大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・076『ダンジリの事故』

2019-10-08 13:19:21 | ノベル
せやさかい・076
『ダンジリの事故』 

 

 

 大丈夫やったあ?

 

 そんなメールが入ってきた。

 差出人は、小学校の友だちのAさん。

 サブジェクトだけでは分からへんので、本文を読む。

 

 堺でダンジリの事故があったって、ニュース。ひょっとしたらお祭り好きの桜が巻き込まれてるんちゃうかと、心配でメールしました。

 

 ダンジリの事故?

 わけわからへんので、ネットニュースで確認。

 あった、これや。

 鳳の方のお祭りで、引き回してたダンジリが電柱に激突して怪我人が出てる。

 知らんかった。

 ダンジリの事故があったことも、堺にダンジリがあったことも。

 ダンジリいうのは、てっきり岸和田やと思てた。

 ユーチューブで検索したら動画が何本か投稿されてた。電柱に激突すると衝撃で屋根がすっ飛んで、ダンジリに乗ってた人がボロボロと落ちて、直後にダンジリに吊り下げられてた提灯が一斉に消えてしもてた。

「電柱が勝ったんだ」

 いっしょに見てたコトハちゃんが眉を顰める。

 コトハちゃんは想像力が豊かなんで、たまに言動が飛躍する。

 ダンジリいうのは重さが四トンもあるらしい、大型乗用車の二台分以上。それがドッカーンとぶつかったんやから、電柱が折れても不思議やない。

 こないだ関東を襲った台風は何百本も電柱を倒していった。それをリビングのテレビで観てて――電柱ってもろいんだ――と従姉同士で思たわけ。せやさかい、いまの感想は、よう分かった。

「ダンジリ保険があるんちゃうか?」

 晩ご飯のときに話題になると、伯父さんがお茶を飲みながら言う。

「「ダンジリ保険?」」

 コトハちゃんと声が揃う。

「うん、ダンジリで事故がおこったら保証してくれる保険があるんや。怪我した人には気の毒やけど、ま、保証いう点では安心なんちゃうかなあ」

「せやけど、それは岸和田だけとちごたかなあ?」

 お祖父ちゃんが口をはさんで、伯父さんは「せやったかなあ」と首を捻る。

 あたし的には――堺も広いねんなあ――と感心する。

 お寺いうのは、地域の情報センターみたいなとこがあって、近所のことは、よう伝わって来る。ダンジリの情報に疎いのは、それだけ事故が起こった地域から離れてるいうことや。

 念のため、グーグルマップで確認したら、四キロは離れてる。電車で駅五つ分。

 一口に堺いうても、広いなあと実感。

 

「でもさ、桜ちゃん」

 

 風呂上がりのコトハちゃんが頭を乾かしながら、あたしの部屋にやってきた。

「Aさんがメールしてきたのは、これをネタに桜ちゃんに会いたいってサインじゃないかなあ。事故の怪我人は男ばっかというのはニュースでも分かることだしさ」

「あ、そっか」

 さすが、想像力のコトハちゃん。

 スマホを取り出して、Aさんに長いメールを打って、こんど一回会おうよと送る。久々のAさんやから、文章考えて、十分ほどかかってしもた。

 やっと打ち終わって振り返ると、コトハちゃんはダミアと遊びまくっておりました。

 そうか、これをネタにダミアと遊びたかったんやな。

 その夜は、ダミアを真ん中に挟んで二人と一匹で寝てしまいました。

 

 

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真夏ダイアリー・33『最初の指令・1』

2019-10-08 07:02:36 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・33  
『最初の指令・1』      
 
 
 
 今日は年が改まって最初の日曜日。

 午後から新曲のレッスンがあるので、午前中に宿題をやっつける。
 あらかじめ、みんなでシェアしておいた宿題の答がパソコンに送られている。それを見ながら、適当にミスをしてコピー。あっと言う間にできてしまった。
 
「いいかげんに、着替えて朝ご飯たべなさい」
「わっ!」
 お母さんの声が、耳元でしたのでびっくりした。
 わたしは、半天をパジャマの上に羽織って、顔も洗わずに宿題をやっていたのだ。

 パソコンを落とそうとしてデスクトップを出すと、画面一杯にアラームが点滅した。
 気持ちが悪いので、シャットダウンしようとしたら、

――指令 第一号――

 来た……指が無意識にクリックした。

 そこで、意識が跳んだ。

 気づくと、無機質な廊下に立っていた。
 
 無機質というのは直感で、見た目には優雅なホテルの廊下のよう。天井は高く、床は、フカフカの絨毯、左側は大きなガラスのサッシになっていて、綺麗な庭が見えた。でも、それはCGで作ったように、美しすぎる。
 この廊下の先に目的の場所があるような気がして、わたしはフカフカの絨毯を踏みながら、そこに進んだ。
 突き当たりを右に曲がると、大きな吹き抜けのロビーのようになっていた。真ん中に、気持ちよさそうなソファーのセットとテーブル、そして、ソファーには『魔女の宅急便』のグーチョキパン店のオソノさんのような女の人が座っていた。
 
「どうぞ、こちらへ」
 オソノさんが、前のソファーを促した。
「はじめまして、わたし……」
「真夏さんのことは、みんな知ってる。ここの中よ」
 オソノさんは、自分の頭を指した。
「わたしは……オソノでいいわ。あなたが、そう感じたんだから、まあ、お茶でも飲みながらゆっくりと……」
 目の前のテーブルに、ティーセットが現れた。
「ごめんなさいね、急ごしらえのバーチャルだから、細かいとこまで手が回らなくて」
「……でも、お茶は本物ですね、おいしい」
「嬉しいわ、そう言ってもらえて。視覚や触覚はともかく、味覚を作るのって難しいの」
「じゃ……これも?」
「あ、自分でばらしちゃった……こういうとこ、抜けてんのよね、わたし」
「ハハハ……」
 オソノさんの情け無さそうな顔に、思わず笑ってしまった。
「よかった、リラックスしてくれているようで。こういう雰囲気の中で、仕事の内容を伝えるのが、わたしの仕事だから……ああ、ボキャ貧ね。こんな短いフレーズの中に『仕事』って、言葉を二回も使ってしまった」
「今ので、三回」
「あら、ほんと。もっと気の利いた言葉で伝えられなくっちゃね」
 オソノさんの困った顔に、無機質な感じがいっぺんになくなり、あとの話は、お気楽に聞くことができた。

 もっとも、その中味は、ちっともお気楽ではなかったけど……。
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宇宙戦艦三笠・24[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・2]

2019-10-08 06:55:27 | 小説6
宇宙戦艦三笠・24
[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・2]  


 
 東北弁とダースベーダー風の衣装は、とっても似つかわしくない。

「おめんどが目指すてらピレウス北極どするど、この三笠は、やっと福島あだりだ。という訳だげでもねんだばって、言葉はやっぱ訛っちまうな」
 その間にもダースは、特有の籠ったような声で、荒い息遣いだった。
「でも、訛ってても、貫録あるね。下手に取り巻き連れてかっこつけてないとこなんか、シブいっす!」
 こういうことに関しては、トシは独特の感性で感動する。
「それはだなす……ゲホンゲホン、ゼーゼー……」
「大丈夫、ダースさん?」
「なんもぉ、歳なんだす。聞きぐるすぐで、おもさげね」
 みかさんの質問に、ダースは年寄りくさく応えた。
「で、御用はなにかしら?」
 お誕生会に水を差されたウレシコワはトゲがある。
「折り入って頼みがあんだす。で、みんな寄ってるとこがええべなと思っで」
「断りもなく現れて、お願いって言われてもねえ」
 美奈穂が、もうそっぽを向いてしまった。
「まあ、聞くだけ聞いてみようや」
 修一が間に入って、年寄りイジメにはならずにすんだ。
「おもさげね艦長。この暗黒星雲は宇宙の大田舎なんだす。なんの因果か、星雲の外からは中の様子が分かんねだす。なんか、とてつもね暗黒帝国があるように思われてんだす。要は宇宙開闢以来、電波も光も外がらは通さね。んだから、宇宙のみんなは恐ろしげなものど思っで、寄り付きもしね。グリンヘルドもシュトルハーヘンも見向きもしね。あんたらが名付けたロンリネスなんで、星としては一等地だすに」
「ひょっとして、暗黒星雲の宣伝してこいとか?」
「うんにゃ、ずーずーしいお願えなんだども、ピレウスまで、一人同乗させてはもらえねか?」
「あ、帝国の皇帝とかならお断りだぜ。せっかく和気藹々とやってるとこに、えらそーなオッサンなんてごめんだからな」
「皇帝はいないんだす。このダースが暗黒星雲の代表だすけ」
「でも、そういうナリしてると、皇帝がいるように思うわ」
「そう思っでもらえるように、こっだなナリしてんだす。なんか、もっと偉い存在がいるように思うべさ」
「……あ、なるほどね」
 クルーたちは、変に納得した。

「で、お願えというのは……」

「オラから言う……!」
 もう一人艦首の掲揚竿の前から滲み出るように現れた。
 純白のローブが良く似合う、見るからに王女風の女の子だ。
「あ、レイマ……」
「秘密バラシてまってはわがんね(ダメだ)」
「じっちゃ、最後の秘密は……」
「言ったも同然でねが」
「あのう……ひょっとしてお孫さんですか?」
 
 樟葉が、遠慮なく核心をついた。
 
「ほら、分かってまった!」
「ああ……」
「すまね。実は、このレイマをピレウスに連れていっで欲しいんだす。この三笠の遠征は一大叙事詩だす。きっど宇宙のレガシーになるだす。それにオラほの王女さまが一緒だったこどになっと、暗黒星雲の名前が挙がるす。姑息な手段と笑われっかもしんね。んだども、オラたちは、王女に、レイマ姫にかけてみるしかねえんだす」
「あの、レイア姫じゃないんですか?」
「うんにゃ、レイマだす。著作権の問題だす」
「んもうじっちゃは……暗黒星雲の標準語で『希望』って意味があんのす。じっちゃ、卑下のしすぎだす」

 といういきさつで、三笠のクルーが増えた。主だったポストは埋まっているので、レイマは主計長ということになった。

 だが、この見かけは宇宙一可愛く、喋らせると、見かけのギャップから面白いレイマ姫は、とんでもない力の持ち主だった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・17『温泉ガールズトーク』

2019-10-08 06:43:03 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・17
『温泉ガールズトーク』         高師浜駅


 
 とにかく女は温泉好き!

 男に言われたらムカつくかもしれへんけど、じっさい温泉に来てみたら実感!

 四時間の入浴付きランチコースやねんけども、あたしらはランチの前と後と二回も入った!
 そら、おまえらだけやろ? いえいえ、二回入って、七人ほどは同じ人が入ってたから、あたしらだけやありません!
 そうやって、二回入ったからこそのドラマがありました。

 あ、アッちゃん!

 思わず声に出てしまいました。
 教室ほどの広さの浴室に入った時、お婆ちゃんと仲よう浴槽に浸かってるアッちゃんと目が合いました。
「ホッ……美保ちゃん!」
 ホッチと言いかけて、昔のニックネームに言いなおして、アッちゃんはビックリした。

 いやー、久しぶり! から始まって、なんでお互い八尾の温泉に来てるかになり、お婆ちゃんとあたしのツレ(すみれと姫乃)を紹介し合い、みんなで温泉に浸かった。
 懐かしい子ども時代の話しやら学校の話しで盛り上がる。
 地元の高石から離れてることもあるんやろけど、アッちゃんは、ほとんど屈託もなく話をして聞いてくれる。
 ただ、ときどき、あたしらの(けして立派なものではありませんが)胸にチラチラ視線が来るのが――ああ。気にしてんねんなあ――でした。

 アッちゃんは、長湯のお婆ちゃんに付き合って、あたしらが上がっても浸かってる。

 あたしらは、いったん上がって頭やら体を洗うことにした。
 頭を洗いながら、右から感じる視線。
「な、なんやのん?」
「盲腸の傷跡って、分からなくなるんだね」
 姫乃が感心した。
「回復力がええのんよ、よう見たら、うっすらと分かるんやけどね」
 傷跡を示す。今度は左側から視線を感じる。
「おー、ちゃんと生え揃ってきたやんか!」
 すみれの遠慮のない感心に、後ろの浴槽でお婆ちゃんとアッちゃんも笑う。
 恥ずかしいので足を閉じて身体を洗う。

 美保ちゃん、盲腸の手術したん?

 斜め後ろから、アッちゃんが覗き込んできた。ビックリしました。
「え、あ、うん。二か月前にね」
「……ほんま、ほとんど傷跡分かれへんね」
「アハハ、ま、お医者さんの腕もよかったんやと思うよ」
 ペチャパイなんか気にするな! と思てるから、隠すわけにもいきません。
「兄ちゃんも中三の修学旅行前に盲腸やったけど、兄ちゃんの傷跡は、もっとクッキリしてる」
 妹は、ちゃんと観察してる……と思うと同時に、マッタイラのことが思われた。
 あいつが盲腸やったなんて、きれいに忘れてた。
 中二いうたら、ついこないだ……修学旅行いうことは、まだ生え揃えへんうちに行ったんやなあ……。
――あそこの毛ぇ剃ったんか?――
 あれは単なる冷やかしと違うて、マッタイラなりの共感があったんちゃうやろか……なんて思てしもた。

 それは、ランチのあと、二回めの浴室で起こった。

 姫乃は寝てしもたんで(温泉いってます)のメモを残して、すみれと行った。
 ちょっと遅れて、アッちゃんとお婆ちゃんも入って来た。
 温泉というのは身も心もほぐれるもんで、こんどはお婆ちゃんも参加しての拡大ガールズトークになった。

 トークが佳境に入って来たころに、その人が入って来た。

 ガラガラと浴室の戸が開く音がして、きれいな形のいい足が近づいてきた。
「ご一緒させていただきます」
 銀河鉄道のメーテルみたいな声で、その人は浴槽に浸かってきた。
 スタイルもええし、ルックスもメーテルの実写版。
 ほんで、この女の人は、いつのまにか、ガールズトークに入ってきた。
 アッちゃんのズッコケで、みんなが笑った時、その人が胸を隠していたタオルがハラリととれた。

 !…………その人は左の乳房が無かった。

「あ、ごめんなさい。去年手術でとってしまったもので」
 
 その人は、わずかにはにかみながらサラリと言った。
 いっしゅん凍り付いたけど「それは難儀なことでおましたなあ」というお婆ちゃんののどかさで空気はすぐに解れた。
 それからも、その人がムードメーカーになって、ガールズトークは続いた。

「もうマッタイラでも気にせえへん、新学期からは学校にいくさかい!」

 送迎のバスに乗ろうとしたら、アッちゃんが駆けてきて、それだけ言ってお婆ちゃんといっしょにホテルのゲートを出て行った。
 山本八幡宮の効き目やろか、お風呂でいっしょだったあの人は、先に行ったのか姿が見えなかった。

 冬にしては穏やかな午後の日差しの中、あたしらのバスは玉櫛川沿いの道を戻っていくのでした。
 
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高安女子高生物語・111〔夏休み宿題幻想〕

2019-10-08 06:33:20 | ノベル2
高安女子高生物語・111
〔夏休み宿題幻想〕           


 
 夏休みの宿題は全部やったつもりやった。

 市川ディレクターも気ぃつこてくれてて、夏休み期間中2日は休みがとれるようにしてくれたし、休憩時間なんかに、ちょっとでも宿題ができるように、自習用に会議室を解放してくれた。うちはチームリーダーやし、休みがとられへん。休んでもチームのことが気になるよって。
 
 で、宿題は全部終わったつもりでいてた。

 ほんなら、数学のプリントに挟まって社会の宿題が挟まってるのに気ぃついた。
 で……慌てた。

 しゃあないよって、休みの日、収録先の放送局まで選抜メンバーに着いて行って、放送局の小会議室を借りて宿題にかかる。
「ゲ、なにこれ!?」
 うちは、宿題を読み違うてた。「戦争に関わる本を読んで感想を書け」やのうて「戦争体験者から聞き取りをして感想を書け」やった。
 戦争の本やったら山ほどあるし、これまで『蛍の墓』『レイテ戦記』『真空地帯』なんかは読んでた。せやけど戦争体験者いうのは、最低でも70代の後半……まして、ここは放送局。

 そんなん…………………………おった!

 地下駐車場のオッチャンは定年後の再任用で残ってて、見かけは70代後半や!

「残念だけど、わし終戦の年は、まだ二歳だったからな……そうだ、資料室に戦時中の記録が一杯あるよ。それ見て適当に聞いたように書けばいさ。電話しといてあげるよ」
 というわけで、資料室のお世話に……。
 室井さんいう定年前のオッチャンがいてて、モニターに何本か、候補を上げて待っててくれてはった。
「これなんか、ええと思うで。『撃墜された米兵と女学生』ちょうど明日香ちゃんの高安あたりの話や」

 モニターにお婆さんが映った……と思たら、グッと画面に吸い寄せられて、意識が飛んだ。

 気ぃついたら、信貴山の山の中。うちは夏のセーラー服にモンペ。山の中で松根油をとってる八尾中学の生徒にお弁当を持っていく途中で、道にはぐれた。
 八尾の飛行場が爆撃されてる。それが、よう見えるんで、見てるうちにはぐれたみたい。飛行場はボコボコにやられてたけど、低空飛行で機銃掃射してた米軍機が、対空機銃に当たって黒煙。と思たら……こっちに向うて落ちてきよった!

 ……操縦士は生きてた。

 飛行機は雑木林に突っ込んで壊れたけど、燃料に火ぃが点いて爆発する前に、操縦士は逃げ出してた。
 燃え盛る飛行機見てたら、後ろで気配。振り返ったら褐色の髪の毛した操縦士がピストル構えて、うちを睨んでた。
 うちの、お父ちゃんは海運会社の船長で、戦争前は外人のお客さんなんかも来てたんで、ちょっとは英語が喋れる。
『そんなとこに居たらすぐ人に見つかる。わたしといっしょに来て』
 最初は、うちにも分からんくらい早口の英語でまくしたててたけど、かなたで人の気配がすると震えだした。
『日本人、オレを殺しにくる!』
『落ち着いて。その落下傘貸して!』
 うちは、落下傘を山の下の方に投げた。
『いっしょに来て! 来てったら!』

 うちは、操縦士を千塚古墳群の方に誘導して、あんまり人が来えへん横穴の古墳に連れて行った。操縦士は肋骨を折ってるみたいで痛そうやった。
 
『憲兵に引き渡すのか?』
『分からない。とにかく、今はみんな気が立ってるから出ないほうがいい』
『そ、そうか……』
『あなたも気が立っている。そのピストル下ろしてもらえない』
 操縦士は、うちを見つめたままピストルを下ろしたけど、引き金には指かけたままやった。正直怖い。
『どうして助けた?』
『……人がなぶり殺しになるの見たくないから。あのままじゃ、日本人が何人か撃ち殺されたあと、あなたは竹槍でめった刺しにされる』
『……だろうな』
『でも、なんで、あんな無茶な低空飛行やったの。あれじゃ、子どものパチンコだって当たるわよ』
『オレは勇敢な男なんだ!』
『……そうなんだ。あたしマリ。あなたは?』
『コワルスキー』
『ああ、ポーランド系なのね。勇敢なとこ見せたかったんだ……』
 一瞬コワルスキーの目が悲しそうになった。ポーランド系アメリカ人は、アメリカでは低く見られてる。これもお父ちゃんの仕事から得た知識。うちは大阪の兵隊が、日本で一番弱いと言われてることを話した「またも負けたか八連隊。それでは勲章九連隊」これは訳して理解してもらうのに三日かかった。分かった三日目にはコワルスキーは大笑いした。
『日本人にもジョ-クがあるんだな……で、日本の中でも差別があるんだ』
『ポーランド系よりはまし。占領したあとの軍政なんかは、大阪が一番』
『ポーランド系も、コツコツやらせりゃ、アメリカ一番だ!』
『で、コワルスキーはガラにもなく突っ込んできたりするから』
『もう言うなよ、マリー』
 
 そうやって、ちょっとずつ気持ちが通い始め、二週間後に終戦になった。それからは立場が逆転して、コワルスキーは、よく面倒を見てくれたし、何より日本人への偏見が無くなったのが嬉しかった。

 気ぃついたら、モニターはエンドマークになって、うちはマリから明日香に戻ってた。

 このリアルな追体験は、多分正成のオッサンのせい。このオッサンのことは前にも言うたけど、いずれ改めて言うことになると思います。
 で、放送局のやることに無駄はのうて、この様子は隠し撮りされて、後日バラエティーで流されてしもた。
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小悪魔マユの魔法日記・57『トイレットペーパー事件・1』

2019-10-08 06:18:27 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・57
『トイレットペーパー事件・1』   


 
 今度のドロシーは、そんな簡単にはいかないわ

 マユは心の中で呟いた。
 
「あの子行ったわよ。最初のドロシーだったけど、最後のドロシーになるでしょうね。わたしにとっても……あなたにとっても」
 西の魔女が、そう言うと十五個の高性能盗聴器がいっせいに煙を吐いて壊れてしまった……。

 同時に、エメラルドの都に向かって飛んでいたマユも青い煙……霧に取り巻かれてしまった。
 ストローハットの帽子飛行機全体かと思ったら、どうやらマユ一人に霧がまといついているようだった。となりに座っているライオンさんは興奮と怖さで、そわそわしている。
「あのさ、ライオンさん……」
 マユが声をかけても、ライオンさんは反応しない。それどころか、しだいにライオンさんのそわそわはゆっくりになり、停まってしまった……まばたきもしていない。
「あの……」
 かかしもブリキマンも停まってしまっている。ドロシーも、前から来た鳥をかわそうとした姿勢のまま、鳥といっしょに、青い霧の中でシルエットになって停まってしまった。

――バグっちゃった……?

 マユがそう思ったとき、目の前にレミの上半身が浮かんだ。
「あら、お久しぶりね、レミ」
「ちょっと緊急事態なの」
 レミは、眉をひそめて言った。
「ここにきてから、十分すぎるぐらい緊急事態なんだけど」
「このままオズの魔法使いに会うのは問題が大きすぎるの」
「わたしのせいじゃないわよ。どういうことか分からないけど」
「たとえて言うと、サーバーの処理能力を超えてしまったみたいなこと」
「どういう意味……ちょっと暑くなってきたんじゃない?」
「……もう限界が近い。周りはフリーズしちゃってるでしょ?」
「うん、みんな停まって……ブロックノイズが入ってきた……」
「もうだめ……ごめん、強制終了するわね!」

 レミが、そう叫んだかと思うと、あっという間に周りの景色が変わった……飛行機のシートに座っていたはずが、女子トイレの便座に座っている。
 トイレのドアが開いて何人かの女子が入ってきた気配がした。
「なんだ、開くんじゃない。美紀、使えるよ!」
 ルリ子が叫んだ。
「よかった、二階のトイレじゃ間に合わないとこ……ううう……漏れそう!」
 美紀は一番手前の個室に入った。ルリ子は、洗面台の鏡を見ながら髪をとかした。すると、鏡に写っていた一番向こうの個室が一瞬揺らめいたように見えた。
「え……?」
 美紀が不思議に思うと同時に水の流れる音がして、個室からマユが出てきた。
「あ、マユ……」
「なにか……?」
「え……!?」
 鏡に映った個室が、一瞬グラっとしたようにルリ子は感じ、振り返って個室を順にながめた。
「さっきまで、個室が六つあったような気がしたんだけど……」
「なに言ってんの、女子トイレの個室は、どこでも五つだわよ」
 洗面台で手を洗いながら、マユは答えた。平然と答えたつもりだけど、ルリ子は、まだ不審げにマユを見ている。
「いま気がついたんだけど、トイレでマユといっしょになったの……初めてだよね」
 マユは、一瞬ドキっとした。小悪魔はトイレになんか行かないのだ。美紀はチョイ悪グループではあるが、だてにリーダーをやっていない。勘は鋭いようだ。
「そう、たまたまでしょ、たまたま……」
 マユは、何食わぬ顔で、ハンカチを使いながら答えた……そのとき。
「ねえ、ちょっと!」
 一番手前の個室から、美紀の叫び声がした。
「紙がないのよ、トイレットペーパー!」
「ドジ子だね、美紀は……」
 トイレットペーパーは、マユの洗面台の近くにあった。
「マユ、それ……」
「うん……いくよ。キャッチしてね」
 マユは、そう言って一巻きのトイレットペーパーを美紀の個室に投げ入れてやった……ちょっと力が入りすぎたような気がした。
「サンキュ♪」
 という声がした。
「どういたしまして」
 マユは、お気楽にトイレを出た。直後……。
「ギャー!!」
「ウワー!!」
 と、美紀とルリ子たちの悲鳴がした。振り返って、トイレを覗くと、個室から美紀が軽トラ一杯分ぐらいのトイレットペーパといっしょに吐き出されてきた。
 
 マユは、フェアリーテールの世界の影響か、自分のミスか判断がつきかねた……。



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