オフステージ(こちら空堀高校演劇部)64
見かけで判断したらあかん。
とはいうものの、身長190は有ろうかというような黒人のニイチャン二人。
こっちは一番背高い俺でも、やっと170。生物的にビビッてしまう。
以前、散歩途中のチワワが大型犬に出くわして、恐怖のあまり腰を抜かしてオシッコちびってるとこに出くわした。
あの時のチワワの心境。
え あ う……
母音が三つほどの返事とも言えん声を上げていると、ニイチャンらは荷物をふんだくり、千歳の車いすを押し出した。
あ えと ちょ ヘイ 四人が四つの単音節を発して後を追う。
最悪の事態がアレコレ頭をよぎるが、情けないことに走って後に続くことしかでけへん。
で、結局は無事にジェファソンホテルの前まで連れて行ってくれた。
これはお礼を言わならあかんと思たけど、とっさには言葉が出てけえへん。
ニイチャンらの言葉は訛があって、ミリーもとっさには分からんみたいやった。
「たぶん高校生のボランティアでしょう」
ジェファソンホテルのフロントのおばちゃんが言う。
アメリカの学校も夏休みやけど、日本と違って二か月もあって、ボランティアに勤しんでる者も多いとのこと。
「こういう恰好していませんでしたか?」
おばちゃんは壁に幾つもかかってるパンフの一つを指さした。
緑色のTシャツの胸に英語でなんや書いてある。
「あーグリーンエンジェルス」
ミリーが思い当たったように安堵のため息をもらす。で、おばちゃんと意気投合して英語でやりとり。
どうやら、観光客や困ってる人らを助ける高校生のボランティアであるらしい。
やっぱりキチンとお礼言うべきやった。
「わたしお礼渡しといたよ」
表情を読んだのか千歳がドヤ顔。
「え、いつの間に?」
「何を渡したの?」
「キャリーに付けてたビリケンさんのストラップ」
「いつのまに、そんなコミニケーションを」
「うん、車いすを押してる感触に悪意が無かった」
「でも、場所によっては……」
おばちゃんはハザードマップのようなものをくれた。
「なるほど、用心に越したことはないわけね」
須磨先輩が真面目な顔で、もう三枚もらってみんなに分けてくれる。
「それから……」
キーをもらって部屋に行こうとすると、おばちゃんが声をかけてきた。
「時間が遅いので、夕飯が用意できません……」
「「「「えーーー」」」」
四人揃って声をあげる。
驚いたというよりも、おばちゃんの一言でお腹が空きまくってたことに気が付いてしまった。
とたんに体中の力が抜ける。
サンフランシスコ初日の夕べはレストラン探しから始まった。