大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・155『壬生 オモチャの城・1』

2020-05-25 13:56:21 | 小説

魔法少女マヂカ・155

『壬生 オモチャの城・1』語り手:マヂカ     

 

 

 

 オモチャのお城?

 

 我々と城を隔てるものが一群の灌木林になるところまで迫って、友里が呟いた。

 ディズニーランドのお城をプレスして高さを半分にしたような城は、なんともオモチャめいた印象なのだ。

 色紙(いろがみ)を切って貼り付けたような外壁、城壁や尖塔に立てられたポールには様々な三角の旗が掲げられているのだが、お子様ランチの旗のように固まって、そよぐことも垂れることもない。城壁を這う蔦はキレイな緑色で、ビニールの造花のようだ。

 リアルの建築物なら、電線やネットのケーブルが引き込まれていたり、屋根の縁には樋があったりするのだが、それも見当たらない。

 近寄ってみると、オモチャめいた音と音楽、ネジを巻くような音や、ガチャガチャ歯車が回る音、ヒューとかポンとか、クルクルとか、プップクプーとか、赤ちゃんが聞いたら笑顔になりそうな音がする。

「たしか、壬生にはオモチャの博物館があったような気がする」

「オモチャの博物館があるのか?」

 令和に時代に目覚めて一年ちょっと、日暮里以外の地理的な知識は、おおかた昭和二十年で止まっている。

「うん、小学校の時、遠足の候補に挙がったことがある」

「あ、城門が開く!」

 カタカタカタと、プラスチックの歯車が回るような音がして、城門が八の字開いた。

「入る?」

「いや、迂回していこう。ん……ツンは?」

「え? あ、あそこに」

 ツンは、灌木林を出たところで立ち止まっている。

「ツン、行くぞ」

 …………。

「ちょっとおかしい」

 灌木林のところまで戻ると、ツンは前を向いたまま行儀よく固まっている。

「あ……置物みたくなってる!」

「プラスチックのボディーに毛皮をかぶせたような……」

「子どものころ持ってた。ねじを巻くと『ワンワン』て言いながら歩く犬のオモチャ」

「ツンのお腹にもネジがあるぞ」

「巻いてみようか?」

「おう」

 ツンを横倒しにして、ネジを巻く。

 ジーコ ジーコ ジーコ

 八回ほどでネジが巻き上がり、ピョコンと立ち上がると、意外に早い足どりでトテトテトテと歩き出した。

「お、ちょっと待て!」

「ツン!」

 ツンは、追うほどに足が速くなり、わたしと友里を追わせたまま城門の中に入ってしまう。

 

 ギーーーーーーーーーーーガッチャン!!

 

 ツンを追って、城門を潜ると、硬質な金属音を立てて城門が閉まった。

 オモチャらしくない。まるで大砲に弾を込めて砲手が尾栓を閉じた時の音のようだ。

「あ、見て!」

 周囲の壁が捩じったように迫ってきて、捩じりは、そのまま前方に向かって規則正しい縞になって、まるで、砲身の中に刻まれたライフルのようになった。

「友里、ツンをきつく抱っこして、わたしに掴まれ!」

「え、なに?」

「早くしろ!」

 友里の手を掴まえたところで衝撃が来た!

 

 ドッカーーーーーーーーーーーーーン!!

 

 

 

 

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ライトノベル・あたしのあした02『コロンブスの卵』

2020-05-25 06:27:15 | ノベル2

02『コロンブスの卵』      


 もう長くはない。

 腫瘍が脳みその1/10まで広がっている。視神経に影響が出始めているが、他には影響が出ていない。しかし、それも時間の問題、わずかな刺激で腫瘍は脳の重要な部分を圧迫して、この風間寛一はおしまいになる。

 未練はない。

 春風議員の政務活動費と二重国籍の不始末は、この風間寛一が全部引き受けた。
「このことは、第一秘書の風間の不手際です」
 記者会見で、そう言えば済むだけの工作はしてきた。あとは、この頭の中の時限爆弾が始末してくれる。
 できたら雑踏の中で命を終えたい。そうすれば確実に病死と世間が認定してくれる。
 事故死では自殺ととられかねないし、病院のベッドで死んでも世間は「春風議員に始末された」と邪推する。

 春風さやかは国会議員になんかなるべきじゃなかった。

 大学を出て、在学中からやっていた芸能活動を本格化しつつあるところだった。それが母親の突然の死で議席を引き継がざるを得なかった。ノホホンとした明るさが取り柄の春風さやかがクソッタレの女性議員になるのはあっと言う間だった。クソッタレでもボスに違いは無い。ボスを守るのが秘書の本分。反発ばかりしてきた親父だけど、この言葉は正しい。

 信号待ちをしている女子高生が気になった。

 まだ九月の半ばだというのに冬服を着ている。手ぶらであるので下校中というわけでもないようだ。
 痩せぎすで顔色が悪い。なにより雰囲気が、駅前ロータリーの雑踏に馴染んでいない。表情が死んでいるのだ。今時の高校生に生気がないのは不思議じゃないが、この女生徒は、生きているエネルギーそのものが尽きかけているといった風なのだ。

 信号が変わって、わたしは女生徒の後ろを歩き出した……。


 顔に穴が開いていると思ったのは一瞬だった。

 よく見れば、お店のガラスには、ちゃんと顔が映っている。たぶんあたしの顔なんだろうけど、自分の顔という実感が無い。マネキンみたいに無表情。
 こういう顔してるとイジメられる……てか、イジメられた結果、こういうマネキンみたいな顔になっちゃうんだけどね。

 いま。あたしが立っているのは、学校へ行くのには一つ遠い駅のホーム。
 いくらなんでも、通学の駅には行けないもんね。心が耐えられないよ。

 駅自体は嫌いじゃない。電車に乗ってしまえば、いま立っているところからは逃げられるもん。
 それに絶えず人が移動しているから、学校みたいに人の存在が刺さってこない。
 人はみんな通行人だ、モブキャラだ。オブジェとしての人間なら悪くはない。

 でも、あたしってば、どこに行こうとしてるんだろうか?

 電車に乗ってしまえば、どこかに着いてしまう。終点まで乗っていても下りなきゃならない。下りるのはやだ。
 もう二本の電車を見送った。
 そろそろ体力が限界だ。野坂さんの小説みたく、お尻の穴が見えるくらいに衰えているわけじゃないけど、久々の外歩き。
 もう家に帰るほどの体力も気力も残ってはいない。

 そこでコロンブスの卵が立ってしまった。

 電車のもう一つの使い方が閃いたのだ。乗り込むだけが旅立ちへの手段じゃない……。
 あたしは、電車が入ってくるレールの響きに惹かれるようにホームの先端に向かった。

 そして、一メートルちょっと下のレールに向かって、軽くジャンプした。

 なんだ、こんな簡単なことだったんだ……。
 

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メタモルフォーゼ・3・呑み込みは早いんだけど……

2020-05-25 06:17:00 | 小説6

メタモルフォゼ・
呑み込みは早いんだけど……            

 

 

 留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

「オ、オレだよ、進二だよ……!」

 押し殺した小さな声でルミネエに言った。

「え、なんの冗談……?」
 少し間があってルミネエがドッキリカメラに引っかけられたような顔で言った。オレはここに至った事情を説明した。
「……だから、なんかの冗談なのよね?」
「冗談なんかじゃないよ。ここまで帰ってくるのに、どれだけ苦労したか!?」
「ねえ、進二は? あなた進二のなんなの?」

 オレは疲れも吹っ飛んで怖くなってきた。実の姉にも信じてもらえないなんて。

「だから、オレ、進二! ルミネエこそ、オレをからかってない? どこからどう見ても女装だろ?」
「ううん、どこからどう見ても……」
「もう、上着脱ぐから、よく見ろよ、これが女の……」
 体だった……ブラウスだけになると、自分の胸に二つの膨らみがあることに気づいた!

 小五までいっしょに風呂に入っていたことや、ルミネエが六年生になったときデベソの手術をしたこと、そして趣味でよく手相を見てもらっていたので、門灯の下で手相を見せ、ようやく信じてもらった。

「進二、下の方は?」
「え、舌?」
「バカ、オチンチンだよ!」
 ボクはハッとして、自分のを確認した。
「この状況に怯えて萎縮してる」
 すると、やわらルミネエの手がのびてきて、あそこをユビパッチンされた。小さい頃、男の子は、今は就職して家を出てる進一アニキしかいなかったので、油断していると三人の姉に、よくこのユビパッチンをされて悶絶した。それが……痛くない。

「よく見れば、進二の面影ある……」

 お母さんが、しみじみ眺め、やっと一言言った。ミレネエとレミネエは、ポカンとしたまま。

 この真剣な状況で、オレのお腹が鳴った。

「ま、難しいことは、ご飯たべてからにしよう!」
 お母さんが宣言して、晩ご飯になった。お母さんには、こういうところがある。困ったら、取りあえず腹ごしらえ、それから、やれることを決めようって、それでうちは回ってきた。

 女が強い家なんだ。

「進二、学校から歩いて帰ってきたから、汗かいてるだろ。ちょっと臭うよ」
「ほんと? う、女臭え……!」
 我ながらオゾケが走った。この汗の半分は冷や汗だ。
「進二、食べたら、すぐにお風呂入ってきな。それからゆっくり相談しよう」
「お風呂、お姉ちゃんがいっしょに入ってあげるから」
「え、やだよ!」
「あんた、髪の洗い方も分かんないでしょ」
「わ、分かってるよ。昔いっしょに入ってたから」
「子どもとは、違うんだから。お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
 矛盾することを言っていると思ったが、入ってみて分かった。女の風呂って大変。
「バカね、髪まとめないで湯船に入ったりして!」
 ルミネエが短パンにタンクトップで風呂に入ってきた。後ろでミレネエとレミネエの気配。
「バカ、覗くなよ!」
「着替え、置いとくからね」
「下着は、麗美のおニューだから」
「え、あたしの!?」
「だって……」
 モメながらミレネエとレミネエの気配が消えた。お母さんの叱る声もする。

「進二……完全に女の子になっちゃったんだね」

 シャンプー教えてくれながら、ルミネエがため息混じりに言った。オレは、慌てて膝を閉じた。

「明日は、取りあえず学校休もう。で、お医者さんに行く!」
 風呂から上がると、お母さんが宣告した。
 寝る前が一騒動だった。ご近所の人との対応は? お父さん進一兄ちゃんへ報告は? 急に男に戻ったときはどうするか? 症状が続くようならどうするか? などなど……。
「もう寝るから。テキトーに決めといて」
 眠いのと、末っ子の依頼心の強さで、下駄を預けることにした。

 朝起きると、みんな朝の支度でてんてこ舞い。まあ、いつものことだけど。

「なによ美優、その頭は?」
「美優?」
「ここ当分の、あんたの名前。じゃ、行ってきまーす!」
 レミネエが、真っ先に家を飛び出す。0時間目がある進学校の三年生。
「あたし二講時目からだから、少し手伝う。髪……よりトイレ先だな、行っといで」
 トイレで、パジャマの前を探って再認識。オレは男じゃないんだ。
 歯を磨いて、歯並びがオレのまんまなので少し嬉しい。で、笑うとカワイイ……こともなく、歯磨きの泡を口に付けた大爆発頭「まぬけ」という言葉が一番しっくりくる。

「じゃ、がんばるんだよ美優!」
「え、なにがんばるのさ?」
「とにかく前向いて、希望を持って。じゃ、いってきまーす!」
 ルミネエが出かけた。

「ちょっと痛いよ」
 朝ご飯食べながら、ミレネエにブラッシングされる。
「こりゃ、一回トリートメントしたほうがいいね」
「……ということで、休ませますので」
 お袋が受話器を置く。

 オレはどうやら風をこじらせて休むことになったようだ。

「ああ、眠いのに、なんだかドキドキしてきた」
「その割に、よく食べるね」
「それって、アレのまえじゃない?」
「え……?」
「ちょっとむくみもきてんじゃない?」
 そりゃ、体が変わったんだから……ぐらいに思っていた。
「あんた、前はいつだった?」
「おかあさん、この子昨日女子になったばかりよ」
「でも、念のために……」

 お母さんと、ミレネエが襲ってきた。で、ここでは言えないような目にあった(^_^;)。

 ただ、女って面倒で大変だと身にしみた朝ではあった。

 

 つづく 

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新・ここは世田谷豪徳寺・21《我ながらひどい顔だ》

2020-05-25 06:03:10 | 小説3

ここ世田谷豪徳・21(さつき編)
≪我ながらひどい顔だ≫       




「え、まだ結果出てないの!?」

 二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまった。
妹のさくらが嫌味な目で見ている。
「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」
「え、なに?」
 返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。

 昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。

 イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできないものだ。
 でもトムは違う。日本に来ているのだ。日本人は世界に冠たるミーハーな国民性だけど、マスコミが騒ぐほどにはスコットランドには関心が無い。だから、なんの遠慮も無く賛成でも反対でも叫べる。それが昨日車で跳ね飛ばしそうになってから丸一日付き合うハメになったけど、トムはハムレットだった。

「投票結果出るのは夕方だって……」

 お母さんが、朝ごはんの用意しながら教えてくれた。
「日本だったら、出口調査で投票締め切りと同時に結果でてるよ」
 トーストの上にスクランブルエッグ乗っけて、あたしはボヤいた。
「さつき、せめて着替えてから朝飯食べたら」
 斜め前のお父さんが言う。
「いいの。スコットランドのお蔭で、昨日は振り回されっぱなしだったんだから」
「それは同情するけど、ここのボタンぐらい留めなさい」
 と、胸元を指した。あたしったら、パジャマの第二ボタンが外れていた。お父さんの角度からだと胸が丸見えだったんだろう。
「ごめんなふぁい……」
 トースト咥えたまま素直に謝る。さくらだったら「変態オヤジ!」とか逆ねじなんだろうけど、さすがに大学生、自他の状況を見て反応が出来る。お母さんの「情けない」という視線をシカトして、モソモソと朝食を咀嚼する。

 なんとか身づくろいしてダイニングに戻ると、お父さんはご出勤、さくらも学校に行っていた。でも、テレビでは相変わらずスコットランド。で、コメンテーターが、沖縄の独立なんて飛躍した話をしている。
「こういう奴が一番許せないのよね……」
 お母さんが冷やかに言った。
 たしかに、このコメンテーターは慰安婦問題でさんざん政府を批判しておきながら朝日新聞が叩かれ始めると、一週間沈黙したあと、急に朝日批判になってしまった。で、知ったかぶりの話題づくりのために沖縄独立なんてことを言いだす。
「針程の事を電柱程に言うんだから。スコットランドはイングランドと違ってケルト人だけど、沖縄は純然たる日本よ。文化的にも民族的にも。沖縄が外国だって言うんなら、東北だって外国。京都や山陰は人類的形質じゃ韓国と同じになっちゃう。そういうことも分からないで、ただエキセントリックだというだけで、こんなことほざくんだもんね」
 かなり学問的で分析的な批判をお母さんは言う。

 見かけは普通の主婦だけど、お母さんは兼業作家だ。知識と理屈は並の大学の講師の上を行く。付き合っていては論議を吹っ掛けられそうなので、大学へ行くことにする。

 そこにゼミの高坂先生から電話……トムが夕べから寮に帰っていないだとさ。

 アンチクショー!

 

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