大丈夫やったあ?
そんなメールが入ってきた。
差出人は、小学校の友だちのAさん。
サブジェクトだけでは分からへんので、本文を読む。
堺でダンジリの事故があったって、ニュース。ひょっとしたらお祭り好きの桜が巻き込まれてるんちゃうかと、心配でメールしました。
ダンジリの事故?
わけわからへんので、ネットニュースで確認。
あった、これや。
鳳の方のお祭りで、引き回してたダンジリが電柱に激突して怪我人が出てる。
知らんかった。
ダンジリの事故があったことも、堺にダンジリがあったことも。
ダンジリいうのは、てっきり岸和田やと思てた。
ユーチューブで検索したら動画が何本か投稿されてた。電柱に激突すると衝撃で屋根がすっ飛んで、ダンジリに乗ってた人がボロボロと落ちて、直後にダンジリに吊り下げられてた提灯が一斉に消えてしもてた。
「電柱が勝ったんだ」
いっしょに見てたコトハちゃんが眉を顰める。
コトハちゃんは想像力が豊かなんで、たまに言動が飛躍する。
ダンジリいうのは重さが四トンもあるらしい、大型乗用車の二台分以上。それがドッカーンとぶつかったんやから、電柱が折れても不思議やない。
こないだ関東を襲った台風は何百本も電柱を倒していった。それをリビングのテレビで観てて――電柱ってもろいんだ――と従姉同士で思たわけ。せやさかい、いまの感想は、よう分かった。
「ダンジリ保険があるんちゃうか?」
晩ご飯のときに話題になると、伯父さんがお茶を飲みながら言う。
「「ダンジリ保険?」」
コトハちゃんと声が揃う。
「うん、ダンジリで事故がおこったら保証してくれる保険があるんや。怪我した人には気の毒やけど、ま、保証いう点では安心なんちゃうかなあ」
「せやけど、それは岸和田だけとちごたかなあ?」
お祖父ちゃんが口をはさんで、伯父さんは「せやったかなあ」と首を捻る。
あたし的には――堺も広いねんなあ――と感心する。
お寺いうのは、地域の情報センターみたいなとこがあって、近所のことは、よう伝わって来る。ダンジリの情報に疎いのは、それだけ事故が起こった地域から離れてるいうことや。
念のため、グーグルマップで確認したら、四キロは離れてる。電車で駅五つ分。
一口に堺いうても、広いなあと実感。
「でもさ、桜ちゃん」
風呂上がりのコトハちゃんが頭を乾かしながら、あたしの部屋にやってきた。
「Aさんがメールしてきたのは、これをネタに桜ちゃんに会いたいってサインじゃないかなあ。事故の怪我人は男ばっかというのはニュースでも分かることだしさ」
「あ、そっか」
さすが、想像力のコトハちゃん。
スマホを取り出して、Aさんに長いメールを打って、こんど一回会おうよと送る。久々のAさんやから、文章考えて、十分ほどかかってしもた。
やっと打ち終わって振り返ると、コトハちゃんはダミアと遊びまくっておりました。
そうか、これをネタにダミアと遊びたかったんやな。
その夜は、ダミアを真ん中に挟んで二人と一匹で寝てしまいました。