大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:019『コイントスには失敗したけど』

2020-03-06 14:11:32 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:019

『コイントスには失敗したけど』  

 

 

 

 やっぱり閉まってた!

 

 帰って来るなり、元気に報告するお祖母ちゃん。

「ネットで調べればよかったのに」

「ううん、自分で足を運んで知る方がドラマチックでしょ……じゃ、お昼寝するね」

 そう言って、お婆ちゃんは自分の部屋に戻っていった。

 

 お祖母ちゃんは、図書館に行ってきたんだ。

 新型コロナウイルスの事があるから、たぶん休みだよって言ったんだけど「まあ、行ってみるわ」と出かけたんだ。

 半分は健康のための散歩を兼ねているから、いいんだけどね。

 なんだか、とっても無駄なことをやってるような気がする。

 

 手持ち無沙汰なので、お祖母ちゃんのDVDのコレクションを見る。DVDの半分はアニメだ。

 お祖母ちゃんは、歳の割にラノベやアニメが好きなんだ。ときどきアマゾンで買っている。

 どれにしようかなあ……。

『攻殻機動隊』はハードだし『エヴァンゲリオン』は劇場版で尺が長いし……『夏目友人帳』……絵が好みじゃない。『冴えない彼女の育てかた』……これは、ちょっとエッチ過ぎるって評判だし……『ウェイクアップガールズ』……『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』……『けいおん!』にしよっか。

 手を伸ばしたところで電話がかかってきた。固定電話の方。

 固定電話は、ちょっと怖いけど、電話にも出なくなったらおしまいって気がしてるから、エイヤ!って気持ちで受話器を取る。

「はい、屯倉です……はい……えと……はい……わたしが行きます」

 電話はパン屋さんから。

 図書館の帰りにパン屋さんに寄ったんだけど、お喋りしていて肝心の買ったばかりのパンを忘れてきたんだ。

 お祖母ちゃんはお昼寝したばかりだし、起こすのもかわいそう。

 自転車か歩くかで迷った。

「よし!」

 百円玉でコイントス!

「あれ?」

 高く上げ過ぎた百円玉は、受け止めた手の平を弾いて、地面に落ちてしまって行方不明になってしまった。

 ついてない。

 こういう時に自転車に乗ったら事故りそうなので、歩いて行く。

「「うわ!」」

 声が揃ってしまった!

 角を曲がったところで、自転車で帰ってきた小林さんとぶつかりそうになる。危ないところだ(;^_^A。

 自転車同士だったら完全にぶつかってたよ。

「お祖母ちゃんの忘れ物を取りに行くんです」

 正直に言うと、暖かく笑って「気を付けてね」と手を振ってくれる。

「行ってきまーす」

 元気に挨拶出来て良かったと思う。おかげで、気持ちよくパン屋さんまで行けた。

 

「はい、これが屯倉さんのです」

 

 パン屋のおばさんがにこやかに渡してくれる。

「すみません、ご迷惑かけました(-_-;)」

 神妙にお詫びを言うと、おばさんはハタハタと手を振る。

「迷惑だなんてとんでもない、うちも、早く気づいていれば追いかけられたんだけどね、あ、そうだ! ねえ、ちょっと!」

 奥の工房、キッチン? 厨房? 声をかけて、小さな紙袋に入ったのを「はい、どうぞ。試作品で作った胡桃パン」とくれる。

「あ、ありがとうございます! 胡桃パン大好きなんです!」

 我ながら正直な反応をしてしまう。

「じゃ、よかったら、そこのイートインで食べてくといいわよ」

「はい、ありがとうございます」

 椅子に腰かけてハムハムといただく。

 焼き立てなんで、湯気がホンワカと立って、パンと胡桃の香りがわたしの顔を包んでくれる。

「と、とっても美味しいです!」

 美味しすぎて、涙が滲んでくる。

「あ、あ、バカですね、パン食べて涙ぐんだりして」

「嬉しいわ、そんなに喜んでくれて。また、ご贔屓にしてね(^▽^)/」

「は、はい!」

 

 あんまりたくさん会話はできなかったけど、とても感動的だった。

 

 コイントスの失敗で百円損したけど、十分お釣りの出る外出だった。

 忘れ物したお祖母ちゃんに感謝。 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・61「まずはワイキキビーチなのだ」

2020-03-06 07:22:16 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)61

『まずはワイキキビーチなのだ!』 



 自分で当選していながらよく分かっていない様子だ。

 飛行機の中で千歳のお姉さんから聞かれてもパンフレットを差し出すだけのミリー。
 ムルブライト奨学金の交換留学生優待のアメリカ旅行。
 お姉さんの後でパンフを見たけど、アメリカらしく免責事項に関する記述がビッシリ。

 主体は個人旅行で旅行中の責任は本人に帰属しバナナの皮を踏んで怪我してもムルブライトは関知しないことまで書いてある。

 行き先は、アメリカ国内であれば原則自由。3Dバーコードを写メれば行き先に着いてのオプションが無数と言っていいほど現れる。
 わたしたちが「これだ!」と思ってチョイスすればたちどころに予定が組まれ、必要な予約がなされる。

 ハワイと言えばワイキキビーチ!

 なんともミーハーだけど健康的なチョイス。
「ねえねえ、水着とかどーする?」
「ざっくりと条件付けとけば用意してくれるみたいよ」
 入国ゲートを出たところのベンチでスマホを囲む空堀四人組。
「う~ん、やっぱワンピね、わたしは」
 高校生といっても、もう二十二歳だし、運動不足だし、露出の多い水着はNGだ。
「う~ん、セパレート……ワンピ……競泳用はありえないっと」
「そういう括りじゃなくって、千歳は萌ちゅう感じでいいんじゃない」
「そ? じゃ、ミリーはアグレッシブなアメリカン?」
 女の子たちは特定の水着ではなく条件で絞り込んでいく。その方が、どんなのが出てくるか楽しみなんだ。
「ね、啓介は?」
 タブレットには水着の女の子の写真が一杯なので、啓介は一歩引いてしまっている。
「あ、俺は日本男子!」
 オーダーなのか照れ隠しの一言か分からないまま、パソコンに打ち込んでいく。

「水着はムルブライトから届いています、こちらになります、お召し替えは地下一階の更衣室をお使いください」

 ホテルに着くと、カウンターで一切合切を渡される。
「チトセ・サワムラ様にはビーチ用の車いすをご用意していますので、お召し替えのあと、このカウンターにお立ち寄りください」
 懇切なブリーフィングを受け、エレベーターで更衣室へ。

「え!?」「うそ!」「やだ!」「なんで!」

 四つの声が個室からして、着替え終わってビックリした。
「「「「わ!」」」」
 互いの姿を見て、揃って声を上げた。

 わたしのワンピはあちこち穴が開いている。胸元、わき腹、お尻の上とかに。
 ミリーのはハイレグのワンピだけど、ミスアメリカ!ちゅう感じでキラキラの星条旗になっている。
「こ、これは……」と頬染める千歳は紺のスク水で、ご丁寧に『ちとせ』の名札が胸に付いている。
 で、三人がそれぞれの水着にあっけにとられたあと爆笑したのが啓介。

「「「わ、赤フンだ!!!」」」

 たしかに日本男子で、わたしたちも設定条件通りって言えばそうなんで、旅先のノリで浜辺にくり出した。
 えと、特筆すべきなのがホテルで用意してくれた車いす。

 なんとキャタピラ付電動車いす!

「わーい、なんだか戦車みたい!」
 駆け足くらいのスピードが出るので、千歳は先頭に立って浜辺を駆けまわった。
 生活防水になっていて、そのまま海に入れる。
「水には浸からないつもりだったんだけど……」
 そういう千歳だったけど、水の中で手をとってやると自然に浮いて少し泳いだりプカプカ浮いて水の感触を楽しんでいる。
「ウォ! 引っぱるなあ!」
 啓介が叫んだかと思うと、千歳の手にはグダーっと長い赤フンが握られていた。
 腰まで水に浸かってビーチトスバレー。わたしたちには程よい負荷がかかり、千歳は水に浸かることで自由になって楽しめた。
 ミリーがイルカ型のウキを借りてきて交代で乗ってみる。
 楽しいんだけど、大股開いて乗るのがね……。
「わたし乗ってみる」
 千歳は恥ずかしいよりは好奇心が勝った。スク水なので大股開いても、わたしたちほどには気にならないようだ。
「バナナボートにしよう!」
 啓介のアイデアで、三人で横と後ろに付いて千歳を乗せたままのウキを押して泳ぐ。
 時々お互いの体が触れる。
 日ごろだったら「この変態があ!」と叫ぶようなことでもヘッチャラ。

 演劇部の仲間になって四カ月。

 なんだか一気にスキンシップになって、お互いの距離が縮まったワイキキのビーチではあった。
 

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坂の上のアリスー11ー『わたしは聖天使』

2020-03-06 07:12:16 | 不思議の国のアリス

坂の上のー11ー
『わたしは聖天使』   



 

 

 未熟だけど弱い人間じゃない。

 本当は聖天使なんだけど、未熟だから魂は仮に人の肉体に宿って、復活の日を待っている。
 
 仮と言っても、そこは聖天使。人の姿になっても群を抜いている。

 身長こそ159センチの標準だけど、体重43キロ、B77/W53/H80は神がかっているでしょ。
 普通ならB,Hはともかく、159の身長でW53の体重43はあり得ないわ。
 目元涼やかな瓜実顔は、基本的には和風だけれど、大き目な隠れ二重の瞳は我がDNAが聖天使のそれであることを示している。
 
 いつの日か、真の聖天使の姿に戻るのが我がデスティニー。
 その復活のための最終章が、どうやら幕を上げたようだ、この街で最も展開に近い丘の上の学校で……。 

 

「お、夢里すぴか」

 我がかりそめの名を呼ぶ声にビクッとする。

「あ、桜井先生」
 それは、生活指導部長にして、我がクラスの体育の受け持ちである桜井薫だ。
「今日も綾香待ちか?」
「ええ、心の友ですから」
 綾香は医学の神ヒポクラテスの化身。男神の化身だけど、そこは神。見てくれはわたしに勝るとも劣らぬ美少女。
 先日、自転車置き場で気を失った時、献身的にマウストゥーマウスの人工呼吸で救けてくれた。
 もとより聖天使、呼吸が止まっても死にはしないが、仮寝の肉体は滅んでしまう。肉体が滅んでしまえば、この修行を一からやりなおさなければならない。
 綾香をおつかわしになられた神に感謝している。

「実はな、おまえに人工呼吸をして救けたのは、兄貴の亮介の方なんだ」

「え…………!?」

「最初は綾香がやってたんだけど、うまくいかなくてな。たまたま早朝登校していた亮介が妹に代わってやったんだ」
「でも……気が付いた時には綾香の唇が」

 思わず右手の中指を唇に持って行ってしまう。
「あの兄妹の優しさだ。男の亮介がしたって気づいたら気に掛けるだろう」

 ドックン!
 
 心臓が大きく脈打った。

 仮寝の肉体とはいえ、初めて男の唇が我が唇に触れたと明かされたのだ。平静ではいられない。

「おまえも、だいぶ立ち直ったようだから真実を伝えた。まあ、礼なんか言ったら、かえってドギマギしちまうだろうから、心に仕舞っておけ。俺はな、正しい行為は正しく認識されなきゃいけないと思うんだ。念のために言っとくが、亮介に伝染性の既往症は無いことは健康診断でも証明されてる、心配することは無い」
「え、ええ……」
「お、噂をすればだな……新垣兄妹が来るぞ。俺はこれでな」
 昇降口から出てくる新垣兄妹が目に入る、ドキドキしてくる。
「あ……」
 兄妹は昇降口の前で別れ、綾香一人が校門脇のわたしのところに駆けてくる。
 なんだろ、この嬉しさと残念さは。
「お待たせ!」
「あ、う、うん。あ、あ、雨あがってきた」

 苦し紛れに上げた空には雲の切れ目、そこからビームのような陽光が差してきて虹を作った。

 わたしは聖天使、どうよ、気持ちが変わると梅雨空さえも希望の虹に変えてしまうのよ!


 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・32《バレたプロモ》

2020-03-06 06:40:07 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・32(さくら編)
《バレたプロモ》   



 

 豪徳寺の改札を出ると、デニーズの前にチュウクンが居るのが分かった。

 今月の五日に、チュウクンが元華族の四ノ宮忠八と分かってからは敬遠しているんだ。

 チュウクンとは、そもそもの出会いからして良くなかった。通学途中で、こともあろうに、この元華族の坊っちゃんは、水道工事のガードマン。電柱三本前ぐらいから目が合っちゃって、緊張したチュウクンの指示棒が、あたしのスカートをまくり上げ、その姿を後ろを歩いていたニイチャンに撮られてネットで流されて以来の縁。
 盗撮の犯人を捕まえてくれて、少し仲良くなりかけたんだけど、シッカリしてるんだかボンヤリしてるんだか分からない性格。そこへもってきて元華族の坊っちゃんが、ガードマンのバイトやってて、女子高生盗撮犯を捕まえたこと。杓子稲荷……うちのすぐ近所のアパートに越してきて、で、なんだかんだあって、渋谷でいっしょにいるところをマスコミに掴まり「元華族の御曹司、下町で庶民の生活!」と書き立てられた。
 チュウクンも迷惑を掛けたと思って、近所なのに声を掛けなくなった。

 それが、改札前の高架下のデニーズの前でニンマリ笑って、あたしと目を合わせてきた。

 シカトして行こうと思ったら、声を掛けてきやがんの。

「さくら、ちょっと!」
 シカトはかえって目立つので、渋々誘われるまま、デニーズを避け、駅の反対側のマックの二階に収まる。
「もう気にしなくていいよ。元皇族・華族のボンボンなんて竹田さんを筆頭に全国に学校一つ分くらいはいるからね。ただガードマンのバイトやってるだけじゃ、そんなに人の話題はひきつけないよ。あの特集だって、結局竹田さんと織田信成クンの人気がトップだったからね。
「だったら、もういいじゃないよ」
「実は、これ……」
 チュウクンはスマホから動画サイトを出して見せてくれた。

 あ……と思った。

 おもいろタンポポの新曲『おもいろシャウト』のプロモが、もう出ていた。
 三分半のプロモの中に0・5秒づつ7回、瞬間的にあたしが罰ゲームみたく映っているのが分かる。でも合計3・5秒。意識しなきゃ分からない。
「……と、思うだろ」
 チュウクンは画面をスクロールした。で……タマゲタ!
 曲や、おもいろタンポポへのコメントに混ざり「この瞬間映像の子はだれだ!?」というような書き込みがかなりあった!
「もう、こんなのも出てる」
 なんと、あたしのとこだけ抜き出してスローにして、一分ほどに編集したのがアップされていた!

 この子は誰だ!? オノダプロの隠し球か! キュート! 平凡の極致、それは非凡な萌!
 書き込みが、数十件入っていた。

「やだ、どうしよう……」
「アップロードされて半日でこれだもん。まだまだ来るよ」
「脅かさないでよ」
「じつは、雑誌社からボクのとこに電話があったんだ。こないだ盗撮事件で、四ノ宮さんがかかわった子、プロモの子ですよねって」
「え、もう、そんなのが!?」
「ネット社会は怖ろしいね……さくらも注意した方がいいよ」
「て、もうこんなになってちゃ、手遅れでしょ!」
「甘いなあ。これからなんだよ」

 そう言って、チュウクンはいくつかの注意をしてくれた……。

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