大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:023『座卓の上』

2020-03-24 13:30:49 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:023

『座卓の上』  

 

 

 

 二日現れないのでまぼろしだと思った。

 

 ほら、パン屋さんから出たところで現れたチビ忍者。

 そいつがまた現れた。寝返りを打って、うすぼんやりと目を開けたら居たんだ。

『いつまで寝ている』

「……………………」

 ベッドと机の間に据えてある座卓の上。名刺くらいの座卓をを前にして、お茶をすすってる。

 座卓の横には布団が積んであって、反対側には、まだ解いていない荷物がある。

 なんだか、住み着く気まんまんに見える。

『ここを居所とするから、よろしくな。それから、こいつではないぞ。名を教えただろう』

「えと……おつね?」

『おづねだ』

「あ、でも、そこは困るよ。ごはん食べたり本広げたりとか……」

『床の上ではジジに踏みつぶされそうだ。見下ろされるのも嫌だしな。ここなら、ジジと目の高さで付き合える』

「付き合うなんて決めてない!」

『もう契りを結んだ』

「ち、契りってなによ!」

『五円くれたではないか』

「あ、あんたが勝手に持って行ったんだよ!」

『ジジにその気が無ければ、五円玉はワシのところにはこないのだ』

「そんなあ」

『観念しろ。忍びの谷にやってきたことそのものが、縁の始まりなのだからな』

「あれは事故……」

『その昔、ご公儀には千人同心というのがあってな』

 気いちゃいねえ……。

『中山道が武蔵の国に入ったところに西への守りとして配置されて居った。その千人同心どもが守り神として祀ったのが、このワシだ』

「え、神さまなの?」

『忍びじゃ。言っただろ、ワシの名はおづねじゃと。真名で書けば、こうだ』

 おづねが手を動かすと、空中に『小角』の字が浮かび上がった。

「しょうかく?」

『おづねと読む。役小角(えんのおづぬ)とも役行者(えんのぎょうじゃ)とも呼ばれて居る。念ずれば雲を呼び空を飛翔することもできて、修験道や忍者の創始として祀られて居る」

「忍者の神さま?」

『そう思ってもいいが、基本は忍者だ』

「えと……どうして、そんなに小さいの?」

『小さい方が可愛いだろ。場所もとらないしな』

「あ、でも、座卓の上って使うよ」

『マンガを読んだりノーパソを使ったり間食をしたり、体に良くないことばかりだろが』

「あたしの勝手でしょ!」

『怒るな、よけいブスになる』

「もお!」

『ボタンが外れてる』

「え!?」

 パジャマのボタン目を落としている隙におづねは居なくなった。

 窓が少し開いている。

「もう!」

 ピシャリと閉める。瞬間風の匂い……それまでは二度寝をしようと思っていたけど、思わぬ早起きをしてしまった。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・79「ゲ、なんだって!?」

2020-03-24 06:41:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)79

『ゲ、なんだって!?』   




 ちょっと自己嫌悪。

 十三で迷子になったミッキーは、あろうことかホームステイ先の家が火事になった。

――これでサンフランシスコに帰ってくれる――と思ってしまった。


 こういう人の不幸を喜んでしまうところは母親譲りで自己嫌悪。
 でも、お母さんが人の不幸を喜ぶのは理由が無い。
 ただただ、人の幸せが許せないだけ。

 ちょっとバイヤスがかかってる。

 冷蔵庫から麦茶を出してラッパ飲み。
 クールダウンしなきゃ。
 娘のわたしが言うのもなんだけど、お母さんは若くてきれいだ。
――それだけお若くって綺麗でいらっしゃるんだから、なにかやってらっしゃるんでしょ?――
 MCの菅沼恵美子さんが聞く。
――ハハハ、めんどくさがりやなんで大したことはやってません。乳液に、気を付けてるかな?――
 健康的に笑いながらお母さんは応える。
 お母さんは、口を手で隠すということをしない。歯並びに自信があるせいなんだけど、その方が魅力的に見えることを知っている。
 それと、乳液だけというのはウソだ。
 整形こそはやってないけど、身体や顔のあちこちのリフトアップのための体操というかエアロビというかヨガというかに掛ける情熱には鬼気迫るものがある。ストイックなんて言葉では済まない、なんというか魅入られてるような雰囲気があって怖いよ。

 一度凄いところを見てしまった。

 鼻から入れた紐を口から出して掃除していた。でもって、次には鼻から入れた水を目から出す。
 ヨガ名人のインド人のお爺さんがやっていたら、それなりの納得ができるんだろうけど、美人のお母さんがやると鬼気迫ってしまう。
「アハハ、びっくりした?」
 健康的にオチョクッテくるので、負けじと返す。
「ネットで見たけどね、ヨガのチョー名人は口から入れた紐をお尻から出して、キュキュッて掃除するらしいわよ!」
 さすがに嫌がると思ったら、藪蛇だった。
「それいいよね、試してみる!」
 で、この人はほんとにやってしまう。

「できるようになった!」

 一週間後には帰宅したばかりのわたしに喜々として報告する。
「三種類の紐を試してみたんだけど、須磨はどっちがいいと思う?」
 まだ湿り気の残る紐を三本突き付けてくる。
「ど、どれでもいいでしょ!」
 それ以来、お母さんがヨガもどきをやっているところには足を踏み入れない。
 男だったらどうだろ?
 娘や女房が怪しげなことやっていたら、きっと覗くよね。ほら『鶴の恩返し』。けして覗いてはいけないと言われながら男は覗くじゃない。でもって、女房が鶴の姿になって自分の羽を抜いては機を織ってるの。うちの両親が離婚したのは、そういうところに原因があったと思うんだけど、賢明なわたしは踏み込まない。

 麦茶のお替わり飲んで、その半分が汗になるくらいの時間考えた。

 ミッキーが好意を寄せてくれるのは悪いことじゃない。困るんだけどミッキーを責めるのはお門違いだ。
 彼が空堀高校に交換留学に来たのも運命で彼のせいじゃない。
 だから、火事になったことを喜んだりするのは間違ってる。
「かわいそうミッキー、わたしで力になれることがあったら言ってね!」
 かけた言葉は社交辞令なんだけど、社交辞令であればこそ、表現には心が籠る。
 眉間にキュッと力が入って、それが自分のキュートで可愛い表情になることを気に掛けつつ、ま、これでアメリカに帰ることになるんだろうから、ま、いいや。

 お母さんがゲストの番組も、そろそろお終い。

 いろいろ考えてしまって、ほとんど観ていなかった。
――そういや、今日とってもいいことなさったんですって?――
 菅沼さんが、その玉ねぎ頭のように話を締めくくりに掛かっている。
――そうそう、娘がアメリカでホームステイした家の男の子。ミッキー・ドナルドって可愛い名前なんですけど、交換留学で来てるんですけど、ホームステイ先が火事になってしまいましてね、代わりのお家が見つからないと帰国しなくちゃならないって、可哀そうでしょ? で、決めたんです。わたしの家に引き取らせていただくことに!――

 ゲ、なんだって!?

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坂の上のアリスー29ー『あ、あの、お客さま……』

2020-03-24 06:28:59 | 不思議の国のアリス

坂の上のー29ー
『あ、あの、お客さま……』   



 けっきょく日本橋に居続けすることになった。
 
 理由は簡単、聖天使ガブリエルのすぴかがリリシャスフェアリーのお宝フィギュアに憑りつかれてしまったからだ。

 俺たち門外漢から見れば、どうってことないフィギュアなんだけど、オタクの中では開封品でも10万円ぐらいで取引されるレアものらしい。
 もともとはユリゲーのリリフ(リリシャスフラワーズ)のキャラでフルプライスでも8000円くらいのものだ。それが10万円になるにはいろいろ理由があるらしいが、何度すぴかの熱い説明を聞いても俺には分からない。
 ただ、すぴかが子どものように目を輝かせるので、これは付き合ってやらなきゃならないと、俺と真治と一子は思ったんだ。綾香はむろんすぴかの味方だ。
 でも、最初は福引頑張ってみよう! という程度だった。それが居続けしてしまったのはすぴかの涙だ。

「あれは、ただのリリシャスフェアリーではないの、この現世(うつしよ)に隠されていた聖天使のホーリーパワーの源泉。あれを手に入れれば現世での我が力は無限大になろうほどのもの!」
「そうなのか!」
 と調子を合わせていたが、やっと引きこもりを脱した自分への同情であることは分かるのだろう。
「台座の後ろを見て!」
 賞品の陳列棚の横に回る。
「あ、あの、お客さま……」
 福引係の店員さんに迷惑がられる。そこは福引ブースと柱の隙間でブースの出入り口だからだ。
「すんません、ちょっと確かめるだけだから(^_^;)」
 店員さんをなだめて、50センチほどの隙間に5人がひしめき合って確認した。
「シリアル1111……でしょ……ムギュ~」
「そ、それが~? グギュッ」
「11月11日はわたしが聖天使ガブリエルとして、この地上に降臨した日なのよ……グググ」
「「「「誕生日?」」」」
「天界・魔界・現世の時間軸が重なる聖なるゾロ目なの!」

 で、俺たちは日本橋でせいぜい買い物をして福引に励むことになった。

 しかし、聖天使の福引なので、闇雲に福引の列に並べばいいというものではない。運気が満ちる時間と言うのがあって、それを待って福引のガラガラを回すのだ。
「やったぜ、四等のデジカメだ!」
 くじ運の悪い真治が生まれて初めてカス以上のものを引き当てたが、すぴかはジト目のため息だ。
「午前の運気は使い果たしたわ……次は午後のタームにかけてみましょう」

 で、俺たちは昼食をとるためにメイド喫茶に向かったのだった……。


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・50《予想通りの間抜けた顔》

2020-03-24 06:17:38 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・50(さくら編)
《予想通りの間抜けた顔》   



 

 

 なんと、原作者が京都駅から乗り込んできた。予想通りの間抜けた顔だったが、なぜか喪服だった……。

「先生、どうしたんですか、その喪服?」

「大橋先生!」「お、はるか!?」

 二人そろって驚いた後に、はるかさんが聞いた。

「今日は、オカンの納骨でな。ついでに東京の出版社にいくとこ」
「なんか、とんでもないついでですね」
「あ、このナリか? それとも京都から、東京はついでにしては遠すぎてか?」
「あ、両方」
 あたしと、はるかさんの声が揃った。

 大橋先生は、そのまま、あたし達の横の空いている席に居座った。

「おれ、出不精やさかいなあ。なんかキッカケでもなかったら、箱根の向こうになんか行かれへん」
「新幹線の中で出会うの二回目ですね」
「ああ、はるかが、みんなだまくらして、南千住に行った時以来やな」
「その節はお世話になりました」
「しかし、まあ、離婚したお父さんを東京まで説得に行こういうのは、はるからしいスットコドッコイやったけどな」

 この会話だけで、はるかさんの苦しかった高校生活が偲ばれる。

 親の離婚で、名門乃木坂学院を辞め、大阪のありきたりの府立真田山学院高校に転校。読者の中には、お父さんといっしょに南千住に残っていた方が、両親の復縁には効果的じゃなかったかと言う人もいる。
 でも、はるかさんは見抜いていた。お母さんは別れてしまったら、それっきりのサバサバした性格。だから、お母さんに付いて大阪に来た。そのほうが、自分が両親の接着剤になれると思ったから。
「はるかの『運命に流されない!』いう片ひじの張り方は好きやで。で、片ひじ張りながら、結局は流されて。空振りになってしまうんやけど……」
「もう、言わないでくださいよ」
「そやけど、その空振りが、トンでもない運命のボールをかっ飛ばす。せやろ、お父さんは、さっさと再婚決めてしもて、はるかは荒川の土手で大泣きするしかなかった。せやけど、それがお父さんと奥さんの秀美さんを、ごく自然なカタチでお母さんとお父さん夫婦の縁を作った。そんで、その時の痛手が、演劇部の芝居に活きて、あっという間に女優さんや」
「それは、そうですけど。そのときそのときのわたしは、とても苦しかったんです……でも、そうですよね。苦しみの無い青春なんて、サビ抜きのお寿司みたいなもんですもんね」
「いいや、ネタ抜きの寿司ぐらいにちゃう」
「どうも、でも、今のはるかがあるのは先生のお陰です」
「そら、ちゃうで。はるかは、おれと出会わんでも、いつかは、だれかの目に止まってたと思う」
「いや、やっぱり『すみれの花さくころ』に出会ってからですよ。あれが無かったら、お父さんとの『さよならだけどお別れじゃない』は活きてきませんでしたから」
「ハハ、かいかぶり。はるかにはそれだけの力があった。銀熊賞とった黒木華も、別に、あの高校やら短大行かんでも芽の出た子ぉやと思う。ただ、そういう縁を大事に思てくれるはるかは好きやし、はるかの値打ちやと思うで」

 そこで、あたしのお腹が鳴ってしまった。

「お、もう飯時やな。自分ら美味そうな駅弁持ってんねんな」
「あ、これはさくらちゃんが選んだんです」
「はい、選びすぎて乗り遅れ寸前でしたけど」
「はるか、列車の入り口で振り返っとったやろ」
「ええ、なんで分かるんですか?」
「こいつは、そういう乗り遅れた人間に気を遣いよる。ええ顔しとったやろ」
「はい。お話の中で、お父さん達を見送ったときの顔でした」
「うそ、ほんと?」
「はい!」

 あたしが返事すると、大橋先生が手を上げた。車内販売のオネエサンを見つけたようだ。

「これと同じ弁当……は、あれへんねんなあ。ほんなら幕の内」
「はい、幕の内でござい……あ、大橋先生やないですか!?」
「え……ああ! 岸本!?」

 車内販売さんの目に、みるみるうちに涙が溢れてきた……。

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