大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・140『戦い済んで神田明神』

2020-03-26 15:28:08 | 小説

ライトノベル 魔法少女マヂカ・140

『戦い済んで神田明神』語り手:マヂカ    

 

 

 三段重ねの重箱に一杯のジャーマンポテトを、わたしと友里で二つぶら下げて神田明神を目指している。

 

 ダークメイドこそは取り逃がしたけれど、黄泉の女王イザナミを滅ぼすと言う殊勲を挙げて、久々に大塚台公園の基地に凱旋した。

 M資金の回収もままならない特務師団なので、十分な報酬などは期待していなかった。

 だけど、褒美が山盛りの新じゃがだとは思いもしなかった。こんなもの、近所のスーパーでも一盛り110円で売っている。

「一つ頼みがあるんだ」

 しぶしぶジャガイモを持って帰ろうとしたら、来栖司令が頭を掻いた。

「このジャガイモでジャーマンポテトを作って神田明神に行ってくれないか」

「なぜ?」

 ついぞんざいな聞き方をしてしまったが、司令は咎めることもなく説明してくれた。

「折り入っての頼みがあるらしい。知っての通り、特務師団が抱えている問題は数が多い」

 それは分かっている。

 M資金の回収も完全には程遠いし、バルチック魔法艦隊との対決も痛み分けになっている。カオスはサムが亡命のようなかたちで、こちらに混じって、今では仲間同然だが、カオス本体とはただの休戦状態だ。

 その上、神田明神からの頼みなど、正直請けきれない。

 そもそも、東京総鎮守の神田明神が、もう少ししっかりしてくれていたら……いや、愚痴は言うまい。先の大戦までの苦労を思えば、今の状況はまだまだましなのだからな。

 

 学校の調理室で久々の調理研。

 

 ブリンダとサムも加わって、出来あがったころには、聞きつけてきたミケニャンも加わって、試食会は同窓会のように楽しく過ごせた。

 まあ、三割くらいは司令を許してやる。司令も防衛省との間に入って苦しい立場ではあるんだからな。

 重箱に詰め終わったところで連絡があった。

『いつもの転送室は使わないで電車で行って欲しい』

「え、どうして!?」

『東京の魔界ゲージが上がって、転送室を使うとどこへ飛んでしまうか分からないんだ。人員も指定されてきた。マヂカと友里の二名で行ってくれ』

 というわけで、アキバの駅から神田明神を目指して歩いているのだ。

 中央通の信号で引っかかる。

 駅を出たところから信号のタイミングを計って歩いてきたのだが、友里と愚痴をこぼしながらだったせいか、いきなりの赤信号に、戸惑った。

「ごめん、わたしがチンタラ歩いてたから」

「いいさ、すぐに青になる」

 そこで友里のスマホが鳴った。ちょっとおたついたが、重箱を引き受けてやると、片手でゴメンしながらポケットをまさぐった。

「あ、司令からだ……はい、もしもし……え、ああ、そうなんですか」

「なんて言ってる?」

「神田明神からの連絡で、湯島の聖堂側の正面から入ってくれって」

「遠回りじゃないか」

 アキバから神田明神に行くには、明神男坂から行くのが早い。三段重ねの重箱をぶら下げての遠回りはゲンナリだ。

「まあ、あっちの方が正面玄関だからかなあ」

 素直な友里は、スマホをポケットに入れながら、もうその気になっている。

 まあ、神田明神にも都合があるんだろう、大人しく信号の変わった中央通を渡った。

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・81「捨てる神あれば拾う神あり」

2020-03-26 06:18:27 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)81

『捨てる神あれば拾う神あり』   



 小泉八雲を知っているかい?

 ラフカディオ・ハーンというのが元の名前で、明治時代に日本に帰化したアイルランド系イギリス人さ。

『怪談奇談』というのを書いている。

 日本人の奥さんにせがんで聞いた昔話を英語に翻訳したものだ。
 有名な『耳なし芳一』は、あの中に出てくる一つのエピソードなんだよ。
 ボクはミラー先生の『日本文化』で習ったよ。
 キャシーも『宗教論』をとっていたから、ひょっとして聞いているかもしれないね。

『怪談奇談』に出てくる幽霊とか化け物やモンスターは、日本が多神教だから成立するんだ。
 幽霊も化け物もモンスターも神さまの一種さ。
 アイルランド風に言えばトロルとかエルフとかドワーフだね。ざっくり言えばティンカーベルとかの妖精やピーターパンもこの中に入ってしまう。元々はヨーロッパのどこにでもいた神さまだった。
 そうそう、キャシーが絶賛していた『となりのトトロ』はトロルのことなんだよね。めいもさつきも小さいころに読んだから「トトロ」って訛ってしまったんだよね。
 こういう神々はキリスト教が浸透してくるに従って森や山の奥に追いやられて妖精やらモンスターに変わっていった。アイルランドには、こういう落剝した神さまが残っていて、ハーンは子どものころに聞かされたまま心に残っていたんだよね。
 たとえば、人の悪口を言うと「妖精が聞いてるよ、告げ口されたくなかったら悪口はよしなさい」とお祖母ちゃんに言われた。

 その落剝した神さまが日本では生きているんだ。

 ハーンが住んでいた島根は、その日本の中でも神さまたちのメッカなんだ。
 日本は十月のことを神無月というんだ。つまり、神さまたちが居なくなってしまう月だという意味。
 で、神さまたちは島根の出雲大社に集まるんだぜ。知らなっかろ?
 だから、島根だけは十月のことを神有月(かみありづき)って言うんだ。
 とてもファンタスティックだろ!?

 なんで、こんなことを書いたかというと、ボクも神さまを実感したからなんだ!

 ホームステイ先のタナカさんちが火事になって、行き場所が無いって書いたよね。
 訪日そうそうの不幸にガックリきたよ。
 でもね、三日目には代わりのホームステイ先が決まったんだ!

 日本語でこういうのを「捨てる神あれば拾う神あり」って言うんだ。

 そう、だから、改めて日本は神々の国なんだと思ったわけさ。
 小泉八雲の気持ちがよく分かるよ。

 そして、日本の「拾う神」は偉大だよ!

 なんと、新しいホームステイ先は美晴の家だったんだ!

 思い通り美晴と同じ空堀高校に留学できて、でも、美晴の方が学年が上なもんで、同じ学校に居ても口を利くどころか、一週間顔も見ないときだってあるんだぜ! ボクのバディーに指名されたのもシカゴのミリーで、ミリーはよくやってくれるけど、よくやってくれればくれるほど美晴との接点が無くなっていく。
 そんなパラダイスの門の前で足止めを食ったような状況。

 それが一気に解消、なんと美晴と同じ屋根の下で暮らせるんだ!

 本当に「捨てる神あれば拾う神あり」だよ!
 次は、美晴が副会長をやっている生徒会に潜り込むこと!

 元々、美晴とは生徒会の世界高校生生徒会会議が縁だったんだからね、いっしょに生徒会をやるのが自然だろ?

 じゃね。

 スクールポリスについては、次の手紙で書くよ。


  親愛なるキャシーへ    ミッキー・ドナルド

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坂の上のアリスー31ー『キタアアアアアアアアアアアア!!』

2020-03-26 06:08:54 | 不思議の国のアリス

坂の上のー31ー
『キタアアアアアアアアアアアア!!』   


 

 

 カラン!カラン!カラン!カラーン!!

 リアルでこの音を聞くのは初めてだ!

 なんの音かと言うと、日本橋商店会の福引で一等賞が当たって、打ち鳴らされた鐘の音なんだ!
 ゲームとかアニメで、たまに出てくる。大昔の学校で授業の終わりとかを告げる鐘。今で言えば「キンコンカンコン」のチャイムの音!
 間近で振られると、想定以上の音圧を感じる。

「おめでとうございま~す! 一等ハワイ旅行の当選で~す!!」

 鐘を振りながらアニメ声で、オネーサンが絶叫する。
 このオネーサン、きっと声優だけでは食えないのでバイトなんだろうなあと思う。それもモブ専門、本業では常にその他大勢なので、こういうリアルな場所で張り切ってしまった。そんな感じ。

 居合わせたお客さんや通行人の人たちも祝福の拍手をしてくれる。俺たちも嬉しく、顔をほころばせて拍手してしまう。

「一等賞なんかとってしまって……」

 一等賞をとったすぴかひとりがドヨ~ンと暗い。ボソリと呟いた声はノリのいいスタッフとオーディエンスの歓声でかき消される。
 こういうシュチエーションでの大阪のノリは、多少のドヨーンなど吹き飛ばしてしまう。

「どうする、もっかい福引やってみるか?」

 抽選会場を出て、ドヨ~ンが際立ったすぴかに寄り添ってみた。
「いいえ、もういいわ。運気をコントロールできていないから……それに大阪蛮族どもの暑苦しさが……」
「そっか」
 俺たちも福引券をゲットするために、さして要らないものを買い込んだ末の一等賞のハワイ旅行が当たったんだ。狙いが二等賞のリリシャスフェアリーのフィギュアであったとは言え、やっぱ一等が当たったんだから、正直嬉しくて、ドンヨリのすぴかは一人浮いてしまう。

「呪われてあれ……クソ大阪……」

 静かにではあるが、オドロオドロの怨念の籠った声は意外に周囲に聞こえる。ご通行中の大阪の人たちは、そんなすぴかを歩くウンコみたいに避けていく。綾香は嫌がる風もなくすぴかに寄り添って歩く。妹ながら偉い奴だ。

 いつの間にか日傘をさした女子高生が前を歩いている。

 日傘の下にはお下げが覗いていて、清潔な白が際立つセーラー服の襟をワイプしている。スカートは膝上10センチほどの適度さ、スカートから伸びる白ハイソの脚はしなやかで贅肉が無く、その姿勢の良さと相まって、とても魅力的に見える。
――ヘエー……こんな子がいるなんて、大阪もあなどれないなあ――
 新大阪の立ち食いうどんの店以来の感想を持った。

 だが、違和感……向こうから歩いてくる通行人の人たちがギョッとしたような顔で避けていく。

 あいかわらずすぴかが避けられているのかと思ったが、ちょっと違う。

 交差点の信号が赤になって、みんなが立ち止まる。その女子高生は最前列になって、ヒョイとクロスしている側の信号を見上げた。

 びっくりした!

 その女子高生の横顔は残念すぎた! 瞬間は「それほど可愛くない」という程度なんだけど、頭にかぶっている物を取って汗を拭いたところで「びっくりした!」はマックスになった。
 
 キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 

 その子は、なんと禿げ頭……じゃなくて、禿げ頭のオッサンだった! 

 これは引くわ~~~~!

 だが、次の瞬間、マックスを突き抜けてしまった!

「あ、安倍さんじゃないの!?」

 すぴかが、ドヨ~ン顔をいっぺんにほころばせ、チョー親し気に声を掛けたではないか!

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

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ここは世田谷豪徳寺・52《半日留学》

2020-03-26 05:57:00 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・52
《半日留学》   



 

 コップの氷がコトリとでんぐり返り、それが合図だったように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」


「カット!」

 ああ、これで四度目のNGだあ!

 大阪弁は、方言指導の先生も入ってくださって「完ぺき」のお墨付きをいただいたが、雰囲気が大阪の高校生ではないという難しいダメだった。監督やら、原作者が、何か相談している。身の縮む思いだ。

「由香のシーンは、明日まとめ撮りします。さくらちゃんは、ちょっと大阪のお勉強しましょう」
「すみません」
 あたしは頭を下げるしかなかった。

「まあ、ゆっくり大阪を楽しんできて」

 はるかさんの慰めの言葉をあとに、あたしは、マネージャーと大橋先生に連れられて、タクシーに乗り込んだ。
 こりゃ、心斎橋とか道頓堀とか、コテコテの大阪の街の探訪かと思った。
 しかし、着いた先は、タクシーで十分ほどの府立高校だった。

「大阪グローバリズムハイスクール。略称OGH。名前はハイカラやけど、大阪では標準的な高校」

 と、一言だけ説明を受けて応接室に通された。いかつい顔の先生がいた。
「2年3組の担任の岩田です。四時間目から入ってもらう準備ができてます。制服は11号でいけるでしょ。これです」
「じゃ、さくら。隣の部屋で着替えて」
 なんだか分からないうちに、あたしは他の生徒と同じナリにさせられた。
「うーん、やっぱり、大阪の……少なくとも、うちの生徒には見えまへんなあ」
 着替えたあたしを見て、岩田という先生が言った。
「まあ、とにかく教室入ってもらいますかぁ」
「お願いします」
 

 あたしは休み時間が終わろうとしている校内を2年3組の教室に案内された。

 廊下で出会う生徒がチラ見していく。あたしも目の端で生徒を見る。どことは言えないけど、あたしの学校とは様子が違う。公立と私学、女子高と共学校の違いを超えた、なにか根本的なところが違う……としか言えない。

「みんな、注目。急な話やけど、4時間目から放課後まで、特別転校生が入ります。佐倉さくらさん。数時間の付き合いやけど、みんな、よろしくな。ほんなら佐倉さん。挨拶を」
 この時点で、何人かには正体がばれていた。「えー!?」「いま売り出し中の!?」「さくらちゃん、ちゃうん!?」など、教室がかまびすしくなってきた。
「えと、もう正体ばれてるみたいですけど。佐倉さくらです。いま『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の撮影で大阪に来てます。大阪の高校生の役なんですけど、どうも大阪の匂いがしないってことで、半日みなさんに教えてもらうことになりました。なにをするのか、あたしにもよく分かってないんですけど、よろしくお願いします」

 拍手と歓声が上がった。クラスのみんなが吉本なんじゃないかってぐらい、ノリがいい。

「一応、お世話係決めとくわな……」
 先生が言い終わらないうちにスズメの子がぴーちく言うように手が上がった。
「じゃかましい! オレが指名する。佐藤、お前がお世話係。出席番号も、お前の前やし、演劇部やさかい、ちょうどやろ」
「任務は虫除けですね」
「その通り」
「ラジャー!」

 まだ学年が始まって間がないんだろうけど、先生と生徒は阿吽の呼吸のようだ。簡単にいうとツーカーの仲。

 あたしの世話係というのは、佐藤明日香という子で、偶然にもはるかの住んでいた高安に家がある。で、放課後は佐藤さんの家に泊めてもらうことが急に決まった。教科書やノートもあっという間に一人前がそろった。
 授業の始まりからタマゲタ。国語の授業だったけど、先生のノリがいいのか、これが普通なのか、みんなで写真を撮るところから始まった。クラスのみんなとは、顔を合わせて十分ほどしかたっていなかったけど、もう入学以来の知り合いのノリ。男女を問わず距離を詰めてくる。もう、なんだかモミクチャのうちに何百枚という写真が撮られた。

「ほんなら授業!」の声で、みんなは一応席につくけど、ざわつきは収まらない。

「佐倉さんの出てた『限界のゼロ』やけど、あの『覚悟はできていますか』いう佐倉さんの一言で映画が締まった。あれはアドリブやそうで……せやな、佐倉さん?」
「あ、まあ……」
 また話のサカナにされるのかと思うと、ちょっとやな気がした。
「人生において大事なことが、ここにあります。臨機応変ちゅうか空気を読むいうこと。それが佐倉さんにはできる。で、こうやって女優をやってる。で、その佐倉さんをもってしてもどないにもならんのが、大阪の空気や!」
 どっと笑いがおこる。
「その空気が読めたんが兼好法師。教科書41ページ。『仁和寺の法師』佐藤読んでみて」
「はい」
 バラエティー並に段取りがいい。みんなを程よくのせておいて、いわゆる「つかみ」をしっかりやり、動機付けもちゃっかりやって授業に入る。で、ノリの流れがいいと、みんなも素直に授業に入っていく。

 ちょっとだけだけど、大阪が分かったような気がした。

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