ダミアという名前には由来がある。
お母さんが、まだ幼稚園やったころに飼ってたネコがダミアやったらしい。
お祖父ちゃんの言うところでは、アホなネコやったらしい。
「ダミア」と呼びかけても知らん顔。どうも自分には名前があって、それが『ダミア』という三音節の言葉やいうことが理解でけへんかったみたい。
檀家さんが「たま」と呼んでも反応するときがある。むろん『くま』でも『ミケ』でも『ショコラ』でも。『ダミア』でも、たまには「にゃんだ?」と気まぐれで向くときがあったらしいけど、とにかく決められた単語が名前やいうことが理解でけへんかったらしい。
「いや、ちゃんと姓名判断の先生につけてもろたんや。むろん、料金払てな」
「猫の名前に姓名判断!?」
正直びっくりした。
そら、可愛いニャンコやったんやろけど、お金払てまで? 孫やさかいに、正直にビックリする。
「そら、ネコやさかいな、料金は半額に値切ったけどな」
「ハハ、値切ったん? お祖父ちゃん?」
「それが、覚えよらへん……十日ほどで諦めてなあ、死んだ婆さんなんか『ネコ』で通しとった」
「アハ、うちが『ネコちゃん』て呼んだんといっしょや!」
「せやなあ、桜は婆さん似ぃなんかもしれへんなあ」
お婆ちゃんは、あたしが生まれる前に死んださかい、似てる言われてもピンとけえへん。
「諦念(伯父さん)なんか、担任の先生とかフラれた女の子の名前で呼んどったなあ」
「え、伯父さんが!?」
「ああ、腹いせのつもりやったんやろなあ。ダミアは、名前いうのは「おーい」とか「ちょっと」とか「もしもし」くらいの呼びかけの言葉やと思とった感じやなあ」
「南無阿弥陀仏の南無といっしょや」
「せやなあ」
「ほんで、あの子をダミアて呼んだんは?」
「お金のかかった名前やさかいなあ、使わならもったいない思てなあ。ダメもとで」
ダメもと言うのは引っかかったけど、まあ、ええか。
そこでお祖父ちゃんはガタピシと襖を開けた。
「まあ、掃除したら使えんことないか。ほんま、ここでええか?」
「うん、隠れ家いう感じでグッド!」
「ほなら、明日でも、文芸部の子ぉら呼んで掃除したらええわ」
「うん、ありがとう伯父さん!」
じつは、ダミアのことが好きでたまらん頼子さん「桜んちで部活やっちゃだめかなあ!?」と思いついた。むろん、あたしは構えへんねんけど、ティーセットとか部活に必要なあれこれを考えると、あたしの部屋いうわけにもいかへんので、お祖父ちゃんといっしょにお寺の空いてる部屋を見繕ってるとこ。
で、ダミアの由来なんかを聞きながら、本堂裏の使てない道具部屋に決まったとこなんです。