大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・134『時空の穴から黄泉比良坂へ』

2020-03-03 14:20:06 | 小説

魔法少女マヂカ・134

『時空の穴から黄泉比良坂へ』語り手:マヂカ    

 

 

 絡みつく瘴気が取れ次第、北斗は進発することにして、わたしとブリンダはウズメに続いて次元の穴に飛び込む。

 

 ウニュ~~~~~~💦

 

 ウズメがブチ開けた時空の穴は、なんとも粘液質というか絞ったゴムかシリコンのチューブの中を行くような不快さがある。

「足から突っ込んだのがまずかったか……コスがまくれ上がって……(;'∀')」

「なんだか……みっともない(^_^;)」

 二人がが文句を言うとウズメが器用に上下を逆さまにしてくれる。

「なんだか、逆子を直すみたいだな」

「時空の穴は、時空と時空の間に産道をつけたようなもんどすから、おつむは進行方向。体の力を抜いて、穴の蠕動運動に身を任せることどすえ」

「そんなものなのか?」

「おお、なんとなく分かるぜ。カチカチのウンチってのは出るの大変だからな(;゚Д゚)」

「ブリンダ、例えが悪い」

「ホホホ、どっちゃでもよろしい。途中で余計なもん見えるかもしれまへんけど、けして目を奪われんようにしとくれやす」

「「余計なもの?」」

 揃って言ったのが悪かったかもしれない。絡みつく襞が透明になり、なにやらスポットライトが当たったように見えてくるものがある。

 日暮里の駅と、その周辺のような……人通りが無く、信号は赤の点滅を繰り返し、時おりゴミが風に舞いあげられている。ビルの向こう側、遠近の数か所から黒い煙が上がっていて、何かを焼く嫌な臭いがする。

「人を焼く煙どす。コロナウイルスの対応に失敗した最悪の未来どすなあ」

 そんなものを見てはたまらないので、シンクロナイズドスイミングのように手足を動かして向きを変える。

「なんだか、日の丸を引き裂いてるぞ……」

 大勢のアジア系とみられる者たちが、日の丸を引き裂いて叫んでいる。外国語なのだが、耳が自動で翻訳モードになって日本語に変換される。

―― コロナウイルスの発現地は日本だ! 日本は謝罪と賠償をしろ! ――

『ちがう、日本は被害者だったんだ』

―― だったら、なんでお礼を言いに来るんだ! ――

『マスクや防護服を送ってくれて勇気づけてくれた、そのお礼だ』

―― 嘘つけ、日本が発現地だと、学者も政府も言ってるぞ! ――

―― 謝罪と賠償だ! ――

 なんだ、これは……!?

「それもコロナウイルスの対応を間違えた未来の一つどす、もうじきどすよって、目ぇつぶっときやす」

「「あ、ああ」」

 目をつぶると、見えなくなり、音声も小さく消えて行った。

 

 フワフワ

 

 チューブの中で締め上げられるような束縛感が霧消して、無重力空間に放り出されたような浮遊感がした。

 ドスン!

「「イテ!」」

 マジカとそろって尻餅をつく。

 あたりを見回すと、緩やかな坂道に着地したようだ。周囲は深い木々に覆われ、生臭い水が腐ったような臭い。左の茂みに水面が見え隠れしている。

「あの池に次元の出口が繋がっとったんどす」

「え?」

「あそこから出てきたのか!?」

「一瞬のことどすから、臭いは……首尾よう帰ったらファブリーズどすなあ」

「ハハハ、まあ、すぐに慣れるさ」

「あれが……」

 ウズメが指差したのは坂道の上、そこだけが緑に覆われることが無く、岩肌が露出している。

「千曳の大岩どすなあ」

「え、あれが?」

 近づいてみると、それは岩肌ではなく、五階建てのビルほどの大岩だ!

「これを動かすのか……?」

「重量……百万トンはあるぞ!」

 一トン動かすのに一馬力いるとして百万馬力以上の力が居る。

「ブリンダの出力は?」

「オレは、せいぜい十万馬力だ」

「わたしも、それぐらいだ。ウズメは?」

「五十馬力くらいどすやろか?」

 え、合わせて二十万馬力ちょっと……ぜったい無理だ。

「思い出した! ウズメさん、踊るのはあんただが、岩を動かすのは田力男命(たぢからおのみこと)だ!」

 田力男は高天原最高の力持ちで、たしか相撲取りの守り神になっているはずだ。

「タヂカラさんは、せいぜい百人力どす。まあ、天岩戸よりも小振りやさかい、大丈夫、最後は魔法少女はんお二人の力でも開きますえ(o^―^o)」

 嘘だろ……。

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・58「夏休み編 千歳のお姉ちゃん」

2020-03-03 06:23:49 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)58

『夏休み編 千歳のお姉ちゃん』   




 変な演劇部ぅ~~~~!

 ひょっとこみたくお姉ちゃんは口を尖がらせた。


 妹のわたしが言うのもなんだけど、うちのお姉ちゃんはイケてる。
 イケてるという伝法な言い方は、イケてるという言葉がいろんな意味を含んでいるからなんだ。

 美人でスタイルもよく、頭の回転がいいのに偉ぶったところがなくて、どちらかというと普段は抜けた顔をしている。
 もの喜びする性質で、面白いことや素敵なことに出会うとアニメのキャラのように分かりやすいリアクションをする。
 そして、面白いとか素敵だと思う神経が人の三倍くらいに敏感。
 
 事故で足が動かなくなったとき、一番分かりやすく悲しんでくれたのはお姉ちゃん。

 お医者さんが宣告すると「どういうことなのよーーーー!!」と叫んでお医者さんの首を絞めた。
 看護師さんたちに引きはがされると、ベッドのわたしに覆いかぶさって泣き叫んだ。

 ウガアアアアアアアアアア!

 涙と涎でグチャグチャになりながら、怪獣みたいな泣き方だった。
「そうだ、わたしの脚を片方移植してやってください! 片方動けばなんとかなります! 千歳、そうしよう! でもって、お姉ちゃんと一緒にリハビリしよう!」
 愛情がなせる業なんだろうけで、その瞬間は本気で脚の移植を考えてしまうほどのオッチョコチョイ。

 本格的な車いすの生活に向けてのリハビリが始まると、脚の不自由な人の生活が面白くなってくる。
「へーー車いすって、こんなに種類があるんだ!」
 車いすを決めるのに丸二日かかったのは、お姉ちゃんがいちいち試乗してチェックをしたからだ。
 サポーターや業者の人は「熱意と愛情の有るお姉さんですね」と目を潤ませていたけど、わたしは分かってる。お姉ちゃんは単に楽しんでいるだけなんだ。

 空堀高校に入るにあたって大阪のお姉ちゃんのマンションに越して来たけど、お姉ちゃんはリカちゃん人形のドールハウスをコーディネートするように熱中していた。
 送迎用のウェルキャブも最新式で、初めて学校に乗り入れた時には校長先生やバリアフリー担当の先生や事務所の人たちまで見物にやって来た。
 わたしは恥ずかしかったけど「いいお姉さんを持ったわねえ!」と感心される。本当はお姉ちゃんが一人面白がってるだけなんだけどね。

 そのお姉ちゃんが「変な演劇部ぅ~~~~~~~~~!」というのだから、よっぽど変な演劇部。

 理由は、第一に演劇をやらない演劇部だから。
 それでも解散にはならずに続いているのは四人の部員のユニークさ。
 演劇はやらないけど、それぞれ学校生活に目的があって退屈するということが無い。
 一人一人語っていると夏休みが終わってしまいそうになるので、一つに絞ってお話するわね。
 
 なんと、演劇部が四人揃ってアメリカ旅行に行くことになってしまったのよ!

 いよいよ空堀高校演劇部は夏休み編突入!
 

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坂の上のアリスー08ー『エッチャンセンセのお説教』

2020-03-03 06:15:20 | 不思議の国のアリス

坂の上のー08ー
『エッチャンセンセのお説教』   


 

 世の中には一言言わなければ気が済まない人間がいる。

 言われる方はたまったもんじゃないよな。

 そして、この『一言言いたい人間』には二種類あるんだ。
 
 人のためなんて欠片も思っていなくて、うっ憤を晴らしたいだけのやつ。国会や基地や外国人学校の周りとかで叫んでいる連中が典型だ。そういう社会的なシャウトでなくて、より狭いガッコとかクラスとか友だち関係の中でシャウトする奴は、さらにウットシイ。だってそーだろ、国会前とかでのシャウトなら近づかなきゃいい。狭いとこでやられたら逃げようないもんな。ま、こーいうやつについては、またいずれ。

 困るのは、ほんとに人のためを思い、心配で心配でしかたない気持ちをぶつけてくる人の真情溢れる説教人間。うっぷん晴らしと真情溢れる説教の違いは、やられてみりゃ分かる。うまく言えないけど、違う。
 うっぷん晴らしは、ただの暴力。ひたすら痛い。
 真情溢れる説教は電子レンジのマイクロ波。体と心の中に入ってきて熱を発する。

 こう言や分かるかな。三十秒で温まるブタまんを三十分レンジにかけたらどうなるか?

 で、いまの俺は、そのブタまんだ。
 レンジのマイクロ波は、エッチャン先生のお説教。

エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン エッチャン……。

 このエッチャンに「だからあ」「言ったでしょ」「そもそも」「なんべん言ったら」「そんなことだから」「口を酸っぱく」「いいかげん」「たいがいに」「こんなことじゃ」「いずれは」「肝に銘じて」てな言葉を当てはめてリフレインするとエッチャンのお説教になる。

 で、なんの説教かと言うと、成績と日常生活のあれこれ。

 俺の成績は、まあ……真ん中。可もなく不可もなく。なんだけど一年後大学に進学するのにはお寒い成績。で、エッチャンは俺の両親が仕事で海外に行きっぱなしなのを知っている。だから、他の生徒よりも心配なんだ。それに、エッチャンが、まだ新卒の先生だった去年。PTAの担当になって、PTAの副会長をやっていたお袋と大変仲良くなってしまった。なんちゅうか、女学校の先輩と後輩みたいな絆ができてしまった。

 で、お袋は海外に行く前に「くれぐれも、うちの亮介をよろしく!」と言い残して行ってしまった。

 持ち前の親切心とお袋への尊敬、やる気十分なわりに不器用なことが重なって、エッチャンは電子レンジになってしまい、俺は職員室で、もう三十分もお説教の電磁波を浴びている。

 まだ五分は続くと思った時に救われる。

「唐沢先生、ちょっと」
 エッチャンは年配の先生に声を掛けられる。名前は知らないが、某野党のエライサンに似ている。
「え、あ……はい」
 エッチャンは、お説教をおわりにした……やっと。

 救われたんだけど、その某野党のエライサン先生を好きにはなれない。某野党のエライサン先生も俺を救おうと思って声を掛けたわけじゃないしな。あれ、多分土日に控えた参議院選挙についてだよな。

 終わってしまえば、説教慣れしているオレは急速にクールダウンする。五分もあれば冷却完了。

 でも、職員室を出て廊下を曲がったところですみれに出会ってしまう。まだ、一分もたってない。すぴかも、よせばいいのに「あら、お兄さん」と声をかけてきやがった。



 

 ♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 


 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

 

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ここは世田谷豪徳寺・29《メタモルフォーゼ》

2020-03-03 05:55:50 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・29(さつき編)
《メタモルフォーゼ》   



 

 

 来年の成人式には出ないと決心した。

 世田谷区の成人式は大荒れだった。暴走族が早くから集結し、式の最中に舞台に上がってメチャクチャにしたらしい。
 成人式は終戦直後、荒廃した日本の社会に成人として羽ばたいていく若者たちに、せめてものはなむけにと始まったものだ。

 今は、ただ慣例化して行われているルーチンワークに墜ちたセレモニーにすぎない。

「秋元クンは、来年どうするの?」
 バイトの休憩時間に聞いてみた。
「オレ、親父が警察官だから……やっぱ、出るかな」
 補充注文カードを整理しながら零すように言う。仕事熱心というよりは、この話題には乗りたくないというのが本音のようだ。そういう態度をとられると、ますます絡んでみたくなる。
「へえ、お父さんのメンツで決めるの?」
「オレ、大阪の東成なんだ。なんてのかな、大阪でも、わりと地縁結合が強いところでさ……」
「でもさ、成人式ぐらい、自分の意志で決めてもいいんじゃない?」
「え、ああ、まあ、そうだけど……」
 この生返事で、話の接ぎ穂が無くなってしまった。

 秋元クンというのは、良く言えば順応性が高い。大阪からやってきているのに言葉は最初から標準語だった。仕事の覚えは早かったけど、仕事っぷりは……まあ、ギャラの分だけは働きますというタイプ。何事にも波風を立てたくない性格で、思いを寄せている年下の氷川聡子が吉岡さんという大人と付き合っていることを知ると、ケナゲに諦めようとしている。まあ、そうし向けたのは、あたしなんだから、少なからず罪の意識がある。

 もっとアタックした方がいい。

 サトコちゃんとは、偶然だけど、そういう話になった。
 なぜか、バックヤードの片隅に蝉の抜け殻があったのを店長が発見した。去年の夏に店の中で蝉の抜け殻を入った袋をひっくり返した子がいた。どこかの公園で遊んでいて見つけたものだった。店の本で抜け殻の正体を調べていたんだ。ちょっと騒ぎになったけど、その時の抜け殻が一つ空調の風に飛ばされ、人に蹴られして、このバックヤードに残ってしまったんだろう。
「人間も、見えないけど脱皮するんだよ」
 文学部らしい言い方で話し始めた。
「成人になるってことですか?」
 サトコちゃんは、季節にあった返事を返してきた。
「人さまざま。好きになる男の人のタイプだって、サトコちゃんの年頃って、三月ぐらいで変わったりする」
「ふーん……」
 ちょっと考えた返事をした。
「どうよ?」
 問いかけると、思わぬ返事が返ってきた。
「あたし、一度だけ秋元さんと寝たことがあるんです……あたしも、秋元さんも初体験だったけど……あの時は、そういう必然性があったんです。あれ、脱皮だったと思います。ただ、その後、あたしはチョウチョ、秋元さんはセミみたいに別なものに変態したって感じなんです。チョウチョとセミは一緒には飛びません」
「人間の脱皮って、何度もあるんだよ」
 と言って、その言葉が、そのまま自分に返ってきた。

 あたしは、まだ、最初の脱皮もできていない。

 昨日家に帰ると、ご近所の四ノ宮クンが来ていた。
「アイテ、テテテ……もう少し優しくやってくれる」
「どうしたの、四ノ宮くん!?」
「成人式見にいったら、暴走族とケンカになったんだって」
 さくらが、甲斐甲斐しく手当をしている。
「病院行かなくて大丈夫?」
「救急車満員だったの」
「え、なに、それ?」
「暴走族八人ノシちゃって、擦り傷と打ち身だけだから。警察に呼ばれちゃったのよね。で、駅前で一緒になったんで連れてきたの」
「すんません。お邪魔しちゃって」

 このカップルもよく分からない。同じ一年生でも大学と高校。それが、まるで同い年のお友だち。

 ネットで、わが帝都大のホームページにアクセス。後期試験のことを調べようとしていたんだけど、違うものが目に飛び込んできた。

――フランス、クレルモン大学交換留学生募集――

 脱皮への誘いに見えた。
 

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