大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・132『府知事のお話』

2020-03-21 15:44:57 | ノベル

せやさかい・132

『府知事のお話』         

 

 

 詩(ことは)ちゃんの説得は大変やった。

 

 頼子さんのお祖母さんの女王陛下も、めちゃくちゃ心配してくれはった。『青青校樹』をスカイプしながら聴いてたら封印してたお父さんのことが胸に溢れてしもて訳わからんようになって、過呼吸になってしもた。

 落ち着いてから、女王陛下には「お父さんのことが思い出されて、動揺はしたけど、すっごく嬉しかったんです。ほんとうにありがとうございました!」言うて、笑顔で何べんもお礼を言うといた。

『武漢ウィルスが落ち着いて、いい気候になったら、またヤマセンブルグに来てちょうだい。今日のお詫びも兼ねて、おもてなしするわ。いろいろ楽しいプログラムを考えてね』

 お気遣いが済まなくて、でも、嬉しくって、何度もお礼を言って画面に頭を下げた。

 スカイプを終えてからは詩ちゃん。

「遠慮しなくていいのよ。あたしたち家族なんだからね!」

「うん、そやけど、いちばん耐えてるんはお母さんやから。うち、お母さんが言うまでは聞かへんことにしてるから。ほんま、大丈夫やから、ね、詩ちゃん(^_^;)」

 それから、一時間ほど詩ちゃんは、いっしょにベッドに腰掛けながら付き合ってくれて、夜食におうどんこさえて、いっしょにフーフーしながら完食したら(とりあえず)安心してくれた。

 

 この連休の間、大阪と兵庫の間の行き来は控えて欲しいと府知事がテレビで言ってた。

 

「ええ、いよいよかあ?」

 お祖父ちゃんが呟く。いよいよの意味は分かる。往来の制限は都市封鎖とか外出禁止とかに繋がる。武漢やイタリアやパリのことが頭に浮かぶ。

 兵庫県の知事が『やり過ぎや』言うて反発。「なんや、吉村知事の勇み足か」と伯父さんがチャンネル変えようとしたら「ちょ、まだなんかあるで」テイ兄ちゃんが止める。

 吉村知事は大きなフリップをカメラに向けて続ける。

『国は、阪神間の感染拡大予測で、この連休が危ないと書類を回してきたんですが、秘密にはすべきでないと判断してお知らせすることにしました』

 中学生にはむつかしいけど、茶の間の大人たちの雰囲気で大変なものやと感じる。

 それは、国から各県知事に送られたもので、公開しないように注釈があったらしいけど、府民の安全にかかわる事なんで公開に踏み切ったらしい。

「戦時中もあったんや」

「スペイン風邪?」

「ちゃう、二十年五月の大阪大空襲は事前に分かってたんやけどな、府民に知らせよとした大阪の師団に『知らせるべからず!』と命じた大本営と喧嘩になったことがある」

 さすがはお祖父ちゃん。

 

 府知事の放送のせいか「しばらくは家にいろって」と留美ちゃんは電話してきた。

 自転車で町内を走ってみる。マスクして走ってると、自分が怪しい者に思えてくる。

 それに、子どもを見かけることが無い。町を歩いてるのはほとんど年寄りばっかり。なんか悪いことしてるような気になって、そうそうに引き上げる。

 山門脇の桜の木が蕾を膨らましてきてる。

 去年、この桜が満開の時に、ここに来たんや。

 雨上がりで、満開の桜はみずみずしく咲き誇ってたはずやねんけど、記憶にない。

 そうや、留美ちゃんが桜に見惚れて遅刻してきて、その桜がうちの桜やて分かって、それで留美ちゃんと親しくなったんや。

 今日は来えへん留美ちゃんが、なんとも懐かしい。

 明日は、なんか口実作って、いっしょに遊びたいなあ。

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・76「キャシーへの手紙」

2020-03-21 07:06:58 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
76『キャシーへの手紙』   





 日本に来て三日がたったよキャシー。

 知識としては知っていたけど、現実に知るとビックリすることがあるんだよ。


 日本の学校にはプールがある。知っていたけど、実際プールを見ると、とてもクールだ。
 ラッキーなことに、初日にプールの授業があったんだ。
 25mで5コース、水はとても清潔で気持ちがいい。
 授業の最初にラジオ体操をするのかと思ったら簡単なストレッチだった。ラジオ体操はマスターしてるので、日本人の生徒と一緒にラジオ体操をやってみたかったんだけど、それは、また後日。
 体育の授業は隣の4組と合同なんだ。いっしょになると70人を超えてしまうんだけど、それではプールの定員を超えてしまうので男子ばっかで34人。
 海パンは全員お揃いだ。紺色でトランクスみたいな形。
 男がお揃いの海パンだと、なんだかアナポリス(海軍士官学校)みたいだけど、あんなにガチガチじゃない。
 クロールについてのレクチャーがあって、ウォーミングアップして実際に泳いでみる。
 泳いでビックリしたよ。

 なんと、僕がトップだ! 13秒だった。50メートルだったら23秒くらいになるかなあ。

 むろん、その日のレコードになったらしいけど、噂じゃ水泳部も混ざってるとか。でも、シャイだから実力を発揮していないと思う。
 あ、それと交換留学生への礼儀として僕を追い越さなかったのかもしれないけどね。

 掃除当番もやったよ。

 いい習慣だと思う。自分たちで使った学校は自分たちで掃除する。学校に愛着を持たせるいい習慣だと思うよ。
 いい習慣だけど、そのままアメリカでやるわけにはいかない。だって、清掃担当スタッフの仕事を取り上げることになるからね。
 この掃除は成績に反映されたりはしないんだけど、みんな真面目にやってるよ。
 こんな無償の行為はシスコのグリーンエンジェルスでもなきゃやらないと思うけどね。

 一日同じ教室に居るというのも新鮮だ。

 学校って、授業別の教室というのが当たり前なんだけど、このカラホリハイスクールじゃ先生の方が教室に来てくれる。
 ラクチンだし、ずっと同じ教室に居るとクラスの一体感が違うよ。
 第一印象は良い制度だと思う。でも、生徒の主体性という点ではどうかなあと思う。
 三日間の印象では、生徒は大人しい。授業中に喋る奴もいなくて、でも熱心に授業に参加してる感じでもない。授業中先生が質問しないのもね、コミニケーションのない授業は、ちょっと息苦しいかな。

 そうそう、教室じゃ机が一列に並んでて、先生は黒板の前で喋るだけなんだ。

 だから授業中にやることと言ったら、先生が黒板に書いたことをノートに写すこと。
 僕は日本語分からないから、先生が用意してくれた英文バンショプリントをノートに写す。これは苦行だね。

 クラスにはシカゴ出身のミリーという子が居て、必要なことは通訳してくれる。

 シカゴ訛が新鮮だ。
 うっかり言ったら「ミッキーこそ訛ってるよ」と返された。
 自分の感覚で物を見てしまうのはエスノセントリズム(自分の所属集団を一番だと思うこと)なんで「アイムソーリー」なんだけど、大阪人のエスノセントリズムは凄いよ! とはミリーの発言。
 ちなみに、マクドナルドのことを東日本ではマックというらしいんだけど、大阪ではマクドというんだぜ。
 マックというのはMacDonaldを詰めた言い方だよね。僕にも分かりやすい。
 マクドというのは、一度カタカナ日本語にして上三文字をとったもの。
 同じ日本でも言語感覚と文化の受容の仕方が違うようだ。ま、これもミリーから聞いたんだけどね。
「どっちが多いか考えといて、これ宿題だから」
 ミリーの答えはまだ聞いてない。
 ミリーは、いろいろ興味を持たせる話をしてくれるのでありがたい存在。
「でもね、渡り廊下でハグはしないでよね」
 と念を押される。

 スクールポリスについて話したかったんだけど、それは今度にするよ。

 お休みなさい。 

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坂の上のアリスー26ー『俺たちの夏旅行はこうして始まった……』

2020-03-21 06:59:19 | 不思議の国のアリス

坂の上のー26ー
『俺たちの夏旅行はこうして始まった……』    


 

 というわけで、俺たち五人は新大阪駅の改札を出たところにいる。

 わけというのは、親父からのメールだ。
――モニターの都合がつかなくなった、至急五人集めて欲しい――
 という内容で、俺と妹の綾香、幼なじみの一子と真治、すぴかの五人で関西の旅に出たのだ。

 なんのモニターか……息子の俺にもよく分からない。

 親父とお袋は学者……たぶん。昔からいろんな実験やら調査をやっていて、時々意味も分からずに手伝わされた。
 たぶん社会科学の方面で、地図に書かれたポイントをクリアしながら目的地へ行けとか、一日同じ景色を見ていろとか、モノを運べとかをやらされた。
 今回は、それの大掛かりなものだろうと、気楽に引き受けた。なんせアゴアシ代と一日5000円のギャラが出る。
 来年だったら進路のことなんかがあって長期の旅行なんかはできない。

 そうなんだ、期間は今日から三週間の長丁場。

 親父からのメールでなきゃ引き受けなかっただろう、世間的な常識ではヤバゲだもんな。

「……こいつらは、みんな化け物なんでしょ?」

 すぴかが綾香の後ろで背後霊のように呟く。

 意外だったけど、すぴかは箱根から西に行ったことがないらしい。街で出会う関西人の声は大きく粗暴に見えるので苦手らしい。

 関西、その中でも最もコアな土地である大阪は、すぴかにはとんでもない土地のようだ。

「わたしは聖天使ガブリエル。こんなソドムやゴモラのような享楽の地には行けないわ!」

 最初は眉間に皴を寄せていたが、俺と綾香が居なくなれば家族以外で口の利ける人間が居なくなってしまうので付いてきた。
 俺は、一種のショック療法で、すぴかのためになるんじゃないかと……こういう楽観主義は親譲りかなと思ってしまう。
 ま、相当の楽観主義でなきゃ、うちの親も子ども二人をほっぽらかして何か月も海外に行ったりはできないだろうけど。

「小腹が空いたなあ、ちょっとうどんでも食っていこうや」

 真治が提案し、一子の笑顔で決定した。こういうところは真治も一子も人格者だ。

 駅中の立ち食いに毛の生えたような店に入る。ちなみに新大阪駅には、こういううどん屋だけでも七軒ほどもあるんだそうだ。
 食券買ってトレーを持ってカウンターに並ぶ。
 俺と真治は全部載せ大盛りうどん、静香はスタミナうどん、綾香はきつねうどんに鯖寿司、純花は関東人の意地なのか食べ物に臆病なのかたぬきそば。

 全部載せうどんは、洗面器ほどの丼にうどんが二玉。トッピングは海老天、玉子、オボロ昆布、牛肉、明石焼きが載っている。
「オ、ダシは本格的なカツオと昆布の合わせ出汁!」
 家が寿司屋の真治は感動している。
「それだけちゃうで、トドメに追いガツオや!」
 厨房でオヤジが言う。その手は、今まさに追いガツオを投入しようとカツオで一ぱいのカゴが持っている。
「う~! いい香り!」一子が幸せそうな顔になる。
 投入された追いガツオは、モワッと湯気とともに香りをまき散らしたのだ。
「ムムム、タヌキがキツネに化けおった!」
 眉間にしわを寄せているのは聖天使ガブリエル。
「アハハ、関西でタヌキってったら天かすじゃなくてお揚げなんだよ」
 転校慣れした綾香が暖かく講釈。

 それぞれのレベルで小腹を満たしたところで、二階のロータリーに。

「お待ちしていました」
 大阪弁のイントネーション、女執事のカッチリ衣装のお姉さんに声を掛けられた。
「宿舎からお迎えにあがりました」
「あ、ああ父のメールにあった放出さん?」
 親父からの二回目のメールで放出さんが担当だと知らされていた。
「でも、時間ピッタリですね!」
 すぴか以外が感動する。すぴかはまだ箱根の西に心を許してはいないようだ。
「みなさんのスマホにアプリが送られています」
「え、アプリ?」
「ええ、お父さまのメールに仕込まれていまして、連絡を取り合うことで他の方々にも送られることになっています」
 う~ん、油断がならない。
「それから、わたしの苗字は放出と書いてハナテンと読みます、どうぞよろしく」
「ムズイ……」

 たった今まで『ほうしゅつ』だと思ってた。

 俺たちの夏旅行はこうして始まった……。


 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・47《コクーン・4》

2020-03-21 06:41:19 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・47
《コクーン・4》   



――どなたか、ジェット旅客機の操縦が出来る方はおられませんか!?――

 機内放送が、日本語、英語、フランス語で、喋り始めた……。
「どうしたんでしょ?」
「……これから詳しい事を言うだろう」

 小林一佐の言うとおりだった。数秒の沈黙のあと、別のCAがフランス語で喋り始めた。

「機長と副機長が二人とも身体的な理由で、操縦ができません。自動操縦で飛んでおりますので、今すぐ危険だというわけではありません。ただ、このままでは着陸ができませんので、どなたか操縦できる方を探しております。出来る方がおられましたら、近くのキャビンアテンダントまでお知らせください」

 早口で、少し聞き取り辛かったが意味は分かった。フランス語の分かる少数の乗客に動揺が走った。続いて英語、日本語、そして中国語と別のCAがアナウンスした。

「いかん、クルーがパニック寸前だ。母国語を喋るCAが、それぞれ話しているぞ」
 あたしたちがいるビジネスクラスにも動揺が走った。女性のCAが、こわばった笑顔で通路を歩く。
「どなたか、操縦出来る方……」
 かえって乗客の不安をあおっている。
「大丈夫、これはボーイング777だ、400人以上乗っている。一人ぐらいいるさ。落ち着いて」
 小林一佐が、CAの手を取り、優しく言った。軍服の力だろうか、キャビンは少し落ち着いた。しかし15分が限界だった。CAが三度目にやってきたときには、またキャビンに動揺が走り出した。
「さっきの軍人さん。あんたら出来んのかね!?」
 アメリカ人らしいオッサンが、小林さんに言った。
「申し訳ない、わたしはアーミー(陸軍)でね。いや、きっと経験者がいますよ。今頃手を上げるタイミングを計ってるでしょう」
「ああ、きっとル・モンドが注目するのをね」
 アメリカのオッサンは、こんなときにもユーモアを忘れない。ル・モンドとは、フランス最大手の新聞社だけど、直訳すれば「世界」だ。そんなことを思いながらも、あたしは手足が冷たくなって行くのを感じた。
「そんなに寒がらなくてもいい。ボクがなんとか……してもいいですか、サンダース?」
「君がか、レオタール?」
「父はフランス空軍のパイロットでした」
「で、君は、陸自の施設科だぜ」
「施設科のモットーは、利用できるモノはなんでも利用しろ。そして、最後まで諦めるなです。大丈夫、777はシシミュレーターで何度もやっています」
「実物は?」
「自衛隊でもシミュレーターのあとで、本物に乗せてるじゃないですか」
「じゃ、この777のコクーンは君が預かれ」
 一瞬真剣に目を見交わしたあと、レオタード君が立ち上がった。
「ボクが操縦します。交通違反で免停中ですが、腕は確かです」
 レオタード君は、三カ国語で話して、乗客の人たちから拍手をもらった。
「責任上、わたしが上官として立ち会います。そして、精神的なサポーターとして、このさつきさんにも付き添ってもらいます。

 え……

「無事成功の暁には、連隊長であるわたしが、二人の仲を公認いたします」
 小林さんが、とんでもないことを言った。
「この特別なオペレーションとカップルの出現に、元アメリカ海兵隊大尉として立ち会えることを光栄に思います。大佐!」
「サンキュー、メルシー、ありがとうございます」
 レオタード君は、三カ国語で礼を言って、あたしの肩に手を回した。その手が震えていることは、あたしの生涯の秘密にしようと誓った。
「大佐、よければ、このオペレーションに名前を付けさせて下さい」
 アメのオッサンが言った。
「ほう、オペレーション・トモダチ・2とか?」
「いいえ、『オペレーション・コイビト』であります」

 キャビン中から前にも増す拍手が起こった……。

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