大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・78「キャシーへの手紙・2」

2020-03-23 06:58:36 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)78

『キャシーへの手紙・2』   



 北朝鮮の核ミサイルかと思ったよ。

 知ってるかなあ、核ミサイルというのは地上に激突しなくても、はるか上空で炸裂しただけで大きな被害をもたらすんだ。
 炸裂で途方もない量の電磁パルスが放射され、地上のありとあらゆる電気で機能するものを狂わせるんだ。
 50年代に、アメリカがハワイの上空で核爆弾を炸裂させた。もちろん実験でね。
 まだ、核エネルギーがどんなもんだか分かっていない時代で、ハワイの人間は特製花火を観るような感覚で海岸やら山の上でサングラスをかけて待っていた。
 時間になると、一瞬空の一角が光った、核爆弾が炸裂したんだ。
 思ったほどの輝きじゃないんで、見物人たちは、そんなに歓声はあげなかった。

 でも、次の瞬間、ハワイの空に壮大なオーロラが出現した。

 これには、みんな喜んで、こんな奇跡を起こす核爆弾と、それを作れるアメリカの力を誇らしく思ったんだ。
 その様子は、今でもYouTubeで見られるけどね。だれもがアメリカを偉大で誇らしい国と思ってる、ちょっと今の僕たちでは引いてしまうくらいのオポチュニズム。
 歓声が止むと、あちこちから一斉に電話のベルが鳴りだした。
 みんな、なんの冗談かと思ったけど、それでも大したことじゃないと思ってた。
 30年代にさ、オーソンウェルズが『火星人来襲』ってラジオドラマをやって、本当だと思った人たちがパニックになったって、ケリ-先生の『マスコミ概論』で習ったよね。みんな、あれが頭にあったんで、きっとそう言うことだろうって騒がなかった。
 でも、その後、鳴りっぱなしの電話が故障し、ラジオもぶっ壊れて、やっと大変な事態になったと思い知るんだ。
 で、それと同じ理屈でハワイのラジオも電話も故障してしまい、あちこち停電になって、冷蔵庫はただの箱になった。
 まだネットもパソコンも無い時代だったっから、それで済んだけど、成層圏での核爆発の恐ろしさを知るには十分だった。

 で、それが起こったと思ったんだよ。

 でも、それは単にスマホの電池がエンプティーになっただけというのが、周囲の状況で分かった。
 街はにぎやかだし、みんな平気でスマホを使ってるし。
 それで、僕は十三(jyuusou)という街で深刻な孤独に襲われた。
 スマホがダメになっただけで、外部世界の情報がまるで得られなくなった。グーグルマップもナビも翻訳機能もみんな使えない。
 
 あ、そうなんだ、ここは大阪市の北の十三って街。
 
 世界中で数字がそのまま街の名前になってるところなんて、ちょっと思いつかない。
 それも13なんだ。キリスト教国じゃ、ぜったいあり得ないネーミングだ!
 この街に足を向けたのは、学校の階段がほとんど13段だということに気づいて、それを調べる延長線上のことなんだ。
 
 それでどうしたかというと、生徒手帳……これも、クールなんだけど、それはまたいずれということで。
 生徒手帳にメモってた二人に電話したんだ。公衆電話を探しまくってね。

 こんなことでミハルを呼び出したくなかったけど、仕方がないよね。

 ミハルも、ボクの現在位置に着くのには苦労した。
 だって、ボクの居る座標がナビでは分からないんだもんね。
 それに、あとで分かったんだけど、ボクが迷子になったところは三年前の大火事で街の様子が一変してナビの更新が間に合ってないところだったんだよ。
 火災とかの影響は、街が復興しても尾を引くんだよね。火の用心を心がけよう。

 で、その火の用心も間に合わなかった。

 ボクは、この手紙をホテルで書いているんだ。

 なぜかと言うと、ボクがホームステイしていた田中さんの家が火事で焼けてしまったんだ。

 田中さんの家は十三じゃないんだけどね。ボクが好奇心だけで十三に足を踏み入れたタタリ?

 大阪市の担当の人が代わりのホームステイ先を探してくれている。
 まだ、ミハルとロクに口もきいていない。こんなのでシスコに帰るわけにはいかないからね。

 じゃ、また手紙書くよ。   親愛なるキャシーへ

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坂の上のアリスー28ー『リリシャスフェアリー』

2020-03-23 06:42:41 | 不思議の国のアリス

坂の上のー28ー
『リリシャスフェアリー』   



 

 けっきょく日本橋に行くことになった。

 日本橋は、東京で言えばアキバだ。電器とオタクの街。

 東京では日本橋と書いて「にほんばし」と読むが、大阪では「にっぽんばし」と発音する。
 ちょっと違和感だけど「にっぽんばし」と発音した方が勢いが出る。そうだろ、サッカーとかバレーとかで観客が応援するとき「にほん! チャチャチャ!」では空気が漏れたようで勢いが出ない。「にっぽん!チャチャチャ!」だろう。

「ふん、そんな下卑た力の入れ方じゃ聖天使には似つかわしくないわ」

 箱根から西に行ったことが無い聖天使ガブリエルこと夢里すぴかはレースのヒラヒラ袖を翻しながら悪口を言う。
 ちなみにすぴかと綾香は白黒色違いのゴスロリファッションに、ご丁寧に天使の羽まで付けている。
「よくそんななりで汗かかないな?」
 真治がスポーツドリンクを飲みながら、で、飲んでいるのと同量の汗を流しながら呆れている。
「ホホホ、わたしをなんだと思っているの。聖天使よ。体も心がけも違うのよ」
 よく見ると、わが妹の綾香も黒のゴスロリで汗をかいていない。
「いつもならタンクトップでも汗みずくなのに……」
「心がけがちがうのよ」
 ジロッと睨みながら言う、白と黒の違いはあるがすぴかと同じノリだ。一見小憎らしいが、生まれてこのかた兄妹をやっているので、すぴかに合わせてやっているのが分かる。偉いよ、おまえの外面は。

「日本橋には呪いがかかっているのよ」

 一子までがへんなことを言う。

「地下鉄日本橋で降りると、めったなことではたどり着けないのよ」
「え、そうなのか?」
「ええ、現に、わたしたちが下りたのは恵美須町だったわ」
「ム~、その割に聖地としては二線級ね」
 たしかに日本橋は堺筋という大通りに面した一本道と、せいぜいその裏通り。アキバのような厚さはないような気がする。
「あ、でもやっぱり呪いの街かも……見て、五階百貨店と書いてあるのに平屋だわ」
「大阪の蛮族には五階に見えるのかしら……」
 大阪にケンカを売ってるのかというようなことを言う。

 大手のヨドバシカメラは検索すると梅田にある。ソフマップもアキバよりも小規模だ。ラジオ会館のようなオタクの総合デパートのようなところもない。すぴかの目は蔑みの混じった力みから失望に変わってきた。

 やっぱ、この暑さでゴスロリは大変だろう。

 が、福引会場の前ですぴかの目の色が変わった。

「あ、あ、あ……あれを見てよ!」

 すぴかが指差した先には福引の商品……で、さらに指先を見ると、その指は一等のハワイ旅行ではなく二等のフィギュアに向けられていた。

「ほ、欲しい……リリシャスフェアリー!」

 俺たちは、福引をひくために思わぬ買い物をすることになってしまった。


 

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・49《勢いで頷いてしまった》

2020-03-23 06:33:33 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・49(さくら編)
《勢いで頷いてしまった》   



 ワケてん7の台本がきた。

 正確には『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という。

 坂東はるかさんの高校時代、ドラマチックな青春の7カ月を描いた前評判十分な小説の実写版。
 四月の下旬には本屋さんの店頭に並ぶ本なんだけど、前評判が高いので、夏に封切りの予定で映画化することになり、はるかさんの推薦で、あたしは、はるかの親友・鈴木由香の役を頂いた。

「今度、ワケてん7の実写版やるんだけど、さくらちゃん、出てくれないかな」

 まるで、ちょっとコンビニにお使いに行くような気楽さでお花見の最中に言われた。
「あ、はい」
 と、軽く返事した。正直頭の中は花より団子で、このあとどこでお昼にしようかと思案中だった。
「……え、『ワケてん』映画化するんですか!?」
「うん、ちょっとハズイんだけどね。ちょっとピュアな青春映画……大昔の日活青春ドラマじゃあるまいし……とは思ったんだけどね……けどね」
「『けどね』が多いですね」
「だって、自分が主人公の映画だよ。正直不安。で、キャストの一部を、わたしが選んで良いって条件で引き受けた」

 この時点では、舞い散る桜の花びらみたいにエキストラに毛が生えたような役だと思っていた。

 多分、東亜美と、住野綾とかの、はるかのイジメ役。ラストで和解して、ちょっと仲良くなる。その程度の役だと思っていた。
「親友の鈴木由香をやってもらいたいの」
「ギョエー!」
「ハハ、ギョエーは、わたしよ。わたしの、あの7カ月は、今時めずらしいピュアなお話らしいのよ」
 そう言って、はるかさんは、まわりに一杯いる家族連れに目をやった。
「みんな仲の良い家族に見えてるけど、家族の絆って、案外もろいんだよね。高校生のころのわたしは気づかなかった。それだけの話なんだけどね」

 それだけなんてもんじゃない。

 あたしは原作になった『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでいるから分かっている。
 元は成城にお家があるIT関連会社の社長の一人娘。それが会社の倒産で、実家の南千住にある従業員三人の印刷会社の名ばかり専務の……要は下町の女の子。そして、高校二年になったばかりで両親が離婚して大阪へお母さんといっしょに引っ越し。そこから、さらに苦労が……そこまで思い出していると、はるかさんが、まるで後を続けるように言った。
「わたし、時間と努力があれば家族って、取り戻せると思ってた。だから、お金貯めたり借りたりして南千住にもどったら、お父さんには秀美さんて、新しい奥さんがいた……」
「あの荒川の河川敷で大泣きするシーン、感動的でした!」
「あそこ一番ハズイの。普通の子だったら、親が別れたら、『あ、そう』てなもんらしいのよね」
「でも、あれがあったから、みんなの絆が強まったんじゃないですか」
「結果的にはね。わたしは、そんな自覚なんにも無かったけど」

 で、あたしは、核心に入った。

「だからこそ、今時貴重な愛の物語に……鈴木由香って、それに大きな影響あたえるんですよね?」
「そうよ。カレはもってかれちゃうし、シバキ倒して、わたし停学になっちゃうし。でも、心の友なのよね」
「あれって、カレの吉川裕也をシバキ倒そうとしたら、由香が間に入って、シバカれるんですよね」
「うん、あの痛みは今でも覚えてる」
「は……?」
「シバイた人間も痛いんだよ……ま、この役はさくらちゃんじゃなきゃ務まらないからよろしくね!」
「は、はい」

 勢いで頷いてしまった。

「ああ、お腹空いてきた。お昼にしようか!」
「はい、ちょっと適当なお店検索してみますね」
 スマホ出してスイッチ入れたら、はるかさんが、その手をさえぎった。
「お昼は手配済みだから」

 公園の向こうから、お弁当のデリバリーのオニイサンがやってきた。

 ま、こんな調子でハメられたと言っていい。由香の役は正直重い。
 なんたって、全編大阪弁。

 なのよね!

 それに、明日からは高校二年生。あたし自身将来のこと真剣に考えなきゃ。

 あたしは、まだ女優を専業にする覚悟はできていなかった。

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