大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・081『M資金・15 F1幻想・1』

2019-10-03 13:02:50 | 小説

魔法少女マヂカ・081  

『M資金・15 F1幻想・1』語り手:ブリンダ 

 

 

 身体が憶えていた。

 

 数十台のF1が一斉にエンジンをふかす轟音! エギゾーストから吐き出されるガソリンがたぎる匂い! レーサーたちのヘルメットから零れる闘志! 万を超える観客の声援! そういうものが混然一体となってサーキットの空気を震わせる!

 たまらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!

 正式なF1レースは1950年代に始まるが、その萌芽は1906年のGrand Prix de France(フランスグランプリ)だ。

 オレは豊満な胸を日本のサラシを巻いてペッタンコにし、腰まで届こうかというブロンドのロングヘアーをバッサリ切って、ブリトン・サンダースと偽って参加した。

 人間のレースに魔法少女がエントリーして優勝するわけにはいかない。これまで参加したレースは最終コーナーで意図的にミスやトラブルを起こして勝ちを譲っていた。

 そのころの記憶が、まざまざと蘇ってくる。

 アクセルを八分に抑えてエンジンをふかす。マックスでは、かえって初期加速が鈍るのだ。

 フラッグが振られて、全車一斉にスタートをきる!

 

 ブオーーーーーーン!!

 

 メカニックの行き届いた整備もむろんだが、オレのテクニックも世界一だ! 魔法少女の集中力は、平均で並の人間の十倍はあり、身体能力は100倍だ! これに匹敵するのは魔法少女の男版であるスーパーマンくらいのもので、このブリンダは、その魔法少女の中でも抜きんでている。負けるわけなない! 負けるわけにはいかない!

 行くぞ! 第一コーナー!

 キュンキュンキュン! キュキュン!

 完璧なドリフトで、二位以下を引き離し、500フィートの直線コースに踏み込む!

 いっけええええええええええええええええええ!

 

 ブロ ブロロローーーーーーーーン!!

 

「ブ、ブリンダああああ! いいかげんにしろおおおおお!」

 マシン(車)が喋った……そうか、オレの闘志が感応して、マシンにも魂が宿ったか!

 任せておけ、わが愛車! 酷使はするが潰しはしないぞ!

 このレースが終われば、おまえはF1ミュージアムに永久保存されるぞ!

『おちつけブリンダ!』

 ん?

 バックミラーにブロンドの少女が現れて目を三角にしている。こいつ、大人しくしていれば、そこそこの美少女なのに、なんで、そんなに機嫌が悪い?

『これは、カオスにのせられて、ブリンダが作った妄想だ!』

「妄想? 妄想上等じゃねーか! このままブッチギリでいっくぞおおおお!」

 ブウォーーーーーーーーーーン!!

『『キャーーーーーーーーーーーー!!』』

 二人分の悲鳴がすると、マシンも大人しくなり、バックミラーの美少女も姿を消した。

 いける! いける! 二位のマシンを周回遅れにしてやった!

 掟を破ることになるけど、魔法少女が一生に一回くらいトップになってもいいだろう? いいよな! いいよなあ!

 

 最終コーナーを周って、ホームストレッチのゴールが見えてきた。

 

 いかげんにしろーーーヽ(`Д´)ノプンプン!!

 

 二人分の怒声がしたかと思うと、オレは、ジェット戦闘機の緊急脱出のようにシートごと空中に放り出された!

 

 

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真夏ダイアリー・28『アイドルは大変だ……』

2019-10-03 06:47:08 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・28
『アイドルは大変だ……』       





「急性虫垂炎だと思う……」

 医務室のドクターが、クララさんを診察して、そう告げた。
「……なんとか……なりませんか?」
 クララさんは、苦しい息の中、やっと、その一言を発した。
「救急車を呼ぼう、残念だけど……」
 ドクターは、スタッフに指示した。
「クララ……」
「クララさん……」
 医務室に入りきれないメンバーが、気配に気づき、泣き始めた。
 サブの服部八重さんが、一人冷静なので、医務室に呼ばれた。
「クララに、大丈夫だって言ってやれ」
 黒羽さんがうながしたようだ。
「クララ、残念だろうけど、チームは大丈夫。みんなでがんばってたどり着いた念願の紅白、ちゃんと勤め上げるからね」
「頼むよ……ヤエ」
 そんなやりとりが成されているうちに救急隊の人たちがやってきて、クララさんはストレッチャーに乗せられて廊下に出てきた。メンバーのみんなは、口々に何か言っているが、クララさんには届かない。あまりの痛さに意識が無くなったようだ。
 ストレッチャーが前を通るとき、わたしは、一瞬クララさんの手に触れた。

 クララさんの悔しさが、どっと伝わってきた。それが、自分の感情になってしまい、それまでの冷静さが吹っ飛んで、涙が溢れてきた。
 そして、反射的に、こう祈った。

――良くなれ!

 黒羽さんは吉岡さんをうながして、わたしたちを楽屋に集合させた。
「クララのセンターはヤエが代わりに入る。ヤエのポジションは、一人ずつ詰めて処理。いいね」
「……はい」
「しっかりしろ、クララのためにも、ここは乗り越えなきゃいけないんだ。いいな!」
「はい!」
 やっと、みんなの声が揃った。
 わたしは賭けていた。わたしの力がほんものであることを……。

 そして、わたしは、自分の力を確信した。

 昼過ぎに、クララさんは、タクシーで、もどってきたのだ!



「ご心配かけました。盲腸じゃなくて、神経性の腸炎だったみたいです!」
「そんな……いや、わたしの誤診だったようです。ご迷惑かけました」
 医務室の先生を、ちょっと自信喪失にしてしまったが、わたしの力は本物だ。
 急性の虫垂炎を、あっと言う間に治してしまった……。

 メンバーの感激はハンパじゃなかった。喜びのあまり泣き出す子が半分。あとの半分は、初めてサンタクロースを見た子どものようにはしゃぎ、ヤエさんなんかクララさんにヘッドロックをかましていた。
「心配かけんじゃねーよ、死ぬかと思ったじゃねーか!」

 本番は順調だった。

 自分たちの出番だけじゃなく、男性グル-プのバックに入ってバックダンサーも務めた。
 大ラスは、スナップのみなさんたちだ。朝の連ドラのテーマミュージックにもなった曲で大団円。終わりよければ全てよし。赤組は負けちゃったけど。

 帰りのバスの中で、省吾のお父さんの思念が入ってきた。



――「紅白歌合戦」「FNS歌謡祭」「ベストヒット歌謡祭」の年末3大歌謡祭が、今年は外国歌手の出場をこぞって見送った。これも歪みの現れか……真夏さんに、いつ、どのように飛んでもらうか研究中です。
 
 来年はえらい年になりそうな予感がした。

 元日は昼まで寝てしまった。
「真夏、年賀状来てるわよ」
 お母さんの声で目が覚めた。
「なに、その段ボール?」
「だから、年賀状……どうすんのよ、こんなに来ちゃって」
 どう見ても、千通はありそうだった。

 アイドルは、たいへんだ……。

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宇宙戦艦三笠・19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]

2019-10-03 06:38:13 | 小説6
宇宙戦艦三笠・19
[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1] 



 

 

 ワープが終わると、後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。

 正確には、ごく微速で三笠の後を追っている形である。
「遼寧に連絡、救助の必要ありか?」
 副長の樟葉が、修一が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。
 遼寧は、元ロシアの航空母艦であったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどマガマガしいほどの対空、対艦兵器に各種のむき出しのレーダーが取り囲んでおり、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると、やや小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦であった。

 それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で、ワープした三笠に軽々と抜かされた。

「修一、矛盾する返事が複数きた」
 樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。
「放っておこうよ」
 トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしている。

――ただいまより、貴艦に接舷する――

 そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。
 
 遼寧の艦内は荒れていた。三笠と違ってクルーは多いようで、数百人の人の気配がした。
「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」
「ほとんど船は停止しているようですが、機関に故障でもあったんですか?」
 クレアが、白々しく聞いた。アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。
 空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。

「やって、らんないのよね!」

 バニーガール姿のロシア娘が割り込んできた。
「遼寧の船霊さまよ」
 クレアが樟葉に耳打ちした。
「あ、ウレシコワ……!」
 紅紀文が慌てた。
「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ。だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと思っていたのに、今になって元の任務(空母)はニェットだわよ!」
「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」
「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんて、あたし、絶対! 絶対! ニェットだからね!」

 なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、当時の連合艦隊旗艦の三笠である。
 船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが、もめはじめた。

 結局、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。
「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ!」
 三笠に帰ると、修一がビックリした。
「最低動けるようにはしてやれって、みかさんのお願いでしたから」

 クレアが、きまり悪そうに目を伏せた……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・12『マッタイラの手助けをした』

2019-10-03 06:29:01 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・12
『マッタイラの手助けをした』
         高師浜駅

 

 

 アンパンマンは心が和むんよねー(n*´ω`*n)

 ゲーセンでゲットしたアンパンマンのキャラたちを並べて写メを撮る。
 マチウケにしても良かったんやけど、プリントアウトしてクリアファイルに挟んだ。
 そうすると、なんかお宝じみてきて、小学生みたいやけど通学カバンのノートに混ぜて学校まで持ってきてしもた。
 
「懐かしいなあ」

 教室移動の途中で忘れ物に気づいて教室に戻る。机の中からあれこれ出してると、後ろから声がかかった。
「え、あ、これ?」
 振り返ると、教室を出遅れたマッタイラがしみじみした顔で立ってる。
 いつもやったら睨んでしもて「なんやのん!」くらい言うて売り言葉に買い言葉。
 ところが、今のマッタイラの「懐かしいなあ」は、思わず出てきた言葉のようでイヤミとかの棘が無い。それに懐かしい対象がノートの間に紛れたアンパンマンのファイルと分かったので、ついフレンドリーになってしもた。
「ホッチはアンパンマン好きやねんな」
 カマボコの切り口みたいな笑顔で続けてきた。
「え、あ、うん。メロンパンナちゃんが御ひいきやねんけどね」
 メロンパンナちゃんを真ん中にした写真を見せる。
「ハハ、普通はアンパンマンやねんやろけどな」
 このマッタイラの言葉は意外。いつもやったら「そらアンパンマンやろが!」と憎たらしく言うが、なんか共感した物言いや。
「メロンパンナちゃんの横がビミョーに空いてるけど?」
「え、あ、これはね……」
 さすがにドキンちゃんの指定席とは言いにくい。
「今日はドラミちゃんの誕生日やねんで」
 マッタイラは深追いしないで、話題を替えた。
「え、あ、そうなん? てか、ドラえもんのファンなん?」
「あ、ちゃうちゃう。妹がな……あ、もうチャイム鳴るで」
「あ、ほんまや!」

 慌てて教室を飛び出した。

 昼休みに検索してみると、マッタイラの言う通りドラミちゃんの誕生日やった。
――ドラえもんと同じ缶のオイル(ロボット専用オイル)から作られたため兄妹の関係にあるが、使用されたオイルが分離しており、下半分に沈殿していた良質なオイルを使用して作られたドラミの方がドラえもんより優秀である――
 調べてみると、ロボットなのに、なぜ兄妹なのかとか、ドラミちゃんの方が賢いのかがよく分かった。

 納得してスマホをしまおうとしたらメールが入って来た。

――文林堂でインクを買ってきて――というお祖母ちゃんからのメール。

 お祖母ちゃんは、普段はパソコンで原稿を打ってるけど、ものによっては昔ながらの万年筆。
 で、万年筆のインクは文林堂と決めてる。
 文林堂は、総合文具屋で、近頃はBNRと屋号を略してファンシーグッズに力点を置いて高石駅前に移転してる。
「ごめん、今日は高石の方に出るから」
 姫乃には、そう言うて放課後高石の駅前を目指した。

 あ、あれ?

 BNRの店内でマッタイラを見かける。
 いつもやったら、マッタイラのことなんか無視すんねんけど、今朝のことがあったんで、ちょっと見てしまう。
 ファンシーグッズのとこで、なにやら見つめてるねんけど、赤い顔して唇を噛んでる。手を伸ばしかけて止めよった。

「なにしてんのん?」

「グッ!?」

 めっちゃビックリしよった。
 マッタイラが手を伸ばしてたとこを見ると……ドラミちゃんのフィギュアがあった。
「あれ、買うのん?」
 そう聞くと、マッタイラは、あたしの手をとって店の前に出ていきよった。

「ホッチ、すまん。俺のかわりにドラミちゃん買うてきて!」
「え、あ……うん、ええよ」
 マッタイラから樋口一葉一枚預かって店の中に戻った。
 そんで、お祖母ちゃんのインクといっしょにドラミちゃんをレジに持って行ってお勘定を済ませる。

「あ、ありがとうホッチ!」

 なんとマッタイラは涙目になってお礼を言う。
「ううん、ついでやったし。これ……妹さんにでしょ?」
「あ、うん。妹、ドラミちゃんと同じ誕生日やねん」

 いろんな偶然が重なってマッタイラの手助けをした。あたしの勘もええねんけどね、まあ、年に一遍くらいは、こんなことがあってもええんとちゃう?
  
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高安女子高生物語・106〔The Summer Vacation・9〕

2019-10-03 06:21:31 | ノベル2
高安女子高生物語・106
〔The Summer Vacation・9〕
                    


 

 時差ボケしてる間もなかった。

 ハワイのロケから帰ってくると、そのまま毎朝テレビの『ヒルバラ』に出演。選抜6人が前で、あとの6期生は後ろの雛壇。
 当然トークは選抜に集中。他の子らはお飾り。

 MNBに入って2か月ちょっとやけど、差ぁが付いたなあ……とは、まだ思えへんかった。

 口先女では自信のあたしやけど、8分の間に、MCの質問受けて、プロモの話を面白おかしく話して、22人の子みんなに話振るのはでけへん相談。第一進行台本がある。関西のテレビは、「ここで突っ込む」とか「ここボケる」ぐらいのラフで、あとは成り行き任せいうとこがあるけど、『ヒルバラ』のディレクターは東京から来た人で、台本から外れることが嫌い。タイミングになると、必ずADのニイチャンのカンペで、否応なく台本通りに進行させられる。

「もっと面白できたのになあ」

 カヨさんが楽屋に戻りながらささやいた。楽屋に戻ったら局弁食べながらメールのチェック。ゆかり、美枝、麻友を始めあたしがMNBに入ってからメル友になった子ぉらに「ただいま。時差ボケの間もなくお仕事。またお話しするね!」と一斉送信。 ファン向けのSNSには「疲れた~」「ガンバ!」なんちゅう短いコメントと写メを付けて、あたりまえやけど一斉送信。
「さあ、あと10分でユニオシのスタジオに戻って夜のステージの準備。いつまで食べてんのよ。チャチャっとやってよチャチャっと!」
 チームリーダーのあたしは、いつのまにか市川ディレクターや、夏木先生の言い方、考え方が移って同じように言うようになった。みんなんも認めてくれてるし、チームもまとまってきたんで、これでええと思てた。

 バスでスタジオに戻るわずかの間に3人もバスに酔う子がでてきた。
「ちょっと、席代わったげて! 舛添さん酔い止め!」
 女同士の気安さで、3人のサマーブラウスやらカットソーの裾から手ぇ入れてブラを緩めたげる。薬飲ませて、気ぃ逸らせるために喋りまくり。3人もなんとかリバースこともなくスタジオについた。ただ、バスの中で酔いが伝染。10人近い子らがグロッキー。
「ちょっと休ませた方がええで」
 カヨさんの一言で決心。
「一時間ひっくり返っとき。しんどい子は、薬もろてちょっとでも寝とき」
「よし、明日香。その間に打ち合わせだ」
 市川ディレクター、舛添チーフADと夏木先生ら大人3人に囲まれて、ハワイでのことを中心に反省会と今後の見通しについて話し合う。
「一番落ち込んでるのは誰だ?」
 市川ディレクターの質問は単刀直入やった。
「和田亜紀と芦原るみです」
「じゃ、カヨさんといっしょに支えてやってくれ。6期生はスタートが早かった。まだ気持ちがアイドルモードになり切れてないと思う。なんとか取りこぼさずに、VACATIONを乗り切って欲しい」
「分かりました」

 短時間やったけど、有意義やと思た。短い会話の中で、現状の確認と展望、これからの見通し。ほんで、なによりもこれから6期生全員を引っ張っていかならあかんいう責任感と期待が市川さんらと共有できたことやと思えた。
 みんなの様子を控室に見に行って、カヨさんとさくらと相談して、休憩時間を30分延ばした。

「じゃあ、6期。ハワイで一回り大きくなったところを見せるでえ!」
「オオ!」
 控室で円陣組んで、テンションを上げた。休憩時間を30分余計に取った分、レッスンの時間は減ったけど密度は濃かった。この時まではいけると思てた。
 うちらは、まだまだ前座やけど、MNB47始まって以来の成長株やと言われてる。負けられへん!

 30分間、VACATION、TEACHERS PETなんかのオールディーズのあと21C河内音頭。間を、うちとカヨさんのベシャリで繋いでいく。
 なんとか、アンコール一回やって、失敗もせんと終われた。

 で……仲間美紀が倒れた。
 
 全然ノーマークの子ぉやった。酸素吸入しても治らへんので救急車を呼んだ。

――うちは、何を見てたんやろ――

 やっと出来始めたリーダーの自信が、遠ざかる救急車のサイレンとともに消えていく……。
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小悪魔マユの魔法日記・52『フェアリーテール・26』

2019-10-03 06:11:03 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・52
『フェアリーテール・26』
   


 マユは、三人が目覚めるのを一人で待つことにした。

 ま、そのうちかかしもブリキマンも戻ってくるだろう……。


 最初にもどってきたのは、かかしだった。

「やあ、ドロシー、やっと眠れたんだ。トトやライオンさんまで……ところでキミは?」
 ドロシーは、かいつまんで説明した。
「そうだったのかい……小悪魔ちゃんに助けてもらうのは久しぶりだね」

 この一言にマユは驚いた。こんな目に遭う小悪魔は自分だけだと思っていたのだ。

「わたしだけじゃないの?」
「ああ、久しぶりだけど、初めてじゃない……」
 かかしが、大事な話をしそうになったところで、ブリキマンが帰ってきた。
 ブリキマンも、最初は驚いたけれど、ドロシーとかかしが説明すると、同じように懐かしがった。

「ところで、二人は、ドロシーを眠らせるものを見つけられたの?」
「アリスの眠りネズミを眠らせるジャムをもらってきたんだけど、人間に効くかどうかはね……」
「ボクは、ゲンコツ山のタヌキさんから、おっぱいをもらってきた。ただ、寝たあとは、ダッコしてオンブしてまた明日になるから、その先の保障は無いって言われたけど……」
 二人とも、自分の成果に自信はなさそうだったけど、すでにドロシーが眠ってしまったので安心したようだった。

「さっき、わたしのこと初めてじゃないって言ってたけど……どういうこと?」

「あ……覚えていたんだね。心ないことを言ってしまった」
 ブリキマンは、ボコボコと心の入っていない胸をたたいた。
「ボクは、脳みそがないから、考えも無しに余計なことを言ってしまった」
 かかしは、そう言って首を振った。その勢いで、頭のワラが少し飛び散った。
「心も考えも無しに言ってしまったことだけど、ここまで言ったんだ、マユには話を聞いてもらったほうがいいかもしれないなあ……」
 ワラをかき集めながら、かかしが言う。
「そうだな……今度のドロシーは少し変わっているからなあ……」
 かかしの頭にワラを詰めるのを手伝いながらブリキマンが、ため息混じりに言う。

「今度のドロシーって……どういう意味?」

「ここに来る子は、みんなドロシーなんだ」
「そう、ある日竜巻に飛ばされて家ごと降ってきては、東の魔女を死なせて、オズのところへ行っては、西の魔女のホウキを取ってこいと言われ……」
「いったんは魔女に捕まって、ボクたちが助けて、最後はドロシーが魔女に水をかけてやっつける……」
「で、オズの魔法使いから、ご褒美をもらって……」
「ドロシーはオズの気球に乗り損ねるのよね」
「そう、北の魔女のブリンダが、こう言うんだ」

「靴のかかとを三回鳴らして、『お家が一番いい』って、願う」
 この台詞は、三人揃ってしまい、三人は笑ってしまった。

「そういうドロシーが何人もいるわけ?」
「ああ、このドロシーで2012人目」
「ボクは、1953人目」

「……なんで、ブリキマンさんの方が少ないの?」
「そりゃあ、ボクのほうが先輩だからさ」
 かかしが自嘲的に言った。
「ボクたちは、時期が来ると交代するんだ。ここで眠ってるライオンさんは、今回が初めてだから、そのへんの事情はよく分からないけどね」
「え……意味分からない」

「ここはね、世界中の女の子……って、みんながみんな、そういうわけじゃないけどね」
「せっぱつまった女の子が、自分探しにやってくるところなんだよ」
「で、ボクたち三人は、その手助けをするために、交代でここに飛ばされてくるんだ」
「ボクはブリキマン。彼はかかし。この寝てるのがライオンとしてね……」
「じゃ、あなたたち、元々は……?」

「「「それは……ナイショ」」」
 二人が声をそろえて言った。

「じゃ、トトは?」
「トトは、ただの犬さ」
「ただの犬?」
「ああ、ただの犬」
「……でも、さっき喋ったわよ」

「トトが喋った!?」

 ブリキマンとかかしは驚いて顔を見交わし、そして眠っているトトに目を落とした……。


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