せやさかい・129
一昨日の三日はヤマセンブルグと堺の二元中継でひな祭りをやった。
テイ兄ちゃんが本堂と部室と境内の三か所にカメラを設置してくれて『ひな祭りの如来寺』を、ヤマセンブルグは頼子さんがカメラを持って、自分の部屋を中心に宮殿の中を中継のやり合いっこ。
うちのお寺はともかく、宮殿は写したらあかんとこや、気いつけて撮らならあかんとこがあって、中継中もジョン・スミスとソフィアが付いてアシスタント……いうよりは監視役。
途中、女王陛下がフレームに入ると言うハプニングもあったんやけど、機転を利かした女王様が『蛍の光』の原曲である『オールド・ラング・サイン』をジョン・スミスとソフィア入もれてトリオで聞かせてくれたのはラッキー。本堂のお婆ちゃんらも「いやあ『蛍の光』といっしょや!」と感激。いえいえ、元々はスコットランドの歌で、スコットランドに縁の深いヤマセンブルグでも歌われてと説明すると驚いてた。
「あれは『はよ終われ』いうサインやで」とお祖父ちゃん言われて、そそくさと終わる。
でも、頼子さんが日本の、いや、堺の春を楽しみにしてるのはしっかり伝わったので、留美ちゃんと二人、カメラを持って、堺の春を訪ねることにした。むろん運転手はテイ兄ちゃん。
まず訪れたんが『大仙公園』です。
38ヘクタールの有料公園。有料と言ってもよく見ると日本庭園だけで、一般200円、中学生は100円というお手軽さ。
ヘクタール言うのは1万平方メートル(縦横100メートル)と同じで小学校で言うたら100校分くらい。歴史公園百選の中にも入っていてる優れもん。
「ほな、三時に迎えに来るから」
わたしらを下ろすと、テイ兄ちゃんはさっさと行ってしまう。
檀家さんとこの月参りがあるからやけど、あきらかに頼子さんが居てる時と態度がちがう。
ま、ええけど。
「うわー、広いんだ!」
案内板を見て感動の留美ちゃん。
「留美ちゃんも初めて?」
「うん、遠足があったんだけど、風邪で休んでたから」
詩(ことは)ちゃんの話では、堺の子ぉやったら、遠足とかでたいていは来たことがあるらしい。
あたしは、去年の三月までは大阪市の子ぉやったから知らんのは当たり前やねんけど……ま、人間秘密があるほうが面白い。
「うわあ、三時までなんてまわり切れないよ!」
たしかに38ヘクタールはとてつもない。スマホで調べてみると大阪城公園が105ヘクタール。その半分もないねんけど、平べったいとこにあるせいか広く感じる。
「大阪城って、お堀の面積がかなりあるし、普通行くのは大手門から本丸と西の丸くらいだからね、ここの方が広いかもしれない」
「あ、レンタサイクルがある」
どうやら急いで回るには自転車に乗らならあかんくらい。
元気な中学生は歩く!
「あれは給水塔?」
木の間がくれに直方体の塔が見えてくる。
「図書館からでも見えてたよ」
え? 隣接する中央図書館には何度か来てる(なんちゅうても文芸部ですよってに)ねんけど気ぃつけへんかった。
「あれは、平和の塔って言うんだよ」
平和の塔と言われて、ちょっと違和感。なんや、広島とか長崎に相応しそうで、それに、どうにも棒状の建造物で感想の言いようもない。
「上から見ると三角形になってるんだよ、意味わかる?」
留美ちゃんらしからぬ意地悪な質問。
「それはやね……堺市は財政が苦しかったさかいに四角形にする余裕があれへんかった、とか?」
市長さんが聞いたら怒りそうな答えを言う。
「堺ってね、旧分国で言うと、摂津、河内、和泉の三加国に跨るんで、その三つの国に面してるって意味なんだよ」
「え、ほんま?」
「ほんまほんま、堺って言葉の語源も、三つの国の境からきてるんだよ」
「境にある街?」
「うん、あ、疑ってる?」
「あ、いえいえ……」
ただの不勉強です。それにしても留美ちゃんは賢い!
「こりゃ、漫然と歩いちゃいそうだね……」
「せや、テーマを絞りこも!」
「あ、いいかも!」
相談して、春の草花。
盛りの花と、これから咲きそうな花を撮影する。
「まずは梅だね」
梅はところどころで満開になってた。紅梅に白梅、桜よりも寿命が長いようで、今月の下旬までは見られるらしい。
「ほんなら、これからシーズンの桜を撮りまくろ!」
不勉強なわたしでも、桜は何種類かあるのを知ってる。ソメイヨシノとか……ソメイヨシノとか?
「いいね、ちょっと調べてみる!」
調べまくりの留美ちゃん。その結果……。
「51種類もあるよ、どうする?」
「さいですか」
「ふふ、サクラというのは奥が深そうね」
けっきょく、ソメイヨシノとオオシマザクラと八重桜を確認。
確認は札を見ただけね。花が咲いてない桜はどれ見ても区別がつきません。
え? 留美ちゃんが言うた『サクラというのは奥が深い』て……ひょっとして、あたしのことも入ってるわけ?
せやけど、聞かぬが花……やろね。