大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・131『青青校樹』

2020-03-16 14:43:19 | ノベル

せやさかい・131

『青青校樹』         

 

 

 

 それは台湾の卒業式やった。

 

 うちらと同じような制服着て、胸にはピンクの花を挿して、みんなで『蛍の光』を歌ってる。感極まって泣いてる子もおって、後ろの在校生やら保護者、両脇には先生や来賓の人らが厳粛な顔をしてたり、暖かく微笑んでいたり。ステージには演壇があって、式服の校長先生が気を付けして『蛍の光』を聴いてる。舞台には校旗が飾られてる。

 これは、もう日本の卒業式とかわらへん。

 そやけど、よく見ると微妙に違う。

 校旗の横に掛かってるのは日の丸と違って……たぶん、台湾の国旗。赤地の左上が紺色になってて、お日様みたいなのがデザインされてる。

「青天白日旗っていうんだよ」

 動画に見入ってる間に、詩(ことは)ちゃんがお茶を淹れてくれてる。

「あ、すみません」

 留美ちゃんは、お礼を言いながらも、まだ続いてる卒業式の動画を見てる。

「ちょっと感動ものでしょ」

「うん、よう見たら、こういう卒業式は日本ではほとんど見られへんよね」

「『蛍の光』って、紅白歌合戦で聞くくらいですよね。これって、昔の日本ですよね」

「戦前は、台湾は日本だったからね。今でも、残ってるというか受け継いでるんだよね。ユーチューブを観ているうちに、この動画に出会ってさ。ごめんね、ボリューム大きかったよね」

「ううん、うちらも感動やわ」

 お喋りしてるうちに『蛍の光』は終わって、次の歌になってた。

「「「あ……!?」」」

 三人揃って感動した。

 今度は卒業生が歌ってる。

 

『仰げば尊し』…………や。

 

 歌詞は、やっぱり中国語。

 せやけど、この感じは完全に『仰げば尊し』や。

 卒業生も在校生も、校長先生も保護者の人らも、みんな、ちゃんと卒業式の顔や。

「なんて、歌ってるんやろ」

 テロップで歌詞は流れてるんやけど、漢字ばっかりの中国語やから分からへん。

「えと……これです!」

 さすがは留美ちゃん、瞬くうちにスマホで検索する。

 

『青青校樹』

 

 ごめんなさい、ちょっと笑った。

 せやかて、チンチン……なんとかと言うんやもん。

「チンチンチャオチュ……と発音するらしいよ」

 詩ちゃんも調べるのんが早い。

 あたし一人、ボサーっとして。そやけど、涙零して、いちばんボロボロになったんはうちや。

 なんでやろ、なんで、こんなに感動……心が動くんやろ。

 

 自分でも制御でけへんくらいになってしもて、両手で顔を覆って号泣してしまう。

 

『……そうなんだ』

 夜になって、今度は、うち一人で頼子さんとスカイプ。

 頼子さんは複数のパソコンを使ってるんで、その場で『青青校樹』を検索して、二人で鑑賞した。

 さすがに、今度は号泣するようなことはなかったけど、ボロボロです。

 すると、画面の向こうでやり取りがあって……とんでもない人が現れた。

 

 じょ、女王陛下!?

 

『去年の夏はありがとう、ヨリコも喜んでるし、わたしも孫娘の事が理解できるようになってきたわ。ま、半分くらいね。それもこれもサクラさんやルミさんのおかげ。青青校樹は、わたしもいっしょに見たわ。とっても感動的でした。でも、さくらさん、あなたはもっと深いところで感動したのね。それで、自分で自分に戸惑ってる』

「は、はい、そうなんです」

『これから、いくつもキーワードを言います。わたしの日本語は頼りないからヨリコに言葉にしてもらうわ。あなたは、集中して聞いてもらうだけでいいから』

「はい」

『じゃ、ヨリコ、お願い』

 画面が切り替わって頼子さんになる。女王陛下は右下の小さな画面に移動した。

『じゃ、いくわよ』

「はい!」

『卒業式……三月……春……桜……お寺……自転車……堺……出会い……文芸部……牛丼……手袋……小学校……バラ……別れ……故郷……引っ越し……』

 いろんな単語が、脈絡があるのかないのか次々に繰り出される。女王陛下がタブレットで出してくる単語を頼子さんが訳してくれているようや。時々同じ言葉が出てくる……わたしの反応を見て組み合わせてるんやろか。

 それは、何度目かの「別れ」の組み合わせの一つとして出てきた。

『……別れ……お父さん……』

 息が止まるかと思た。

 急に、忘れてたお父さんの姿が、後姿がありありと浮かんできた!

 

 お、お父さ……ん……お父さああああん!!

 

 その場に泣き崩れてしもて、それを聞きつけた詩ちゃんが向かいの部屋から飛び込んできた。

 

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・71「夏休み編 美晴の思い出ポロリ」

2020-03-16 06:30:04 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
71『美晴の思い出ポロリ』   





 Tシャツを脱いだのがまずかった。

 ゆるーい山なりのボールだったので、楽にスパイクできると思ったのも浅はかだった。
「テーーッ!」
 感じとしては70センチくらいジャンプして、思いっきりスパイクした。

 バチコーン!

 で、ボールは相手チームのボブの頭にヒットした。
 ボブは運動神経のいいマッチョで、それまで打ち込まれたスパイクを全部返している。
 そのボブがとりこぼした。
 胸のすく思い!
 で、ゲームが停まってしまって、敵味方の視線が集まってくる。

 一瞬の後、男子の視線が動物的で女子の視線が――かわいそう!――になっているのに気付く。

 なんと水着の上がずり上がって、わたしの控えめな胸が露出しているではないか!!
「ウグッ」
 踏まれたカエルみたいな声が出てしゃがみ込んでしまった。

 タイムタイム!

 女子リーダー格のアガサと二人ほどが寄ってきて早口で慰めてくれる。
 いそいで水着を整えて「ドンマイドンマイ」を連発。言いながらドンマイの用法間違ってると思いながら、でも気持ちは通じたようで、わたしの不幸なアクシデントへのシンパシーを感じた。
「いいこと! 今のことは頭からディレートしときなさい! 特に男子!」
 男子は真剣な顔でコクコク、みんないい人だ! 
 でも、一人ミッキーが鼻血を流している。
「ちょ、ミッキー!」
 アガサが非難すると、やにわにミッキーはアサッテの方角にダッシュ。
――え、なに?――
 振り返ると、二つ向こうのコートで数人の男子とどつき合いになっている。
 罵倒し合う声はわたしの語学力じゃ理解不能。
 そのうち、こっちの男子が全部向こうに行って、ミッキーに加勢し始めた。

 その後、ホテルの警備員が三人やってきて、なんとか収まる。

「あいつらが、こっちのアクシデントを撮ってたからさ」
「けっきょくはミッキーの早とちりだったんだけどね」
「ミッキーは悪くないぜ、ああいう状況でスマホ見ながらニヤニヤしてりゃそうだと思う」
「あいつらゲーム始めた時から、ヤラシー目でチラ見してたもんね」
「こっち見んな! って思ってたもん」
 みんな頭から湯気を出しながら怒ってる。
 
 あれからホテル併設の温泉に浸かっている。

 アメリカで温泉なんて意外なんだけど、アメリカの西海岸は地震地帯で、地震あるところには温泉がある。
 世界高校生徒会会議が流れたので、ミッキーが仲間を集めて一泊の温泉旅行を企画してくれたのだ。
 ビーチバレーを始めた時は他の女の子の心配ばかりした。
 だって、みんなスゴイ胸だからゲーム中にポロリしてしまうんじゃないかとね。
 で、実際は、わたしの胸では滑り止めにもならないでポロッったわけ。
 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、それ以上にみんなの心遣いが嬉しかった。
 
 温泉と言っても、日本と違って水着で入る。

 で、ほとんど温水プールなんだよね。マジ殺菌用の塩素の臭いがきつかったりする。
 温泉上がって宴会ってことにもならないしね、設備だって有馬や白浜を思い浮かべると残念だったりするんだけど、それを補って余りあるサンフランシスコ。やっぱ、根本は人間なんだ……。

 付き添いのリンカーン先生がプールサイドのプラスチックの椅子を蹴倒しながらやってきた。

「ミッキー喜べ! 君の交換留学が決定したぞ!」
「え、え、この時期にですか?」
 アメリカの新学年は目前の九月からだから、決まるとしたら、もう一か月は早く決まっているはずだ。
「急に参加できない子が出て、補欠合格だ!」
「で、どこの国の学校ですか?」
 留学にも当たり外れがあるようで、決まっただけでは喜ばない。

「日本のカラホリ高校だ!」

 日本ということで、みんなは口笛ヒューヒューで祝福した。

 悪いやつじゃないんだけど、ちょっと気が重くなった。

 わたし、瀬戸内美晴の夏休みはサンフランシスコの温泉で終わりを迎えようとしていた……ま、いいんだけど。
 

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坂の上のアリスー21ー『墓参り奇譚・1』

2020-03-16 06:22:08 | 不思議の国のアリス

坂の上のー21ー
『墓参り奇譚・1』   



 

 墓参りなのに、俺たちは手ぶらだ。

 お花とかお線香だとか水桶だとかが要ることぐらいは分かっている。
 去年は、そういう墓参りセットを持ってきた。

 だけど、根岸さんのお家の人に分かってしまってはいけないので、今年は手ぶらなんだ。

「しかし暑いなあ~」

 ゴシゴシと汗を拭きながら真治がぼやく。

 梅雨明けしたのはいいが、三十五度を超える猛暑日の墓参りは堪える。
「一子は、汗かかないのな?」
 俺も、カッターシャツの第二ボタンまで外し、タオルハンカチで腋の下まで拭きながら、涼しげな顔の一子にボヤク。
「わたしだって暑いよ」
「でも、ちっとも汗かいてないじゃん」
「……帽子被ってるから」
 たしかに静香は、高校野球の開会式でプラカード持って選手たちを先導する女子高生みたいな、白いツバ広の帽子をかぶっている。日光が柔らかく遮られて、いつもの一子とは違って……その……。
「フフ、きれいに見える?」
「ち、ちがわい!」

「あ、そなにきつく否定しないでくれる」

「あ、ああ、すまん」
 実際幼なじみの一子とは思えないくらいイケている。
「でもさ、そんな帽子ぐらいで凌げる暑さじゃねえだろ」
「フフ、秘訣があるのよ」
「「どんな!?」」真治と声が揃う。
「京都の舞妓さんとかは、真夏でも汗かかないでしょ」
「そっか?」
 そう言いながら、真治は「舞妓さん汗かかない」とスマホに打って検索しだした。
「へー、舞妓さんて腋の下を帯とか紐で縛って……すっと、胸から上は汗かかないんだってよ」
「「へー、そーか」」ハモって、真治と一緒に一子の胸のあたりを見つめる。
「な、なによ!?」
「一子は帯とかはしてないよな」
「てことは……分かった! ブラジャーで締め上げてんだ!」
「も、もう知らないわよ!」
 たぶん、一子は真っ赤になっているんだろうけど、帽子のせいでよく分からない。
「さ、着いたわ。ここよ!」
 ちょうど墓地の正門に着いたので、一子は切り替えるように宣言する。
「よし、行くか!」
 真治が踏み出す。
「待って」
「え、もうすぐそこだよ」
「去年みたいに、お家の人とか来てると厄介じゃない、亮ちゃん、偵察に行ってくれない?」
「あ、そうだな」
 お盆の時期は外しているとはいえ、念には念を。俺は一人で偵察に行くことにした。

 根岸さんのお墓は、いくつかブロックがある墓地の西のはずれにある。

 俺は南側から迂回して、根岸家先祖代々の墓に向かった。
 さすがにお盆の一か月前、墓参りの人は数えるほどしかいない。根岸家の墓のあるブロックに人影はない。
 これなら大丈夫……安心した瞬間、胸の高さの墓石群、根岸家の墓があると思しきところから、白いワンピにツバ広帽子の女の子が立ち上がった。

 やっべー!

 俺は、傍らの立木の陰に身を隠した。
 女の子の気配が、こちらに向かってくる。
 でも、気配に緊張感は無く、俺には気づいていないようだ。
 女の子は、俺が隠れている立木の横を通過する。
 立木を回りながら女の子の横顔を見た。

 白いツバ広の帽子の下に見えた顔は……え?……根岸さん……死んだはずの根岸利美さんだった!!


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・42《現実版 はがない・3》

2020-03-16 06:05:11 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・40(さくら編)
《現実版 はがない・3》   



 ダメモトでメールを打った。

 そしたら、坂東はるかが本当に来た。

「いま豪徳寺の駅。どう行けばいいのかなあ?」
 電話がかかってきたのでタマゲタ。なんたって昨日の今日だ。駆けだしで、その駆けだした足も半分しか上げていないあたしは、日曜の半分はお休み。でも、本当にはるかさんが来るとは思わなかった。
 なんとか、自然なお礼と、励ましの言葉を考えていたら、単純な脳みそが「じゃ、呼んであげたら?」と答を出した。

 あたしは「直ぐ迎えに行きます」と返事して、トレーナーに半天だけという、お隣に回覧板回すような格好で、豪徳寺の駅に向かった。

 改札の前に、はるかさんは待っていた。

 ジーンズにザックリした男物の革ジャン。で、スッピン。いつもの営業中のオーラはない。髪はポニーテールとヒッツメの中間。人が見たら、きっと、こう言うだろう。
「きみって、残念なときの坂東はるかに似てるね」
「ね、二人乗りしていこうよ」
 はるかさんが、自転車の後ろに跨ったときに、北側警察の香取巡査が、デニーズの角から現れた。
「あ、二人乗りだめなんだよね」
「あ、香取さん」
「あ、さくらちゃんじゃない。有名になっちゃったね、がんばってね。そっちお友達? さくらちゃんいい子だから。いい休日を」
「は、はい、どうも」
 香取巡査でも、はるかさんには気づかなかった。

「はるかさんの、オンオフってすごいんですね。誰も気づかない!」
「さくらちゃんのおかげよ。わたしリラックスしてんの」
 で、仲良く自転車を押して桜ヶ丘の我が家に向かった。
「うわー、なんだか、昔住んでた大阪の高安に似てる。三階建てなんだ、大橋先生ちといっしょだ」
「だれですか、それ?」
「わたしをこの世界に引きずり込んだ……まあ、恩人てことにしときましょう。この革ジャン、先生のガメテてきちゃったの」
「へえ、そのへんの話も面白そう!」
「ま、近いうちに本が出るから読んでちょうだい」
「あ、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』ですね。ただいまあ、はるかさん来たわよー(^^♪」
 インタホンに告げると、二階の玄関を開ける音がした。お母さんがニコニコ頭を下げる。
「どうも、急にお邪魔しちゃって。さくらさんにお友達していただいている、坂東はるかです。せっかくの日曜にに押しかけてすみません」
「いいんですよ、わたし日曜とか関係ないから。どうぞ、お上がりになって」

 それから大人同士の挨拶になり、はるかさんはお土産に伊勢のエビせんべいをくれた。

「わたしの、好物なんです。きっとみなさんも好きだろうって、思いこみですみません」
 で、とりあえず、リビングで、エビせんべいを開いてお茶にした。
「へえ、お母さん作家なんですか!?」
「ハシクレですけどね」
「うちの母も作家なんです。坂東友子、ご存じないですか?」
「知ってるわよ! いっしょに出版社の文学賞もらったから。わたしの少ない作家仲間よ。奇遇、奇遇、大奇遇! そうか、そうか~! トモちゃんの娘さんなんだ!」

 人間というのは、思いがけないところで繋がりがあるみたいだ。

「そう、トモちゃん。うちに娘さんが来てるのよ。どこの……あんたの娘に決まってるでしょ。今替わるから」
「あ、お母さん。はるか……うん、元気……たまに大阪行っても、お母さんスケジュール合わないんだもん……はいはい、心がけておきます」

 親子の電話は、それでおしまい。あたしたちは、三階のあたしの部屋に行った。

「ハハ、懐かしいなあ、この散らかりよう」
「もう、お母さん、ちょっと片づけてくれたらいいのに!」
「ぜいたく、ぜいたく。それに、これくらい散らかってる方が落ち着く。大阪の友達で由香ってのがいるんだけどね、この人の部屋は、片づけすぎて落ち着かないの」

 とりあえずフロ-リングのあれこれだけ片づけて、電気カーペットのスイッチ入れて、二人そろって足を投げだした。

「わたしの『はがない』は『私は故郷がない』でもあるんだよ……」

 はるかさんは、ミゼラブルなことをサラリと言った……。   

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