回して先輩と正対した。
「じゃあ、言わせてもらうけどね……」
 互いに芝居で鍛え上げた声、店内いっぱいに響く大激論になった。しかし、激論しているのがテレビでも有名な(わりに、わたしは、その日まで知らなかったけど。なんせテレビ見ないし小田先輩は様変わりしちゃってるし)高橋誠司と、この界隈じゃ、ちょっとした顔の乃木坂学院の貴崎マリというので、みんな観戦者になってしまった。
 何分だか何十分だかして、それに気づいた。慌てて、それぞれワインとハイボールを一気飲みしてお勘定した。お客さんが、みな拍手で送り出してくれたのには閉口。小田先輩はカーテンコールのように慇懃なポーズでご挨拶。
「ブラボー!」

 マスターがトドメを刺した。

 夜風が心地よかった。

「あの店のマスター、昔は芝居をやっていたとにらんだね」
「あのブラボー?」
「うんにゃ、あの店の内装、客席の配置。タパスの料理の並べ方。ミザンセーヌ(舞台での役者の立ち位置と、そのバランス)が見事」
「そう……ですよね」
 と、わたしは頼りない。
「酒と料理を出すタイミングは、名脇役のそれだ!」
「先輩、酔ってます?」
「程よくね……それに、あの店の名前」
「KETAYONA?」
「わからんか。まあ、暇があったら逆立ちでもしてみるんだな!」
 先輩は立ち止まって、大きな伸びをした。わたしもつられて大きなアクビ。
 ふと気づいて後ろを見ると……なんと、その種のホテル!
 視線を感じると、横で先輩がニンマリ。あわてて首を横に振る。パトロ-ルのお巡りさんが、チラッと見て通り過ぎた。その後をたどるようにわたしたちは歩き出した。
「ハハ、そういうリアクションが苦手なんだよな。マリッペは、芝居作りよりレビューってのかな、そういうものとかプロディユースの方が向いてるかもな」
「わたしは、現役バリバリの教師です!」
「はいはい、貴崎マリ先生」
「あのね……」

 その時、人の気配に気づかなかったのは、やっぱり二人とも酔っていたのかもしれない。

 明くる日、わたしは珍しく遅刻してしまった。
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宇宙戦艦三笠・44[小惑星ピレウス・1]

2019-10-28 06:23:00 | 小説6
宇宙戦艦三笠・44  
[小惑星ピレウス・1] 



 

 三笠は、用心してピレウスの衛星アウスの陰に出た。

 ピレウスは目的地だが、正体が分からない。

 それは覚悟の上だったが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの中間に位置し、両惑星から絶えず監視されているに違いない。ピレウスの大気圏内に入ってしまえば、どうやらピレウスが張っているバリアーで分からないようだが、そこにたどり着くまでの間に発見されてしまっては元も子もない。

「ピレウスが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの間に入るのを待つ」
「そうするだろうと思って、惑星直列になる時間を狙ってワープしておいた」
 修一と樟葉は艦長と航海長としてもツーカーであった。
「でも、ピレウスに敵が侵入していたら……」
 美奈穂が珍しく弱気なことを言う。普段は心の奥にしまい込んでいるが、父が中東で少女を救ってゲリラに殺されたことがトラウマになっている。もう大事な仲間を一人も失いたくない気持ちが、美奈穂を、らしくない弱気にさせている。
「その時は、その時。全てのリスクを排除しては何も行動できなくなる」
「美奈穂の心配ももっともだから、ここからできるだけピレウスと、その周辺をアナライズしておくわ。クレアよろしくね」
「ええ、ピレウスの自転に合わせて表面と地中10キロまではアナライズしておきました」
「結果が、これだな……」

 モニターにピレウスの3D画像が出た。

「地球に似てるけど、人類型の生命反応がないです。文明遺跡は各所で見られるんですけど」
「まるでFF10のザナルカンドみたいな廃墟ばかりね」
「何かの理由で、人類は破滅したんだな……」
 みんながネガティブな印象しか持てないほど、その人類廃墟は無残だった。
「この星には、負のエネルギーを感じます。アクアリンドよりももっと強い……これシミレーションです」

 クレアが、モニターを操作すると、海に半分沈みかけた三笠が写った。

「三笠が沈みかけてる……」
「中を見てください」
 三笠の中には、4人の老人と、一体の壊れかけたガイノイドの姿しかなかった。
「あれ……オレたちとクレア?」
「はい、一か月滞在していると、ピレウスでは、ああなります」
「いったいどうして……」
「推測ですが、かつてピレウスに存在した人類の最終兵器が生きているんだと思います」
「兵器……あれが?」
「はい、人類と人類が作ったものを急速に劣化させる……そんな装置があったんだと思います。装置そのものも風化して、どの遺物がそれか分からないけど、その影響だけが今でも残っているようです」

 クレアは、予断を与えないように、あえて無機質な言い方をした。

「これなら、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手の出しようがないわね」
「でも、それで何万光年も離れた地球に目を付けられてもかなわない」
「それよりも、あんな死の星から誰が地球に通信を……それも地球寒冷化防止装置をくれるなんて」

 ブリッジは沈黙に包まれた。

「あの……」
「なんだ、トシ?」
 トシの一言で沈黙は破られたが、事態を進展させるものではなかった。
「三笠のエネルギー消費が微妙に合わないんです」
「どのくらい?」
 樟葉が敏感に反応した。
「誤差の範囲と言ってもいいんですけど、1/253645001帳尻が合わないんです」
「ハハ、トシもいっぱしの機関長だな。それはアクアリンドのクリスタルを積み込んだせいだろう。あれだって、人間一人分ぐらいの質量はあるから」
 修一の結論にみんなは納得した。

 ただ、トシは、それが人間一人分であることが気にかかっていた……。
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小悪魔マユの魔法日記・77『期間限定の恋人・9』

2019-10-28 06:14:54 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・77
『期間限定の恋人・9』    


 
 マユは美優のトキメキを、どう受け止めていいのか分からなくなった……。

 美優は一週間後に死が迫っている黒羽の父のために黒羽の恋人役を買って出た……いや、父の願いを重荷に感じて、仕事に手が着かなくなった黒羽のため……それとも、美優自身一週間と限られた時間の中で、精一杯恋の真似事をしてみたかったのか。

 母のマダムも店にもどってから同じことを聞いた。
「一週間後には死んでしまうの。だから、好きなことをやる。それだけ……なぜとか、どうしてか、なんて理由を考えている時間はわたしには無いの」
 店の開店準備をしながら、それだけを答えた。

 昼をちょっと過ぎて、黒羽が美優を食事に誘いに来た。

 タクシーで10分ばかり行った、こぢんまりした品の良いフランス料理の店だった。
「ほんとはディナーに連れてきたいところなんだけどね。親父や新曲のことで、時間がないから、ランチでごめん」
「いいのよ、その代わり、帰りはタクシーじゃなくて……」
「うん……?」
「事務所まで歩いて帰らない?」
「……いいよ。じゃ、少しだけ急いで食べよう」
 ランチとは言え、なかなかのものであった。A-5ランク特選牛フィレ肉のグリル トリュフの香るソースをメインに、スープとスパーリングワイン。パンはできたてのものからチョイス。バターとオリ-ブオイルが付いていて、しっとりといただける。ゆったりと風を感じるので首を向けると、大きなテラス越しにお堀が見えた。
 急いでというわりには、黒羽は40分以上かけた。
「急いでっていうから、わたし、もうデザートになっちゃった」
「意外に早食いなんだ」
「そうよ、バイトの子が休んだときなんて、お母さんと交代で、お昼なんか5分ですましちゃう」
「ブティックも、なかなか大変なんだ」
 出かける前、母が、以前バイトをやってくれていたサキちゃんに電話しているのに気がついていた。美優の一週間を自由にしてやろうという心遣い……気がつかないふりをしてきた。

 帰り道は少し遠回りをしてお堀端を歩いた。
 
 美優は喋りっぱなしだった。

 話の内容は、ほとんど黒羽の身上調査のようだった。黒羽は、なんだかおかしくなってきた。小学校の時の靴のサイズを聞いてきたときには思わず笑ってしまった。
「ハハハ、なんだか、質問ばかりだな」
「だって、デートなんてしたことないもの。それに……」
「それに?」
「婚約者としては、いろんなこと知っとかなきゃ、黒羽さんのこと」
「婚約者に黒羽さんはないだろう」
「そ、そうね……英二さん」
「さん抜きで言ってごらん」
「そ、そんな……じゃ、わたしのことも美優って呼んでください」
「言えないことはないけど、お互い不自然だな……ま、しばらくは、さん・ちゃん付けでいいんじゃない」

 昼下がりの街は、昼の休憩時間が終わったのだろう、人影がまばらになってきた。
「英二さん」
 下りの階段になったところで美優が声をかけた。
「うん?」
 黒羽が振り返ると、そこに美優の顔があった。ほんの数センチの隔たりで、目をつぶった美優の顔がせまってきた。
「オット……」
 そう言いかけて、二人のクチビルが重なってしまった。
 階段の段差を利用して、美優が体を預けにきたのだ。そうしなければ、二人の身長差ではクチビルは重ならない。
「美優ちゃん……」
「恋人同士、お互いのクチビルぐらいは知っておかなきゃ」
「大胆だね……」
 黒羽は美優の大胆さへの驚きの尻尾に愛おしさが付いてきたのに、自身驚いた。
「……この先は進入禁止」
 黒羽のつぶやきに、美優の心は、トキメキとガッカリが一度に来た。
「道に迷ったな、この先進入禁止。大通りに出て、やっぱりタクシーにしよう」
 
 黒羽はディレクターの顔になって、道を戻り始めた……。

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