大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・148『やっと頼子の入学式!』

2020-05-24 14:50:01 | ノベル

せやさかい・148

やっと頼子入学式』         

 

 

 やっと入学式。

 

 真新しい制服に身を包んで、ソフィアと二人式場の扉の前に立つ。

 式次第を持った担当の先生がドアノブに手を掛けて、その瞬間を待っている。

 ケホン

 わたし以上に入学式を楽しみにしていたソフィアが、楽しみしていた分、余計に緊張している。

 ボディ-ガードとお付きを兼ねているから、並みの留学とは違う。

 制服の内ポケットには、イザという時のためのニンバス2020(伸縮式の特別制)を忍ばせているに違いない。先祖代々の王室付き魔法使い、義務感というか使命感でガチガチになってる。

「そんなに緊張していちゃ、三年間もたないわよ」

「緊張なんかしてません……です」

「そーお? じゃ、ちょっと歩く練習しとこう」

「歩く練習?」

「そう、緊張してると手と足がいっしょにでちゃったりするから」

「そんなこと、なりません。です」

「じゃ、ためしに一回やっとこう。いくよ、3、2、1、GO!」

 一歩踏み出してアウト。ソフィアは見事に手足を一緒に出した。

「あ、あ、今のはナシです! 殿下の暗示にかかったです!」

「アハハ」

「わ、笑っちゃいけません(;^_^! です!」

「お静かに、間もなく開式です!」

「「はーーい」」

 先生に怒られる。

 同時に式場入場のためのBGM『威風堂々』が静かに流れる。

「時間です」

 ノブに手を掛けた先生が、小さく、カチャリと音をさせて重厚なマホガニーのドアを開ける。

 BGMのボリュームがレベル2ほど上がる。

 手と足を同時に出すこともなく、七歩歩いて着席。

 なんで七歩かと言うと、事前にソフィアと話して、験よくラッキーナンバーの七で決めてみようと打ち合わせていたから。

 ん? それにしても七歩は少ない?

 仕方ないでしょ! だって、ここは奥行八メートルしかない領事館のリビングなんだから!

「では、これより、令和二年度、真理愛女学院の入学式を挙行いたします。一同、起立!」

 ザザザ

 う……大勢が立ち上がるエフェクトなんかいらないのに。

 100インチのモニターに真理愛女学院の校長先生が映し出される。

 実物大だ。少しでもリアルな入学式にしようと、ジョン・スミスが、ほぼ実物大に見えるモニターを都合してきたんだ。

『新入学のみなさん、真理愛女学院はコロナウイルスの終焉を待って入学式を挙行しようと待っておりましたが、完全終息の気配が見えてこないまま、いたずらに日程を先延ばしに……』

 状況の説明がなされると、ウィンプルのオデコが机にくっ付くんじゃないかと思うくらいに頭を下げる校長先生。でも、オデコを上げると、それこそマリア様のように慈愛に満ちたお顔で祝辞を述べられる。

『タブレットやモニターの画面越しではありますが、こうやって、新入生の皆さんにお祝いを述べられるのは、とても嬉しく、お目出度いことで……』

 そこまで述べられると、校長先生を照らし出す灯りが五割り増しくらいに明るくなった。

 ちょっと演出のし過ぎ……と思ったら、窓からの光だ。

 なぜわかったかと言うと、領事館のリビングにも同時に光が差し込んできたから。

『ほら、みなさん、今日の貴方たちと真理愛女学院を祝福するように陽が差し込んできました!』

 校長先生のスピーチは録画では無くてライブなんだ!

 お祖母ちゃんの女王も、たとえカンニングペーパーを用意しても、スピーチはライブでやった方がいいという。

 年齢相応に物忘れしたりするお祖母ちゃんは録画の方がいいと思うんだけど、こういうところを見てしまうと、やっぱり正しいと思ってしまう。

『では、明後日からネット授業が始まります。六月に入れば分散投稿も始まり、直接みなさんの元気なお顔にも接することができるでしょう。みなさん、改めて、ご入学御目出とうございます(^▽^)/』

「新入生、起立。礼、着席」

 きっちりやる先生だ。

 ちなみに、進行はジョン・スミス。

「では、みなさんのクラスを発表します」

 クラスなんて、一昨日来た通知に書いてあるんだけど、入学式のムードを大事にしたいジョン・スミスは、入学式が終わるまで教えてくれなかったのだ。

「ミス・ソフィアは、一年二組です」

「はい」

「ミス・ヨリコは、一年一組……」

 ああ、やっぱりソフィアとは別のクラスだよね。

「……と、一年三組」

 え、どっち?

「に挟まれたクラスです?」

「え、それって?」

「同じ二組ですよ、殿下」

「あ、もージョンったらあ!」

「ハハハ、怒らない怒らない、怒らないで回れ右」

「え、え?」

 

 回れ右すると、マスクこそしていたけど、そのマスクから溢れるような笑顔のさくらと留美!

 

 ウワアアアア!!

 

 もう、言葉じゃなかった。

 三人でハグ!

 したかったんだけど、ジョン・スミスとソフィアに阻まれた!

「ソーシャルディスタンス、です!」

 ちゃんと役目を果たすソフィアでありました(^_^;)

 

 

☆ 主な登場人物

 

酒井さくら       安泰中学二年生

榊原留美        安泰中学二年生

夕陽丘・スミス・頼子  真理愛女学院高校一年生 ヤマセンブルグ公国王位継承者

酒井詩(ことは)    真理愛女学院高校二年生 さくらの従姉

酒井諦一        さくらの従兄 安泰山如来寺の僧侶 檀家からは若ボンと呼ばれる

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ライトノベル・あたしのあした01『お尻の穴』

2020-05-24 06:47:59 | ノベル2

 01『お尻の穴』      

 

 お尻の穴が見えたら危ないないらしい。

「恵一、あたしはどうかなあ?」
 ジャージとパンツを脱いでむき出しのお尻を向けてみた。
 恵一の戸惑ったような気配がする。
「ね、どーよ?」
 恵一が鼻をクンカクンカさせた……と思ったら、廊下に出て行く気配。
「恵一」
 振り返ったら、恵一は居なかった。リビングに行ってしまったみたい。
「もうーーー」

 一度お尻をしまい、壁にかかった鏡を外して風呂場に持って行く。

 浴室の扉を閉めて鏡を立てかける。これで大きめの合わせ鏡のできあがり。
「これでいけるかなあ……」
 浴室の鏡の中に立てかけた鏡が見える。膝立ちしたらいけそうだ。
 もう一度お尻をむき出しにし、立膝で鏡を見る。
「やっぱね……」
 小ぶりお尻には思っていたよりも肉が付いていて、当然ながらお尻の穴は見えない。

 野坂昭如の小説を読んでいたんだ。

『火垂るの墓』みたいな欺瞞的な小説じゃない。

 小説では、妹は五歳くらいで病気で亡くなる。

 実際の妹は赤ん坊で、その赤ん坊に配給されたミルクを野坂はついつい飲んでしまって、赤ん坊は餓死したんだ。
 妹を死なせてしまったけど、野坂は死んでなんかいない。
 そのあとも生き延びて、いろいろ悪いことをやって少年院にいれられる。終戦直後のことだけどね。
 当時は食糧事情が悪くって、少年院の中でも、次々に少年たちは死んでいった。

 後ろから見てお尻の穴が見えるくらい、お尻の肉が痩せてしまうとお迎えが近いらしい。

 この三か月引きこもりで五キロ痩せた。あんまし食べないからだ。
 この半月はほとんど食べていない。匂い、食べ物の匂いが⇒臭いになってしまった。
 特に炊き立てのご飯なんて最悪。
 無理に食べても(お母さんに悪いから、一応は食べる)すぐにリバースしてしまう。

 五キロくらい痩せても死なないんだ。
 
 野坂さん、ごめんなさい。
 野坂さんは、もっと苦しかったんだよね。お尻の穴が見えるくらい痩せるって生半可なことじゃないんだよね。

 部屋に戻って、ツケッパのパソコンで「女子高生の自殺」と検索してみる……。

 それから、久しぶりに制服に着替える。
「恵一……」
 小さな声だけど、聞こえたようで、リビングから恵一が戻って来た。
「ちょっと出かけてくるね」
 恵一は不思議そうな顔をしていたけど何も言わない。言わないけど、ちゃんと関心は持ってくれている。恵一は余計なことは喋らないんだ。
「じゃね」
 ほんとは、スキンシップとかしたかったけど、止めた。

 家を出て少し歩く。

 なんだか暑いなあと思う。
 そっか、まだ九月の半ばなんだ。あたしは、当たり前みたいに冬服を着ている。
 家の中ではエアコン点けてるから、季節の移ろいというのが分からない。

 赤信号で立ち止まる。
 角店の方から気配……視線を向けると、ガラスに自分の姿が映っている。

 あ…………と思った。

 ガラスに映った自分の顔の真ん中に、大きな穴が開いていた。
  

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メタモルフォーゼ・2・歩いて帰る!

2020-05-24 06:21:44 | 小説6

メタモルフォ

・歩いて帰る!             

    

 幸い秋の日はつるべ落とし。駅までは気にせずに歩けた。

 

 でも、駅の明るい照明が見えてくると足がすくんだ。女装の男子高校生なんて、へたすれば変態扱いで通報されるかもしれない。
 それよりも、このラッシュ時、満員のエスカレーター、ホーム、車両。ただでも人間関係を超えた距離で人が接する。絶対バレる!

 家の最寄り駅まで三駅。歩けば一時間近くかかる……。

 でも、オレは歩くことにした。

 近くに、このあたりの地名の元になった受売(うずめ)神社がある。その境内を通れば百メートルほど近道になる。鳥居を潜って拝殿の脇を通れば人目にもつかない。

 あ……!

 石畳の僅かな段差に躓いて転倒してしまった。
「気いつけや……」
「すみません」
 とっさの事に返事したが、まわりに人の気配は無く、常夜灯だけが細々と点いていた。幻聴だったのか……こういうことには気の弱いオレは真っ直ぐ神社を駆け抜けた。

 神社を抜けると、このあたりの旧集落。そして団地を抜けると人通りの多い隣り駅に続く。カーブミラーや店のショ-ウィンドウに映る自分をチラ見して、なるべく女子高生に見えるようにして歩いた。
 演劇部なので、基礎練習で歩き方の練習がある。その中に女の歩き方というのがある。
 全ての女性に当てはまるわけではないけど、一般に一本の線を踏むように歩く。足先は少し開くぐらいで、歩幅が広いほどハツラツとして明るい女性に見える。思わず春の講習会のワークショップを思い出し、それをやってみる。スピードは速いけど人目に付く。
 かといって、縮こまって歩くと逆の意味で目立ってしまう。

 役の典型化という言葉が頭に浮かぶ。その役に最も相応しい身のこなしや、歩き方、しゃべり方等を言う。今は一人で歩いているので、歩き方だけに気を付ける。過不足のない歩幅、つま先の角度。胸は少しだけ張って、五十メートルほど先を見て歩く。一駅過ぎたあたりで、なんとなく感じが掴めた。二駅目では、そう意識しないでも女らしく歩いている自分をおかしく感じる。
 
 スカートの中で内股が擦れ合う感覚というのは発見だった。

 女というのは、こんなふうに、いつも自分を感じながらってか、意識しながら生きてるんだ。

 クラブの女子や、三人の姉の基本的に自己中な生き方が少し理解出来たような気がした。

 ヒヤーーー!

 思わず裏声で悲鳴が出た。
 通りすがりの自転車のオッサンが、お尻を撫でていった。無性に腹が立って追いかける。
 オッサンは、まさか中身が男子で、追いかけてくるとは思わなかったんだろう。急にスピードを上げ始めた。
「待てえええええええ!」
 裏返った声のまま叫んだ。オッサンはハンドルがふらついて転倒した。
「ざまー見ろ!」
「怖え女子高生だな……イテテ」
 オッサンは少し怪我をしたようだけど、自業自得。気味が良かった。ヨッコや姉ちゃんたちの嗜虐性が分かったような気がした。

 やっと三つ目の最寄りの駅が見えてきた。尻撫でのオッサンを凹ましたことと、ウォーキングハイで、なんだか気持ちが高揚してきた。

 最寄りの駅は、準急が止まるのでそれなりの駅前の規模がある。人や車の行き来も頻繁。ここはサッサと行ってしまわなくっちゃ。そう思って駅に近づくと、中央分離帯で大きな荷物を持ってへばっているオバアチャンが目についた。信号が変わって、荷物を持とうとするんだけど、気力体力ともに尽きたのか動くのを諦めてしまった。こんな町でも小都会、この程度のお年寄りの不幸には見向きもしない……って、普段の自分もそうかもしれないが、駅前全体が見えている自分には、オバアチャンの不幸が際だって見えてしまう。

「オバアチャン、向こうに渡るのよね?」
「え、ああ、そうなんだけど……」
 
 しまった、オバアチャンが至近距離で自分のことを見てる……ええい、乗りかかった船。オバアチャンの荷物を持って手を引いた。
「どうもありがとう。タクシーが反対方向なもんでね」
「あ、そうなんだ」
 タクシーはすぐに来た。で、タクシーに乗りながらオバアチャンが言った。
「ありがとねえ、あんたならAKBのセンターが勤まるわよ!」

 AKBのセンター……矢作萌夏か!?

 まあ、オバアチャン一人バレても仕方ない。感謝もしてくれたんだし。
 そして、早くも身に付いた女子高生歩きで我が家に向かった。

 で、我が家の玄関。

 せめてウィッグぐらいは取らなきゃな。カチューシャ外してウィッグを掴むと……痛い。まるで地毛だ。

「……進二の学校の子?」

 上の留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

 

 つづく 



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新・ここは世田谷豪徳寺・20《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

2020-05-24 06:07:52 | 小説3

ここ世田谷豪徳・20(さつき編)
≪トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱≫
         


 

 もう少しで轢き殺すところだった。

 数秒……ハンドルに伏せた顔を上げられなかった。

 そして顔を上げたら、轢かれかけた本人がスタスタ歩いていく後ろ姿が目に入ったではないか!

 同じゼミのトム。

「トム、何か言ったらどうなのよ、飛び出してきたのあんたなんだから!!」
 思いのほか大きな声になった。トムは初めて気が付いたようにポカンと振り返った。
「……どうしたの、さつき?」
 こいつは、まだ分かっていない。
「急に人の車の前に飛び出してきて、挨拶もないわけ!?」
「え、ボクが?」
「いくら、あんたのボンヤリが原因でも、轢いちゃったりしたら車の過失になるんだからね!」
「ボクが飛び出した? さつきの車の前に……?」
「そうよ、あたしのゴールド免許に傷つくとこだったわよ!」
 トムは、スタスタやってきて、覗きこむようにして言った。
「このミニカーじゃ跳ね飛ばされることはあっても轢かれることはない。物事は正確に言わなきゃならないよ」
 怖い顔で、それだけ言うと足長のイギリス人は、また歩き出した。
「トム、ちょっ!!」

 これが間違いだった。様子がおかしいので、つい声を掛けて助手席に乗せるはめになった。

「……そういうことだったのか」
 事情が呑み込めたのは、ゼミをサボって紀国坂にさしかかったころだった。トムは、正式にはトーマス・ブレーク・グラバーという。ゼミの自己紹介で、この名前を聞いて「え!?」と声を上げたのは、あたしと先生だけだった。
 トーマス・ブレーク・グラバーと言えば、幕末に竜馬の海援隊や薩長相手に武器の商売をやってがっぽり儲けたイギリス人だ。それと同姓同名だったので、あたしと先生はたまげた。他の学生はグラバーそのものを知らなかったか、知っていても「幕末の」という冠むりが付かなければ思い出せなかった。まして、フルネームで知っていたのはあたしと先生だけだった。

 そのあたしでも、トムがスコットランドの出身で、今日が特別な日であることは理解していなかった。
 ゼミをサボるについても一応先生に電話はしておいた。
「今日はトムにとっては特別な日なんだ。欠席にはしないから付き合ってやってくれないか」と、頼まれた。
 で、ただでもガタイのでかいトムを折りたたむようにして、ホンダN360Zの助手席に押し込んだ。
「じっとしていられないから、どこでもいいから走って」
 で、走っているわけ。その間にトムは問わず語りに事情を話した。

 トムはイギリスの北1/3あたりにあるスコットランドのエジンバラに住んでいる。日本の京都と姉妹都市……でも分かるようにエジンバラはスコットランドの古都。このエジンバラを首都としてスコットランドはイギリスからの独立をはかり、むこうの18日、こちらの深夜から未明にかけて住民投票が行われ、あの大英帝国本土の一部が無くなるかもしれないという事態なのだ。投票権はスコットランド在住の者しか与えられない。トムのようにスコットランドに住んでいなければ投票権がない。逆にスコットランドに住んでいれば外国人でも投票権がある。
「考えてみてよ、日本で言ったら九州が独立するようなものなんだよ」
「あり得ないわよ、そんなこと」
「日本人は呑気だな、これ見なよ」
 トムのスマホには沖縄の新聞記事が出ていた。そこには……。

 沖縄の独立を目指そう! と、一面で取り上げていた。ちょっとびっくりしたが、あり得ない話だと思った。

「イギリスでも、そう思ってたんだよ。1990年代までは……それが現実になっちゃった」
「そうなんだ……で、投票できるとしたら、トムはどっち?」
「分からない、両方の気持ちが分かるから」
 この優柔不断な答えを聞きだしたのは横浜の山下公園だった。雰囲気のないことにトムは焼き芋を買ってきて、二人並んで食べている。
 ここは、あたしの大好きな『コクリコ坂から』の主人公メルと俊が自分たちの未来を不安交じりに語り合う聖地なんだぞ。

 思いのほか遠くの汽笛が大きく響いた。トムはその音に紛らわせてオナラをした。風下にいなければ気づかないところだった。 

 トムの憂鬱はよく分かったけど、デリカシーのないスコットランド人だ……! 

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