大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・090『M資金・22 ハートの女王・3』

2019-10-24 13:13:20 | 小説

魔法少女マヂカ・090  

『M資金・22 ハートの女王・3』語り手:ブリンダ 

 

 キ~ンコ~ンカ~コ~ン キンコンカンコ~ン

 ポリコウ(日暮里高校)のチャイムにそっくりな鐘の音が鳴り響いた。

 

「逆じゃ、ここの鐘が本家本元で、そなたらの学校のチャイムは、コピーしたものじゃ。まあ、とうに著作権は切れておるが、心得違いをせぬようにな」

 女王が鐘の音にチェックを入れている間に、議員たちが勢ぞろいをして『ゴッド セイブズ ザ クィーン』を斉唱する。

「それでは、臣トーマス・ペンドラゴン、国会議長として、恭しく女王陛下を議場にご案内仕ります!」

 議長が宣言すると、議事堂の玄関からスルスルと赤じゅうたんが敷かれてきた。

「おまち! 議会に女王が臨場するときは、議会から人質が差し出されるのが習いじゃ。余が出立するときには、まだ人質は送ってこられてはいなかったぞ。どうなっておるのじゃ、議長!?」

「へえ、女王って、人質をとるんだ」

「日本人のマヂカには理解できないだろうがな、議会と国王というのは元来対立する関係にあるのだ。イギリスは今でもそうだしな」

 マヂカに説明してやっている間に、議員たちは顔を見かわして咳払い。お互いに――おまえが説明しろ――と責め合っている。

「どういたしたのじゃ、返答がなければ、余は議場には入らぬぞ。余の宣誓が無ければ議会が開けぬであろうが」

「恐れ入ります、陛下。今般は我が国のEU離脱が議案となっておりまする……」

「承知しておる。国の行方を左右する重要議案であるからこそ、余が臨場した。そうであろう、議長」

「ご明察ではございますが、その……」

「グズグズいたすな、首をちょん切るぞ」

 議員たちがいっせいに首をすくめた。こいつら、本気でビビッてやんの。

「実は、与野党ともに議席が伯仲……いえ、三日前にヒギンズ卿が緊急入院して、まったくの同数となっております。人質は、与野党から一名ずつ出すことになっております、おりまするが……」

「出せばよかろう」

「出してしまいますると、与野党ともに単独過半数に及ばぬ議席数になってしまい、議決ができぬ仕儀とあいなります」

 愛想のいい副議長が、揉み手しながら言い添える。

「ここは、慣例を破り、人質なしのご臨席を願わしゅうございます」

「首をちょん切るぞ!」

 ヘヘーーー!! 議員たちは、首を胴体にめり込ませた。

「不甲斐ない議員どもだ。ならば、余が解決策をしめしてやろう」

「御心のままに」

「余が、女王の権限で議員を任命し、その新議員を人質に選任すればよかろう」

「おう、いかにも、陛下には、総議員の一割を任命する権限が、ございます」

「勅任議員は、現在八名でございますので、二名を選任することができます」

 副議長が、分厚い書類の束を繰りながら付け加える。

「ならば、ここの魔法少女と牛女を勅任議員といたすぞ!」

 

 女王が、ビシッと指さした。議員どものめりこんだ首が目のところまで出てきて、いっせいにオレとマヂカに熱い視線を送ってきた! 

 

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真夏ダイアリー・49『アルバムのその子たち』

2019-10-24 06:21:46 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・49 
『アルバムのその子たち』    


 
 
 画像を検索してみると……それがあった。

 福島県のH小学校……と言っても校舎はない。

 ほとんど原っぱになってしまった運動場の片隅に「H小学校跡」という石碑。そして運動場での集合写真。野村信之介さんは、ブログの写真と同じ顔なのですぐに分かった。
 会長が、グラサンを外して写っていた。仕事中や事務所では見せない顔が、そこにはあった。

 そして、小高い丘の運動場の縁は、あらかた津波に削られていた。

 でも、その一角、デベソのように張り出したところに連理の桜があった。削られた崖に根の半分をあらわにして傾き、支え合って二本の桜が重なり、重なった枝がくっついていた。崖にあらわになった根っこも、絡み合い、くっついて一本の桜になろうとしていた。
 
 そのさりげない写真があるだけで、コメントはいっさい無かった。
 
 でも、『二本の桜』のモチーフがこれなのはよく分かった。でも、照れなのか、あざといと思われるのを嫌ってか、会長は乃木坂高校の古い記事から同じ連理の桜を見つけて、それに仮託した。
「会長さんも、やるもんねえ」
 お母さんが、後ろから覗き込んで言った。
「真夏でも発見できたんだ。きっとマスコミが突き止めて、話題にすることを狙ったのよね。さすが、HIKARIプロの会長だわ」
「ちがうよ、そんなのと!」
 わたしは、大切な宝石が泥まみれにされたような気になった。

 そして、気づいた。仁和さんが見せてくれた幻。幻の中の少女たち。仁和さんは「みんな空襲で亡くなった」と言っていた。わたしは、その子達を確かめなくてはならないと思った。

「え、これ全部見るのかよ!?」
「うそでしょ……」
 省吾と玉男がグチった。
「全部じゃないわよ。多分昭和16年の入学生」
「どうして、分かるの?」
 ゆいちゃんが首を傾げる。この子はほんとうに可愛い。省吾にはモッタイナイ……って、ヤキモチなんかじゃないからね!
 わたしは、お仲間に頼んで、図書館にある昔の写真集を漁っていた。

 ヒントはメガネのお下げ……ゲ、こんなにいる。どこのクラスも半分以上はお下げで、そのまた半分以上はメガネをかけている。
 でも、五分ほどで分かった。ピンと来たというか、オーラを感じた。いっしょの列の子たちは、あのとき、いっしょにいた子たちだ。
 
 杉井米子

 写真の下の方に、名前が載っていた。両脇は酒井純子と前田和子とあった。
 三人とも緊張はしているけど、とても期待に満ちた十三歳だ。わたしたちに似たところと、違ったところを同時に感じた。
 どう違うって……う~ん うまく言えない。
「この子達、試合前の運動部員みたいだね」
 由香が、ポツンと言った。そうだ、この子達は、人生の密度が、わたし達と違うんだ……。
「ねえ、こんなのがあるよ」
 玉男が、古い帳簿みたいなのを探してきた。

 乃木坂高等女学校戦争被災者名簿

 帳簿には、そう書かれていた。わたしは胸が詰まりそうになりながら、そのページをめくった。そして見つけた。

 昭和二十年三月十日被災者……そこに、三人の名前があった。

「どうして、真夏、この子達にこだわるの?」
 由香が質問してきた。まさか、この子達が生きていたところを見たとは言えない。
「うん……今度の曲のイメージが欲しくって」
「で、この子達?」
「うん、この子達も三人だし、わたしたちも女子三人じゃない。なんとなく親近感」
「……そういや、この杉井米子って子、なんとなく、ゆいちゃんのイメージだね」
「うそ、わたし、こんなにコチコチじゃないよ」
「フフ、省吾に手紙出してたころ、こんなだったわよ」
「いやだ、玉男!」
「ハハ、ちょっと見せてみ」
 省吾が取り上げて、窓ぎわまで行って写真を見た。
「ほう……なるほど」
「でしょ!?」
「うん」
 そう言って、振り返った省吾の顔は引き締まっていた。
「……省吾くんて、いい男だったのね。わたしがアタックしてもよかったかなあ」
「こらあ、由香!」
「ハハ、冗談、冗談」

 しかし、冗談ではなかった……わたしには分かった。窓辺によった瞬間、省吾はタイムリープしたんだ。
 そして一年近く、向こうにいて、今帰ってきたところ。むろん本人に自覚はないけれど……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・14『オオカミ女になっちゃうぞ』

2019-10-24 06:11:19 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・14   

 


『オオカミ女になっちゃうぞ』


「やられたな……」

 フェリペ坂を下りながら、峰岸先輩が言った。


「え!?」
「声がでかい」
「すみません」
「まどか、いま考え事してただろう?」
「いいえ、べつに……」
「彼氏のこととか……」
「ほんと!?」
 夏鈴、おまえは入ってくんなよな!
「いま、目が逃げただろう。図星の証拠」

 そう、わたしはヤツのことを考えていた。
 
 ここは、リハの日、ちょうどコスモスをアクシデントとは言え、手折ったところ。
 で、幕間交流のとき見かけた姿……昼間なら赤く染まった頬を見られたところだろ。
 ダメダメ、表情に出ちゃう。わたしはサリゲに話題をもどした。

「で、なにをやられたんですか?」
「サリゲに話題替えたな」
「そんなことないです!」
「ハハ……あの高橋って審査員は食わせ物だよ」
「え?」
 柚木先生はじめ、周りにいたものが声をあげた。
「あの審査基準も、お茶でムセたのも、あの人の手さ」
「どういうこと、峰岸くん?」
 柚木先生が聞いた。
「審査基準は、一見論理的な目くらましです。講評も……」
「熱心で丁寧だったじゃない」
「演技ですよ。アドリブだったから、ときどき目が逃げてました」
「そっかな……審査基準のとこなんか、わたしたちのことしっかり見てましたよ。わたし目があっちゃったもん」
 夏鈴が口をとがらせた。
「そこが役者、見せ場はちゃんと心得ているよ。あの、お茶でムセたのも演出。あれでいっぺんに空気が和んじゃった」
「そうなの……あ、マリ先生に結果伝えてない」
 柚木先生が携帯を出した。
「あ、まだだったんですか!?」
「ええ、ついフェリペの先生と話し込んじゃって」
「じゃ、ぼくが伝えます。今の話聞いちゃったら話に色がついちゃいますから」
「そうね……わたし怒っちゃってるもんね」
「じゃ、先に行ってください。みんなの声入らない方がいいですから」
「お願いね、改札の前で待ってるわね」
 わたしたちは先輩を残して坂を下り始めた。
 
 街灯に照らされて、わたしたちの影が長く伸びていく。夏鈴がつまらなさそうに賞状の入った筒を放り上げた。
「夏鈴、賞状で遊ぶんじゃないわよ!」
 聞こえないふりをして、夏鈴がさらに高く筒を放り上げた。
 賞状の筒は、三日月の欠けたところを補うようにくるりと夜空に回転した。そんなことをしたら三日月が満月になっちゃって、まどかはオオカミ女になっちゃうぞ。

 嗚呼(ああ)痛恨の……コンチクショウ!
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宇宙戦艦三笠・40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2]

2019-10-24 06:03:56 | 小説6
宇宙戦艦三笠・40
[宇宙戦艦グリンハーヘン・2] 


 

 意識が戻ると独房に入れられていた。

 セラミックを感じさせる独房には、床も壁も継ぎ目が無かった。ただ、出入り口と思われるところだけが、薄い鉛筆で書いたように、それと知れる程度。独房内はベッドが一つあるだけで無機質この上ない。
――お目覚めのようね。体には異常はないわ。ドアを開けるから、通れる通路だけをたどって、あたしのところまで来て――
 司令のミネアの声がした。

 通路に出ると、さすがに船の通路らしく、パイプや電路が走り、いたるところの隔壁はロックされていた。通れる隔壁は、あらかじめ解放されていて、二三度行き止まりに出くわしたが、やがて小会議室のようなところにたどり着いた。
 樟葉が先に来ていて、背もたれのない椅子に座っていた。
「艦長のくせに、遅いのね」
「通路で、ちょっと迷った」
「ハハ、あんな簡単な迷路で迷っちゃうの」
「樟葉は、迷わなかったのか?」
「あたしは、探索のために、全ての通路を見て回ったの。通路の左側に手をついて、ほら、遊園地の迷路の要領でぐるりと回ったら、全部見られた。通路は、いかにも船の中らしいけど、大半ダミーね。配管配線ともに脈絡がない。どの隔壁の通路も何種類かのパターンの組み合わせ。よほど船の構造を知られたくないのね。本気になったら、案外簡単に船の弱点がみつかるかもよ」
「ダミーなのは、オレにも分かった。こんな宇宙戦艦が、アナログなわけないものな」
「で、これからどうするの?」
 それから、樟葉の話は質問が多くなった。仲間のこと、地球のこと。
「大きな声じゃ言えない。もっと顔を寄せて」
 樟葉は、興味津々で顔を寄せてきた。

 修一は、いきなり樟葉にキスをした……なんと、修一の顔が樟葉の顔にめり込んだ……というよりは、重なってしまった。
――やっぱり――
 思った瞬間、樟葉の姿は消えてしまった。

「やっぱり、ホログラムだったんだな。下手な小細工すんなよ、ミネア司令」

 そう言うと、前の壁が消えて、部屋が倍の大きさになった。目の前にミネアがいた。
「思ったよりも賢いんだ」
「賢くはないよ。樟葉にキスするいいチャンスだと思っただけ」
「……どうやら、君は本物らしいね」
「さあ、どうだろ」
「アナライズで、スキャニングした。人類と変わらない構造なんだ」
「それもダミーかもよ」
「太ももの付け根にホクロがある。ちゃんとメラニンの構造まで分かる。DNAの塩基配列が妙な規則性があるな……」
「それはね、あたしがグリンヘルドとシュトルハーヘンとのハーフだからよ。この船のクルーはみんなそう。ハーフだけで作った遊撃部隊なの」
「でも、グリンハーヘンて船の名前は安直だね」
「分かりやすいでしょ、名前なんて符丁みたいなものだから。直に会ったら、あなたの考えやら思考パターンなんかが良く分かると思ったんだけど、どうやら時間の無駄のようね。あたしの希望だけは、きちんとしておくわね。あたしは地球人の絶滅までは考えていないの。共存した方が、上手くいくように思ってる。例えば、無菌で育った動物って耐性が低いじゃない。多少のストレスを抱えながらやった方が、グリンヘルドにもシュトルハーヘンのためになると思っている。その共存の道を東郷修一君と語りたいわけ」
「俺たちは共存しようとは思ってない。地球は地球の人類と生物のためのものだ」
「古臭い民族主義ね。もう少しファジーになってもらいたいわ」
「ならないよ」
「ハハ、仕方ないわね。じゃ、他の仲間といっしょに居てもらうわ。みんなで相談してみて」
 そう言うと、ミネアの前の壁が再生し、左横の壁が消えた。四つのベッドに、樟葉、美奈穂、トシ、クレアが眠っていた。

「おい、みんな!」

 仲間に駆け寄ると、ミネアといた部屋との間の壁が再生し、雑居房になった……。
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秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2019-10-24 05:53:06 | ボクの妹
秋野七草 その五
『わたしは、ナナ……セ』        


 
 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む。元陸自レンジャーの妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路を、うちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 不幸なことに妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「あ」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、傷跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしてます」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「はい、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。
「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」
 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。
「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。
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小悪魔マユの魔法日記・73『期間限定の恋人・5』

2019-10-24 05:44:59 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・73
『期間限定の恋人・5』    



 酔っぱらいは……HIKARIプロの黒羽ディレクターだった……。

 もし、地下鉄に乗って帰らなければ、こんなことはしなかったかもしれない。
 酔っぱらった黒羽ディレクターを、自分の家まで肩をかして連れてきてしまった。
 二十歳を超えた大人としての判断なら、たとえ知り合いでも、AKRの事務所は、すぐそこだ、とても自分の足では歩けそうにない黒羽に一言二言声をかけて、事務所の人に来てもらっただろう。

「事務所の人に来てもらいましょうか、黒羽さん」
 実際、美優は、一度は、そうたずねた。
「いや、事務所には言わないでくれ……いや、大丈夫。しばらく休んだら……大丈夫……あ、美優ちゃんか」
 その時の黒羽の言い方は、とても大丈夫そうじゃなかった。そして、美優を見る目は、まるで女子高生時代の美優を見る、それであった。美優も地下鉄の中で、感覚が高校生のときに戻っていた。

――こりゃ、大変なものを背負い込むことになるかもしれないよ――
 マユは、美優の中でつぶやいたが、今は美優の心には届かない。マユは、死を一週間後に控えた美優の体を動かすアシストモーターにすぎない。

 母の美智子が電話をしてきた。

 美優のあとを追いかけて帰宅するつもりでいたが、AKRから請けた衣装の縫製でトラブルがあり、今夜は帰ってこられないという内容だった。
「うん、わたしなら大丈夫。お母さんは明日の開店に間に合えばいいから」
――そう、じゃ、なるべく早く帰るから。
「うん、じゃ、バイビー……」
――ハハハ。
「なにがおかしいのよ?」
 美優は切りかけた携帯を、もう一度耳にあてがった。
――バイビーなんて、何年ぶり……高校生にもどったみたいよ!
「そんなことないよ、たまたまだよ、たまたま!」
 美優は、少しムキになって言った。電話の向こうの母は泣き笑いの気配。
「じゃ、切るよ」
 
 携帯を切ると、黒羽のために水を持っていってやった。
「あ……」
 リビングのソファーに寝かせていた黒羽の姿がなかった。
「黒羽さーん……」
 声をひそめて呼ばわると、開け放たれた自分の部屋から気配がした。
「もう、黒羽さん。どこで寝てんですか!」
 そう言って、ふとんをめくると、黒羽は下着一枚になって美優のベッドで「く」の字になっていた。
「きゃ」
 美優は、小さな悲鳴をあげた。そっとふとんをかけ直す。また黒羽は、ふとんをはね飛ばす。
 美優は、エアコンの暖房を切り、窓を少し開けた。冷気がサワっと入り込んで、黒羽は自分でふとんを胸までたぐりよせた。
「黒羽さん……お水」
「す、すまん」
 まるで素面のように、黒羽は半身を起こし、おいしそうに水を飲み干した。
「あ、あの……」
「うん~?」
 黒羽は、うるさそうに返事をかえした。
「いいえ、なんでも……」
「言いたいことは、分かってる……ちゃんと彼女はいるんだ。ちゃんと婚約までしてんだからな!」
「え……!?」

 美優の頭に、ショックと混乱が一度にやってきた。

「だから、オヤジには頼むよ……週末までには『コスモストルネード』仕上げなきゃならないんだ。だから頼むよ、兄妹なんだからさ、な、由美子。いい子だからさ……」
 そう言って、美優の頭を乱暴に撫でると、スイッチが切れたように寝てしまった。
「妹さんと間違えてんだ……酔っぱらい」
 ホッとして、ベッドの脇を見ると、服が脱ぎ散らかされていた。美優は複雑な気持ちで、たたんでやった。
「黒羽さんの奥さんになる人って、苦労……すりゃあ、いいのよ!」
 
 美優は、乱暴にドアを閉めた。
 美優の心に、ポッと火が点いた。マユは、おもしろそうに、その火を眺めた……。
  
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