大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・64「夏休み編 思い出のサンフランシスコ・2」

2020-03-09 07:08:00 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)64

『思い出のサンフランシスコ・2』   



 見かけで判断したらあかん。

 とはいうものの、身長190は有ろうかというような黒人のニイチャン二人。
 こっちは一番背高い俺でも、やっと170。生物的にビビッてしまう。

 以前、散歩途中のチワワが大型犬に出くわして、恐怖のあまり腰を抜かしてオシッコちびってるとこに出くわした。
 あの時のチワワの心境。

 え あ う……

 母音が三つほどの返事とも言えん声を上げていると、ニイチャンらは荷物をふんだくり、千歳の車いすを押し出した。

 あ えと ちょ ヘイ 四人が四つの単音節を発して後を追う。

 最悪の事態がアレコレ頭をよぎるが、情けないことに走って後に続くことしかでけへん。

 で、結局は無事にジェファソンホテルの前まで連れて行ってくれた。
 これはお礼を言わならあかんと思たけど、とっさには言葉が出てけえへん。
 ニイチャンらの言葉は訛があって、ミリーもとっさには分からんみたいやった。

「たぶん高校生のボランティアでしょう」

 ジェファソンホテルのフロントのおばちゃんが言う。
 アメリカの学校も夏休みやけど、日本と違って二か月もあって、ボランティアに勤しんでる者も多いとのこと。
「こういう恰好していませんでしたか?」
 おばちゃんは壁に幾つもかかってるパンフの一つを指さした。
 緑色のTシャツの胸に英語でなんや書いてある。
「あーグリーンエンジェルス」
 ミリーが思い当たったように安堵のため息をもらす。で、おばちゃんと意気投合して英語でやりとり。
 どうやら、観光客や困ってる人らを助ける高校生のボランティアであるらしい。
 やっぱりキチンとお礼言うべきやった。
「わたしお礼渡しといたよ」
 表情を読んだのか千歳がドヤ顔。
「え、いつの間に?」
「何を渡したの?」
「キャリーに付けてたビリケンさんのストラップ」
「いつのまに、そんなコミニケーションを」
「うん、車いすを押してる感触に悪意が無かった」
「でも、場所によっては……」
 おばちゃんはハザードマップのようなものをくれた。
「なるほど、用心に越したことはないわけね」
 須磨先輩が真面目な顔で、もう三枚もらってみんなに分けてくれる。

「それから……」

 キーをもらって部屋に行こうとすると、おばちゃんが声をかけてきた。
「時間が遅いので、夕飯が用意できません……」
「「「「えーーー」」」」
 四人揃って声をあげる。
 驚いたというよりも、おばちゃんの一言でお腹が空きまくってたことに気が付いてしまった。
 とたんに体中の力が抜ける。

 サンフランシスコ初日の夕べはレストラン探しから始まった。
 

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ここは世田谷豪徳寺・35《さくら女優になる》

2020-03-09 06:59:13 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・35(さくら編)
《さくら女優になる》   

 


 一機のゼロ戦がグラマンに追いかけ回されている。

 そこに、お寺の鐘が一発ゴ~ンと鳴り、グラマンが落ちていく。

 カットバックで、お寺の鐘が金属供出で運び出される供養。お寺の鐘は、その撞き収めだった。そして、上空では、グラマンを仕留めたゼロ戦が、助けられたゼロ戦に寄っていく。
 供養に集まった村人や疎開児童たちは、引き下ろされる鐘からゼロ戦に目がいき、大拍手。
 一人涙にくれる住職の池島潤慶。その肩をポンと叩いて慰める池島潤子……つまり、あたし!

 エキストラの演技がよかったので、池島潤子はエキストラから一躍正規の役になった。

 追加場面は三つ。
 最初が、さっきの映画の冒頭、空中戦がお寺の鐘でゼロ戦の勝ちに見え、その鐘が金属供出に出されるシーン。

 二つ目は、川辺で坂井少尉のことを心配するあやめさん演ずる幸子に潤子が話しかけるところ。
「この川、飛び込んでも死ねないわよ」
「飛び込むときは、大川にするわ」
「迷惑よ、最近の坊主は忙しいんだから」
 傍らの橋の上を戦死者の遺骨を弔う葬列。先頭に大汗かいた潤慶和尚。二人立ち上がって合掌。
「今日は、あれで三件目」
「大繁盛ね」
「不謹慎よ」
「ごめん」
「最近は、お布施も薩摩芋。それも、すぐに疎開児童のお腹におさまっちゃう」
「潤ちゃんも不謹慎」
「これは、功徳ってもんよ。ルリちゃん、坂井さんのこと心配なんでしょ?」
「知らない……!」
「人間は、誰でも、いつかは死んで極楽にいく。遅いか早いかだけ」
「簡単に言わないで。あたし極楽なんか信じていないから」
「極楽はパラダイスじゃないよ、ゼロの言い換え。親鸞さんは、そう言ってる……と、あたしは感じる」
「ゼロ?」
「ゼロって、見ることも触ることもできない。X=0 Y=0の点書ける?」
「う、うん……」

 幸子は、地面に十字を書き、横軸にX、縦軸にYと書いた。

「これはゼロじゃないよ。だって、目に見えるから面積持ってるじゃない。ゼロには面積も体積もない」
「どういうこと?」
「端折って言うと、ゼロって全ての始まりでしょ。数学じゃ原点と言えば、普通ゼロのこと。そして終わりでもある。1-1=0。で、始まりにしろ終わりにしろ、見ることは出来ない。ただ感じることができるだけ。で、感じられるのは人間だけ。だから悩みもするけど、救いにもなる」
「なんだか屁理屈みたいだけど、潤ちゃんが言うと……」
「立派に聞こえるでしょ?」
「ううん、面白い」
「「アハハハハ」」

 そして、三つ目のシーンは、八月十四日の空襲。
 至近弾で、あたしの潤子は瀕死の重傷。

「潤ちゃん、しっかりして!」
「……いいよ……あたしはゼロになる……ちょっと痛いけどね……」
 で、あっさり死んじゃう。坂井少尉のゼロ戦も爆撃でやられ、出撃できなくなり、明くる日の終戦になる。
 時間にして、合計5分ほど。だけど、新人としては美味しい。

 かくして、あたしは自覚もないまま女優になってしまった。

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坂の上のアリスー14ー『聖地巡礼・2』

2020-03-09 06:51:22 | 不思議の国のアリス

坂の上のー14ー
『聖地巡礼・2』   



 

 さすがは聖地、二人揃って背中に天使の羽を点けていも違和感が無い。

 と言って、みんながコスプレをしているわけではない。

 たとえばさ、学校の中でジーパンとかカットソーとか私服を着てたらすっごく目立つじゃん。生活指導の薫ちゃん(桜井薫ってカワユゲな名前だけど、クソ鬼のオッサン)でなくても注意されるけど、普通に道歩いてたら当たり前でしょ。アキバって裸でない限りコスは何でもあり。大多数は地味目のオタク服なんだけど、こういうコスプレ的なものに、とっても寛大ってか好意的。電車がアキバの駅についてホームに降り立ったとたんに、三回も写真撮られた。それも「写真いいですか?」ってキチンと声をかけてくれる。

 もしさ、本物の悪魔とか天使とかが居たらさ、アキバに潜伏したら分かんないと思うよ。てか、本当に潜伏してるかも。実際、すぴか見てるとコスプレ装ってやってきた本物って気がするもん。

 すぴかは聖天使(ホーリーエンジェル)ガブリエル、わたしは暗黒天使(ダークエンジェル)メフィスタ。
「……まずは聖飯と聖水」
 ガブリエルの呟きに従って昭和通り口から降りる。
「昭和通り口じゃないわ、エデンの東口よ」
 昭和通り口……エデンの東口から降りるのはヨドバシカメラに行くときしかない。ヨドバシカメラは北口だから、南口に向かうのは初めて。

 南口の前に出ると、すぐに公園。

「本当なら、ここで正しき聖飯をいただくんだけど、この暑さだから第二の聖飯にするわ」
 公園を左手に見て、天使の羽をユラユラさせながら一軒の食堂へ。

 秋葉原食堂

 間口二間ほどの秋葉原食堂は、ガチ昭和。

 カランカランとカウベルの鳴るドアは、ステンドガラスがはめ込まれたウッド。店内の什器もファストフード店にありがちなプラスチックやビニール張りなんかじゃなく、年季の入ったメープルが中心。
「おや、ガブリエルじゃないか」
 生まれた時からオジサンをやっているようなマスターに声を掛けられて、奥のテーブルに。
 二言三言の会話の中で「こちら暗黒天使のメフィスタ」と紹介される。「お帰りなさい暗黒天使」と百年の付き合いのように挨拶される。
「では、いつもの」
 待つこと五分、聖飯たる秋葉原ランチをいただく。トンカツの上に、ほとんどケチャップと見紛うばかりのデミグラソース。
 千切りキャベツの横に、鮮やかなグリンピースがポイントのポテトサラダ。付け合わせにザワークラウツ(酢キャベツ)。大ぶりの椀に赤だし味噌汁。
 仕上げに聖水たるトマトジュースをいただく。市販のものよりもコショウプラスなにかが効いている。
 すぴかの頬に、ホワッと血の気がさし、瞳に力が宿る。地元で見る彼女とは、しっかり別物になる。

「第一の聖飯は、あれよ」

 秋葉原食堂を出て、最初に目に入った自販機を、すぴかは指さした。
 それはオデン缶の自販機だ。
 オデン缶がなぜ聖飯なのか聞こうと思ったら、そびえ立つ聖地アキバの神殿、ラジオ会館が目に入った。

「いくわよ」

 白の甘ロリをスピンして翻らせ、天上のエナジーを充填するように両手を高々と上げ、ラジオ会館に向けて放出した。
「聖天使ガブリエルの名において命ず、我を寿げ!」

 なんという不思議。昼日中であるにかかわらず、ラジオ会館の電飾が一瞬きらめいた!
 
 一瞬だけど、すぴかは本物の聖天使ではないかと思ってしまった。
  

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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