せやさかい・084
前の廊下で話声がする。
廊下を挟んだ向かいはコトハちゃんの部屋やから、コトハちゃんが誰かと話してんのやろか?
……どうも声が違う。
女の人と、まだ幼い女の子の声。
目玉を動かすと、かすかに見える電波時計は午前一時半を示してる。
不思議と怖いいう感じはなくて、だれが喋ってるのかいう方に興味が湧く。
寝返りを打って、襖の方に顔を向ける……すると、襖の中心が半透明になって、二人の姿が、ちょっとずつ明らかになって来る。
廊下の幅は一メートルそこそこやのに、なんでか本堂の外陣くらいの広さ……アンティークな家具と敷き詰められた絨毯、宮殿の一室みたい……窓際のスツールのようなのに腰かけてる二人。
「まら、うまれかわいにはなえないの?」
「分かってしまった?」
「うん、らって、ゆめのなかれしかあえないんらもん」
「夢だって、バレてた?」
「しょぇは、ひとのすがたれ、ひとのことばれしゃべってゆのだかや、ゆめにきまってゆ」
「聡いのね○○○は」
え? 名前を言うたみたいやけど、聞こえへん。
「ここれはダミアとよばれていゆの」
え、ダミア?
「では、ダミア」
「なに、おうひしゃま?」
「オリンピックには生まれかわるから、その時には、わたしの側にいてちょうだいね」
「わかじにしなければなやない。やっとうまれたばかぃなのに」
「ごめんなさいね、人はタイミングよく生まれかわったりはできないものだから。でも、オリンピックは特別だから、必ず生まれかわることができてよ」
「おねがいしゅゆ。ネコは百まんかいうまれかわゆといわれゆけど、ほんとは百かいあゆかないかにゃのよ」
「だいじょうぶ、きっとよ」
「ゆびきりしゅゆ!」
「いいわ、指切りげんまん、嘘ついたら針千本……」
「まって」
小指を絡め合ったまま、二人はあたしの方を向いた。
ヤバイ!?
「ひょっとして、見られてる?」
「……だいじょぶ、ねてるみたい」
「いっそ、あの子たちの命を頂いたら? 三人分も喰らったら、確実なタイミングで生まれ変われる……一人は、わたしに近いヤマセンブルグ王家の血筋」
「らめえ、そんなことをねがったや、またギロチンにかけられてしまうわよ」
「だめよ、思い出すじゃない、あ、ああ、首が……」
王妃の首が左回りに回ったかと思うと、胴体から回転しながら外れてしまった!
キャ!
「「ン!?」」
王妃の首と女の子の視線が、あたしに注がれる!
布団をかぶって息を殺す。
何十秒かして薄目を開けると、女の子がペットボトルの蓋を閉めるように、王妃様の首を締め直しているところだ……。
もう一度息を殺して……目覚めると、何ごともなかったように朝のあたしの部屋だった。