オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
68『思い出のサンフランシスコ・6』
知らなかった。
カリフォルニアは大阪府の姉妹都市で、サンフランシスコは大阪市の姉妹都市だった!
大阪市は例の等身大のお人形さんの問題で、先年姉妹都市を解消しているので過去形。
それでも、日本や大阪へのシンパシーは強いようなのよ。
普通のアメリカ人なら知らなくても不思議じゃない。
普通の日本人でも大阪府民でも大阪市民でも知らなくても当たり前。
だけど、三年も交換留学生で府立高校に通っているわたし、ミリー・オーエンが知らなかったのは面目次第もないのよ。
そのことをサンフランシスコのホームページで知ったので「なんとかせにゃ!」とググりまくった。
千歳と須磨先輩は爆睡中。
チャイナタウンでたらふく中華料理を食べて、おまけに隣の席に生徒会の瀬戸内美晴が居るというハプニング。
で、その前には、ホテルまで車いす押して不安な気持ちで坂道をエッチラオッチラ。
途中でグリーンエンジェルスのアンチャンに助けてもらうが、こいつら大丈夫? って神経使った。
まあ、爆睡こいても無理はない。
これだ!
ググること二時間でヒットした!
♡カセイドール♡
フィッシャーマンズワーフ南のSアベニューにピカピカのロゴマークが初々しく輝いている。
「「「お帰りなさいませ~旦那様~お嬢様あ~!」」」
ガチオタなら震えが来るほどの萌えボイスの合唱。
メイド喫茶などには一度も踏み込んだことのないあたしたちでも、微妙に大阪アクセントの出迎えを受けるとグッとくるものがある。
見渡すとメイドさんたちは日本人のようで、よく見ると奥の方にアメリカ人らしいメイドさんたちも控えている。
カセイドールは日本橋(にっぽんばし)で老舗のメイド喫茶。姉妹都市のよしみで、この夏にオープンしたところ。
サンフランシスコは西海岸では知る人ぞ知るアニオタのメッカ……らしい。
アニメやオタクのフェスなども頻繁に行われていて、ネットで発見したレイヤーたちも気合いが入っていてファイナルファンタジーとかのコスプレは一見CGと見紛うばかり。夏コミとかのコスプレも本場とあって気合いは入っているけど、やっぱりアップで撮ったりするとアメリカ人の方がイケてると思う。ゲーム画面を見てもキャラは外人っぽいもんね。
物珍し気にあちこち見ていると大型モニターにシスコで行われたコスプレフェスの動画が流れている。
「やっぱ、脚の長さと顔の造作だよね」
須磨先輩もしみじみと感想を述べる。
「でもね……心映えだとも思いますよ」
千歳が付け加える。
「心映え?」
「はい、あのライトニングとかユウナとか、パッと見には『なに考えてんだろー』ってくらいにおデブさんですけど、なんか心から楽しんでます! って感じで愉快じゃないですか」
「なるほどな、ああいうのって照れられると見てるほうが恥ずかしくなるもんな」
「アメリカ人て、こういうノリ大好きだから合ってるかもしれないわね」
日本よりはゆったりした四人掛けの席でオタク文化についてのディスカッションになってきた。
ディスカッションできるということは、なかなかオーダーをとりに来てくれないということだ。
カセイドールはけっこうな大きさなようで、厨房で突き当りかと思われた横の方にも人の出入りがあって、どうやら大きなL字型のフロアになっている。席数は100近いかもしれない。
文字通りカセイドールは稼いどーるようだ。啓介が下手なギャグを思いついたころ、やっとメイドさんが二人やってきた。
「オーダーヲオネガイイタシマス、オジョ-サマ」
ネイティブのメイドさんで、ミテクレはバッチリなんだけど、カタコトなので萌え損ねる。
オーダーを伝えると「ショショオマチクダサイ」とお辞儀して去っていくけど、やっぱ外人さんのお辞儀。
「メイドいうのは欧米文化かと思てたけど、身のこなしなんかは日本風やねんなあ」
啓介が感心すると、須磨先輩が口を開く。
「ミリーやってみてよ」
いつもなら絶対やらないんだけど、さっきコスプレ談義なんかしたもんだから調子づいてしまった。
「ご注文をお願いいたします、お嬢様……」
オーダーを承って、きれいにお辞儀する。
「さっすがミリー、板についてる!」
やんややんやの喝さい……なんと周囲のお客さんや控えのメイドさんたちからも沸き上がる。
でもって、オーダーしたあれこれがやってきた時、メイド長さんがやってきた。
「お嬢様、よろしければ体験メイド……いえ、お手本メイドをやっていただけませんでしょうか?」
「え、えーーーー!?」
調子をこいたわたしは、一時間メイドさんをやる羽目になってしまった。