大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・083『M資金・16 チキンレース』

2019-10-07 13:43:06 | 小説

魔法少女マヂカ・083  

『M資金・16 チキンレース』語り手:マヂカ 

 

 

 こんどはチキンレースだ。

 

 いや、チキンレースなどやる気は無かったんだけど、白の闇の中を左右からパッカードが寄ってきて「俺たちとチキンレースをやれ!」と迫って来たのだ。

 あたしたちの車は年代物のT型フォードの外見をしているが、魔法少女の高機動車だ。チキン野郎のパッカードにヒケをとるもんじゃない。

 リアルなら黙殺する。

 だが、ここはカオスの中だ。パッカードもカオスが差し向けたもので、早くも勝負は二回戦に入ったようだ。

「いいわよ、坊やたち、キ〇タマ握って付いてきなあああああああああ!」

 いつのまにか日本仕様の右ハンドルになっていたので、シフトレバーをコキンとトップに入れてアクセルをいっぱいに踏み込む。ブリンダは――こんどは、おまえな――という顔で、目を細めて腕を組んでいる。

「がんばってくれるのはいいけど、脚おっぴらげて圧迫するのは止してくれないかなあ」

「ん? ああ……すまない、こうしないと力が入らないみたいだ」

 前回のレースでは『出』のかたちの車に変身させられたので、注意しないと脚が開いたままになるようだ。

「じゃ、オレは後部座席に避難するから、しっかり見ててやるんだぞ、アリス」

『わたしも後ろへ』

「後ろに行っちゃあ、ルームミラーにならないでしょーーが!」

『だって』

「そこに居ろ!」

 馬力の勝利か、ドライバーには逆らえない仕様なのか、アリスは「ヒッ!」っと声をあげたきり大人しくなった。

「いくぞ、魔法少女! 200メートル先が崖っぷちだ! 時速100キロ以上で突っ込むんだぞ、タイムキーパーがいるからズルは出来ねえぞ。みんな、いっくぞおおおお!」

 百台余りのパッカードといっしょに加速する。

 ブロロオオオオオオオオオ!

 数秒後、揃って崖っぷちに達するが、半分以上のパッカードが崖を飛び出して谷底へ落ちていく。

 グゥアラグゥアラ グゥアッシャーーーーーーン!!

 さすが、カオスのクリーチャーたち、車のクラッシュは派手に聞こえたが、悲鳴を上げるものは一人もいなかった。

「崖っぷち一センチでタイヤが止まってる。あたしの勝ちね」

 パッカードどもは、長いノーズを崖の外に突き出しているが、タイヤは十センチ以上手前で止まっているものばかりだ。

「いや、こいつは殲滅戦だ。最後の一台になるまでやらなきゃ終わらねえ」

「そういうことは、先に言え!」

「常識だ」

「分かった、いくわよ」

 

 再び運転席に戻って、スタートラインに着く。

 

「行くわよ!」

 敵共は返事の代わりにアクセルを踏み込んだ。もとより後れをとるあたしじゃない、加速にものを言わせて100キロに達した時は横一列だ。

 キキキキキーーーーーーーーーー!!

 今度も、崖っぷち一センチで停車。パッカードは、さらに半分に減った。

 そんなチキンレースを十三回繰り返して、残ったパッカードは一台になっていた。

「まだ、やるの?」

「おう、カオスに二言はねえ」

「やれやれ……」

 

 最後の勝負。あたしは、崖っぷち5ミリのところで決めてやった。

「敵は……?」

 振り返ると、敵のパッカードは、はるか50メートル後方で停まっている。

 うちの機動車のルーフに100000000YENが点滅し始めた。

「ふん、怖気づいたか」

 鼻で笑ってやると、アリスとブリンダが「ヤバい!」と叫んだ。

 グゥアラ……音がしたかと思うと、車を載せた崖っぷちが急に崩れ出した。

「「「ウワアアアアアアアアア!!!」」」

 そうか、やつらは、何度も崖っぷちで急停車をさせることで地盤に亀裂を生じさせて、崩れた崖っぷちごと始末するつもりだったんだ!

 パッカード野郎の高笑いを聞きつつ、あたしたちは奈落の底へ落ちて行った……。

 

 

 

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真夏ダイアリー・32『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』

2019-10-07 06:47:40 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・32
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』      
 
 
 
  新年会の「夢物語」のあとで、玉男が「現実的なこと」を言った。
 
「ねえ、みんな、冬休みの宿題やった?」
 
 一瞬、シーンとなり、お互いの顔をうかがった……。
――やりました……という顔は一つもなかった。
「みんなで、ワークシェアリングしようぜ!」
 省吾のアイデアに、みんなが飛びついた。
 
 で、ジャンケンの結果、わたしには読書感想が回ってきた。
 
 由香が、読書感想用の本を持っていた『のぼうの城』と『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』という本だ。このダイアリーを見ても分かると思うんだけど、本を読んだり、文章を書いたりというのは、わたしの得意技。
『のぼうの城』は、わたしも読んでいたので、これは楽勝。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』こんな本は知らない。
「これ、AMAZONでプレミアが付いて、8000円もするんだよ!」
「いいの、そんな貴重本借りて?」
「ハハ、他のネット書店じゃ、定価の1260円。版元の青雲書房で買えば、送料無料の定価よ。わたしは、渋谷のジュンプ堂で、たまたま見つけたときに買ったんだけどね。なんたって、お隣の学院が舞台なんだもんね」
「我が乃木坂は出てこないの?」
「カケラも。それを除けば、けっこう面白い本。まあ、二時間もあれば読めるわ」
 
 本当に二時間で読めてしまった。
 
 まどかって子が、演劇部を再建していく青春ドラマ。  
 
 展開が面白く、主役も同い年なんで、「ああ、こういうことってあるよなあ」と入り込めた。学校近辺の描写もリアルで、親近感が持てた。ただ、ラストで、主人公のまどかが、カレの忠友クンとうまくいっちゃうのは、ラノベとはいえ、羨ましかった。しかし、由香が言っていたとおり、半年の長さで物語が書かれているのに、我が都立乃木坂高校には一言も触れられていないことが、寂しいというか、不自然だった。
 
――大規模演劇部が、事故や顧問の退職で部員が激減した乃木坂学院高校演劇部が小規模演劇部に落ち込みながら、主人公まどか達の努力で再生するまでを、まどかの恋物語や、幽霊部員(本物の幽霊!)の活躍をからめ、下町の荒川周辺、乃木坂界隈を舞台に展開。女子高生の恋物語と演劇部の再生を縦糸に、時代を超えた友情を横糸に繰り広げられる青春コメディー。アハハと笑い、ホンワカと温もり、ちょっぴり涙するうちに、気が付けば、演劇部の有りようが分かるマネジメント本でもある。現役高校生から大人まで楽しめる物語。主人公のまどかは、こんな子が友だちに、妹に、娘にいたら、とても人生が楽しく、ハラハラドキドキさせられる。人生って、若いって、お芝居って楽しいと思えました――
 
 と、要約すれば、そういう内容になる読書感想を書いた。
 
『のぼうの城』は、こんなふうに書いた。
 
――“のぼう”ってのはデクノボウの事、時は戦国の再末期 秀吉の北条攻めが舞台。北条方の一枝城「忍城(おしじょう)」守兵500人対秀吉方 石田三成・大谷吉継以下20,000人。この忍城守護のトップが“のぼう様”こと成田長親(なりたながちか)。
 デカい身体をしているが武術・体術からっきし、城代の倅ながら 城下の村をうろつき百姓仕事を手伝いたがる。それがまともに出来るならまだしも、麦踏み程度の作業にも失敗する。 百姓にしてみれば有り難迷惑も良いところで 本人にメンと向かって「のぼう様は手を出さんで下され」と言い放つ。言われた長親、悲しそうではあるが一向に怒る気配なし。
 さて、この話 れっきとした史実であり、成田側、石田側はたまた公式の戦記にもはっきり記載されている。江戸期の書物には 公方に逆らった者として、必要以上に石田三成を貶めた書き方がされているが、戦闘があった当時のリアルタイム資料が五万と残っている。 本作の面白さは、合戦のスペクタクルと、“のぼう様”が本当に馬鹿者なのか稀代の将器かトコトン最後まで解らないというこの二点。時にハラハラ、時に爆笑(こっちの方が多い)しながら最後まで一気に読ませる。作中 長親が内心を吐露する部分は一切ない。その場に一緒にいる人間の評価が示されるだけで、読者にも全く判断が付かない形になっている。一読、隆慶一郎の何作かが浮かんだが…隆さんの作品にも この小田原攻めを扱った部分は多くあるのだが、また違った趣の小説である――
 
 これでも要約なんだけど、まあ、本の中味が『のぼう』の方が倍ほどあるので、こんなもの。これを、お仲間に一斉送信。あとは、適当に言葉を足してもらって、それぞれのオリジナルにしていただく。
 
 今日5日は、午後からシアター公演がある。相棒の潤に迷惑かけるわけにもいかないので、早めに家を出る。もう一度読み直そうと『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』をカバンに入れていく。地下鉄で上手く座れたので、パラパラとページをめくり、後書きを読む。
 
――この物語に出てくる、団体、人物は架空のものです――
 
 その一言が、ひっかかった……架空じゃないじゃん。乃木坂学院って、実在するし……。
「そう、この世界じゃね。この作品を書いた作者の世界では、実在しないんだよ」
 いつのまにか、隣りに、省吾のお父さんが座っていた。
「分かったかい、パラレルワールドが存在することが……」
「おじさん……」
「まもなく指令がとどく、よろしく頼むよ。真夏クン」
 
 そう言い残し、おじさんは、次の駅で降りていってしまった……。
 
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宇宙戦艦三笠・23[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・1]

2019-10-07 06:32:18 | 小説6
宇宙戦艦三笠・23
[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・1]    



 

 

 今日はヴァリヤーグの誕生日だ。

 数奇な運命をたどったヴァリヤーグは、ソ連の深い愛情(戦略的欲望)の元に航空母艦として作られ、建造費の不足から工事がストップ。その後、ソ連崩壊に伴ってウクライナの所管になるが、ウクライナは空母として、この船を完成させる費用も愛情も無かった。
 スクラップにするのももったいないので、ウクライナは売りに出したが、高すぎる売却価格や、空母としては時代遅れであったっため買い手が付かず、中国海軍の息のかかったペーパーカンパニーが、スクラップとして格安で購入。最初はカジノとして使われる予定だったが、中国は、これを本格的な空母に修復……しようとした。が、エンジンが蒸気タービンしか間に合わず、空母としては必須の速度が20ノットしか出せず。艦載機は完全武装した重量では発艦ができない。
 世界は、彼女のことを「空母の実物大模型」と揶揄した。
 当の中国も、これをもって主力空母にするつもりは無い。「遼寧」と改名し、いかついガタイで台湾や東南アジアの国々に睨みをきかせつつ空母としてのノウハウを手に入れるだけで充分であった。現に彼女のデータをもとに設計がしなおされ、数年後を目途に新空母が建造されつつあり、それらが竣工するころには本当のスクラップにされることになっている。

 その船霊としてのウレシコワは、いまや、三笠の居候になった気分であった。そんな彼女を慰めるために、ロンリネスを発ってから三日目に、クルーのみんなで誕生日を企画したのだ。

「お誕生日、おめでとう!」

 三笠の船霊のみかさんも出てきて、修一の乾杯の音頭で誕生会が始まった。
「ありがとう、みんな。あたし、今日が自分の進水式の日だってこと忘れてた」
 泣き笑いの顔で、ヴァリヤーグの船霊ウレシコワは乾杯に応えた。
「1988年11月25日。君は立派に生まれたんだ」
「でも、船を離れちゃって、今は三笠の居候……」
「気にすることないわよ。あたしだって元はボイジャー1号だったけど、今はクレアとして三笠のクルーよ」
「ありがとう。みかさんて懐が深いのね」
「もう100年以上も船霊やってるからね。いろいろあったわ。原因不明の爆発で二度沈んじゃったし、記念艦になったあと、終戦直後にはダンスホールにされたこともあった。いろいろあることが船霊にとっては勲章のようなものよ」
「そうだよ。オレたち横須賀国際高校ブンケンも解散直前だったし」
「部室だって、三笠に来る前に軽音にとられちゃったし」
「メンバーも、みんなワケアリだし」
「みかさん、ひょっとして、宿無しばっか集めてるんじゃない?」
 樟葉が鋭い質問をした。
 みんなの視線がみかさんに集まった。
「宿なし……」

 みんなの視線が、みかさんに集まった。

「特に意識したことは無いけど……笑顔かな」
 
 え、笑顔?
 
 意外な答えにみんな驚いた。
 
 トシも樟葉も笑顔からは遠い、クレアもウレシコワも流浪の疲れの方が目立つし、美奈穂もツンケンしてる方が多い。
 
「うん、『笑顔』って言われて、そういう風にびっくりする人たち」
 
「え?」
 
 アハハハハハハ……ワハハハハハハ!!
 
 みかさんにつられて笑っていると、その中に野太い笑い声が混じってきた!
 
「え?」「だれ?」「だれだ!?」
 
 いぶかしんでドアを開けると、笑い声は開け放した最上甲板のハッチから漏れているのが分かる。
 
「最上甲板だ!」
 
 ラッタルを駆け上がると、錨甲板に、そいつが居た。
 
「お楽すみのどごろ申す訳ね、わっきゃ暗黒星雲、暗黒帝国のダースべだ」
「ダースベーダー!?」
「いんにゃ、ダース……べだ」

 暗黒帝国との関わりが始まった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・16『国際観光ホテル ド・カワチ』

2019-10-07 06:24:31 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・16
『国際観光ホテル ド・カワチ』
         高師浜駅

 

 クーポン券と優待券の合わせ技で1000円!

 何かというと、八尾にある『国際観光ホテル ド・カワチ』の温泉お食事コース。
 AM11:00~PM3:00まで温泉に浸かって豪華ランチが食べられる。お食事は泊まりやったら一泊二万円はする和室で頂ける。
 その『国際観光ホテル ド・カワチ』に女三人で出かけた!

 元はというとお祖母ちゃん。

「期末テストで欠点無しで平均点以上とれたら、ええもんあげる」
 ということでもろたんが優待券。これやと二人しか行かれへんので、クーポン券の割引で一人3000円。それを三人で割って1000円というわけです。
 近鉄河内山本で下りて、迎えのマイクロバスに乗るんやけど、三十分も早く着いたんで、駅前の山本八幡宮へ。

 三百坪ほどの小さな神社やけども、程よい華やぎがあって、あたしらにピッタリ。    

「鳥居くぐる時は端の方ね、真ん中は神さまの通り道。で、この御手洗(おてあらいではない、みたらい)で、まず左手、そして右手を清め、口を漱ぎます。はい……拝殿の前に進んで二礼二拍手一礼……」
 お参りの作法は、意外にも姫乃が詳しくて、社務所で控えている神主さんがニコニコと笑顔で頷いてくれはる。
「なにお願いしたの?」
「弓道の全国大会に出られますように」
「早く大阪に慣れますように」
「なるほど」
「「ホッチは?」」
「えと……良縁に恵まれますように、かな?」
「「うわー(n*´ω`*n)!!」」
「あ、いろんな意味での良縁よ。いい友だち、いい先生、いい運勢等々」
「いい男は?」
「え、ま、常識的に等々の中」
「ちゃんとお願いしとかんと叶いませんよ」
「うっさい!」
 すみれをどついたろと手を上げて思いついた。
「ちょっと、絵馬買うてくる!」
 拝殿横のお札売り場で絵馬を買う。

――マッタイラの妹の悩みが解消しますように――

 筆ペンで願い事を書くと、すみれも姫乃も神妙な顔で頷いた。
 絵馬を掛けている間に、すみれと姫乃はお守りを買っていた。
「お正月は一杯やから、こういう日のお参りの方が御利益があるかもしれませんねえ」
 巫女さんの言葉が嬉しくて、あたしもお守りを二つ買う。お祖母ちゃんのと自分のん。

 駅に戻ると、二分ほどで迎えのマイクロバス。

 玉櫛川沿いをゆったり走る。川沿いは冬枯れの桜並木、桜並木の向こうは芦屋みたいに落ち着いた昭和のお屋敷街。
 桜の季節は素敵だろうなあ……思っているうちにホテルのエントランスに着く。
「では、どうぞごゆっくり」
 運転手さんにドアを開けてもらって、ホテルの玄関へ。

 ホテルのフロントには、温泉お食事コースの先客が五人並んでいた。
 OL風の三人連れと、お婆ちゃんと孫らしい女の子。

 その女の子の横顔を見てびっくりした。

 アッちゃん、マッタイラの妹や……!
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高安女子高生物語・110〔MNB47の終戦記念日〕

2019-10-07 06:15:46 | ノベル2
高安女子高生物語・110
〔MNB47の終戦記念日〕
          

 

 100%の善意もないけど、100%のビジネスもない。

 桃井さん(仲間美紀のゴーストライター)が言うた言葉は、二日ほどして実感になった。
「今日は、護国神社にいくぞ」
 市川ディレクターに言われて、最初は意味が分かへんかった。ゴコクも「五国」「五穀」なんちゅう字ぃが頭に浮かんだくらい。

 最初は靖国神社の大阪支店ぐらいに思てた。
「靖国神社とは似て非なるもんだ。戦死した軍人だけじゃなく、自衛官、警察官、消防士など公務で殉職した人たちも祀られている。真摯な気持ちでお参りしてほしい」
 市川ディレクターの言葉で顔色が変わった子もおった。お父さんや御祖父さんが警察官や消防士で殉職した子がMNBで二人いてた。
 バス5台に分乗して、選抜からペーペーの研究生まで100人を超えるメンバーで住之江区の護国神社を目指した。
 案の定、マスコミが待ち受けてて、護国神社は天皇さんが来はった昭和45年以来の賑わいになった。

 バスの中で、お参りの仕方はレクチャーされてた。

 鳥居の前で一礼、それから手水所で左手、右手の順で手を洗い、口を漱ぐ。拝殿の前で座長の嬉野クララさんを先頭に、二礼二拍一礼をビシッと決める。一斉にカメラマンの人らのシャッター音。すると、神主さんが出てきて、かしこまってお辞儀しはった。うちらも、つられてお辞儀。

「前もってお話はいただいてましたけど、こない大勢で来てくれはるとは思てしませんでした。ほんまにありがとうございます。ここのご祭神は、若くして殉じた男の人がほとんどです。こないに仰山若いMNBのお嬢さんらに来ていただいて、ご祭神の方々も喜んでくれてはると思います。よろしかったら、お歌なんかご奉納していただけるとありがたいんですけど。お願いできまっしゃろか?」
「分かりました。二曲奉納させていただきます」
 いつのまにか笠松プロディユーサーも来てて、ちょっとしたライブができる準備がされてた。

 クララさんらの選抜が『心のプラットホーム』 うちら6期で『VACATION』 で、アンコールに応えて『21C河内音頭』で締めくくる。

「この神社には戦犯も祀られてること承知で参拝したんですか!?」
 毎朝新聞のアホがステレオタイプの質問をしてきよる。クララさんが代表して答えた。
「サンフランシスコ講和会議で、戦犯という呼び方は国際的に無くなったんです。みんな『公務死』という扱いと名称になってます」
「しかし、アジアの人たちがね」
「あなたのおっしゃるアジアって、どこなんですか?」
「それは……」
 毎朝の記者は三つの国の名前をあげた。
「あたしたち、みなさんみたいに賢くないけど、アジアの国がもっとあることぐらい知ってます」
 毎朝のオッサンが食い下がろうとすると、メンバーの一人が進み出た。
「あたしの父は消防士で出動中に殉死して、ここにいるんです。そこに娘がお参りして、どこが悪いんですか!?」
 その涙声にオーディエンスから拍手が起こる。
「でもね、さっき笠松さんが玉ぐし料渡してたでしょ。あれって、MNBの収益から出てるわけ。で、君たちのファンには、こういうことには反対の人もいると思う。そこのとこどう?」
 オッサンも意地になってきよった。
「わたしから、一言」
 神主さんが出てきた。
「護国神社は、楽に運営はできてません。せやけど、うちなんかより、もっと困ってる人がいてます。震災やら災害の被災者の方々に義援金として納めさせていただきたいと思います。ありがとうございます」
 オーディエンスから「お前も寄付せえよ!」「せやせや!」などと声があがる。
「こ、これって、売名行為とかの性格強いんじゃないの!?」
 しつこいオッサンや。
「それもあります、あけすけに言えば。でも世の中100%の善意やなかったら、したらあきませんのん? 少なくとも貴方よりはピュアな気持ちでお参りさせてもらっています。以上です」

 さすが、クララさん。うちはここまでの演説はでけへん。結局毎朝のオッサンは引き下がりよった。けど、その日の毎朝新聞のサイトは「シブチン!」「アホンダラ!」なんかのレスで炎上した。
 で、うちらの夜の公演は大盛況やった。

 仲間美紀が、「人生見直しのジャーニーに出かけます、もう少しだけ時間をください」の書き込み。桃井さんと手記を書く準備に入ったんやと思う。

 これが、うちらの終戦記念日でした。
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小悪魔マユの魔法日記・56『フェアリーテール・30』

2019-10-07 06:05:29 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・56
『フェアリーテール・30』    


 
 西の魔女はナイフで一刀両断にした。
 ドングリの中味は、こまかい電子部品で一杯……それは高性能盗聴器だった。

「こんなものが、あちこちにあるようじゃねえ……」
「こんなもの、だれが仕掛けたのかしら……?」
 ドロシーは、不安げに周りを見渡した。
「……まだ、この家の中に五つはありますね」
 マユが、神経を集中させて答えた。
「いいえ、十五個よ」
「分かってて、ほうっとくんですか」
「ええ、だれが仕掛けたかということも含めてね」

 西の魔女は、それ以上は答えてはくれなかった。
 庭の草むしりと薪割りが終わったライオンさんたちが戻ってくると、西の魔女は、あっさりとホウキをくれた。ライオンさんたちがランチを食べている間に、西の魔女は薬を調合していた。
「困ったときに、お飲みなさい」
 西の魔女は、そう言って二つの薬をくれた。
「どういう時に使うんですか?」
 ドロシーは、不思議そうに二つの薬ビンを見つめた。
「困ったときよ」
 西の魔女は、ニヤリと笑って、そう答えるだけだった。
 マユは、片方の薬の効き目は分かったが、もう一方はまるで分からなかった。

「じゃ、お世話になりました」
 ドロシーは、そう言うとホウキを肩にかついで、お礼を言った。
「この家が見えなくなるところまで行ったら、そのホウキで空を飛んでいけるから。他のみんなは、マユの飛行機ででも行くといいわ。いいこと、日が暮れる前にオズの魔法使いにホウキを渡すのよ」
「はい!」
 マユとドロシーは、小学生みたく元気に声をそろえてお返事をした。

――こんな素直に返事ができたなんて、何年ぶり……いや、生まれて初めてかも……。

 短い時間だったけど、マユは、不思議ななつかしさを西の魔女に感じた。
 そして……西の魔女に会えるのは、もう、これで最後のような気がした。

 イバラの森までは、WEST48の子たちが、歌いながら送ってくれた。
「じゃ、わたしたちは、ここで」
 リーダーのナミカタが、笑顔で挨拶してくれる。
「どうもありがとう、西の魔女さんによろしく!」
 そういうと、ドロシーはホウキにまたがり、他のみんなは、マユがストローハットを変身させた飛行機に乗って飛んでいった。ライオンさんはハングライダーを使わずに、飛行機に便乗している。
「教育的配慮」
 などと、ライオンさんは言ったけど、どうやら、ドロシーに言葉がかけづらいためのようだ。
 ライオンさんたちは、ドロシーがオズの魔法使いに会えば、全てが終わると思っているようだ。

――今度のドロシーは、そんな簡単にはいかないわ。

 マユは、心の中でそう呟いた。
 
「あの子行ったわよ。最初のドロシーだったけど、最後のドロシーになるでしょうね。わたしにとっても……あなたにとっても」
 西の魔女が、そう言うと、家の中の十五個の高性能盗聴器がいっせいに煙を吐いて壊れてしまった……。


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