大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・086『M資金・18 ゴールイン!』

2019-10-15 14:02:22 | 小説

魔法少女マヂカ・086  

『M資金・18 ゴールイン!』語り手:ブリンダ 

 

 

 人牛一体となった敵が鼻先一つの横並びになった時、一マイル先にゴールが見えてきた。

 

 もとより、これはラフストックだから、早くゴールインしたからと言って勝敗には関係ない。

 しかし、目前にゴールを設定されて、励めない奴はタマナシだ!

 そんな勝負師根性は敵も同じ、一気にラストスパートをかけてくる!

―― ウウーー! 魅せてくれるのニャー! 嬉しいのニャー! みんな、頑張ってゴールを目指すのニャー! ――

 ルール変更はチェシャネコの気まぐれのようだが、何百時間競っても決着がつかないラフストックに飽きる気持ちも分かる。

 斜め上に見えるチェシャネコは、目やにを貯めて涎を垂らしている。こいつ、直前まで寝ていたなあ!?

―― そ、そんなことは無いのニャー! ずっと目を開けて観ていたニャー! ――

 チェシャネコの言い訳を無視して牛腹を蹴る!

 牛も勝負魂を刺激されたのか、素直にスピードを上げる。視野の端っこには同様にラストスパートをかけるマヂカが見える。

 がんばれマヂカ!……ん? この場合、敵はマヂカになるのか?

 ええい! とにかくゴールインだああああああああああ!!

 

 勝敗、判然としないままにゴールイン!

 

 ロデオ慣れしているオレは、すぐに速度を落とした。急に止まっては人牛ともに心臓に負担をかけ脚を痛めるからだ。

 しかし、マヂカは速度を落とせずに、全力疾走のまま前方に走り去っていった。

 まあ、いい、自然に落ち着いて戻って来るだろう。

 それよりも、勝負の結果だ。

 …………いつもなら、すぐに賞金を掲示するチェシャネコが沈黙している。ビデオ判定かな?

 

 パンパカパーーーーーーーーーーン!!

 

 ファンファーレ付きで賞金が掲示された!

 ¥ 50000000!

 ……五千万!? 少ないじゃないか、チェシャネコ!!

―― 仕方ないのニャー、小数点百万ケタまで見ても、優劣がつかないのニャー! だから、賞金は半分こニャー(^ー^* )!

「これだけの勝負をさせておいて、半額かあ!! 甲乙つけがたいなら、両方に一等賞の賞金を出せよ!」

―― ニャハハハハ、それは出来ないのニャー! ――

「この、くされ笑いネコがああ!」

―― ニャハハ、ニャハハハハハ!! お、それよりも、相棒が帰ってきた……にゃあ!? ――

「どうした?」

 ニャハハ笑いのままフリーズしたチェシャネコの視線を追うと、牛に跨ったマヂカが戻ってきつつある。

 さすがに、ここまでの激戦を戦ってきたので、牛に跨る姿も堂にいってきたようだ。

―― あっぱれ、牛馬一体の姿に拍手なのニャア!! ――

「ま、待て、あれは?」

 牛には首が無く、跨ったマヂカの上半身が露出……ちがう!?

 

 歩みを止めたそいつ……そいつは、上半身がマヂカ、下半身が牛という化け物だったのだ!!

 

―― おもしろいのニャーー!! 賞金、上げてやるニャー!! ――

 

 ¥ 200000000

 

 マヂカの上に、二億円の数字が現れた。

 

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真夏ダイアリー・40『ジーナの庭・2』

2019-10-15 06:49:06 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・40 
『ジーナの庭・2』       


 
 
 ジーナの姿のオソノさんはUSBを握った。すると四阿(あずまや)の中に映像が現れた。

「スネークアタック! リメンバーパールハーバー!」
 議会で、叫ぶルーズベルト大統領が居た……。

「どうして……!?」
「……CIAと国務省、FBIも総ぐるみ……日本の交渉打ち切りは、真珠湾攻撃後ということになってる」
「そんな、わたし、そのために証拠写真撮ったり、車ぶつけて消火栓を壊したりしておいたのに!」
「……真珠湾攻撃の予兆か、国務省前の消火栓破裂……やられたわね」
「だ、だって、お巡りさんのジョージも立ち会っていたのよ……」

 画面が、ワシントンの警察署に切り替わった。

「ジョ-ジ、FBIへの移動が決まった。おめでとう」
 署長がにこやかに言っている。
「そのかわり、あの事件は無かったことにしろと言うんですか!?」
「なんの話だね?」
「1941年12月7日午後1時12分。日本大使の車がぶつかって、消火栓を壊したんです!」
「……ジョ-ジ、君は夢を見ていたんだ。消火栓は老朽化のために、自然にぶっ飛んだんだ。新聞にもそう載っている」
「日本は、パールハーバーの前に……」
「それ以上は言うな。国務省もCIAもFBIも、そう言ってるんだ。むろん国務長官もな」
「しかし、大使とマナツは……」
「ジョージ、お前は合衆国の国民であり、警察官……いや、FBIの捜査官なんだ。いいな、それを忘れるんじゃない」
「合衆国は、正義の国家じゃなかったのか……」
「FBIへの栄転は、ご両親や兄弟も喜んでくれるだろう。家族を悲しませるんじゃない」
「署長……!」
「さっさと荷物をまとめて、FBIに行くんだ。辞令はもう出ているんだぞ!」
「……了解」
 ジョ-ジは、静かに応えると、敬礼をして署長室を出て行った。
「……惜しい奴だがな」
 署長は、そう言って、受話器をとった。
「……小鳥は鳴かなかった」
 署長は、そう一言言って、受話器を置いた。
「署長、会議の時間です」
「ああ、そうだったな……」
 署長は、戦時になったワシントンDCの警備計画の会議に呼び出されていた。パトカーでワンブロック行ったところで、歩いているジョージを追い越した。
「ジョ-ジのやつ、ご栄転ですね」
 運転している巡査に、応える笑顔を作ろうとしたとき、後ろで衝撃音がした。
「ジョ-ジが跳ねられました!」
「くそ、跳ねた車を追え! 追いながら救急車を呼べ!」
 署長は、そう命ずると、パトカーを降り、壊れた人形のように捻れたジョージを抱え上げた。
「ジョ-ジ……くそ、ここまでやるのか!」

「ジョ-ジ……!」

 真夏は言葉が続かず、後は涙が溢れるばかりだった。
「……あなたは、精一杯やってくれたわ」
「でも、歴史は変わらなかった。ジョ-ジが無駄に殺されただけ!」
「真夏、あの木を見て……」
 庭の片隅にグロテスクな木があった。その木の枝の一つが音もなく落ちていった。
「あの木は……」
「歴史の木。いま一つの可能性の枝が落ちてしまった」
 そして、落ちた枝の跡からニョキニョキと、さらにグロテスクな枝が伸びてきた。それは、反対側に伸びた枝とソックリだった。よく見ると、同じようにそっくりな枝が伸びていて、全体として無機質なグロテスクな木に成り果てていた。
「……同じように見える枝は、みんな、わたし達が失敗して、生えてきた枝」
 わたしは、理屈ではなく、歴史がグロテスクなことを理解した。
 でも、正しい歴史の有りようというのは、どんな枝振りなんだろう……。
「それは、今度来てもらったときにお話する。うまく伝わるかどうか自信はないけど……さ、ひとまず、元の世界に戻ってもらうわ」
 ジーナのオソノさんが言うと、周囲の景色がモザイクになり、モザイクはすぐに粗いものになり、一瞬真っ黒になったかと思うと、また、急にモザイクが細かくなり、年が改まって最初の日曜日にもどっていた。

 ただ一点違うのは、リビングにエリカも戻っていたことだった……。
 
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乃木坂学院高校演劇部物語・5『第一章・3』

2019-10-15 06:40:11 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・4    



『第一章 五十四分三十秒のリハーサル・3』

「開始!」

 山埼先輩の号令で始まった。
 フェリペの計時係りの子と山埼先輩が同時にストップウォッチを押した。上手の壁のパネルから運び、八百屋飾りのヌリカベを運ぶ。パネルはサンパチと言って、三尺(約九十センチ)八尺(約二百四十センチ)の一枚物。これを、なんと女の子でも一人で運んじゃう。重心のところを肩に持ってくれば意外にいける。

「パネル一番入りまーす!」
 と声をかける。
「はい!」
 舞台上のみんなが応える。

 不測の事故を防ぐための常識。そして袖から舞台へ。
 次にヌリカベ。さすがに四人で運ぶ。そうやって上手から順に運び、がち袋(道具係が腰に付けたナグリというトンカチなんかが入った袋)を付けた夏鈴たちが、背中にNOGIZAKA.D.Cとプリントした揃いの黒いTシャツを着て、動きまわっていく。
「一番、二番連結しまーす!」
 夏鈴が叫ぶ。バディーの宮里先輩と潤香先輩が続いてシャコ万という万力でヌリカベを繋いでいく。キャストだって仕込み、ばらしは一緒だ。
 壁のパネルはヌリカベにくっつけるものと、ヌリカベの上に乗せるものがある。乗せるものは、ヌリカベの傾斜プラス一度の六度の傾斜のついた人形立を釘を打って固定する。そして劇中移動させるのでシズ(重し)をかけていく。
 その間、照明チーフの中田先輩は調光室でプリセットの確認。インカムでサブの里沙に指示して、サス(上からのライト)やエスエス(横からのライト)の微調整。
 その合間を縫って、音響の加藤先輩が効果音のボリュ-ムチェック。
 客席の真ん中でマリ先生が全体をチェック、舞台監督の山埼先輩が、それを受けて各チーフに指示。
 わたしは、決まったところから明かりと道具の場所決めを確認してバミっていく(出場校ごとにバミリテープの色が決まっている。ちなみに乃木坂は黄色と決まっていて、地区では貴崎色などと言われている。パネルの後ろに陰板(開幕の時はパネルに隠れている役者……って、わたしたちコロスってその他大勢だけどね)用の蓄光テープを貼り、剥がれないようにパックテープ(セロテープの親分みたいの)を重ね貼りして完成!
「あがりました。十七分二十秒!」
 山埼先輩がストップウォッチを押した。
「うーん、二十秒オーバー……まあまあだね。ヤマちゃん、二十分場当たり」
 マリ先生の指示。
「はい、じゃ幕開きからやります。ナカちゃん、カトちゃん、よろしく。役者陰板。幕は開くココロ(開けたつもり)十二、十一、十……五、四、三、二、一、ドン(緞帳のこと)決まり!」
 山埼先輩のキューで、去年と同じように、あちこちからコロスが現れる。今年は「レジスト」ではなく「イカス! イカス!」と叫びながら現れる。
 この「イカス」には意味がある。勝呂(すぐろ)先輩演ずる高校生が進路に悩む。主人公の高校生が、キャンプに行って、土砂降りの大雨に遭う。キャンプ場を始め付近の集落は危機に陥る。それを救ったのが陸上自衛隊の人たち。中には、たまたま演習にきていた陸上自衛隊工科学校の生徒たちも混じっていた。彼らは、中学を卒業して、すぐにこの道に入った者たちばかりだ。主人公は彼らにイケテル姿を見る。すなわち「イカス」である。彼は、卒業後自衛隊に入ろうと考える。
 しかし主人公に好意を寄せる潤香先輩演ずるところの彼女の兄は新聞記者で「自衛隊は本来、国家の暴力装置である」と意見する。
 最初、兄に反発し彼を応援していた彼女も、海外派遣されていた自衛隊員に犠牲者が出たというニュースに接して反対に回る。人生を活かすにはもっとべつの道があるはずだ……と。ここで、もう一つの「イカス」の意味が生きてくる。そして、ドラマの中盤で彼女が不治の病に冒されていることが分かり、彼は彼女を生かすために苦悩する。ここで第三の「イカス」が生きてくる。

 実は、このドラマは、この夏休みにコンクール用の脚本に考えあぐねたマリ先生の創作劇なんだよね。
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宇宙戦艦三笠・31[水の惑星アクアリンド・1]

2019-10-15 06:31:19 | 小説6
宇宙戦艦三笠・31
[水の惑星アクアリンド・1] 



 
 
「両舷10時と2時の方向に敵。距離4パーセク!」

 警報とともに、当直のクレアとウレシコワが、叫んだ。
「両舷共に、10万隻。クルーザーとコルベットの混成艦隊。あと1パーセクで、射程に入ります」
「敵艦隊、共にエネルギー充填中の模様。モニターに出します」
 クレアとウレシコワが、的確に分析し、報告を上げてくる。モニターには、敵艦一隻ずつのエネルギー充填の様子がグラフに表され、まるで、シャワーのようなスピードでスクロールされている。
「全艦の充填には3分ほどだな。両舷前方にバリアー展開!」
 修一が叫んだときに、美奈穂が遅れて入ってきた。
「ごめん! みかさんバリアーお願いします!」
 美奈穂は、濡れた髪のまま、いきなり船霊のみかさんに頼んだ。
「美奈穂、冷静に。第二ボタンぐらい留めてからきなさいよ!」
 美奈穂は、ざっと体を拭いたあとにいきなり戦闘服を着て、第一第二ボタンが外れたままだった。修一とトシの視線が自然に美奈穂の胸元に向く。さすがに、0・2秒で、美奈穂はボタンを留めた。

 が、その0・2秒が命とりになった。

「敵、全艦光子砲発射。着弾まで15秒!」
「みかさん、バリアー!」
「大丈夫、間に合うわ」
 みかさんは冷静に言った。
「カウンター砲撃セット!」

 カウンター砲撃とは、三笠の隠し技で、敵の攻撃エネルギーを瞬時に三笠のエネルギー変換し、着弾と同時に、そのエネルギーの衝撃を和らげ、攻撃力に変えるという優れ技である。カタログスペック通りにいけば、三笠は無事で、敵は鏡に反射した光を受けるように、自分の攻撃のお返しを受けるはずだった。
「着弾まで、二秒。対衝撃防御!」
 クルーは、全員、身を縮め持ち場の機器に掴まった。震度7ぐらいの衝撃が一瞬できた。美奈穂が急場に留めたボタンが、みんな弾け飛んだ。瞬間胸が露わになった美奈穂だったが、トシも修一も見逃してしまった。

 三笠は、シールドで受け止めたエネルギーの大半を攻撃力に変換。カウンター砲撃を行った。各主砲、舷側砲から、毎秒100発の連射で光子砲が放たれた。
 しかし、両舷で100万発を超える敵弾のエネルギーは変換しきれず。舷側をつたって、シールドの無い艦の後方に着弾し、いくらかの被害を出したようである。
「敵、6万隻を撃破。シールドを張りながら撤退していきます」
「各部、被害報告!」
「推進機、機関異常無し!」
「主砲、舷側砲異常なし!」
「右舷ガンルームに被弾。隔壁閉鎖」
「……後部水タンクに被弾。残水10」
 
「美奈穂、シャワー浴びといてよかったね。飲料用に一週間もつかどうかだよ」
 樟葉が、冷静とも嫌味ともとれる言い回しで呟いた。
「ここらへんで、水を補給できる星はないかしら?」
 ウレシコワが、真っ直ぐにレイマ姫に声を掛けた。
「右舷の2パーセクにアクアリンドがあるわ……ただし、覚悟が必要よ」

 アクアリンドは、星の表面の90%が水という星であったが、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手を付けない理由があった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・24『視聴覚教室の掃除当番・2』

2019-10-15 06:23:38 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・24
『視聴覚教室の掃除当番・2』
         高師浜駅



 

 スカートが短いからや!

 こういう怒り方は理不尽やと思う。でも、あたしが地雷を踏んだからや。


 今日は、今学期二回目の視聴覚教室の掃除当番。
 で、今日は午後から使った授業も無くて、前回と違って冷蔵庫の中のように冷え切っておりました。
 で、こんな日に限って、視聴覚教室は汚れまくり。
「もー、なんで視聴覚教室にジュースのこぼれたあとがあるんよ!」 
 
 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ

 すみれがむくれながらモップをかけてる。
 ジュースだけやない、視聴覚教室の床は紙屑やら花吹雪のカスやらクラッカーのカスやら花びらやらでゴミ箱をぶちまけたみたいになってる。
「これは三年生やなあ」
 あたしは推論を述べる。
「え、なんで三年生なんですか?」
 姫乃が丁寧な言葉で聞いてくる。姫乃が怒ったら言葉遣いが丁寧になるのを発見したけど、今の事態には関係ないのでスルー。
「三年生て、もうほとんど授業終わりやんか。授業によっては、お別れパーティーみたいになってるのもあるらしいよ」
「そうなんですか、でも、一応は授業なんだから、宴会グッズやら飲食物の持ち込みはいかがなものなんでしょうね……」

 ボキ!

 姫乃のモップの柄が折れた。御立腹マックスの様子。
「ジュース汚れは、コツがあるんよ」
 すみれは、モップをボトボトに濡らして駆けつけた。
「そんなに濡らして大丈夫?」
「こうやってね、とりあえずは汚れをビチャビチャにしとく」
 なんや見てると、すみれも頭にきてるように見える。汚れを拭いてるんやなくて、やけくそで水浸しにしてるだけに見えるねんもん。
「ほんなら、端の方から堅絞りのモップで拭いていって!」
 視聴覚教室の最前列で、すみれが叫ぶ。
「こんなんで……」
「あ、嘘みたい!」
 姫乃の声のトーンが変わった。コテコテやったジュース汚れが一拭きできれいになっていくではないか!
「ジュースは水溶性やから、水でふやかしてからやると楽にやれるんよ」
「なんで、こんな賢いこと知ってるんよさ!」
「弓道部やってると、いろんなことが身に付くんよ」

 すみれのお蔭で、なんとか十五分ほどで掃除は終わった。
 
 で、事件はここから。

 掃除を終えて、三人で下足室に向かった。
 下足室へは五十メートルほどの直線の廊下。
 ここは、隣のクラスが掃除の担当で、まだ掃除の真っ最中。四人の生徒がモップがけをしている。
 やっぱり汚れがひどいようで悪戦苦闘してる。あたしらは、邪魔にならないように、そろりと歩く。

「「「キャー!」」」

 三人仲良く悲鳴を上げてひっくり返る。
 普通に歩いていた廊下が急にヌルヌルになって、スッテンコロリンになってしもた。
 悲劇はそれだけでは無かった。
「ウワーー!」
 すみれがバケツを蹴倒してしまい、あたしらが転んだところを中心に水浸しになってしまった。
「わーー、ごめんなさい!」
 掃除してた子らは謝ってくれたけど、あたしら三人はお尻を中心としてビッチャビチャ。
 普通やったら怒るんやけど、あたしらもジュース汚れで苦労してきたところなんで「ドンマイドンマイ」と引きつりながら下足室へ。

「ちょっと、これは風邪ひくでえ、クシュン!」

 校舎の中にいてもこの寒さ。濡れたままで帰ったら、確実に肺炎や。
「これは体操服にでも着替えて帰るしかないなあ」
「でも、それだと異装になるから怒られるんじゃない?」
 うちの学校、制服の着こなしには、あまりうるさいことは言わないけど、制服ではないものを着用していることにはうるさい。たとえ校門を無事に出ても、駅とかでは下校指導の先生がいたりする。あんな一般ピープルが大勢いてる中で怒られるのは願い下げや。
「事情言うて異装許可もらおか」
 
 で、三人揃って生活指導室へ向かった。

「スカートが短いからじゃ!」
 生活指導部長の真田先生に怒鳴られた。
 状況を的確に表現しよと思て「パンツまでビショビショなんです」と言うたことへのご返答。
 どうやら真田先生は、制服の乱れに思うところがあったようで、あたしは地雷を踏んでしもたみたいや。
「でも、ふざけたわけやなし、この子らも災難やったんですから……」
 居合わせた学年主任の畑中先生がとりなしてくれる。

「ジャージ一枚いうのは、スースーするなあ」

 とりあえず異装許可をもらって家路につく。
 ジャージ姿というのは目立つ上に寒い。いちおうマフラーやら手袋の装備は身に付けてるんやけど、この季節にはどうもね。
「ね、いっそランニングしよか」
 すみれが提案。
「ジャージ姿やねんから、元気に走った方が目立てへんで」
 さすがは弓道部、日ごろの部活から出たアイデアや。

 いち、いちに、そーれ!

 掛け声も勇ましく三人は走り出した。
 しかし、五百メートルほどは景気がええねんけど、運動部ではない姫乃とあたしはアゴが出てくる。
 へたりながら走ってると、これまた目立つ。
「ジャージにローファーいうのんもなあ……」
 足まで痛くなってきた。

 プップー

 横一列やったのが迷惑やったのか、後ろでクラクションを鳴らされた。
「「「すみなせーん」」」
 と、恭順の意を示すと「「「あ?」」」という声になった。

「お祖母ちゃん!?」

 なんと、見たこともないワンボックスカーの運転席でお祖母ちゃんがニコニコしてるやおまへんか!
「いやーー助かったわ!」
 いそいそと三人で三列シートに収まって安堵のため息。
「えと、そやけど、この車どないしたん?」
 いつもの軽ではないことの疑問をぶつける。

「アハハ、ちょっとワケありでなあ~」

 お祖母ちゃんは不敵に笑うのでありました……。

 
  
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小悪魔マユの魔法日記・64『AKR47・8』

2019-10-15 06:10:23 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・64
『AKR47・8』    


 
 クララは、ほとんどのところ分かっているようだった……。

 マユは、女子トイレで用を足した。むろんポチとしてである。
 マユの姿をした拓美が手伝ってくれるが、なんとも気恥ずかしい。便座から滑り落ちないように拓美が体を支えてくれる。悪魔というのは何からでもエネルギーを摂ることができる。人間のように食事もできるが、食べたものは百パーセントエネルギーに代わり、排泄ということをしない。しかしケルベロスは犬であるので、豆柴の姿になっても、食事もすれば排泄もする。
 羞恥と快感、マユは、思わずため息をついた。

「楽になりましたか……」

――いやはや、なんとも……。
「え……?」
 犬語なので、拓美にもクララにも通じない。
「犬に化けてるけど、マユさんなんでしょ?」
 そう言いながら、クララがウォシュレットのボタンを押した。
「キャイーン!」
 マユは、水圧で吹き飛ばされるところだったが、拓美が支えていてくれたので、なんとかこらえることができた。
――化け・てる・んじゃな・くて犬のか・らだ・を・借りて・るだ・け……。
 思念で、これだけのことを分からせるのに、一分もかかってしまう。
 仕方がないので、ケルベロスの魔力で人間の姿に化けた……。
「わ……!」
 狭いトイレの個室で、豆柴が、いきなり人間の姿になったので、個室はギュ-ギュー……おまけに、その姿はスッポッンポン。マユは慌ててトイレットペーパーで最低限のところを隠した。
「天使の雅部利恵ってのが、なんか企んで、AKRに対抗しようとしてるの、だから緊急事態。それで、魔界の犬の体を使って、ここに来たわけ。で、犬の姿じゃ、意思の疎通もムツカシイから、犬の魔力で、人間に化けてるの。でも犬の悲しさ、化けても服までは手が回らない。で、お願いなんだけど」
「あ、服ですか!?」
「ううん。便器の中のモノ流してくれる。ここからじゃ、レバーに手が届かなくって……」
 クララがレバーを押して水を流した。
「でも、裸でいいんですか」
「いいの、またすぐにポチに戻るから。利恵は、ルリ子って子たちの欲望を、純真な向上心と思いこんで、このAKRに対抗してきてるの。下手をすると、このAKRが潰されてしまう。その動きはここのスタッフも掴んでいるわ。この世界ってクサイ臭いで満ちてるから……」
 拓美が、思わず鼻をクンクンさせる。
「ばか、その臭いじゃないわよ!」

 その五分後、マユはポチの姿にもどり、トイレの通気口からダクトに入り、黒羽ディレクターたち幹部のいる部屋を目指した。ここのスタッフたちが、どれだけオモクロの情報を掴み、対策をもっているか知るためである。

 拓美とクララは、衣装部屋に行き、マユがポチから人間の姿に戻ったとき、困らないように服を探しに行った。
「どれも、ステージ衣装だから派手ね……」
 拓美がため息をついた。
「これがいいよ!」
 クララが一着の衣装を取りだした。それはAKRのデビュー曲『最初の制服』に使った衣装で、ほとんど、女子高生の制服と変わりがなかった。
 二人は、それをトイレの通風口下の用具入れの上に目立たぬように置いた。
「でも、クララ」
「なに?」
「マユさん、人間に化けたとき、クララに似てなかった。なんとなくだけど」
「わたしは、なんとなく、あんたに似てるような気がした」

 ポチの悲しさ……人間に化けるときは、見本がいる。つまり、その時見えた人間の姿を真似てしまうのだ。だから、マユの姿をした拓美と大石クララを足して二で割ったような姿になったわけである……。


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