魔法少女マヂカ・088
迫りくるビーフイーターどもから全速力で逃げる。
バッキンガム宮殿の衛兵に比べると、ビーフイーターどもはメタボのオッサンが多い。中にはシルバー人材センターから派遣されてきたようなロートルも混ざっている。
これは逃げきれるぞ!
実際、追いかけてくるビーフイーターどもの槍先は息をつくように乱れ始めている。
わたしに任せてえええええええ!
黄色い声がしたかと思うと、オッサンではないビーフイーターが抜きんでて距離を詰め始めた。
「「お、女のビーフイーター!?」」
そう、ガタイは厳ついが、Fサイズはあろうかというホルスタイン顔負けの巨乳を揺らせ、槍を投げたら届くくらいに迫ってきた。
『あいつ、史上初の女性ビーフイーターのキャロラインよ! 軍隊で二十年も務めあげて、善行章バリバリのネーチャンだから、ダッシュダッシュ! 負けるな牛女!』
鏡の国のアリスが気楽に叫ぶ。
「あ、あんたらは高機動車に乗ってるんだからラクチンなんだろーけど、あたしは生身なのよ! さっきのレースで体力使い切ってるしい! そーだ、あたしも乗せてくれよ! 幌を畳んだら乗らないこともないだろ!」
「だめだ! 高機動車とは言えT型フォードだぞ、そんな500キロもある牛女を載せられるかあ!」
「そんなこと言わないでええ!」
「あ、よせ!」
牛女は四つ足の他に両手がある。四つ足で駆けながら両手でボディーの後ろにしがみ付く。
500キロの荷重で、グッと車体が沈み込んで速度が落ちる。
『仕方のない牛女ね! これをお飲みなさい!』
ミラーの中から鏡の国のアリスが投げたのは、小さな薬瓶だ。
「飲んだら、小さくなれるやつだ!」
命が掛かると、たいていのことはやれるもので、マヂカは受け取ると器用に片手でキャップを外して一気飲みした。
『バカ、全部飲んだら……』
不思議の国のアリスほどではないが、チワワほどに縮んで後部座席に飛び込んできた。
「お、おい、こんなところに入るなあ!(#´0`#)!」
勢いか企んだのか、マヂカはオレの胸の中に飛び込んできた。
「緊急避難よ辛抱しなさい!」
マヂカが、なんとか収まると、さすがに高機動車、ビーフイーターどもの手が届かないところまで逃げおおせた。
―― ニャハハ、なんとか逃げられたのニャー! 賞金なのニャー! ――
前方に¥100000000の表示が現れた。
―― おまけに、これも付けとくニャー! ――
¥100000000の表示の下に赤黒ドレスのハートの女王が現れた。
ヒッチハイクのように右手の親指を立て、左手でドレスの裾を摘まみ上げて太ももまで露わにして挑発的な微笑みを湛えている。
キーーーーーーーー!!
そのおぞましさに、高機動車は急ブレーキをかけて急停車してしまったのだった!