大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・091『M資金・23 ハートの女王・4』

2019-10-26 10:59:54 | 小説

魔法少女マヂカ・091  

『M資金・23 ハートの女王・4』語り手:ブリンダ 

 

 

 勅任議員に任ぜられると同時に名誉ある人質として女王の宮殿に送られることとなった。

 

「オレたちの車を使えよ!」

 言ってみたが遅かった。T型フォードの高機動車はいつの間にか姿が見えなくなって、代わりに議会専用の車が用意された。

「一応の形式だから辛抱してくれ。宮殿に着くまではドアは開かない。自動運転になっているから運転手を買収することもできない。ガードが一人騎馬で同行するんで安心してくれたまえ。君たちが人質として宮殿に到着して初めて議会が開ける。くれぐれもよろしくな」

 議長のおざなりな説明が終わると、オレたちを載せた護送車はゆっくりと動き出した。

「あ、あの護衛は!?」

 議事堂の門を出たところで騎乗の護衛が待ち受けていたが、それは、オレたちを追いかけていたビーフイーターのキャロラインだ。てっきり撒いたつもりになっていたが、油断がならない。

「どうもハメられたような気がする……」

 胸の谷間から首だけを覗かせたマヂカが眉を寄せる。

「同感だ、敵は女王なのか議会なのか、はたまたビーフイーターどもなのか……」

 カオスにやってきて以来、いろんなことがあったが、その都度目の前の敵がコロコロ変わって、なんだか本質的なことを見落としているような気がする。

「やっぱ、チェシャネコでしょ!」

 マヂカが右手と右の前足を挙げて言い切った。

「ああ、しかし、ここしばらく現れていないなあ」

「自分が出るまでもないとタカをくくってるのかなあ、護送車に載せられて手も足も出ないし」

『法よ』

 護送車が林の脇を通ると、陰になって車内が暗くなった。フロントガラスが半ば鏡になって、そこに半分透けた鏡の国のアリスが映ったのだ。

「アリス、無事だったんだな」

『一応ね、やっぱ、鏡からは出られないけど』

「で、法というのはどういう意味だ?」

『チェシャネコは、常に最強のものに化ける。ハートの女王の世界は議院内閣制で、法の支配が徹底している。だから、魔法少女は本来の力が出せないのよ。法という形のないものに化けているから、姿そのものがないしね』

「姿のないものは、オレやマヂカの力をもってしても攻撃のしようがないぞ」

「わたしも、牛女の姿を解除してもらわなきゃ力の出しようもないんだけど」

『……リスクはあるけど、いい考えがあるわ』

「「なんだ!?」」

『それは……』

 マヂカと身を乗り出すと、護送車は林の日陰から出てしまい、フロントガラスが明るくなって、アリスの姿が消えてしまった。

 

 ビーフイーターのキャロラインが手を挙げて、護送車が停止した。

 

「なんだ、もう着いたのか?」

 だが、街道の途中で宮殿らしきものは、どこにも見えない。

―― 昼食休憩にする、シートの背もたれからランチが出てくるから食べろ ――

 車内のスピーカーを通してキャロラインの声がした。

 人質のランチだから期待は出来ない。

 

 ズイーーーーーン

 

 シートの背もたれから出てきたのは、超特盛の牛丼だった。

 チープ感は否めないが、味とボリュームに問題は無い。

「ひょっとして、マヂカは共食いにならないか?」

「胃袋は人の体の部分にあるからいいのだ(^_^;)」

 都合のいいことを言う。

 キャロラインはと見ると、四人前はあろうかと思われる牛丼のファミリーパックを食べている。

 さすがは、ビーフイーターだ!

 

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真夏ダイアリー・51『再びジーナの庭へ』

2019-10-26 06:42:29 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・51
『再びジーナの庭へ』        




 気が付くとジーナの庭にいた。

 時空と時空の狭間のような、穏やかでバーチャルな空間。
 
 わたしは、ジーナの四阿(あずまや)に足を向けた。

「……お久しぶりです」
「わたしには、ついさっき。ここは時間の流れ方がちがうから」
「すっかり、ジーナさんのナリが身に付いてきましたね」
「バカを待つには、この方がいいかなって……」
「バカって、わたしのことですか?」
「かもね……でも、あなたはフィオの役回り。ポルコ一人じゃ空中戦はできないわ」
「じゃ……」
「そう、省吾のやつ。危ないから一度引き戻したんだけどね」
「あ……図書室で見たのが?」
「ええ、そのあとすぐに向こうに行っちゃったけど」
「え、また行っちゃったんですか!?」
「昭和15年から戻ったばかりだっていうのにね」
「昭和15年……限界を一年超えてる」
「三国同盟を阻止するんだって。あれがなきゃ、アメリカと戦争せずにすんだから……むろん失敗。戻ったところを、あなたに気づかれるようじゃね」
「じゃ、今度は?」
「昭和16年のアメリカ……」
「なにをやってるんですか?」
「さあ……連絡をとれないようにしているから、あの子」
「わたしは、なにを?」
「うん……その決心がつかないまま、あなたを呼んじゃった」
「じゃ……」
「お茶でも飲んで、わたしも考えるから」
「はい……」

 アドリア海は、どこまでも青かった……波音……紅茶のかぐわしい香り……。

 ふと我に返ると、ジーナさんの姿が無かった。
 テーブルの上に手紙があった。

――けっきょく決心がつきません。ラピスラズリのサイコロを振って、出た目に従ってください。

 わたしは、ラピスラズリのサイコロを振った。そんなに力を入れたわけじゃないのに、サイコロは、テーブルの上をコロコロと転げ回った。そして「赤い飛行機」という面で止まりかけて、コロンと転げた。

 サイコロは、1942年6月2日を指して止まった……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・16『演劇部の倉庫』

2019-10-26 06:35:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・16   
『演劇部の倉庫』 

 
 
 揺れるトラックの中。潤香の一束の髪は、わたしのバッグの中に入っている。

 あのあと、潤香のお母さんは、こう付け加えてくれた。

――潤香の脳内出血は、原因がはっきりしないんです。最初の事故で、そうなってお医者様が見逃したのか、二度目のことが原因なのか……それに血統的なこともあるんです。主人の父も兄も、同じようなことで……あ、今は潤香の容態も安定していますので。先生もコンクールの真っ最中なんでしょ、どうぞお戻りになってください。

 そこに、潤香の担任の北畠先生もやってこられたので、お任せしてフェリペに戻ってきた。そして気になることがもう一つ……。

「先生、着きましたよ」
 そう言って、運ちゃんはポップスをカットアウトした。
「おかえりなさい」
 警備員のおじさんが裏門を開けて待っていてくれた。
 裏門からグラウンドを斜めに突っ切ると、演劇部の倉庫のすぐ前に出る。トラックを入れるとグラウンドが痛むので体育科は嫌がるんだけど、正門から入ると、中庭やら、植え込み、渡り廊下の下をくぐったり、十倍は労力が違ってくる。長年の実績で大目に見てもらっている。え、わたしが脅かしてんだろうって? 断じて……多分、そういうことはアリマセン。

 トラックを降りると、里沙をはじめとする別働隊が渡り廊下をくぐってやってくるところだった。

「先生、ドンピシャでしたね」
 里沙が嬉しそうに言った。
「一服できると思ったんだけどな。いつもの道が進入禁止で回り道したもんだからよ」
 そう言いながら運ちゃん二人はそれぞれのトラックの荷台を開けた。
「しまう順序は、分かってんな。助手」
 舞監のヤマちゃんが、舞監助手の里沙を促した。
「はい、バッチリです。まずはヌリカベ九号から」
 と、いいお返事。技術やマネジメントは確実に伝承されているようだ……あれ?
「ねえ、夏鈴がいないようだけど?」
「ああ、あいつ駅で財布忘れてきたの思い出したんで、フェリペに置いてきました」
 例外はいるようだ……。

 それは、最後のヌリカベ一号を運んでいるときにかかってきた。三年唯一の現役、峰岸クンからの電話だった。わたしも疲れていたんだろう、思わず声になってしまった。
「え……落ちた!」
 鍛え上げた声は倉庫の外まで聞こえてしまった。みんなの手がいっせいに止まった。携帯の向こうから、峰岸クンのたしなめる声がした。

 やっぱ、あの人が審査員にいたから……連盟の書類を見たときには気づかなかった。あの人の本名は小田誠、それが芸名の高橋誠司になっていたから。風貌も変わっていた。あのころは、長髪で、いつも挑戦的で、目がギラギラしていた。
 それが、今日コンクールの審査員席で見たときは、ほとんど角刈りといっていいほどの短髪。目つきも柔らかく、しばらくは別人かと思っていた。分かったのは、不覚にも向こうから声をかけられたときだった。
「よう、マリちゃんじゃないか!」
「あ……ああ、小田さん!?」
 時間にして、ほんの二三分だったが、一方的にしゃべられ、気がついたらアドレスの交換までさせられてしまった。この人が審査員……まして、こっちは潤香が倒れて、まどかのアンダースタディー……。

 気づいたら、みんながわたしの周りに集まっていた。仕方なく要点だけを伝えた。

「さあ、みんな。仕事はまだ残ってるわよ!」
 わたしは、手を叩いてテンションを取り戻そうとした。
「先生。潤香先輩のことも教えていただけませんか」
 憎ったらしいほどの冷静さで、里沙が聞いてきた。
「分かったわ、手短に話すわね……」
 わたしは潤香のお父さんが感情的になられたことを除いて淡々と話した。

 むろん、潤香の髪が、わたしのバッグに入っていることは話さなかった。
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宇宙戦艦三笠・42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4]

2019-10-26 06:27:07 | 小説6
宇宙戦艦三笠・42
[宇宙戦艦グリンハーヘン・4] 


 
 
「いったい、どんな仕掛けになってるのよ!?」

 前の壁が消えると、ミネアが怒りに震えて立っていた。
「仕掛けも何も、クルーは全員ここに居るし、三笠は大破したままだ」
「なにか隠している。三笠とあなたたちの情報は、全て取り込んだけど、こんな能力が隠されているなんて分からなかった。手荒なことはしたくなかったけど、もう容赦しないわよ!」

 ミネアが手を挙げると、残りの三方の壁が消えて、バトルスーツに身を包んだグリンハーヘンの兵たちが100人ほど現れた。

「情報が得られれば、それでいい。本当のことを言うまで、一人ずつ死んでもらうわ……まずは、アナライザーのクレアから。あなたは本当の人間じゃない。ボイジャー1号が義体化しただけ。最初の見せしめにはちょうどいい……」
 100人の戦闘員が一斉に光子銃をクレアに向けた。
「待て、クレアは人間と同じだ、オレたちの仲間だ、手を出すな」
 修一の抗議に、ミネアは冷笑をもって応えた。
「バカにしないで、人間の中でさえ序列があるのよ。機械に仲間意識が持てるわけがないじゃない。クレアを殺して!」

 その瞬間、再び三方の壁が実体化して、100人の戦闘員たちは壁の向こう側になってしまった。

「え……何が、起こったの。壁を開いて!」
 ミネアの声に応える者はいなかった。そして、天井の一部が開いてタラップが降りてきた。
「こんな操作、あたしは命じていないわ。だれがやっているの、返事をしなさい!」

「冷静な話をしましょう……」

 そう言いながら、タラップを降りてきたのは、みかさんだった。
 タラップは垂直なので、降りてくるみかさんの、スカートの中がチラリと見える。修一とトシは条件反射で見てしまう。
――やっぱ、神さま。パンツは純白なんだ――
 無邪気な男性本能に、みかさんは微笑で答えた。

「誰よ、あなたは?」
「三笠の船霊です。みんなは親しみをこめて『みかさん』と呼んでくれるわ。
「そんな情報は無い……」
「それは、あなたたちに信仰がないから。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、はるか昔に宗教の概念を捨ててしまったものね。無いものは理解できない」
「そんなことが……」
「三笠にやってきた人たちは無事よ。ミネアさん、あなたとの話が終わったら解放します」

 みかさんは、日ごろから微笑を絶やさない。
『微笑女』というダジャレが言いたくなるほどに人の心を和やかにしてくれる。しかし、この時のみかさんの微笑は、フレンドリーでありながらも神さまらしく慈愛に満ちたものだった。

 ミネアは恐怖を、三笠のクル-たちは頼もしそうに、みかさんの次の言葉を待った。
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秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2019-10-26 06:12:38 | ボクの妹
秋野七草 その七
『ナナとナナセのそれから』       

 
 
 そのニュースは、三十分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」

 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ。僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の方が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「そう……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

 いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は墜ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋に籠って泣いた。

 オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という予備自衛官としては限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で、日本の勝利で終わりかけた。アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれて石垣の部隊は混乱した。

 海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ナナと山路は似た者同士だ。

 

 秋野七草  完 
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小悪魔マユの魔法日記・75『期間限定の恋人・7』

2019-10-26 05:58:46 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・75
『期間限定の恋人・7』     



「一週間だけの期間限定……だけどね」

「それは……」
「聞いて」
 美優は、黒羽の言葉をさえぎって続けた。
「芸能プロって、夢を売るお仕事でしょ。うちもそう、ブティックは女の子に夢を売るの。ガーリーファッションとかゴスロリとか……うちは、あんまり大仰なロリータファッションにならないように気をつけてる。そのまんまご近所歩いても違和感ない程度に。田舎からおばあちゃんが来て目を回すようなオーバーロリータにならないようにとかね」
「それは認めるよ。そのセンスの良さと、お母さんの商売の確かさで、うちもコスの注文は、ほとんど、このロ-ザンヌだもんな」
「でしょ。商売の駆け引きじゃ、お母さんにかなわないけど、ファッションの感覚には自信ある。わたも……!」

 美優は、平静に言えたつもりだったが、緊張してシンクに食器を投げ入れるように放り込み、コーヒーカップを割ってしまった。
「アッ……!」
 指を切ってしまった。心臓がバックンバックンだったので、ケガの割には血が多めに流れてしまった。
「だめだ、手を心臓よりも高く上げて。救急箱は、どこ!?」

 黒羽は十代のころADになり、下積みからHIKARIプロのチーフディレクターになった男である。ちょっとしたケガの手当などはお手の物なのだ。
「ありがとう……こんなオッチョコチョイじゃダメかな」
「気持ちは、嬉しいけどね」
「嬉しい気持ち……黒羽さんじゃなく、お父さんに……」
「あ……そうだね」
「わたしも、ひところは命が危ないって言われてた(本当は、見かけは元気だけど、一週間の命)でも、元気になって分かるの。お母さんや、友だちが気遣ってくれたことが。そのときは気づかなかったけど、わたしが元気になれたのは、そういうみんなの心があったから。お父さんにも必要よ、あと一週間のお命なら、なおさらのこと……それとも、わたしなんかじゃ黒羽さんには釣り合わない?」
 
 黒羽は、包帯を巻くのと同じ確かさで言った。

「そんなことは無いよ。だって、高校時代はミス乃木坂学院にだって選ばれたじゃないか」
「え、そんなこと覚えていてくれてたんですか」
「ああ、一時は、うちの事務所からスカウトしようかって、話が出たぐらいなんだから」
「ほんと!?」
「ああ、お母さんにキッパリ断られたけどね」
「そう、美優はオンチだし、運動神経も亀さんといい勝負だもんね」
「お母さん!?」

 母が、車のキーをチャラチャラいわせながら、リビングのドアのところに立っていた……。

「マダム……」
「黒羽さんが居て助かったわ。47着の衣装、わたし一人じゃ運べなかった」
「わたしが居るじゃない」
「美優に手伝ってもらったら、倍時間がかかる!」
「もう、そういうこと言う?」
 段ボール箱を三人で運びながらの会話。母の真意は分かっていた。残りの一週間、美優の気ままに過ごさせてやりたいのだ。
「黒羽さん、わたし、こう見えて、あちこちガタがきててね。一週間ほど店休もうかと思って」
「ほう、それは、すみません。無理な仕事させて」
「で、この仕事がキリだから、徹夜したのよ。あ~眠い」
「だめよ、お母さん。いつも通りにしてなくっちゃ!」
「だって、美優……!」
 段ボール箱を運びながら親子が睨み合う。その両方の目が潤んでいた。
「……どうかしました?」
 黒羽が脳天気に聞いた。
「バカな親を持つと……」
「バカな娘を持つと……」
 同じグチが、親子の口から同時に出た。

「みんな、新しいコスができたから、自分の名前を見て試着して」
 黒羽が、そう言うと、メンバーのみんなが集まって、キャーキャー騒ぎ出した。
「わたしと八重さんで配るから、順番に並んで!」
 大石クララが仕切った。それでも新曲『コスモストルネード』への意気込みはすごいもので、メンバーの興奮は冷めなかった。

「ちょっと、みんな聞いてください!」

 美優が叫んだので、みんな静かになった。そして美優は宣言した……。

「……わたしと黒羽さん、婚約しましたから!」
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