大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・72「やってられるかーーーーー!!」

2020-03-17 06:42:30 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)72

『やってられるかーーーーー!!』   



 一日ボーっとしていた。

 時差ボケもあるんやろけど、アメリカで過ごした四週間ちょっとが頭と体の両方でハジケてしもて、どないもならんかった。

 例えて言うと、小三のころ初体験したポップコーン。

 コンビニとか映画館で売ってる完成品と違て、カラカラに乾燥させた粒々の方。
 親父が買うてきて、留守のお袋に代わって作ろうとした。
 フライパンにバターを溶かしてポップコーンのタネをザラザラぶちまける。
 蓋をして弱火で加熱すること二分半。それは爆発的に起こってしまった。

 ポン ポン ポポポン ポポポポポポポポポポ ボッコーン!!

 フライパンの中で爆ぜまくったポップコーンはトドメに大爆発して、家中にポップコーンが飛び散った。
 あれと相似形の感覚と驚きや。

 爆発はやり残していた夏休みの宿題を見た時、ミリーの言葉を思いだした。
――アメリカの夏休みは三カ月よ。六月七月八月、うん、もち連続。宿題? なんで? そんなものあったら休みにならないでしょ!?――
 そう言いながら、しっかりやり遂げてしまうのが留学五年目『郷に入れば郷に従え』のミリー。

 俺は、ミリーの後半の言葉を意識の底に沈めて、こう叫んだ。

 やってられるかーーーーー!!

 叫んだだけではいつもの夏休み、俺は一計を案じた。あのミリーも、この夏休みは宿題どころやなかったやろ、なんせ長期のアメリカ旅行に行ってたんやさかい。

「ちょっと、なんやのんこれは!?」
 教壇に立った姫ちゃん先生も叫んだ。
 教卓の上にはパンパンに膨らんだ通学カバンに体操服入れの袋、それから総重量三キロは有ろうかという紙袋。
「新学期の初日に必要なもの全部そろえたらそうなるんです」
「もー、とにかくじゃっま!……うう、重いいいいい」
「先生らは一人一人勝手に宿題やら持ってくるもんを『こんなもんやろ』と指定するんやろけど、まとめるとそれだけになるんです。この残暑厳しき折に、まさに拷問やと思いませんかあ?」
「そうやねえ……」
 姫ちゃんは腕を組んだ。
 こういう時にまともに反応するところが姫ちゃんのいいところや。
 声にこそ出せへんけど――そーやそーや――の雰囲気が教室に満ちる。
「アメリカの学校は三か月の夏休みで宿題なんかはカケラも無いんですよ」
「そうや、啓介夏休み中アメリカ行ってたんやなあ」
 セーヤンが思い出す。
「じっさい向こうの高校生から聞いた話なんですよ」
「なるほどね、勉強してきたいうわけやねえ……しかし偉いね、小山内くん、新学期初日に宿題やりとげて、これだけの荷物担いでくんねんもんねえ……」
「あ、センセ、ちょ……」
 姫ちゃんはおもむろに宿題の袋を開き始めた。
「ん……どれもこれも白紙に見えるんやけど……?」
「あ、せやから、全部集めたらこうなるいう見本で」
「こうなるいうこと見せても、宿題やれへんことの免罪符にはなれへんからね」
「いや、せやから……」
「そういや、ミリーもいっしょに行ってたんやね?」
「はい、行ってました。あ、クラスのみんなにお土産です。少ないけどみんなで食べて」
 ミリーはマカダミアナッツチョコの箱を二つ取り出した。

 さすがはミリー!

 ミリー称賛の声が教室に満ち溢れた。
「で、ミリー宿題はどないしたんや?」

 小声で聞くと、ニンマリ笑ってささやいた。
「やったよ、今日持って来なくても、みんな最初の授業で出せばいいんだから」
「な……!」
「ニヘヘヘ……」
「ちょ、あとで見せて……」

「宿題は自分でやんなさい!」

 姫ちゃんは無情に宣告するのであった。
 

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坂の上のアリスー22ー『墓参り奇譚・2』

2020-03-17 06:33:17 | 不思議の国のアリス

坂の上のー22ー
『墓参り奇譚・2』   


 

 

 二人に言ったけど、信じてもらえなかった。

「フ……今日はとびきり暑いからな」
 真治のバカにしたような憐れむような反応は、まだよかった。
「亮ちゃんが責任感じることはないのよ……わたしの人工呼吸が間違えていたことが、そもそもの原因なんだから、わたしが悪いんだから……」
 一子に落ち込まれるのは堪える。
「そ、そだな、暑すぎるから、きっと陽炎かなんかを脳内変換しちまったんだわ。すまん、今のなし。あとで冷たいもんでも奢るわ」

 そして、俺たちは根岸家先祖代々の墓の前に立った。

「おい、お墓の前まで来てスマホ出すなよ」
 手を合わせようとしたら、真治がスマホを出したので、一言言った。
「ちがうよ、こうするんだ」
 真治は、墓石の中段にスマホを立てかけた。
「あ……」
「なるほど」
「バーチャルお線香ね」
 スマホの画面には線香が映っていて、ユラユラと程よい煙が上がっている。
「わたしもやってみる」
 静香は、スマホを操作してお供えの花を出した。
「じゃ、俺も……」
 俺は、お供えの饅頭を出し、三つのスマホが墓石の祭壇に並んだ。
 俺たちは墓参りに来たことを悟られてはいけない。根岸さんのご両親にしてみれば、娘の命を奪った憎い三人組なんだから。
 

 こんな俺たちを叱るのか慰めるのか、墓地の蝉が鳴きはじめる。いや、蝉って早朝から鳴いているもんだから、気が付かなかったのか? 

 墓参りを終えて駅前に戻る。

「どうせなら、地元にしかないものがいいなあ」

 一子の一言でコンビニに入るのを止め、ぐるりと首を回し、道の反対側に目についた茶店に向かう。
 茶店は昭和どころか時代劇のセットみたいな佇まい。おそらく前の道路が旧街道であったころかのものなんだろう。
 メニューではなくてお品書きと書かれた中から、だだちゃ餅とだだちゃアイスを注文。
 注文したものが出てくるまで、サービスの麦茶をすする。
 最初の一杯をグビグビと飲み干してしまったので、店先のヤカンへ注ぎに行く。
「お……あれは?」
 日陰を拾うようにして、見覚えのあるワンピにツバ広の帽子が歩いているのが目に入った。

「お、おい、あの子だよ!」

 俺の声に、静香と真治が尻を浮かせた。
「ほら、根岸さんだよ!」
 俺の声に合わせたように「根岸さん」は時刻表を見上げたので、顔が露わになった。
「「ああ……」」

 可愛い顔はしていたが「根岸さん」は本物とはかけ離れていた。
 やっぱ、暑さにやられていたんだろうか……。

 

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

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ここは世田谷豪徳寺・43《現実版 はがない・4》

2020-03-17 06:21:14 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・43(さくら編)
《現実版 はがない・4》   



 

「わたしの『はがない』は『私は故郷がない』でもあるんだよ……」

 はるかさんは、ミゼラブルなことをサラリと言った……。

「分かるような気がします」
 軽く相づちを打つように返事した。
「簡単に分からないでよ」

 厳しい反応が返ってきた。あたしはたじろいでしまった。

「あ、ごめん。きつく聞こえたかな?」

 すぐに、もとの笑顔で自分をフォローした。あたしは、たじろいだけど、厳しいはるかさんを近く感じ、笑顔のフォローを遠く感じた。で、感じたまま返事をした。

「きつくても、ありのままのはるかさん……いいですよ」
「いいアンテナしてるね、さくらちゃんは。まどかといい勝負。ただ、あの子は忙しいからね……あ、そういう意味じゃないのよ」
「いいえ、はるかさんの言う通りだから気にしないでください」
「ありがとう……」
 はるかさんは、あたしの手に自分の手を寄り添うように重ねた。
「はるかさんは、成城、南千住、大阪の高安、で、南千住に戻って、今は港区なんですよね。四回も引っ越したんじゃ……」
「回数じゃないの、たとえ短期間でも、そこに人間関係が残っていれば、そこが故郷。わたしは、引っ越しのたんびに人間関係が切れてきちゃったから……そういう意味で故郷がないの」
「苦労したんですね」
「もっと歳とれば、こんなの苦労なんて思わないのかもしれないけど、半人前のわたしには堪えます。本当なら南千住が故郷っちゃ、故郷なんだけどね」
「まどかさんも、おっしゃってましたね」
「お父さんが再婚しちゃってね。でも、いい人よ。あたしも東京のお母さんて呼んでる。このお母さんも、あたしには良くしてくれるの。でも、弟が生まれてからは……微妙に違うのよね。うまく言えないんだけど、弟が生まれる前と後で、お父さんも、東京のお母さんも、なにも変わらない。ちゃんと娘としてわたしを扱ってくれる。でも、変わらないことに無理を感じるの。ほんとのほんとの心じゃ、弟の方がかわいい。それでいいと思うし、実際二人の気持ちは、そうなんだ。だけど、普通に接してくれる、その普通は演技なんだ。悪い意味じゃないよ。でも……どこかで、わたしに済まないって負い目感じながらの普通なの。だから、仕事上便利ってことで、わたしは引っ越したの」
「それって、エア家族だったんですね?」
「ハハ、上手いこと言うわね」
「あたしの言葉じゃないんです『はがない』ってラノベで三日月夜空って子がエア友達で満足してるのを主人公が見てドラマが始まるんです。生きた人間がエアにされたら、辛いと思うんです」
「なるほど、ラノベっていっても馬鹿にできないわね……それって、実写版やってたわよね?」
「ええ、やってます!」

 あたしは、裏の四ノ宮兄妹も誘って、四人で渋谷にくりだした。

 ラストじゃ、ちょっと引いてしまったけど、おおむね「アハハ」と笑って見ることができた。撮影現場が想像できるあたしとはるかさんは「スタッフ大変だったろうね」と言う意見で一致した。
 で、マックで休憩したあと、カラオケへ。そのころには、はるかさんと四ノ宮兄妹もうち解けていた。

 カラオケでは、歌うどころか、人間の孤独についての懇談会になってしまった。

「ぼく達なんか、人間の存在としてエアーですよ」
 元華族のチュウクンの話には、はるかさんは、いたく感動していた。
「こうやって、語り合えたことで、あたしたちはエアじゃなくて実存としてのお友達になれたと思います」
 篤子ちゃんが、深く無垢な笑顔で、そう言って、はるかさんも笑ってくれた。

 そうして、あたしたちは、はがなくなくなってきたことを実感したのだった。

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