大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・085『M資金・17 大草原のロデオ』

2019-10-12 13:29:36 | 小説

魔法少女マヂカ・085  

『M資金・17 大草原のロデオ』語り手:ブリンダ 

 

 

 

 闇の底にスタジアムだけが際立っている。

 

 ロデオスタジアムだ。

 最初は田舎の広場程度の大きさだったのが、牛に跨って落下している間に大きく見えてくる。

 小学校のグラウンドほどに……中学のグラウンド……高校の……ヤンキースタジアム……陸軍の練兵場……そして、目測で高度1000メートルをきったころには、外周のスタンドが視野の外に外れてしまうほどに広くなった。

 着地するぞ!

 ロデオ慣れしていないマジカに呼びかける。

「角をつかんで引き上げろ! ソフトランディングしないと、牛も人間もペッチャンコだぞ!」

「わ、分かってる!」

 周囲には、同様に落ちてくるパッカード男たちの気配はするが、構っている余裕は無い。真下の地面を睨みつけ、着地のタイミングを計る。

「今だ!」

 思い切り角を引くと、牛は後足を下にして、後足、前足とクッションを効かせ、無事に着地した。

 オレも牛も、無事着地したことでホッとするが、それは一瞬の事。

 牛は、自分の背中に跨っているオレを邪魔者認定! 後足を跳ね上げて、振り落としにかかる!

――さあ、カオスロデオのチャンピオン決定戦だ! この世の終わりまで牛にしがみ付いて離れるなよおお!!――

 ロデオには速さを競うタイムイベントと時間を競うラフストックがあるが、こいつはラフストックだ。アナウンスがチェシャネコの声なのは気に入らないが、並み居るパッカード野郎に負けるわけにはいかない!

「マヂカ! 振り落とされるなよお!」

「ウ…………」

 まともに返事をする余裕もないようだ。マヂカには悪いが、ちょっといい気持だ。こんなのは、ガダルカナルでコテンパンにやっつけてやった時以来だな。

 そんなことを考えながらも、無意識に股の締め具合だけで牛を操る。

 並のロデオと違って、周囲には何百人ものパッカード野郎が参加している。

 パッカード野郎どもは、イッチョマエにカウボーイのナリはしているが、ロデオの技量には差があるようで、早々と振り落とされるヘタッピーが出ている。

 ウワー! ノワー! ギョエ! グガア! ワッチ!

 それぞれ個性的な悲鳴を上げて振り落とされる男たち。振り落とされて、地面に接触するやいなや、男も牛も無数のポリゴンのようになって霧消していく。

 ときどきマジカの姿が見える。なんとか振り落とされずにいるようだ。

 がんばれマヂカ!

 二三十人は落伍したと思うのだが、一向に減った感じがしない。こいつら、いったい何人いるんだ!?

――落伍者は78人なのにゃー! まだまだガンバルにゃー! チャンピオンにはスンゴイ賞金があるにゃー!――

 ネコ語を隠そうともせずにチェシャネコが焚きつける。くそ、負けてたまるかああああああ!

 

 何時間……ひょっとしたら、何日も経過したかもしれない。

 

 ようやく、生き残りは十組をきってきた。

 幸いに、マヂカも無事で生き残っている。

「もう、ちょっとだ、がんばれ!」

「………………」

 チャンピオン並みのフォームで乗りこなしているが、さすがに返事をする余裕は無いようだ。

 オレも、次第に視界が朦朧としてきた……。

 気が付くと、十組ほど残っていたライバルが二組に減っている。

 NPCにしては、よく粘るなあ……こういう状況で持ってはいけない親近感をいだいてしまう。勝負に置ける親近感は隙になる。

 それを見透かしたように、一組が寄せてきた。

 こいつ、ぶつかってくるつもりだ!

 ぶつかられれば落馬ならぬ落牛するのは目に見えている。

「させるかあ!」

 期せずして一騎打ちのレースのようになってきた! 

 スタジアムは、いまや大草原のように広がって、あいかわらず果が見えない。

 その大草原を敵と一緒に疾走する! 一マイルほどのところをマヂカもレースになっている!

 魔法少女の体力はスーパーマン並みだ、といっても、スーパーマンと勝負したことは無い。先の大戦の勝負が見えてきたころ、休暇中のバットマンといっしょに勝負を申し込んだが、やつは聞こえないふりをしやがった。こんど、本気で勝負してみようか……余計なことを考えてしまった!

 敵が数十センチのところまで迫ってきた! 

 

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真夏ダイアリー・37『アメリカ国務省』

2019-10-12 07:05:15 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・37
『アメリカ国務省』     



「暗号文のままでいいのかね……」

 来栖特命大使が、最初の訓電を電信室から持って現れた。

「解読の時間が惜しいです。訓電は十四部にもなります。着き次第わたしにください」
「しかし、熟練のものでも解読するだけで二十分はかかるよ。十四部ともなると……」
 そういいながらも、真夏の目力に押されて、来栖大使は訓電の暗号文を渡した。真夏がスキャナーで訓電をなぞると、モニターに解読された平文になって現れる。
「おお……!」
 野村、来栖両大使が同時に声をあげた。
「海軍の、最新解読通信機です……あとは……」
 真夏は、印刷実行のアイコンをクリック、十秒ほどでプリントアウトされて出てきた。
「こんな高性能な暗号機が、あったんだね」
「大使が、海軍におられたころよりはかなり進歩していますの」
「しかし、これがアメリカの手に渡ったら、機密も何もあったものじゃないなあ」
 二枚目の解読済みの訓電を見ながら、来栖大使が唸った。
「セキュリティーは完全です。この機械は、わたしの顔と音声と指紋を認識して初めて起動します。他の人間がやっても、作動しません」
 
 十四部の暗号化された訓電は、十分ほどで正規の書類として揃えられた。

「え……最後通牒じゃない!」

 最後の、第十四部を読んで、真夏は声をあげた。
「交渉打ち切りの訓電だね」
 野村大使が、無表情に言った。
「大丈夫、国際的な慣例では、十分に最後通牒として通用するよ」
 そう言って、来栖大使は書類をまとめた。
「付則があります。午後一時にアメリカ側に手渡すように……とっくに暗号は解読されているのに」
「国務省にすぐ連絡しよう。今は十一時、十分時間はある。来栖さん、お願いしますよ」
「一時間後に発てばいいでしょう。ピッタリでつきます」
「すぐに出ましょう。国務省に着くまで、どんな妨害があるかしれません。アメリカは、すでに同じ電信を傍受しています。解読されてからでは遅いです」

 真夏の一言で決まった。車も、大使専用車をやめて、アメリカ人大使館員が故障のため、置いていった私用車を使った。

「真夏君、この車は故障しているよ」
「一分で直します。公用車は一時に国務省に回してもらえるように指示してください」
 真夏は、アナライザーで故障箇所を見つけると。アナライザーをリペアに切り替えて、あっという間に直してしまった。

「真夏君、方角が違うんじゃ……」

 後部座席で、身を隠しながら来栖大使が呟いた。
「怪しまれないためです」
 ブロンドのウィッグを着けた真夏が答えた。
「公使館の前にセダンがいたでしょ。あれ、OSS(CIAの前身)です。運ちゃんにウィンクしときました」

 ワシントンDCをドライブしたあと、日本大使館とは逆方向から、真夏は国務省に車を着けた。
 
「お約束より、少し早いんですけど、ハル長官にお目に掛かりたいんですが」
「!……少々お待ちを」
 秘書官は慌てた。なんせ、日本大使が大使館を出たという情報が届いていないのだ。
「OSSの連中は、なにをやってるんだ……」
 秘書官のボヤキは、真夏たちにも聞こえた。二人の大使は苦笑いした。

「準備が整うまで、しばらくお待ちください」
 秘書官は、もどってくると外交的な頬笑みで答えた。
「わたしたちが早く着きすぎたんだ、待つとしようか」
 野村大使は、廊下の椅子にくつろいだ。
「アメリカは、もう暗号を解いています。あくまで日本のスネークアタックにしたいんです。長くは待てません」
「ハルは、そんな男じゃないよ」
 気の良い二人の大使は、口を揃えてそう言った。
「秘書官、わたし、着任したての大使秘書なんです。お時間かかりそうだから、記念に写真とらせてもらえません?」
「それは光栄だ、じゃ、ミスマナツ、こちらへ」
 向こうも時間稼ぎになると思ったのだろう、すんなり誘いに乗った。
「貴方みたいなナイスガイと撮ったら、親が誤解しそうなんで、大使、真ん中に入っていただけます?」
「ああ、いいとも」
「来栖大使、シャッターお願いします。時計と日めくりが入るように……」
 三人で撮った写真には、1941年12月7日午後12時50分という記録が残った。

 時計が一時をさした。

「ケント、約束の時間。お願いもう一回……」
「ああ、一応聞いてみるよ」
 秘書官が、長官執務室に入った。
「今です、大使!」
 真夏は、大使の背中を押した。閉めきる寸前のドアにぶつかるようにして、野村大使は長官の執務室に入った……。

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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・2『序章 事故・2』

2019-10-12 06:58:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・2    
 
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 
『序章 事故・2』

 一段落ついたので、状況を説明しとくわね。

 わたし、仲まどか。

 荒川区の南千住にある鉄工所の娘です。

 中三の時に……って、去年のことだけど、近所のはるかちゃん。はるかちゃんは一歳年上なんだけど、幼なじみなんで「はるかちゃん」。そのはるかちゃんが入ったのが乃木坂学院高校。去年、その学園祭によばれて演劇部のお芝居を観てマックス大感激! 
「わたしも、この学校に来よう!」と、半分思ったわけ。半分てのは、下町の町工場の娘としてはちょっと敷居が高い……経済的にもブランド的にもね。

 演劇部は、とにかくステキ!

 ドッカーンと、ロックがかかったかと思うと、舞台だけじゃなくて、観客席からも役者が湧いてきた! 中には、観客席の上からロープで降りてくる役者もいて、「怖え~!」と思ったけど、思う間もあらばこそ。集団で、なんか叫びながらキラビヤカナ照明に照らし出され、お台場か横アリのコンサートみたい。ゴ-ジャスな道具に囲まれた舞台で舞い踊り、そこからは夢の中……お芝居は、なんか「レジスト!」って言葉が散りばめられていて、なんともカッコヨク「胸張ってます!」って感じですばらしかった。「レジスト」って言葉には、コンビニのレジしか連想できなかったけど、あとで兄貴に聞いたら「抵抗」って意味だって分かった。
 この時主役を張っていたのが潤香先輩。もう、そのときから「オネーサマ」って感じ。
 で、この時、はるかちゃんは三角巾にエプロン姿で人形焼きを、かいがいしく売っていた。
 演劇部のお芝居のコーフンのまんま、ピロティーに行って、はるかちゃんから売れ残りの人形焼きをもらって、はるかちゃんのご両親といっしょに写真の撮りっこ。
 今思えば、はるかちゃんちの平和は、この頃が最後。今思えば……て、同じ言葉を重ねるのは、わたしに文才がないから……と、わたしの落胆ぶりを現していたりする。
「明るさは、滅びのシルシであろうか……」
 中三のわたしには分からない言葉を呟きながら、はるかちゃんは三角巾を外した……。

 その時!

――ただ今より、乃木祭お開きのメインイベント。ミス乃木坂の発表を行います。ご来場の皆様はピロティーに……と、校内放送。
 模擬店が賑わっていたのとMCがヘボなのとスピーカーがハウってたので二位三位は聞き逃しちゃった。
 でもって一位の発表。その一位がなんと……。
――ジャジャジャーン! 三年A組、芹沢潤香さん! 
 そう、さっき見たばっかしの潤香先輩!
 ピロティー中から「ウォー!」とどよめき。潤香先輩はいつの間にか、かつて在りし頃の『東京女子校制服図鑑』のベストテン常連の清楚な制服に着替えて、野外ステージに登りつつあった。
 そして、タマゲタのは……。
――えーと、二位、二位、準ミス乃木坂の……ゴシロ、ゴヨ? イツシロ? え、ゴダイ? 失礼しました(-_-;) 五代さん、一年B組の五代はるかさん! ステージに上がってください!

 一瞬ピロティーが静まった……。

「え……」

 本人が一番分かっていなかった。
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宇宙戦艦三笠・28[グリンヘルドの遭難船・1]

2019-10-12 06:48:56 | 小説6
宇宙戦艦三笠・28
[グリンヘルドの遭難船・1]  


 暗黒星雲を抜けると、ピーススペ-スだった。

「国境の長いトンネルを過ぎると、雪国だった。宇宙の底が白くなった」というフレーズが頭に浮かんで樟葉は苦笑した。
「なに、なんかおかしい?」
 修一が、艦長席に座ったまま目だけ向けて聞いてきた。
「いや、こんな穏やかな宙域に出て、思わず出た感想。でも川端康成の借り物なんで、笑っちゃった」
「雪国か。おれ読んだことないよ」
 他のクルーもほとんど同じだった。元ボイジャーのクレアは、タイトルだけは知っていた。ボイジャーとして打ち上げられたときに、世界文学の中で、ただ一つ入っていた日本小説が、この『雪国』だったのだ。
「素敵な書き出しですね。雪国の前に『そこは』なんて、余計な言葉を入れてないところがいいですね」
「うん、受けた模試が、その『そこは』の有り無しの二択だった。たいていの人は『そこは』って無駄な言葉付で覚えてる。文章にぜい肉が付いちゃうし、直ぐ後に『夜の底』で同じ音が出てくるからありえない」
「すごいね、樟葉さん。勉強できるのね」
 美奈穂が素直に感心した。
「修一よりはね。あたしんちブルジョアじゃないから、奨学金で進学すんの。ある程度の成績でなきゃ、取れないからね」
「オレんちも似たり寄ったりだけど、勉強はしてねえ」
「その行き当たりばったりのとこがいいのよ。あんまり先のことを心配してたら、人生小さくまとまっちまうからね……」
「なんだか、妙に優しいんだな、樟葉」
「この宙域のせいかな……ピーススペースって、まんまだけど、ほんとに穏やかなとこね、レイマ姫」
「ピレウスが付けたなや。暗黒星雲はめったと自分からは出てかね。出てまったら秘密の暗黒星雲でねぐなってしまうもんね。これからの宙域は、みんなピレウスが付けた名前だ……まだ、グリンヘルドもシュトルハーヘンも大人しがったころのね」

 しばらく穏やかな沈黙が続いた。

 ウレシコワが自分で作ったサモワールで、お茶を配っているときに樟葉が呟いた。
「前方0・5パーセクに三隻のクルーザー……エネルギー反応が微弱。遭難船の可能性大」
「ぼくも、捉えました。グリンヘルドの哨戒艦の様子」
 トシが、穏やかにつづけた。ナンノ・ヨーダの訓練の賜物か、みんな、普段の任務や生活も穏やかになってきた。

 グリンヘルドの三隻は、造形物としては全く無駄のない球体をしていた。解析すると、新鋭艦のように思われた。二隻はロボット艦で、一隻に生命反応がある。
――危害は加えない。遭難しているのなら救助する。乗船していいか――
 そう通信を送ると「救助を要請する」と穏やかな女性の声で返ってきた。

 グリンヘルドのクルーザーには、修一と樟葉だけが乗り込んだ。一応他の二隻のロボット艦への警戒も緩められないからだ。
 ブリッジに入るとシートをほとんど水平にして、女性のクルーは眠っているように見えた……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・21『ラッキーな冬休み最終日』

2019-10-12 06:35:25 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・21
『ラッキーな冬休み最終日』         高師浜駅



 例年やったら、今日は三学期の二日目。

 それが祭日の関係でお休み。始業式は明日の十日。
 そんな得した冬休みの最終日を無駄にしないように朝から図書館に行く。

 と書いたら、あっぱれ女子高生の鑑!

 もちろん図書館には行くんやけど、ちょっと裏がある。
 我が街の図書館は駅前のポプラ高石の中にある。ポプラ高石にはスーパーやら各種ショップやらが入っていて、市民の憩いの場所であるのです。
 図書館そのものは三十分ほどで、あとはウインドショッピングして、三人娘でお茶をします。
 本音の本音では、京都やら神戸やらに出かけたいんやけど、年末年始のあれこれで、三人ともお財布が寂しい。

 いちおう借りる本は予約してある。滝川浩一さんの『押しつけ読書評』で面白いと思う本があったのでポチっとしときました。

「えー、海賊の本なんか読むんだ!」

 姫乃が驚く。
 あたしは『海賊と呼ばれた男』と『村上海賊の娘』をゲットしていた。
 姫乃は海賊という単語だけで、なんだか禍々しいものを感じてしまったようだ。ちょっと偏見と思う人がおるかもしれへんけど、こういう感性は悪ないと思う。単語からイメージを引き出して喜怒哀楽の感情を持てるのは、感性の瑞々しさの現れやと思う。
「なんやったら、つぎ借りる?」
「えと、面白かったら」
 嫌とは言わないので、読み終わったら知らせてやろうと思った。
「すみれは?」
「パソコンのブースにいるよ。各地の初射会を調べるんだって」
 姫乃と二人、パソコンエリアに行くと、真剣な表情でモニターを見ている初射会のヒロインがいた。
「さすがはすみれ……」

「「え?」」

「アハハ、ジャンプしてるうちにね」
 パソコンの画面は『この春ねらい目の男たち』というページになっていた。
「どうジャンプしたら男の見本市にたどり着くのんよ?」
「いつもスマホやんか、大きい画面が嬉しいから、ついあちこちにね」
 画面には、トラッドやらカジュアルやらの男たちが、ナヨっとした感じでシナを作っている。
「こういうのがねらい目ぇ~?」
「いや、いま開いたばっかりやから」
 すみれは恥ずかしそうに、適当にクリックした。
 すると、こんどは『この春イケてる女の子』になった。
「女の子の方が清潔な感じやけど、なんかパープリンぽいなあ」
「どれどれ……」
 姫乃が覗き込む。
「う~ん、髪とかメイクは悪くないんだけど、コンセプトかな……」
「うん、このままの表情で小学生くらいになったら健康的やねんやろなあ」
 女子三人でイケてる若者の品評会になった。

「あ、そこのモニター!」

 姫乃が指差したのは正面の70インチはあろうかという大型のディスプレー。
 画面の右から左へと着飾った若者がニタニタアハハと歩いていく。で、流行の最先端! なんと3Dや!
「これ4K3Dかなあ!?」
「それにしても、さっきの画面どおりだね~」
「あんま4K3Dとかで映す値打ちないよね~」
 すると、一組のアベックががUターンした。なんの演出だろう?
 で、数秒後、右の方のドアが開いて、いまUターンしたアベックが入って来たではないか!
「「「え、ええ?」」」
 アベックの男の子がディスプレーに向かって手を上げた。すると、ディスプレーの若者もヘラヘラと手を振る。
 これって、なにか新型のバーチャルなんとか?

「これって……ただの窓だよ」

 姫乃が現実に目覚めた。
 ポプラ高石には市民会館が入っていて、今日は晴れの成人式だったのだ。

 三人ともラッキーな冬休み最終日としてしか頭に無かった。パープリンなのはあたしらもやった。


 
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小悪魔マユの魔法日記・61『AKR47・5』

2019-10-12 06:24:42 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・61
『AKR47・5』   


 
 オモクロの路上ミニライブを観ている中に、AKR47のディレクターの黒羽がいた。筋向かいのコーヒーショップの二階席には、帽子を目深に被った大石クララもいた。

 ミニライブが終わると、黒羽ディレクターは普通のファンのように拍手して、クララが待っているコーヒーショップの二階に上がった。
「どうだった」
 握手会をやっているオモクロの子たちを見下ろしながら黒羽は聞いた。
「勉強になりました」
「そうか……それはよかった」

 二人の会話は、あらかじめ決まっている。黒羽が、そう決めたのだ。黒羽は、クララの「勉強になりました」の言葉の響きや、表情から反応を観察して、オモクロがAKRの、いい当て馬になるかどうかを見たかったのだ。
 クララの言葉には熱がなかった。論外なんだろうなあ……黒羽は、クララの反応をそう受け止めて苦笑いした。

 そして、その苦笑いを、路上からしっかり見ていた男がいた。

 オモクロのプロディユーサーの上杉である。
 上杉は、最初から黒羽の存在には気がついていた。黒羽の向かいの子が大石クララであることも分かっている。
 上杉は悔しかった。人知れず偵察にこられ苦笑されたことが。

――やっぱり、黒羽には勝てないか……。

 そう思って、視線を落としたところで気がついた。いや、オーラを感じてしまった。
 黒羽に負けないくらい冷めた目。だけど握手会をじっと見ている二人の少女……。

 気がつくと、二人の少女に声をかけていた。
「ちょっといいかなあ……」
 むろん二人の反応は、駅前であしらったデコボコニイチャンたちへの反応とは違っていた。

 二人の少女は、その足でオモクロの所属事務所に向かった。あっけないほどの展開である。

 それもそのはず、この出会いと展開をコントロールしていたのは、通行人の女の子に化けた雅部利恵である。利恵は、久々に天使らしい良いことができた……そう無邪気に喜んでいる。
 利恵は、こうやって、ルリ子と美紀をアイドルにすることに成功した。
 むろん白魔法でアイドルをやれるだけの素養は付けてある。ほんとうは、ルリ子のグループみんなをアイドルにしてやりたかったけど、オチコボレ天使の利恵には二人が精いっぱいなのだ。

 かくして、ルリ子と美紀はオモクロのメンバーになった。
 
 オモクロは、略称こそ変わらなかったが、正式名称は変わった。
 オモシロクローバーではない。

 想色クロ-バーである。
 
 オモシロ系の色は一掃され、清楚とビビットが同居したようなアイドルグループになった。
 むろんセンターは、奇跡のようにのし上がってきた吉良ルリ子である……。

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