魔法少女マヂカ・085
闇の底にスタジアムだけが際立っている。
ロデオスタジアムだ。
最初は田舎の広場程度の大きさだったのが、牛に跨って落下している間に大きく見えてくる。
小学校のグラウンドほどに……中学のグラウンド……高校の……ヤンキースタジアム……陸軍の練兵場……そして、目測で高度1000メートルをきったころには、外周のスタンドが視野の外に外れてしまうほどに広くなった。
着地するぞ!
ロデオ慣れしていないマジカに呼びかける。
「角をつかんで引き上げろ! ソフトランディングしないと、牛も人間もペッチャンコだぞ!」
「わ、分かってる!」
周囲には、同様に落ちてくるパッカード男たちの気配はするが、構っている余裕は無い。真下の地面を睨みつけ、着地のタイミングを計る。
「今だ!」
思い切り角を引くと、牛は後足を下にして、後足、前足とクッションを効かせ、無事に着地した。
オレも牛も、無事着地したことでホッとするが、それは一瞬の事。
牛は、自分の背中に跨っているオレを邪魔者認定! 後足を跳ね上げて、振り落としにかかる!
――さあ、カオスロデオのチャンピオン決定戦だ! この世の終わりまで牛にしがみ付いて離れるなよおお!!――
ロデオには速さを競うタイムイベントと時間を競うラフストックがあるが、こいつはラフストックだ。アナウンスがチェシャネコの声なのは気に入らないが、並み居るパッカード野郎に負けるわけにはいかない!
「マヂカ! 振り落とされるなよお!」
「ウ…………」
まともに返事をする余裕もないようだ。マヂカには悪いが、ちょっといい気持だ。こんなのは、ガダルカナルでコテンパンにやっつけてやった時以来だな。
そんなことを考えながらも、無意識に股の締め具合だけで牛を操る。
並のロデオと違って、周囲には何百人ものパッカード野郎が参加している。
パッカード野郎どもは、イッチョマエにカウボーイのナリはしているが、ロデオの技量には差があるようで、早々と振り落とされるヘタッピーが出ている。
ウワー! ノワー! ギョエ! グガア! ワッチ!
それぞれ個性的な悲鳴を上げて振り落とされる男たち。振り落とされて、地面に接触するやいなや、男も牛も無数のポリゴンのようになって霧消していく。
ときどきマジカの姿が見える。なんとか振り落とされずにいるようだ。
がんばれマヂカ!
二三十人は落伍したと思うのだが、一向に減った感じがしない。こいつら、いったい何人いるんだ!?
――落伍者は78人なのにゃー! まだまだガンバルにゃー! チャンピオンにはスンゴイ賞金があるにゃー!――
ネコ語を隠そうともせずにチェシャネコが焚きつける。くそ、負けてたまるかああああああ!
何時間……ひょっとしたら、何日も経過したかもしれない。
ようやく、生き残りは十組をきってきた。
幸いに、マヂカも無事で生き残っている。
「もう、ちょっとだ、がんばれ!」
「………………」
チャンピオン並みのフォームで乗りこなしているが、さすがに返事をする余裕は無いようだ。
オレも、次第に視界が朦朧としてきた……。
気が付くと、十組ほど残っていたライバルが二組に減っている。
NPCにしては、よく粘るなあ……こういう状況で持ってはいけない親近感をいだいてしまう。勝負に置ける親近感は隙になる。
それを見透かしたように、一組が寄せてきた。
こいつ、ぶつかってくるつもりだ!
ぶつかられれば落馬ならぬ落牛するのは目に見えている。
「させるかあ!」
期せずして一騎打ちのレースのようになってきた!
スタジアムは、いまや大草原のように広がって、あいかわらず果が見えない。
その大草原を敵と一緒に疾走する! 一マイルほどのところをマヂカもレースになっている!
魔法少女の体力はスーパーマン並みだ、といっても、スーパーマンと勝負したことは無い。先の大戦の勝負が見えてきたころ、休暇中のバットマンといっしょに勝負を申し込んだが、やつは聞こえないふりをしやがった。こんど、本気で勝負してみようか……余計なことを考えてしまった!
敵が数十センチのところまで迫ってきた!