ジジ・ラモローゾ:023
二日現れないのでまぼろしだと思った。
ほら、パン屋さんから出たところで現れたチビ忍者。
そいつがまた現れた。寝返りを打って、うすぼんやりと目を開けたら居たんだ。
『いつまで寝ている』
「……………………」
ベッドと机の間に据えてある座卓の上。名刺くらいの座卓をを前にして、お茶をすすってる。
座卓の横には布団が積んであって、反対側には、まだ解いていない荷物がある。
なんだか、住み着く気まんまんに見える。
『ここを居所とするから、よろしくな。それから、こいつではないぞ。名を教えただろう』
「えと……おつね?」
『おづねだ』
「あ、でも、そこは困るよ。ごはん食べたり本広げたりとか……」
『床の上ではジジに踏みつぶされそうだ。見下ろされるのも嫌だしな。ここなら、ジジと目の高さで付き合える』
「付き合うなんて決めてない!」
『もう契りを結んだ』
「ち、契りってなによ!」
『五円くれたではないか』
「あ、あんたが勝手に持って行ったんだよ!」
『ジジにその気が無ければ、五円玉はワシのところにはこないのだ』
「そんなあ」
『観念しろ。忍びの谷にやってきたことそのものが、縁の始まりなのだからな』
「あれは事故……」
『その昔、ご公儀には千人同心というのがあってな』
気いちゃいねえ……。
『中山道が武蔵の国に入ったところに西への守りとして配置されて居った。その千人同心どもが守り神として祀ったのが、このワシだ』
「え、神さまなの?」
『忍びじゃ。言っただろ、ワシの名はおづねじゃと。真名で書けば、こうだ』
おづねが手を動かすと、空中に『小角』の字が浮かび上がった。
「しょうかく?」
『おづねと読む。役小角(えんのおづぬ)とも役行者(えんのぎょうじゃ)とも呼ばれて居る。念ずれば雲を呼び空を飛翔することもできて、修験道や忍者の創始として祀られて居る」
「忍者の神さま?」
『そう思ってもいいが、基本は忍者だ』
「えと……どうして、そんなに小さいの?」
『小さい方が可愛いだろ。場所もとらないしな』
「あ、でも、座卓の上って使うよ」
『マンガを読んだりノーパソを使ったり間食をしたり、体に良くないことばかりだろが』
「あたしの勝手でしょ!」
『怒るな、よけいブスになる』
「もお!」
『ボタンが外れてる』
「え!?」
パジャマのボタン目を落としている隙におづねは居なくなった。
窓が少し開いている。
「もう!」
ピシャリと閉める。瞬間風の匂い……それまでは二度寝をしようと思っていたけど、思わぬ早起きをしてしまった。