大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・128『頼子さんの記者会見』

2020-03-02 16:03:47 | ノベル

せやさかい・128

『頼子さんの記者会見』         

 

 

 ご心配いただきましたが、わたくしが罹患いたしましたのはただの風邪でございました。大事をとって二度の検査をしていただきましたが、いずれも陰性で、今は熱も収まり回復しております。しかし、世界には、まだまだ新型コロナウイルスの災いに晒されております。一日も早い鎮静化を望むとともに、世界中の罹患された人々の一日も早い回復を祈っています。そして、このコロナウイルスに対抗されている人々のあらゆる努力を支持いたします。

 はい、安泰中学の卒業式、真理愛女学院の入学式に出られないことは残念ですが、今は、この災禍を乗り越えるために努力されている人々の為に祈ることが大切だと心得ますとともに、クラスターやパンデミックにならぬため、防疫に身命を賭しておられるWHO並びに諸国の担当部署、医療従事者のみなさんに感謝の誠をささげます。

 わたくしヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンの心はヤマセンブルグ臣民のみなさん、日本の皆さんとともにあります。

 

 少し憂いを秘めた笑顔で頼子さんの談話が終わった。

 

テイ兄ちゃん:「さすがは頼子さん、なんか、もう王女様の貫録やなあ!」

お祖父ちゃん:「一足飛びに女王様でも通用するなあ!」

おばちゃん:「立派に王室外交を担ってるわねえ!」

おっちゃん:「中学三年とは思われへんなあ!」

詩(ことは)ちゃん:「かっこいい!」

お母さん:「…………」

 

 頼子さんがヤマセンブルグから帰られへんようになったことを突き止めたマスコミが(日本の)ヤマセンブルグ王室に取材を申し込んだ結果が、これ。

 日本のマスコミなんかほっときたい。そやけど、ほっといたら何を書かれるかわからへん。それで、急きょ、頼子さんの肉声でスピーチをやったわけ。

 

「では、みなさんからご質問がありましたらお受けいたします。所属とお名前をおっしゃった上、ご質問ください」

 ほんま、『ローマの休日』のオードリーヘップバーンみたいや!

 居並んだ記者やレポーターが一斉に手を挙げて、写真のストロボが一斉に焚かれる! 頼子さんが『まあ、こんなにたくさん!』という感じで、少し指名を迷う……その時!

 ハックション! ヘーックション! ヘクチ! ファックション!

 記者たちがクシャミをし始めた。

 すぐに御付きの女性がとんできて、頼子さんはフレームアウト。代わりに出てきたんがジョン・スミス(エディンバラでボディーガードしてくれたマッチョ)が画面いっぱいに現れて宣告した。

「残念ですが、これで会見を終わります。なお、ここに居られるマスコミ関係の方々は、コロナウイルスの検査を受けていただきます。我が国は、いまだに発症者はいませんが、念のための検査です。ご協力願います!」

 防護服姿がワラワラと集まって記者たちをしょっ引いていった。

 

『やってらんないわよ! ほんとに! まったく!』

 

 スカイプの画面に現れた頼子さんはブチギレてた。

 あのあと、部屋に戻ったら、着信アリが点滅してて、クリックしたら頼子さんの大写し!

「いや、カッコよかったって、みんなゆってるし……」

『そりゃ、台本通りやってんだから! もう、どこのクソッタレよ! 学校にも言わないで、お忍びで来てんのにさ! 日本のマスコミって大っ嫌い!』

「え、あ、そーやったんですか(;'∀')」

『もう、ほんと、ついてないついてない! 卒業式出たかったし、文芸部でお花見とかしたかったのに! みんなで、あちこち遊びに行きたかったのにい!』

 ああ、激おこぷんぷん丸や~。

「あ、あの、大丈夫なんですか? マスコミの人らクシャミしてましたけどお?」

『あれはね、ジョン・スミスとソフィアがね、まあ、抜き打ちの避難訓練みたいな?』

 ああ、あの二人ならやりかねんわ(^_^;)。

『でもね、A新聞の記者は発熱があったから、軍の施設に隔離だって。ほら……』

 カメラが切り替わって、救急車が三台王宮を離れていくのが見えた。

 記者さん可哀そう……。

『とうぶん日本には帰れないから、さくらにお願いがあるの』

「はい、なんですか?」

『本当だったら、みんなで春休みに行きたいとこがいっぱいあったのよ』

「わたしもです!」

『留美ちゃんと二人でさ、行ってきてくれないかなあ。そいで、動画とか送ってもらえると嬉しいんだけど!』

「やるやる、やります!」

『ホント!? 期待しちゃうよ!』

「は、はい、任せといてください!」

『よかったあ! ここんとこ、なにもいいことなかったから、すっごく嬉しい!』

「は、はい! うちも!」

 

 ちょっと、おもしろなってきた!

  

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・57「そんなこと考えてたんだ」

2020-03-02 06:26:06 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)57

『そんなこと考えてたんだ』   




 創立百年を超える府立高校は、われらが空堀高校だけではない。

 それら百年越えの高校の多くに戦前からの建物が残っている。
 百年前というと、日露戦争の勝利から十年を経過し、折からの欧州大戦の好景気に沸いた大正時代。
 日本は一等国という晴れがましい空気が横溢しており、今の時代からは想像がつかないだろうが、軍縮と教育投資への熱が高まった時代である。
 軍人が軍服のまま市中に出ると、極端な場合『税金泥棒』のような目で見られ、ついには軍人の定数も削減されるようになった。
 削減は召集される兵だけではなく、職業軍人にまで及び、失業軍人対策のため軍と文部省が話あい、中学校以上の学校に配属将校が派遣されるようになった。
 つまり、教育が軍事の風上に立った時代であった。

 大阪でも、元来高かった教育熱に拍車がかかり、新設の中学やら高等女学校に最先端の施設や校舎が建てられた。

 つまり、空堀高校の部室棟のような校舎は、他の学校にも建てられていた。
 むろん百年の歳月の中で取り壊されたり手を加えられたり、その文化財的な価値を損なったものがほとんどだが、いくつかの府立高校には空堀並みの状態の良さで残っている。
 
 北浜高校のA号校舎、下寺町高校芸術棟などが、にわかに注目を浴びている……というのはマスコミ的表現。

 創立百年越えの学校は、いわゆるナンバースクールで、二十一世紀の今日でも進学校として名をはせているものが多い。
 それに、卒業生の中には大臣経験者の政治家や経済金融界での著名人も多く、新発見の文化財級校舎保存の声が上げやすい。
 
 北浜高校の声が大きくなってきた。

 卒業生の中には五人の大臣経験者始め百人を超える現役国会議員や地方議員を擁し、それも与野党の枠を超えた広がりを持っている。
 それらが、A号校舎の保存運動に乗り出したのである。
 
 空堀高校は別名『大阪府立庶民高校』である。

 驚くほど卒業生の中に政治的経済的な著名人が居ない。
 伝統的校舎保存の先鞭をつけた空堀高校であったが、北浜高校などの後発組に押され追い越されてしまった。
 
 あおりを食った空堀高校の工事は中断のやむなきに至ってしまった。

「ま、中止いうわけやないから見守ってならしゃーないなあ」
 ミリーの二度目のご注進にため息をつく啓介である。
 ミリーは中止になると思い、この二日余り走り回っていた。
「しかし、ミリーの行動力ってすごいわね」
 須磨も寝っ転がらないで話を聞いている。
「アメリカ領事館までいくんだもんね」
 千歳はミリーが領事館でもらってきた新茶を淹れながらホワホワと感心している。
「でも、ちょっと複雑なのよね……」
 頭の後ろで手を組んで上半身をそらせる。
「ミリーさんの胸カッコいいですね……」
「え、あ、そっかな……」
「どーして、あたしの胸と見比べるんかね」
 須磨は、胸をつぼめてしまう。
「あ、そういうんじゃなくて、気に触ったらごめんなさい」
「思いふける時に、しょぼくれへんいうのはええことちゃうか」
「へへ、そっかな」
「乗せられちゃだめよ。啓介はそうやってミリーのオッパイ鑑賞しようって腹だから」
「ち、ちゃいますよ!」
「見物料とろっかなー」
「ゲホゲホ」
「複雑ってなんですか?」
「んーーー、部室棟の工事が終わったらどーしよーかなーって思ってた自分がいたわけですよ。工事終わったらここにいる意味なくなるでしょ」
「そんなこと考えてたんだ」

 意外に先を考えているミリーに感心する三人であった。

 ミーーンミンミンミン ミーーンミンミンミン

 中庭の蝉が思い出したように鳴きだした。冷房の効いた四階の図書室なので、窓は締め切りのはずなんだけど、思わず窓が開いているのではと目を向けるほどだ。

 そう言えば、夏休みが目前、夏の盛りではあった……。

 

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坂の上のアリスー07ー『これ飲んで元気出そ』

2020-03-02 06:14:48 | 不思議の国のアリス

坂の上のー07ー
『これ飲んで元気出そ』   



 

 美術の授業が終わって、渡り廊下を教室に向かっていた。

 音美書の教室は特別教室棟にまとめられているので、芸術の授業が終わった生徒たちが一斉に本館方向に歩いていく。
「ちょ、すみません、すみません」
 と言いながら流れに逆らってやってくる声が聞こえた。

 ドスン!

 音がしたかと思うと「キャ!」「ウ!」の悲鳴がした。
 どうやら走ってきたのがバカ妹の綾香で、運動オンチの一子にぶつかり、仲良くひっくり返っている。
 こういうばあいでも個性と言うものは出るようで、一子はスカートを押えて品よく倒れているが、綾香は潔く仰向けに倒れ、おっぴらげた足は太ももまで晒されている。「ウ~、ごめんなさい」と言って立ち上がる時には片膝を立てるものだから一瞬スカートの中が御開帳になる。
「なに慌ててんだ」
 一子に謝っていた妹は、この声でやっと兄の存在に気づいた。
「あ、ニイニ!?」
「ガッコじゃニイニって呼ぶな」
「すぴかが居なくなった!」

 そういうことで、俺と高階、綾香、一子で手分けして純花を探すことになった。

 綾香のクラスの前の時間は現代社会。めったに使うことはないが地図帳を持ってくるのが建前になっている。
「ちょっと取って来るわ」
 そう言い残して、すみれは昇降口のロッカーに向かった。
 綾香は『付いていこうか』と思ったが『これくらいのことは……』と思い返してやめたんだと。
 ところが、すぴかは始業のチャイムが鳴っても帰ってこず、とうとう現代社会の時間中戻ってこなかった。

 トイレに寄ったのかもしれない。

 引きこもりを克服したとはいえ、学校に来るようになったのは、ほんの四日前のことだ。授業のプレッシャーは、他の生徒の何倍もあるだろう。
「トイレは、個室まで確認した」
 綾香は主張したが「もう一回見てみよう」という一子の意見で見て回ることになった。
 一子は女子の友だち二人に応援してもらい、俺と高階は空き教室などを見て回る。
 
 でも、すぴかは見つからなかった。

「全部見まわったよ」
 いっしょに探してくれた女子が言った。
「見落としはない?」
「うん」
「あ、職員トイレとかは?」
「生徒は使用禁止だし」
「念のために聞いてみた、業者の人が前の廊下で電気工事してたから」
 一子の友だちだけあって念がいっている。
「あ……購買に寄るんで、前の休み時間に通ったけど、もう工事はやってなかったな」
 高階が呟いて一子が閃いた。
「……もう一度見てくる!」

 ビンゴだった。

 すぴかは、地図帳をとりに一階まで下り、だれも人が入っている気配がない職員トイレに寄った。やっぱ、半端ない緊張だったんだろう。
 用を足して出ようとしたら、前の廊下で電気工事が始まってしまい出るに出られなくなってしまったようだ。
 普通の女子ならなんでもないことなんだろうけどなあ……。

「すぴか、これ飲んで元気出そ」

 綾香が、青くなっているすぴかにトマトジュースを差し出した。

 ゴクゴクゴク……プハーー!

 スイッチを入れたようにすぴかの頬に生気がもどってきた。

 

 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

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ここは世田谷豪徳寺・28《やっと2020年》

2020-03-02 06:04:58 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・28(さつき編)
《やっと2020年》   



 正月明けの休み、島田さんからメールがあった。

――今日東京を発つ。羽田第二旅客ターミナル、12時――


 一方的だなあ……そう思いながら足が向いてしまうから、我ながらよく分からない女だ。
 はっきり言おうとは思っていた「お付き合いはできません」と……。
 あの、大晦日の再会と、強引な交際の申込み、元カノを目の前で切った劇的過ぎるやり方。
 バイトを理由に、その場を離れることで意思表示したつもりだ。あれから一週間以上になる。
 そこに、このメールだ。はっきりさせよう。

「おう、飯食おうぜ!」

 あたしが見つける前に、ゲート前に手と声の両方があがった。
 あたしも、朝はトースト一枚だったので、フテた顔をしながらも九州ラーメンの店に入った。
 ズルズル~! ツルツル~!の合唱が店の中に満ちていた。
 その合唱に加わると、胸の中にあったものがラーメンといっしょにお腹の中に暖かく収まっていくのが不思議だ。

「腹が減ってると、何でもないことに腹が立ってしまうもんだからな」
「で、どこか旅行でもいくんですか?」
 つっけんどんに言うのに苦労した。ロケーションは二軒目のカフェになっている。
「せっかく暖まったんだから、暖かい話をしようぜ」
「沖縄にでもいくんですか?」
 そう言わしむるに十分に気楽な格好だったし、キャリーバッグはパンパンだった。
「大阪に引っ越すんだ。大きな荷物は先に送ったけど、細かいの案外かさばるのな」
「え……?」
「早稲田の演劇は、どうもオレには合わない。で、大阪の畿内大学の演劇科に鞍替え」
「こんなハンパな時期に?」
「ハンパじゃないぜ、いいタイミング。子年の正月なんて、十二年に一度しかないからな」
 真面目な物言いに思わず頬が緩んでしまう。
「そう、その力のある笑顔に、オレは惚れたんだ」
 直截な言い方に、思わずコーヒーを吹き出してしまうところだった。
「さつきってさ」
「はい?」
「あの時、分かってなかったんじゃね?」
「え、いつ?」
「ほら、中央大会のあとマックで、さつき向きの本紹介したじゃんよ」
「覚えてます。ちゃんとメモとってたから」
「最後に勧めた本覚えてる?」
「えと……」
「ああ、やっぱ通じてなかった!」

 横の、多分婚約中と思われるカップルが立ち上がって思い出した。

「チェーホフの『結婚の申込み』!」
「タイトルだけだろう」
「だって、男が二人も出てくるんだもん。うちの帝都じゃ難しいと思って、あれはメモしてなかったから」
「だからさ、結婚のだいぶ手前で、付き合ってみないかってナゾがかけてあるんだぜ」
「ええ、そんなの分からないって!」
「オレは、あれで脈無しって諦めたんだぜ!」

 幼い青春のすれ違いを再認識した。

 その後、彼は早稲田の演劇科に。あたしは東都の文学部に。で、それっきり。
「本屋で見つけたときは運命だと思った。大阪行きも決まってたし。腐れ縁の彼女と縁切るのにも困ってたとこだし」
「あ……彼女は?」
 一番気に掛かっていることを聞いた。
「あいつは、オレが一番惨めなカタチで縁が切れるようにシナリオ練ってたんだ。あの日は初詣で偶然を装って、オレを一気に元カレの地位にけ落とすつもりだったんだよ」
「どうして、知ってんの?」
「だって、相手の男から聞いてたから」

 どうも彼は、あたしなんかより、ずっと不思議で大人の世界にいるらしい。

 二時、彼を乗せた大阪行きが飛んでいった。小さくなって視界没になるまで見ていた。
「……あたし、敬語使わなくなってたな。で、なんで見えなくなるまで見てんだろ」

 身震い一つしてモノレールに乗った。あたしの2020年がやっとはじまった。

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