大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:022『おづね』

2020-03-18 14:47:37 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:022

おづね』  

 

 

 ふいに昔の事を思い出すことってあるよね。

 

 水道で手を洗って、シンクに撥ねた水が目に当って、プールに初めて入った時の感覚が蘇ったり。交通事故のニュースを見て、自分も同じような目に遭ってヒヤっとしたときのこととかを思い出したり。デジャブ……かな?

 今朝も、そういうことがあった。

 お気にの赤いフリース引っかけて自転車にまたがる。朝ごはんにトーストしたら、残りが一枚しかない。

 これでは、明日の朝は、わたしかお祖母ちゃんのどっちかがトーストを諦めなくてはならない。

「昼に買い物行くから買って来るわ」

 お祖母ちゃんは、そう言うけど、わたしは直ぐに買いに行く。前にも同じことがあって、けっきょく朝からご飯を炊いて、朝ごはんが遅れたことがある。

 だって、一枚の食パンを孫とお祖母ちゃんが譲り合うのもやだし、譲り合いに負けて一人トースト食べるのは、もっと気まずいしね。

 それに、朝からアグレッシブに行動するのも気持ちがいい。

「お早うございます!」

 ちょうど表で出くわした小林さんにもご挨拶できたし。

 

 パン屋さんは、朝だから混んでる。空いてたら、今朝こそは一言でも言葉が交わせればと思うんだけど。ちょっと出来そうにない。

 出来そうにないから『また今度』と思って安心する自分が居る。ちょっと情けない。

「811円になります」

 前のおばさんが、そう言われて一万円札を出してお釣りをもらっている。

「まずは、9000円」

 パン屋のおかみさんは、お札のお釣り渡して、レジのコインのところから、八枚の十円玉と、五円玉と、一円玉4枚を出しておばさんに渡した。レジの五円玉と一円玉がお終いになったのが分かった。

「205円になります」

「あ、五円出します」

 フリースのポケットに五円玉があるのを思い出したんだ。三日前にコンビニに行って、お釣りの五円をポケットに入れたのを瞬間思い出したんだ。開いたお財布を左に持ち替えてポケットを探る。

 あれ?

 探ってみると、右のポケットにも左のポケットにも無くてオタオタする。

「お釣りならありますよ」

「あ、はい、じゃ、これで」

 五百円玉を出すと、おかみさんは、レジの底から硬貨の筒を出して解して295円のお釣りをくれる。

「は、はい! すみません」

 ペコリと頭を下げてお釣りをいただく。

「あ!」

 おたついて百円玉を落っことす。

「あ、ごめんなさい!」

 おかみさんがカウンターから出てきて、百円さまを探してくれる。

「す、すみません(;゚Д゚)」

 オタオタしてお店を出る。

 胸がドキドキして、危ないので、パンは前かごに入れて自転車を押す。こんな時に自転車を漕いだら、こないだみたいに事故りそうだから。

 おっかしいなあ……確かに、コンビニでお釣りをもらった時のことを思い出す。

 あの時もレジに並ぶ人が多かったから、お釣りの五円はポケットに入れたんだ……ひょっとしたら、あの田舎道の路肩から落っこちた時に失くした?

 

 ちがうぞ。

 

 え?

『だから、ちがうって』

 間近で声がしてビックリ。オタオタと、辺りを見渡す、けど、誰も近くには居ない。

『ここだ、ここ』

「え、ええ!?」

『ここだって』

「わ!」

 あやうく自転車を放り出すところだった。

 なんと、ハンドルのベルの上に1/12のフィギュアみたいなのが胡座をかいて、わたしを見上げている。茶色い忍者。背中に忍者刀を背負って、髪はサスケって感じのポニテ。

「だ、だれ!?」

『こないだ、忍びの谷で助けてやっただろ』

「忍びの谷?」

『ほら、田舎道だ。自転車もフリースも、ワシが引き上げてやったんだぞ』

「え? あ? あれって!?」

『粗忽者め』

「あ……え……」

『あの時のお礼に五円玉は頂いておいたのだ、ホレ』

 忍者は、懐から何やら取り出したかと思うと、すぐに大きくなって五円玉になった。

「あ、あんたが!?」

『儂は、ご公儀お召し抱えの忍者でおづねと言う』

「おつね?」

『おつねでは女の名であろう、おづねじゃ』

「お、おづね」

『しばらく世話になる。よろしくな』

 ドロン

 煙になったかと思うと、たちまち姿を消している。

 え? 

 これは、なんのデジャブ? まぼろし? 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・73「故障につき使用禁止」

2020-03-18 06:33:56 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)73

『故障につき使用禁止』   



 女というのはいつからオバサンになるんだろう?

 松井須磨に限っては数十年先だと思っていた。
 えと、松井須磨ってのは自分のことなんだけど、まあ、客観視してるってことでよろしく。
 うちの母も祖母もオバサンという感じはしない。
 二人とも仕事に趣味に忙しい人で、私の目から見ても若やぎ過ぎている。
 ま、そういう自分が価値基準になってるので、八年目の女子高生をやっている娘にも特段の批判が無いのはありがたい。
「須磨ちゃんなんて、まだまだ蕾よ」
 六十を過ぎてなおポニテのショートパンツで週二回のテニスに励んでいる祖母の足どりは、そのまま空に飛んで行ってしまうじゃないかってくらいに軽い。
 十八で私を生んだ母は、ドクモから始めたモデル業を驀進中。

 そういう二人からすれば、孫であり娘であるわたしは、まだまだ蕾なんだろう。

「あぢーーーーーーーーーーーーー」
 
 思わず出てしまった唸り声に我ながらオバサン……どころかオバハンを感じてしまう。
「一学期はこんなじゃなかったんだけどなーーーーーーー」
 六回目の三年生をやっているわたしは教室で授業を受けることを許されていない。
 生徒指導別室という、ほとんど倉庫のようなタコ部屋に軟禁されている。
 一応は「課題が出来たら教室に戻してやる」ということになっているけど、それが仕上がらないもので、見通し無しの軟禁が続く。
 放課後は、ここが演劇部の部室になるんだけど、あまりの暑さに六月の下旬からは図書室を使っている。
 今は夏休み明けの短縮授業で十二時になれば図書室へいけるんだけど、それまでは朝の八時には三十度を超えているというタコ部屋に居なければならない。
 
 バケツ二杯に水を張って、それぞれ足を突っ込んでいる。

 なんで二杯かというと大股を開いておきたいから。
 足を閉じているとスカートの中の暑気は耐え難い。
 対面の椅子の上にミニ扇風機置いて下半身を強制冷却しても暑い。
 タコ部屋備品の扇風機は日によって右前か左前で首を振っている。風向き固定していると喉をやられるので首を振らせているのよ。ブラウスは第四ボタンまで外して胸を晒す。

 タコ部屋二年目の夏からはフロントホックのブラにしている。

 少しでも涼しくしたいための工夫なんだけど、全面御開帳にならないように右と左のフックに輪ゴムを掛けてリミッターにしている。
 首には農協でもらったタオルを巻いて、頭は後ろからロンゲをすくい上げ、端っこをちょいと捻ってオデコで括る。

 ぐああああああああああああああああああ~~~~喘ぐ姿は立派なオバハンだ。

 とても花の女子高生のナリではない。って、六回目の三年生で、もう二十三歳なんだけどね。

 これだけクソ暑いのにやっぱり二時間に一回はトイレに行く。
 子どものころから人の倍は水分を摂っている。机の上には空になったのと1/3くらいになったペットボトル。
 お情けの冷蔵庫には、まだ三本入っている。
 ま、これだけ飲んでりゃ行くよね。
「おーーーし!」
 タオルで胸から腋の下まで拭って、倉庫を挟んだ隣のトイレを目指す。

 ああ……故障につき使用禁止

 仕方がないので、廊下の突き当り、反対側のトイレを目指す。
 上の階から覚えのある声がしてくる。
 あ、かつての同級生で、今は新任の教師にして演劇部副顧問の朝倉さんだ。
 それに加えてオッサンの声。どこかで聞いたことがある……。
 二人は知り合いのようで、なんだか声が弾んでいる。
 ま、こんなタコ部屋の住人に声かけるような教職員はいないので、空気みたくなって階段の前を通り過ぎる、過ぎようとして声が掛かった。

「あ、あんたは!?」

 不用意に声を出したのはオッサンの方だった……。
 

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坂の上のアリスー23ー『聖天使ガブリエルの呪い』

2020-03-18 06:24:27 | 不思議の国のアリス

坂の上のー23ー
『聖天使ガブリエルの呪い』   


 

 

 夏休みには呪いの力も弱まるようだ。

 終業式から、わずか二十四時間だけど、血色がよくなり、こころなしか頬もプックリしてきたように思える。

 聖天使ガブリエルって、わたしのことだけど、洗面台の鏡に映る姿を見て、そう思う。

「よし!」

 鏡の中の自分に気合いを入れて部屋に戻る。
 フーっと息を吹きかけてパソコンのホコリを吹き飛ばす。スイッチを入れるのは……三か月ぶり、転校してからは初めて。
 メニューバーのファイルをクリック、そのあとの操作は聖天使の秘密だから言えない。

 だめよ、もし知ってしまったら、聖天使の呪いで石になってしまうわ……よし、開いた。

 一度目をつぶり、深呼吸してから、ゆっくりと開く。

 出てきた……不可抗力であったとはいえ、わたしが呪いをかけて殺してしまった鏑木萌恵と結城知世。
 屈託のない笑顔の三人……真ん中にわたし、右に萌恵、左に知世。クラスの集合写真を撮る前に三人で撮った写真……そう、このころは、ひょっとしたら友達になれるかもしれないと思っていた。
 ファイルの中の(新情報)をクリックしてみる。
 額面上は行方不明になっている二人に関する情報が入ってくるようにプログラムしてある。

 5月30日 二人が乗っていた自転車が発見されたところから更新されていない。つまり変化なし。

 あるわけないわ。わたしが呪って消してしまったんだから。

 倒れた状態で発見された二人の自転車。その上には鞄と制服、脇にはローファーが転がって、制服のブラウスは、ちゃんとボタンがかかって、襟にはリボンが付いている。ブラウスの中にはキャミとブラ、スカートの中にパンツも入っていた。
 つまり、忽然と中身だけが蒸発してしまったような状況。警察は事件と事故の両面で捜査している。いくら捜査しても無駄。わたしがかけてしまった呪いは強力で、二人は自転車に乗ったまま原子レベルにまで瞬間的に分解されて……つまり、完全犯罪の形で殺されてしまったんだから。そして、殺してしまったのは、聖天使ガブリエルたるわたし、夢野すぴかなんだから。警察ごときに真相は解明できないわ。

 できることなら呪いを解いてやりたい。殺すつもりなんかなかった、不可抗力だったんだから。

 でも、掛けようとして掛けた呪いじゃないから解き方が分からない。

 分かるかなあ……人のことをコンチクショーと思いながら13個のサイコロを投げたら全部ピンゾロ(全部1)になって、それで人が死んじゃって、それを解くには、もう一度13個のサイコロをピンゾロにしなきゃならない……よりもむつかしい。って、例えよ。サイコロ投げたわけじゃない。心の中で、ふと思っただけ――あいつらめー!――それが呪いのツボにはまって本当にキマッタ!というところなんだ。

 パソコンの電源を落とすと、頭の後ろで手を組み、目をつぶってため息をついた。

 あ……!

 しまった。机の上、聖地巡礼でゲットした亮介のフィギュアがパソコンの方を向いたままだ!
「あ、あああああ、取り返しがつかない!」
 思わず亮介を抱きしめてしまう。
 亮介フギュアは単なる特注品じゃない。わたしが手に取ることによって本物の亮介とリンクしている。
 今のパソコンの画面を、亮介フィギュアが見ていたら、わたしがフトかけてしまった呪いで石になってしまう!

 ああ、聖天使ガブリエルのバカア! 

 わたしは急いで電話した。亮介が家から出ていなければ、ひょっとして間に合うかもしれない!


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・44《コクーン・1》

2020-03-18 06:12:10 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・44(さつき編)
《コクーン・1》
      


 

 みんなを驚かせてしまった。

「結婚する」と言っても、ここまでは驚かなかっただろう。
 もっとも、驚くと言っても「ヒエー!」「ギョエー!」「ウワー!」などという声はあがらない。数秒の沈黙のあと「……いつ決めたの?」お母さんがそう聞いただけだ。

「一カ月前」

 そう答えると「ふーん」という声が返ってきて、それっきり。

 あたしは慎重に準備を進め、全て決まってから、家族が全員揃うのを待って、フランスへの留学を家族に伝えた。それが、昨日の晩ご飯のあとのリビングだった。「ごちそうさま」と言ってリビングを出ようとしたさくらを引き留めるところから始まった。
「ちょっと待って、みんなに話しておきたいことがあるの」

 で、沈黙になり、お母さんの「……いつ決めたの?」に繋がるわけ。

 精一杯、言葉をつくして説明した。で、なんだか気まずい雰囲気になったので、あたしは自分の部屋に戻った。
 実際することはいっぱいあった。パスポートのことから、クレルモンの大学からの書類。この留学先の書類が面倒だった。取得単位の読替などは、大学の学務課がやってくれたが、あたし個人に関わることが煩雑だった。身長、体重、血液型とかの体に関することでも、瞳の色、髪の色、宗教、そして宗教上配慮しなければならないことなど、様々だった。

 一番困ったのは、志望動機だった。

 あたしは、留学するにあたって、希望の学部を、こともあろうに日本文学にしていた。
 日本という国は、日本人が日本に居る限りコクーンのようなものだ。世界的な水準から言っても、治安を筆頭に環境は、まさにコクーン(繭)のように心地いい。
 大げさに言うと、このコクーンから一度飛び出してしまわないと、あたしはコクーンの中で、成虫にならないまま一生を終わってしまうんじゃないかと感じていた。
 大学の一年間で、巨大な幼虫のまま歳を重ねてきたような大人をたくさん見てきた。大学の中で、バイト先で、そして東京という大きな街の中で。
 そして、そういう巨大な幼虫のまま大人になりそうな若者達を。

 で、そんなこんなが留学に結びついたことと、日本文学に行き着いたことを、新聞一面分くらいの英文で書かなくっちゃいけないのだ。

 I think that……と、打ち始めたところで、ノックもせずにさくらが入ってきた。やっと湧いてきた英文が、あっという間に消えてしまった。

「なによ、ノックぐらいしなさいよ」
 そう言うと、さくらは改めてドアをノックした。素直なんだかオチャラケているのか、我が妹ながら、判断がつきかねる。
「お姉ちゃん、質問に答えてないよ」
「なにも質問しなかったじゃないよ」
「お母さんの質問……一カ月前だけじゃ、ホテルの予約確認みたいじゃないのさ」
「ああ……」
 あたしは、自分が喋るだけで、たった一つの親の質問には答えきってていなかった。でも、お母さんの質問は、わたしの話を促すきっかけのようなものだ。それに、さっきの話の中身でおおよそは分かってもらえただろう。そう思っていた。

「鈍いなあ、お姉ちゃんは!」

 じれったそうに、さくらが言った。
 表情が魅力的になったなあと、女優の世界に片足を突っこんだ妹を見なおした……。

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