大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・078『お目当ては……』

2019-10-13 14:22:35 | ノベル
せやさかい・078
『お目当ては……』 

 

 

 ダミアはメイクーンの血が濃く入った雑種。

 メイクーンは成長すると体重は10キロは超えるらしい。しかし、まだ子ネコだからなのか、体格的な遺伝が弱いのか、普通に子ネコ。

 お祖父ちゃんに付けてもろた鈴が、五百円玉ほどの大きさで、それをチリンチリンと鳴らして歩くのがめっちゃ可愛い。

 自分の首よりも一回り小さいだけの鈴は、ちょっと虐待めいた感じがせんでもないんやけど、ダミア自身も気に入ってるようなんで放っておく。いずれ10キロを超えたら、ちょうどええバランスになるやろ。

 

 チリンチリン……ガシャガシャ……。

 

 ガシャガシャいうのは、誰かがダミアを抱っこした証拠の音。

 鈴は、人の肌に触れてしまうと響かんようになってしもて、ガシャガシャとしか音がせえへん。

「ダミア……」

 とたんに頼子さんが中腰になる。

 ダミアを拾てから、文芸部の部活は本堂裏の和室でやってる。むろん、本堂と言うのはうちの家。

 授業が終わったら、文芸部の三人揃って、うちの家へ。玄関までお迎えに来てくれてるダミアを頼子さんが抱っこして、本堂の裏の部室へ向かう。

 お茶を淹れながらニ十分ほどはダミアをモフモフして遊ぶ。

 時間になると、伯母さんが「ダミア、時間ですよ~」と声をかける。ダミアはようできた子で「ミャー」と返事すると出入りの為に開けてある襖の隙間から出ていく。伯母さんは、ダミアが部活の邪魔になれへんように気を利かせてくれてるんやし、ダミアも心得てるようで、首の鈴を鳴らしながらお暇する。あたしも留美ちゃんも割り切ってるねんけど、頼子さんはソワソワしはじめて、ちょっと、心ここに在らずという感じになる。

 ダミアは、どうやら、そういう頼子さんの気持ちを察してか、伯母さんに呼ばれても、部屋をちょっと出たとこでお座りしてる。子ネコの事なんで、じっとしてへんからチリンチリンと風鈴みたいに音をさせてしまう。

 頼子さんも、襖を隔ててダミアのチリンチリンが聞こえることで我慢してた。なんといっても三年生で部長、大人たちは知らんけどヤマセンブルグの王女様でもあったりする。ON・OFFのけじめはつけてる。

 しかし、伯母さんにしてみたら、ダミアが邪魔してるみたいに感じられて、気を利かしてダミアを連れて行ったという次第。

 

 気もそぞろな頼子さんを見てると、可笑しいやら可哀そうやらで、つい笑いそうになる。

 

「ちょっと待っててくださいね」

 あたしは、廊下を二回曲がって階段を下りてリビングへ。

 伯母さんに話しを付けてダミアを連れ戻す。

「いやあ、ごめんね。ダミアがじゃましたらあかんと思て……」

 連れ戻したダミアは、頼子さんの膝の上で大人しく座ってるようになった。

 まあ、以前の部活に比べて集中力は半分いうとこやけど、もともと、お茶を飲んだりお喋りしたりが主体の部活やから、三人とも不足はないのです。

 

 しかし、こんどはテイ兄ちゃんが顔を出すようになった。

 

「ダミアがじゃましてへんかなあ?」

 しらこいことを言いながら、檀家周りでもろてきたお饅頭とかを持ってくる。

 テイ兄ちゃんは、ダミアを気にしてるわけでも、文芸部の活動に興味があるわけでもない。

 お目当ては頼子さん。

 ちょっと、意見せんとあかんなあ。

 

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真夏ダイアリー・38『アメリカ国務省前のドラマ』

2019-10-13 07:05:20 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・38
 『アメリカ国務省前のドラマ』
    



「いやあ、真夏君のお陰で、時間通りに渡すことができたよ」
 野村大使は、国務省玄関の階段を降りながら、横顔のまま言った。
「いやあ、ハル長官の慌てた顔ったら、なかったね」
 来栖特別大使も後ろ手を組ながら、愉快そうに応じた。

「前を向いたまま聞いて下さい」

「……?」
 怪訝な顔をしていたが、二人の大使は、話を聞く体勢になってくれた。
「あと、三十分で真珠湾への攻撃が始まります」
「そんなに際どいタイムテーブルだったのかね!?」
「足を止めないでください、来栖大使」
「真夏君は知っていたんだね」
「はい、訓電をアメリカに渡すまでは話せませんでした。アメリカは事前に知っていましたから、真珠湾への攻撃を、どうしても、日本のスネークアタック(だまし討ち)にしたかったんです」
 
 三人は、国務省の前で大使館の公用車が来るのを待った。

「それで、あの記念写真を撮ったんだね」
 野村大使が、含み笑いをしながら言った。
「野村さん、周りにご注意を……」
 来栖大使が、笑顔のまま注意した。わたしたちの周囲は、不自然に立ち止まったままの男たちが、三十メートルほどの距離を置いて立っていた。
 
 やがて公用車がやってきた。

「すみません、運転代わってもらえません。あなたには、わたしたちが乗ってきた車を運転していただきたいの」
「君……なんのために?」
「お国のために」
 わたしは、なかば引きずり出すようにして、運転手を降ろして交代した。
「大使、衝撃に備えてください」
 そう言うと、わたしはアクセルを一杯に踏み込み、少しハンドルを右に切った。
「真夏君、なにを……!?」

 ドン!

 次の瞬間、公用車は歩道の消火栓にぶつかり、壊れた消火栓から派手に水が吹き上がった。

 プシューーーーーーーーー!

「大丈夫ですか?」
「ああ、しかし、なぜ、こんな事を……」
 予想通り、交差点の角にいたお巡りさんがとんできた。

「なんだ、君か?」

 そのお巡りさんが、シュワちゃん似のジョージ・ルインスキであったのは想定外だった。ジョージのことは、このダイアリーの№35に書いてあるわ。
 
「ごめんなさい、ジョージ。こんなことで、あなたと再会するなんて」
「外交官特権があるから、強制はできないけど、署まで来てもらえるかな?」
「ああ、かまわんよ。過失とは言え、アメリカの公共物を壊したんだ、大使として責任はとらせてもらうよ」
 野村大使が困ったような、それでいて目は笑いながら言った。
「あ、大使閣下ですか。本官の立場をご理解いただき恐縮です。まず、事故状況の書類を簡単に書きますので、サインを……」
 そのとき、不自然に立ち止まっていた男の一人がやってきた。

「大使は、重要なお仕事で来られたんだ。お引き留めしてはいけない」
「いや、しかし……」
「さ、早くお行きになってください」
「でも……」
「これは、国務省の要請です。あと三十分もすれば、大使館も賑やかになる。そうじゃありませんか?」
 その男は、にこやかに、しかし断固とした意思で言った。
「じゃあ、ジョ-ジ・ルインスキ巡査。またいずれ」
「ああ、マナツ。言っとくけど、オレは巡査じゃなくて二等巡査部長だ。覚えとけ」
「ジョージも、この事件覚えといてね。1941年12月7日午後1時12分!」
「ああ、いずれ消火栓の修理代もらいにいくからな!」
「オーケー!」
「早く行け!」
 国務省のオッサンの一言で、わたしは車を出した。

「これだけ、印象づけておけば、問題ないでしょう」
「あれが、言ってたお巡りさんかい?」
「ええ、素敵なポリスマンでしょう」
「なかなかの、国際親善だったね」
「いいえ、来栖大使には負けます。奥さんアメリカ人なんですものね」
「いいや、アメリカ系日本人だよ」
「真夏君は、一人娘だね」
「はい」
「どうだね、ああいうのを婿にして、アメリカ系日本人を増やすというのは?」

 真夏は、あてつけに、車を急加速させた……背景にはワシントンの冴え渡った蒼空が広がっていた。
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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・3『第一章・1』

2019-10-13 06:49:00 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・3   

 
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。


『第一章 五十四分三十秒のリハーサル・1』

 紺碧の空の下、乃木坂を二台の四トントラックがゆるゆると下っていく。

「絶品の秋晴れ。今年も優勝まちがいなし……」
 貴崎マリ先生は花嫁道具を運んでいる花嫁の母のように、助手席でつぶやいた。
「先生とこは、今年で五年連続でしたよね?」
 馴染みの運ちゃんが合わせるようにつぶやいた。
「全勝優勝よ」
 ダッシュボードに片足をのっけたところは、アニメに出てくる空賊の女親分である。
「そりゃ、すげー!」
 運ちゃんは口笛をならして、貴崎先生お気に入りのポップスのボリュ-ムを上げた。
「でも、六年前コケませんでした?」
「ん……!?」
 先生の眉間にシワが寄る。
「いや、オレの思い違いかも……」
「あれは、わたしが乃木坂に来る前。前任の山阪先生の最後。さすがの山阪先生も疲れが出たんでしょうね。わたしが来てからは全勝優勝」
「先生は、たしか乃木坂の卒業生なんすよね?」
「そうよ。山阪先生の許で『静かな演劇』ミッチリやらされたわよ。あのころはあれで良かったと思ってたけど、やっぱ演劇って字の中にもあるけど劇的でビビットなもんじゃなきゃね……」
 それから運ちゃんは、目的地のフェリペ学院に着くまでマリ先生の演説を聴くはめになってしまった。運ちゃんは、マリ先生の片足で隠れたダッシュボードの缶コーヒーを飲むこともできなかった……。


 フェリペ学院は、わが乃木坂学院高校よりも歴史の古いミッションスクール。

 創立は百ウン十年前だそうであるが、そこは伝統私学。第二次ベビーブームのころから、少子化を見込んで大改革。中高一貫教育、国際科や情報科を新設。さらに目玉学科として演劇科を前世紀末に、某私学演劇科の先生を引き抜き、ミュージカルコースの卒業生の中には、有名ミュージカル劇団に入って活躍する人や、朝の連ドラのレギュラーをとっている人もいる。
 当然設備も充実していて、大、中、小、と三つも劇場を持っている。私たち城中地区の予選は、この中ホールを使わせてもらっている。 キャパは四百ほどだけど、舞台が広い!
 間口は七間(十二・六メートル)で、並の高校の講堂並だけど、ヨーロッパの劇場のようにプロセニアムアーチ(舞台の額縁)の高さが間口ほどもあり、袖と奥行きも同じだけある。中ホリ(ホリゾント幕。スクリーンの大きいやつ。これが奥と、真ん中に二つもある!)を降ろして、後ろ半分は道具置き場にしてます。

 なんせ、わが乃木坂学院高校は道具が大きい。

 四トントラック二台分もある。先代の山阪先生のころから使い回しの大道具が、そこらへんの劇団顔負けってくらいあって、入部した日に見せられたのが、その倉庫。平台やら箱馬(床やら、土手を作るときに使います)壁のパネルに、各種ドアのユニット。奥にいくと、妖怪ヌリカベの団体さんがいた!
「わー……!」
 と、その迫力にタマゲタ!
 このヌリカベの団体さんは、舞台全体を客席の方に向かって傾斜させるために使う床ってか、舞台そのものをプレハブのパーツのようにしたもの。これを使うと、舞台全体に遠近感が出る。専門用語では「八百屋飾り」というらしい。その迫力は、とにかく「わー……!」であります。わたしたちは、それを「ヌリカベ何号」というふうに呼んでます。

 マリ先生は、こう言う。
「フェリペが、舞台全部使わせてくれたら、こんなもの使わなくってすむのに!」
 今回は「ヌリカベ九号」まで持っていく。それだけで四トン一台はいっぱい。
 他の学校は、こう言う。
「乃木坂がこんなの持ってこなきゃ、舞台全部使えんのに!」
 どっちが正しいのか、そのときは分からなかった。
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宇宙戦艦三笠・29[グリンヘルドの遭難船・2]

2019-10-13 06:48:24 | 小説6
宇宙戦艦三笠・29
[グリンヘルドの遭難船・2] 



 

 遭難船の女性クルーは、衰弱死寸前だった。

 と言って、見たは健康な女性が、ちょっと一眠りしているだけのようで、とてもそうは見えない。
――残った生命エネルギーを、外形の維持にだけ使っていたようです――
 スキャンした彼女のデータを送るとクレアから解析結果がトシといっしょに返ってきた。
「なんで、トシが来るんだよ?」
「クレアさんの意見なんです。三笠から携帯エネルギーコアを持ってきました。これを、この船の生命維持装置に取り付けて、この女の人を助けたらってことで。オレ、一応三笠のメカニックだから」
「でも、グリンヘルドの船の中なんて、初めてよ。トシにできるの?」
「フィフスの力で……うん、なんとかなりそうです」

 トシは目をつぶって、調査船のメインCPとコンタクトをとり、船体の構造をサーチした。

「トシ、ツールも何にも無しで、CPとコンタクトできたのかよ!?」
 修一も樟葉も驚いた。
「ナンノ・ヨーダの訓練はダテじゃないみたいですよ。それぞれが持っていた能力を何十倍にもインフレーションにしてくれたみたいです。とりあえず作業に入ります」
 トシは、自分のバイクを修理するように、手馴れた様子でエネルギーコアを船の生命維持装置に取り付け、グリンヘルド人に適合するように、変換した。

 やがて、ただ一人の女性クルーは昼寝から目覚めたように、ノビ一つして覚醒した。
「トシ、お前の腕は大したもんだな」
「それもそうだけど、この人のリジェネ能力がすごいんだよ」
「……どうも三笠のみなさん。助けていただいてありがとうございました。わたし、グリンヘルド調査船隊の司令のエルマ少佐です。もっとも、この船隊の人間は、あたし一人ですけど。あとの二隻はロボット船。あの二隻が救難信号を……あの二隻は、もう回復しないところまで、エネルギーを使い果たしたようです」
「ボクが直しましょうか?」
「もう無理です。アナライズしてもらえば分かりますけど、あの二隻は、もうガランドーです。すべての装置と機能をエネルギーに変換して、わたしの船を助けてくれたようです」
「グリンヘルドは救援にこなかったの?」
「わたしは、数億個の細胞の一つみたいなもんだから、救難する労力を惜しんだみたい……」
「つまり、切り捨てられた?」
「全体の機能維持のためにはね……それが、グリンヘルド。さっそくだけど、お伝えしたいことがあります」
「もう少し、休んでからでも」
 トシがパラメーターを指さしながら言った。
「見かけほど、わたしの機能は万全じゃない。いつ停止してもおかしくない。地球人の感覚で言えば、わたしは120歳くらいの生命力しかありません。時間を無駄にしたくないのです」
 三笠の三人はエルマの意志を尊重した。

「地球の人類は、あと百年ほどしか持ちません。地球の寒冷化は進んでいるのに、温暖化への対策しかしていません」
「ああ、温暖化は今や世界のエコ利権になっているからね」
「だから、あたしたちが、ピレウスに寒冷化防止装置を取りにいくところ」
「グリンヘルドもシュトルハーヘンも、寒冷化して人類の力が衰えて、抵抗力が無くなったあと、植民地にするつもりなんです」
「だいたい、そんなところだろうと、オレたちも思っている」
「グリンヘルドの実態を、三笠のみなさんに知っていただきたいのです」
 そう言うと、エルマの姿が、バグったように、若い姿と老婆の姿にカットバックした。
「すみません、エネルギーコアを、もう少し充填していただけないかしら。わたしの命は間もなく切れます。今の姿のまま逝きたいんです」
「なんなら、三笠の動力から直接エネルギーが充填できるようにしようか?」
「エルマさんの体は、もうそんな大量のエネルギーを受け付けられないところまで来てるよ」
「トシさんの言う通りです。あと少しお話しが出来ればいいんです」
「それなら、三笠のCPに情報を送ってもらった方が。少しでもエルマさんが助かる努力がしたい!」
 樟葉らしい、前向きな意見だ。
「情報は、ただの記号です。直に話すこと……人間の言葉で伝えることが重要なんです……」
「トシ、急いで携帯エネルギーコアを!」

「大丈夫、あたしが持ってきました」

 クレアが、携帯エネルギーコアを持って、調査船のブリッジに現れた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・22『視聴覚教室の余熱が冷めるまで』

2019-10-13 06:37:27 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・22
『視聴覚教室の余熱が冷めるまで』
         高師浜駅



 アホって言っちゃダメだよ!

 姫乃がホットカフェオレのパックを三つ持って真剣な顔で割って入ってきた。

「え、あ、えと……そんな深い意味は無いから~」
 すみれがユル~ク返す、放課後の視聴覚教室。
 当番の掃除は終わったんだけど、六時間目の暖房の余熱が残っている視聴覚教室から出るのが惜しくて、一番後ろの席でダベッてるんです。
 なんで一番後ろの席かと言うと、視聴覚教室は階段状になっているので、暖められた空気は最上段の後ろの席にわだかまっている。
 別に、その理屈を考えた上とはちゃうねんけど、ま、猫が自然に部屋の一番温いところで寝そべるのと同じ感覚。そういや、すみれはスレンダーな体つきで目が大きくて、なんや猫のイメージ。あたしは、どっちか言うと、ややタレ目のタヌキ顔やねんけど、だらしなくクターとしたとこは我ながら猫じみてる。

 あ、そーそー、なんであたしがアホと言われたか。

 そもそもは「きょうはメッチャ寒いねぇーー!」という話から。

 そもそも視聴覚教室に居続けしてるのは、他の教室も廊下もクソ寒いから。で、温かいもん飲みたいね~ということになって、三人でジャンケン。で、姫乃が三本勝負の果てに食堂の自販機までホットカフェオレを買いに行くことになった。
 で、姫乃が買い出しに行っている間に「大晦日でも、こんなに寒むなかったな~」という話になり、それから紅白歌合戦の話題になった。
「オオトリのスマップはメッチャ感激やったねーーー!!」と、あたしが言うと。
「え、紅白にスマップは出てへんよ」と、すみれが変なことを言う。
「なに言うてんのよ、NHK始まって以来のサプライズでNHKホールは興奮の渦やったやんか!」
「しっかりしいや、それ、どこのNHKやのん?」
「日本のNHK!」
「スマップは解散してからは、メンバー揃て露出することはあれへんねんで」
「せやさかいにサプライズやったんやんか!」
「紅白の時間帯、スマップは高級焼き肉店でメンバーだけでお別れ会やってたはずやで」
「せやかて、お祖母ちゃんも感激して二十歳は若返ったよ!」
「も、て、ホッチも若返ったんかいな」
「ハイな! 若返って剥きたてのゆで卵みたいやったわさ!」
「あんたがニ十歳若返ったら消滅してしまうでしょーが!」
「あ、いや、それは言葉の勢いで、ほんまにスマップの『世界に一つだけの花』は感激やってんさかい!」
「ちょ、ホッチ、あんたほんまにアホとちゃう!?」
「ア、アホとはなんやのん、アホとは!」
「せやかて、アホとしか言いようがない!」

 で、ここで姫乃が帰って来たというわけです。

「アホというのは、東京弁ではバカのことやし」
 と、回りまわって説明すると。
「なんだ、バカなんだ」と、なんでか納得しよる。
「ちょ、トドメのバカで納得せんとってくれる」
 大阪の人間に「バカ」は侮辱の言葉や。
「そういう意味じゃなくって」
 で、それから十分ほどかけて関東と関西における「バカ」と「アホ」との温度差を理解したのだった。

「だけど、紅白にスマップが出てたというのはありえないわよ」

 姫乃が異議を唱えて、あたしの分はいっぺんに悪くなった。
「ほんならネットで検索して確かめよう!」
 ということで、三人スマホで検索してみた。

 ほんまにビックリした。スマップは紅白には出てへんのです!

 ハックション!

 もうちょっと調べて論議しよと思たら、三人仲良くクシャミになりました。
 気が付くと、さすがの視聴覚教室の余熱もすっかり冷えてしもてました。

 しかし、なんで、うちとこのテレビだけ紅白にスマップが出てたんやろ……。

 
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小悪魔マユの魔法日記・62『AKR47・6』

2019-10-13 06:29:53 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・62
『AKR47・6』
   


 
 かくしてルリ子と美紀はオモクロのメンバーになった。
 
 オモクロは、略称こそ変わらなかったが、正式名称は変わった。
 オモシロクローバーではない。

 想色クロ-バーである。

 オモシロ系の色は一掃され、清楚とビビットが同居したようなアイドルグループになった。
むろんセンターは、奇跡のようにのし上がってきた吉良ルリ子である。

 マユが、このことを知ったのは、その週の日曜日であった。
 週末は拓美に体を貸してあるので、マユは魔界の補講に出ることになっている。
 この日が、魔界の補講の最初の日である。
 正直気が重い。マユがオチコボレになってしまったのは、悪魔概論Ⅰを落としたからである。
 悪魔概論Ⅰは、悪魔にとって基本中の基本である。
 以前にも述べたが、悪魔とは、もともと天使であった。人間の魂の救済方について、他の天使と意見が合わなくなって、ケンカになってしまった。それがサタンである。三位一体であるので、天使に盾突くことは神に刃向かうことである(三位一体とは、父=神 子=キリスト 精霊=天使の三つが同じであるということ)ので、多勢に無勢、サタンは天界から出ざるをえなかった。で、悪魔概論は、サタン流の人間救済方の基本が示されている。頭の良い小悪魔たちは、丸暗記して、十三日間の実習をそつなくこなして、悪魔になっていく。
 しかし、マユは筆記試験の段階で落ちてしまう。魔法のかけ方という問題では、いつも救済という点ではなく、面白いことという点に比重を置いて答えてしまうからだ。

 たとえば、こんな問題があった。

 ◎IT時代における、悪魔的な人間救済について、八百字以内で答よ
 
 マユは、こう答えた。スマホの写メに同時進行機能の魔法をかける。なぜならば……以下略。

 デーモン先生は、この答で、マユの落第を決めた。写メに同時進行機能の魔法をかけると、被写体が現実の時間に沿って変化していく。ベッピンさんを撮って、数時間後に見てみればスッピンの寝顔が見えてしまう。おいしそうなスイーツを撮って、数時間後に見れば、消化されたそれなりの姿に見える。マユは、それに臭いの再生魔法をかけることもデコメ付きで答え、あまりの不真面目さに落第させられた。
 で、これは、人間界に飛ばされてから実際にやってしまった。その相手がルリ子であった。

「そのルリ子に雅部利恵(天使名ガブリエ)がイッチョカミして、アイドル界を引っかき回しておる。マユ、おまえは人間界にもどって、なんとかしなさい」
 デーモン先生は、きっぱりと命じた。
「でも、わたし、休日は拓美って幽霊さんに体貸してるんです」
「ケルベロスのポチを貸してやる」
「え、あたしポチになっちゃうんですか!?」
「しかたないだろう。小悪魔が使える人体は一つだけなんだからな」
「そんな、片脚あげて電柱にオシッコするなんて、ヤですよ!」
「ポチには、変身能力もある。ポチの中に入ってから人間に化ければいいだろう」
「でも、先生。ポチってリアルだから、お風呂にも入らなきゃならないし……トイレにも行かなきゃなんないしい!」
「仕方ないだろう。これがマユの試練なんだ」
「そんな、リアルトイレなんて考えらんない!」
「それなら、拓美クンと相談して、一つの体に同居することだな」
「……もう」
「それに、マユはフェアリーテールの世界もやり残したままだからな」
「あれは、バグっちゃったから」
「バグは、いずれ回復する。取りあえずは、天使とタイマンはってこい」
「タイマンっすか……」
「怠慢こいちゃだめだぞ」
「……オヤジギャグだし……」
「来月の十三日は金曜日、悪魔の力がみなぎる吉日だ。存分に戦ってこい! ガハハハハ……」

 不敵で、無責任な高笑いを残して、デーモン先生は消えてしまった。足もとではポチが嬉しそうにお座りしていた……。


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