ライトノベル 魔法少女マヂカ・139
抽出した鐚銭は単に古い銭というだけではなかった。
欠けていたり曲がっていたり、擦り減り過ぎて何の銭か分からなくなっているものまであった。
そうなのだ、鐚銭というのは、古いと言うだけではなく傷んでしまって使い物のならないという意味もあるんだ。
「まあ、使えるものは1/3と言ったところか……」
ブリンダは寛永通宝。十三枚あるので、いざとなったら銭形平次のように飛び道具として使う。
わたしは、ちょうど六枚残っていた永楽通宝。明の永楽帝の時代に作られた渡来貨幣で、戦国時代に湧き起った貨幣経済を支えた通貨で、信長が旗印にもなっている。
「真田幸村みたい!」
ゲームの『無双 真田丸』で親しんだノンコが喜んでくれた。じっさい三個二段にして額に頂いてみると、雪村の兜の前立のようだ。
残りの二枚は和同開珎と富本銭だ。
「それは、うちにおくれやす!」
サムと交代で戻ってきたウズメが装着した。
「富本銭は厭勝銭(ようしょうせん:まじない用に使われる銭)どす! 絶大な威力どすえ!」
ウズメは目にもとまらぬ早業で装着した。
「え、どこに付けたの?」
「内緒どす!」
どすの利いた声で答えると、真っ先に飛び立っていく。
「じゃ、あとは頼んだよ!」
北斗のみんなに守備を頼んで、ブリンダと二人、北斗のプラットホームを蹴った!
「これでも喰らええええええええ! どす!」
醜女どもの眼前に躍り出たウズメはガンダムを思わせるファイティングポーズをとるや、せっかく休憩中にまとった巫女服の前をはだけた!
ズボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボォーーーーーン!!!
ウズメは、オッパイの先に鐚銭を仕込んでいたのだ。それも鐚銭中の鐚銭! キングオブ鐚銭と言っていい和同開珎と富本銭だ!
一撃で、醜女軍団の九割がたを撃砕してしまったΣ(゚Д゚)!
「オレ達の獲物が無くなる!」
ブリンダとともに風穴に逃げ込もうとする残敵を追撃する。
二人の鐚銭もなかなかの威力で、たちまち残敵の半分以上を粉砕した。
「中に、まだ少し残ってる!」
額の前で両手をXに組んで鐚銭ビームを発して、閉じかけている風穴に飛び込む。
バチコーーーーン!
閉じかけた風穴の蓋がはじけ飛び、その破片が飛散するのも待たずに三人一丸となって飛び込む。
バチ バチバチ バチ
破片が露出した肌にポップコーンのように爆ぜる。
眼前に迫る破片は鐚ビームが瞬時に蒸発させるので、なにも気にせずに突進できる。逃げ込んだ醜女どもは、手向かう気力も失せて、あちこち逃げ回っては岩にぶつかったり、互いに衝突したり、暴走した一円ビームに自らを焼いたりしてパニック状態だ。
シュビィーーーーーーーーン
ガラスを掻きむしるような音がしたかと思うと、我々は黄泉の奥つ城にたどり着いた。
―― おのれ、ここまで、わが安息の黄泉の国を汚しおって……許さぬぞおおお! ――
それは、襤褸(らんる)の衣をまとった腐乱死体……辛うじて窺える襤褸の色と柄、髪がほとんど抜けてしまった髑髏の額の飾りから高貴な者であると知れる。
「やはり、貴女様……」
ウズメが悲痛な声で、襤褸の名を呼ぼうとするが、あまりの痛ましさに声も出ない様子だ。
「我が背イザナギとともに、草々の神と、この大八島の国々を産んだイザナミであるぞ。数多の結界と醜女どもを破り、この奥つ城まで踏み込んだる罪、許し難し! 滅びよ!」
ザワ
空気がざわめいたかと思うと、髑髏に残ったわずかな髪が尾を引いたまま鬼醜女となって襲い掛かってきた。
「させるかあ!!」
ブリンダと二人鐚銭ビームを出力いっぱいに照射する。
バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ バチ
先ほどまでの醜女と違って一撃で倒すことは出来ないが、それでも鐚銭の威力は大きく、二撃、三撃するうちには、ことごとく弾き飛ばすことができた。
「おのれえ、おのれえ、もう我が身には眷属の一人も居らぬのかあ……」
イザナミは、自分の髪を醜女に変えて我々を襲わせてきたんだ。黄泉の魔がつ神になり果ててはいるが、髪は女の命、その悄然とした姿は同性として見るに堪えないものがある。
「イザナミノミコトさま……せめてもの引導は、このウズメがおわたししますえ……お喰らいやすううう!」
再びウズメは衣の前をはだけて、同性の我々でも目を見張るようなオッパイを突き出した。
シュボン
「あ、あれ?」
「ウズメさん、使いすぎたのよ!」
鐚銭は紙のような薄さになり、吐息に飛ばされた花びらのようにウズメの眼前を漂うばかりだ。
「わが身と共に滅びよおおおおおお!」
イザナミは襤褸の裾を掴んで蝙蝠の羽根のように広げた。
「変態がコートをまくったみたいだなあ」
「二人とも、身を庇いなはれえ!」
叫んだかと思うと、ウズメは胸乳を顕わにしたままイザナミに吶喊を試みる!
ウズメが抱き付くのと、襤褸が飛び散るのが同時であった。
ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ
襤褸の砕けが突風のように吹きつけて、思わず両手をかざして耐える!
目を開けると……イザナミはウズメが居たところは青白い残り火となって、その周囲は同心円状に襤褸や二柱の神であったものが取り巻いているだけだ。鉋くずのようになった富本銭の欠片がヒラヒラと目の前を横切って行った。
ウズメは、最後の最後、イザナミに抱き付いて、共に散っていったんだ。
わたしとブリンダを守った……あるいは、襤褸の魔がつ神のまま散っていくイザナミを哀れに思ってか……魔法少女には及びもつかない何ものかに準じたか。
「………、………!」
ブリンダが、何か叫んでいるがミュートにしたような口パク……いや、耳をやられたか!?
まだ、なかば意識が飛んでいる……あ、ブリンダのコスがズタボロだ。
と……ということは?
わたしも、ズタボロの裸同然だった!
二人の悲鳴が黄泉の奥つ城に木霊した……というのはサルベージされた後、北斗のクルーの弁である。