大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・082『M資金・15 F1幻想・2』

2019-10-05 13:05:10 | 小説

魔法少女マヂカ・082  

『M資金・16 F1幻想・2』語り手:ブリンダ 

 

 

 こんなことでレースを諦めるようなブリンダ、いや、ブリトン・サンダースじゃない!

 

 放り出された空中でニャンパラリンと一回転! オレを放り出したマシンは、惰性でホームストレッチを直進している。

 ドライバーを放り出したショックで、少し左に寄れているが、何とかなるだろう。

 セイ!

 狙いを定めてマシンの予測進路上にダイブ!

 ドサッ!

 あやまたずコックピトに飛び込むと同時にハンドルを掴んで進路を安定させる! ゴールまで50メートルを切っている!

 コノオオオオオオオオオ!

 ダメ押しにアクセルを踏み込んでゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールイン!!

 

 惰性で第一コーナーまで走って気が付いた。

 

 掟を破って優勝してしまった(;゚Д゚)

 オレの正体を知ってか、スタンドから歓声が上がることもなく、レースクイーンが駆け寄ってくることもない。

 それどころか、コースもスタンドも急速に色あせて、セピア色になったかと思うと、バグを起こしたCGのようにテクスチャが剥がれていって、世界が真っ白になってしまった。

「ちょっと、重いんだけどお」

 ふたたびマシンが口をきいたかと思うと、オレが跨っているのは『出』の形に伸びたマヂカのお尻だった。

「あ、すまん。マシンだと思って酷使してしまった……あ、どうしよう、尻が二つに割れかけているぞ!」

「バカ言ってないで、さっさとどいて!」

「アハハ、すまんすまん」

 どいてやると、やっとのことで起き上がるマヂカだったが、立ち上がると『出』の字のままツッパラかって、なんともおかしい。

「マヂカ。そ、そのかっこう、アハ、アハハハハハハハ……!」

「笑うなあ!! ブリンダの妄想のせいだろーがあ!!」

「お詫びに揉みほぐしてやる、横になれ」

「お、おう」

『出』の字になった身体をもみほぐしてやり、なんとか『大』の字ほどに回復したところで、ミラーが舞い降りてきた。

 

「ブリンダ、飛ばし過ぎい……!」

 

「なんで後ろ向きなんだ?」

 ミラーの中のアリスは爆発したような後姿の髪しか見えない。

「後ろ向きじゃないわよ……ヨッコラセっと!」

 ミラーの中ででんぐり返ったのか、乱れた後ろ髪が顔を隠していたのだ。首をスゥイングさせて髪を戻すと、思いのほかの笑顔でまくしたてた。

「いやあ、すごいわよ。ブッチギリの一等賞! カオスの奴ら、どんな妄想で攻めてくるのかと思ったら、ブリンダの妄想力の方がガチ強くってさ! F1レースに持ち込んだと思ったら、あれよあれよって間だったもんね!」

「勝ったのか?」

「うん、ブッチギリ!」

「それは、認めよう。最終コーナーで我慢しきれなくなって放り出してやったけど、ゴール寸前で戻ってきて立て直すんだもんなあ。まだ、股関節が痛くてかなわないけどね」

「今ので、分かったと思うんだけど、カオスはこちらの妄想力を利用して勝負をかけてくるのよ。いつも、こんなにうまくいくわけじゃないから、気を付けてね」

 

 ガタピシ ガタピシ ガタピシ

 

 哀れな音が近づいてくるので首を向けると、白い闇の向こうからT型フォードの機動車が戻ってきた。なにやらルーフの上で点滅している。

 100000000YEN

「一億円?」

「今のバトルで取り戻したM資金よ。どうやら、一回戦ごとに清算するシステムのようね」

「勝手にドアが開いたぞ」

「はやく次のバトルだかダンジョンに行けってことよね」

「やれやれ……」

 

 やっと回復したマヂカを載せて、オレたちは次を目指すのだった。

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真夏ダイアリー・30『初夢・桃子の大冒険』

2019-10-05 07:24:24 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・30  
『初夢・桃子の大冒険』       



 風邪をひいてしまった。

 昨日の一日ゴロゴロが悪かったのか、それとも、この三十日間の無理がたたったのか、少し熱がある。
 そもそも初夢が悪かった。初夢って、正確には元日の夜から二日にかけて見た夢のことをいうんだろうけど、わたしは夢を見なかった。だから、わたし的には、これが初夢。

 気が付くと(夢の中で)狭いところに閉じこめられていた。

 不思議なもので、それが大きな桃であることが分かった。なぜ分かったかというと、カメラの切り替えが効いて視点の変更ができる。まあ、アクションRPGとかによくある機能。で、カメラを切り替えると、わたしは大きな桃の実の中に入って川をドンブラコ、ドンブラコと流されている。

――わたしってば、桃太郎になってるじゃん!

 そう、わたしは元気な男の赤ちゃんになって、桃の中。なんで男の子かっていうと、こういうシュチュエーションて、桃太郎だし、股ぐらを見ると、立派な男の子のシンボルが付いていた。
 しばらく行くと、川辺でオバアサンが洗濯をしていた。

 このオバアサンが拾ってくれるんだ!

 しかし、オバアサンは、洗濯に夢中なのか、目が悪いのか、それとも桃が嫌いなのか、ひどく都会的な無関心さで、わたしのことを無視していく。
――おーい、おーい、と、わたしは叫ぶんだけど、とうとう目の前に来ても、オバアサンは気づかない(フリかもしれない)声を限りに叫ぶんだけど、オバアサンは気づかない……完全なシカトだ……。

 わたしは、さらに流されていく。時々川辺に人の姿も見かけたけど、だれも、わたしに気づこうともしない。群衆の中の孤独というものを初めて感じた。

 数日がたった。

 桃は、熟してきた……ってか、腐る一歩手前。

 中のわたしはクサっていた。そういう投げやりな気持ちがよくないのだろう。股ぐらの男の子のシンボルは、すっかり萎びて無くなってしまった。

「あ……桃太郎じゃなくて、桃子になっちゃった」
 そう思ったとき、わたしは桃ごと川から引き上げられる感じがした。
「こんなモノが流れていちゃ、世間の迷惑だわ……でも、この桃は食べ頃ね」
 そう言ってオバアサンが拾ってくれた(最初のとは別人)
「あなた、今オバアサンって言った?」
 オバアサンがカランできた。
――いいえ、オバサンです。
「そうよ、いまどきオバアサンてのは、七十過ぎなきゃ言わないのよ」
 オバアサン……オバサンは、そう言って、ログハウスに連れていってくれた。
 やがて、おじいさん……いえ、オジサンが帰ってきて、めでたく入刀式の運びとなった。
「わ、女の子が入ってるじゃないか!」
「え、てっきり桃が喋ってるんじゃないかと思った……」
「……ふつう桃が喋るか?」と、オジサン。
「だって、AKBなんか、お野菜のかっこうして歌ってたりするじゃん……」
「そうだ、可愛く育てて、AKBみたいなアイドルにしよう!」
「そうよ鈴木桃子って、かわいいじゃん!」

 よく見ると、そのオバサンとオジサンは、お母さんとお父さんに、そっくりだった……。

 わたしは、大きくなり、それなりに可愛く育ち、あちこちのオーディションを受けまくった。

「……こんどもダメだったわね」
「次ぎがダメなら、ハローワークにいきます」
 冗談のつもりで、そう言った。
「そうしてくれる。わたし、もう疲れちゃった……」
 予想に反して、マジな反応が返ってきたのでうろたえた。

――ももクロウ・Z オーディション――の看板が突然目に入ってきた。

「これだ!」 わたしとオバサンは、同時に声をあげた。

 オーディションは、なぜか、握力、五十メートル走みたいな体力測定を中心に行われた。わたしは平均的な成績だったが、最後のテストでダントツの好成績だった。
 それは、「桃太郎のお話のあらすじを書きなさい」というものだった。こんなの楽勝。他の子は、連れてく家来が何だったか、やったスィーツがなんだったかで、苦労していた。
 で、まあ、アイドルとしての最低の国語能力のテストぐらいに思っていた。
 最後の最後が、コスの審査。水着とかだったらやだったんだけど、その心配は無かった。大型冷蔵庫みたいな小部屋に入ると、一瞬でコスになる。反対側のドアを開けると、審査員が並んでいる。
 他の子達は戸惑っていた。だって、そのコスは、桃太郎のそれだったから……。

「おめでとう、キミがももクロウ・Zの最終合格者だよ!」

 審査委員長のおじさんが、賞状をくれた。その審査委員長の顔は……省吾のお父さんの顔だった。

 いやな初夢だった……風邪の症状はあいかわらず。グズグズの正月の三日目だ……。

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宇宙戦艦三笠・21[暗黒星雲 惑星ロンリネス・1]

2019-10-05 07:19:45 | 小説6
宇宙戦艦三笠・21
[暗黒星雲 惑星ロンリネス・1] 


 
 暗黒星雲とは、真っ黒、あるいは真っ暗と言う意味ではない。

 資源反応や生命反応がないので、研究、観測資料が乏しく、人知が及ばないところから暗黒と呼ばれている。
 逆に言うと、なにが飛び出してくるか分からない星団という意味でもある。
 
「他の国の船は、この星雲を迂回しています」
 アナライザーのクレアが、航跡の残像を検知して、そう言った。
「ここを通らなきゃ、他の船に追いつけないからな」
 みんなの覚悟を促すように、修一艦長が言うと。皆は、無言をもって、その覚悟を示した。

 惑星ロンリネスから「歓迎」の反応があった。

「地球型の惑星です。地球の1/3程の生命反応があります。寄ってみます?」
「儀礼的に一日だけ立ち寄る? 観測が進んでいないだけで、未発見の文明があるのかもしれないし」
「地球に似すぎているのが気になる……」
 ウレシコワ一人が慎重だったが、他のメンバーは、平均的日本人らしいというか、しょせん高校生というか、お気楽に招待を受けることにした。

 寄港地はヨコスカを指定された。着水して近づくと、それは見れば見るほど横須賀に似ている。

「懐かしいね、島のあそこだけが横浜にそっくり」
「他の地域は?」
 樟葉が、当然のように聞いた。
「日本のような街が、あちこちに……ただ……」
 クレアの濁した言葉に全員が注目した。
「サーチの結果が出るのに、0・05秒ほどタイムラグがあるんです」
「理由は?」
「弱いバリアーか……この星の磁場の影響かもしれないわ」
「ま、とにかく存在するんだから寄るだけ寄ってみよう。美奈穂、礼砲ヨーイ!」

 三笠は21発の礼砲を撃ちながらヨコスカに入港した。

 港は、横須賀にそっくりだった。
 
 港を出入りする船、アメリカ第七艦隊に自衛隊の横須賀基地。三笠公園にある三笠までそっくりだ。
 桟橋には、自衛隊とアメリカ海軍の音楽隊が軍艦マーチと、アンカーアウェイの演奏で出迎えてくれた。
 市長、自衛隊、第七艦隊の挨拶を受けたあと、留守番にクレアを残して、全員が、横須賀ホテルに向かった。
 
「横須賀の街にそっくりなんですけど、ひょっとして、僕たちと同じ人間がいたりするんでしょうか?」
「さあ、どうでしょう。広い意味では地球とパラレルな世界ですが、なにもかもというわけではないと……まあ、ご自分の目で確かめてください」
 市長は、にこやかな顔で、そう言った。
 修一は望み薄だと思った。市長とミスヨコハマが自分たちの世界とは違う人物だったからである。
「ロシアの人は来ないんですか?」
 ウレシコワが淡い期待を込めて聞いた。
「あなたはロシアの方ですか?」
「今はウクライナになっていますが、わたしの意識ではロシア人なんです」
「それはそれは、さっそくロシア領事館にお知らせしておきます」
 市長は、秘書に耳打ちした。

 昼食会のあと、リムジンで、ヨコスカの街を見て回った。

「桜木町駅が昔のままよ……」
 樟葉が呟いた。
「まるで、『コクリコ坂』の時代だな」
 さすがにオリンピックのポスターなどは無かったが、あきらかに20年以上昔の横須賀の姿だ。
「あたし、自分ち見てくる!」
 美奈穂がたまらなくなって、リムジンを降りた。もし20年前のヨコスカなら中東で亡くなったお父さんが生きているはずだからだ。
 学校の横を通ってもらった。古い校舎などはそのままで、十分自分たちの学校と言えたが、違和感を感じ、そのまま素通りした。
 ドブ板横丁は、昔の賑やかさがそのままで、アメセコの店などが繁盛していた。

「お父さんがいた……」

 ホテルに帰ると、美奈穂が目を赤くして、ラウンジに居た。
「会えたのか!?」
 修一は意外だった。いくらなんでも、そこまでそっくりだとは思わなかったからだ。
「20年前のお父さんとお母さん。あたし知らないふりして道なんか聞いちゃった。娘だなんて言えないもんね……だって、あたしが生まれる前の時代っぽかったもの」
 樟葉も、ブンケンらしく、夕方までトシと二人でヨコスカの街を見て回った。
「ブンケンに残ってた資料そのままの横浜だったわ」
「多分、20年遅れの地球と同じパラレルワールドじゃないっすかね!?」
 トシも喜んだ。
 三笠に残したクレアに交代しようかと連絡した。
「20年前なら、もう、あたしは打ち上げられたあとだからいいわよ」
 と答えが返ってきた。

 市長の提案で、あくる日はトウキョウに行ってみることになった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・14『敦子もマッタイラ』

2019-10-05 07:07:03 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・14
『敦子もマッタイラ』         高師浜駅


 
 あんなマッタイラは初めてやった。

 マッタイラの眉毛は離れすぎた八の字で、なんともお気楽でエエ加減な男いう感じや。うちのお祖母ちゃんなんかは「植木等の生まれ変わりや!」などと言う。要は調子のええ無責任男いう三枚目キャラで壁際男子の中ではモブ男中のモブ男。

     
 それが「ええねん どーせあたしはマッタイラや!」と泣きながら走って来た妹を追いかけてきた時のあいつは真剣やった。

 真剣すぎて、あたしら三人と出くわしたことにも気ぃついてなかった。
 それにマッタイラいうのは、あいつ『松平正友』の絶壁頭のことで、妹が「ええねん どーせあたしはマッタイラや!」と叫ぶようなものやない。

 なんや見てはいけないものを見てしもた感じで「なんやのん、今のは?」と、すみれが言うただけやった。

 
 きょうマッタイラとすれ違うのは三回めや。
 
 いつもはヘラヘラしながら一言二言いらんことを言うていきよる「ブス」とか「スカートめくれてる」とか、小学校の頃はほんまにスカートめくられたりもした。盲腸の手術のあとは「あそこの毛ぇ剃ったんか?」なんぞと言いにくるやつや……それが無言や。気色がわるい。
 
 三回めは女子トイレから出てきてすぐやった。
 
 不覚にもハンカチを忘れたんで、手ぇ洗わんと出てきたとこ。
 トイレで手ぇ洗うと、出てきてもポケットに手ぇ突っ込んでたり、まだ手が湿ってますいう感じがするんやけど、あたしは無防備やった。一学期にも、こんなシュチュエーションがあって「ホッチ、手ぇ洗ろてないやろ!」と声高に言われた。
 無言ですれ違て、一拍置いて呼び止められた。

 ホッチ

「な、なんやのん!」
 不覚にも声が裏返ってしもた。
「ちょっと聞いてほしいねんけど……」
 こんなマッタイラは初めてや。

 思い詰めてるみたいで、マッタイラは、そのまま話始めようとする。

 なんぼなんでも、トイレの前はないやろと、階段の下まで行った。
「こないだ見られたから分かってるやろけど、敦子が落ちこんどるねん」
 ああ……あの時は気ぃついてなかったんと違て、余裕がなかったんや。これは重い話やろなあ。
「敦子て、妹のことやね」
「うん、あいつ、いま中学でイジメに遭うとんねん」
「イジメ……?」
 思わず声を潜めてしまう。
「俺のあだ名は『マッタイラ』やんけ」
「え、あ、うん」
「俺はけっこう気に入ってんねんけどな……敦子は気にしとんねん」
「えと、あんたのあだ名を?」
「ううん、最近は、敦子も『マッタイラ』て呼ばれてんねんて。中学いくようになって、敦子とはあんまり喋れへんねんけどな。こないだの誕生日に、ちょっと兄ちゃんらしいとこ見せたろ思て」
「ああ、ドラミちゃんのフィギュア?」
「あの時は世話になったな……敦子喜んでくれて……ほんで、ポツリとイジメられてることを言いよったんや」
「『マッタイラ』て呼ばれてること?」
「うん」
「……せやけど、敦子ちゃんは絶壁頭とちゃうやろ?」
「あいつのマッタイラは、頭と違て、ここや」

 マッタイラは自分の胸を押えよった。「ここ?」と、あたしは自分の胸を押えた。

「うん、あいつも年頃やねんなあ……」

 つまり、敦子ちゃんは、自分の胸のサイズというかカタチというかでイジメられているようなのだった。
 
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高安女子高生物語・108〔仲間美紀の波紋〕

2019-10-05 06:59:52 | ノベル2
高安女子高生物語・108
〔仲間美紀の波紋〕      


 
 カメラのランプが赤に変わると、MNB47座長の嬉野クララさんが静かに語り始めた。

「MNB47の座長嬉野クララです。今日は、みなさんにご心配、ご迷惑をおかけしたことを、まずお詫びいたします。ファンの皆さんのお引き立てと応援でMNB47はここまでにしていただきました。特に6期生はみなさんのご支援のおかげで『VACATION』、空前のヒットをさせていただきました。わたしたち1期生をはじめメンバー、スタッフは大変喜んでおりました。しかし、みなさんの応援、ご支援に、まだ十分なお返しをする前に、大変な事故を起こしてしまいました。6期生のメンバー仲間美紀が、過労から自損事故を入院先の病院でおこしました。幸い発見が早く、大事には至りませんでした。動画サイトや新聞、テレビを通じてご承知のこととは存じますが、仲間美紀の異変に気づき、いち早くその救助をしたのは、6期生チームリーダーの佐藤明日香でした。わたしたちは6期生はじめ、まだまだ未熟ではありますが、前を向く気持ちと、ファンのみなさんの気持ちを第一に、頭を打ちながらではありますが関西を代表するアイドルグループとして精進していく決心です。仲間美紀は、しばらくの間休養させます。このような大事を起こしてしまいましたが、MNB47は一日も無駄にせず、みなさんのお気持ちご支援に沿えるよう努力いたします。ご心配、ご迷惑をおかけしたことを、いま一度お詫びいたします」

 クララさんが頭を下げて、カメラはうちに向けられた。

「わたしは、MNB47のメンバーになって二月あまり。チームリーダーになって一か月ちょっとにしかなりません。しかし、どの世界でもリーダーになった時から十分に注意を払い、チームを引っ張っていく責任があります。仲間美紀の事故は、たまたまわたしが一番早く気が付き、対処できましたが、仲間をはじめメンバーの統率やケアに気が回らなかったのは、わたしの責任です。今後は、こういうことの無いように、いっそうの努力に努めます。これからも、MNB47、なにとぞよろしくお願いします」

 カメラがロングになり、あたしとクララさんのバストアップになり、二人そろって深々と頭を下げ、カメラのランプが消えた。

「ありがとうございました、クララさん。6期のミスにつきあわせてしもて」
「座長は、あたしよ。こうするのが当たり前。そやけど美紀ちゃん、大したことのうて、ほんまによかったね。動画に撮られてなかったら、こんな騒ぎにならんと済んだのにね。ま、これで一区切り。前向いていこ、前向いて。な!」
「はい!」

 録画したものは、すぐに動画サイトに流されていた。これで、ちょっとは収まるやろ。せやけど、ウソが一つあった。
 
 美紀は……休養やのうて引退や。
 
 けど、それは伏せた。カッターナイフで手首切って自殺しかけ、そのことで引退いうことになったら『VACATION』そのものができんようになってしまう。プロモも二回撮った。オリコンチャートも順調。ここで止めるわけにはいかへん。

 うちとクララさん、ほんで笠松プロディユーサーで、仲間美紀の病院に向かった。ダブルスタンダードかますために……。
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小悪魔マユの魔法日記・54『フェアリーテール・28』

2019-10-05 06:52:18 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・54
『フェアリーテール・28』    


 
 ドロシーが三日分の食事を終えたころで声がした。

「じゃ、そろそろ行こうか!」

 声の主は、いつの間にか目覚めたトトだった……。

 言うまでもなく、行き先は「西の魔女」の城である。

 イバラの森にさしかかったとき、西の空から一クラス分ほどの空飛ぶ猿たちが飛んでくるのが見えた。
「来た、最初の関門だ。みんなドロシーがさらわれないように気をつけて!」
 かかしさんが、そういうと、ブリキマン、ライオンさん、それにトトはドロシーを真ん中にして、フォーメーションを組んだ……といえば、頼もしいドロシー親衛隊ができたように思えるが、みんな足が震えている。
 ブリキマンなんかは、ガシャガシャと町工場の機械のような音がしている。
 
「マユ、あなたの魔法でなんとかならないの……」
 ドロシーは、トトを抱き上げると、眉をひそめて空を見上げる。
「そんなに、抱きしめちゃ、ドロシーのこと守ってあげられないよ」
「わ、わたしがトトを守ってあげるのよ」
 しかし、ドロシーの足も震えている。トトを抱っこしていないと不安でしかたないのだろう。
「……あの猿たち、なんだか様子が変よ」
 マユが呟くと、猿たちはお行儀良く、ドロシーたちの前に整列、二列目の猿たちは横断幕を広げた。

――熱烈歓迎、ドロシー御一行様!!――

 一列目のセンターの猿が、もみ手しながら、一歩前に出てきた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。わたしたちは西の魔女の先触れとして、ご挨拶にうかがいました、WEST48で、ございま~す。まずは歓迎の歌と踊りを!」
 そういうと、選抜メンバーらしい16匹が前に出て、クルンと一回転するとAKB48のような女の子のユニットになり「ああ、言いたかった!」を歌い踊り始めた。

――♪やっと気づいた、本当の気持ち! 正直に言うんだ! たった一つキミだけが好きだよ……♪

 マユもドロシー一行もガックン……ときた。
 16匹……16人のパフォーマンスに気を取られているうちに、猿たちは、みんなAKB風の女の子に変わってしまっていた。マユは一瞬AKRのみんなが懐かしくなった。

「あの……なんだか様子がちがうってか、勘狂っちゃうんだけど。西の魔女って、わたしたちの……カタキなんだけど」
 
 ドロシーが、そう言うと、センターにいたポニーテールに大きなリボンの子が前に出てきた。
 
「前任の西の魔女は、定年で辞めました。オズの魔法使いは、次の西の魔女を公募したんです。で、書類選考で残った20人を、オズの住人で総選挙をやって、今の西の魔女が選ばれたんです。おかげで、わたしたちも猿の姿から本来の姿にもどることを許されたんです。さあ、西の魔女がお待ちかねです。わたしたちがご案内します。どうぞ着いてきてください。ちなみに、わたしはリーダーのナミカタです。よろしく!」
「あ、でも、わたしたち空は飛べないわ」
 ドロシーが、ナミカタの背中に言った。
「ボクは、ハングライダーで飛べるし、マユのストローハットは飛行機になるから大丈夫だよ」
 ライオンさんがフォローして、マユもうなづいた。
「ああ、飛んできたのは演出です。今の西の魔女は、もうイバラの森のお城にはいません。今はこっちの方です」
 ナミカタたちは、ドロシー達を囲むようにして、にぎやかに歩き出した。
 イバラの森の彼方に、先代の西の魔女のオドロオドロした城が木の間隠れに見えた。そっちに向かう道は封鎖されていて、一行は左手に延びる小道に入った。軽自動車がなんとか入れるぐらいの小道。楓(かえで)の木が、両側から枝を伸ばしてトンネルのようになっている。
 「く」の字に曲がった道を曲がると、遺跡のような門柱を通った。
 すると、意外に開けた庭に出た。庭の真ん中には大きな木が、ゆったりと立っていて、その周りを囲むように草花や庭木が彩っている。

「あれが、西の魔女のお家です」

 ナミカタが指差した方向には、質素だけど清潔に手入れの行き届いた二階家がある。
「ありがとう……」
 振り返ると、WEST48のみんなは居なくなっていた。
「え……?」
 もう一度振り返ると、二階家のポーチのところに魔女が立っている。
 褐色の大きな瞳に、半分白くなりかけたブルネットの髪をひっつめにした骨格のしっかりした体。

 西の魔女は、歯を見せずニヤリと笑った……。

 え、えーーーと……。
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