大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:035『隠し忘れて宇治神社・2』

2020-05-09 12:56:13 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:035

『隠し忘れて宇治神社・2』  

 

 

 わたしは魔物じゃないわ、ジジは見ものだけど。

 

 なんか嫌味な言い方をするチカコ。

『あとで付き合ってやるから大人しくしてろよ』

『いいわよ、さ、ジジがここで感じるものを見せてちょうだい』

「え、あ……それは」

 なんか嫌な感じなんだけど、見せてと言われると思い浮かべてしまう。

 

 川岸を黄前久美子が歩いている。チカコが上がってきた石段を下りてベンチに浅く腰を下ろし、ため息ついて背もたれに重心を移す。

「うぇ~なんでだろう」

 見学に行った吹部で苦手な高坂麗奈を見かけた。それも「入部したいんですけど」とはっきりトランペット命って静かな闘志をみなぎらせて。みどりと葉月は無邪気に「いっしょに入部しようよ!」と言うけど、麗奈の事とヘタッピーな吹部を思うと気が塞がってしまう。

「ぬかったあ……」

 カフェオレを飲みながら空を仰ぐと「なにが?」の声と共に影がかぶさってきた。

「ふわわわ!Σ(゚Д゚)」

 幼なじみの塚本秀一が覗き込んでいる。

 ここから『輝けユーフォニアム』のドラマが始まるんだ。

 この出会いが好きで、お祖母ちゃんのDVDを借りて何度も見た。リアル宇治川を見ると自分の体験のようにビジュアル化してしまう。

『なるほど……こういうのがジジの憧れなんだ……フフ』

「わ、笑うことはないでしょ!」

『ごめんなさいね、素敵よ、そういう憧れを持つ姿勢は……でも、あのシーンは『あじろぎの道』がモデルだから、川の向こう側だよ』

「え!?」

『ま、いいじゃないか。アニメはこの辺の景色を合成して作ってあるんだから、素敵だと思っていたらいいことだ』

『そうね、でも、わたしのはもっと素敵なんだよ……』

 

 ドッポーーン

 

 水音に驚いて川面を見ると、お雛様のような和服の女の人が宇治川に飛び込んだところだ! 

「あ、人が落ちたよ!」

『そうよ、でも助けちゃいけないの』

「だって!」

『あれは浮舟だな』

「舟じゃない、人だよ!」

『あれは『源氏物語』の最後の宇治十帖だ。ジジのアニメといっしょでチカコが思い浮かべた幻だ』

「まぼろしなの……」

『浮舟は薫が想う女にも匂宮が想う女にもなれずに宇治川に身投げするところで終わるんだ』

『忍びのくせに、よく知ってるじゃない』

『さ、二人とも素敵な幻を見たんだから、そろそろ帰るぞ』

『まだよ、宇治川には、もっと血沸き肉躍ることがあるわ……』

 

 ブォーブォー ブォーブォー

 ドドドドドドドドドドドドドド! ドドドドドドドドドドドドドド!

 

 法螺貝が鳴り響いたかと思うと、川下の方から馬蹄の響きが轟いて、何十騎という騎馬武者が砂煙を上げて川辺の道を川上の方角に駆けて行った!

「え? え? なに!?」

 ヒョ! ヒョ! ヒョヒョヒョ!

『危ない、逃げるぞ!』

 おづねが声をあげて、わたしたちは宇治神社の境内を抜けて走る!

 ドス! ドスドスドス!

 今まで立っていたところに十数本の矢が立つ。

『ああ、ワクワクするう!』

 ドスドス!

「ヒヤ! 戦争なの!?」

『平家の軍勢が平等院の頼政を攻めているんだ、もう逃げるぞ!』

 おづねは宣言すると、手ぬぐいでチカコの左手をくるんでしまった。

『ジジ、目をつぶれ!』

「う、うん」

 急いで目をつぶると、また風が吹いてきて意識が遠くなっていった……。

 

 

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ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・125「大お祖母ちゃんの腰を揉む」

2020-05-09 06:14:16 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部

125『大お祖母ちゃんの腰を揉む』   

 

 

 そこが難しんだよ……

 

「腰のこのへんが?」

 美晴は、揉むポイントを少しだけ下にずらした。

「あーーーそこそこ、意外にうまいじゃないの」

「自分が凝るのもこの辺だから……」

 風呂上りに大お祖母ちゃんに呼ばれ、かれこれ十分もマッサージしているのだ。

「凝るところがいっしょだなんて、やっぱり遺伝なんだね……」

「あ……うん」

 胸にこみ上げたものを静かに呑み込んだ。

 大お祖母ちゃんの言葉には裏が無い。美晴のマッサージの上手さが血族であることの証であることにシミジミしているだけなのだが、よけいに大お祖母ちゃんの希望に添えない痛みが胸に走る。でも、口に出して言ってしまえばズルズルになりそうなので、黙々とマッサージを続ける美晴だ。

 生徒会の副会長を四期も務めた美晴は、労う気持ちが湧いてくるのだけど、さすがに卒寿の大お祖母ちゃんには言葉が出てこない。そうだね……という相槌だけは出てくるのだが、たった四文字の言葉でさえ口にしてしまえば、一気に気持ちが傾斜してしまいそうなのだ。

 

「さっきの難しいは、美麗ちゃんのことさね」

「美麗が……?」

「というか、美麗ちゃんを取り巻く身内がさ……中国人が日本の山林や水資源を買いあさるのは、正直たいへんな脅威なんだよ。このまんまにしておくと、山林のおいしいところはみんな中国人に持っていかれる。それを防ぐのが、このお婆の仕事なんだがね。買いにくる中国人は身内のためなんだ……林さんたちは国を信じちゃいないからね、一族身内の未来は自分が保障しなきゃならないと思ってる。林さんたちが邪まな気持ちだけなら戦えば済む話なんだけどね……林さんたちにも、きちんと正義があるんだ」

「そんなことって、政府の偉い人の仕事じゃないの」

「そうとばかりは言っていられないところまで来てるんだよ……美晴が美麗ちゃんと仲良くなってくれたことは良かったと思うよ。同じ美の字が頭に付くんだ、これからも仲良しでいておくれ」

「うん、仲良くする」

「このお婆は、お父さんの林(りん)さんとガチバトルになるだろうからね……いい気持ち……美晴、こういうのはどう思う?」

「どいいう?」

「………………………………。」

 大お祖母ちゃんは、美晴が住んでいる大阪で実際に起こったトラブルを話して感想を求めてきた。

「……そんなの許せないよ」

「だと思ったら、あした美麗ちゃんに聞いてみるといい……」

 大お祖母ちゃんは、そこまで言うと寝息を立ててしまった。

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・5《あえて さくらのために》

2020-05-09 06:06:03 | 小説3

・ここは世田谷豪徳寺・5(さつき編)
≪あえて さくらのために≫
       


「さすがに蒙古斑は無くなったみたいだな」

 そう言うと、お父さんは開いたなりのドアを閉めていった。
 娘とはいえ、スッポンポンの姿を見てしまったバツの悪さを上手くかわしていった。図書館の司書にしておくには勿体ない対応のうまさだ。
 あたしは穿き替えのパンツつかんで、脱衣場に向かった。
「ねえ、佐伯君のこと知ってんの?」
 後ろから、さくらが付いてきて、しきりに聞く。だけど、パンツ穿いてパジャマ着ながら思った。佐伯君のことは、さくら自身が、米井由美とかいう子から直接聞くべきだ。
 第一に、あたしにはボランティアとは言いながら守秘義務がある。それにあたしから聞いたということになると佐伯君も米井さんも傷つくだろう。むろん、さくら自身も。さくら自身はけして人間関係の下手な子じゃない。でも得手不得手な相手がいるようで、あたしの知る限り、小学校の頃から、そんなに友達が多い子ではない。あえて、さくらのために勘違いで通した。

 そんなこんなで、ベッドに潜り込んでから気が付いた。

「しまった、今夜中に書かなきゃならない書評があったんだ!」と、パソコンに向かう。
 あたしは映画評論のゴーストライターのバイトがあるけど、要は便利屋さん。今夜は書評だ。

 大橋むつおの最近刊『ノラ バーチャルからの旅立ち』

 マイナーな作家なので、あたしにお鉢が回ってきた。この劇作家は、昔はシニカルな作品が多く、人間の見方が定型化していて、あんまり興味がなかった。しかし、50を超えてから、作風が変わり、結論や解釈を読者に預けてしまったようなところがあり、人の心を温もらせるような作品が多い。

――なんか、ほのぼのと胸の中から暖かくなる作品達ですね、一気に読み切った。

 私はノラが一番好き。好みのSF設定だし、落ちが二重になってるし。
 WOWOWで「イヴの時間」のアニメやってました。テレビ放送があって(? 知らんけどね)それの劇場版らしいです。
 タイトルと同じ名前の喫茶店があって、アンドロイドが普通に存在する未来、その喫茶店では人間とロボットを区別しない。それがルールですと、わざわざ入り口のボードに書いてある。
 ちょっと別な事をしながら見ていたから……でも、ノラを読んでから、何か気になってきた。もっかい見る。ちょうど旧タイプが破棄されるタイミングで記憶回路が初期化されても、ノイズ入りで在るかなきかの記憶にすがっているロボットが悲しい……そこだけ、妙に覚えてます。他に、恋人が死んで引きこもった女の子の所に、その恋人ソックリに偽装されたロボがやってくるってのもあったなぁ。何? こういった設定が流行ってんのかな? 私、最近 深夜帯のアニメを全く見てないから解かりません。

 クララは、やり方によっては、立派に不条理劇になるよね。そのバヤイ、ちょっとしたホラーテイストがまざるといいんじゃないかな? ただ、そうすると、始めのチャット部分に弱い所があるかなあ。ハイジが来てからラストまでが短いから、チャット部分で匂わせるか、それでラストにドンってひっくり返す。まぁ、大橋さんはそんなつもりで書いてないから、私の勝手な読み込みだけどね。でもね、これでクララはほんとに一歩踏み出せるだろうか。ちょっと書き足りないんじゃないかな? 結論は観客に預けるにしても、問題点をも少しはっきり見えるようにしたほうがいいような…… 。

 星に願いを……も、可愛いね。ただ、志穂がトコとトシ君の関係を知らなかったって所が……ムムゥなのよね、王子の存在もファンタジーと現実の間に浮いたまんまに成ってるように思えるし。この距離感は嫌いじゃないけどね。

 すみれの~は懐かしいわねぇ、高演の芝居を思い出すなぁ……あれが優勝じゃないなんて、いかん! 怒ってらしたのを思い出しました。この本が埋もれちゃうなんて(いや、これだけがそうなるってんじゃなく。今は本の回転が早いから)もったいないですね。誰か推薦図書とかにしてくれないかなぁ。とにかく、書き続けてくださいね、継続は力です。 ネット小説もいいけど、脚本も続けてください。 高校生向けだけじゃなく大人向けにも書いてみてください。

 大橋むつおは埋もれませんように――

「お姉ちゃん、仕事?」
 風呂上りのさくらが訊ねてきた。
「うん、ちょっと書評……この本。戯曲集だけどね、最初の作品だけでも読んでごらんよ。ヒントになるものがあるかもしれないよ」
 さくらも本好きなので、30分ほどで読んでしまい(速読したようで、掲載作品全部を読んだ)考え込みながら寝てしまった。

 あくる日、さくらは目を腫らして帰ってきた。米井さんとうまくいったか、逆にこじれたか。あたしからは聞かなかった。いずれ分かるだろう。その夜は、さくらがパンツの穿き替えを忘れた。湯気たてて部屋にパンツを取りに来たさくらに、蒙古斑はなかった……。

※:書評は滝川浩一氏のものを参考にしました

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乙女と栞と小姫山・40『森ノ宮女学院』

2020-05-09 05:57:34 | 小説6

乙女小姫山・40
『森ノ宮女学院』     

 

 桑田先生は臨時の入室許可書を作ることにした。

 理由は一つ、いや二つ、乙女先生が今日も休みなのである。

 乙女先生が、転勤してから、物の置き場所が変わった。それまで雑然としていた生活指導室を、徹底的にきれいにし、物品の置き場所を合理的にしたのだ。

 むろん乙女先生は、それについて説明もしたし資料も配った。しかし、みんなろくに話を聞いていない。それに、遅刻者に対する入室許可書は常駐の乙女先生が一人でこなしていた。で、携帯でありかをを聞くのも業腹で、首席という沽券にもかかわる(と、自分では思っている)ので、自分で作ることにした。

  もう一つの理由は、学校全体の緩みであった。

 栞の『進行妨害受難事件』以来、生徒は学校を不信……とまでは言わないが、軽く見るようになった。で、遅刻者が日に十人を超えるようになり、今朝は連休の狭間ということもあり、九時の段階で二十人を超えた。で、遅刻者を外で待たせ、パソコンで制作したのである。やはり、一日校外清掃のパフォーマンスをやったぐらいでは、一時学校の評判は取り戻せても、基本的な解決にはならない。
 

 そのころ、乙女さんは美玲を連れて私立森ノ宮女学院の学校見学にきていた。

 身分は公務員としか明かしていない。乙女さんの目は、まず学校の外構に注がれる。外周の道路や、校舎の裏側の汚れよう……おそらく業者を入れて定期的な掃除をやっているのだろう、完ぺきであった。教室の窓の下。公立では黒板消しクリーナーの整備に手が回らず、掃除当番の生徒達は、窓の下の壁に叩きつけて、黒板消しをきれいにする。そこまでを学校に入るまでにチェック。そして学校に入る前に、娘である美玲のチェック。今日は近江八幡で通っていた公立中学の制服を着ているが、夕べ長すぎる上着の丈と、袖の長さを補正してやり、靴下は純白、靴はローファーの新品。髪は夕べ風呂でトリートメントし、今朝は入念にブラッシング、完ぺきに左右対称のお下げにし、前髪は眉毛のところで切りそろえてやった。
 

「よし!」
 

 門衛のオジサンに来意を伝えると、あらかじめ連絡してあったので、教務の先生が出迎えに来てくれた。

「学校は、いま授業中やから、美玲、くれぐれも静かにね」

 相手の教師が言う前に、娘にかました。

「はい」と美玲も、言われたとおり手を前に組んで応えた。

 廊下、階段などを鋭くチェック。彼方に見える校舎で行われている授業は気配で感じた。授業の良い意味での緊張感あり、こっそり窓の隙間からこちらを伺っているような生徒はいなかった。

 ちょうど休み時間が被るように廊下で立ち話をし、休憩中の生徒や先生も観察した。授業が終わった開放感はあるが、それぞれの教室では次の授業に向けて移動や準備をする子が多く、あまり無駄話の声が聞こえない。

「申し訳ありません、応接室が塞がっているもので、職員室の応接コーナーで……」

 乙女さんはラッキーと思った。教師の日常がうかがえる。

 ――住みにくそう――

 乙女さんは、教師の直感で、そう思った。

 教師の机の上にほとんど物が置いていないのである。これは個人情報の管理や、風通しのいい職員関係とかいうお題目の下でよくあるパターンである。空席の机上のパソコンもフタが閉じられ、節電という名目で、情報管理には、かなりうるさい学校と見た。

「で、本校に転入をご希望ですとか……?」

 敵は、いきなり核心をついてきた。

「書類を出せば、分かってしまうことなので、あらかじめ申し上げさせていただきます」

「はい」

「事情がございまして、この子は近江八幡の親類に預けておりましたが、預けました親類宅で不祝儀なことが起こり、十分にこの子の面倒を見て頂けなくなりました。私どもも、この春の移動後、案外余裕が持てることが分かりましたので、急遽この子を引き戻すことにいたした次第です」

「失礼ですが、その点、今少しお話いただければ……」

「もうお気づきとは思いますが、わたし先生と同職です」

「あ、学校の先生でいらっしゃいますの?」

 「はい、この三月まで、わたしは朝日高校、主人は伝保山高校におりました」

「え、朝日と、伝保山!」

 この学校名には効き目があった。両校とも府立高校の中では困難校の横綱である。

「で、今は、わたしが小姫山青春高校。主人が堂島高校ですので、いえ、わたしたち、正直教師生活、定年までドサ周りやと思てましたよって、ガハハハ」

「は、はあ」

「いや、賑やかな声で失礼しました」

 あとは転入試験にさえ受かってしまえば問題なし。今は学校に提出する書類で、ややこしい人間関係や、家族問題が分かるようなものは無い。相手が考える前に栞の父が揃えてくれた書類をテーブルに揃えた。

「ほんなら、そちらさんの書類を」

 相手は、慌てて転入学に必要な書類を持ってきた。乙女さんは慣れた手つきで、五分ほどで書き上げた。

「ほんなら、転入試験は、連休明けということで、ご連絡お待ちしております」

 有無を言わさず決めてしまい、学校を後にした。
 

「わたし、何も言うとこなかったですね」

「せやな、あんだけ練習したのにな。時間早いよって大阪城でも寄っていこか。ここのアイスはうまいねん」

 そう言って、森ノ宮口から大阪城公園に入ると、ベンチに見慣れたオッサンがたそがれていた。
 

「教頭先生……」

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