大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・59「夏休み編 初めての飛行機」

2020-03-04 07:17:39 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)59

『夏休み編 初めての飛行機』   



 ちょっと心配だった。

 だって、車いすで飛行機に乗るんだよ。生まれて初めての飛行機なんだよ。


 あらかじめググっておいたけど、実際にやってみると、とっても新鮮。
 搭乗前にいろいろあるので二時間前に関空のサービスカウンターに行く。
 関空まではお姉ちゃんのウェルキャブ、この日の見送りのためにお姉ちゃんは休暇をとってくれている。

「あれ、みんなも?」

 車を降りてビックリ。
 啓介先輩、須磨先輩、ミリー先輩の三人も揃って待っていてくれたからだ。
「や、やさしい人たちね(´;ω;`)ウッ…」
 さっそくお姉ちゃんは感動する。ちょっと恥ずかしい。
「早く目が覚めて」
「俺は時間間違えて」
「えと、なんとなくね」
 三人それぞれだけど、わたしのことに気を使ってくれているのはバレバレ。お姉ちゃんも分かっていて、さらにウルウルになってる。
「いつもの車いすじゃないのね?」
「万一故障とかバッテリー切れになったら大変だし、使い慣れてるしね」
 
 いつもの電動車いすではなく、予備の車いす、ジュラルミン製で取り扱いが簡単。電動になる前は、ずっとこれに乗っていたんだよ。

 サービスカウンターに行くと、生まれてこのかたずっと笑顔だったような女性スタッフが搭乗までの流れを教えてくれる。
「まずは、これにご記入ください」
 歩行状況チェックシートを手渡される。
「これを基に、到着までのお世話をさせていただきます。カウンターの中におりますので不明な点がございましたらお申し付けください」
「「「「どれどれ……」」」」
 みんなが覗き込む。簡単なチェックシートなんだけど、やっぱ空の旅ということで、みんなの好奇心は高まっている。
「へー、機内は専用の車いすに乗り換えるんや!」
 みんなジュラルミンにしたのは飛行機に乗るためだと思っていたようね。
 車いす用のトイレの近くの座席、座席の肘掛が可動式なのを確認すると、空港内用の車いすに乗り換える。
「千歳のお尻収まるかなあ……」
 お姉ちゃんが無用な心配するくらい幅が狭い。座席の幅は30センチちょっとしかない。
 無事にお尻を収めて保安検査場に。あらかじめ所持品は分けてあるのでスイスイとチェックしてもらう。
 まあ海外出張なんかに慣れているお姉ちゃんが付いているので問題はない。

「それでは、お体に触れさせていただきます」
「え?」

 係員のお姉さんに言われてビックリ。
 当たり前なんだけどボディーチェックだ。ググってはいたけど抜けていた。
 事故した時にお医者さんに触診されたとき以外、他人に体を触られるのは初めてなのよ。
 十秒足らず、ササッと触られる。
 なんか緊張、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
 こんな緊張してたら、爆弾とか隠し持ってるんじゃないかと疑われるんじゃ……心配になるけど、あっさりOK。

「さ、あとは乗るだけね!」

 ベンチに座ってミリー先輩。ちょっとウェットな気合いが入ってる。
「どうかしました?」
「ハーー、なんだか日本離れるのって寂しいわね……」
 この言葉にみんなが笑う。だってアメリカ人がアメリカに行くのにおセンチになっているのは、やっぱ笑える。
「三年も居ると、もうほとんど日本人なんよね……」
「年に二回は里帰りしとるやないか」
「ハハ、そだよね」
 今度の旅行は、ミリー先輩にとっても特別のようだ。

 飛行機に乗ってビックリ!

 なんと車いすの車輪が外されてしまった。
 ストッパーを掛けられる時の衝撃があったかと思うと、キャビンアテンダントのオネエサンが車輪を外したのだ。
 それでも、車いすはコロコロと押されて行く。
 ひょいと足許を見ると、オモチャみたいな車輪でスムーズに転がっている。
 いつの間に付けた? え、最初から付いてた?
 慣れたアシストで座席まで連れて行ってもらえる。
「あ、えと、えと、おトイレ行っておきたいんですけど」
 ググった時の一番のポイント。あらかじめ行っておかないと、離陸して水平飛行になるまで行けない。
 それに飛行中に手を上げて「トイレに行きたいんです」の意思表示をするのは恥ずかしい。

 トイレから戻ってきてビックリした。

「え、なんで?」

 横の席にはお姉ちゃんが座っている。飛行機って途中下車できないんだよ……。
 

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坂の上のアリスー09ー『呪い殺した』

2020-03-04 07:06:33 | 不思議の国のアリス

坂の上のー09ー
『呪い殺した』   



 エッチャンに説教されていなきゃ声を掛けなかっただろう。

 説教というものはウットーシイものなんだけど、エッチャンの人柄と紙コップのイメージで、どこか温まってしまう。
 温まってしまうと、今度は、その温もりを自分よりも温度の低そうな人間に伝えてやりたくなってしまうから不思議だ。
 でも、綾香がいっしょにいたら、すぴかには声を掛けなかっただろう。綾香は俺以外には熱すぎるくらいのお節介だから、その半分も熱量のない俺の出る幕はない。
 
「綾香はいっしょじゃないの?」

「綾香は下級魔女に呼ばれてるわ」

「下級魔女?」

「修養によって、学校という結界の中において、生徒に対してだけ限定的な低級魔法が使える下級魔族。わたしのような超越魔族ではないから、月に一度給料をもらわなければ魔力を発揮できない哀れな輩よ」

「魔族……ひょっとして先生のことか?」

「そうとも言う」

 めんどくさい奴だ。
「そっか、あいつも成績で呼び出しか」
「じゃなくて、作文の出来がいいんで、PTA新聞に載せるための。低級魔族どもは紙媒体を使わなければ想いを伝えられない」

 もっと素直に言えねえのかあ。
「え、そうなんだ」
 つい自分の尺度で見てしまう。オレが呼び出されるときは説教に決まってるからな。

 綾香の外ヅラは鉄板だ、勉強面でも非の打ち所がない。

 ちなみに、いまは期末テストの前日で学校は午前中。下校時間の真っただ中で、校門付近はごった返している。

「えと……こっちの道行っていいかしら、綾香に教えてもらった道なんだけど」
「うん、いいよ。俺も、こっちの道は好きだしな」
 ちょっと遠回りになるけど、住宅街を通る道で、生徒はあまり通らない。友だちとゆっくりするにはうってつけなので、高校に入学した時に綾香に教えてやった道だ。そのことは言わないでおく。

 人通りが少なくなると、すぴかの緊張がほぐれていくのが分かる。やっぱ、学校はしんどいんだ。

「あのさ、病院から戻ってきて、言ってたよな、前の学校で人を殺したって……あれって、たとえ話ってか、キャッチフレーズみたいなもんなんだろ。マダムキラーとか悩殺ウインクみたいな」
「なにを読迷いごとを。本当に殺してしまったのよ、文字通り息の根を止めてしまいまったわ」
 
 言葉が出ねえ、こいつ、マジもんの中二病だ。

 閑静な住宅街に二人の靴音だけが、やけに響く。

 いや、いつのまにかかそけき足音が一つ加わっている。

『ニャーーー』
 すぴかの足元を黒猫がまとわりつくようにして歩いている。いつの間に? ギクッとする。
「わが使い魔。まだ見習いだけど」
『ニャー』
「名前は、まだない」

「え?」

「使い魔が言ってるの」

「この近所の猫?」
「いいえ、わたしの使い魔」
「でも、きれいな首輪してるよ」
「いいえ、チョ-カー。我が僕(しもべ)のしるし」
 野良猫とは思えない。毛並みは艶やかな黒、チョーカーとかいう首輪は赤、それに左の耳の先がV字型に切れ込んでいる。
「その切れ込みは、我がしもべのしるしよ」

「え、おまえが切ったのか!?」

「下等動物なりに魔族属性が満ちてくると耳に切れ込みが入る。切れ込みが入れば、念を送って服従の儀を執り行う。もう少し修行すれば、人語をあやつり、化けるようになるわ」
『ニャー』
「よろしくって言ってる」
「あ、ああ」
「わたしは人を殺した。呪い殺した」

 繰り返しやがる

「呪い殺す……?」
「殺すつもりは無かった。でも、戒めを解かれた我が魔力は奔放で、制御すること能わず……二人は魔天使ジブラの使い魔だったけど、この現世では、人の子であり、高校生だった」
『ニャー』
「未熟なわたしは、力を制御できずに殺してしまった……」
 俺たちは住宅街の外れまできていた。ここからは二車線の一本道だ。
「信じられないという顔をしているわね……わが技の一端を見せてやろう……」
 
 なにやら呪文を唱えながら右手を口元にもっていき「エイ」と小さく掛け声をかけ、一歩前に踏み出し、切るようにして振り上げた。

 ええ!?

 なんと、一本道の見はるかす限りの信号が全て赤になった!

 

  ♡登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 


 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

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ここは世田谷豪徳寺・30《これでいいのか あたしの青春?》

2020-03-04 06:23:47 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・30(さくら編)

《これでいいのか あたしの青春?》   

 

 


 その項目でシャーペンが止まってしまった。

 今日のホームルームは、高校の一年間を振り返っての意識調査だ。授業内容、好きな教科、食堂のメニューで好きなもの。盛りだくさんの項目があって、最後の項目でシャーペンが止まってしまったのだ。

○:あるとしたら、あなたの生き甲斐、または目標はなんですか(例:部活とか)

 あたしの人生の目的。十六歳になるまでは、帝都女学院に入ることだったし、入ったことで満足していた。
 でも、学校生活に満足してしまうと……何もない。
 数少ない親友の佐久間まくさは茶道部。うちの茶道部は裏千家と表千家の両方がある。まくさは裏千家の方だ。カンニングすると「お茶の師範になること」と書いている。根性入ってるなあ……。
 山口恵里奈は、バレ-ボール一直線。将来は女子バレーの日本代表に選ばれて東京の次のオリンピックに出たいというのだから恐れ入る。
 帝都は部活が盛んな学校で、なんの部活もしていないのは、一部の進学特推コースの子たちぐらいのもの。

 あたしも、入学当初はあっちこっちの部活に体験入部してみたけど、どれも相性が合わない。茶道部は足が痺れただけ。軽音は150人という部員数に圧倒されただけで帰ってきた。引っ込み思案の性格を直すために演劇部にも足を運んだが、こちらは部員がたった4人で、あまりのショボさにガックリした。
 そんなこんなで、一年の三学期まで、帝都では珍しい帰宅部になり果てている。

 なんか趣味を生かしたことないかなあ……。

 兄貴は海上自衛隊に入って、ドップリと生き甲斐に浸っている。
 姉貴のさつきは、大学に入って文学と映画に没頭。他にも大学で世界が広がって楽しそう。
 過渡期とか、モラトリアムとか開き直ってもいいんだけど、姿勢として逃げているようでイヤだ。

 イヤだと言っても、生き甲斐なんて学校の購買部でも売ってないし、なんでも手に入るネット通販でも、こればかりは無い。

 しょぼくれていると、まくさと恵里奈がカラオケに誘ってくれた。

 好きと言うほどではないけど、月に一遍ぐらい発作的にカラオケにいくことがある。
半分ぐらいは一人カラオケ。喉が潰れるくらいに歌いまくって十六歳のウップンを晴らしている。あとの半分は、今日みたく人に誘われて歌いまくる。人というのは、たいがいまくさと恵里奈。ただ二人とも部活があるので、なかなかいっしょに行く機会がない。
 で、今日は放課後電気工事のため全校停電。従って部活もない。

 停電するんなら充電だ!

 ということで、学校から歩いていけるまくさの家で着替えて渋谷を目指した。
 なじみのSカラというカラオケ屋で二時間歌いまくった。AKB、乃木坂、ももクロに集中した。なんたって三人いっしょに歌える。以前から三人の課題であった『恋するフォーチュンクッキー』のフリもカンコピして、意気揚々と渋谷の街に。

 歩いて二分ほどで事件に出くわした。

 歩きスマホのオッサンと、自転車スマホのネエチャンが衝突。双方大した怪我はしていないけど、悪いのは相手だと言いつのっている。
 人のケンカが楽しいのは江戸っ子の性(さが)下がって見ているなんて出来ずに最前列に。野次馬は両者に別れて応援したりやじったり。お巡りさんが仲裁に入っているが、ラチがあかない。
「がんばれオジサン!」
 あたしは、カラオケの高揚感を引きずったまま、オネーチャンが気にくわないという理由だけで、オッサンを応援した。

「あなたたち帝都の子ね」

 横から声をかけられた。いっしゅん学校の生指の先生かと思ったが、すぐに分かった。
 二年生で、おもいろタンポポの名前でユニットを組んでアイドルをやってる原鈴奈だった。
「うちの事務所の人が、あなたと話したいって」

 鈴奈の目線は、まくさでも恵里奈でもなく、あたしに向けられていた……。

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