せやさかい・128
ご心配いただきましたが、わたくしが罹患いたしましたのはただの風邪でございました。大事をとって二度の検査をしていただきましたが、いずれも陰性で、今は熱も収まり回復しております。しかし、世界には、まだまだ新型コロナウイルスの災いに晒されております。一日も早い鎮静化を望むとともに、世界中の罹患された人々の一日も早い回復を祈っています。そして、このコロナウイルスに対抗されている人々のあらゆる努力を支持いたします。
はい、安泰中学の卒業式、真理愛女学院の入学式に出られないことは残念ですが、今は、この災禍を乗り越えるために努力されている人々の為に祈ることが大切だと心得ますとともに、クラスターやパンデミックにならぬため、防疫に身命を賭しておられるWHO並びに諸国の担当部署、医療従事者のみなさんに感謝の誠をささげます。
わたくしヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンの心はヤマセンブルグ臣民のみなさん、日本の皆さんとともにあります。
少し憂いを秘めた笑顔で頼子さんの談話が終わった。
テイ兄ちゃん:「さすがは頼子さん、なんか、もう王女様の貫録やなあ!」
お祖父ちゃん:「一足飛びに女王様でも通用するなあ!」
おばちゃん:「立派に王室外交を担ってるわねえ!」
おっちゃん:「中学三年とは思われへんなあ!」
詩(ことは)ちゃん:「かっこいい!」
お母さん:「…………」
頼子さんがヤマセンブルグから帰られへんようになったことを突き止めたマスコミが(日本の)ヤマセンブルグ王室に取材を申し込んだ結果が、これ。
日本のマスコミなんかほっときたい。そやけど、ほっといたら何を書かれるかわからへん。それで、急きょ、頼子さんの肉声でスピーチをやったわけ。
「では、みなさんからご質問がありましたらお受けいたします。所属とお名前をおっしゃった上、ご質問ください」
ほんま、『ローマの休日』のオードリーヘップバーンみたいや!
居並んだ記者やレポーターが一斉に手を挙げて、写真のストロボが一斉に焚かれる! 頼子さんが『まあ、こんなにたくさん!』という感じで、少し指名を迷う……その時!
ハックション! ヘーックション! ヘクチ! ファックション!
記者たちがクシャミをし始めた。
すぐに御付きの女性がとんできて、頼子さんはフレームアウト。代わりに出てきたんがジョン・スミス(エディンバラでボディーガードしてくれたマッチョ)が画面いっぱいに現れて宣告した。
「残念ですが、これで会見を終わります。なお、ここに居られるマスコミ関係の方々は、コロナウイルスの検査を受けていただきます。我が国は、いまだに発症者はいませんが、念のための検査です。ご協力願います!」
防護服姿がワラワラと集まって記者たちをしょっ引いていった。
『やってらんないわよ! ほんとに! まったく!』
スカイプの画面に現れた頼子さんはブチギレてた。
あのあと、部屋に戻ったら、着信アリが点滅してて、クリックしたら頼子さんの大写し!
「いや、カッコよかったって、みんなゆってるし……」
『そりゃ、台本通りやってんだから! もう、どこのクソッタレよ! 学校にも言わないで、お忍びで来てんのにさ! 日本のマスコミって大っ嫌い!』
「え、あ、そーやったんですか(;'∀')」
『もう、ほんと、ついてないついてない! 卒業式出たかったし、文芸部でお花見とかしたかったのに! みんなで、あちこち遊びに行きたかったのにい!』
ああ、激おこぷんぷん丸や~。
「あ、あの、大丈夫なんですか? マスコミの人らクシャミしてましたけどお?」
『あれはね、ジョン・スミスとソフィアがね、まあ、抜き打ちの避難訓練みたいな?』
ああ、あの二人ならやりかねんわ(^_^;)。
『でもね、A新聞の記者は発熱があったから、軍の施設に隔離だって。ほら……』
カメラが切り替わって、救急車が三台王宮を離れていくのが見えた。
記者さん可哀そう……。
『とうぶん日本には帰れないから、さくらにお願いがあるの』
「はい、なんですか?」
『本当だったら、みんなで春休みに行きたいとこがいっぱいあったのよ』
「わたしもです!」
『留美ちゃんと二人でさ、行ってきてくれないかなあ。そいで、動画とか送ってもらえると嬉しいんだけど!』
「やるやる、やります!」
『ホント!? 期待しちゃうよ!』
「は、はい、任せといてください!」
『よかったあ! ここんとこ、なにもいいことなかったから、すっごく嬉しい!』
「は、はい! うちも!」
ちょっと、おもしろなってきた!