大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真夏ダイアリー・39『ジーナの庭・1』

2019-10-14 06:53:58 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・39 
『ジーナの庭・1』     


 
 
 国務省から戻ると、さすがに真夏も二人の大使も疲れ切っていた。

「三十分もすれば忙しくなる。少し休息をとっておこう。真夏君も部屋で休んでいたまえ」
 野村大使は、おしぼりで顔を拭きながら言った。来栖特任大使は、ネクタイを緩めてソファーに体を預けている。
「では、しばらく失礼します」
 わたしは、大使館の三階にある自分の部屋に向かった。

 ドアを開けると、オソノさんが立っていた……。    「ジーナの庭」の画像検索結果

 
 正確には、わたしが、オソノさんのバーチャルロビーに立っている。
「お勤め、ごくろうさま」
 そう言うと、オソノさんは指を鳴らして違う女の人に変身した。
「あなたは……」
「オソノよ。ちょっとイメチェンしたけど」
 わたしは、スマートな変身ぶりに付いていけなかった。
「あなたの任務はここまで。あとは歴史の力にまかせるしかないわ……少し、お庭でも散歩しない?」
「は、はい」
 庭に出ると、程よい花の香りがした。最初ここに来たときのCGのような無機質さは無くなっていた。
「良い香り……あ、エリカがいる!」
 庭に出てすぐの舗道の突き当たりに、ジャノメエリカがいた。大きさも、花の咲き具合も、お母さんと大洗に旅行に行く前と同じだった。
「あなたの家にあった、ジャノメエリカのDNAで作ったレプリカだけど、気に入ってもらえて嬉しいわ。帰るときに持って帰っていいわよ」
「ありがとう、ジーナさん!」
 言ってから気づいた。わたしってば、ジーナさんと呼んでいる。
 左に折れると、一面のお花畑だった。
 すみれとコスモスが一緒に咲いたりして、季節感はめちゃくちゃだったけど、わたしの好きな花たちばかりで、嬉しくなった。宮崎アニメの『借り暮らしのアリエッティー』の庭のようだった。
「この香りを出すのが大変でね。最初に来てもらったときは、あり合わせのホログラムで間に合わせたけど、今のは、限りなく本物に近くしてあるわ」
「え、これ造花なんですか?」
「ええ、枯れることもなければ成長すりこともない。でも、さっきのエリカは本物よ」

 やがて『紅の豚』のジーナの庭にあったのとそっくりな四阿(あずまや)が見えてきた。

「ステキ、ジーナの四阿だ!」
「あそこで、お話しましょう」
「ちゃんとアドリア海まであるんですね……」
「書き割りみたいなもの……世界も、こんなふうに作れるといいんだけどね」
「……一つ聞いていいですか?」
「なぜ戦争を止めるようにしなかったか……でしょ?」
「はい。わたし、いろんな知識をインストールされて分かったんです。真珠湾攻撃はハル長官に交渉打ち切りの申し入れが遅れて、リメンバーパールハーバーになったんですよね」
「そうよ」
「それを間に合わせるのが、わたしの任務だった」
「そう」
「それだけのことが出来るのなら、戦争を起こさない任務につかせてくれれば……」
「春夏秋冬(ひととせ)さんが言ってなかった? わたしたちが遡れる過去は、あなたの時代が限界だって」
「ええ、省吾だけがリープする力があったけど、省吾も限界だって」
「そう、だから、力のある真夏さん。あなたにかけるしかないの」
「だから、戦争をしない方向で……あの戦争では三百万人以上の日本人が死んだんでしょ」
「今の技術じゃ、あなたを送り出せるのは、1941年の、あの日が限界なの。それに、あの戦争の原因は、日露戦争にまでさかのぼる。例え、あの時代までさかのぼっても夜郎自大になった日本人みんなの心を変えることはできないわ」
「日本を、あの戦争に勝たせるんですか?」
「それは無理、どうやっても国力が違う。勝てないわ」
「じゃあ……」
「真珠湾攻撃を正々堂々の奇襲攻撃にするの。予定通りにね……そうすれば、リメンバーパールハーバーにはならない。ハワイを占領した段階で、アメリカは講和に乗ってくるわ」
「やっぱり日本を勝たせるんですか?」
「いいえ、講和よ。日本もかなりの譲歩を迫られるわ」
「じゃ、軍国主義が続くんですね……」
「講和が成立すれば、そうはならないわ。わたしたちの計算では、そうなの……信じて。あなたは、歴史を望める限り最良の方向に導いたのよ」
「……だといいんですけど」

 その時カーチスそっくりのおじさんが、何かを持ってやってきた。

「いけない人、ここはプライベートな庭よ」
「どうしても、君に伝えたいことがあってね」
 カーチスのそっくりは、USBのようなものを渡して、あっさりと帰っていった。

 ジーナを口説くことも、大統領になることも宣言しないで……。
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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・4『第一章・2』

2019-10-14 06:42:16 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・4   
 
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 

『第一章 五十四分三十秒のリハーサル・2』

 と、いうわけで、今日はコンクール城中地区予選のリハーサル。

 トラック二台には、貴崎先生と舞台監督の山埼先輩が乗っている。それ以外の部員は、学校で道具を積み込んだ後、副顧問の柚木先生に引率されて地下鉄に乗ってフェリペを目指した。
 フェリペ学院も坂の上にある。
 
 地下鉄の駅を地上に出て左に曲がると「フェリペ坂」。道の両側が切り通しになっていて、その上にワッサカと木々が覆い被さっている。その木々をグリーンのレース飾りのようにして長細い空が見える……。
 ひとひらの雲が、その長細い紺碧の空をのんびり横切っていく。
『坂の上の雲』 
 お父さんが読んでいた小説を思い出した。わたしは読んだことはないけど、タイトルから受けたイメージは、こんなの、ホンワカとした希望の象徴……ホンワカは、この五月に大阪に越していったはるかちゃんのキャッチフレーズ……。
 はるかちゃんは、スイッチを切ったように居なくなってしまった。この夏に一度だけ戻ってきたらしい。それから、はるかちゃんのお父さんが大阪に行って、一ヶ月ほどして戻ってきた……足を怪我したようで、しばらくビッコをひいていた。
「なにがあったの?」
 一度だけお父さんに聞いた。
「よそ様のことに首突っこむんじゃねえ」
 お父さんは、ボソリと、でもキッパリとそう言った。

 はるかちゃん……思わずポツリとつぶやいたっけ。

「あ」

 わたしは踏鞴(たたら)を踏んだ。ホンワカと雲を見ていて、縁石に足を取られたんだ。
「気をつけろよ、まどか。本番近いんだからな」
 峰岸部長の声が飛んできた。
「そうよ、怪我はわたし一人でたくさん」
 潤香先輩が合いの手を入れてくる。みんなが笑った。まだリハーサルだというのに連勝の乃木坂学院高校演劇部は余裕たっぷり。
――あ、コスモス。
 わたしは踏鞴を踏んだ拍子に切り通しの石垣に手をついて、石垣の隙間から顔を出していた遅咲きのコスモスを摘んでしまった。
――ごめんね、せっかく咲いていたのに。
 わたしは遅咲きのコスモスをいたわって、袋とじになっている台本の一ページ目の間に挟んだ。コスモスには思い出が……それは、またあとで。フェリペの正門が見えてきちゃった。


 リハといってもゲネプロ(本番通りの舞台稽古)ができるわけじゃない。あてがわれた時間は六十分。照明の仕込みの打ち合わせをアラアラにやったあと、道具の仕込みのリハをやる。
 本番では立て込みバラシ共々二十分しかない。四トントラック二台分の道具を、その時間内でやっつけなければならないのだ。潤香先輩が階段から落っこちたのも、ばらしを十八分でやったあと、フェリペの搬出口を想定した講堂の階段を降ろしている時に起きた事故なんだ。
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宇宙戦艦三笠・30[グリンヘルドの遭難船・3]

2019-10-14 06:33:56 | 小説6
宇宙戦艦三笠・30
[グリンヘルドの遭難船・3] 



 
 
「グリンヘルドの人口は200億を超えているんです」

 エルマの一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。
 ……とすれば、惑星としてのキャパは60億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。
「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」
 修一は、高校生としても常識的な質問をした。地球は70億を目前に、人口の抑制を考え始めている。

「増えた人口は他の惑星に移住させればいい。古くから、そう考えられてきました」

「それで、地球に目を付けたんですか」
 樟葉が冷静に聞いた。
「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」
「ヤマトが?」
「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後にせまった寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化の防止を続けさせるために」
「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」
 樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。
「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたんです。他の惑星の人類を滅ぼして移住するのは間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」

 エルマの目が深い悲しみ色に変わった。

「いったい何を?」
「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のないPKOに参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきたのです。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星雲の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」
「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」
「ちょっと、信じられないくらいね」
「すぐに、信じられるわ……」
「艦長、解析不能の……」

 トシが、言葉の最後を言う前に、それはやってきた。

 エルマの体が一瞬輝いたかと思うと、エルマは体をのけぞらして息絶えてしまった。
「エルマ!」
「解析不能のエネルギー波は……エルマを殺すためだったんだ」
 トシが悔しそうに、拳を握りしめた。

「監視船への照準完了」
「出力は50で」
「あんな船一隻なら10で十分よ」
 砲術長の美奈穂が言う。
「跡形も残したくないんだ」
「分かった、出力50……設定完了」
「テーッ!」

 三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・23『晩御飯はかす汁』

2019-10-14 06:21:51 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・23
『晩御飯はかす汁』
         高師浜駅


 きょうは一月十七日なんや。

 半分目覚めた頭で、そう思た。時計は見んでも分かってる、早朝の四時半や。

 以前は気になって問いただしたこともあった「なんで、毎年出かけんのん?」とか「あたしも行ったらあかんのん?」とか。
 そのつどお祖母ちゃんは「お祖母ちゃんの年中行事やからなあ」としか言わへん。
 静かな言い方やけど――これについては言われへん――そんなオーラがあって、いつの間にか聞かへんようになってしもた。

 せやけど納得してるわけやない。

 お祖母ちゃんは、小学一年のあたしを引き取って育ててくれた。お母さんのお母さんやから。
「聞きたいこといっぱいあるやろけど、大きなるまで待ちなさいね」
 最初に乗せられた車の中で、お祖母ちゃんは言うた。
「大きなるまでて、何歳まで?」
「うーーーん、美保がお嫁に行くときに教えたる」
 これは教える気ないなあと思た。そやかて、あたしは器量が悪い。小一のあたしは一生独身やと思てたから。

 六年生までは、お祖母ちゃんが一月十七日の早朝に出かけてるのん知らんかった。
 あたしが起きる時間までには帰ってたから。

 六年生の時に阪神淡路大震災のことを習った。

「あの震災がなかったら、ぼくは学校の先生にはなってなかったやろなあ」
 担任の黒田先生が、そう言うた。
 黒田先生は、六年生の時に震災に遭うた。当時神戸に住んではったんや。
 あの震災で、黒田先生の担任の先生が亡くならはった。それで黒田少年は先生になる決心をしたんや。
 震災のことは、毎年朝礼やら集会で校長先生なんかが訓示みたいに話しするんで知識としては知ってた。
 せやけど心の痛みとして教えてくれたのは黒田先生だけやった。
「その先生は、どんな先生やったんですか?」
 掃除当番の時に聞いてみた。
「掃除終わったら職員室おいで」
 先生は卒業アルバムを見せてくれはった。
 集合写真と班別の写真に、その先生は写ってた。

 妻夫木 綾

 めっちゃ若うて可愛い先生やった。
 あたしは思た……黒田先生は妻夫木綾先生を好きやったんや。
 たぶんクラスの男の子のほとんどが好きやったんとちゃうやろか。

 美人薄命……あたしは多分長生きやろなあ。

 アルバム見せただけで、先生はなんにも言わへんかった。
 ちょっと熱がこもって、ちょっと恥ずかしそう。
「ありがとうございました」
 そう言うてアルバムを返した時、先生は小さく頷いた。
 あたしは大きく頷いた。先生は可愛く狼狽えてた。
 その後先生は結婚して女の子が生まれた。
 年賀状に書かれてた赤ちゃんの名前は『綾子』やった。
 あたしは年賀状持ったまま二回前転のでんぐり返しをやった。
「ハハ、なんや林芙美子みたいやなあ」
 自分こそ林芙美子みたいに座卓で原稿書きながら、お祖母ちゃんが言うた。

 このクソ寒いのに、全校集会。

 校長先生が長々と震災の話をする。
 命の大切さと、国家的危機における日本人の秩序正しさとかの内容を気持ちよさそうに話す。
 途中気分の悪なった女子が保健室に連れられて行った。校長先生は、かすかに嫌な顔をした。

 家に帰ると、晩御飯はかす汁。

 かす汁は、あたしも好物で、お祖母ちゃんの冬のメニューの定番。
「お祖母ちゃん、一月十七日は、いっつもかす汁やなあ」
「え、そうか?」
「うん」
「せやかて、美保、好きやろ?」
「うん、大好物」
「そら良かった」
「ひょっとして、震災の日ぃもかす汁やったん?」

 お祖母ちゃん、眼鏡を外してセーターの袖口でこすった。
「湯気で眼鏡が曇ってしもた、目ェにも入ってしもた」

 うそ、眼鏡は曇ってなんかなかったよ、お祖母ちゃん……。
 
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小悪魔マユの魔法日記・63『AKR47・7』

2019-10-14 06:07:37 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・63
『AKR47・7』    


 
 不敵で無責任な高笑いを残して、デーモン先生は消えてしまった。

 足もとではポチが嬉しそうにお座りしている……あ、あれ?

 気がつくと目線が低くなっていた。目の前にあるのがAKR47のスタジオやら、事務所が入っているビルだということが分かったが、いやにデカイ。スタスタとビルの玄関に行って、ガラスに姿を映してみた。
「え……うそ!?」
「かわいい~!!」
 二番目の声とともに、マユは抱き上げられた。
「この子、豆柴だよね?」
 AKR最年長の服部八重の声だった。
「飼い犬でしょうね、どこから来たのかしら?」
 この声は、最年少の矢頭エモである。
――顔近づけんなよ、こら、スリスリなんかすんな!
 そう言っても犬語なので、二人には分からない。
「あ、首輪の下に、名札……ポチっていうんだ」
「でも、この子、女の子みたいですよ……」
――こらあ、どこ見てんだ!

 というわけで、豆柴のポチとして人間界にもどされたマユは、迷子犬として、事務所の受付に預けられた。
 段ボールの箱に入れられ、子犬用のドッグフードと、水が与えられた。
 こんなもの……と、思ったけれど、豆柴の子犬はすぐにお腹が空く。ドッグフードがご馳走に見えてきた……と、思ったら、シッポを振りながらがっついていた。その姿がかわいいのだろう、受付前にきた人たち、休日なので、ほとんどAKRが所属するHIKARIプロの人間、それも早朝からレッスンのあるAKRのメンバーが多かった。

「こいつ、ウンコしたがってるよ」
 出勤してきた黒羽ディレクターが言った。
「やだ、ウンチですか!?」
 受付の女の子が、もろイヤな顔をした。
「仕付けられてるようだから、ここじゃやらないよ。でも、このソワソワ感、早くさせてやんないともらしちゃうよ……」

 豆柴のあわれさ、食べたらすぐに胃腸が動き出し、もよおしてしまう。黒羽ディレクターは、管理人室から古新聞とレジ袋をもらってきて、ポチになったマユを、ビルの前の歩道に連れて行った。
 街路樹の植え込みに下ろされた。
「さあ、ここなら落ち着いて用が足せるだろう。オレあんまり時間無いから、早くすませろよな」
 と、言われても犬になって三十分あまり、意識がついてこない。出るものが出てこない……。
 
 そこに、早朝練習にジョギングをやっていたリーダーの大石クララと、マユの姿をした拓美がやってきた。
――ちょっと、拓美!
「え……!」
 拓美が声を出して驚いた。無理もない、魔界で補講を受けていると思っていたマユが豆柴のポチになって、植え込みでしゃがんでいるのだ。
「お早うございます」
 クララといっしょに、黒羽に挨拶しながら拓美は考えた。
「この子、わたしが飼っているポチなんです。いつも決まったところでないとおトイレできない子だから、わたし、やります」
「頼むよ、でも、犬連れて来ちゃいけないなあ」
「すみません。わたしも気がつかなかったんですけど、ついてきちゃったんですね。気をつけます」
 黒羽は、一言ありげだったけど忙しいのだろう、古新聞とレジ袋を渡すと、ビルの中に消えた。
「この子、女子トイレに連れていってあげたほうがいいんじゃない?」

 クララは、分かっているようだった……。


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