大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・68「思い出のサンフランシスコ・6」

2020-03-13 06:37:13 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
68『思い出のサンフランシスコ・6』  


 

 知らなかった。

 カリフォルニアは大阪府の姉妹都市で、サンフランシスコは大阪市の姉妹都市だった!

 大阪市は例の等身大のお人形さんの問題で、先年姉妹都市を解消しているので過去形。

 それでも、日本や大阪へのシンパシーは強いようなのよ。

 普通のアメリカ人なら知らなくても不思議じゃない。
 普通の日本人でも大阪府民でも大阪市民でも知らなくても当たり前。

 だけど、三年も交換留学生で府立高校に通っているわたし、ミリー・オーエンが知らなかったのは面目次第もないのよ。

 そのことをサンフランシスコのホームページで知ったので「なんとかせにゃ!」とググりまくった。
 千歳と須磨先輩は爆睡中。
 チャイナタウンでたらふく中華料理を食べて、おまけに隣の席に生徒会の瀬戸内美晴が居るというハプニング。
 で、その前には、ホテルまで車いす押して不安な気持ちで坂道をエッチラオッチラ。
 途中でグリーンエンジェルスのアンチャンに助けてもらうが、こいつら大丈夫? って神経使った。
 まあ、爆睡こいても無理はない。

 これだ!

 ググること二時間でヒットした!

 ♡カセイドール♡

 フィッシャーマンズワーフ南のSアベニューにピカピカのロゴマークが初々しく輝いている。
「「「お帰りなさいませ~旦那様~お嬢様あ~!」」」
 ガチオタなら震えが来るほどの萌えボイスの合唱。
 メイド喫茶などには一度も踏み込んだことのないあたしたちでも、微妙に大阪アクセントの出迎えを受けるとグッとくるものがある。
 見渡すとメイドさんたちは日本人のようで、よく見ると奥の方にアメリカ人らしいメイドさんたちも控えている。

 カセイドールは日本橋(にっぽんばし)で老舗のメイド喫茶。姉妹都市のよしみで、この夏にオープンしたところ。

 サンフランシスコは西海岸では知る人ぞ知るアニオタのメッカ……らしい。
 アニメやオタクのフェスなども頻繁に行われていて、ネットで発見したレイヤーたちも気合いが入っていてファイナルファンタジーとかのコスプレは一見CGと見紛うばかり。夏コミとかのコスプレも本場とあって気合いは入っているけど、やっぱりアップで撮ったりするとアメリカ人の方がイケてると思う。ゲーム画面を見てもキャラは外人っぽいもんね。
 物珍し気にあちこち見ていると大型モニターにシスコで行われたコスプレフェスの動画が流れている。
「やっぱ、脚の長さと顔の造作だよね」
 須磨先輩もしみじみと感想を述べる。
「でもね……心映えだとも思いますよ」
 千歳が付け加える。
「心映え?」
「はい、あのライトニングとかユウナとか、パッと見には『なに考えてんだろー』ってくらいにおデブさんですけど、なんか心から楽しんでます! って感じで愉快じゃないですか」
「なるほどな、ああいうのって照れられると見てるほうが恥ずかしくなるもんな」
「アメリカ人て、こういうノリ大好きだから合ってるかもしれないわね」
 日本よりはゆったりした四人掛けの席でオタク文化についてのディスカッションになってきた。
 ディスカッションできるということは、なかなかオーダーをとりに来てくれないということだ。
 カセイドールはけっこうな大きさなようで、厨房で突き当りかと思われた横の方にも人の出入りがあって、どうやら大きなL字型のフロアになっている。席数は100近いかもしれない。
 
 文字通りカセイドールは稼いどーるようだ。啓介が下手なギャグを思いついたころ、やっとメイドさんが二人やってきた。

「オーダーヲオネガイイタシマス、オジョ-サマ」
 ネイティブのメイドさんで、ミテクレはバッチリなんだけど、カタコトなので萌え損ねる。
 オーダーを伝えると「ショショオマチクダサイ」とお辞儀して去っていくけど、やっぱ外人さんのお辞儀。
「メイドいうのは欧米文化かと思てたけど、身のこなしなんかは日本風やねんなあ」
 啓介が感心すると、須磨先輩が口を開く。
「ミリーやってみてよ」
 いつもなら絶対やらないんだけど、さっきコスプレ談義なんかしたもんだから調子づいてしまった。
「ご注文をお願いいたします、お嬢様……」
 オーダーを承って、きれいにお辞儀する。
「さっすがミリー、板についてる!」
 やんややんやの喝さい……なんと周囲のお客さんや控えのメイドさんたちからも沸き上がる。

 でもって、オーダーしたあれこれがやってきた時、メイド長さんがやってきた。

「お嬢様、よろしければ体験メイド……いえ、お手本メイドをやっていただけませんでしょうか?」
「え、えーーーー!?」

 調子をこいたわたしは、一時間メイドさんをやる羽目になってしまった。

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坂の上のアリスー18ー『あら、奇遇ね我が眷属』

2020-03-13 06:21:41 | 不思議の国のアリス

坂の上のー18ー
『あら、奇遇ね我が眷属』   



 

 食堂に新メニューが入った。

 その名も昭和チャーシュー麺。
 それまでラーメンしかなかったので、さっそくチャレンジすることにした。
「オバチャン、新メニューなんだね」
「あら、三日前から出てるわよ」
 そう答えながら、オバチャンはトレーの上に昭和チャーシュー麺を載せてくれた。

 そっか、今週一人で食べるのは初めてだったんだな。

 今日は真治も一子も進路相談に呼ばれていて居ない。で、久々に一人で昼食というわけだ。
 俺は麺類に目が無い。パスタ、ラーメン、蕎麦、うどん、ズルズルと食べる感触がなんとも言えず好きなんだ。
 いつもなら、三人で食べ慣れたランチ。運が良ければ数量限定のスペシャルランチ。
 なんちゅうか、三人で食べることが主題で、メニューは、つい定番になってしまう。
 たまさかの一人だから、券売機のメニューをゆっくり眺めて、新メニューの昭和チャーシュー麺に気づいたわけだ。

 ウ……ハハハハハ。

 思わず笑ってしまった。
 ドドーンと、五枚もチャーシューが載っていると思い、立ったまま、一枚を口に放り込んだら、お馴染みの魚肉ハムのスライスだった。
 ランチの付け合わせに、揚げ物と千切りキャベツの間に敷いてあるのと同じものだ。
 ただ、まんまじゃ芸が無いので、なにやら下味が付いてごま油で炒めてある。パッと見チャーシューだ。
 ま、これはこれで美味しいので、文句はない。
 しかし、思い出してみると、メニューからラーメンが消えていた。
 ラーメンが消えて、昭和チャーシュー麺。ラーメンよりも20円高い。で、ラーメンにたった一枚入っていたチャーシューは無くなって、魚肉ハムのチャーシューもどき。
 ま、体のいい値上げなのかもしれないけど。生徒数が減って、食堂の経営も苦しんだろう。
 アイデア賞だと思うことにする。

「あら、奇遇ね我が眷属」

 後ろから声がかかった。振り向くまでもなく聖天使ガブリエルモードのすぴかだ。
「お、すぴかも昼飯か」
 すぴかはうどんを載せたトレーを持っている。
「これもなにかの辻占ね。特別にいっしょに昼食することを許してあげるわ」
「それは光栄なことで……て、横に来るのかよ!」
「前に座ったら、あなたの命も吸い込んでしまいそうだから」

「あら、夢里さん」

 いかにも委員長と言う感じの女子がすぴかに声を掛けてきた。
「あ……大辻さん」
 無表情にすぴかが返事をする。どうやら、綾香以外にもお友だちができているようだ。
「テラスの方に席を取っているの、よかったらいっしょに食べない?」
「え、ああ……」
「あ、ごめんなさい。こちらとごいっしょだったのね」
「あ、ううん。たまたまだから、そっちに合流するわ」
 そう言って、いったんテーブルに置いたトレーを持つと、行ってしまった。

 ま、それがいいさ。たまたまなんだからな。

 すぴかを微笑ましく見送りながら箸を持った。
「ん……こりゃ、うどんじゃないか……て、すぴかの奴、間違え……」
 ま、チャーシューもどきが載っているだけのラーメンなので惜しくもないので、うどんをすする。

 ズルズルズル~。

 ん、冷めて伸びている。

 すぴかの奴、ずっと前からうどんを持って……待っていたんだ。 


 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・39《胸を鷲づかみ!》

2020-03-13 06:06:48 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・39(さくら編)
《胸を鷲づかみ!》   



 

 はるかさんは、胸を鷲づかみにされ、熱い息を吐いた……!

 本当に、そう見えた。続いて監督の「カット、オーケー!」の声がかかる。
 春の特番『春を掴んで』の、一番トキメク話題のシーンは、あっけなく終わった。
「はるかちゃん、大丈夫だった?」
 マネージャーが、まだ頬を桜色に上気させた坂東はるかに駆け寄った。
「あ、大丈夫。間所さんの目がすごくって……」
「胸は、触らせないってのが条件だったんだよ」
「あ、全然。かすってもいませんよ」

 間所健は、やれやれという顔をし、楽屋へと引き上げていった。

 あたしは、はるかさん演ずる野村春香の妹の友香役。台詞は少ないけど、姉の春香に彼への気持ちを開かせ、恋人への道を踏み込ませる大事な役。
 で、一番問題だったのが、恋人へと飛躍する胸掴みシーン。監督は、ヤワなキスシーンなんかでごまかそうとはしなかった。直裁な描写で一気に表現しようと、この演出を考えた。
 台本では、長いキスシーンになっていた。でも、それだとディープキスにならないと、アップには耐えられない。ディープキスは清純を売りにしている坂東はるかさんの事務所はOKを出さない。むろん本人もヤだろうけど。

「さくら君、いいかな?」
 きちんと声を掛けてから、間所さんは楽屋に入ってきた。
「あ、どうもありがとうございました。お二人の演技の邪魔にならなかったでしょうか?」
 あたしは、子役時代から二十年近くやっているベテランの間所さんに気をツケした。
「楽にしてよ。局の弁当だけじゃ足りないんじゃないかと思って。姉貴の作ったパン。よかったらどうぞ」
「うわー、すごい。お姉さんパン屋さんなんですか!?」
「いやいや、ただの素人だよ。味は良いけど、バリエーションがない。十種類ぐらいをとっかえひっかえ。プロなら百種類ぐらいは作れなきゃね」
「そうなんですか、じゃ、メロンパンからいただきま~す」
「ハハ、はるかといっしょだ。女の子はメロンパン好きだね」
「小ぶりな膨らみ具合がいいですね……う~ん、おいしい」
「はるかは、自分の胸ぐらいだって喜んでた」

 あたしは、さっきのシーンを思い出して赤くなった。

「あのシーン、セーターの下から手を入れて、本当に胸つかんだような気がしました」
「あれはね、セーターの下で、手をパーにして開いたり閉じたり。実物とは距離とってるから、アップで撮ると実際よりも胸が大きく見える。ほらね……」
 間所さんは、自分のトレーナーの下に手を入れて実演した。
「不躾だけど、おっかしい~」
「ハハ、変態のオッサンだね」
「でも、呼吸がぴったりでしたね。どう見ても、ほんとにムギュッでしたよ」
「あれは、目の表情。こんなふうにね……」
 あたしは、一瞬自分の胸が掴まれたような気がして、思わずのけ反った。
「大したもんですね」
「さくらちゃんも、良かったよ『好きなら、飛び込め!』気迫だったね」
「あれ、地なんです。優柔不断なやつ見ると、ああなっちゃうんです。現実には声になんか出しませんけどね」
「才能だねえ。あそこまでの気迫はなかなかね。で、さくらちゃんは、飛び込むの?」

 プールに飛び込むような気楽さで、間所さんは聞いた。意味はすぐに分かった。あたしの芝居なんて、お姉さんのパンのようなものだ。間所さんは、そういうなぞをパンに掛けている。

「姉貴はね、パン職人の学校に通いはじめたんだ」
「本職になるんですか?」
「パン職人の虫がいるかどうか、確かめるんだって」
「パン職人の虫……役者にも虫がいるんでしょうね」
「どうだろ。ボクなんか子役からだったからね、気が付いたら自分が虫だった。でも一寸の虫にも五分の魂。これでも飛び込む決心はしたんだ。二十歳ぐらいのときにね」
「あたし……」
「まあ、さくらちゃんは、まだ高校一年だ。飛び込み台は、もう少し先でしょ」
「でも、いつかは……」
「いつかはね……」

 間所さんは、真顔で正面から、あたしの目を見た。

「あ……」
「すごい、四つも食べたんだね!」

 いろんな意味で胸を鷲づかみにされた気がした……。

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