大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・087『M資金・19 逃げろ!』

2019-10-17 14:26:17 | 小説

魔法少女マヂカ・087  

『M資金・19 逃げろ!』語り手:ブリンダ 

 

 

 

 マヂカ……その姿!?

 

 え……あ……わたしは……え?……ええ!?

 マヂカは自分の腰から下に目をやるが、いきなりの事であるからなのか、現実が呑み込めない様子で牛の尻(自分の尻だとは理解できていない)を確かめるようにグルグル回っている。

「しっかりしろ、マヂカ!」

「痛い! 何をする!?」

「叩いたのは、牛の尻だぞ」

「え? しかし……な、なんだこれはああああああ!?」

 やっと事態を呑み込んだマヂカは、牛と融合した下半身を振り捨てるように跳ねまわるが、地面が地震のように鳴動するだけだ。

「落ち着け、ホコリが立つ!」

「す、すまない……しかし、馬人間のケンタウロスというのはあるが、牛人間というのは聞いたことが無いぞ」

―― ミノタウロスがいるニャー! ――

「ミノタウロスは、頭が牛で、首から下が人間だろうが!」

―― え、そうニャのか? だったら…… ――

「考えなくっていい、それよりも、なんとかしてやれ。こんなのはフェアな戦いではないぞ!」

―― おもしろければ、フェアなんて関係ないのニャー! ――

「笑いネコめえ!」

 マヂカは怒りに任せて飛び上がろうとするが、軽く見積もっても五百キロはあるだろう牛体は三十センチほどしかジャンプできていない。

「くそ!」

―― そうニャ、件(くだん)があるのニャ! おまえは件なのニャ! ――

「件だってえ!?」

「なんだ、クダンとは?」

―― 件は人偏に牛と書くニャア ――

「人……牛……」

―― そうなのニャ、頭が人で、体が牛なのニャ、そのとおりなのニャア! ――

「そうなのか?」

「ああ、日本の妖怪だ。しかし、件は生まれて間もなく死ぬものなんだ、こんないい女にまで成長することはありえない」

―― カオスだから、いいのニャア! おまえのことは件の女王と呼んでやるニャア! ニャハハハハハ ―― 

「笑うなあ!!」

 怒りに任せてジャンプ、こんどは二メートルほどに跳んで着地。太もものあたりがプルプル揺れる……。

「ブリンダ、わたしの太ももを見て、美味しそうと思っただろ?」

「い、いや、そんなことは……」

―― モモ肉は赤身が多くて、肉本来の美味しさが凝縮しているのニャ、ジュルリ ――

 

 ザック ザック ザック ザック………

 

「なんだ?」

 斜め前方から歩調を揃えてやってくる一団がある……そろいの赤い服の襟元は白のフランシスコザビエルみたいなプリーツ襟で、黒いカンカン帽のようなのを被り、揃いの槍を担いでいる。

 どこかで見たことがある。 「ビーフイーター...」の画像検索結果

 

「あれって、ロンドンの塔警備兵の制服だよな」

―― あいつらの役職名とか知ってるかニャア? ――

「ドライジンのラベルにあった……」

―― ティユーダー朝のころから変わってない制服もゆかしい、その名は…… ――

「まて、ここまで出ている……」

―― ニャア? ――

「ビーフイーターだ!」

「それって?」

「ビーフイーター……牛喰い男!?」

―― そうなのニャア! ――

「逃げろオオオオオオオオオ!!」

 

 全速力で逃げ出した!

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真夏ダイアリー・42『グラサン越しの頬笑み』

2019-10-17 07:17:20 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・42
『グラサン越しの頬笑み』    



 わが都立乃木坂高校は、その前身は東京府立乃木坂高等女学校で、それなりに伝統はあるんだ。
 だけど、なんせ地下鉄の駅を挟んで、私立乃木坂学院高校がある。世間で「乃木坂」と言えば、乃木坂学院のことであり。うちの学校は、乃木坂さえ取れて「坂下」と世間では言われている。

 まあ、生徒のわたし達からみてもパッとしない学校で、中坊相手の学校説明もおざなりで、見学会も二百人ちょっとしか見に来ない。
 方や、乃木坂学院は見学者の桁も違い、見学会は二日に分けて行われ、その数は二千は下らないといわれている。
 それに、なんたって制服がカッコイイ! かつての東京女子校制服図鑑には常連だった。それに学食が美味しいことは、去年文芸部の見学に行ったとき、あらためて実感。

 で、中学校長会が発表した入学志願者の中間結果で、わが乃木坂は定員を割っていた。

 そこで、慌てた先生たちが、受験生獲得のため、学校のホームページとパンフを一新することになり、わたしに白羽の矢が当たったわけ。
 別に、特段成績がいいわけでも、美人だというわけでもない。

 わたしが、まだ一カ月とは言え、アイドルのハシクレだから……。

 改めて解説すると、わたしの異母姉妹が、AKR47の小野寺潤というアイドルで、潤が、去年の秋に選抜メンバーに入った。潤はフェミニンボブのショ-トヘア。わたしは、ごく普通のセミロング……だったのを、ハナミズキって美容院の大谷さんが、いたずら心で、わたしを潤と同じフェミニンボブのショ-トヘアにしてしまった。
 で、たまたま渋谷のジュンプ堂に行ったとき、潤がサイン会やっていて、マネージャーの吉岡さんに間違われた。で、いろいろあって、わたしもAKRのメンバーになってしまった。それから、わたしには不思議なことが次々と起こった。どんなことかって? それは、わたしの『真夏ダイアリー』のバックナンバー読んでください。

「事務所と相談してみます」

 山本先生には、そう答えておいた。
 無理っぽい感じがした。都立高校のパンフレットに、その学校の生徒だとは言え、アイドルのハシクレであるわたしが出ることは。
「うーん……むつかしいだろうなあ」
 担当の吉岡さんが、まず言った。
「学校の集合写真とかだったら、真夏も生徒だから、なんの問題もないんだけどねえ」
 振り付けの春まゆみさんも腕を組んだ。
「真夏が、乃木坂の生徒じゃなきゃ、企画も組めるけどなあ……」
 チーフの黒羽さんも頭を掻いて、向こうに行った。

「やっぱ、ダメですね」

 わたしは、スマホを出した。で、びっくりした。
 山本先生にメールを打とうとしたら、いきなりマナーモードの振動がした!
「はい、真夏です!」
 着信の表示は、光会長だった。
「……はい、すぐに伺います」
 会長の呼び出し。すぐに、わたしは会長室に向かった。

「真夏、その話受けるぞ」
「え……いいんですか!?」
「そのかわり、交換条件がある……」

 グラサン越しにも、会長の目が笑っているのが分かった。

 わたしは、唾を飲み込んだ。会長がグラサン越しに笑うときは、とんでもないことを言い出す前兆であることを吉岡さんから聞いていたから……。

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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・7『携帯を手に悶々』

2019-10-17 07:09:02 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・7   

『携帯を手に悶々』

 
 
 わたしは寝床で携帯を手に悶々(もんもん)としている。

 悶々って「もだえ苦しむ」って意味だけど、もだえてはいなっかった。じっと仰向けになってスマホとにらめっこ。でも心はもだえていた……でもって、ラノベくらいしか読まないわたしのボキャブラリーでは、この表現が精一杯。

 なにを悶々としていたかというと、「観客動員」なんだ。

 コンクールの観客って、手の空いた出場校や、出演者の友達、家族程度。まちがってもコンビニでチケ買ったり、ネットで予約してくるお客さんなんかいないのよ。
 だいたい、入場料そのものとらないんだもん。とったら、それこそ誰も来なくなる。甲子園の「高校野球大会」はアルプス自由席でも五百円の入場料をとっている。高校生のお芝居だって、三百円くらいはとってもいいんじゃないかと、乃木坂で演劇部やってると思うんだけど(それだけ、プライドと自信はある)
 でも、他の学校は、ひどいのになると学芸会。とても、お金とって他人様にお見せはできません。
 それと、入場料とると、既成脚本の場合、上演料が一万円を超えちゃう。
 なによりも入場料とっちゃうと、劇中で使う音楽や効果音の使用に著作権というヤヤコシイ問題がおこってくる。無料であるからこそJASURACも「曲や歌詞に改変を加えない限り、使用許可も、使用料もいらない」ってことになっている。
 じゃあ、乃木坂の看板で観客……せいぜい百人くらいしか集まらない。
 フェリペのキャパは四百。ちょっとキビシイ。
 で、マリ先生のご命令で、一ヶ月も前から各自観客動員に力を入れている。
 わたしも主だった友達なんかにはメールを送りまくった。

 でも、リハの夜になってもメールを送りかねているヤツが一人……。

 わたしのモトカレ、大久保忠友……。
 アイツとは、去年の秋、あらかわ遊園でデートして以来会っていない……。

 受験をひかえた去年の秋、久々に「デートしようぜ」ってことになり、互いにガキンチョのころからお馴染みのあらかわ遊園。

 都電「荒川区役所前」から、九つ目があらかわ遊園前。お互い小学校の遠足で来て以来。ガキンチョに戻ったようにはしゃいでいた。都電の中でも、遊園地の中でも。
 互いに意識していたんだ、このデートが特別なものになる予感……それが嬉しくって、怖くって、はしゃいでいた。

 彼とは、中二のときに同じクラスになり、いっしょに学級委員をやったのが縁。

 二人ともお祭り騒ぎが大好きだったんで、クラスのイベントは二人で企画して意気投合。意識したのは、文化祭の取り組みで一等賞をとったとき。実行副委員長をやっていたはるかちゃんが表彰状を読み上げてくれた。実行委員長の山本って先輩が、閉会式の直前に足をくじき、保健室にいっていたので、はるかちゃんが代読。
「……よって、これを表します。南千住中学文化祭実行委員長 山本純一。代読五代はるか。おめでとう……」
 幼なじみの顔になって、はるかちゃんが表彰状を渡そうとしたとき、突然いたずらな風が吹いてきて、表彰状が朝礼台の前で舞い上がった。
「あ、ああ……」
 慌てた大久保くんとわたしは、表彰状を追いかけてキャッチ……そして、お互いもキャッチ……つまりね(思い出しても顔が赤くなる) 偶然ハグ……ってか、モロ抱き合っちゃいました。それも、なんという運命のいたずら。互いのクチビルが重なってしまった!
 わたしにとって……多分アイツにとっても、ファーストキスは何百人という生徒と先生たちの公衆の面前で行われたんだよね((n*´ω`*n))
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宇宙戦艦三笠・33[水の惑星アクアリンド・3]

2019-10-17 07:03:32 | 小説6
宇宙戦艦三笠・33
[水の惑星アクアリンド・3] 


 
 
 あくる日は、視察と親善訪問でいっぱいのスケジュ-ルだった。

 アクアリンドのIT産業や、生命科学研究所、老人介護施設、交通システム管理センター、陸海空軍の閲兵、そして、たまたま日が重なったアクアリンド高校生の三年に一度の総合文化祭舞台部門の観覧と目白押しだった。

――やっぱ、この星おかしい――

 クレアの言葉が、直接頭に飛び込んできた。老人介護施設の訪問が終わろうとした時だった。
「この星の歓待ぶりはスペシャルだね」
 修一は、会話の流れとしては自然な一言を発した。

 次の瞬間、修一とクレアはデコイと入れ替わった。

 昨夜、クレアとバーチャル映像を監視カメラなどにかましながら、決めた合言葉だった。クレアが用意した修一とクレアそっくりのデコイと瞬時に入れ替わっていた。瞬間各種のカメラに微弱なノイズが入るが、気が付く者はほとんどいないだろう。また気づいたとしても、ノイズを解析し、二人がやったことに気づくころには三笠は、この星を離れている。

「これは珍しい。旅の修行僧のお方とは」

 アクアリンド大陸の南端の密林の中に、それはあった。
 アクア神の唯一の神殿であるセントアクア聖殿である。僧官長のアリウスが両手を広げ、若い修行僧姿の修一とクレアを神殿に招き入れた。アリウスは、どうやら二人の正体と、訪れた目的を知っている様子である。
「夕べ、夢を見ましてな。北の方角から、若い修行僧二人が訪れると。これもアクア神の賜物でしょう」
「僧官長さまのお教えと、アクア神のお導きがいただきたく、大陸のあちらこちらを経めぐり、ようやくアクアの神殿にたどりつくことができました」
「いずこから来られた方であろうと、このアクア神のみ教えを拝する方は同志です。どうぞ聖殿に入られよ」
「我々のような修行浅い者が、聖殿などに入ってよろしいのですか?」
「聖殿でなければ、神の声は聞こえませんでな……」

 聖殿は、神殿の奥にある八角形の台座で、その上にマリア像に似たアクア神の神像があった。

「入られよ」
 僧官長にいざなわれ、二人は台座の中に入った。中央に八角形の大きなクリスタルが、様々な色に変わりながら輝いて、中央でゆっくりと旋回している。
「これが、アクア神の御神体。上の神像は、人の目を欺く……と言ってはなんですが、分かりやすく人に見せるために作られた、祈りの象徴にすぎません。八十年に一度新しいものと交換いたします。本当の神のお姿はこのクリスタルです。地球のお方」
「やはり、ご存じだったんですね」
「この星で、八十年以上前の記憶を持っているのは、わたし一人です。わたしは、今年で二百八十歳になりますが、世間には八十歳で通しています。だれも怪しみません」
「それは……みんな八十年以上前の記憶がないからですね」

 クレアの言葉に僧官長は、かすかな笑みをたたえて沈黙してしまった。

 深遠な、すごみのある沈黙だった。
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音に聞く高師浜のあだ波は・26『十七日? 震災? あれから二十年?』

2019-10-17 06:50:50 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・26
『十七日? 震災? あれから二十年?』
         高師浜駅


 

 

 阿倍野ホテルの最上階に着くと、エレベーター降りたとこから、あちこちにダークスーツのおじさんやらお兄さん。
 で、この部屋に案内されると、このおばさんがダークスーツ二人を従えて、ソファーに収まっていた。
「なるほど、あの子らによう似た雰囲気のお嬢さんたちですね……」
 あたしらについては、その一言があっただけ。あとは、先代と呼ばれるお爺さんの話が続く。
「あの子らの送り迎えが、唯一の楽しみやったんですわ」
 どうやら、先代と呼ばれるお爺さんは、孫らしい三人のお嬢さんの送り迎えを生き甲斐にしていたらしい。
「結果的には二人のお友だちを巻き添えに……」
 三人の内二人はお嬢さんのお友だち……あ、あたしらの関係といっしょや。
「あの日は、早朝練習の、そのまた準備のためにむちゃくちゃ早く出たんですわ……」
「その朝に限って、為三さんは運転できなかったんですねえ」
「ええ、家業ののっぴきならない事情でね……あの子たちも先代の車に乗るのを楽しみにしてましたからね……」
「送れないけど、迎えに行ってドライブする約束をしてらしたんですね……」
「俺が死なせたんやと、それは……」
「ま、これで、少しでも為三さんが浮かばれるんでしたら、このあたしも満足です」
「これで先代も成仏したことでしょう……」
 デヴィ夫人に似たおばさんは、浅く座ったソファーで背筋を伸ばしたまま話を閉じた。
 そのとたん、フリーズが解けたようにため息をついてしまった。すみれも姫乃もため息ついた感じで、普段ならコロコロと笑い出すシュチエーションやねんけど、三人ともかしこまったまま座っている。
 どうやら、為三さんという先代さんが、亡くなっているらしいけど、娘さんと、その友だちの送り迎えをしてあげるのが生き甲斐やったみたい。その車を、お祖母ちゃんが運転して、境遇の似たあたしらを乗せることで為三さんの供養にした。そんな感じ。
 でも、娘さんらは、なんで死んだ? 交通事故?
「震災から二十年、ちょうどいい区切りで往生したと思います。十七日に乙女さんに会えて、ほんまによかったです……」

 十七日? 震災? あれから二十年? それて阪神大震災? なんや、微妙に合わへん。
 阿倍野ホテル最上階の部屋は、お祖母ちゃんと、そのおばさんが主役やった。
 あれからも、お祖母ちゃんのお迎えは続いている。あいかわらず南海特急のような乗り心地のワンボックスカー。 「お祖母ちゃんも懲りひんねえ……」  今日からはもういいよ。そう言って家を出たので、もう来ないと思てた。  白のワンボックスに絡まれて、三人ともビビってしもたんで、お祖母ちゃんには断った。 「え、あ、そうやったかいなあ」  ボケたふりして、お祖母ちゃんは楽しそうに、あたしらを連れまわした。
 あれから四日。
 もうワンボックスに絡まれることもないので平和なドライブ、あたしらも、再び快適なドライブに慣れてきた。 ホテルに着くまでは、いつものドライブやと思てた。
 お祖母ちゃんは、車のキーを返そうとしたが「どうぞ、供養だと思って、これからも乗り続けてくださいな」
 そう言われて……再びワンボックスに収まっている。
「お祖母ちゃん、阪神大震災やったら、なんやおかしいよ。このワンボックス、どう見ても新車やで」
「トヨタの最新型で、年末に発売されたばかりです」
「フル装備で350万円やと思います」
 親友二人が、いつ調べたんか、つっこんでくる。
「そらそや、年の初めに納車されたとこやからなあ」
「おかしいやろ、お祖母ちゃん」
「為三さんは、この半年ほどはボケちゃっててね、娘さん三人は、まだ高校生で生きてると思てたんやねえ。それで、ちょうど送り迎えに最適な、この車を知って、納車された日に亡くなってしもた」

「「そうなんですか」」

「最後の言葉が『はよ迎えに行ってやらなら』やったそうや」
「そうなんや」
 あたしらはしみじみとしてしもた。
「じつは、去年、高石まで来たんよ、為三」
「え、なんで?」
「為やんは、むかしから、あたしの……」
「あ、読者やったん?」
「ホホ、あたしはモテたからなあ……その時に高師浜高校の近所で、あんたらを見かけたんや『乙女さん、さっき、かいらしい女学生見かけてなあ』嬉しそうに写メ見せてくれたら、あんたらや」
「そうやったん……」
「帰り際に、また同じ写メ見せよってな……『ほら、これが孫とそのお友だちや』て……」

 そこで話が途切れた。

 ルームミラとバックミラーを合わせ鏡にしてお祖母ちゃんの顔が見えた、お祖母ちゃんが泣いてるのを初めて見てしもた……。
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小悪魔マユの魔法日記・66『AKR47・10』

2019-10-17 06:27:49 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・66
『AKR47・10』   



 マユはクララたちが用意してくれていた制服を着て、オモクロのプロダクションを目指していた……。

 雅部利恵(天使名ガブリエ)が肩入れしてからのオモクロは、それまでの「オモシロクローバー」から「想色クローバー」と名を変えたが、略称はオモクロのまま内容は一新。
 それまでのお笑い系ではなく清楚とビビットが売り。しかし、トークやバラエティーなどでは元のオモシロの味ものこしており、その手のコントやギャグをやらせると、AKRをしのいでいた。
 ディレクター兼社長である上杉は、関西のお笑い総合商社と言われるユシモトから資本提携をうけ、中堅プロダクションを買収、いちやく東京でベストテンに入る芸能プロにした。

 マユは、その新生上杉プロの前まで来た。なんと「見学自由」の張り紙がしてある。
 学校帰りの女子高生なども結構並んで、見学の順番待ちをしている。五十人一組で十五分の見学である。マユは、さっそく並んだ。

 一時間待って、やっと番が回ってきた。
 一階の展示室には、オモクロの歴史や、活躍ぶりをパネルや、映像で見られるようになっており、メンバーの衣装なども展示してある。オモクロのこれからのスケジュールなども書いてあったが、AKRのえらいさんたちが言っていた新企画については書かれていなかった。
 メンバーの写真が並んでいた。ルリ子と美紀の写真も当然並んでいる。学校での意地悪グループの印象など全くなく、清楚なお嬢様キャラで額縁に収まっている。プロフは生年月日と性別以外は、まるでデタラメ。

――学校では、人前で話すこともできないハニカミやです――笑いそうになった。

 五分ほどで展示室を出されると、階段を上がり、二階に連れて行かれた。
 なんとリハーサル室の隣りの部屋を見学室にして、リハーサルを見せてくれる。防音のガラス張りになっており、リハーサル室の音声は、据え付けのスピーカーから聞こえてくる。
 ルリ子と美紀もレッスンに励んでいた。そして気がついた。この二人には白魔法がかけられているのだ。歌唱力やダンスの能力が何倍にも高められている。実力でアイドルになった拓美や知井子に負けていない。マユは、拓美には体しか貸していない。あの子たちの力は、混じりけなしの実力である。しかし、白魔法は、本人には分からないようにかけられていて、ルリ子も美紀も自分の力と努力のタマモノだと思っている。
 
 このごろのルリ子たちは学校でも大人しい。加えて、他人への気配りや態度が優しくなった。これは白魔法ではなく、ルリ子たちが持った自信からくる自然な優しさで、この点では、マユも文句はない。しかし、その根本にあるのは、オチコボレ天使の利恵の我がまま。いただけないと思っている。

 運がよかった。

 残り時間五分というところで、リハーサル室に上杉ディレクターが入ってきた。
 オモクロの新しい企みというか企画は、メンバーにも知らせられていないようで、オモクロの子たちの心を読んでも分からなかった。
 上杉の心は読まなくても飛び込んでくる。それだけ自信と闘志に燃えているのである。
 新曲は『秋色ララバイ』で、見学者の前ではレッスンさせていない。オモクロにしては大人しい曲であるようだったが、サビからはオモクロらしくビビットで激しいものがある。上杉の心の中で踊っている曲自体は傑出したものではなさそうだが、オモクロの子たちの手に掛かると、思いがけずヒット曲になりそうな予感がした。
 
「え……!?」

 思わず声になってしまった。しかし、周りの女の子たちの声や想念に紛れて、たとえ、利恵が、ここにいても気は付かないだろう。
 上杉は、AKRに果たし状を突きつける気でいる。むろんエンタメの企画としてである。会場はすでに東京ドームを押さえてあるのだ。ユシモトの資本力の背景があってできることである。
 メンバー全体の、いわば団体競技と選抜のソロで競わせるつもりでいるようだ。オモクロはすでに準備に入っている。果たし状を出された時点で、AKRは一歩遅れることになる。
 それに、なにより利恵が一枚かんでいる。どんな影響が出てくるか分からない。

――ん……?

 見学室を探っている思念を感じた。的は絞り切れてはいないが、あきらかに探っている。
 すぐに分かった。リハーサル室のパイプ椅子に化けた利恵が、見学室からのマユの思念を感じて探っているのだ。しかし、マユは、ポチの体を借り、見かけも拓美とクララを足して二で割った姿をしている。マユとは気づいていないようだ。

――なんだ、オモクロに憧れている子たちの想いが大きくなっただけか。

 パイプ椅子の利恵は、おめでたく解釈したようだ。
 見学時間が終わって、出口に差しかかったところで、パンフが配られた。パンフの何枚かにメンバーのサインが書かれている。外に出てパンフを開くまで分からないが、当たった子は「キャ-!」とか「ウソ!」とか歓声を上げているが、マユは、違うことでほくそ笑んだ。
 パンフの中に、研究生の応募用紙が入っていたのである。

 マユは、小悪魔らしくほくそ笑んだ……。


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