大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・085『マリーアントワネットの呪い・1』

2019-10-30 12:52:37 | ノベル

せやさかい・085

 

『マリーアントワネットの呪い・1』 

 

 

 君はマリーアントワネットの飼い猫だったのね。

 

 チリン……

 

 炬燵にアゴを載せたまま頼子さんが言うと、ダミアは首を一振りしてペットハウスに潜り込んだ。

 部活の間はペットハウスを持ってきてやってる。ほっとくと、あたしらの足にまとわりついたりコタツの中で暴れたり。あたしらも、ダミアにケガさせたりしたらあかんので、部屋からペットハウス(カイロ付き)を持ってきてやって、おいたが過ぎる時は移動させてる。

 かしこい子で、二日ほどで、そのルールに慣れてきたんやけど、自分からすすんで行くことは無かった。

「やっぱり、触れられたくないんですかね?」

 留美ちゃんの中では決定事項。ダミアはマリーアントワネットの飼い猫の生まれかわり。

 むろん、あたしが夢の話をしたから。

「でも、オリンピックにマリーアントワネットが生まれかわるって、どうなんやろか?」

 あたしが心配したのは「オリンピックには生まれかわるから、その時には、わたしの側にいてちょうだいね」という言葉。

 文字通りやったら、来年のオリンピックのころに王妃マリーアントワネットが生まれかわり、それに合わせてダミアも生まれかわるということになる。

 つまり、ダミアは来年の七月までには死んでしまう!

 そこんとこが心配やったから、アホな話と思いながらも頼子さんと留美ちゃんに話したわけ。ダミアはマリーアントワネットの飼い猫やった言いだしたのも頼子さんやし。

 来年の七月やとしたら、ダミアは生後十カ月ほど、人間で言うたら小学校の低学年。まだまだ子ネコや。

 ぜったいイヤや!

「東京オリンピックじゃないと思うよ」

「え、そやかて……」

「うん、変だよ。マリーアントワネットってクーベルタンがオリンピック始めるずっと前に死んでるし、東京にも縁がないよ」

 留美ちゃんが冷静に判断する。

「東京は、まだ江戸だったし」

「ほんなら……?」

「ちょっと待ってね……」

 スマホを出してググる頼子さん。

「あ、東京の次はフランスのパリだ!」

「え、次ですか?」

 パリなら頷ける。マリーアントワネットのすべてがある街やし、終焉の地でもある。オリンピックに集まった世界各国の人らのエネルギーやら魂やらを吸い取って、薄幸の王妃の蘇り!

 ゾンビだらけのパリで、蘇ったマリーアントワネットが高笑いしてる! 妄想のし過ぎや!

 そんなあたしを横目に、留美ちゃんまでがググりだした。

「マリーアントワネットには首が無かったんだよね?」

「ううん、夢では、首が飛んでしまうんだけど、ダミアが直してやるのん」

「じつはね……ギロチンで切られた王妃の首は持ち去られたんだって」

 えーーーーーー!!?

「グロイ話は……」

 頼子さんがたしなめるが、留美ちゃんは停まらへん。

「蝋人形館のマダムタッソーが持ち帰って、蝋人形の複製をいっぱい作って……」

「………………」

「それくらいにしとこ。ほら、ダミアも……」

 

 ペットハウスを見ると、今の話が分かったのか、ダミアがうな垂れて涙を流してた。

 

「この子、人の言葉が分かるのかなあ……」

「ヤバくないですか、先輩……」

「あ、これは、もうお祓いだ!」

 幸い、部室は本堂の後ろ。

 あたしらは、ダミアを連れて本堂に移り、阿弥陀さんにひたすら祈るのでありました。

 

 

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真夏ダイアリー・55『人質になる』

2019-10-30 06:41:42 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・55
『人質になる』
    


 わたしたちは、ハドソン川を挟んだ小さな民間航空会社の空港にきていた。

 さすがのアメリカも、この時期、優秀なパイロットを集めていて、この航空会社も、若いパイロットを引き抜かれたばかり、会社も親会社に吸収され、この飛行場は事実上閉鎖されていた。
 もう午後四時をまわっていたけど、夏も近い6月の太陽は、ほとんど真上にあった。

「……どうやって、ここに来られたの?」
 手にした銃が無くなっていることにも気づかずに、ジェシカが呟いた。事前にテレポの説明はしたが、実際やってみると、衝撃であるようだ。ミリーもショックで固まっている。
「で、トニーも、あなたと同じアバターとかいうにせ者なの……?」
「会ってみなければ分からない。コネクションを全部切られてるから、トニーが、ここに居るということしか分からない」
 ここを探り当てることも大変だった。インストールされた能力では探すことができず、教科書の中に隠していたアナライザーを使って、やっと探り当てたのだ。

 目星をつけた格納庫に向かうと、途中で、格納庫のシャッターが開いた。わたしたちは駆け足になった。
 あと三十メートルというところで、エンジンの始動音がした。ダグラスDCー3が動き始めた。

「ストップ!!」

 わたしたちは、三人でダグラスの前に立ちふさがった。やがてトニーの姿をした省吾がタラップを降りてきた。
「あなたはトニーなの? それともトニーに化けたアバターとかいう化け物なの?」
 ジェシカが、銃を構えた。
「引き金は引かないほうがいい。そこのアバターと違って、僕はトニーの体そのものを借りてるからね」
「くそ……」
 悔しそうに、ジェシカは銃を下ろした。
「もう、ここまで来たら後戻りはできない。もうエンジン回しちゃったからね」
「……このダグラス、ミートボール(日の丸)が付いてる!」
「この戦争で唯一、アメリカと日本で使った同じ機種。日本じゃ、ライセンス生産で零式輸送機っていうんだけどね」
「トニー、何をするつもり!?」
「戦争を終わらせる。多少強引なやり方だけど……おっとアバターの真夏君は大人しくしてもらおうか……ミリーおいで。いっしょにニューヨークの空を飛ぼう」
「だめよミリー!」
「だって……」
 意思に反してミリーの体は、トニーに近づき腕の中に絡め取られた。
「やることが終わったら、ミリーもトニーも返すよ。むろんトニー本人としてね」
 そう言うと、トニーはミリーといっしょにダグラスの中に消えた。
 ダグラスは、そのまま速度を上げて、ニューヨークの空に飛び立っていった……。

「……これで、よかったの?」
 ジェシカが、ポツンと呟いた……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・20『武藤さんの言うとおりね』

2019-10-30 06:33:30 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・20 
 『武藤さんの言うとおりね』 






 昇降口まで走って気がついた、一時間目はマリ先生の現代社会……。

 晩秋だっていうのに、どっと汗が流れてきた。
 職員室は、教室のある新館とは中庭を隔てた反対側の本館。授業の準備なんかしていたら、わたしよりは二三分は遅くなる。
 わたしは、余裕で階段を上り始めた。ただ、噴き出す汗がたまんなくて、三階の踊り場で立ち止まった。タオル(クラブ用なのでタオルハンカチのようなカワユゲなものじゃない)で、顔、首、そいでもって、セーラー服の脇のファスナーをくつろげ、脇の下まで拭いちゃった……われながらオッサンであります。
「ハーックショ……!」
 慌てて、手をあてたが間に合わなかった。「ン」はかろうじて手で押さえられたが、大量の鼻水とヨダレが押さえきれない手から溢れ出た。すぐにタオルで拭いたけど。だれが聞いても、今のは立派なオッサン。
 風邪をひいたか、だれかが噂をしてくれているか……。

 教室に入ると里沙がプリントを配っていた。里沙と夏鈴は同じクラス。
「運良かったね、マリ先生遅刻で一時間目自習だよ」
 最後の一枚をくれて里沙が言った。
「でも、わたしといっしょに学校入ったから、もう来るよ」
「ええ、もう自習課題配って説明もしちゃったよ!」

 そこに、汗を滲ませながらマリ先生が入ってきた。みんな呆然としている。

「……どうしたの。みんな起立。授業始めるよ!」
「だって、先生。もう自習課題配ってしまいました……説明もしちゃいましたし」
「でも、わたし間に合っちゃったんだから」
「教務の黒板にも、そう書いてあったし。公には自習になると思うんですけど」
 里沙は、こういうところがある。真面目で決められたことは、きちんとこなすけれど、融通がきかない。みんなは自習課題を持てあまして、どうしていいか分からないでいる。
「……そうね、武藤さんの言うとおりね。自習って届け、出したの先生のほうだもんね。じゃ、この時間はその課題やってて」
 マリ先生は、里沙とは違う意味でけじめがある。授業では、けして「里沙」とか「まどか」とかは呼ばない。自分のことも「わたし」ではなく「先生」である。
「できた人は先生のとこ持ってきて。あとは自由にしてていいから。ただし、おしゃべりや携帯はいけません。早弁もね、須藤君」
 大メシ食いの須藤クンが頭をかいた。
「あの、ラノベ読んでもかまいませんか?」夏鈴が聞いた。
「いいわよ、十八禁でなきゃ」
 たまには芝居の本も読めよな、四ヶ月もしたら後輩ができるんだぞ。人のこと言えないけど。自分のことを棚にあげんのは女子の特権……そのときのわたしは、この名門乃木坂学院高校演劇部が存亡の危機に立たされるなんて想像もできなかった。
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宇宙戦艦三笠・46[小惑星ピレウス・3]

2019-10-30 06:13:25 | 小説6
宇宙戦艦三笠・46
[小惑星ピレウス・3] 



 その人は、ゆっくりと近づいてきた。

 近づくにつれて知っている人だと分かってきた。だが、分かるのは知っているということだけで、どこの誰かは分からない。
 まるで、夢の中で出会った人のように、その人に関する記憶はおぼろの中であった。

「みなさん、お元気だったすか」

 その訛言葉で思い出した。暗黒星雲のレイマ姫だ!。
「レイマ姫、どうして……」
 クルーの誰もが混乱した。ナンノ・ヨーダから姫の事を託され、アクアリンドに着くまでは姫の記憶は有った。そして、あの忘却の星アクアリンドに着いた時には、姫の存在はきれいに忘れてしまっていた。それが今、その姿を、訛った声を聞いて忘れた夢を思い出したようにレイマ姫のあれこれが思い出された。
「おもさげねえす。アクアリンドのあと三笠にとって致命的な戦闘になることが予見されちまっで、みんなの記憶からあだしを消したのす」

 修一たちには分からないことだらけだった。予見したのなら、なぜ言ってくれなかったのか、なぜ、みんなの記憶を消して消えてしまったのか。そして20年の冬眠状態の間、どこで何をしていたのか。どうして歳をとっていないのか……?
「分かってもらえっか分かんねだども、聞いてもらえねえべか?」
 みんなは、黙ってうなづいた。
「あだしは、ほんどはピレウスの星のソウルなんだす。クレアさんのアナライズでも分かんねほど人間そっくりだども、あだしには実態はねえのす。三笠のみかさんや、テキサスのジェーンをバージョンアップしだもんだと思ってもらえば、分かっかな?」
「言葉悪いけど、レイマ姫は、三笠が必死の戦いをやることを予見して逃げたんじゃないの?」
 トシが、不服そうに言った。
「んだな。三笠のみんなからは、そう思われでも仕方なかんすべ……」

 レイマ姫は大きなため息をついて、空を見上げた。

「助けすぎないため……?」
 樟葉が探るように言った。
「んだす。あだし危うくなっちまうど、後先考えねぐなっで、けっきょくみんなをダメにしてしまうがら……でも、おもさげねす。大変な思いをさせちまっで……」

 その時、ジャングルから陽気なオーラをまき散らしながら現れた者がいた。

「まどろっこしい話は止しにして、あたしの船においでよ。三笠の諸君!」

「ああ!?」
 三笠のクルーは驚嘆の声をあげた。

 テンガロンハットをクイっと上げた顔は、戦艦テキサスのジェーンだった……!
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小悪魔マユの魔法日記・79『期間限定の恋人・11』

2019-10-30 06:05:54 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・79
『期間限定の恋人・11』    



 マユは美優の心が少しずつ変化していっているように感じた。
 美優の命は、あと6日と4時間になっていた……。

 マユは、美優の体の中で必死にガン細胞と戦っている。
 最初は、そこまでやるつもりは無かった。一週間だけ美優の体を元気に生かし、生きることの意味を少しでも悟らせようとしただけである。
 生きることは、楽しい事なんて一割もない。残りの半分は、その楽しみを得るための、ルーチンワークのような、そっけない日常。そして残り半分は失敗や努力のための苦痛である。苦痛には、仕事の失敗、病気や事故、愛する者との別れなど目に見え自覚できるものもあるが、老いなどという緩慢な苦痛もある。それでも人間は人生を愛おしいものと思って生きていく。
 その苦痛を伴う愛おしさを、ほんのちょっぴり感じさせるだけのつもりでいた。だから簡単に一週間だけ、美優を健常にしてやるために美優の体の中に入った。

 しかし、美優の中で変化が起こった。黒羽との出会いである。
 
 黒羽は、店のお得意のプロディユーサーで、高校時代にほのかな恋心を抱いただけである。しかし、その黒羽が父の死を目前にして苦悩しているところに出くわしてしまった。
 そして、自分の死が訪れるまで、期間限定の恋人になってやることにしたのだ。生真面目な美優は、恋人らしく見えるように、ランチの帰り道、偶然を装ってキスまでした。しかし、それは、生涯をともに生きることを覚悟した婚約者の重さから見れば、ほんのイタズラのようなものに過ぎない。

 でも、美優は半日、モニター越しではあるが、黒羽の仕事ぶりを見てしまった。
 一見少年のような無邪気さでレッスンを見ている黒羽……でも、それはプロのディレクターの顔であった。観客の立場になり、どうやったら最高のAKRを人に見せられるか、真剣な無邪気さであった。
 そして、美優は、そんな黒羽を本気で愛し始めていた。そこで、マユは小悪魔の微力ではあるが、不可能に挑戦することにした。
 マユにできることは、美優の体の中でガン細胞を眠らせ、衰えた美優の体にエネルギーを与えることだけだった。そして、それは、あと6日と4時間で切れてしまう。

 マユは、美優のガン細胞を壊しにかかった。ただ小悪魔の力では、一日に1000個ほどのガン細胞を殺すことしかできなかった。ガン細胞は少なく見積もっても数億個ある。人体の細胞の数は70兆個の細胞でできている。それから見れば微々たるものであるが、一日に1000個の破壊では焼け石に水である。
 マユは期待していた。殺したガン細胞が、他のガン細胞を腐らせ殺していくのを。そして、それは美優の「生きる」気持ちと奇跡にかかっていた……。

「ねえ、お母さん。今夜からうちに黒羽さん下宿させてあげちゃいけないかしら」

 美優は、AKRの事務所から帰ってきて、母の手が空くのを待って切り出した。
「下宿……?」
「そう。お父さんの部屋……ダメ?」
 母は、わずか数秒で驚き、考え、そして結論を出した。
「いいわよ。わたしたちも、お父さんのこと、そろそろ整理しなくっちゃいけない時期かもしれないしね」
 父は、美優が小学校の時にガンで亡くなった。会社の定期検診でひっかり、入院し、亡くなるまでは半年しかなかった。父は商社の営業マンで、しょっちゅう海外に出張していた。だから父との思い出は、母子ともども並の家庭の1/10ほどしかなかった。それで父の思い出を大切にするために、父の部屋は生前のままにしてある。
「こんなことに未練もってたから……」
 父の部屋のドアを開けながら、母がつぶやいた。
「なに……?」
「ううん、なんでも……」
 父は、あまり整理上手な方ではなかった。だから、父が最後に部屋を使った散らかしようを維持しながら、掃除をするのは、大変だった。でも、そのぶん部屋の中にあるものは、全て把握していた……つもりであった。
 それは、机の上のドロシー・ゲイルの1/3サイズの胸像を持ち上げた時に気がついた。
 マユが、ちょっとビックリしたことが美優に影響したのかもしれない。そのドロシー・ゲイルの1/3サイズの胸像は、マユがフェアリーテールの世界で別れてきたドロシーにそっくりであった。
「お母さん、このドロシーの台座の底……」
「なに……?」
「この数字……」
「ああ、シリアルナンバーよ」
 母は、146/200を見て興味を失った。
「ちがうよ、このOZのOの中の数字よ」
 そこには、ロゴやシリアルと同じ金色で19851010と書いてあった。
「……これ、お父さんと結婚した日付だわ……どうして、こんなところに」
「なにかの暗証番号……じゃない?」
「カードの暗証番号にしては、ハンパな桁ねえ……」

 マユは、美優の記憶をちょっと刺激してやった。

「あ、ひょっとして……」
 美優は、父が使っていたパソコンのスイッチを入れた。
「これよ、きっと……」
 
 デスクトップのファイルに暗証番号を入れなければ開けないものが一つだけあった。それが、まさに8桁であった……。
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