大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・084『M資金・16 牛と共に落ちる』

2019-10-10 12:58:54 | 小説

魔法少女マヂカ・084  

『M資金・16 牛と共に落ちる』語り手:ブリンダ 

 

 

 

 T型フォードにはシートベルトが無い。どころかキャビンは幌を張っただけの素通しだ。

 

 そんなT型フォードの高機動車が、グルングルンと上下左右に回りながら落ちていくのだから、たまったもんじゃない。

 ウワアアアアアアアアア!!

 あっという間に投げ出されて、虚空の中を落ちていく。このまま落ちてしまえば『不思議アリス』のように奈落の底にたたきつけられて一巻の終わりだ!

 魔法少女は飛行する能力があるが、得意ではない。基本的に地面や壁とか、踏ん張って勢いをつけるものがなければ飛行姿勢がとれない。むろんスカイダイビングのチャンピオン程度の力はあるのだが、それも、こんなグルグルのモミクチャでは絶対無理だ!

 T型フォードも『鏡の国のアリス』も手をこまねいているわけでは無いのだが、オレたちよりも早く落ちていってる。物質の落下速度は質量に比例しないのはガリレオがピサの斜塔から大小の鉄球を落として実証済みだ。三百年前に確立された物理法則が完全に無視されている。

――ニャハハハハ……ここはカオスの世界だからにゃあ――

 チェシャネコが顔だけ現してニヤニヤしている。

 ニクッタラシイやつめ!

 せめてもの悪態を浴びせてやると、なにかが降ってきてチェシャネコを直撃した。

 フギャ!

 それは、茶褐色の牛だ! 牛に直撃されたチェシャネコは悲鳴を残して消えてしまったが、牛たちは後から後から降って来る。黒いのも茶褐色のもホルスタインみたいのもいる。牛たちは、クルクル旋回せずに足を下にしたまま落ちている。

「牛に乗れば、ちょっとマシにならないかな?」

 マジカがいいことを言う。

「よし、手ごろなのに乗っかるぞ!」

 対策が見つかると(牛に乗ったからと言って助かると決まったわけではないが)楽になる。視野に入っている牛たちの中から手ごろな黒牛を見つけて跨ってみる。

 おお、この感触!?

 大戦前に何度か挑んだロデオ大会を思い出した。思い出すと同時に感覚が戻ってきて、我ながら器用に乗りこなせる。視野の端っこに、へっぴり腰ながら牛に跨ったマジカが見える。

 なんとかなりそう……思った瞬間、上の方から牛に跨った男たちが下りてくる。パッカードに乗っていた連中だ。

――こいつら、又仕掛けてくるのか!?――

「ブリンダが、ロデオなんか思い出すからだろがあ!!」

 相棒が吠えている。

 着地には間がありそうだ、腐っても魔法少女、着地するまでには上手くなるだろう。

 

 奈落の底が、仄かに明るくなってきた……T型フォードは風に流されたのか姿が見えない……真下ではすでにロデオ大会が始まっているのだろう、湧き上がる歓声が聞こえてきた。

 

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真夏ダイアリー・35『最初の任務・駐米日本大使館・1』

2019-10-10 07:19:09 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・35
『最初の任務・駐米日本大使館・1』    



 気が付いたらワシントンD・Cのマサチューセッツアベニューだった。
 ボストンバッグを持ち直して周囲を見渡す。

 西にポトマック川と、川辺の緑地帯が見える。関東大震災救援のお礼に日本から送られた桜が並木道に寒々と並んでいた。12月では致し方のない光景だが、いきなり1941年の12月……いくら基本的な情報はインストールされているとはいえ、感覚がついてこない。

 向こうに見えるネオ・ジョージアンスタイルの建物が、日本大使館だと見当はついたが、気後れが先に立ち、なかなか足が進まない。
 紺のツーピースの上に、ベージュのコート。我ながらダサイファッションだと思ったが、頭では、これが当時のキャリア女性の平均的なものと認識しているのだから仕方がない。

「道に迷ったのかい……?」
 後頭部から声が降ってきた。振り返ると、アーノルド・シュワルツェネッガーのようにいかつい白人の警察官が、穏やかに、しかし目の奥には警戒と軽蔑の入り交じった光を宿しながら真夏を見下ろしていた。
「日本大使館に行くところなんですなんです」
「ほう……で、用件は?」
「新任の事務官です」
「パスポートを見せてもらっていいかな?」
 言い方は優しげだが、十二分な威圧感がある。いつものわたしならビビッてしまうところだけど、こういう場合の対応の仕方もインストールされているようで、平気で言葉が出てくる。
「荒っぽく扱うと、中からサムライが刀抜いて飛び出してくるわよ」
「優しく扱ったら、芸者ガールが出てくるかい?」
「それ以上のナイスガールが、あなたの前にいるわよ」
 わたしは、帽子を取って、真っ正面からアーノルド・シュワルツェネッガーを見上げてやった。紅の豚のフィオが空賊のオッサンたちと渡り合っているシーンが頭に浮かんだ。
「へえ、キミ23歳なのかい!?」
「日本的な勘定じゃ、22よ」
「ハイスクールの一年生ぐらいにしか見えないぜ。それもオマセでオチャッピーのな」
「お巡りさんは、まるで生粋の東部出身に見えるわ」
「光栄だが……まるでってのが、ひっかかるな」
「お巡りさん、ポーランド人のクォーターでしょ」
「なんだと……」
「出身は、シカゴあたり」
「おまえ……」
「握手しよ。わたしのお婆ちゃんも、ポーランド系アメリカ人」
「ほんとかよ?」
「モニカ・ルインスキっての」
「え、オレ、ジョ-ジ・ルインスキだぜ!」
「遠い親類かもね? もう、行っていい、ジョ-ジ?」
「ああ、いいともマナツ。そこの白い建物がそうだ」
「うん、分かってる。新米なんで緊張しちゃって……」
「だれだって、最初はそうさ。オレもシカゴ訛り抜けるのに苦労したもんさ。でも今は……ハハ、マナツには見抜かれちまったがな」
「ううん、なんとなくの感じよ。同じ血が流れてるんだもん」
「そうだな、じゃ、元気にやれよ!」
「うん!」
 ジョージは、明るく握手してくれた。気の良い人だ……そう思って大使館の方に向いた。その刹那、イタズラの気配を感じた。
「BANG!」
 ジョージは、おどけて手でピストルを撃つ格好をした。わたしは、すかさず身をかわし反撃。
「BANG!」
「ハハ、オレのは外されたけど、マナツのはまともに当たったぜ!」
「フフ、わたしのハートにヒットさせるのは、なかなかむつかしいわよ」
「マナツの国とは戦争したくないもんだな」
「……ほんとね」

 自分のやりとりが信じられなかった。完全なアメリカ東部の英語をしゃべり、ポーランド系アメリカ人のお巡りさんと仲良くなってしまった。完全に口から出任せだったんだけど、妙な真実感があった。
 大使館の控え室の鏡を見て、少し驚いた。わずかだけど顔が違う……クォーターだという設定はインストールされたものだと直感した。

 その時、ドアがノックされ、アメリカ人職員のオネエサンが入ってきた。

「おまたせ、ミス・フユノ、大使が直接会われるそうよ」
「は、はい」
 オネエサンに案内されて、大使の控え室に通された。
「失礼します」
「ああ、待たせたね……」

 野村大使が、ゆっくりと顔を上げた……。

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宇宙戦艦三笠・26[ダススターとヨーダ]

2019-10-10 07:10:43 | 小説6
宇宙戦艦三笠・26  
[ダススターとヨーダ] 



 

 

 一言で言って、クレーターの中はガランドーだった。

 モニターで拡大すると、神経細胞のシナプスのようなものがあちこちにあり、それぞれがニューロンのような突起を張り出していた。
 シナプスのように見えたのは、一つ一つがベース(基地)であった。三笠は、アルファ星のほぼど真ん中にある大きなシナプスのニューロンの一つに接岸した。

「ね、ね、ニューロンの突起のように見えたのは、全て戦闘艦や戦闘機だよ!」
 ニューロンの埠頭を歩きながらトシが、感激の声を上げた。
「いったいどれだけの数なんだ……」
 修一の独り言には誰も応えなかった。クレアでさえ分からないように特殊なバリアーが、星の内部にも張られている。
「これが、暗黒星雲の中心なの?」
 樟葉の言葉に、レイマ姫は笑顔で応えるだけだ。

 埠頭の向こう300メートルほどのところに、人が現れた。
 人型のロボットを二台連れている。ロボットは小学生高学年ぐらいの背丈だったが、人間の方は、それよりも低い、いや小さい。
「アルファ星にようこそ。姫には申し訳ないが、念のためダススターに寄ってもらいました。お許しを」
「やっぱ、おらの考えだけじゃ、頼んねーよーだなす」
「いかにも、敵10万機の飽和攻撃シミレーションで、船が大破、艦長戦死の結果では、暗黒星雲からお出しするわけにはまいりません」
「ハー、やっぱ、あれやるんだすか?」
「ベー卿も同意です、殿下」
「ベーー!」

 レイマ姫は、思い切り嫌な顔をした。

「このアルファ星は、通称ダススターと呼ばれておりましてな。暗黒星雲の中にあるベースの一つです。あなたがたには姫といっしょにフィフスの訓練を受けてもらいます。おお、わたしとしたことが自己紹介を忘れておりましたな」
「このしとは、暗黒星雲一のジョーダンマスターだす。ジョーダンつっでも冗談の通じるしとでねえんで、そのつもりで」
 レイマ姫が前フリをした。
「わたしは、地球で言えば大統領補佐官兼特殊部隊の指揮官と教官を兼ねたことをやっとります。名前はナンノ・ヨーダ。ナンノが苗字で、ヨーダが名前です」
「で、ナンノ先生、あたしたちが受けるフィフスの訓練とは、どういうものなんですか?」
 美奈穂が恐る恐る聞いた。ウレシコワは黙ってついてくる。大昔のソ連を擬人化したような沈黙だった。みかさんは分身を同伴させてくれた。日本の神さまは便利で、分祀という形で、いくらでも分身がきいた。みかさんはアルカイックスマイルのままだ。

 埠頭を過ぎると、管制塔のような建物の中に入った。

「このダススターには、君たちが考えているより一桁多い艦艇と作戦機がいる。きたるべきグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いに備えてのことです」
「この暗黒星雲は、グリンヘルドもシュトルハーヘンも敬遠してるんじゃないですか?」
「今の段階ではのう。しかし、将来は分からん。げんにこうして三笠の諸君が、ここにいる。君たちが来られるということは、敵がいつ来てもおかしくない。そうじゃないかい……ですなレイマ姫」
「……んだすな、ヨーダ」

 それから、三笠のクルーたちはフィフスの訓練に入った。なんでフィフスというのか不思議だったが、答えは簡単だった。
「フォースの上をいくもんだからじゃ」
 簡単に言えば第六感を磨き、それにふさわしい魔術を身につけることだった。

 で、その最初は、ナンノ・ヨーダが連れていた二台のロボットとジャンケンすることから始まった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・19『大晦日の奇跡』

2019-10-10 07:03:40 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・19
『大晦日の奇跡』
         高師浜駅

 

 なんやハイビジョンと変わらへんな~。

 4Kテレビを観たお祖母ちゃんの感想。
 この感想は二段階になってます。
 第一段は「J電器です、お買い上げの商品をお届けにまいりました!」とJ電器からテレビが届いて、梱包を解いた時。
「4Kいうから、なんかゴージャスなもんや思てたけど、そっけないもんやなあ」
 お祖母ちゃんは、4Kテレビいうのは、大昔に白黒テレビがカラーになった時のような大革命で、家具調テレビみたいなゴージャスな外観を想像してたみたい。
「ま、とりあえず設置しよか」
 お祖母ちゃんと二人で、前のテレビとは反対側に据え付ける。前の場所やと「また壊しそう」というお祖母ちゃんの意見やから。
「昔は電気屋さんが据え付けてくれたもんやけどなあ……」
 コードをどこに付けたらええのか分からんようになったお祖母ちゃんがプータレる。据え付けは別料金なので節約したこともあるんやけど、ちょっとは頭使たほうがボケ防止になる……とは言いません。
 あーでもないこーでもないと、お祖母ちゃんとやるのも悪いもんやない。
「さあ、ほんなら点けますよ~(#^^#)」

 一時間の奮闘のあと、いよいよ4Kテレビの点灯式!

「うわ~~~~~(*^▽^*)」

 というのが、わたしの素直な感動。

「ウーーーーン」

 お祖母ちゃんは腕を組んだ。第二の感想が始まる。

「なんやご不満?」
「なんか、ハイビジョンと変わらへんなあ」
「え、そんなことないでしょ? クッキリ鮮やかで、ぜんぜんちゃうやんか」
「そうか……」
 お祖母ちゃんは、ソファーの上で正座して、テレビの画面を睨み始めた。
 その眉間の皴を見てピンときた。
「お祖母ちゃん、眼鏡が合うてないんとちゃう?」
「あ、え?」
 お祖母ちゃんは、ちょっと狼狽えた。わたしは部屋から英和辞典を持ってきてお祖母ちゃんに見せた。
「お祖母ちゃん、読める?」
「バカにせんとき、お祖母ちゃんは英文科出てる……ウ、見えへん」
「やっぱり老眼が進んでるねんで」
「せ、せやなあ」
 並の年寄りやったら落ち込むとこやねんけど、お祖母ちゃんは傾向と対策の人やから、さっそくゲンチャに乗って眼鏡をあつらえに行った。

「やあー、えらいベッピンさんになってたんやなーーーー!」

 眼鏡を替えての第一声がこれ。
「さっきまで見てた美保は、脳内変換してた美保の姿やってんなあー、こうやってマジマジ見ると、ええ女に成長してんねんやんか!」
 作家の性かもしれへんけど、感動をねつ造、あるは針小棒大に言うのんは身内だけにしときや、お祖母ちゃん。

 夜は大晦日恒例の紅白歌合戦の鑑賞。

 お祖母ちゃんは、早めにお風呂に入って、薩摩白波をドーンとテーブルに置き、ソフアーの上で大あぐら。
 お祖母ちゃんが私にだけ見せる正体。ちなみに、この姿をスマホで撮ったら、マジで怒られたことがある。

「やっぱりスマップの出えへん紅白は面白ないなあ……」

 この意見には満腔の同意です。
 スマップは物心ついた時からのファン、わたしにとって、スマップは紅白のカナメ。
「もう寝よかなあ……」
 テレビはツケッパで、雑誌に目を落としていたお祖母ちゃんが、しょーもなさそうに言う。
 それを受けて、あたしがリモコンに手を伸ばした時に奇跡が起こった。

――それでは、いよいよ白組のトリであります! お待たせいたしました、急きょ出場が決まりましたスマップのみなさんです!――

「「う、うそ!?」」

 孫と婆さんが同時に驚きました。

 スマップの『世界に一つだけの花』に、我が家の大晦日は心豊かに満ちてきました……。
 
 そやけど、なんで?
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高安女子高生物語・113最終回『始業式 いつの間にかの覚悟』

2019-10-10 06:35:03 | ノベル2
高安女子高生物語・113最終回
『始業式 いつの間にかの覚悟』
      


 

 アイドルと高校生の両立はむつかしい。

 そんなことは百も承知のつもりやった。
 バンジージャンプでは、高校生どころか、女であることも捨てた感じ。落ちる速度と谷からの上昇気流が作る合成風力で、うちの顔は、まるで崩れかけのプリン。ギャーと叫んだ口には遠慮なく空気が猛烈な勢いで入ってきて、顔全体をはためかす。中学のときに治した奥歯が銀色に輝き、喉ちんこが叫び声と風にはためいてるとこまで御開帳。鼻の穴も二倍に膨らんで見えるし、つぶった目ぇは押し上げられて、糸ぐらいの細さ。時間にして30秒もない映像を、さっそくYouTubeで流される。中には叫んで、一番不細工になった瞬間を50回もつないで流したヒマなやつもいてる。
 一応アイドルやさかい、親会社のユニオシ興行は削除依頼してくれるかと思たら、なんとユニオシ新喜劇の冒頭に大スクリーンに映し出してくださった!

 で、今日は一か月半ぶりの学校。

 予想通り、校内で顔合わす生徒のほとんどがうちの顔見ていきよる。中には遠慮なく吹き出す奴もおった。相手によって、アハハと笑うたり、恥ずかしげに俯いて見せたり。このへんの使い分けは、MNBの二か月ちょっとで覚えてしもた。

「あれ、美枝は来てへんのん?」
 空いてる席を見てゆかりに聞いた。
「うん、もうお腹が目立ってきたよってに……」
 MNBで明け暮れてた夏の間に、学校のみんなはいろいろあったみたい。そらそやろ。うちかて、こんなに変わってしもた。
 もういくつか空いてた席があったけど、体育館での始業式終わって戻ってみたら、全部の席が埋まってた。さすがにガンダムクラス。帳尻は合わせてる。でも、なんか違和感……席ごとおらんようになった奴がおった!

「新垣麻衣が、家庭事情でブラジルに帰った。話は、八月の頭には決まってたけど、みんなに気づかれるのは辛い言うて、君らには内緒やった……今頃飛行機に乗ってる時間やろ。朝はように学校の郵便受けに、こんなんが入ってた……」
 ガンダムは、一枚の色紙を黒板に掲げた。

――ありがとう――

 たった五文字の中に万感の思いが詰まってた。

 くだくだしいことはなんにも書いてない。うちやったら日本人の常套句「がんばって!」ぐらい書いたやろ。さよならだけどお別れじゃない……なんて言葉を書いたかもしれへん。鮮やかなお別れの言葉やった。
 ホームルームのあと、教室に残ってゆかりと夏の空を見てた。

 今までのうちらは、空気吸い込んだら、なんか言葉にせんともったいないいうくらいのおしゃべりやったけど、二人とも無言やった。
「サンバ……やるんやろ?」
「うん、みんなで決めたことやもん」
 言いだしべえの麻衣はおらへんけど、文化祭でやろ言うのはクラスみんなの決定や。それが筋やと思う。
 はっきりせん曇り空やったけど、西の方に微かに雲の切れ目。
 そこから夏らしい青空。
 雷さんがお腹を壊したような遠雷……夏の残りはまだまだの予感。

 予感は、すぐに現実になった。

 夜のステージが終わって家に帰ると関根先輩から手紙が来てた。

――MNBを何回か観に行ったで。握手会にも並んで。明日香は、ほんまにきらきらしてた。そう感じた。明日香は明日香の道を歩いていけよ。それが一番や。明日香のことは、明菜と応援してます。佐藤明日香様 関根学――

 涙がこぼれてきた……関根先輩はうちのこと思ててくれた。うちは握手会に来てくれてたことにも気ぃつけへんかった。先輩は悩みに悩んだに違いない。そんなことは、ちょっとも書いてないけど、短い文章の文字の間に痛いほど現れてる。人間の心は……言わへんとこ、書かへんとこによう現れる。麻衣も先輩も……。

 うちは返事を書こ思て止めた。決心した人には余計なことやと思たから。

「これで、ええねんな。正成のオッチャン……?」

 答えも気配もなかった……ふと、バンジージャンプのときのことが頭をよぎった。あのときに正成のオッチャンは抜けて行ってしもた。
 偶然やない、あれをきっかけに……うちにとってか、正成のオッチャンにとってかは分からへんけど、潮時やと思たんやろ。

 静かに思た。一人で頑張っていこ……ほっぺたの涙は、まだ乾かへんけど、心は潤ってる。いつの間にか覚悟ができてた……。

 高安女子高生物語 完 
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小悪魔マユの魔法日記・59『トイレットペーパー事件・3』

2019-10-10 06:23:44 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・59
『トイレットペーパー事件・3』   


 
 そう考えているうちに大量のトイレットペーパーのことなどすっかりマユは忘れてしまった。

 次の休み時間、その大量のトイレットペーパーが発見され、問題になった。
 他の生徒たちが、前の休み時間に予鈴が鳴って、トイレからルリ子たちが慌てて飛び出してきたところを目撃していた。ルリ子たちは、先生に呼び出され質問された。
「おまえたちか、あんなにトイレットペーパーを散らかしたのは!?」
「いや、あれは……」
 美紀が説明しようとした……。
 
 トイレットペーパーを使おうとして、包装紙を剥いてホルダーにかけ、用を足すと高速でホルダーが回り始め、トイレットペーパーが吹っ飛んだかと思うと、ホルダーの回転がやまずに次から次へと新しいトイレットペーパーが増殖していき、あっと言う間に個室に一杯になり、美紀は大量のトイレットペーパーごと個室から吐き出された……。

 真実ではあるが、だれも信じてはくれなかった。目の当たりにしたルリ子も、そのとおりだとは思ったが説明はできない。マユがトイレットペーパーを投げ入れてから、少し間があった。だいいち、トイレットペーパーを示して、「マユ、それ……」と、促したのはルリ子自身である。
 涙目になって説明をくりかえす美紀を制して、ルリ子が言った。

「わたしが、始末します」

 六時間目が始まっても、ルリ子は教室にもどってこなかった。
「あたしたちにも手伝わせて」
 そう言う美紀たち。
「さっさと、教室にもどんなさいよ。後始末は、あたし一人で十分だから」
 で、ルリ子一人、トイレに残り、散らばったトイレットペーパーの後始末をやっていたのだ。
 マユは、自然に入ってくる美紀たちの思念から、それを感じた。

 マユは、動揺した。

 無意識とは言え、自分がやったことである。ちょいワルとはいえ、ルリ子はリーダーとして責任を感じて、一人で後始末……マユは、ルリ子を見なおして後悔した。
 あのとき魔法で、トイレットペーパーをもとにもどしてやったら、こんなことにはならなかったんだから。

 十分ほどして、ルリ子がもどってきた。

 なにか行き違いがあったようで、六時間目の島田先生は、ルリ子が遅れてきた理由を知らない。
「どこ行ってたんだ、吉良!」
 島田先生は、頭ごなしにルリ子を叱った。普段から、島田先生はルリ子たちをこころよく思っていない。頭ごなしは一分ほど続いた。マユは混乱して、やっと島田先生の怒りを収める魔法をかけようとしたところ、ルリ子は、ポケットから、生活指導の指導票を出して、島田先生も、やっと事情を飲み込んだ。
――しかし、もともとは自分の不始末じゃないか。
 島田先生が、そう追い打ちをかけるのを、やっとマユは魔法で止めた。

――マユ、あんた、なんか絡んでんの?

 魔法に気づいたオチコボレ天使、雅部利恵の思念が突き刺さってきた……。

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