せやさかい・080
シキガミというらしい。
お祖父ちゃんが言うたときは『敷紙』という字が浮かんだ。
人の形をしてるとはいえオフホワイトの和紙やねんもん、コースターかなんかの一種やと思う。
テイ兄ちゃんが字で書いてくれた。
式神
なにこれ?
「陰陽師が使てたもんでな、これに呪(しゅ)をかけると、いろんなもんに化けて陰陽師の命令を実行するんや。ま、魔術で言うところの『使い魔』やなあ」
「使い魔!?」
これは知ってる『ゼロの使い魔』とかの異世界ものラノベの素材になってたりする。魔法使いが使役する悪魔の子分で、魔法で呼び出されたり、魔術で破れたクリーチャーなんかが使役されてるのを言うんや。
「お祖母ちゃんのころは付き合いが広かったから、どこかで貰てきたもんやろなあ」
お祖父ちゃんのお祖母さんやから、ひいひい祖母ちゃん……かな?
「お祖母ちゃんのころは戦前・戦中やさかいなあ、まともにお布施も渡されへん檀家さんがあって、商売もんやら米野菜やらの現物でもらうことがあったさかいなあ。お布施やいうことで渡されたら受け取るしかなかったもんかもしれへんなあ」
「ちょっとキショク悪いなあ」
テイ兄ちゃんは言うけど、あたしは好きや。
「やっぱり、ちょうだい!」
「まあ、好きにしい」
お祖父ちゃんは箱ごとくれた。
あたしは式神のんだけでよかったんやけど、くれるいうもんは貰っておく。
部屋に戻って、あらためてポチ袋を調べてみる。
ニャーー
最初はまとわりついてきたダミアやったけど、式神に恐れ入ったかビビったか、はたまた、こんなもんに興味持ってるご主人様に愛想つかしたんか、さっさとコトハちゃんの部屋に行ってしまいよった。
五十ほどのポチ袋を調べて、式神が入ってるのは三つやった。まだまだあるねんけど、なんや疲れてきて、また今度いうことで蓋をする。
お風呂に入ったら式神の事なんか忘れてしもて、鼻の下までお湯に浸かる。
朝比奈くるみとお風呂に入ったことを思い出す。
え……なんで、いっしょにお風呂入ったんやろ?
小学生にしては発達したボディーにドギマギしたんが蘇ってきた……あ、そうか、修学旅行やったんや!
京アニの作品にもなった有名ラノベの登場人物と一字違いの名前やったんで、男子からからかわれてた。いっしょにお風呂入って分かった。女同士でもドギマギするほど魅力的。
そうやったんや。
その朝比奈さんが会いたがってるのを、けっきょくシカトしてしもてる。
いったん思い出すと気になって仕方がない。
頭拭きながら部屋に戻る、コトハちゃんの部屋からダミアの楽しそうな声。今夜は一人で寝るかあ。
ベッドに入って灯りを消そうと思たら、箱の蓋がズレてるのが目に入る……けど、眠たい。
そのまま寝てしもた。