大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした07『もう一人のあたし・1』

2020-05-30 06:26:21 | ノベル2

07『もう一人のあたし・1』    


 

 覚めてみると不思議でいっぱいだった。

「じゃ、お望み通り死んでやるわ」

 そう言った時には計算があった。
 きっとクラスのクズどもは、あたしを囃し立てる。
 窓を開けて、飛び降りる仕草をすれば、調子に乗ったクズどもは拍手するだろう。
 で、その中心になるのは、女ボスの横田智満子だ。
 智満子は、ルックスもスタイルも抜群。成績は中の上。運動神経もよくて、なにをやらせても、そこそこにこなせるので、当たり前ならリア充の見本みたいな子だ。

 でも、根性はクソビッチ。
 
 このクソビッチをメンタル的に壊してやれば、他のザコは沈黙するとふんだ。

 鼻の穴に指を突っ込んで自由を奪うことは、とっさに浮かんだアイデアなんだ。
 てか、死んでやる! のあとのことは出たとこ勝負だった。

 出たとこ勝負で行動に出るなんて、それまでのあたしでは考えられないこと。
 そもそも、みんなに囃し立てられて、こんな行動に出られるなんて……それまでのあたしなら、机に突っ伏してゲロ吐いてる。
 そもそも、学校にくるなんてできない相談だった。なにか変だ。

 でも、そんな疑問を持ったのはほんの一瞬。

 イジメを気にしなくていい教室で、放課後までゆったりと過ごした。
 智満子はどうしたかと言うと、あのあと気分が悪くなって保健室へ、で、昼には早退してしまった。
 担任の萌恵ちゃんは――なんかあった――とは思ってるようだけど、ご注進におよぶ者もいないので、なにもなかったことに決め込んでいる。教師としては誉められた対応じゃないけど、ほかの先生も似たり寄ったり。ま、いまのあたしには、学校の事なかれ主義は都合がいい。

 九月の半ばは、まだまだ暑い!

 暑いくせに、校門を出ると走り出した!

「ヒャッホーーーーーーー!!」

 他の生徒や通行人がビックリしてるけど、構わずに、とうとう駅まで走った。
 駅のトイレに駆け込んで、ブラウスのボタン開け、タオルハンカチで腋の下まで、スカートまくってマタグラまで拭きまくる。
 明日からはタオルだな! そして水道でジャブジャブ顔を洗う。
 駅下のスーパーの食品売り場で涼んでから電車に乗った。

 やっぱ、きちんとお風呂に入ろう!

 家に帰ると、身ぐるみ脱いで浴室へ。
「あ…………!?」
 浴室の鏡に自分の裸が映っている……(#^0^#)

 見慣れた自分の裸にドキリとする。

 え、なんで……? なんで、自分の裸をマジマジ見てんの? なんで、顔が赤くなんの!?

 あたしの中に、もう一人の自分がいるような気がしてきた……。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メタモルフォーゼ・8『盗撮の犯人』

2020-05-30 06:15:32 | 小説6

メタモルフォーゼ

8『盗撮の犯人』            

 


 投稿犯は、その日のうちに検挙された。

 隣町のS高校のA少年であった……って、近隣の者は「ああ、あいつか」と分かるぐらいのワルであるが、マスコミがS高のAとしているので、そう表現しておく。
 しかし、これでは読者にはあまりにも不親切なので、第二話であたしが学校から自分の家まで歩いて帰る途中、お尻を撫でていった「怖え女子高生だな……イテテ」のオッサン。あのオッサンの息子と言えば、かなりの「ああ、あいつの……」という理解が得られると思う。

 このAが割り出されたのは、簡単だった。ネットカフェでは帽子とフリースにマスクまでしているが、こんな格好で、長時間街をうろつけば、それだけで不審者だ。そこに目を付けた所轄の刑事は、近所の防犯カメラを総当たりした。
 ネットカフェは、スモークのガラス張りだけども、店に入ってくる影がガラスに映るので、やってきた方向は分かっている。五軒離れたパチンコ屋の前でフリースを着ているところ。三件前のコンビニの前では帽子を、で、こいつはわざわざガラスに顔を写してチェックまでしている。そして、ネットカフェの前の本屋のビデオでは、入店直前にマスクをしているのが確認された。

 バカとしか言いようがない。

 しかし、Aの行為は肖像権の侵害と盗撮映像の流布という民事、せいぜい迷惑防止条例の対象でしかない。
 そう、撮影したのはAではない。Aは誰かから映像を手に入れているのである。
 Aは口を割らなかった。別に男気があってのことではない。

 映像を脅し取ったということがバレるのを恐れたのである。立派な恐喝になるので口を割らないのである。警察は絞り込みに入った。Aの交友関係から受売高校の生徒を割り出せばいいだけの話しだった。

 朝になって、生指に名乗り出てきた。B組の中本という冴えない男子生徒が。

「ぼ、ぼく、脅されたんです。Aに、可愛い子が転校してきたって言ったら、見せろって言われて……で、画像送れって。あんなことに……」
「なるとは思ってなかったなんて、言わせねーぞ、中本!」
 生指部長の大久保先生の一喝は、たまたま廊下……といっても、教室二個分は離れていたあたしたちにも聞こえた。

「B組の中本だ……」
 ホマちゃんが言ったので、四人とも立ち止まってしまった。罵声は続いていた……。
「行こう……」
 あたしは駆け出して、中庭の藤棚の下まで行った。
「ミユ!」
「ミユちゃん!」
 三人が追ってきた。
「大丈夫、ミユ?」

 あたしは混乱して、とても気分が悪かった。なんだかゲロ吐きそう。

 案の定、三限目に生指に呼ばれた。そして中本が謝りたいといっていると告げられた。
「はい」
 混乱していたけど、意識とは別のところが、そう言わせた。
「中本君、あんたに、あそこまでの悪気はないのはないのは分かってる。転校してきたあたしが珍しくって、そいで撮ったのよね。だって、あれは事故だったから」
「う、うん。A組に可愛い子が来たっていうから……」
「誤解しないで、許したわけじゃないから。あそこまでの悪気って言ったのよ……あんたがやったことは卑劣よ。S高のAに画像送ったらなんに使うか、想像はついたでしょ。百歩譲って興味から撮ったとしても、あんな事故みたいな画像なら消去すべきでしょ」
――男だったら、消さないよ――
 進二が囁いた。
「うるさい!!」
 中本は椅子から飛び上がり、大久保先生でさえ、ぎくりとしている。
「ぼ、ぼく、なんにも……」
「あんたが言いうこと目を見たら分かるもん。ハーパンが脱げた後、画面はブレながら顔のアップになったわ。あんたにそれほどのスケベエ根性が無かったのは分かる。でも、どこか歪んでる。S高のAにも、あんたから言ったんでしょ。Aがどういう風に興味を示すか分かっていながら……それって、お追従でしょ? 単なるご機嫌取りでしょ? Aが口を割らなかったのは、あんたのことを脅かしたからでしょ。この事件の、ここだけが恐喝になるもんね。あんたのスマホ見せてよ」
「これは、個人情報……」
「スカしてんじゃないわよ!」

 中本のスマホには、Aのパシリにされていたようなメールが毎日のように入っていたけど、昨日から今朝にかけては一つもない。
「消したのね。そして知ってるんだ、専門家の手に掛かったら、すぐに復元できること。そして、自分はAに脅された被害者になれるって。それ見込んで名乗り出たんでしょ」
「いや、ぼくは……」
「あたし、許さないから。Aもあんたも」
「それって……」
「被害届は取り下げない。せいぜい警察で被害者面して泣きいれなよ。そんなのが通じるほど、あたしも警察も甘くないから。あんたら立派な共同正犯だわよ!」

 それだけ言うと、あたしは生指を飛び出した。共同正犯なんて難しい言葉、どこで覚えたんだろう?

 そのあと、警察が来て、中本と話して任意同行をかけてきた。思った通りの展開。
――そこまでやるか?――
 進二が、また口を出す。
「う・る・さ・い」

 杉村君との稽古は、最初から熱がこもっていた。もう道具さえあれば、明日が本番でもやれる。
『ダウンロード』という芝居は、女のアンドロイドがオーナーから次々にいろんな人格や、能力をダウンロ-ドされ、いろんな仕事をさせられ、最後にオーナーの秘密をダウンロードして、オーナーを破滅させ、アンドロイドが一個の人格として自立していくまでを描いた一人芝居。

 稽古が一段落して思った。

 いまのあたしって、まるでダウンロードした人格だ。

 そこに、やっと仕事が終わった秋元先生が、顔を出した。
「稽古は、順調みたいだな」
「ありがとうございます。おかげさまで」
「ほとんど、今年のコンクールは諦めていたんだ。渡辺が来てくれて助かった。杉村もがんばってるしな」
 先生は、昨日からの事件を知っているはずなのに、ちっとも触れてこない。慰めは、ときに人を傷つけることを知っているんだ。ちょっと見なおす。

「先生、この花でよかったですか?」

 宇賀ちゃん先生が、小ぶりな花束を持ってやってきた。
「お金、足りましたか?」
「はい、これ、お釣りです。渡辺さん、がんばってね!」
「はい!」
 でも、花束は早すぎる……と、思った。
「あ、これはね。この春に転校した生徒が亡くなったって……連絡が入ってね」
「保科先輩ですね……」
「杉村、よく覚えてんな。三日ほどしかいっしょじゃなかったのに」
「あの先輩は、一度会ったら忘れません……いつだったんですか?」
「四日前……下校中に暴走自転車にひっかけられてな……」

 四日前……自転車……あの時か、優香が、優香が……。

 気配に振り返った鏡、一瞬自分の姿に優香が重なって見えた。

 つづく

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新・ここは世田谷豪徳寺・26《尾てい骨骨折・3》

2020-05-30 05:58:49 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・26(さくら編)
≪尾てい骨骨折・3≫    



 

 目が覚めると、世界はハッカの香りに満ち満ちていた。

 覚めきるにつれ、香りの元が自分の口だと分かって驚いた。さつきネエがニヤニヤしている。

「ちょっと、あたしに何かした?」
「え、覚えてないの?」
「なんのことよさ?」
「さくら、寝言でのど飴くれって言ってたんだよ」

 さつきネエの話では、あたしは寝ながら口をパクパクやっていたらしい。で、のど飴と言ったらしい……。

「あら、声もどったのね」
 今度はお母さんに言われた。
「え、そんなだったのあたし?」
「覚えてないの?」
「え、ああ、ううん」
 いいかげんな返事をしたが、実のところ、昨日の秋分の日の記憶が飛んでいた。若年性健忘症……にしては、それ以前の記憶はしっかりしている。尾てい骨が痛いことや、そのために数学の先生に誤解されたこと。そいでひい祖母ちゃんが夢の中に……そうだ、ここから記憶があいまいだ。

 今日はレイア姫の勝負パンツを穿いている。と言っても放課後怪しげなことをするためではない。今日は苦手な音楽の歌唱テスト。まあ、人並みに歌えればいいと思って、歌は教科書の『若者たち』と決めている。ただ江戸っ子の見栄っ張りで恥はかきたくない。当たり前程度には歌えて、尾てい骨に響きませんようにとの願いから。

 で、音楽のテストの時間になった。

「じゃ、次、佐倉さくらさん」
「はい」
 腹はくくっている。
「曲目は?」
「ゴンドラの唄……」
 と言って自分でも驚いた。どこへ行ったのだ『若者たち』は!?
「えらく、渋い曲ね、先生弾けるかなあ……」
 ほんの少し考えて音楽の美音先生が前奏を奏で始めた。

 いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 あせぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを
 
 いのち短し 恋せよ乙女 いざ手をとりて かの舟に いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰れも 来ぬものを

 いのち短し 恋せよ乙女 波にただよう 舟のよに 君が柔わ手を 我が肩に ここには人目も 無いものを

 いのち短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に 心のほのお 消えぬ間に 今日はふたたび 来ぬものを


 美音先生もクラスのみんなもびっくりした。一番びっくりしたのはあたしだった。
 こんな歌は聞いたこともないし、唄ったこともない。

「すごいいわよ、佐倉さん。ちょっと待っててね……」
 先生はデスクのパソコンを操作して森昌子さんの『ゴンドラの唄』を流した。
「すごい、先生、もう一度歌ってもらって録画していいですか?」
 マクサが言った。気が付いた、順番から言えば佐久間マクサの方が先なんだけど、あたしが先になったことに誰も不審に思っていない。マクサは、どうやら気づいているようで、あわよくば自分の番が回ってこないうちに時間を終わらせようという腹だ。

 いつもなら、こんなズルッコ許さないんだけど、あたしは自分でも歌いたい気持ちになっていた。

「じゃ、もう一回やってもらおうか!」

 こんどはアップテンポで前奏が始まった。

 これが奇跡の始まりだった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする