ジジ・ラモローゾ:019
やっぱり閉まってた!
帰って来るなり、元気に報告するお祖母ちゃん。
「ネットで調べればよかったのに」
「ううん、自分で足を運んで知る方がドラマチックでしょ……じゃ、お昼寝するね」
そう言って、お婆ちゃんは自分の部屋に戻っていった。
お祖母ちゃんは、図書館に行ってきたんだ。
新型コロナウイルスの事があるから、たぶん休みだよって言ったんだけど「まあ、行ってみるわ」と出かけたんだ。
半分は健康のための散歩を兼ねているから、いいんだけどね。
なんだか、とっても無駄なことをやってるような気がする。
手持ち無沙汰なので、お祖母ちゃんのDVDのコレクションを見る。DVDの半分はアニメだ。
お祖母ちゃんは、歳の割にラノベやアニメが好きなんだ。ときどきアマゾンで買っている。
どれにしようかなあ……。
『攻殻機動隊』はハードだし『エヴァンゲリオン』は劇場版で尺が長いし……『夏目友人帳』……絵が好みじゃない。『冴えない彼女の育てかた』……これは、ちょっとエッチ過ぎるって評判だし……『ウェイクアップガールズ』……『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』……『けいおん!』にしよっか。
手を伸ばしたところで電話がかかってきた。固定電話の方。
固定電話は、ちょっと怖いけど、電話にも出なくなったらおしまいって気がしてるから、エイヤ!って気持ちで受話器を取る。
「はい、屯倉です……はい……えと……はい……わたしが行きます」
電話はパン屋さんから。
図書館の帰りにパン屋さんに寄ったんだけど、お喋りしていて肝心の買ったばかりのパンを忘れてきたんだ。
お祖母ちゃんはお昼寝したばかりだし、起こすのもかわいそう。
自転車か歩くかで迷った。
「よし!」
百円玉でコイントス!
「あれ?」
高く上げ過ぎた百円玉は、受け止めた手の平を弾いて、地面に落ちてしまって行方不明になってしまった。
ついてない。
こういう時に自転車に乗ったら事故りそうなので、歩いて行く。
「「うわ!」」
声が揃ってしまった!
角を曲がったところで、自転車で帰ってきた小林さんとぶつかりそうになる。危ないところだ(;^_^A。
自転車同士だったら完全にぶつかってたよ。
「お祖母ちゃんの忘れ物を取りに行くんです」
正直に言うと、暖かく笑って「気を付けてね」と手を振ってくれる。
「行ってきまーす」
元気に挨拶出来て良かったと思う。おかげで、気持ちよくパン屋さんまで行けた。
「はい、これが屯倉さんのです」
パン屋のおばさんがにこやかに渡してくれる。
「すみません、ご迷惑かけました(-_-;)」
神妙にお詫びを言うと、おばさんはハタハタと手を振る。
「迷惑だなんてとんでもない、うちも、早く気づいていれば追いかけられたんだけどね、あ、そうだ! ねえ、ちょっと!」
奥の工房、キッチン? 厨房? 声をかけて、小さな紙袋に入ったのを「はい、どうぞ。試作品で作った胡桃パン」とくれる。
「あ、ありがとうございます! 胡桃パン大好きなんです!」
我ながら正直な反応をしてしまう。
「じゃ、よかったら、そこのイートインで食べてくといいわよ」
「はい、ありがとうございます」
椅子に腰かけてハムハムといただく。
焼き立てなんで、湯気がホンワカと立って、パンと胡桃の香りがわたしの顔を包んでくれる。
「と、とっても美味しいです!」
美味しすぎて、涙が滲んでくる。
「あ、あ、バカですね、パン食べて涙ぐんだりして」
「嬉しいわ、そんなに喜んでくれて。また、ご贔屓にしてね(^▽^)/」
「は、はい!」
あんまりたくさん会話はできなかったけど、とても感動的だった。
コイントスの失敗で百円損したけど、十分お釣りの出る外出だった。
忘れ物したお祖母ちゃんに感謝。