大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・077『あたしの悪い癖』

2019-10-11 13:51:05 | ノベル
せやさかい・077
『あたしの悪い癖』 

 

 

 

 Aさんの名前は朝比奈くるみ。

 

 なんでAさんと言うたかというと、堺に来るまでのことは意識の底に沈めときたかったから。

 むろん、あたしの頭も心もパソコンとちゃうさかい、アンインストールとか削除いうわけにはいかへん。

 せやさかい、Aさん。

 せやけど、コトハちゃんが――桜ちゃんに会いたいってサインじゃないかなあ――と言う。

 あたしの心の中で『Aさん』は『朝比奈くるみ』さんに再変換された。

 

 ちょっと長めのメールを打った。気遣ってくれたことへのお礼と、朝比奈さんのメールがあるまで事故の事はもちろん、堺にダンジリがあったことも知らんかったことを書いた。

 お祖父ちゃんが言うてたダンジリ保険が面白いので、その話も書いた。朝比奈さんとの思い出もいくつか。

 そして――月末の日曜にでも会われへんやろか――とも書いた。むろん絵文字とか使いまくって。

 

 一晩置いて返事が返ってきた。

 

 月末は家の用事があるので、またいつか会おうね。そういう意味の返事で、最後に靴の写真が添付されてた。

 ホワイトで赤のラインがええアクセントになってる。

 趣味のええスニーカーやなあ……しばらく眺めて……気ぃついた!

 

 中学になったら御そろいのスニーカー買おうね……約束してたんやった(-_-;)

 

 約束だけやない、二人で商店街の靴屋さんのショーウインドウ見て「このスニーカーええね!」言うたときのスニーカーやった。

 考えてしもた。

 朝比奈さんは、遠まわしに、あたしを非難してるんとちゃうやろか。

 会いたいと分かってるのに、あたしは電話とちごてメールで済ませた。朝比奈さんは、きちんと靴の事まで憶えてたのに、あたしは趣味のええ靴やなあとしか思えへんかった。

 やっぱり電話しよか?

 いっしゅん思うんやけど、なんや気後れが先に立ってしもて……ま、今夜はええか。

 

 一日延ばし……あたしの悪い癖。

 

 

 

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真夏ダイアリー・36 『最初の任務・駐米日本大使館・2』

2019-10-11 07:02:57 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・36 
『最初の任務・駐米日本大使館・2』   
 

 
 
「冬野真夏さんだね。ま、そちらにおかけなさい」
 
 大使は窓ぎわのソファーを示した。
 太ぶちの丸メガネがよく似合うロマンスグレーのおじさんだ。退役海軍大将で、元学習院長、海外勤務も長いはずなのに、関西訛りが抜けないところなどは、田舎の校長先生という感じで好感が持てた。大使は、しばらく、わたしの辞令と履歴書を読んだ。
 
「なにか、不都合なところでも……」
「いや、すまん。ここのところ偉い人ばかり相手にしているもんでね。つい、くつろいでしまう……しかし事務官とは、うまく考えた役職名だ。どんな仕事をやってもらっても、不思議じゃないようになっている。東郷さんも気を利かしたものだ」
「正規の外交官じゃありませんけど、頭の小回りがいいようです」
「はは、なんだか人ごとみたいに言うね」
「いらない神経が発達していて、しゃべり出したら止まりません。ついさっきも、お巡りさんとケンカしかけて……」
「嫌な目には遭わなかったかい?」
「いいえ、最終的には、お友だちになれました」
「それは、なによりだ。近頃は日本人というだけで、不審尋問を受けて、警察にひっぱられることが珍しくないからね」
「まず、相手のコンプレックスをついて、怒らせるんです。人間怒ると、いろいろ隠していることが見えてきます。で、そのコンプレックスに寄り添うようにすれば、仲良くなれます。緊張と緩和です」
「はは、並の外交官より、人あしらいが上手いようだね」
「でも、実際はなんにも考えていません。その時、頭に浮かんだことを口走っているだけです。後付で説明したら、まあ、こんな感じかなあというところです」
「そのお巡りさんとは?」
「最初は横柄だったんです。すごく日本人に偏見持っているようで」
「で、コンプレックスはすぐに見つかったのかい?」
「言葉の訛りと雰囲気から、ポーランドの血が混ざっているなって感じました」
「で、お巡りさんに言ってしまったのかい?」
「ええ、あなたポーランドのクォーターでしょって」
「で、どう寄り添ったんだね?」
「わたしのお婆ちゃんもポーランド人なんです」
「ほう……」
「つまらないことで、コンプレックス持ってるようなんで、ハッパかけてあげました」
「お説教でもしたのかい?」
「いいえ、自分もクォーターだって言って、笑顔で握手しただけです。大の大人が、つまらないことでコンプレックス持って、弱い日本人を見下しているのにむかついただけです」
「はは、おちゃっぴーだな、真夏さんは」
「ハハ、そのお巡りさんにも、そう言われました」
「なかなかな、お嬢さんだ」
 
 そのとき、ドアを開けて八の字眉毛のおじさんが入ってきた。インストールされた情報から来栖特命大使だということが分かった。
 
「お。来栖さん」
「ノックはしたんですが、お気づきになられないようなので、失礼しました」
 一見お人好しに見える来栖大使が緊張している。
「君、悪いが席を外してくれたまえ。野村大使と話があるんだ」
「男同士の飲み会だったら、ご遠慮しますが、外務省からの機密訓電だったら同席します」
「君は……?」
「東郷さんから、この件については彼女を同席させるように……ほら、これだよ」
 野村大使は、わたしに関する書類を来栖さんに見せた。
「しかし、こんな若い女性を……それに君はポーランドの血が……」
「四分の一。来栖さんの息子さんは、ハーフだけど陸軍の将校でいらっしゃいます。一つ教えていただけませんか。外交官の資質って、どんなことですか?」
「明るく誠実な嘘つき」
「明るさ以外は自信ないなあ。三つを一まとめにしたら、なんになりますか?」
「インスピレーション……かな、来栖さん」
「よかった、経験だって言われなくて。わたしは外交官じゃないけど、今度の日米交渉には、くれぐれも役に立つように言われてるんです、東郷外務大臣から」
「と、言うわけさ。来栖さん」
「では、申し上げます……」
「その前に、黙想しませんか。国家の一大事を話すんですから……」
 
 そう言いながら、わたしは、メモを書いた。
 
――大使館は盗聴されています、筆談でやりましょう。
――了解。
――日本からの最終訓電の翻訳は正規の大使館員に限られます。
――ほんとうかね?
――そのために、私がきました。& 最終訓電は米政府への最後通牒。国務省への伝達は時間厳守。
 
 事の重大性は分かってもらえたようだ。次にダメ押し。
 
――日本の外交暗号は米側に解読されています。
 
 二人の大使は、顔を見交わした。そして、野村大使はメモをまとめて暖炉で燃やした。メモは煙となり、たちまちワシントンの冬空に溶け込んでしまった……。

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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・1『序章 事故・1』

2019-10-11 06:55:13 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・1   


『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 
『序章 事故・1』

 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!

 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げて、大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。
「あっ!」
 思わず声が出た。
 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ている。
「潤香先輩!」
 思わず駆け寄って大道具を持ち上げようとしたが頑丈に作った大道具はビクともしない。
「何やってんの、みんな手伝って!」
 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた。
「潤香!」
「潤香先輩!」
 皆が呼びかけているうちに、事態に気づいたマリ先生が、階段を飛び降りてきた。
「潤香……だめ、息をしていない!」
 マリ先生は、素早く潤香先輩の気道を確保すると人工呼吸を始めた。
「救急車呼びましょうか……」
 わたしの蚊の泣くような声。
「早く」
 マリ先生は冷静に応え、弾かれたように、わたしは中庭の隅に行き携帯をとりだした。
 一瞬、階段の上で、ただ一人フリ-ズが解けずに震えている道具係りの夏鈴(かりん)の姿が見えた……乃木坂の夕陽が、これから起こる半年に渡るドラマを暗示するかのように、この「事件」を照らし出していた。


 ロビーの時計が八時を指した。

 病院の時計なので、時報の音が鳴ったわけじゃない。心配でたまらない私たちは、病院の廊下の奥を見ているか、時計を見ているしかなかった。
 ロビーには、わたしの他には、道具係の夏鈴と、舞監助手の里沙しか残っていなかった。あまり大勢の部員がロビーにわだかまっていては、病院の迷惑になると、あとから駆けつけた教頭先生に諭されて、しぶしぶ病院の外に出た。まだ何人かは病院の玄関のアプローチのあたりにいる。ついさっきも部長の峰岸さんからメールが入ったところだ。わたしと里沙はソファーに腰掛けていたけど、夏鈴は古い自販機横の腰掛けに小さくなっていた……いっしょに道具を運んでいたので責任を感じているのだ。
 時計が八時を指して間もなく、廊下の向こうから、潤香先輩のお母さんと、マリ先生、教頭先生がやってきた。
「なんだ、まだいたのか」
 バーコードの教頭先生の言葉はシカトする。
「潤香先輩、どうなんですか?」
 マリ先生は、許可を得るように教頭先生と、お母さんに目配せをして答えてくれた。
「大丈夫、意識も戻ったし、MRIで検査しても異常なしよ」
「ありがとう、潤香は、父親に似て石頭だから。それに貴崎先生の処置も良かったって、ここの先生も。あの子ったら、意識が戻ったら……ね、先生」
 ハンカチで涙を拭うお母さん。
「なにか言ったんですか、先輩?」
「わたしが、慌てて階段踏み外したんです。夏鈴ちゃんのせいじゃありません……て」
「ホホ、それでね……ああ、思い出してもおかしくって!」
「え……なにがおかしいんですか?」
「あの子ったら、お医者さまの胸ぐらつかんで、『コンクールには出られるんでしょうね!?』って。これも父親譲り。今、うちの主人に電話したら大笑いしてたわよ」
「ま、今夜と明日いっぱいは様子を見るために入院だけどね」
「よ、よかった……」
 里沙がつぶやいた。
「大丈夫よ、怪我には慣れっこの子だから」
 お母さんは、里沙に声をかけた。
「ですね、今年の春だって、自分で怪我をねじ伏せた感じ。あ、今度は夏鈴のミサンガのお陰だって」
 マリ先生は、ちぎれかけたミサンガを見せてくれた。

「……ウワーン!」

 夏鈴が爆発した。夏鈴の爆泣に驚いたように、自販機がブルンと身震いし、いかれかけたコップレッサーを動かしはじめた。それに驚いて、夏鈴は一瞬泣きやんだが、すぐに、自販機とのデュオになり、みんなはクスクスと笑い出した。
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宇宙戦艦三笠・27[フィフスのクレージードリル(訓練)]

2019-10-11 06:46:18 | 小説6
宇宙戦艦三笠・27
[フィフスのクレージードリル(訓練)]


 

 

 

 最初は、単なるジャンケンであった。

 ロボットが相手だったが、スキルを人間並みに設定してあったので、まあ、十回勝負で各自六勝四敗というところだった。
「さあ、これが出発点だ」
 と、言われても、先が読めない。
「こんなので訓練になるの?」
 美奈穂が聞いた。美奈穂は横須賀の下町の子で、子供のころからいろんな遊びでジャンケンはやり慣れていたので、七勝三敗と調子がいい。
「今のは人間と同じ設定だったので、君たちの今の実力がそのまま出ている。今度はロボットのスキルをマックスに上げる。ロボットは、君たちの表情や息遣いからちょっとした変化まで解析して、ジャンケンをする。君たちは、そのロボットの解析の裏を読んで対応してもらう」

 今度は完敗だった。みかさんまで負けている。船霊のみかさんが勝てないのなら、仕方がないと一同は思った。

「だめじゃのう。これが戦闘なら、全滅じゃ」
 ナンノ・ヨーダは四等身の頭を振ってため息をついた。
「だって、みかさんだって勝てないんだよ」
 トシがプータレる。
「船霊は、君たちクルーの能力に合わせて成長する。船霊とはそういうもんだ」
 みかさんは、ただ一人ニコニコと聞いている。ウレシコワは船を失った船霊だったので、複雑で寂しい顔をしている。クレアは、元々前世期のボイジャーだったので、CPの能力が追いついてこない様子だった。
「負けても仕方がないと思っとるじゃろ。しょせんジャンケンは運しだいじゃと。その負けても仕方がないでは、グリンヘルドにもシュトルハーヘンにも勝てん。今度はやりかたを変える。参加するロボットを百万にまで増やす。そして、君たちを含め全員に百円玉を持ってもらう。二人一組で始め、勝った方が勝った者同士でまた一対一の勝負。簡単な計算じゃが、最後の勝者は一億円を手にすることになる。それでは、勝負じゃ!」
 クルーの大半は横須賀の子である。こういう賭け事めいたことには自然に胸がときめく。

 最初はグー、ジャンケン、ポン!

 

 一億と八人の声がダススターに木霊した。

 無邪気な欲と言うのは恐ろしいもので、数回繰り返しているうちに三笠組の八人が残るようになり、最後の勝者は修一になった。
「これで良い。無邪気な欲が、勝利に繋がる。これが実戦なら、三笠の大勝利じゃ!」

 が、これで終わりではなかった。

 次に、レフトセーバーの使い方の訓練であった。レフトとは心臓が左側にあることからついた名前である。人間は最後に心臓を守ろうとする。人と並ぶとき左側に人に立たれると、なんとなく落ち着かないことや、喫茶店、映画館のシートが左側から埋まっていくことなどにも現れている。樟葉は単に著作権の問題かと思ったが、みかさんと目が合うと、みかさんは、ただニッコリ笑みを返してきただけである。
「よいか、やみくもにセ-バーを振り回しても勝てやせん。心の中にプレステのコントローラーを思い浮かべよ。そのコントローラーで操作するようにやれば、勝利疑い無し。励め!」
「でも、なんでプレステのコントローラー? うちXボックスなんだけど」
「プレステはフォーまできておる。フィフスは、それを超えるものじゃからじゃ!」
 ダジャレのような答えだったが、やってみると、なるほど上達が早かった。

 他にも、様々な訓練(ドリル)が課された。中には、ここで書けないような内容も含まれているが、それではつまらないので、その一端を紹介しよう。

 セックスアタックへの耐性訓練と言うのがある。
 
 バーチャルではあるが、絶世のイケメンと美少女の性的な誘惑に勝つ訓練である。三笠のクルーは、みな高校生という多感な年ごろ、ウレシコワやクレアも器としての体は少女である。反応は人間と変わらない。
 詳述は省くが、この訓練がもっとも大変であった。年頃であるということとラノベのキャラであるということで、この種の誘惑には一番弱いのだ。レイマ姫は過去に訓練を受けていた様子だった。で、この訓練が一番つらいことを知っていた様子であるが、この訓練のときだけ標準語になることが可笑しかった。

 かくして、ひと月にわたる訓練が、終わり、各自のHPとMPが発表された。ゲームで言えば、初回最後のボス戦の時のような数値であった。

「これからは、実践が訓練であると思って頑張りたまえ!」
 
 ナンノ・ヨーダは、そう締めくくった。クルーたちは、まるでチュートリアルを終えたばかりのゲーマーのように新鮮な闘志に燃えていた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・20『初射会(はつしゃかい)て読むんです』

2019-10-11 06:35:42 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・20
『初射会(はつしゃかい)て読むんです』
         高師浜駅


 初射会というものに行ってきた。

 大阪の高校弓道部代表が一堂に集まって、年の初めに弓を撃つ行事なんやそうです。

 場所は、府立高校ながら、大阪で一番の矢場を持ってる真田山高校。
 あたしらの高師浜高校と同時期に出来た旧制中学の発展形。
 旧制中学いうと男子校。高師浜高校は女学校の発展形なので、門からして雰囲気が違う。
「いかつい門だね~」
 姫乃が感心した。
 今時珍しい鉄の門、どこかで見たことあるなあと思ってたら『赤坂離宮』という言葉が浮かんできた。
 さっそくスマホで検索。
「わー、ソックリだ!」
 姫乃が驚く。
 たしかに雅やかな中に質実剛健な感じは、よう似てる。あたしの記憶力もなかなかや。
 通称マッカーサーの坂を上がると、正面玄関。玄関わきには何かの土台。
「あ、注釈があるよ」
 脇の小さな看板を見ると――真田幸村の銅像がここに立っていましたが 戦時中の金属供出のため撤去されました――とある。
「真田さん、まだ戦争から帰れないんだ……」
 今日の姫乃は詩人です。
 校舎は見学したくなるほどに重厚やねんけども、初射会に遅れてはいけないのでパス。

 ⇐初射会会場の張り紙に従って進むと、校舎の南側に講堂風の平屋がありました。

「「ここだ」」

 姫乃とハモって会場へ。
 講堂かと思ったら、板場の向こうはプールほどの広さなんやけど屋根は入った板の間のとこしか無くて素通し、素通しの突き当りが土手になっていて蛇の目の的が十個ほど設置されていて、同時に十人ほどが撃てるようになっている。
「すみれ、どこに居るんやろ……」
 学校の的場では、すみれは直ぐに分かる。美人やねんけどヤンチャそうな独特の雰囲気……それが、この初射会の会場では、なかなか見つけられへん。人数が多いことが第一やねんけども、みんな着物に袴の正月スタイル。ふだんの雰囲気とちゃうんやろと思う。
「あ、あそこに居るよ!」
 姫乃が指差したのは、その子だけはちゃうやろと、何べんも視線をスルーさせた白地に花柄を散らしたお嬢様風の着物に紫の袴。もし弓道女子の映画を撮るんやったら、そのまま主役が務まりそうなくらいイケてる。
「あ、あんなすみれ……初めてや」
 くやしいけどため息が出てしまいました。

 弓道いうのは、トロクサイ上に撃つ矢の数が多いんで長丁場になるのを覚悟してました。

     

「ラッキー、すみれ一番の組や」
 すみれが、他の九人の選手と一緒に射列に並ぶ。矢を引き絞るときは思い切り胸を反らすので、すみれの形のいい胸に凛々しさが加わって、瞬間「こいつには勝てんなあ」と嫉妬させられる。
「なに、胸押えてんの?」
「え、あ、うん、なんでもない」
 姫乃はコンプレックスは無いようです。

 え、これでしまい?

 長丁場を覚悟していたら、なんと二本撃っただけで、すみれは礼をして下がってしもた。
 冷静に考えたら、百人ほどの選手が長ったらしく撃ってたら日が暮れて、明日の朝になっても終わりません。

 で、すみれは、二本とも的の真ん中の黒星にドンピシャ。

 ウ~ン、悔しいけど「ここ一番に強い女」です。それもシャクに障るくらいのポーカーフェイス。
 なんや、今年も、あたし一人取り残されて子供っぽい一年になりそう。

 三組目まで見たところで、選手席のすみれと目が合う。かねて「外で待ってる」という目配せを互いに交わして表に出る。

 待つこと十分。横の出口から出番の終わった選手が三々五々出てくる。
 どの子も、さすがは弓道部、歩く姿も凛として、ますます自分が子どもじみたアホに思える。

 バッシーン!!

 いきなり肩を叩かれる。
「やったー!」
 声に振り返ると、アホみたいに嬉しそうな大口開けて、頬っぺたを真っ赤っかにしたすみれがピョンピョン撥ねておりました。

 やっぱ、こいつも変わってへん。安心した年の初めでした。
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小悪魔マユの魔法日記・60『AKR47・4』

2019-10-11 06:24:59 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・60
『AKR47・4』   


 
――マユ、あんた、なんか絡んでんの?

 魔法に気づいたオチコボレ天使、雅部利恵の思念が突き刺さってきた……。

――あんたには、関係ないでしょ。
 
 この、木で鼻を括ったような応えが悪かったのかもしれない。
 利恵とは、いままで、いろんなことでぶつかってきた。校長先生のカツラ事件。片岡先生の恋物語。知井子の悩みの件では、意図しなかったとは言え、マユの方が一歩リードしたカタチになっている。
 天使と小悪魔。元々が違う。それぞれ監督の大天使や、悪魔から、あまり関わり合いにならないようにと注意もうけていた。
 利恵は、自分で探りを入れて対抗することにした。で……。

――ルリ子たち、カワイソー……と思ってしまった。

 フェアリーテールの世界のことなど、利恵は、まるで理解していなかったので、トイレットペーパー事件は、単なるマユの意地悪であると思ってしまった。そして、AKR47での知井子とマユの成功もマユの魔法がからんでいると誤解した。
  
 誤解と無理解は放課後になって決定的になってしまった。

「さて、どこ行こうか……」
 ハチ公前で、ルリ子が呟いた。
 学校でのウザイことを忘れるために、とりあえず、学校から一番近い渋谷にやってきた。
 渋谷は、大げさにいえば谷底で、どこへ向かっても上り坂のようになっている。その上り坂がルリ子には気に入っている。Tデパートにテナントとして、ルリ子の父が出資しているブティックがあるので、そこで私服に着替えている。
「あんまり悩んでると、家出少女みたいだよ」
 美紀が、モテカワ系のナリで続けた。
「そうだわね……」
 と、応えたものの、ルリ子は決めかねた。

「ねえ、そこのオフタリサン、よかったらお茶でもどうよ」
 遊びなれた感じのデコボコ二人組が声をかけてきた。ルリ子は視野の端に入れただけでシカトした。
「ヒマしてんだろ。だったら、お互いヒマそうなコンビ同士だからさ、いいと思わない」
「あんたたちの相手してるほどヒマじゃないの」
 美紀が、軽くイナシた。
「とりあえず、北」
 ルリ子が言った。
「グウウウウゼン、オレたちも北!」
 背の高いほうのニイチャン。
「きた……ないのあんたたち」
「ハ……?」
 デコボコニイチャンがそろって声をあげた。
「汚いのあんたたち」
「そういうこと」
 ルリ子と美紀が、横顔で応える。
「なんだと……!」
 背高ニイチャンがルリ子の肩に手をかけた。
 ニイチャンは一瞬で天地がひっくり返った。
「気をつけてね、ホコリがたつでしょ……」
 ルリ子は、こう見えても、合気道二段の腕である。ちかごろ稽古はサボっていたが、きれいにきまったので、少し気分がよくなった。

 デコボコニイチャンがボコボコニイチャンになって、ルリ子と美紀の足は、駅の西北のバスケ通りに向かった。
 バスケ通りは、センター街の一部であるが、チーマー・ガングロ・家出少女などを連想させてイメージが悪いので、地元の商店会でつけた名前で、べつにバスケットボールができるわけでもなく。ルリ子としては、あまり気の向くところではない。
 しかし、ここで思わぬものに出会ってしまった。
 
 マックの前で人だかり。人だかりは、そのまま北に進み、突き当たって西へ。井の頭通り手前の三叉路のところに、荷台がプチステージになったトレーラーが止まっていて。人だかりの中心から五人の女の子たちがステージに上がった。
「あ、オモクロだ!」
「なに、それ?」
 ルリ子はオモクロを知らない。
「オモシロクローバー。いま売り出し中のアイドルグループ」
 
 ステージの上でミニライブが始まった。名前の通り、コントを交えた面白系の歌と踊りで二十分ほど。
「オモシロクローバー、これからもよろしくお願いしま~す!」
 MCの子が締めくくった。
 いつものルリ子なら、こんなアイドルとも芸人ともつかないハンパなものは三分とは見ていられないのだが、このときは、つい最後まで観てしまった。

 これが、天使の利恵が仕組んだものだとは、ルリ子も美紀も気づかなかった……。
 
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