大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・138『量子バルブ』

2020-03-20 13:46:45 | 小説

ライトノベル 魔法少女マヂカ・138

『量子バルブ』語り手:マヂカ    

 

 

 

 北斗は黄泉比良坂の上空を旋回した。

 

 僅かな時間でも千曳の大岩が開いてしまったために、あたりは朱を含んだ闇色に淀んで、まるで地獄の空を飛んでいるようだ。

 千曳の大岩は閉じてしまったが、周囲の岩や地面からは間歇的に風穴が開いては閉じて、醜女たちが姿をのぞかせては赤い舌を蛇のように動かして威嚇している。

「すまない、嵐山のトンネルで手間取って、今になってしまった」

 晴美隊長は、わたしとブリンダの不始末を咎めることもなく、自分たちの不手際を詫びてくれる。

「さすがは聖メイド、こんな不始末でも労ってくれるのね」

「それはお互いさまということで、どうするかを考えないとな」

「もう一度量子パルス砲で千曳の大岩をぶち抜けない?」

「嵐山のダメージで出力が足りないのよ。回復の見込みは?」

「三日ほどはかかります」

 友里の返事に隊長は静かにうなづく。悟ってくれという気持ちが読み取れる。

 ノンコも清美も、助っ人のサムも黙々と操作しながら警戒してくれている。ミケニャンは北斗の外で醜女たちを牽制しているウズメから目が離せない。

「ウズメさんのエロはアキバにはないものニャー、あれ、アキバにも取り込めないかニャ?」

「風俗営業になってしまう」

「違うニャ! あの目ニャ! 色っぽいだけじゃニャくて、可愛いニャ。萌ニャ。あの目で見られたら、一瞬動きが止まってしまいそうになるニャ。もし、アキバのメイドになったら50%は客足が伸びるニャ~(⋈◍>◡<◍)」

 ウズメは責任を感じているんだ。

 十銭玉の勢いで攻めきれずに押し返されて、せめて風穴から先には醜女たちを出さないように睨みを利かせてくれている。醜女の中には一銭玉を失くしてしまい、ウズメの流し目に直撃されて蒸発してしまう者もいる。

「なんとかしないと、ウズメもいつまでも持たないぞ」

「北斗のCPで解析中です」

 砲雷手の清美が応える。CPは微かに唸りをあげながら演算を繰り返しているが、今のところ『エスケープ』と『撤退』の二文字を点滅させているだけだ。

「り、量子バルブが疲労破壊寸前!」

 機関部の調整をしていたノンコが悲惨な声をあげる。

「定期点検で外したバルブ、まだ使えるかもよ!」

「廃棄品ですよーー(-_-;)」

「替えるまでもてばいいから!」

「はいい、隊長!」

 ノンコは操作卓を離れてツールボックスに取りついた。

「二個残ってる、どっちします!?」

「どっちでもいい、即、交換!」

「友里、二十秒だけ期間停止して!」

「十秒でやって!」

「分かった!」

 ズビューーーーーーーン

 底が抜けるような音がして、エンジンが停止。しかし、質量50トンの北斗は、速度を5キロ落としただけの惰性で結構走る。

「交換完了!」

 ズゥイーーーーーーーン

 エンジンが再始動、5キロの失速はたちまち回復した。

 ピポパポポ ピポ

「CPがアンサーを出します!」

「「「「「なんと!?」」」」」

 全員がモニターに釘付けになる。

―― 量子バルブの真鍮にビタ銭の成分あり 量子バルブの真鍮にビタ銭の成分あり ――

「「「ビタ銭?」」」

 クルーたちが頭を捻る、わたしと晴美隊長だけが分かった!

「「鐚銭だ!!」」

「だから、それはなんだ? ビタミンの一種か?」

「明治以前に使われていた通貨だよ、真ん中に四角い穴の開いた銅貨で、明治になってからもしばらくは補助貨幣として使われていた」

「『びた一文やれるか!』の鐚だ」

―― 鐚銭を抽出復元すれば醜女の一銭銅貨に対抗できる ――

「そうよ! 鐚一文は一銭の1/10よ!」

「じゃ、バルブから抽出復元して!」

「あ、でも、バルブを外したら北斗が……」

「動かなくなるニャ!」

 

「……だいじょうぶ! ツ-ルボックスに、もう一つ取り外したのがある!」

 

 もうちょっと頑張って!

 ウズメに祈りながら、バルブから鐚銭を抽出にかかった。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・75「渡り廊下でハグすんな!」

2020-03-20 06:49:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)75

『渡り廊下でハグすんな!』   




 転校生が全校集会で紹介されることはありえない。

 普通、クラスの朝礼で担任が紹介しておしまい。


 でも、交換留学生は違うみたい。
 始業式、校長先生の挨拶と訓話が短かった。
 え、もうおしまい? 思っていると教頭先生に合図されて一人の男子生徒が朝礼台の上に現れた。
 女子に比べてダサダサと言われている男子のブレザーをカッコよく着ている。上背があって脚が長い。
 とたんに女子を中心としてどよめきが起こった。

 制服という属性の為に気づくのが遅れたけど、彼は外人だ、それも多分アメリカ人。

「今日から始まる二学期一杯一緒に勉強するミッキー・ドナルド君です。アメリカのサンフランシスコからやってきました。学年は二年生です。ドナルド君は……あ、ファーストネームね、ミッキー君は地元の高校では生徒会の副会長をやっています。クラブ活動や生徒会活動に関心があるようです。えーーそもそも交換留学生というのは……」
 訓話が短かった分の演説が始まりだしたので、みんなは校長の声を意識から遮断して、壇上のミッキー・ドナルドをシゲシゲと観察し始めた。
 全校生徒、特に女子の観察には大変な圧があって、ミッキーはみるみるうちに赤くなっていく。

 で、わたしも立派な交換留学生なんですけども。

 なんせ、入学した時から普通に存在しているので、今さら交換留学生という認識はされていないようでありがたい。
 中三の時にもカナダから交換留学生がやってきて、同じアメリカ大陸の人間だと言うことだけで担当にされて嫌な思いをした。
 ま、交換留学四年生としては、そっとしてほしいというのが本音。

 ところが、始業式終わって教室に向かうところでミッキーの方から声を掛けられてしまった。

「やーミリー!」

 な、なんであたしの名前を知ってるんだ!?

 まわりの生徒は、やっぱアメリカ人同士ってな温かい目で見てるんだけど、わたしにしては新年度の初日(アメリカは秋が学年の始まりだから)に面倒そうな男子に声かけられたって感じ。正直、ヌソっとしていて民主党的建て前で生きてますって男子は引いてしまう。だって、そういう男子は粘着質のグローバリストに決まってるから。ほら、日本にもいるでしょ、宇宙人の二つ名の元首相。

「オー、ナイスチューミーチュー!」
 
 あとあと祟られたくないので、十七年の人生で身に付いた渾身の外交辞礼的スマイルで握手の手を伸ばす。
 握ってきた手の温もりがやりきれないけど、おくびにも出さず簡単な自己紹介をする。
「あ、覚えてないかな、ボクのこと?」
「え……?」
 ディズニーキャラを親類に持った覚えはないので瞬間凍り付く。
「ほら、シスコのチャイナタウンで隣のテーブルだった……」
「あ、あ、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 思い出した。

 フォーチュンクッキーで盛り上がってた時に……隣のテーブルから声をかけてきたのは……?
「たしか、ミハル・セトウチといっしょだったわよね?」
 演劇部因縁の生徒会副会長との有りうべからずの邂逅を思い出してしまった。
「そうそう、ミス・ミハル!!」
 なんで感嘆詞が二つも付くんだ?
「ミハルはなんで三年生なんだろうなーーー」
 なんでため息? まるで体中の幸運が逃げ出してしまいそうな?
「ミハルと同じクラスになると思っていたのにーーーー」
 190はあろうかというドンガラが萎んで消えてしまいそう。
「あ、え、えと、二年生だったわよね?」
「あ、うん、確かミス・ヒメダのクラス」
 背中を脊髄に沿ってゾゾゾと来るものがあった。

「それって……わたしのクラスじゃん?」

 ミッキーは地獄で仏のような笑顔……まではいいんだけども。

「オーーー、アメイジング!」

 コラー! 渡り廊下でハグなんかすんなよおおおおおおおおお!

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坂の上のアリスー25ー『お父さんからメール来てる』

2020-03-20 06:39:46 | 不思議の国のアリス

坂の上のー25ー
『お父さんからメール来てる』   



 

 夢と現実にはギャップがある。

 ごく当たり前のことだけど、人間というのは、現実にそういうギャップを目の当たりにするとひどく狼狽えたり失望したりするものだ。
 
 なんでこんなことを思うかと言うと、我が妹の綾香が、そのギャップの日本代表みたいだからだ。

 ゲ~フッ!

 これを聞いた人は、家に牛か何かの動物がいると思うに違いない。
 実際は、綾香がホットパンツにタンクトップという出で立ちで、床に大あぐらかきノーパソをスクロールしながら発したゲップ。
 注意しても甲斐が無いので、俺はなにも言わない。

 以前注意したら「ほんと!?」とビックリ……したところまではよかったが、やおら冷蔵庫から牛乳を取り出して一気飲み。そして、今みたいにノーパソで遊んでいたかと思うと「ゲ~フッ!」と大ゲップ。
「よし、録れた!」
 なんと、綾香は自分のゲップを録音していた。で、何度も再生しては喜んでいる。
 で、なんかカチャカチャやってると思ったら、自分のゲップをSNSにアップした。
「ねえ、ニイニ、見てよこれ!」
「おまえなあー、仮にも花の女子高生……」
 画面を見てびっくりした。

 さあ、クリックして、この奇声を聞いて! 聞いたら、その正体を下から選んでください。

 ①:牛 ②:豚 ③:トトロ ④:ガマガエル ⑤:ジャイアン ⑥:ダンプカーの排気音 ⑦:タンカーの汽笛 ⑧:その他(  )

 自分のゲップを面白がってクイズにしてしまった。
 あくる日に見てみると、⑧のその他が一番多くカッコの中には(ゴジラ)と書かれていた。だれも投稿した女子高生本人とは思っていないようだ。

 ゲップの次はオナラだった。

 動画サイトで「オナラに火を点ける」というのを見て「スッゲー!」と面白がって自分で実験。
「ア、アチチチ!」
 マッチの距離の取り方がむつかしく、火傷をしそうになる。
「ニイニ、手伝ってよ!」
 俺が断ったのは言うまでもない。結局パンツを焦がしたところで飽きてしまった。

 これが外ではポニテが良く似合うハツラツ美少女で通っている。

 昨日も聖地巡礼と称し、すぴかとゴスロリファッションでアキバに出かけていた。聖地巡礼はいいんだけど、その都度「下僕への課題」ということでエロゲを土産にされるのが閉口。
「チ、またエロゲかよ」
 リビングのテーブルに置かれた紙袋に、思わず舌打ちした。ちなみに妹もすぴかも、こんな舌打ちぐらいで凹むヤワじゃない。
「エロゲはこっち!」
 そう言って、一回り大きいスーパーそに子がプリントされた紙袋を置いた。
「小さい方見てよ」
 開けてみると、某中堅プロダクションのプロモDVDとパンフ、それにナンチャラプロディユーサーの名刺が入っている。
「またスカウトされたんか?」
「うん、ま、名前も住所もデタラメしか言ってないし。向こうもテキトーに何十人も声かけてんだし」
 そう言うと、キャミとパンツだけの姿で冷蔵庫に向かう。
「ニイニも、そんなのコレクションして、どーすんの?」
 言いながらサイダーを出してラッパ飲み。
「うっせー」
 別にコレクションしているわけじゃない。俺が意識して見せることで、ちょっとでも年頃の女の子らしさを意識してくれたらという老婆心なんだけどな。実際、最初の二三回はプロダクションを検索して、所属のモデルやアイドルの真似をしていた。ま、最後は変顔とか、イメージ崩すポーズとかして喜んでるんだけどな。いつか、本当に女の子らしい憧れを持ってくれるんじゃないかってな。

 それと、オレだったらアイドルの写真に落書きとかして遊ぶ。オレも教科書の肖像画とかはオモチャにしてるもんな。いっかい言ってみたら「ひとの顔いじって自分が変わるわけないっしょ?」と斜め裏側から真顔で言いやがった。

 ややこしいが、これが昨日の話で、今は胡坐かいてノーパソをいじっている。

「ニイニ、お父さんからメール来てるぞ」

 そのメールが、俺たちの夏休みを決定づけることになる……。

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・46《コクーン・3》

2020-03-20 06:02:55 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・46(さつき編)
《コクーン・3》   



 隣の席から声がかかった。

 なんと陸自のレオタード君がシート脇の通路に立っている!

「え、どうしてレオタード君が?」
「仕事だよ。幹部の通訳で付いていくんだ。一佐、お席はこちらです」
 CAのオネエサンと話していた制服のエライサンがこちらにやってきた。
「おや、このお嬢さんは、君の知り合いの方かい?」
 一佐の階級章を付けたエライサンがにこやかに聞いた。
「自分が渋谷で事故を起こしたときの相手の方です」
「ああ、あのときの……その折りは、ご迷惑をかけました。また、しっかりした対応をしていただきましたので、部隊としても大変助かりました。申し遅れました、連隊長の小林です」
「小林イッサ……ですか」

 世界の常識で言えば小林大佐なんだけど、自衛隊独特の呼称がユーモアだ。

 シートベルトを外すころには、三人の会話はいっそうフレンドリーになっていた。
「ほう、お兄さんは『あかぎ』に乗っておられるのですか」
「はい、砲雷科で班長やってます。こないだはレオタード……レオタールさんに来ていただいて兄も喜んでいました」
「あれが、新聞と動画サイトに出たことが、今回のことを円満に解決してくれました。お兄さんにお礼を言っておいてください」
「言い出したのは父なんです。昔は兄が防衛大学に入るのにも反対してた人なんですけど」
「自分も一度お目に掛かりましたが、とてもご理解のあるお父さんでした」
「わたしのフランス留学には反対なんですけど。なんてのか、心で反対、頭では賛成なんです」
「それが、親心というもんでしょう。わたしにも娘がいますが、素直には賛成しないでしょうね」
「けっきょく、コクーンなんです」

 このコクーンという言葉に小林一佐も、レオタード君も積極的に反応してくれた。

「家庭がコクーンだという発想は正しいと思うな。コクーンに居る限り身の安全は保証されるけど、コクーンの中に居る限り成虫にはなれないもんね」
「だからレオタールは、コクーンを飛び出すために、アメリカの大学に行ったり、北海道で牛の世話とかしていたんだな」
「サンダースは、そこまでご存じだったんですか?」
「ああ、新入隊員の人事表は全部目を通すからね。君のは特に面白くて印象に残っているんだ」
「あの、サンダースってのは……懐かしの『コンバット』なら、軍曹だと思うんですが?」
「ああ、ケンタッキーの方ですよ」
「え、カーネルサンダース……ですか?」
「あれ、サンダース大佐って意味。なんか、一定の雰囲気になると、うちではサンダースって言うんだ」
「私服のときなど、業界用語ははばかられる場合もありますからね」
「他の部隊じゃ、オヤジとか言うんだけどね。なんか普通で面白くないじゃない」
「あ、これ、レオタード君が考えたんでしょ!?」
「あ、その、変なことは、みんなボクみたいな言い方は止してくれる」
「ハハ、うちの娘ですよ。二佐の時に『今度進級したら小林イッサになっちゃう。イメージ壊れるから、他のにする』で、サンダース。これをある幹部に話したら機密保持ができんやつで、いつのまにか部隊中に広まりましてね」
「ハハ、面白い娘さんですね」
「いや、あなたもなかなかのものだ。フランスにいったらがんばって」
「はい」
「で、気が変わったら、いつでも自衛隊に。ま、自衛隊も有る意味コクーンかもしれませんがね」
「サンダース。それは本人の心の持ちようだと思いますが」
「ハハ、そういうとこで突然真っ直ぐになるのも、レオタールのいいとこだ」
「え、ええ、そうですか?」
 レオタード君は、わたしでも分かるコクーンとしての自衛隊の意味が分かっていない。こういうボケたところが、なんとも若者としてはおもしろい。自衛隊員としては……小林一佐の前なので、あたしは言うのを控えた。

 それは、シャルルドゴール空港に着く一時間ほど前のことだった。

「どなたか、ジェット旅客機の操縦が出来る方はおられませんか!?」

 機内放送が、日本語、英語、フランス語で、喋り始めた……。

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