大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・149『草加の茶屋・2』

2020-05-02 13:12:18 | 小説

魔法少女マヂカ・149

『草加の茶屋・2』語り手:マヂカ   

 

 

 友里もわたしも調理研なので頑張ってみる。

 

 茹でて味噌汁の中に入れてみる。あるいは焼いて味噌汁の中に入れてみる。

「う~ん、美味しいことは美味しいんだけど」

 茶店のオバサンは屈託ありげに椀を置く。

「時間がかかり過ぎるね、注文とって、焼いていたらお客がしびれを切らす」

「そうよね、街道の茶屋って、ほんの休憩に腰を下ろすだけだし、お客の回転率もねえ……」

「そうだな、見かけもお雑煮みたいだし、お雑煮を期待して食べると、ちょっとガッカリかもな」

「他のを考えよう……」

「油で揚げるというのは、どうかなあ」

 かまどに油を入れた鉄鍋を掛け、団子を揚げてみる。

 きつね色に揚がったところに大根おろしをかけて醤油を垂らす。

「うん、美味しい!」

 感激はしてくれるが、次の瞬間にはお箸をおいてしまう。

「焼くよりは早いけど、やっぱり手間がねえ……値段も、団子の五割り増しにはなってしまうよ」

 あれこれ手を尽くしてみるが『美味い! 早い! 安い!』のファストフードの三原則を満たすのは簡単なことではない。

「平和になったら、調理研の有りようも考えるとするか」

「うん、だよね……」

 無力感に苛まれたのか、友里は縁台に、ドスンと腰を下ろす。

「フギャ!?」

「どーした?」

「あはは、縁台に転げてた団子がペッタンコだよ(*´∀`)」

「たいしたケツ圧だ……待てよ!?」

「なんか、閃いたのかい?」

 オバサンが興味深げに押しつぶされた団子と、わたしの顔を交互に見る。

「こうすれば、いけるかもしれないぞ!」

 

 オバサンに七輪と網を借りて、友里のケツ圧でペッタンコになった団子を焼いてみた。

 

「あら、いい匂い」

「いけるかもお……これって……!?」

「そうだ、これは煎餅だ! そうか、草加煎餅だ!」

 焼けた煎餅を草加名物の醤油を浸して、二度焼きすると、アッパレ草加せんべいの誕生とあいなった!

 

☆ ピンポンピンポン!!

 

 ミッションコンプリートのサインが鳴ってバリアーが消えた。

「ありがとう、草加名物が増えたよ、明日っからは余った団子に悩むこともないよ!」

 オバサンに感謝されながら茶屋をたって、まだ温みの残る煎餅の包みを懐に街道を進んだ。

 

 ズシーーン! ズシーーン!

 

 茶屋が見えなくなったころ、道は『つ』の字に曲がって、曲がった向こうから大きな地響きが聞こえてきた。

「なにか来る!」

「そこの藪に隠れるぞ!」

『つ』の字を右回り姿を現したのは荒川を渡って見かけた怪物だ。

「大きくなってる!」

「ああ、前はガンダムほどの大きさだったがな」

「初代ゴジラほどはあるよ」

「とにかく、気づかれないことだ」

 友里と二人、息を潜めて怪物の通過を待つ。

「なんで、紅白のダンダラなんだろ……こんなに禍々しいのにい、怪物とか魔物だったら、もっとらしくしなさいよお」

 友里が無理を言う。

「シッ、聞こえるぞ」

「ごめん!」

 怪物は、藪の前で立ち止まり、小さな首の小さな鼻をクンクンさせ始めた。

「なんだろ?」

「あ……草加煎餅の匂いだ!」

「ふぇ?」

「せんべいの包みは置いていけ、逃げるぞ!」

「え、まだ食べてないよ」

「煎餅といっしょに食われるぞ!」

「やだあ!」

 

 二人そろって包みを投げ出して、一目散に逃げだした。

「あんなちょっとのせんべい、一瞬だよ」

「しないよりはマシだ!」

 チラリ振り返ると、なぜか怪物に見合った大きさになった煎餅を両手に持って、怪物が喜んでいるように見えた。

 バリバリ バリバリ

 煎餅を齧る音が、しばらく耳について離れなかった。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・118「広すぎるお風呂は瀬奈さん付」

2020-05-02 06:38:31 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
118『広すぎるお風呂は瀬奈さん付』
     

 

 

 え 広い……

 

 瀬奈さんに案内されて、少し降りたところにお風呂があった。

 

 十二年前は日帰りだったので、大お祖母ちゃんちの風呂は初めてなんだけど、あまりの広さに足が止まってしまった。

 まだ脱衣所なんだけど、ゆうに教室一つ分は有る。

「里の人たちも利用されるので大きんんです、さ、こちらにどうぞ」

 温泉旅館のように二つの壁面が四段の棚になっていて、一段ごとに八つの籠。4×8×2=62、ざっと六十人くらいは入れる。浴室に近いところが窪んでいて衝立で目隠しになっている。

「お嬢様、こちらへ」

 瀬奈さんが示したのは、その衝立の向こうで、入ると四畳半のスペースで、しつらえが高級になっている。

「こちらがお身内様の脱衣所になっております」

「ここでなきゃダメなのかしら?」

「お好きなところを使われて良いのですが、里の人たちが気を使われますので……」

 ああ、そういうことかと納得して裸になって浴室に向かう。

 

 え……広すぎる。

 

 浴室は脱衣所どころではなく、小学校の講堂くらいの広さに大小四つの浴槽がある。

 どうやら温泉で、浴室の外から掛樋が引かれて、盛大に湯煙を立てながらお湯を注いでいる。

 広場恐怖症ではないのだが、美晴はたじろいでしまった。

 夏休みのサンフランシスコで入った温泉も学校のプールのような広さだったけど、屋外でのスポーツ施設のような感じにたじろぐようなことは無かった。

 壁面の一つはゴツゴツの作り物ではない岩壁になっていて、この浴室が、元々は天然の岩風呂だったことを偲ばせる。

 大お祖母ちゃんちは天守閣さえあれば十分お城で通用しそうな屋敷なのだが、このお風呂は、それに倍する歴史の重さを感じさせる。瀬戸内家の始まりは、ひょっとしたら、この天然温泉の周囲から始まったのかもしれないと思った。

 

「お背中を流します」

 

 ハッとした。

 いつの間にか瀬奈さんがセパレートの水着で控えている。

「あ、え、あの……」

「嫡流の方のご入浴は、それぞれ役目の者が付きます。いつもわたしとは限りませんが、本日はわたしが務めさせていただきます。こちらへ……」

 檜の腰掛に座ると、瀬奈さんがユルユルと賭け湯をしてくれる。

 お風呂で人にお世話されるなんて初めてなので、いささか恥ずかしい。

「御屋形様と同じ肌をなさっておられます。やはりお血筋なのですね」

「え、あ、そうなんだ(^_^;)」

 三杯ほどの掛け湯を済ませると中ほどの浴槽を示された。

 入ってみると、思ったよりも熱くない。美晴は熱い風呂は苦手で、家の風呂も冬場でも三十九度度設定である。

「この浴槽が一番穏やかな温度設定になっています、慣れてこられましたらお好みの浴槽をお使いください。あちらの小さいのが一番たけだけしくて四十五度ございます。ちなみに、御屋形様は、あちらをお使いになっておられます」

「四十五度……」

 ただでも近づきがたい大お祖母さまが、いちだんと化けものじみて感じられた。

 同性とはいえ瀬奈に身体を洗われるのはきまりが悪かったが、髪を洗ってもらうのはラクちんで気持ちが良かった。

「えと……なんだか瀬奈さんの視線をヒシヒシ感じるんだけど」

「あ、申し訳ありません。お風呂のお世話はお嬢様の健康状態のチェックも兼ねております。まだ未熟者ですので、ご不快でしょうね、申し訳ございません」

「あ、いえ、そんなんじゃ」

 自分で指摘しておきながらワタワタしてしまう。

 

 風呂からあがって驚いた。

 

 着替えが全て新しくなっている。

 いちばん驚いたのは制服だ。

 三年間着慣れたものではなくて、触っただけで分かる新品に替わっていたのである。

「新しいものと、御屋形様からの御指示でございましたが、制服をお召しになってこられたのはお嬢様の心意気であるとお見受けいたしましたのでご用意させていただきました」

 すばやくメイド服に着替えていた瀬奈さんが、心なし口元をほころばせた。

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《ただいま》第十回・由香の一人語り・8

2020-05-02 06:30:54 | ノベル2


第十回・由香の一人語り・8    


※主な人物:里中さつき(珠生の助手) 中村珠生(カウンセラー) 貴崎由香(高校教諭)


 

 その手紙をずっと持て余していた……。

 私は、ひまわり園という施設育ちで、親を知らない。高校三年のとき、ダメモトで受けた奨学金に合格し、バイトしながらではあるけれど、短大に入り、公務員試験を通って、この科学教育センターに配属になった。
 ひまわり園では数少ない成功者の一人なんだそうだ。で、ひまわり園では、私に卒園近い子供たちに講演をして欲しいと頼んできた。
「自分で考えて、答え出しなはれ」
 珠生先生に相談したら、ニッコリ笑って、そう言われた。

「ただいま……!」
 明るい声で、この中村カウンセリング独特の挨拶で由香先生が入ってきた。
「おかえりやす。お、お土産持参どすか?」

 駅前のタコ焼きがおいしそうなんで、つい。ペロリと舌を出して由香先生。もう、なんだか女学生みたいだ。ここの附属高校の制服着せたら似合うだろうな……笑いがこみ上げてきた。
「なにか、おかしい?」
「いいえ、なんでも」
 悩みは、頭の奥にひっこんでしまった。
「さあ、ほなら、ボチボチいきまひょか……」


 ……お母さんは前のままなんだ。改めて、そう感じた。

 あたしも昔とは違う。ダメと言われても、もう家をとびだすようなことはしない。言い負かされておとなしく従うこともしない。
 そう思い定めると、何かが壊れたような、それでいて落ち着いたような気がしてきた。

 でも、お母さんは一枚上手だった。

 二年ぶりに家出から帰ってきたときのあたしを見て「お帰りなさい」と一言だけだった。
 そして、生協の買い物袋を降ろしながら、こう続けた。
「帰るんなら、電話の一本も入れなさい。夕食の段取りが狂うでしょ」
 まるで、部活を早く切り上げて帰ってきたときみたいに日常的だった。

 いよいよ田中さんのことを打ち明けた時も、少し当惑したような顔をしただけ。

 頬杖ついて、コップの氷をコトリともてあそんで、口元だけで微笑んでいる……これが、お母さんのポーズ。
 昔は死ぬほどいやだった。でも、その拍子抜けするほど穏やかなポーズに、かえって母の苦しみが感じられるほどには成長したよ。

「お母さん、ごめんね……」

 と、思わせておいて、どんでん返し! ええ、さっきの電話……クソババア!
 九回裏の大逆転!
 由香はアマちゃんです。

 なにか隠してる……お母さんが?
 そんな気がするんですか。
 え、幸子さんが田中さんに聞いてみる……いえ、自分でします。ええ、母ともう一度話をして……何かあるんなら、それもちゃんと聞いて……それでもダメなら……はい、もう大人なんだから……あ、それに田中さん、携帯は持っていませんよ……ええ、ペンションとか経営するんだったら必要だって、言うんですけど、あの人、こう言うんです。
「話は、ちゃんと相手の顔を見てするもんだ」
 ズレてるでしょ。
 そのくせ、あたしと話すときは、ほとんどあたしのこと見てないし……。

 え、なにがおかしいんですか?

 え、他の人には、ちゃんと顔見て話してる……携帯のパンフも見ていた?、ほんとですか!?
 え……「あの人」って言いました、田中さんのこと、あたし……!?
 
 もー、幸子さんたら!

 アハハ、ええ、少し楽になりました。
 大丈夫、ひとまず切ります……ハハ、手首じゃありません、パソコン。落ち着いたら、また幸子さんのネタに協力しますね。じゃ……。

 ……電話ぐらいしてこいよ……携帯なくってもさ……ペンションにだって電話あるでしょ、田中さん……。

 どこが気に入らないって言うんだ田中さんの!

 自分だって、若い頃はたいがいだったのに。親の言うことも聞かず好き放題やってきたくせに。
 お母さんの友だち口が軽いから「ここだけの話」っての、ずいぶん知ってるんだぞ。
 何人も男の友だちが居て、家出したことから、あっちの病気のことまで……揺れるだけで芯のない青春。そんな時代を送ってきたくせに。

 お母さん!

 でも、親は親、筋は通さなくっちゃね。そうでしょ、田中さん……。

 あ、電話!

「今日は、そこまでにしときまひょ!」

 珍しく、珠生先生が、慌てて止めた。

「いよいよ、核心……なんですね」
「多分ね。わたしにも、ちょっと迷いがおましてな。すんませんなあ、化けるほどカウンセラーやってながら情けないこっちゃ」
「いいえ、あたしも……今日は、帰りに秋物のクリアランスセールにでも寄ってきます。へへ、時間はたっぷりあるから、腰据えていきますね!」

 由香先生が帰ると、珠生先生は一冊の本を出した。
『そして、ただいま』と言うタイトルで、県立図書館のハンコが捺してある。
「これは……?」
「貴崎さんの話しに出てくる幸子さん言う人の書きはった、小説だす」
「ひょっとして、由香先生がモデルになってる?」
「はいな、家出少女がペンションで成長していく様を書いた青春小説。年上の同僚に恋して、明るく母親に報告にいくとこで、大団円になっとります」
「由香先生の話といっしょですね」
「読んだら、分かりまっけどな。かなり団塊の世代への批判が書かれてます。カタチは明るい青春小説やけどね」
「読んでいいですか」
「うん、どうぞ。ところで、ひまわり園の方は決めた?」
「ええ、……それが」
「行ってきなはれ。伝えるいうことは、伝えられるもんにも、伝えられるもんにも、大きな影響がおます。サッチャンの想い伝えにいきなはれ。きっと為になります!」

 この先生の言葉が私の背中を押した……。

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ここは世田谷豪徳寺・97『さつき今日この頃・4』

2020-05-02 06:19:17 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・97
『さつき今日この頃・4』   



 

 恩華さんは、四ノ宮家でアルバイトすることになった。

 忠八クンが雇うわけではない。実家にいるとは言え冴えない文二の東大生。学校とアルバイト、そして、アパートと実家での二重生活に違いはなかった。お嫁さんの文桜さんのアイデアで、バイト料は忠八クンの親が出す。
 ちなみに忠八クンのバイトも、工事現場のガードマンから、実家である四ノ宮家の蔵書の整理と、PCによる電子管理化をやることに変わった。
 四ノ宮家には、10万冊余りの史料や書籍があり、その整理をやっていれば、おのずと日本とC国の近現代史が、国家機密のようなものまで分かるようになる。
 孫桜さんは考えた。恩華さんは経済的に安定し、史料・資料を整理している間に、きっと自分の国と日本との関わり方の過去と現在。そして未来が見えるくらいに聡明な女性であると。
 ただ良くも悪くも人のいい忠八クンが恩華さんに気持ちが傾斜しないように注意する。それも二人に気づかれないようにやるという仕事が増えた。

 いちおう目出度し。

 昨日の日曜日、久々にタクミ君から電話があって、神宮外苑の森のビヤガーデンで会うことにした。男性 4000円、女性 3700円の飲み放題。 ビルの屋上ではなく地上にあるビアガーデン。 神宮外苑の落ち着いた雰囲気の中で飲める 文字通り地に足の着いたビアガーデン。大阪のS駐屯地以来の出会いだけども、あんなに毎日顔を突き合わせていたので、都心の緑の中、気楽にビールが飲めるぐらいのノリだったが、会ってみると、とても懐かしかった。
「どうかした?」
 ビールの泡を口に付けながらタクミ君が聞いた。

 タクミ君て、こんな顔、こんな声だったんだろうか? と、不思議な気がした。

「なんだか、とっても久しぶりな感じがして……こんなの初めて」
「ボクは、今日のさつきちゃんが……」
「あたしが?」
「怖くない」
「怖かったのかなあ、あたしのこと?」
「うん。いつも心の中を覗かれているようで……さざれ石のお蔭かな?」
「ハハ、かもね。あの石のお蔭で、東京に戻って普通の生活ができるようになったんだもんね。今も……」
 あたしはカットソーの襟をくつろげてペンダントを出した。タクミ君の顔が赤くなった。どうやら胸の谷間が見えてしまったよう……あんなに切れ者なのに純情なんだとおかしくなった……そして、おかしくなった。
「ハハ、タクミ君も、こうやって会うと、ただの少年なんだ」
「少年はないだろ。これでも24歳の三等陸曹だぞ」
「そうだね……あれ?」
 ペンダントを開けてみると、中に入れていた「さざれ石」が無くなっていた。
「おかしいなあ……ペンダントの中に入るようにしてもらってから、一度も開けてないのに」
「……実は、ボクも無いんだ。認識票といっしょにパスケースに入れていたんだけど。今日会ってもらったのは、これを確かめたくて。さつきに心が読まれる可能性がある間は、ボクは本来の任務には戻してもらえなかったんだ」
「不思議だけど、これで二人の関係は、渋谷で事故って以来の関係に戻るってことよね」

 安心してるはずなのに、なんだか寂しい。

「うん。でも……」
「……なに?」
「えと……ちょっと歩こうか?」

 二人で外苑の森の中を歩いた。ほとんど喋ることもなかったけど、今までで、いちばんお互いを近く感じた。

 なにも読めないというのは、ちょっと緊張するけど、なんだか自然な感じだ。

 これくらいの緊張感が心地いい。

 五か月かかって、やっと普通のスタートラインに立てたような気がした……。

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乙女と栞と小姫山・33『運命の金ばさみ』

2020-05-02 06:04:01 | 小説6

乙女小姫山・33  

『運命の金ばさみ』       

       
 

 月曜は朝から雨だったので、学校周りの掃除は今日の火曜日に延期された。
 

 掃除の班は学年の縦割りで、栞とさくやは偶然同じ班。

 栞たちの班は、駅から少し離れた切り通しの道という運の悪さだ。何故かというと、そこは先日の地震で地盤が弱っており、地域の人たちも「危ない」と言って近づかない場所だったからだ。地域と連携のないと言っていい小姫山高校には、事前にそういう連絡がまるで入ってきにくく、担当の桑田先生は、あっさりと、そこも清掃区域に入れてしまった。
 

「どうして、みんなさっさと帰っちゃうかなあ」
 

 低い切り通しで、その気になれば、薮になった奥まで入っていけるのだが、みんな道ばたの紙くずや空き缶を拾っただけでさっさと学校に引き上げた。

 確かに、そこは片側が切り通し。反対側はちょっとした小川を隔てて傾斜地になった曲がり角で、あまり人目にもつかない。やっぱり、人に見られていないところでは、なけなしの義務感などは、どこかに行ってしまうのが人情というものである。

「奥の方に、ゴミいっぱいありそうですよ……」

「さくやは、無駄に目がいいんだもんなあ……」

 さすがの栞も、そこはパスしたかったが、どこに人の目があるか分からない。近頃では、こういう不用心なところには監視カメラが付けられていることも多い。まして、二人は、ついこないだMNBの五期生に合格し、例の『進行妨害事件』では、栞の顔は、かなりの人に知れ渡っている。

「仕方ないか……」

 栞とさくやは、イヤイヤながら薮に足を踏み入れた。

「う……」 「先輩、ここ見かけは草原やけど、中ジュルジュル~」 「もう、そこのゴミだけ拾って退散しよう!」

 二人は不法投棄されたゴミ袋を三つばかり拾って出てきた……。
 

「はい、ご苦労様。集めたゴミはここね」
 

 集積所係の真美ちゃん先生がハンドマイクで声を張り上げていた。

 技師のボス格である鈴木のオヤジが、ゴミ拾いの金ばさみを回収していた。 「こら、ちゃんと洗うて返さんか!」  鈴木のオヤジの声で、栞は気がついた。

「しまった、金ばさみ!」

 ジュルジュルに足と気を取られて、忘れてきたのである。

「先輩、さくやが行ってきます」

「いいわよ、忘れたのわたしだもん。行ってくるわ」

「これもMNBの修行や思てなあ。次の授業遅れんなよ!」

 学年生指の磯野が、大きな声で嫌みを言う。

 栞は、振り向けば皮肉の一つも出そうなので、何も言わずに校門を出た。

 こんなことで遅刻して、ネチネチ言われるのも願い下げだったので、現場まで駆け足で行った。

  靴は一足ごとにグチュグチュと水を含んだ音がする。買って、まだ半月ほどのローファーがダメになるなあと思いながら、時計ばかり気にして現場へと向かった。
 

 さすがに途中でローファーと靴下は脱いだ。グチュグチュはグニュグニュに変わった。そして薮の中に突き刺したままの金ばさみに気づいた。

「あった~!」
 

 勢いのまま足を踏み出したところで、空と地面がひっくり返った……。

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