ライトノベル 魔法少女マヂカ・140
三段重ねの重箱に一杯のジャーマンポテトを、わたしと友里で二つぶら下げて神田明神を目指している。
ダークメイドこそは取り逃がしたけれど、黄泉の女王イザナミを滅ぼすと言う殊勲を挙げて、久々に大塚台公園の基地に凱旋した。
M資金の回収もままならない特務師団なので、十分な報酬などは期待していなかった。
だけど、褒美が山盛りの新じゃがだとは思いもしなかった。こんなもの、近所のスーパーでも一盛り110円で売っている。
「一つ頼みがあるんだ」
しぶしぶジャガイモを持って帰ろうとしたら、来栖司令が頭を掻いた。
「このジャガイモでジャーマンポテトを作って神田明神に行ってくれないか」
「なぜ?」
ついぞんざいな聞き方をしてしまったが、司令は咎めることもなく説明してくれた。
「折り入っての頼みがあるらしい。知っての通り、特務師団が抱えている問題は数が多い」
それは分かっている。
M資金の回収も完全には程遠いし、バルチック魔法艦隊との対決も痛み分けになっている。カオスはサムが亡命のようなかたちで、こちらに混じって、今では仲間同然だが、カオス本体とはただの休戦状態だ。
その上、神田明神からの頼みなど、正直請けきれない。
そもそも、東京総鎮守の神田明神が、もう少ししっかりしてくれていたら……いや、愚痴は言うまい。先の大戦までの苦労を思えば、今の状況はまだまだましなのだからな。
学校の調理室で久々の調理研。
ブリンダとサムも加わって、出来あがったころには、聞きつけてきたミケニャンも加わって、試食会は同窓会のように楽しく過ごせた。
まあ、三割くらいは司令を許してやる。司令も防衛省との間に入って苦しい立場ではあるんだからな。
重箱に詰め終わったところで連絡があった。
『いつもの転送室は使わないで電車で行って欲しい』
「え、どうして!?」
『東京の魔界ゲージが上がって、転送室を使うとどこへ飛んでしまうか分からないんだ。人員も指定されてきた。マヂカと友里の二名で行ってくれ』
というわけで、アキバの駅から神田明神を目指して歩いているのだ。
中央通の信号で引っかかる。
駅を出たところから信号のタイミングを計って歩いてきたのだが、友里と愚痴をこぼしながらだったせいか、いきなりの赤信号に、戸惑った。
「ごめん、わたしがチンタラ歩いてたから」
「いいさ、すぐに青になる」
そこで友里のスマホが鳴った。ちょっとおたついたが、重箱を引き受けてやると、片手でゴメンしながらポケットをまさぐった。
「あ、司令からだ……はい、もしもし……え、ああ、そうなんですか」
「なんて言ってる?」
「神田明神からの連絡で、湯島の聖堂側の正面から入ってくれって」
「遠回りじゃないか」
アキバから神田明神に行くには、明神男坂から行くのが早い。三段重ねの重箱をぶら下げての遠回りはゲンナリだ。
「まあ、あっちの方が正面玄関だからかなあ」
素直な友里は、スマホをポケットに入れながら、もうその気になっている。
まあ、神田明神にも都合があるんだろう、大人しく信号の変わった中央通を渡った。