オフステージ(こちら空堀高校演劇部)72
一日ボーっとしていた。
時差ボケもあるんやろけど、アメリカで過ごした四週間ちょっとが頭と体の両方でハジケてしもて、どないもならんかった。
例えて言うと、小三のころ初体験したポップコーン。
コンビニとか映画館で売ってる完成品と違て、カラカラに乾燥させた粒々の方。
親父が買うてきて、留守のお袋に代わって作ろうとした。
フライパンにバターを溶かしてポップコーンのタネをザラザラぶちまける。
蓋をして弱火で加熱すること二分半。それは爆発的に起こってしまった。
ポン ポン ポポポン ポポポポポポポポポポ ボッコーン!!
フライパンの中で爆ぜまくったポップコーンはトドメに大爆発して、家中にポップコーンが飛び散った。
あれと相似形の感覚と驚きや。
爆発はやり残していた夏休みの宿題を見た時、ミリーの言葉を思いだした。
――アメリカの夏休みは三カ月よ。六月七月八月、うん、もち連続。宿題? なんで? そんなものあったら休みにならないでしょ!?――
そう言いながら、しっかりやり遂げてしまうのが留学五年目『郷に入れば郷に従え』のミリー。
俺は、ミリーの後半の言葉を意識の底に沈めて、こう叫んだ。
やってられるかーーーーー!!
叫んだだけではいつもの夏休み、俺は一計を案じた。あのミリーも、この夏休みは宿題どころやなかったやろ、なんせ長期のアメリカ旅行に行ってたんやさかい。
「ちょっと、なんやのんこれは!?」
教壇に立った姫ちゃん先生も叫んだ。
教卓の上にはパンパンに膨らんだ通学カバンに体操服入れの袋、それから総重量三キロは有ろうかという紙袋。
「新学期の初日に必要なもの全部そろえたらそうなるんです」
「もー、とにかくじゃっま!……うう、重いいいいい」
「先生らは一人一人勝手に宿題やら持ってくるもんを『こんなもんやろ』と指定するんやろけど、まとめるとそれだけになるんです。この残暑厳しき折に、まさに拷問やと思いませんかあ?」
「そうやねえ……」
姫ちゃんは腕を組んだ。
こういう時にまともに反応するところが姫ちゃんのいいところや。
声にこそ出せへんけど――そーやそーや――の雰囲気が教室に満ちる。
「アメリカの学校は三か月の夏休みで宿題なんかはカケラも無いんですよ」
「そうや、啓介夏休み中アメリカ行ってたんやなあ」
セーヤンが思い出す。
「じっさい向こうの高校生から聞いた話なんですよ」
「なるほどね、勉強してきたいうわけやねえ……しかし偉いね、小山内くん、新学期初日に宿題やりとげて、これだけの荷物担いでくんねんもんねえ……」
「あ、センセ、ちょ……」
姫ちゃんはおもむろに宿題の袋を開き始めた。
「ん……どれもこれも白紙に見えるんやけど……?」
「あ、せやから、全部集めたらこうなるいう見本で」
「こうなるいうこと見せても、宿題やれへんことの免罪符にはなれへんからね」
「いや、せやから……」
「そういや、ミリーもいっしょに行ってたんやね?」
「はい、行ってました。あ、クラスのみんなにお土産です。少ないけどみんなで食べて」
ミリーはマカダミアナッツチョコの箱を二つ取り出した。
さすがはミリー!
ミリー称賛の声が教室に満ち溢れた。
「で、ミリー宿題はどないしたんや?」
小声で聞くと、ニンマリ笑ってささやいた。
「やったよ、今日持って来なくても、みんな最初の授業で出せばいいんだから」
「な……!」
「ニヘヘヘ……」
「ちょ、あとで見せて……」
「宿題は自分でやんなさい!」
姫ちゃんは無情に宣告するのであった。