大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:018『ペペロンチーノ』

2020-03-01 16:59:38 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:018

『ペペロンチーノ』  

 

 

 コビト19、世間では新型コロナウイルスらしい、テレビじゃそう言ってた。ネットじゃ武漢肺炎、これが一番分かりやすい。世間は何に遠慮してるんだろう。

 安倍総理大臣が「日本中の学校を休みにします」と真面目な顔で記者会見しているのには驚いた。

 だって、日本中だよ、日本中!

 安倍総理にも日本国民のみなさんにも申し訳ないんだけど、気が楽になった。

 だって、日本中の小中高校生がわたしといっしょに休むんだよ。「赤信号 みんなで渡れば怖くない」って、あの感じ。

 

「ジジ、ペペロンチーノ作ろう」    「ペペロンチーノ」の画像検索結果

 オリーブオイルのボトルを掲げてお祖母ちゃんが入ってきた。

「え、いいの!?」 

「オリーブオイルのいいのが手に入ったから」

「でも……」

「大丈夫よ、東京の家じゃないんだから」

 お母さんは、ご近所に臭うからと言って、ニンニクを使う料理はほとんど作ってくれない。

 お母さんに連れられて二度ほどイタリア料理のお店に連れて行ってもらって、ペペロンチーノが好きになった。お母さんも「美味しいね」って言ってたんだけど、家では作ってくれない「あれは、イタ飯のシェフでないと作れない」と言うんだ。厨房でシェフが作るのを見てると、わたしにも作れるような気がしたんだけど、「握りずしとかチャーハンとかも簡単そうに見えるけど、ジジ出来ないでしょ」とお母さんは言う。

 お母さんの言うことももっともだと思った。

 家で作るチャーハンはお店みたいには作れないし、握りずしに至っては作ろうなんて気も起らない。

「パセリを取りに行くわよ」

「どこに?」

「うちの庭よ」

「え、パセリが生えてんの!?」

 パセリと言うのはスーパーで買うパック入りか小瓶に入った乾燥したやつだと思ってた。

「ほら、これがパセリ」

「え?」

 お祖母ちゃんが指差したのは、葉っぱだけの菊みたい。大振りだし、いかに硬そう。

「これは育ちすぎ、こっち」

 横っちょに小振りで若い緑色のがある。でも、茂り方が猛々しくって『え、オレさまを食おうってのかい!?』と挑戦してるみたい。

 ザックリと刈り取るお祖母ちゃん。パセリが悲鳴を上げたような気がした。

 

「簡単だから、憶えとくといいわよ」

 

 湧かしたお湯に大匙で二杯も塩を入れた!

「お味噌汁より、ちょっと辛いくらいがいいのよ」

 湧いたお鍋にパスタをぶち込むとタイマーを五分にセット。次に皮を剥いたニンニク二つを意外にに分厚くスライス。もう二つをみじん切り。

「火が点いてないよ」

「すぐ焦げるから、ニンニクは火を点ける前にオリーブオイルをドバドバ入れて、ゆっくりキツネ色になるまで炒める? 茹でる? ソテーかな」 

 たっぷりのオリーブオイル(30CCほどらしい)に泳がせて、鷹の爪もぶち込んで、その時を待つ。

 きつね色になったところでみじん切りのニンニクも加え、パスタの煮汁を油の倍ほどの量を入れる。

 ジュバジュバジュバ!

「しばらくかき混ぜて」

「うん」

 おたまの小さいのでグルグルグルグル。

「煮汁を入れると、百度を超えないから、ニンニクも鷹の爪も焦げなくなるのよ。そう……そうやってグルグルしてると白濁してくるでしょ。これがペペロンチーネのソースになるのよ」

 ペペロンチーノって、パスタのニンニク焼きそばだと思ってたよ、なるほどねえ。

「さ、あとは弱火にして……パスタを投入して、ソースを絡める。お皿に煮汁を入れて温めて」

「う、うん」

「冷たいお皿に入れたら、パスタは直ぐに冷めちゃうからね。おっと、仕上げだ!」

 パセリのみじん切りをドバっと投入して、トングであえるようにしている。

 ホワ~~~~~

 パセリの新鮮な香りが満ちる。お店で食べた時よりも猛々しい香り、ちょっと野性的!

 

「さあ、ボリボリ食べるわよ~!」

 

 お祖母ちゃんとボリボリパスタを食べる。

「こんなシーンのアニメあったよね?」

「あ、これでしょ」

 瞬間手を停めてリモコンを操作すると『紅の豚』でピッコロ社のシーン、女ばかりの工場、みんなでパスタを食べるシーンが出てくる。

 美味しくいただいて、お祖母ちゃんと後片付け。

 すると、換気のために開けた窓から、新たなニンニクの香りがしてくるではないか!

「あ、小林さんも真似してる」

 ちょっと嬉しくなった三月最初の日曜日……って、あと二日でひな祭りだ!

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・56「初めて聞くミリーの英語」

2020-03-01 06:40:17 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)56

『初めて聞くミリーの英語』   



 ラーソンばっかりね。

 忘れ物を取りに来たミリーに言われる。
「え?」
 一瞬何のことか分からない。
「冷やし中華よ」
 そう言われて、食っている冷やし中華がラーソンのだと気づく。
「いろいろ食べ比べたんだけど、酸味・喉ごし・麺の触感で、ラーソンのが一番だな」
「へー、けっこうこだわりがあるんだ」
 本当はこだわりなんかじゃない、ラーソンの冷やし中華は460円で、他のコンビニより20円安い。
 しょっちゅう食べているので20円の差は大きい。
「わたしはシャーペン」
 そう言うと、テーブルの菓子箱から一本のシャーペンを取り出した。
 忘れ物はシャーペンのようだ。
 菓子箱はクッキーの入れ物で、千歳が中身入りで持ってきたお茶うけ用で、空になってからは共用の筆箱になっている。
 しかし、二三十本は入ってるシャーペンやらボールペンの中から、スッと見つけられるもんだ。
「グリップの形が独特でね、握り具合が全然ちがうんだよ。沢山あっても微妙な違いは直ぐに分かるよ、ほら」
 目の前に、ズイっとシャーペンが刺し出される(差し出すの間違いじゃない)。
 中学の頃から、この調子なんで、いまさら驚かない。下手に驚くと、さらに間合いを詰められてチキンレースになってしまう。
「ほー、グリップがちょっとくびれてるんや」
「これが生産中止でね、手持ちは三本しか残ってない。失くしたら確実に成績落ちてしまうよ。分かってたらまとめ買いしたのにね~」
 そう言うと、大事そうに自分のペンケースに仕舞うミリー。
「シャーペン収納よーし!」
「指さし確認かい」
「車掌さんとかやってるでしょ、こうやっとくと忘れない」

 そう言うと、ミリーは窓から見える部室棟のあちこちを指さし始めた。

「やっぱ、工事停まってるよ、チェックポイントが全然変化してない」
「そうなんか?」
 確かに作業員の数は減っているけど、毎日人が動いているのはボンヤリしていても分かる。
 人が動いていれば作業しているもんだと思うんだけど、ミリーのように気合い入れて観察していると違うのかもしれない。
「あの窓枠、昨日は外しかけてたのに、また戻ってる」
「そうなんか?」
 やっぱりひいひい祖父ちゃんの設計とあって思い入れが違うようだ。
「気になるなあ……」
 工事現場の方を向いて腕組みし始めた。
「ちょっと調べてみよか……」
 スマホを出して検索してみる。
 最初に『空堀高校部室棟・マシュー・オーエン』と打ち込む。出てくるのは解体修理が決まったときの内容と変わらない。
 次に『作業中止』を足してみる……やっぱ変わらない。
「わたしもやってみたけど、特には出てこないよね」
「うん……せやなあ……」

「よし!」

 そう言うと、ミリーは気合いを入れてタコ部屋を出て行った。
 
 直ぐに工事現場でミリーの声がした。
 今まで聞いたことのないミリーだ。
 ミリーが英語で現場監督らしいオッサンに話しかけている。
――そういや、あいつはアメリカ人やってんなあ――
 知り合ってこのかた、ミリーの英語を聞くのは初めてだ。青い目の金髪だけど、俺たちの中ではとっくに気のいい友だちにカテゴライズされている。俺たちの友だちってのは例外なく英語は喋れない。だから、とっても新鮮な感じがする。

 映画で外人がよくやる「わっかりませーーん」のポーズをカマシて戻って来た。

「一大事だよーーーーー!」

 ミリーの眉間には見たこともない縦ジワが刻まれていた。
「工事は無期限停止だって!!」
「え、どういうこっちゃ!?」

 日本語が分からないフリして訊ねて、現場監督と府の役人らしい人とのやり取りの中で分かってしまったようだ。
 夏休みを目前にして、なんだか得体のしれないものが動き始めているような気がしてきた。
 
 

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坂の上のアリスー06ー『マイバッグ』

2020-03-01 06:31:36 | 不思議の国のアリス

坂の上のー06ー
『マイバッグ』   



 

 暑い盛りなので、一子とはスーパーの前で分かれた。

 ほんの一分程度の出会いだったけど心が和んだ。

 学校でもそうだけど、日曜なんかに一子に会うとホッコリしてしまう。
 特別なことは無くて、「寒いなあ」とか「暑いなあ」とか「天気いいな」とか。時々会うと収まりがいい。朝にツケッパのテレビに似てるかもな。いつもの天気予報が聞けないと「あれ?」てな感じになるお天気オネエサンに似てる。朝の事だからトイレとかゴミ出しとかで観れないときがあるんだけど、一週間も見ないと収まりが悪い。そんな感じ。いつか「一子ってお天気お姉さんみたいだな」って言ったら「わたし、お天気屋じゃないよ」と心外な顔をされた。言葉が行き違ってんだけど、アハハと笑っていられる関係。

 あ、昨日発売のマンガ雑誌を買っていない。

 先週の後半はすぴかのことに振り回されて、忘れてしまったんだ。
 コンビニの横に自転車を停めてマンガ雑誌を買う。もう十年も読んでいる雑誌なので、読まないと調子が狂う。なんだか一子みたいだなと笑ってしまう。

「ただいま~」

 家に帰ると綾香の返事が無い。

――すぴかの家に行ってる、晩御飯いらない――

 綾香のメモがリビングのソファーに貼りつけてある、貼ってあるのは綾香の定位置。我が家では急用とかのメモはソファーの定位置に貼っておくことになっている。お袋の知恵だ。これなら見落としが無いし、だれのメモだか主語が無くても分かる。
 刺身の盛り合わせ買わなくてよかったと思いつつ、スーパーで買ったものをキッチンのテーブルの上にぶちまける。

『亮ちゃんて、マイバッグなんだ』

 一子の言葉が蘇る。
 買ったばかりの品物の中にゴミ袋のセットが入っているのが目についた。個別用のゴミ袋が切れかかっていたので意識することも無くレジかごに入れたものだ。一子はそれに興味を持ったんだ。

 大昔は(高校生の大昔だから十年ちょっと前だけど)レジ袋をゴミ袋に使っていた。

 お袋はエコだって言ってた。たかがレジ袋だけど、日本中世界中になると、とんでもない石油の無駄遣いになるということだ。
 でも、わざわざ部屋用のゴミ袋買っていたら同じことになるんじゃないかと思ってしまう。
 そう言えば、一子はマイバッグじゃなくてレジ袋だった。
 一子の一言というのは含蓄があるよな。

『ハハ、そこまで考えてないよ』

 メールを打つと、一子から返事が返って来た。ま、それもそうだろ。
 洗濯物を取り入れてると、また一子からメール。

『マイバッグもというか、マイバッグの精神は大事かも』
『どーいうことだよ?』
『食堂でいっしょだった夢里さんだったっけ』
『夢里すぴかだ、それが?』
『あの子にはマイバッグ的な接し方がいいかもね』
『は、なんだそれ?』
『(o^―^o)』

 一子の言わんとすることが分かるのには、もう少し時間が必要だった。

 

♡登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

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ここは世田谷豪徳寺・27ページ《白石優奈って覚えてる?》

2020-03-01 06:03:08 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・27(さくら編)
《白石優奈って覚えてる?》   



 白石優奈って覚えてる?

 ほら、終業式の日の大掃除で屋上から飛び降りようとして、あたしが救けた子。
 自分には前世があって、それまでろくな事してこなかった。だから、ここで一生を終わるのって、ちょっと頭のぶっ飛んだ子。
 その白石優奈からメールが来た。
――放課後カフェテリアで待ってる――
 優奈は、年末に家に来たときに宿題を出してある。
 不登校の友だちを復帰させられたら、あなたの人生は無駄じゃない。
 どうやら、それに答が出たようだ。

「おひさ、うまくいったの?」
「うん、結果オーライ……かな?」
「なんだか、ハンパね」
「まあ、聞いてよ」
 そう言って、優奈は、ホットミルクコーヒーを取りにいった。ちなみに、この食堂がカフェテリアなどという小粋な名前でいられる言い訳が、このホットミルクコーヒー。
 ここのオーナーは帝都の大学の学食も引き受けていて、大学では、キチンとしたカフェテリアがある。そこで出た大量のコーヒーの出がらしを煮詰め、シロップとミルクをしこたま入れてミルクコーヒーにしている。アカラサマに言えば再生品なんだけど、脳みその活動に必要な糖分の摂取にはもってこい。夏はアイスで、冬はホット。300CCで80円というのも嬉しい。
 優奈は、それを二つ持ってきて、テーブルに置いた。

「どうぞ」
「ゴチです」

 そこから始まった。
「ねえ、新学期から来た森本先生って知ってる?」
「ああ、トンボメガネの?」
 社会の先生が介護休暇になっちゃったんで、三学期だけの講師できたオニイサンとオジサンの中間ぐらいの先生。
「その森本先生が、初日の授業の終わりで、あたしと、その子を廊下に呼び出したの」
「なんか、やったの?」
「ううん。オーラを感じたってのが理由『君は学校辞めたいと思ってるだろう。で、きみは、この子のことが心配でならない』って、ズバリ当てちゃうので、放課後その子呼び出して、一発で直しちゃった。その子、新学期始まってずっと来てるし、授業もちゃんと受けてる」
「なんか魔法みたいね!?」

 と、いうわけで、森本先生に話を聞くことになった……と言うより優奈が一人で行く勇気がないもんだから、あたしをうまく道連れにしたわけ。

「簡単な話だよ」
 森本先生は、呼吸するような自然さで言った。
「あの子の出席日数は、三学期の半分もくれば足りる。成績は一見悪いけど、どれも30点台の欠点だ。期末で50点も取れば、ギリギリ2の成績で上がれる。高校生の成績には平生点というゲタがあるからね」
「それは、あたしも知ってるから、言ってあります。他に……」
「ああ、将来のこと心配してたね」
「ええ、成績悪くて、欠席が多いと特別推薦受けられませんから」
「そりゃ、問題なし。選ばなきゃ、いける大学はいっぱいある」
「でも、ある程度の大学出てなきゃ……」
「ナンセンス。おれP大だぜ」

 びっくりした。P大と言えば東京では底辺三大学と言われている最低大学。

「それも、卒業に五年かかった。高校だって留年して四年いってたし。それでも先生やってる」
「でも……」
「ハハ、講師だっていいたいんだろ?」
「いえ……」
「顔に書いてあるよ」

 そのとき、部屋にもう一人いた三年担当の先生が出て行って、部屋は三人になった。

「あの先生は、東京大学を出ておられる。ボクは臨時の講師だけど……そう、もう一年残って居られれば専任になれるだろう。ね、東大出てもP大出ても結果はいっしょ」
 なんとも気楽な先生だ。
「それから、あの子の手相を見てやった。いい運命線してたよ」
「先生、手相みるんですか?」
「うん。なかなかいいコミニケーションツール。女の子の手を握ってもセクハラにならないからね」
「アハハ」
 あまりのお気楽さに、優奈と二人で笑ってしまった。ついでに二人で手相を見てもらったけど、結果はナイショ。
「それから、優奈君が言ってた前世と来世ね……」
 優奈は、まだこだわっているんだ。
「有るとも無いとも言えない。だって、ボクは見たことないから。ただね、人間死んだらゼロだよ」
「それじゃ……」
「答えになってない。ちがうね、ちゃんとした答だ。ゼロというのは概念でしか認識できない。見ることも触ることもできない。でも、ゼロの存在って、みんな疑わないよね?」
「え、ええ」
「ゼロには、全ての可能性が秘められている。無限記号といっしょ。だから、来世や前世も含まれてもおかしくない……だろ?」
「ええ……」
「ただ、ゼロにこだわっていちゃ、今を生きられないからね。今をどうするかだ。優奈君は、期せずして友だちの今を気に掛けてやった。最初の授業で分かったよ。優奈君は大した人だ。そして、優奈君を命がけで助けた佐倉君もね」

 お母さん以上に頭がいいんだか、口がうまいんだか、面白い先生ではあると思った。

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