大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:020『今度はコイントスに逆らって』

2020-03-10 15:34:11 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:020

『今度はコイントスに逆らって』  

 

 

 ここらへんから面白くなる。

 アニメとかラノベだったらね。

 

 お隣りの小林さんともお喋りしたりクッキーをもらったり、ペペロンチーノこさえたら、匂いが伝わって、小林さんも作ったり。

 行きつけのパン屋さんでも、お祖母ちゃんの忘れ物がきっかけで、試作の胡桃パンをいただいたり。

 あとは放っておいても、箱庭的日常系のドラマが始まりそう。

 

 だけど、わたしのコミニケーション能力では、ドラマのようにはいかない。

 

 ここ三日ほど、タイミングが合わずに小林さんとは言葉を交わしていない。用事もないのにドアをノックする根性はないんだ。

 パン屋さんにも行ってるけど、相変わらずお客さんが多くって、個人的な話なんかできないでいる。

 図書館は、あいかわらず休館だしね。

 

 コイントス。

 

 表が出たら外に出る。裏が出たら家でアニメでも観る。

 えい!

 今度は手から零れることも無かった。抑えた右手をどけると……裏だ。

 でもね、わたしは出かけることにした。ちょっとね、運に逆らってみた。

 オキニの赤いフリースをひっかけて自転車を漕ぐ。

 で五分も行くと、チョー田舎。

 住宅なんか無くなって、農家がチラホラ見える。道は三叉路になって、右に『ーー街道』の石柱。左に行けば農家のチラホラに向かって畑中の道が伸びている。

 ちょっとだけ自転車を停めて悩む。

 農家のチラホラに行ってもいいんだけど、全然面識がない。

 でも、こういうのって克服しないと、ずっと苦手なままになりそう。

 

 ププー

 

 後ろでクラクション。

 慌てて自転車ごと脇に避ける。

 二トンぐらいのトラックが追い越していく。運転席も荷台にも一見して外人ぽい男の人たちが乗っていて、追い越しざまに、わたしに一瞥をくれる。中には白い歯を見せて、ピースサインする人も……服装は薄緑の作業着……農家で働いてる外人さんたちだ、わたしを追い越して、なんだか笑い声がする……おちょくられた?ひょっとしたら不法就労? ネットで聞きかじった情報が、頭の中を駆け巡ってドキドキする。

 とっさに地面を蹴って三叉路を右に進む。

 進むと、微妙な上り坂でペダルが重くなる。

 道らしい地面が見えていたのは、ほんの五十メートルほどで、じきに獣道のような心細さになる。

 足元に気をとられていると、両脇は雑木林のようになって見通しが悪くなる。

 道は、草叢とも雑木林の下草ともつかないものになってきて、ちょっと見通しが苦しい。

 ガクン

 一瞬ペダルが軽くなったかと思うと……自転車ごと路肩を踏み外してしまった!

 

 グワーーーー!

 

 女の子らしくない唸り声をあげて、転がり落ちていくところまでは……意識があった。

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・65「夏休み編 思い出のサンフランシスコ・3」

2020-03-10 06:51:14 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)65

『思い出のサンフランシスコ・3』   



 日本から来られたんですか?

 テーブルに案内してくれたオネエサンがにこやかに聞いた。
「はい、今日から三日ほど」
 我ながら愛想よく答える。
 学校では不愛想とかツンデレのデレ抜きとか言われるわたしだけど、この旅行に来てからは違うんだ。
「それはそれは、その最初のディナーに当店を選んでいただいてありがとうございます」
 笑顔には笑顔が返ってくる。
 ま、いいことなんだけど。日本に帰ってやろうとは思わない。
 
 そんなわたしは松井須磨。六回目の三年生をやっている二十二歳の女子高生。
 なんか文句ある?

 ジェファソンホテルのフロントさんの勧めでチャイナタウンの中華飯店に来ている。

 手違いでディナーが間に合わないので「お箸の使えるところ」と注文を付けた。
 とにかくホテルから歩いて三分。
 坂道の多いサンフランシスコだけど、この飯店には等高線をたどるような水平移動で済むのでありがたい。
 千歳には悪いけど、車いす押しての坂道移動はちょっと無理。ホテルまではグリーンエンジェルスのボランティアに出会えてラッキーだったけど、それはただの幸運。

 メニューが漢字なのはありがたい。字面を見ればどんな料理か見当が付く。

 中華風御刺し身、スープ、チャーハン、五目麺、酢豚、海老のなんちゃら揚げ、と続いたところで変なのが出てきた。
「なんですか?」
「フォーチュンクッキーになります」
 オネエサンがにこやかに出してくれたのは、こんなの。 

        

「わたしが注文しました!」

 千歳が小学生みたいに手を上げる。

 グリーンエンジェルスにお礼のストラップを渡したのといい、このフォーチュンクッキーといい、こっそりやることの名人なのかもしれない。
 そう言えば、部室でお茶を出してくれるタイミングには絶妙なものがある。
 わたしの八年間の高校生活はロクでもないが、千歳にとっての四カ月余りの高校生活は宝物なのかもしれない。
「これだけやったら、辞めても問題ないんじゃない?」
 部室棟取り壊しでゴタゴタしていたころに千歳に聞いたことがある。千歳は学校を辞めるための口実を得るために名ばかりの演劇部に入って来たんだ。だから、これは意地悪な質問ではない。
「え、え、えーーー、そ、それはですねーー」
 顔を真っ赤にしてアワアワしていた。常日頃口出しなんかしない啓介が「先輩」と一言わたしをたしなめた。
 ちょっと面白いので、いすを並べてのお昼寝で微妙に足を崩してやる。啓介の位置からだと……たぶん見える。
 パソコン相手に二次元にしか興味の無い奴だけど、これにはさすがに視線を感じた。
 ヌフフ……ほくそ笑みながら寝返りを打ったところで啓介は鼻血を流した。
「啓介先輩!」
 千歳は甲斐甲斐しくティッシュを取り出したんだよね。

 ミリーも最初はひいジイサンだったかのデザインによる部室棟の解体修理が一番よく見えるということで入部したんだけど、
 今じゃ達者な日本語で愉快に話の輪の中に入ってくる。
 今度の旅行だって、友だちの多い中で我々演劇部を選んでくれたのも、彼女なりに楽しいからだと思う。

 だいいち人間嫌いなわたしがね、こんな感想をいだくってのは凄いことなんだと思うのよ。

「キャ-、旅先で良いことがあるでしょうだって!」
 ミリーがくじを見て喜んでいる。
「旅先って、アメリカはミリーの故郷でしょうが」
「それはね、大阪の人間が青森あたりで『おまえの故郷だろーが』って言われるようなもんよ」
 正しい答えなので、ニヤニヤ笑ってごまかしておく。
 千歳と啓介は揃って『近々良いことがあるでしょう』
 で、わたしは『思いがけぬ出会いがあるでしょう』
 ちょっと、色っぽい出会いか!?

 期待したら声が掛かった。

「ちょ、松井先輩じゃないっすか!?」

 ギクリトして振り返ると、後ろのテーブルに居たではないか!

 生徒会副会長の瀬戸内美晴がーーーーーーー!?

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ここは世田谷豪徳寺・36《Takoumi Reotardとの出会い》

2020-03-10 06:44:00 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・36(さつき編)
《Takoumi Reotardとの出会い》   

 

 


 Takoumi Reotardと書いて、タコウミ レオタードとは読まない。

 後期試験も終わり、ボンヤリしていた。

 このボンヤリには原因がある。世田谷の成人式の様子を見ていて、あたしの中で何かが切れた。サトコちゃんとの抜け殻論も影響している(第27回メタモルフォーゼ)かも。
 そして、わが愚妹のさくらが、どういうわけか、一カ月足らずで女優兼モデルのハシクレになったこと。

 さくらは、女の子を十人集めたら八番目ぐらいの子。けして道行く人たちが、すれ違いざまに振り返るようなミテクレではない。それが渋谷でネーチャンとオッサンのケンカを見ているときのビックリ顔がスカウトの目に止まり、持ち前の「その場しのぎ根性」も幸いして、エキストラながら本番中にかましたアドリブが、主役や監督の目に新鮮に映り、にわかに、それらしくなってしまった。

 ついこないだまでは、佐倉さんちは「やっぱお姉ちゃん!」で、二十歳の、この歳までやってきた。それが、たった三週間あまりで、このありさま。別に女優だからいいとは思わない。あのボーっとして魂のありかが分からないような愚妹の目がキラキラ輝きだしたことが、あたしの姉としてのプライドを……。

 そんなことをポワポワ考えている間に、信号を読み違えた。

 なんと、反対の道路の青信号を、こっちの青信号と見誤って渡ってしまった! 当然の如く、あたしは車に跳ねられた。

 ドン

 跳ねた車が目の前に見えた。四駆の迷彩車体、バンパーに立川の文字。ああ、よりにもよって自衛隊員の妹が自衛隊の車に跳ねられるとは……。
 すると、車から外人さんが降りてきた。直感で、フランス人と思ったのは、第二外語がフランス語であることや、クレルモン大への留学を考えていたせいかもしれない。だって、ありえない、フランス人の自衛隊員なんて……。

「Vous est-ce qu'un Français est pourquoi? (なんで、フランス人が?)」
「Est-ce qu'il n'y a pas toute blessure? (怪我はしてませんか?)」

 そこで、意識が飛んだ。気が付いたら病院のベッドだった。

「Il est-ce qu'un hôpital français est ici?(ここは、フランスの病院?)」
「C'est un hôpital japonais. (日本の病院)Vous est-ce qu'une personne d'un pays est de cela qui? (君はどこの国の人?)」
「Il est un japonais.(日本人よ)」
「C'est vrai!?  ああ、なんだ、フランス語を喋るアジア系の外国人だと思ってた!」
 と、へんなフランス人が、日本人の表情で言った。
「おい、レオタード、ちょっと」
 三尉の階級章をつけた幹部が、彼を呼んだ。入れ替わりに一尉の幹部の人が入ってきた。
「部下の不始末、申し訳ありません」
「いいえ、あたしが赤信号で飛び出したのがいけないんです。あの人のせいじゃありません」
「いや、どんな場合でも自衛官たるもの即応できなければなりませんから」
 その時、彼が緊張した顔で入ってきた。
「これから現場検証に臨場いたします。お嬢さんには、改めて……」
「あ、あたしもいきます!」
「いけません。貴女は念のため二十四時間安静です!」
「じゃ、せめて名前を」
「……です。じゃ」
 早口で分からなかった、それを察して一尉の幹部の人がメモに書いてくれた。
――Takoumi Leotard ――
「タコウミ レオタール……?」
「あ、タクミと発音します。父がフランス人で、母が日本人です」
「あ、それで。あ、どうぞお楽にしてください。わたし自衛隊のことは理解しています。兄が海上自衛隊なんです」
「あ、そうなんですか」
 緊張は崩さなかったが、明らかに親近感が目に浮かぶのが分かった。

 これが、緊張一尉さんと(なんたって、下の名前言うの忘れてる)一等陸士タクミとの出会いだった。

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坂の上のアリスー15ー『聖地巡礼・3』

2020-03-10 06:33:35 | 不思議の国のアリス

坂の上のー15ー
『聖地巡礼・3』   



 

 入店前に気合いを入れた理由がよく分かった。

 十階建てのラジオ会館は、覚悟と自制心を失くすとオタクの底なし沼に嵌ってしまうパンドラの箱だ。
 
 一階のギフトショップはすでにプチパンドラ。アキバ関連グッズのみならず東京土産の主だったものがズラリと品揃えされている。
「ここでテンションを上げていたら身が持たないわ、サラッと見るだけよ」
 アキバグッズの色々に目を奪われているあたしに、すぴかは指導を入れてくる。
「さ、いくわよ」
 サラリと言うと、すぴかはエスカレーターに軽々と乗った。聖天使の衣がフワリと戦ぎ、純白の翼が小さく羽ばたいて、たった今、天界から降臨したように思え、居合わせたオタクたちが一斉に息をのんだほどだ。
 
 そして、パンドラの箱の内側はすぴかの言葉通りだ。

 二階から上は、トレーディングカードから始まってカードゲーム、サングラス、スマホ関連グッズ、レンタルショーケース、フィギュア、面白グッズ、ラノベ・コミック・ゲーム関連に特化した書店、カプセルトイ、アイドル関連グッズ、ロボット、オーディオ、プラモデル、ドールなどのテナントがひしめいている。

「ふーん……そっか……なるほど……そーね……やっぱり……うむ……えーと……そうだ……」

 薄い興味を示すだけで、グッズを手に取ることも無く、五分ほどで実質上の最上階である七階に着いてしまった。
 ひょっとしたら、聖地アキバへの飢餓感だけがあって、実際に来てみれば、想いに見合うグッズが見当たらないのかと思った。そうなると、あとのフォローが大変だなあ……と、密かに覚悟した。

 グキ! ポキポキ!

 何の体操かと思ったら、すぴかの首と指が鳴った。

「じゃ、遅れないように付いて来てね……」
 そう言うと、脱兎の勢いで下りのエスカレーターを駆け下りるすぴか。あたかも天下る天界の聖戦士!
「あ、待って!」
 聖天使ガブリエルのコスは伊達じゃなかった。アキバの住人たちはオタクや腐女子やアキバ系などと呼ばれるけども、基本的な姿は常識から大きくは外れていない。ガッツリ決めた天使の羽根付きの甘ロリは目立つ。何度か見失ったけど、数秒後には発見できた。すぴか、いえ、聖戦士の居場所にはオーラがある。あたしも、暗黒天使の黒ゴスロリ。三回に一回は純花の方から発見してくれている。

「いつの間に、そんなに買ったの!?」

 一階に下りた時には、両手にアニキャラが印刷された紙袋、背中にはアキバネイティブ御用達のリュック。リュックの口は半ば寛げられていて、六本余りのゲームキャラのポスターが突っ込まれていた。
「上りの時に当たりをつけて、買う時は一気呵成に行くのが聖天使よ」
 体育の授業では、すぐに顎を出すすぴかは息も乱さずに涼しげな顔。あたしは人あたりとグッズ酔いでヘゲヘゲ、暗黒天使のコスの襟や腋は汗でジットリしている。
「こっちの紙袋、一番上のレジ袋取ってくれる?」
 右手に下げた二つの紙袋を器用にさばいて、レジ袋を示した。
「えと……これ?」
 レジ袋の中には、二つのフィギュアのパッケージが入っている。
「その黒のゴスロリの方を、我が眷属に渡しておいて」
「え……あ、これって、すぴかに似てる……てか、ソックリ!?」
「そりゃそうよ、わたしのデータを基に3Dプリンターで作った特注品。聖天使ガブリエル尊像だもの」

 涼し気な顔で言う純花だけど、目の底には、怪しい炎が揺らめいていた……。

 

 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

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