大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

坂の上のアリスー32ー『閃いたのかもしれない』

2020-03-27 06:25:49 | 不思議の国のアリス

坂の上のー32ー
『閃いたのかもしれない』   



 

 一子が一番恥ずかしそうにしている。

 無理もない、自分の横に座っている女子高生がきれいで、その首から上さえ無ければファッション誌の読者モデルをやれるんじゃないかというぐらいにできあがっている。膝頭を揃えてハの字に開いた足も、小指を立ててストローを摘まんだ右手も、ジュースを飲むたびにコクンコクンとする喉も、とても可憐だ。

 でも、この女子高生は、ほとんど犯罪だ。

 なんたって首から上がハゲのオッサンなんだから!

 交差点の信号待ちで思わぬ邂逅をして、暑さのせいと突き刺さる人目の為に、俺たちは再びメイド喫茶に入った。
 メイドさんたちは大したもので、このヘンテコな六人に嫌な顔一つしない。
 女装の安倍さんにも「お帰りなさいませ、お嬢様♡」と挨拶してくれる。「ただいま~、ミカちゃん!」と、メイドさんに自然に返す安倍さんもなかなかだ。
「安倍さん、どうして大阪なんかに?」
 社交辞令的な話が一巡したところで、すぴかが非難がましく質問する。
「アキバはできあがっちゃってるじゃない、できあがって悪いことはなんだけど、あたし的には進路予想に幅のある関西って魅力的なの」
「そうなの……?」
「うん、あたしが居ない方が、アキバの伸びしろは広くなるのよ。で、ガブリエルは?」
 安倍さんは、ごく自然にすぴかをホーリーネームで呼ぶ。
「神の御声に導かれて……」
「そう、それで四人の使徒のみなさんを従えているのね……みなさんありがとうございます」
 安倍さんは過不足なく挨拶をする。この間も俺たち四人均等に笑顔を向ける、首から上と下のバランスが取れていたら掛け値なしに好感が持てただろう。
「……きれいにしてらっしゃるんですね、横に居るとオーラを感じます」
「アハハ、基本的に化け物だから、せめて出来るところはね、気を付けてます」
 一子のポツリに柔らかく返す。
「安倍さんが完璧にしたら、こんなものじゃないわ」
「そうね……あら、ガブリエル、その紙袋から覗いてるのは、福引の一等賞なんじゃないの?」
「まあ……」
「ほんとは二等賞が良かったって顔ね」
 安倍さんはお見通しなんだろうか?

「安倍さん、よかったら入りませんか?」

 メイドさんが声を掛けてきた。
「あら、ウェルカムダンスね! 十秒待って!」
 ゴムバンドのようなものを頭に装着してから、お下げのウィッグを被った。
 そして二三度顔をクシャっとすると……なんと、完璧な女子高生(それも昭和の頃の)になってしまった。
「じゃ、ちょっと混ぜてもらってきますぅ!」
 なんと、声まで変わってしまった。すぴか以外の四人は目が点になってしまう。

 安倍さんは、三人のメイドさんといっしょにウェルカムダンスを踊った。

 見惚れてしまった。

「あ、そうなのか……」

 すぴかが呟いた……なにか閃いたのかもしれない。
 

 

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・53《一発でOKが出た》

2020-03-27 06:15:22 | 小説3

VARIATIONS*さくら*53(さくら編)
《一発でOKが出た》
       



 コップの氷がコトリと音をたてて、それが合図だったように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」
 お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。わたしは完ぺきな平静を装った。
「どうして?」
「……ああ、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか、冬休みとか」
「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」
「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気ぃのせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」
「うん、ちょっとネガティブだよ」
 その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモードにした。
「ひょっとして、吉川先輩から?」
「え、どうして?」
「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるて」
 由香は声を潜めて言った。逆効果よ! お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんはモロにやついてタバコに火を点けるし。
「ただの知り合いってか、メルトモの一人だわよさ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」
 ああ……ますます逆効果。お母さんのスクロ-ルは完全に止まってしまった。


「OK!」

 一発でOKが出た。
「間と距離の取り方が、グッとよくなった。さくらちゃんの吸収力ってすごいよね!
 監督さんも激賞してくれた。

 ゆうべは、あれから一日同級生の佐藤さんの家に泊めてもらい、お友達なんかも来て、遅くまでしゃべった。
 佐藤さんのプライバシーにかかわることもあるので詳しくは言えないけど、同世代なので、いつの間にか、あたしも話の中に入って真剣に話していた。そして、真剣に話すうちに付け焼き刃かもしれないけど、大阪の高校生の間と距離の取り方が分かったんじゃないだろうか。その中味は『高安女子高生物語』で読んでください。

「ようし、この調子で由香のシーン全部いくぞ!」

 全部と言っても、あと、三つ。オーシ、力いれて頑張るぞ!


「あら、映画行ったんじゃないの?」
 お皿を洗う手を止めて、お母さんが聞いた。受賞記念に映画でも観なさいと三千円もらっていた。
「うん、映画だと着替えて行かなきゃなんないし。たまにはお客さんで来ようって」
「こんにちは、おじゃまします」
 わたしは映画をやめて、由香を誘って、志忠屋へ初めてお客としてやってきた。
「シチューは、もう切れてるけど日替わりやったらあるで。はい。本日のラストシチュー」
「ごめんね、わたしがラストのオーダーしてしもたから」
 キャリアっぽい女の人が、すまなさそうに言った。
「いいえ、わたしたち日替わりでいいですから」
「このオバチャンやったら気ぃ使わんでええから」
「気ぃも、オバチャンも使わんといてくれます」
 と、キャリアさん。
「紹介しとくわ、これがさっき噂してた文学賞のホンワカはるか」
「トモちゃんの娘さん? 今、作品読ませてもろてたとこよ」
 もう、お母さんたら。ただの佳作なんだよ、佳作ゥ!
「で、ポニーテールのかいらしい子が、友だちの由香ちゃん。黒門市場の魚屋さんの子ぉ」
「ども……」
 カックンと二人そろって頭を下げる。このキャリアさんはオーラがあって気後れしてしまう。カウンターの中から「よろしく」って感じで、お母さんがキャリアさんに目配せ。
「この、オ……ネエサンは、大橋の教え子で叶豊子。通称トコ」

 それから、しばらく大橋先生をサカナにして、五人は喋りまくった。

 トコさんは、話しているうちに高校生みたくなってきて、ちょっと上の先輩と話しているような感じでメアドの交換までしちゃった。

「はるかちゃん、台本見せてくれる」
「はい、これです」
「わあ、ワープロや! 昔は先生の手書きやった」
「そら、読みにくかったやろ」
 タキさんが、チャチャを入れる。
「あ、はるかちゃんの、カオル役はお下げ髪やねんね」
「は、はい」
「先生、お下げにしとくように言わはれへんかった?」
「いいえ」
「昔、メガネかける役やったんやけど、一月前から度なしのメガネかけさせられたよ。役はカタチから入っていかなあかん言われて」
「うん、やってみよう。はるかのお下げなんて、小学校入学以来だもん!」
 お母さんまで、はしゃぎだした。あーあ、わたしはリカちゃん人形かよ……。
「はい、できあがり」
 と、お下げができたとき、トコさんのスマホが鳴った。
「……はい、了解。ううん、ええんですよ。こういう仕事やねんから。ほんなら、また。あたし木曜日が公休で、月に二回ぐらい、ここにきてるさかい、また会いましょね」
 トコさんは、キャリアの顔に戻って、店を出て行った。

 かっこいい……。

 わたしの網膜には、しばらくトコさんの残像が残った。
「あいつも、損な性分や」
「トコさん、なにしてはるんですか?」
「理学療法士……のエキスパート」
「ああ、リハビリの介助やったりするんですよね?」
「あいつは、訪問で、リハビリもやって、病院勤務もやって、非常勤で理学療法の講師までこなしとる。今日も休みやねんけどな、ああやって言われると、救急車みたいにすっ飛んで行きよる。で、月に二度ほど、ここに来て毒を吐いていくいうわけや」
「今日は、あなたたちが毒消しになったわね」
 と、毒が言った。


「よーし、OK!」

 このシーンも一発でOKが出た。
 で、監督が困った。

「あと、はるかがお下げにするシーン撮ったら、夜まで空いちゃうなあ」
「すみません」
 思わず謝ってしまった。
「謝ることはないよ。上手くいってるんだから」
「監督、商店街と中之島公園までの撮影許可は取ってありますけど」
 助監督の田子さんが言った。
「でかした田子作、商店街からいこう!」
 実は、昨日の縁でOGHの生徒さん達が見学にきていた。ちょうど前のシーンが終わったところなので、このままでは、何も見ないで帰ってしまうことになる。で、急遽天神橋筋商店街のシーンを撮ることになった。


「昨日、あんた、ラブラブシートやってんてな」
「ああ、あれか」
「あれかて、あんた……」
「そんな怖い顔しないでよ」
「なんかもろたやろ。吉川先輩が、えらい真剣な顔で渡してたて、評判やで」
「もらったんじゃないよ、見せてもらったの。『ジュニア文芸』よ」
「ふーん……」
「言っとくけど、ただのワンノブゼムだからね」
「そやけど……」
「わたしは、吉川先輩の心に住民登録した覚えはないからね。あそこはまだ空き地。強引に住んじゃえばいいよ。犬も三日も居着けば情が移るっていうよ」
「あたしは犬か!」
「そういう意味じゃなくって」
「そやけどなあ……あ、今度先輩のコンサートあるねん。知ってるやろ。先輩がサックスやってんのん?」
「コンサートのことは知らないよ。サックスやってんのは知ってるけど」
「え、うそ!?」


 ここは、ランスルーとカメリハのあと、本番。で、本番前に助監督の田子さんが提案した。 
「監督、OGHの生徒さん達カバン持ってきてますから、エキストラで入ってもらいませんか?」
「あ、いいな。この時間帯高校生通ってないから、それ、いこう!」
「OGHの生徒さん達、上着脱いでくれる。ここ夏の設定だから」
 タイムキーパーさんが叫んで、何人かは他のエキストラさんに混じって私服で入ってもらった。

 このシーンは、二回撮ってOK。そのあとは、中之島まで、はるかと二人で歩きながら歌うシーンのリハーサル。

 まあ、本番は改めて六月に撮るので、OGHのみんなへのサービス。でも、ちゃんとカメラは回っている。チャッカリ、メイキング用の映像にするらしい。
 流行りのAKBやももクロを、みんなで歌って盛り上がった!

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