大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:021『赤いフリース』

2020-03-14 14:04:18 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:021

いフリース』  

 

 

 チラチラと、閉じた目蓋を通しても分かる木漏れ日で気が付いた。

 

 右の方が灌木の斜面になっていて、ワラワラと茂った葉っぱの隙間から光が漏れている。

 斜め上から落ちてきたんだろう、所どころ灌木の枝が折れて、下草も乱れている。少し首を巡らすと自転車のハンドルが草原からニョキッと覗いている。

 急な斜面は高さが三メートルほどもあって、自力では登れそうにない。

 幸い体はなんともなく、悲惨な状況の割には落ち着いている。

 自転車をあきらめたら登れるかなあ……いやいや、結論を出すのは早い。周囲を探って、自転車を押しても上がれるところを探そう。斜面の上に道があるんだろうから。

 ヨッコイショっと……。

 自転車を立ち上げて目視点検……だいじょうぶ。葉っぱや蔓が絡んでいるけど壊れてるところはない……と思ったら、後ろのタイヤがパンクしている。

 これは、斜面の上まで引き上げても、家までは押して帰らなきゃならない。

 仕方がない、取りあえず上がれるところを探そう。

 カチャリ

 自転車のスタンドを立ててる。立てておかないと草叢に隠れて見失う。

 草叢自体緩い斜面になっているので、取りあえずは上りの方角に向かう。上って行けば上の道路に出られるところが見つかるだろう。

 ああ、ダメだ。

 二十メートルほども行くと、草叢の斜面はストンと落ちて谷間になっている。

 仕方が無いので、回れ右して下りの方角に進む。

 あれ?

 二十メートルは戻ったはずなのに自転車が見当たらない。

 また倒れたのかなあ……?

 草叢をかき分けるんだけど、見当たらない。

 え? え? ええ!?

 ちょっと焦って探すんだけど、見当たらない。場所間違えた? こけてる?

 ピョンピョンしながら探ってみるけど見当たらない。

 ちょ、ヤバいよ。

 キョロキョロしてみる。ようやく『だいじょうぶか、あたし(;゚Д゚)』という気になってくる。

 とにかく道を探そう。

 やみくもに歩いては迷いそうなので、フリースを脱いで斜面の木の枝に掛ける。赤いから、ちょっと離れても目印になる。

 しっかりとフリースを確認して、エイっと気合いを入れる。少し歩いて振り返る。うん、ちゃんとフリースは見えている。

 

 ビュン パシッ!

 

 何かが鼻先を掠めて、斜面の木に当った。

 え?

 ビュン パシ!

 今度は見えた。目の前を石が飛んで、斜面の木に当った。

 ビュン パシ!

 また飛んできて、さっきよりも、高いところの木に当った。

 

 あ?

 

 石が当たった木の枝にロープが掛かっているのが見えた。

 ロープは斜面の上に伸びている。えっさえっさと近寄ってロープを引っ張ってみる。

 グングン!

 引っぱってみると確かな手ごたえがあって、ロープを頼りに上って行けば元の道路に戻れそうな気がする。

「よし!」

 声を出して、ロープを手繰りながら上がる。

 よいしょ よいしょ よいしょ………やったー!

 十回ほどたどると、パーっと視界が開けて元の道路に上がることができた!

 それに、目の前には、ちゃんと自転車が!

 訳わかんないけど、とにかく助かった。

 もう一時も、ここには居たくないので、自転車にまたがる……が、パンクしている。

 だよね、パンクしてたんだ。

 仕方なく、コロコロと自転車を転がす。

 

 あ!?

 

 三叉路まで戻って気が付いた。フリースを置いてきたままだ!

 でも、取りに戻る気力無し。

 

 三十分近くかかって家に戻る。

 幸いお祖母ちゃんは庭いじりをしていて「おかえりぃ」と声が聞こえてきただけ。

 フリースは無いし、あちこち泥とかついてるし。見られたらヤバイ。

 あーーーー疲れたあ!

 ベッドにひっくり返って、そんで、ビックリした。

 

 壁のハンガーに、あのフリースが掛かっていた……。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・69「思い出のサンフランシスコ・7」

2020-03-14 06:19:09 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
69『思い出のサンフランシスコ・7』   




 オタク文化の経済的波及効果は4兆円だって!

 大阪府の年間予算が3兆円、東京都が7兆円だから、そのすごさが分かる。
 ちなみに世界の国々で年間予算が4兆円に達しない国が80%もあるから、その気になってオタクが団結すればそこそこの経済規模の国が出来てしまう。

 こんなことを思い知ったのは、二日前に行ったカセイドールで仲良くなったメイド長シンディーのおかげ。

「ヤッホー、お言葉に甘えてやってきちゃいました」
 達者な日本語でホテルに現れたシンディーは、お店のフリフリメイド服と打って変わって、カットソーにダメージジーンズ。
 化粧っ気も全くなしなんだけど、内から輝くものがある人で、人間の美しさは基本的には内面なんだと思い知る。
「だけどミリーもすごいわよ、てかウラヤマよね。日本に五年も交換留学してるんなんて、いったいどんな星の元に生まれたんだろうね」
 シンディーはノーパソを持ってきてくれた。
「先週終わったばかりの夏コミ情報だよ」
 ノーパソを部屋のテレビに繋いで、みんなで鑑賞。

 うわーー!!

 ぶったまげた!

 東京ビッグサイトは、駅から会場まで民族の大移動か!? ちゅうくらいの人波。
 けして人ごみじゃない。猛暑の中、みんな整然と並んで順番を待っている。
「日本人てすごいよね、大震災が起こっても、年二回のコミケでもキチンと秩序正しいんだよね。世界がオタクを認めるのはカルチャーそのもののクォリティーもさることながら、こういうところにも惹かれるんだと思うわよ」
 日本に来て五年目だけど、コミケは知らなかった。他の三人も同じようで、画面を観ながら感心している。
「でも、今年は三万人も少なかったんだよ」
「え、どれほど来てるの?」
「五十万人、三日間の合計だけど」
「「「「五十万人!?」」」」
「これだけのイベントなのに、日本じゃほんのトピックスにしかならないんだよね」
「五十万人言うたら、夏の甲子園よりも多いんちゃうかなあ」
 啓介がときめいて、中学から久しく見なかった貧乏揺するをしだした。
「高校野球は80万人だから及ばないけど、一日あたりは絶対コミケの方が多いわよ。もし、甲子園と同じ十五日間やったら、絶対にコミケの方が勝っちゃうでしょうけどね。高校野球の経済効果は350億円ほどにしかならないんだよ、オタクは4兆円。日本政府もマスコミももっと力いれるべきだよ」
「うん、そうだね」
「そうね」
「せやな」

「で、夏コミってなんですか?」

 千歳が根源的な質問をしたのにはズッコケてしまった。

「これを見てちょうだい!」
 シンディーはリュックの中から数冊の同人誌やらゲームを出した。
「ネットオークションで手に入れたの、半年かかったわ。まだ二冊手に入れてないんだ、日本に居たら、ぜったい朝から並んでゲットするんだけどねえ」
 わたしたちが見たらマンガとかイラストのパンフくらいにしか見えないんだけど。すんごいお宝だということは、シンディーの熱気から伝わってくる。

 続いてオタク談議になると思ったけど、シンディーの心配りは違った。

「サンフランシスコ観光ならここね!」

 

 あくる日。

 シンディーのアドバイスで、アルカトラズ島の気合いの入ったプリズンミュージアムとロンバートストリートと日本庭園に行った。

 ヨセミテ公園とかゴールデンゲートブリッジとかもあったんだけど、天気が良かったらの条件付きだったので流れてしまった。
「オタク的なところは無いんですね」
 千歳はホテルでのノリがあったので、そいうところに行くもんだと思っていた。
『ハハハ、そういうのは日本が本場なんだから!』
 シンディーは電話の向こうで笑っていた。
 ちなみにシンディーはカセイドールの仕事があるのでプランを立ててくれるだけ。ただ新鮮なフィードバックが欲しいので、観た後は必ず電話かメールをするように言っていた。

『明日お勧めのところがあるの、わたしも同行するから行ってみない?』

 シスコ最終日に、シンディーは思いもよらないところを勧めてきた……。

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坂の上のアリスー19ー『今日の一子は微妙に明るすぎる』

2020-03-14 06:07:29 | 不思議の国のアリス

坂の上のー19ー
『今日の一子は微妙に明るすぎる』   



 

 今日の一子は微妙に明るすぎる。

 いつもなら「おはよう」と入ってくるところを「や、おはよう」だった。
 並んで歩いていても微妙に近い。今だって、一子の手の甲がサラリと俺の手の甲に触れた。一子とは幼なじみなんだけど、ほんのガキだったころを除けば、身体が触れ合うと言いうことは、ほとんどない。何かの拍子で触れ合うと「あ、ごめんね」とか言って、顔を赤くする。それが、何も言わない。
 喋ってはいる。この春から始まった深夜アニメのリメイク版について熱く語っているのだ。「女子高生が力合わせて潰れかけの学校を盛り返すってのは、ラブライブとかガルパンとかで極められたって感じなんだけど、なんか健気で、つい見入っちゃうよね。わたし的には……」と、一見熱そうな話は続いていく。

「一子、なんかあるんだろう?」

 校門まであと五分という坂の途中で切り出した。

「あ、えと……分かる?」
「分かるさ、一子がこんな風になるのは、去年のあの時以来だからな」
「あ……そなんだ」
「なんだか知らないけど、話してみ」
「あ、いや、また後でいいや」
「話しとけって、校門潜ったら、たぶん話し辛いことなんだろうから」
「亮ちゃん……」

 一子の様子と、夏休み直前という時期で、俺は、あの話しかないだろうと見当を付けていた。

 でも、まさかもう一度墓参りに行く話だとは思わなかった。

「去年、あんな目に遭ったのに、もう一度行こうってか?」
 校門が近いので、人目をはばかって静かに聞いた。
「ちゃんとしとかなきゃ……三人揃って学校まで辞めたんだよ」
「辞めたんだから、もう済んだはなしなんだぜ。この上なにを、なんのために!?」
「ちゃんと向き合っておきたいの。お葬式にも出てないんだし」
「出てないんじゃない、出してもらえなかったんだ!」
 思わず声が大きくなる。
「行こうよ……」

 一子は、目に大粒の涙を貯め始めた。日ごろ温厚でニコニコしている静香なのでドギマギする。朝の登校時間の真っ最中、通りすがる生徒たちは――なんだ、この二人は?――という顔つきで追い越していく。
「ガラにもねえ、涙拭けよ」
 そっとハンカチを出す。
「あ、ありがとう」
 そう言ったが、ハンカチは握りしめたまま立ち止まって、俺の胸に顔を埋めて、一子は嗚咽した。

 その横を、戸惑い顔とキツイ表情の顔が追い越した。

 そのキツイ顔が綾香とすぴかであることに気づくのには少し時間が要った。


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・40《現実版 はがない・1》

2020-03-14 05:58:00 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・40(さくら編)
現実版 はがない・1》   



 

 あたし友だちない

 でも隣人部を作ったりはしない。エアー友だちを作ったりもしない。
『春を鷲掴み』で、間所健さんと坂東はるかさんとも『お友だち』になった。ただ、二人ともキャリアが違いすぎる。って、あたしのキャリアがなさすぎなんで、お仕事仲間はみんな、大小の違いはあっても先輩だ。とても対等な友だちとは言えない。

 でも、はるかさんは、日に何度もメールをくれる。

――おはよう。もう起きた? わたしはこれから寝るところで~す――
――今から○○の収録。××さんは苦手。いってきま~す――
――○○の収録終わり。とりあえず問題なし――
――もう寝た? 今から来月の舞台の打ち合わせ、たぶん午前様で~す――
――おはよう。もう起きた? わたしは、これから爆睡しま~す――

 最初は、この五本のメール。

――おはよう。今からお仕事。いってきまーす!――
――聞いて聞いて、今夜の仕事、相手役の急病でオフになっちゃった!――
――肝心なこと忘れてた、もしよかったら、今夜晩ご飯付き合ってください!――

 じつは、この間に十五本もメールが入っていたんだけど、今どこそこにいまーすというようなものばかりなので、このお話の展開に関係あるやつだけ並べました。

 あたしは、この五日間は入試で学校は休みだった。駆け出しの業界人の仕事は、こないだの『春を鷲掴み』とラジオの生があっただけなので、リアルはがない女子高生のあたしは、数少ない友だちのまくさと恵里奈とカラオケ行った以外は、チュウクンのお相手してるのかされているのか分からない付き合いがあったきり。喜んで、先輩女優のゴチになる。

 場所は乃木坂近くのKETAYONAってお店。

 一応店のありかは教えてもらっていたけど、スマホの道案内に頼ることもなく着くことができた。

「あのう、はるかさんと待ち合わせている佐倉っていいますけど……」
 そこまで言うと「どうぞ」と奥の個室に通された。
「ごめんね呼び出して。お家大丈夫?」
「大丈夫です。はるかさんといっしょだって言ってありますから。はるかさんの信用は、家じゃ一番なんです」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。ま、とりあえず乾杯で、お料理は任せてね!」
「あたし、未成年ですから」
「大丈夫。わたしもアルコールだめだから、ジンジャエールで乾杯」

 そして、ノンアルコールで乾杯したあと、ひとしきりお料理をぱくつき、ソロリとお話に入っていった。

「あたし、この店初めてって気がしないんですよね」
「目立たないお店なのにね」
「あの、ひょっとして『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てきませんでした?」
「え、さくらちゃん、あの本読んだの!?」
「はい」
「おお、心の友よ!」
 
 はるかさんはジャイアンのようなことを言ってハグしてきた。ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「あの本読んでる人って、めったにいないんだよね」
「おもしろいラノベなんですけどね」
「まあ、出版不況だからね」
「あたし、姉妹作の『真田山高校演劇部物語』も読みましたよ」
「え、あれ出版されてないわよ!?」
「ネットで掲載されてるの読みました」
「うーん、ういヤツじゃそなたは。あれ、今度本になるんだよ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』ってタイトルで、春には出るよ」
「あたし、最初の読者になります!」
「なかなかの心がけよのう」
「あの話は、実話なんですか?」
「多少の誇張はあるけどね、マンマよ」
「じゃ、小さい頃は、成城のお嬢さんだったんですか?」
「うん、五歳までね。あとは本の通り。お父さんの会社が倒産して……ハハ、オヤジギャグだ」
「南千住の実家に越して、高二で大阪に引っ越して……」
「さくらちゃん、優しいね。親の離婚飛ばしてくれたのね……」
「あ、端折っただけです」
「いいのよ、そこ抜きにしちゃ、今のわたしにたどり着かないから」

 あたしは、とことん付き合う気になっていた。

 はるか先輩は、とても行儀が良い。やっぱ成城のお嬢さんの時代に身に付いたものがあるんだろう。
 ら抜き言葉を使わないし、メールにデコメや絵文字を使う事もない。一人称も「あたし」じゃなくて「わたし」だ。
「青春て、めくるページの早さが速いじゃない。今いっしょのページに居たかと思うと、次のページには居ないのよね……人間って、みんな一冊ずつ自分の本を持ってるんだよね。で、この人生の本と言うのは、部分的に重なったり離れたり。いつも友だちや、身内が同じページに居るとは限らない……今、わたしのページはね、わたし一人きり。人はいるけど、みんな背景に溶け込んじゃって、物言わぬ書き割りみたいなものになっちゃった」

 気が付くと、外は再びの雪になっていた。

 あたしは、はるかさんのマジの『はがない』に向き合った……。

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