大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・088『M資金・20 ハートの女王・1』

2019-10-19 12:19:50 | 小説

魔法少女マヂカ・088  

『M資金・20 ハートの女王・1』語り手:ブリンダ 

 

 

 迫りくるビーフイーターどもから全速力で逃げる。

 

 バッキンガム宮殿の衛兵に比べると、ビーフイーターどもはメタボのオッサンが多い。中にはシルバー人材センターから派遣されてきたようなロートルも混ざっている。

 これは逃げきれるぞ!

 実際、追いかけてくるビーフイーターどもの槍先は息をつくように乱れ始めている。

 わたしに任せてえええええええ!

 黄色い声がしたかと思うと、オッサンではないビーフイーターが抜きんでて距離を詰め始めた。

「「お、女のビーフイーター!?」」

 そう、ガタイは厳ついが、Fサイズはあろうかというホルスタイン顔負けの巨乳を揺らせ、槍を投げたら届くくらいに迫ってきた。

『あいつ、史上初の女性ビーフイーターのキャロラインよ! 軍隊で二十年も務めあげて、善行章バリバリのネーチャンだから、ダッシュダッシュ! 負けるな牛女!』

 鏡の国のアリスが気楽に叫ぶ。

「あ、あんたらは高機動車に乗ってるんだからラクチンなんだろーけど、あたしは生身なのよ! さっきのレースで体力使い切ってるしい! そーだ、あたしも乗せてくれよ! 幌を畳んだら乗らないこともないだろ!」

「だめだ! 高機動車とは言えT型フォードだぞ、そんな500キロもある牛女を載せられるかあ!」

「そんなこと言わないでええ!」

「あ、よせ!」

 牛女は四つ足の他に両手がある。四つ足で駆けながら両手でボディーの後ろにしがみ付く。

 500キロの荷重で、グッと車体が沈み込んで速度が落ちる。

『仕方のない牛女ね! これをお飲みなさい!』

 ミラーの中から鏡の国のアリスが投げたのは、小さな薬瓶だ。

「飲んだら、小さくなれるやつだ!」

 命が掛かると、たいていのことはやれるもので、マヂカは受け取ると器用に片手でキャップを外して一気飲みした。

『バカ、全部飲んだら……』

 不思議の国のアリスほどではないが、チワワほどに縮んで後部座席に飛び込んできた。

「お、おい、こんなところに入るなあ!(#´0`#)!」

 勢いか企んだのか、マヂカはオレの胸の中に飛び込んできた。

「緊急避難よ辛抱しなさい!」

 マヂカが、なんとか収まると、さすがに高機動車、ビーフイーターどもの手が届かないところまで逃げおおせた。

 

―― ニャハハ、なんとか逃げられたのニャー! 賞金なのニャー! ――

 前方に¥100000000の表示が現れた。

―― おまけに、これも付けとくニャー! ――

 ¥100000000の表示の下に赤黒ドレスのハートの女王が現れた。

 ヒッチハイクのように右手の親指を立て、左手でドレスの裾を摘まみ上げて太ももまで露わにして挑発的な微笑みを湛えている。

 キーーーーーーーー!!

 そのおぞましさに、高機動車は急ブレーキをかけて急停車してしまったのだった!

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真夏ダイアリー・44『朝の実況中継』

2019-10-19 06:58:22 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・44
の実況中継』        




 新聞の三面にさっそく出た。

――連理の桜発見――

 学校の許可を得て、AKRのスタッフの面々が、その日のうちにやってきて取材。とりあえず撮ったビデオを、新曲『二本の桜』をBGにして動画サイトに流し、アクセスは一晩で二万件を超えた。
 で、明くる日の新聞の三面に載ったわけ、朝のワイドショ-が、あくる朝には取材。わたしたち五人組は発見者として、朝の六時から中継に付き合わされた。

「いやあ、ぼくの勘が当たったなあ」

 AKRの会長の光ミツル先生も、校長先生と共におでましになった。三連休には、ここで新曲のロケをやることをにこやかに同意の握手。

「真夏っちゃん、あなたも発見者の一人だったの?」
 スタジオの、ものもんたのおじさんが聞いてきた。
「はい、ボールが偶然にここに落ちてきて、これが連理の桜だって分かったんです」
 そのあとを受けて、女性レポーターが、わたしの横で話を続けた。
「ええ、じつは。人気アイドルグループの鈴木真夏(わたし、芸名じゃ、冬野じゃなくて鈴木を使ってる)さんが、会長の光ミツルさんからの指示をうけて、校庭を探して発見したんです。来月発売の『二本の桜』のプロモーションビデオの撮影のため、この乃木坂高校の古い新聞記事から発見されて、真夏さんたちに頼んで探したんだそうです」
「その新曲は、乃木高の桜を、最初からイメージしてつくられたんですか?」
 もんたのおじさんが、会長にふった。
「それは、わたしみたいなオヤジよりも若い子に喋らせます。真夏、説明」
 ムチャブリされて、一瞬オタオタしたけど、ありのまま答えた。
「本当のモチーフは、光先生の個人的な体験にあるそうなんですけど、それはなんだか、まだ内緒みたいなんです。でも、曲の中に繰り返し『ニホンの桜』ってフレーズが出てくるんですけど、どうも二本と日本を掛けた言葉らしくって、ささやかな恋人同士の応援歌にも、日本全体への応援歌にも聞こえるってものなんです。わたしたちも歌っていて、とても元気が出てきます。どうか、新曲リリースされたら、よろしくお願いしま~す」
「真夏っちゃん、デビューして、まだ一カ月ほどなのに、ベシャリうまくなったね。明日から、うちの番組の担当やってよ」
「ほんとですか、本気にしちゃいますよ!」
「「アハハハ……」」
 光会長と、ものもんたのおじさんの高笑いで、中継は終わった。

 始業時間までには間があるので、学校のパンフ用の写真撮りをやることになった。

 光会長は、ダンドリのいい人で、照明機材やら、セット用の桜の木まで用意してくれていた。
 わたしだけの写真を十数枚撮ったあとは、五人組で、いつもの五人野球を始めた。そこを、事務所のカメラマンが、二人がかりで撮っていく。
 省吾も玉男も、由香、うららもうきうきしながら、白球を追った。テレビの中継を見ていた乃木高の生徒達が続々と集まり始めた。
「よーし、みんなで撮ろう!」
 光会長の一言で、百人ほどになった生徒達で集合写真。
 それを何枚か撮っているうちに他の生徒もやってきて、八時過ぎには五百人ほどになり、カメラマンは、急遽屋上に上がり、グラウンドいっぱいになった生徒達を撮りにかかった。
「いつも、これくらいの時間に登校してくれりゃいいんだけどなあ」
 生活指導の先生が、腕を組んで文句を言う。

 さすがはプロで、始業十分前には撤収完了。授業に差し障るようなことはしなかった。

 夕方事務所に行くと、スタッフのみんなが三連休中のプロモ撮影のダンドリを決めていた。
「もう、ユーチューブとニコ動には流してあるよ」
 気づくと、集まったメンバーがモニターを見ていた。写真だけじゃなくてビデオも撮っていたらしい。
「お、真夏。フルスゥイングだね!」
 と、クララさん。
「あ、真夏。パンチラになってるよ!」
「え、ウソ!?」
 ヤエさんが、わざわざ、その瞬間で画面をストップさせた。
「や、やめてくださいよ!」
「かわいいね、花柄じゃん」
 知井子がはしゃぐ。
「どいたどいた……コンマ二秒。カットだな。心配すんな、カットして流し直すから」
「もう……パソコンとかでコピーされてたらどうすんですか!」
「出たものは、仕方ないなあ」
 トホホ……。
 そう思っていたら、会長の声がした。

「撮影のときは、仁和さんにも来てもらえるように」

 え、仁和さんて……?

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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・9『もの動かす時は声かける!』

2019-10-19 06:49:38 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・9   
『もの動かす時は声かける!』 

 
 
 
 結局、「日付、時間、芝居のタイトル、フェリペの場所」だけをメールで、ヤツに打った。

 ドーン! と、晴れ渡った秋空に花火は上がらなかったけど、城中地区の予選が始まった。

 全てが順調だった、その時までは……。
 私たちの乃木坂学院は、偶然だけど抽選で出番は二日目の大ラスになっていた。部長の峯岸先輩は、初日から全ての芝居を観ていた。峯岸先輩は三年生がみんな引退した中ただ一人、現場に残ってくれた。特別推薦で進学が確定していたからでもあるけど、次期部長に決まっている舞台監督の山埼先輩に、部長としての有りようを示すためだと、わたしは思っている。
 前日の朝、乃木坂の講堂で最後のリハをやった。
 午後は実行委員の仕事として割り当てられていた舞台係(搬入、搬出、仕込み、バラシの手伝い)と、受付をやった。潤香先輩は、カワユク受付……と、思いきや、がち袋を腰に、ペットボトルを太ももにガムテープで留め(バラシのときに出る釘や、木っ端なんか、要するに舞台上に残った危ない小物を拾うため)長い髪をヒッツメにして働いていた。初日最後のK高校のバラシの最中、K高校のスタッフが声をかけないで、三六(サブロク)の平台を片づけようとして、二人で担架のように担いでいた。落ちた木っ端を拾っていた先輩がちょうど立ち上がり、その平台の横面に頭をしたたかに打ちつけた。

「アイテー! だめでしょ、もの動かす時は声かける!」

「すみません」
 先輩は、インカムを外して、痛む頭をなでてみた。
「でかいタンコブができちゃった……気をつけてよね!」
 他校の生徒でも、エラーには手厳しい。K高校のスタッフは、二人揃って頭を下げ、そのあと上目づかいにこう聞いた。
「すみません……あのう、乃木坂の芹沢……潤香さんですか?」
「え、ええ、そうだけど……」
「ウ、ウワー! ホンモノだ!」
 ポニーテールが叫んだ。
「わたしたち、去年の『レジスト』観て感動したんです!」
 カチューシャも叫んだ。
「あ、それは、ドモ……」
 潤香先輩は戸惑った。
 K高の二人のテンションは高く、ミニ握手会。で、写メを撮って、メルアドの交換までやった……ところで、マリ先生の声が飛んできた。
「そこ、なに遊んでんの!?」

 そのときは、それで済んだ……。

 二日目は、本番二時間前に楽屋になっている教室に集合することになっていた。
 
 たいていの部員は朝からやってきて、他の学校の芝居を「客席を少しでもにぎやかに(実際、力のない学校は、自分の部員の数ほども観客動員ができない)するため」ということで睥睨(へいげい=偉そうに見下す)するように観劇していた。さすがに峯岸先輩は、冷静に化学実験を見るように、時々ペンライトで、ノートにメモをとっていた。昼の部が始まる前にはみんな会場や楽屋に集まっていた。
「潤香が、まだ来てません」
 山埼先輩がマリ先生にそっと耳打ちした。
「潤香が……?」
「サリゲにメールしてみます」
 山埼先輩の応えに、先生は軽くうなずいた。

 昼一番の芝居が終わると、部員全員、楽屋に招集された。予定よりも二時間も早い。
 楽屋にいくと、マリ先生が腕組みをして背中を向け、窓から見える四角い空を見上げている。峯岸先輩と、山埼先輩が付き従うように立っている。
「先生、なにが……」
「全員が揃ってから……」
 山埼先輩がつぶやいた。
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宇宙戦艦三笠・35[虚無宇宙域 ダル・1]

2019-10-19 06:40:46 | 小説6
宇宙戦艦三笠・35
[虚無宇宙域 ダル・1] 


 
 アクアリンドのクリスタルは、クレアが送った情報を元に三笠がレプリカをつくって交換した。

「組成や形態がいっしょだから、80年たたなければ、偽物とは気づかないわ」
 クレアも、レプリカを作ったトシも自信満々だった。
 本物は、三笠の二つある機関の真ん中に置かれた。仮にも一つの星の運命を握っていたクリスタルである、いまは眠っているような状態だが、数百年の記憶を取り戻し稼動し始めた時に巨大なエネルギーを放出する恐れがあった。三笠の中央に置かなければ、いざと言う時に、船のバランスを崩すおそれがあるという僧官長の意見に従ったものである。
「微弱だけど、クリスタルから波動が出るようになった。なにか感じているみたいです」
 トシが報告した。
「さすが世界一の殊勲艦。与える影響も違うのね」
 ウレシコワが、感心して言った。神棚でみかさんが小さくクシャミをしたようだ。
「で、なにか三笠の役に立ちそうなエネルギーとかは出てないの?」
「居候なんだから、なんかの役にたってもらわないとね」
 美奈穂と樟葉は、夢が無いというか現実的だった。

「樟葉、これからの航路は?」

 修一が、艦長らしく航海長としての樟葉に聞いた。樟葉も航海長の顔に戻って答える。
「5パーセク先が分岐になりそう。直進すれば、ダル宇宙域に突入する」
「避けるのか?」
 樟葉のニュアンスから、修一は先回りをして聞いた。
「ダル宇宙域の外周は、グリンヘルドと、シュトルハーヘンの艦隊が百万単位で待ち伏せている。切り抜けられないことはないけど、三笠も無事ではすまないわ」
「四十万の飽和攻撃で、シールドが耐えられなかったからな……」

 修一は、ダル宇宙域を突破するしかないという顔になってきた。

「艦長、待ってください。ダル宇宙域は、恒星が二個ありますが、恒星も惑星も公転していません。とてつもない負のエネルギーが満ちているような気がするんです」
「アナライズの結果かい?」
「エネルギーそのものは感じないけど、全ての星が動いていないということは、動いていない理由があるはずです。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、哨戒艦すらここには出していません。状況から考えて何かがあります」
「しかし、ここを避けたら、敵の待ち伏せのど真ん中に突っ込んでしまう。確実な脅威に飛び込むよりは、未知の可能性に賭けてみたい。みんなはどうだろ?」

 みんな言葉は無かったが、修一の判断に任せるという顔をしている。

「しかたがない。みかさんに聞いてみよう」
 神棚にいくと、みかさんはセーラー服でニコニコ待っていた。
「その顔は、みかさん、いい答えを持ってるんだね!?」
「ううん、みんなが前向きの気持ちだから嬉しいの。わたしがここにいるというのは、三笠に差し迫った危機がないということだから、みんなが話し合った結果でいいんじゃないかしら」
「気楽だなあ。それで今まで、どれだけの危機に出会ったか」
「でも、結果として三笠は無事でしょ?」

「よし、ワープで一気に抜けるぞ。ダル宇宙域は1・5パーセクしかない。最大ワープで抜けるぞ!」
「20パーセクですね」
 トシは、機関室へ向かおうとした。
「いや、100パーセクだ」
「そんな……二三日動けなくなってしまいますよ。その間に攻撃されたら、反撃もバリアーも張ることができなくなる!」
「勘だよ。それだけワープして、やっとダル宇宙域を突破できるぐらいだと思っている」
「でも」
「やってみなければ前には進めん……だろ」

 三笠は能力の五倍を超えるワープの準備に入った……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・28『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』

2019-10-19 06:30:10 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・28
『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』    高師浜駅


 
 ニコニコ運動が本来の目的を果たすことは無かった。

 姫乃は、挨拶されたり話しかけられたりすると分け隔てなく相手をする。
 相手はするけども、そこから先には進まない。
 姫乃にバリアーがあるわけやない。

「お、おはよう、阿田波さん」
「おはよう、〇〇君」
「え、えと、ええ天気やねえ」
「うん、今日の雪を『いい天気』と言える感性は素敵だと思うわ」
「え、あ、あ雪?」
 うろたえた男子は、あとが続かへん。

「おはよう姫乃さん!」
「うわー、男子から名前で挨拶されるの初めてよ!」
「お、おー、そうやったんか!」
「もう一回言ってもらえる」
 姫乃はサービスのつもりで、一歩前に出て、真っ直ぐ男子に向き合う。
「あ、えと……阿田波……姫乃さん……」
 まともに目の合った男子は、真っ赤な顔になるって、これも続かへん。

 二日目になると、挨拶する男子は半分に。三日目になると、いつものように目ぇそらして敬遠しよる。
 なんとも根性無しばっかし。

 そやけど、副産物があった。

 建て前は、クラス全員に向けての挨拶運動なんで、男子は、他の女子にもお義理で声を掛ける。
 声を掛けられた女子は、当たり前やけど、キチンと挨拶を返す。
 姫乃を相手の時とちがって、十回に一回くらいは会話が成立する。
 その会話が元になって、なんとカップルになりかけが三組もできた!

 念のため、あたしとすみれは外れてますねんけども……。

「ま、これでいいんでしょうね」
 姫乃は、なにやら悟った顔でニコニコしてる。

 四日目の今日も朝からの雪。

 古文の授業、カサカサと先生が黒板に字を書く音だけがしてる。
 窓は半分がた曇って、降りしきる雪だけが視界に入る。
「なんか、自分が空に昇っていくみたいやなあ~」
 視界一杯の雪、それが音もなく降り注いでくるので、そんな錯覚に陥る。
 大阪の雪は珍しいせいか、とってもふんわかした気分になる。
「ねえ、姫乃」
 一つ横の姫乃に声を掛ける。
 授業中になにしてんねんやろいう気持ちはあるねんけど、姫乃と、このふんわかを共有したくなった。
「そうね……ちょうどいい高さになってきたかな」
「高さ?」
 思わず窓から下を見た。
「あ、あれ?」
 いくら雪だと言っても、教室は、ただの四階。眼下ににはお気に入りの中庭が見えるはず……なんだけど。
 雪は、はるか下に向かって降って行くばかりで中庭はおろか、地上の気配がなにもない。

 え…………………………?

 不思議な気持ちいっぱいで横を向く。
 あたしの横には空いた席があるだけで、だれも座っていない。
 
 え、姫乃……ひめ……ひ……誰が座ってたんやろ?

 なにぼんやりしてんのん?

 もう一つ向こうのすみれが口の形だけで言う。

「畑中さん、34ページ読んで」
 先生に指名されて、おたおたと教科書を開く。

 高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……。


 音に聞く高師浜のあだ波は・第一期 おしまい
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小悪魔マユの魔法日記・68『AKR47・12』

2019-10-19 06:23:04 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・68
『AKR47・12』    



 
 マユは、オモクロの研究生募集のパンフを見せた……。

「マユ、オモクロの研究生になるの?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずよ」
「……でも、このパンフ、応募用紙がないよ」
「さっき、郵送してきたとこ。書類審査は軽いもんよ。なんたって、クララと、拓美ってか、わたしの姿の合成だからね」
「手回しいい」
 拓美が感心した。
「とにかく、オチコボレ天使の余計なお節介は、なんとかしなくっちゃね」
「だよね」
 クララと拓美がうなずいたところに、黒羽ディレクターが入ってきた。

「すまない。オレ、これからちょっと外さなくっちゃならなくなった。今夜のレッスンには付き合えないけど、みんな励んでくれよ。明日は、その成果しっかり見せてもらうからな。パフォーマンスはカレーじゃないから、一晩寝かせて上手くなるってもんじゃない。今のモチベーションを『コスモストルネード』の発表まで、持ち続けていること。選抜も研究生のアンダーもね!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
 百人近いメンバーと研究生が返事をした。そのモチベーションの高さは目の前で花火が爆発したようで、マユはビクッとして、飛び上がりそうになった。
 しかし、その中で、ただ一人、ブラックホールのように落ち込んでいる人間がいる。

 それは、いま檄を飛ばした黒羽ディレクターその人自身。

――オヤジが死ぬ。よくもって一週間……。
 
 黒羽ディレクターの思念が飛び込んできた。表面は、とても明るそうに振る舞っているが、心の中は悲しみと混乱でいっぱいだった。どうやら、さっき事務所に電話があったようだ。

――どうして、携帯切りっぱなし……よくもって一週間……そうよ……はい?……看護師さんが呼んでる……父が……お父さんのメモ……読むよ「英二、いい歳して嫁さんもなし。仕事一途もいいけど、体には気を付けろ。見舞いなんぞこなくていいからな。通夜も葬式にも来なくてもいい。気の済むまで仕事に打ち込め。父」……お兄ちゃんの勝手! バカ、その勝手じゃなくて、勝手にしろの勝手よ。だいたいお兄ちゃん……。

 どうやら妹さんからのようだ。

 お父さんとは13~15章に出てきたおじいさんのことだ。どうやら、思いあまって「今から行く!」と返事をした……え……「彼女だっている」……ハッタリかましたんだ。
「じゃ、みんなガンバローぜ! イェイ!」
 元気にカマした。
 イェイ!!
 何も知らないメンバーと研究生は、黒羽のエールを倍にして返した。

 リハーサル室を出た黒羽は、電源を切ったスマホの画面のように暗かった。しかし、黒羽の心をスマホに例えるなら、使い込んだそれのように、整理されていない仕事や思い出の情報に混乱していた。

 マユは、ポチの姿にもどって黒羽の後をつけた。
 
 地下の駐車場で黒羽が車のドアを開けたとき、魔法でカラーコーンを倒して注意をそらし、その隙に後部座席に乗り込んだ。
 運転中も、黒羽の心は混乱したままだったが、新曲のキャンペーンのアイデアは整理にかかっていた。そして、こんな状況でも仕事のことを考えている自分に自己嫌悪が襲ってくる。黒羽は、何度もため息をついたり、意味もなく、ハンドルを叩いたりした。
 マユは、こんなに苦悩している人間を初めて見た。小なりといえど悪魔、この黒羽の苦悩を頼もしく思った。人間とは苦悩や錯誤のあとに道を切り開いていくものなのだ。天使のように安直な救済はしない。
 いまは、雅部利恵の安直なクワダテを阻止することがマユの使命だ。そのためには、黒羽にダウンしてもらっては困るのだ。

 やがて、フロントグラスにA病院の建物が揺れながら現れた……。


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