大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・080『式神』

2019-10-18 14:17:33 | ノベル

せやさかい・080

 

『式神』 

 

 

 シキガミというらしい。

 

 お祖父ちゃんが言うたときは『敷紙』という字が浮かんだ。

 人の形をしてるとはいえオフホワイトの和紙やねんもん、コースターかなんかの一種やと思う。

 テイ兄ちゃんが字で書いてくれた。

 

 式神

 なにこれ?

 

「陰陽師が使てたもんでな、これに呪(しゅ)をかけると、いろんなもんに化けて陰陽師の命令を実行するんや。ま、魔術で言うところの『使い魔』やなあ」

「使い魔!?」

 これは知ってる『ゼロの使い魔』とかの異世界ものラノベの素材になってたりする。魔法使いが使役する悪魔の子分で、魔法で呼び出されたり、魔術で破れたクリーチャーなんかが使役されてるのを言うんや。

「お祖母ちゃんのころは付き合いが広かったから、どこかで貰てきたもんやろなあ」

 お祖父ちゃんのお祖母さんやから、ひいひい祖母ちゃん……かな?

「お祖母ちゃんのころは戦前・戦中やさかいなあ、まともにお布施も渡されへん檀家さんがあって、商売もんやら米野菜やらの現物でもらうことがあったさかいなあ。お布施やいうことで渡されたら受け取るしかなかったもんかもしれへんなあ」

「ちょっとキショク悪いなあ」

 テイ兄ちゃんは言うけど、あたしは好きや。

「やっぱり、ちょうだい!」

「まあ、好きにしい」

 お祖父ちゃんは箱ごとくれた。

 あたしは式神のんだけでよかったんやけど、くれるいうもんは貰っておく。

 

 部屋に戻って、あらためてポチ袋を調べてみる。

 

 ニャーー

 最初はまとわりついてきたダミアやったけど、式神に恐れ入ったかビビったか、はたまた、こんなもんに興味持ってるご主人様に愛想つかしたんか、さっさとコトハちゃんの部屋に行ってしまいよった。

 五十ほどのポチ袋を調べて、式神が入ってるのは三つやった。まだまだあるねんけど、なんや疲れてきて、また今度いうことで蓋をする。

 お風呂に入ったら式神の事なんか忘れてしもて、鼻の下までお湯に浸かる。

 朝比奈くるみとお風呂に入ったことを思い出す。

 え……なんで、いっしょにお風呂入ったんやろ?

 小学生にしては発達したボディーにドギマギしたんが蘇ってきた……あ、そうか、修学旅行やったんや!

 京アニの作品にもなった有名ラノベの登場人物と一字違いの名前やったんで、男子からからかわれてた。いっしょにお風呂入って分かった。女同士でもドギマギするほど魅力的。

 そうやったんや。

 その朝比奈さんが会いたがってるのを、けっきょくシカトしてしもてる。

 いったん思い出すと気になって仕方がない。

 

 頭拭きながら部屋に戻る、コトハちゃんの部屋からダミアの楽しそうな声。今夜は一人で寝るかあ。

 

 ベッドに入って灯りを消そうと思たら、箱の蓋がズレてるのが目に入る……けど、眠たい。

 そのまま寝てしもた。

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真夏ダイアリー・43『連理の桜』

2019-10-18 06:42:50 | 真夏ダイアリー
 真夏ダイアリー・43
『連理の桜』    


 
 
「乃木坂には連理の枝って桜がある」

 光会長は、趣味である鉄道雑誌の間から、古いスクラップブックを出した。

「これだよ」

 そこには、わが乃木坂が新制高校として発足した時の小さな記事が黄ばんで貼り付けてあった。

――新生乃木坂高等学校発足! 言祝ぐ連理の桜――

 この四月一日より、旧制乃木坂高等女学校が新生乃木坂高校として発足。その新時代を言祝ぐように、校庭に連理の桜が発見され……と、記事は続いていた。写真を見ると、なんとなく面影がある校庭の桜が写っていた。
 
 注釈があった。

「天にあっては比翼の鳥となり、地にあっては連理の枝とならん」の故事からきている。中国唐代の詩人白居易(=白楽天、772-846年)の長編叙事詩「長恨歌」の中の有名な一節で、安碌山の乱が起きて都落ちすることになった玄宗皇帝が最愛の楊貴妃に語ったと詠われているものである。

「これ、二本の桜……と、いっしょなんですね」

「ああ、その桜は、戦時中の空襲で片方が焼けて傾いてね。隣の桜と被ったんだ。二本とも枯れかかっていたんだけど、被った枝がくっついて新しい芽が出たんだ。で、男女共学、新制高校の発足にふさわしいと言うんでコラムになったんだ」
「でも、分かりにくいですね……」
 写真は、小さな枝が二本重なり、そこから小さな芽が出ているのがかすかに分かる。いささかショボイ記事だった。
「これが二本の桜のモチーフなんですか?」
「そうじゃないが、もし残ってたら、プロモを撮るには都合がいいと思ったんだ。もし、その桜が残っているんなら、学校でプロモを撮らせてもらえないかと思ってな。真夏は見たことないのかい?」
「桜はいっぱいあるんで……学校に聞いてみましょうか?」
「ああ、それが残っていたら、プロモ撮るついでに、うちのカメラマンに撮らせるよ」
「さっそく、やってみます」

 山本先生に電話してもラチはあかなかった。

 なんたって七十年前の話、それもこの昭和二十三年には沢山の都立高校が発足している。乃木高は、そういう新制高校発足の記事のほんの一部のエピソードとして載っているだけだった。当時の新入生も、もう八十五歳。分からないよな……。

「ねえ、そっちは?」
「だめだなあ」
「ないわ」

 わたしたち、五人組で校庭を探してみた。

 写真の感じだと、校舎と校庭の間に植えられた桜の一本のようだったけど、それだけで五十本ほどある。くっついた桜ならすぐに分かるんだろうけど、どれを見ても一本の桜だ。そこに、技能員さんから話を聞いてきた穂波(同級の山岳部とマン研兼部オンナ)がやってきた。
「ダメ、学校の桜って接ぎ木で増やしたものだから、寿命は七十年ほどだって。だから、当時の桜なら、とうに枯れてるだろうってさ。それに、校舎の改築なんかで、あちこち植え替えたらしいから、残っていても分からないって」
「だよね、そんな名物が残っていたら、きっと記念樹とかになってるよね」
 元気印の由香まで、言い出した。
「おーい、もう諦めて、野球やろうぜ!」
 省吾が、グランドの隅でバットを振り回している。
「やろう、やろう!」
 野郎らしくない玉男がボールを投げた。その緩い球を省吾はフルスィングしてヒットにした。
 球は大きな弧を描いて、ゆいちゃんの足もとに落ちた。
「キャ!」
 ゆいちゃんが、感電したような悲鳴をあげた。
「わりー、ゆいちゃん。玉男の球が緩いもんで。ボール投げてくれる」
「は、はい!」
 恋する省吾の球を、ゆいちゃんはすぐに拾って投げようとした……が、ボールが無かった。
「ゆいちゃんの足もとに落ちたはずなんだけど」
「は、はい!」
 素直なゆいちゃんは、必死で探した。見かねた由香が手伝いにきた……そして数十秒。
「うそ、こんなとこに……」
 ボールは、桜の根方に二十センチほどめりこんでいた。
「省吾って、馬鹿力なんだから……」
 そうボヤキながら、器用にボールを取りだした。
「ね、うまいでしょ」
 ドヤ顔の玉男を無視して、省吾が呟いた。

「この桜じゃねえか……」

「え…………」
 みんなの目が点になった。省吾は、金属バットの先で、根方の穴をつつくと、穴は、ポロリと大きくなった。
「これ、穴じゃなくて、根と根の隙間に土が入り込んで草が生えてるだけだぜ」
 よく見ると、一本の桜のように見えていた老い桜は、根のところで二つに分かれていた。その分かれ目のくぼみが、優しく穿ったように地上三十センチのあたりまで続いていた。
「ビンゴだ……!」

  振り仰いだ桜は、どう見ても一本の桜。でも、よく見ると貫禄が違った……。
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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・8『コスモスの花ことば』

2019-10-18 06:34:37 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・8   
『コスモスの花ことば』 

 
 
 で、その時も、二人の顔は至近距離にあった。

 観覧車の、わたしたちのゴンドラがテッペンにきたときだったのよ……。
「……オレ達、恋人にならないか!?」
「え……あ、あの……」
 この突然には予感があったんだけど、イザとなったら言葉が出ない。
「オレは青山学園、なゆたは乃木坂だろ、別れ別れになっちまうしさ……」
「う、うん……」
「だから、この際はっきりと……」
 わたしは「恋人」という言葉で、文化祭のときの、あの感覚がクチビルに蘇ってきてとまどった。
 わたしは、せいぜい「卒業しても、いっしょにいよう。つき合っていこう」ぐらいの言葉しか予感していなかった。
 うつむいて、言葉を探しているうちにゴンドラは地上に着いた。これが他の、もっと大きい大観覧車だったら、わたしも、それなりのリアクションできたんだけどね……。
 観覧車を降りると、なんだかみんなが二人のことを見ているような錯覚がした。順番待ちをしていたクソガキが「あ、アベック! アベック!」なんて言うもんだから、わたしは大急ぎで、気の利いたつもりで、こう言ってしまった。
「キミの名前と同じくらいでいようよ」
 彼は、わたしから「キミ」などという二人称で呼ばれたことないもんだから、コワバッて聞き返してきた。
「キ、キミの名前って……」
「自分の名前忘れたの?」
「え、ええ……?」
「大久保忠友クン」

 あらためて言っとくね、ヤツの名前は「大久保忠友」。ここで、ピンときた人はかなりの歴史大好きさんです。
 そう、ヤツは大久保彦左衛門(天下のご意見番で、江戸っ子ならたいてい、一心太助とセットで知っている)の子孫。彦左衛門の名前は正確には「忠教(ただたか)」で、代々の大久保家では、男の子の名前に「忠」の字がつく。そいでヤツは「忠友(ただとも)」ってわけよ。
 偉い人の子孫に織田信成ってフィギュアースケートの選手がいるのは知ってるわよね?
 彼はオチャメな人らしく、ご先祖の織田信長さんが「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」って言ったのをうけて、「鳴かぬなら、それでいいじゃんホトトギス」と言ったとか。ヤツには、そんなウィットがないもんだから「え、ええ……」になっちゃうわけよ。だから、わたしも言わずもがなの解説しちゃったわけ。
「大久保クンは忠友でしょ、タダトモ!」
 これ、なんか携帯のコマーシャルにあったなあと、そのとき頭に……ヤツの頭にも浮かんだみたい。
「それって、テレビのCMでやってたよな……」
「うん」
「ただの友達か、おれたちって……」
「……うん」
「そうか……」
 わたしたちは、意味もなく黙って園内を歩いた。
――そんなシビアな反応しないでよ。わたしはヤツの背中をにらんだ。

「あ、コスモス……」
 植え込みに、遅咲きのコスモスが一輪。わたしは機転を利かして、そのコスモスを手折った。
「これ……」
「植え込みの花とっちゃダメだろ」
 
 ……ばか!

「いいじゃん、一つぐらい」
「で、なんだよ。この花?」
「コスモス。家帰って、ネットか辞書で調べなよ!」
 この唐変木!
 わたしは一輪のコスモスを不器用に持てあましているヤツを置いて、さっさとゲートをくぐり、一人で都電に乗って家に帰った

 コスモスの花言葉はね、「乙女の愛情」なんだぞ……。
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宇宙戦艦三笠・34[水の惑星アクアリンド・4]

2019-10-18 06:18:06 | 小説6
宇宙戦艦三笠・34
[水の惑星アクアリンド・4] 



 
「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」

 長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。
「どういう意味でしょう……」
「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」
 全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子で、そう言った。
「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」
 僧官長は、後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やクレアにも背を向けるようにして言った。
「この星は、地球によく似た星で、五大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました。そこで、はるか昔、この星の人間は決意したのです。古いことは水に流そうと……」
「水に流すとは?」
「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。何十年か、この星の指導者が相談して決めたのです。その結果、戦争や紛争。大きな経済変動は無くなりました。全て水に流してしまったからです。それを可能にしたのが、このアクアクリスタルなのです。このクリスタルの力で、全てのものが80年で命を終えます。何十年も前のことをあげつらって国同士もめることもなくなりました。しかし……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」
「それって……?」
「星が滅亡してしまうということですね」
 クレアが無機質な言い方をした。
「そう、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、ただ嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星の水を昔の量に減らし、元の姿に戻したいのです」

 いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様、心が癒される波音ではあった。

「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」
「でも……」
 クレアは、そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。
 言いにくいことをゆだねたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。
「確かに、水に流すことをやめれば、全てのものは本来の寿命を取り戻し、記憶を恨みや問題とともに抱え込むことになるでしょう。戦争が起こるかもしれません。しかし、そのプラスとマイナスの両方を人間は抱えなければならない……そうしなければ、このアクアリンドは、浄化の水に沈んでいくだけです」

 潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。

「で、ぼくたちに、なにをしろと……」
「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」
「え……?」
「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」

 三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・27『二月五日はニコニコの日』

2019-10-18 06:07:30 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・27
『二月五日はニコニコの日』
      高師浜駅



 お医者さんに行こうと思ってた。

 トレーにラーメンとランチという女の子らしからぬ取り合わせを載せながら、姫乃が言う。
 姫乃は基本的には小食で、多い時でもランチ。たいていは麺類一つだけで、調子悪い時はサンドイッチに牛乳だけということもある。
 それが、まるで男子の昼ご飯。

「今までは調子悪かったん?」
 テーブルに着きながらすみれが聞く。ちなみに、すみれは大盛りカツ丼。弓道部やからこんなもん。
「う~ん、やっぱ、ボリュ-ムあったほうが美味しいわね」
 姫乃らしからぬ大口で、ラーメンをかっ込み、目を幸せのカマボコ形にした。

 一昨日で三年生の授業が終わって、食堂はゆったりしている。

 あたしらは、いつも三人揃って座りたいので座席の確保には苦労するんやけど、一昨日からは楽に座れてる。
「ねえ、思うんやけど……」
「「なに?」」
「三年生は姫乃に注目してたんとちゃう?」
「「え……?」」
「昼の食堂の暑苦しさて、ただの混雑やと思てたけど、このゆったり感は、それだけやないと思うわ」

 確かに、食堂は劇的に空いたというわけやない。

 それまで食堂を利用してなかったり時間帯をずらしてた一二年生が来るようになったので、実際に減った利用者は二割程度だろう。
「その三年の男子が姫乃のこと意識してたんとちゃうかなあ、なんとなく感じる圧が違う」
「そ、そんなことないよ~」
 姫乃が赤くなる。赤くなりながらもランチをかっ込んでる。
「そやかて、その食欲……」
「で、でもさ、そうだったとしても、ホッチとすみれにかもしれないじゃん」
「「それはない」」
 二人の声が揃た。

 あたしもすみれもブスではないけど、姫乃みたいな華がないのは十分承知してる。

 その日のホームルームで、男子が妙な提案をした。
「二月五日はニコニコの日なんやねんけど」
「え、ニコ動の日?」
「ちゃう、笑顔のニコニコや」
「なんやねん」
「二月五日でニコニコや」
「なんや語呂合わせか」
「それでもニコニコや」
「ほんまや、検索したら出てきたで!」
「それで、一日笑顔を心がけて、挨拶とかもキチンとしたらと思うねんけど」
 この掛け合いは、壁際男子の木村と滝川。
「ということで、とりあえず笑顔でやっていこうぜ!」
 ま、悪いことではないので、男子の勢いで決まりかけた。
「そんでも、五日は日曜やけど」
 すみれがニヤニヤしながら指摘した。
「ほ、ほんなら雨天順延や!」
 わけのわからん提案やけども、アハハハとクラス中が笑いに包まれて決定した。

 で、今朝から気色悪い!

「やあ、おはよう」「今日もええ天気」「オッス!」「メッス!」「今日も一日がんばろー!」
 とって付けたみたいな挨拶が飛び交う。壁際男子には似合わん笑顔。

 で、気ぃついた。

 男子の笑顔の半分は姫乃に向けられてるんやけど!
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小悪魔マユの魔法日記・67『AKR47・11』

2019-10-18 05:58:05 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・67
『AKR47・11』    



 パンフの中に、研究生の応募用紙が入っていた。

 マユは、小悪魔らしくほくそ笑んだ……。

「よし、これだ!」  
 白線の二往復目には、新曲のタイトルが浮かんだ。

――間もなく列車が通過しますので、白線の後ろにお下がり下さい――

 会長室の白線は特別製で、駅の構内アナウンス、そして列車の通過音やホームの振動まで再現できるようになっていた。窓ぎわのスリットからは、列車の通過に見合った風が「バン!」と吹き出し、光会長の野球帽を吹き飛ばした。
 光会長は、駅のプラットホームの白線の上に立ち、通過列車の振動と風圧を感じた時にアイデアがひらめくのだ。
 ちょうど今、その効果が現れた。

『秋桜旋風(コスモストルネード)』

 季節性もインパクトも十分であった。あとは歌詞……。
 光会長は、白線の設定を新幹線にした。会長は、足を踏ん張った。
 新幹線は、シューっという独特の接近音がする……列車接近のアナウンスは、もう耳にも入らなかった。

 ドバッ! という衝撃的な通過音と風圧のショックに、小柄な光会長は、部屋の端まで吹き飛ばされた。しかし、壁には衝撃吸収のためのラバーが貼ってあるので、怪我はしない。怪我はしないが、衝撃はハンパではない。二回転して、壁にぶつかるまでに、最初のフレーズがひらめいた。

 特急電車 準急停車と間違えて ボクはホームで吹き飛ばされた
 二回転ショック! ショック!
 手にした花束 コスモストルネード!

「振り付けの春まゆみ、作曲の大久保は来たか!」
「はい!」
「ここに!」
 振り付け師と作曲家が、息を切らしながら会長室に入ってきた。
 さっそく、最初のフレーズに曲と振り付けが付けられた。
 それから、二回新幹線が会長室を通過し、そのMAXな風圧で、会長室は、まさに嵐の中の状況だった。デスクの上の書類はもちろんのこと、パソコンのデスクトップまで吹き飛び、会長用のロッカーは倒れ、カーテンは引きちぎられ、部屋の片隅で、他の細々したものといっしょに吹き寄せられていた。
 三回目の通過では、光会長は、雄々しく足を踏ん張り、曲の一番を完成させていた。

 ボクの心は、コスモストルネード!

 振り付けの春まゆみも、二回スピンして決めポーズを完成させた。曲は、大久保がアドリブのアカペラ。

「決まった!」

 作詞、作曲、振り付けが一度に決まった。
 すぐに大久保はスコアに音符を並べ、春まゆみは振り付けのコンテを描いた。この間、わずかに十三分十三秒。三十分後には伴奏用の編曲がなされ、コンピューターに入力されて、一時間後には、AKRのメンバーが集められ、歌と振り付けのレッスンに入った。
「会長、すごいですよ!」
 長年の付き合いである黒羽ディレクターも舌を巻いた。
「な~に。軽いもんよ」
 光会長は、ポルコロッソ(紅の豚の主人公)のように決めてみた……あちこち傷だらけの姿は、まさにキザなアメリカ野郎と決闘で勝利したときのポルコそっくりではあった。そして、手には二番と三番の歌詞がしっかりと握られていた。

 マユがもどってきたときは、すでに夕方で、AKRのメンバーたちは、一通り新曲の『秋桜旋風(コスモストルネード)』をマスターし、夕食を兼ねた一時間の休憩に入っていた。

「うそ、オモクロって、そんなクワダテ持ってんの!?」
 マユの姿をした拓美が言った。
 三人は、食事のあと、メンバーや研究生・スタッフたちで一杯のリハーサル室で話している。
 下手に個室で話すよりも、この方が目立たない。なんせマユは、クララとマユの拓美を足して二で割った姿をしているので違和感がない。
「この話、黒羽さんに言ったほうがいいかな」
「言わなくていいわよ」
 拓美は、きっぱりと否定した。
「情報源聞かれたら困るし。わたし今度の『秋桜旋風(コスモストルネード)』はガチでいけるような気がするの」
「そうね、今のAKRは会長から、研究生まで一つになれてるものね」
 クララも、拓美に同調した。
「わたしたちは、二つになってしまったけど」
 マユは、いたずらっぽく言った。
「ごめんね」
 拓美は、真っ直ぐに受け止めて、ペコリと頭を下げる。
「いいのよ、拓美の気が済むまで、その体貸してあげるから」
「もうしわけない」
「ほんとにいいんだって。わたしにもタクラミがあるんだから」
「え……?」
 クララと拓美の声がそろった。

 マユは、オモクロの研究生募集のパンフを見せた……。

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