大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・143『留美とさくらの誓い』

2020-05-04 12:30:54 | ノベル

せやさかい・143

『留美とさくらの誓い』         

 

 

 

 もう一か月もお母さんに会っていない。

 

 お母さんは大阪市内の病院でナースをやっている。

 ごりょうさん(仁徳天皇陵)の側にあった女子高(いまは廃校)の出身。

 この女子高は、大阪でただ一校だけの府立の女子高で、衛生看護科しかなかった。つまりナースを養成する高校だった。卒業すると准看護婦(あ、今は准看護師)の資格がとれて、即現場で働ける。

 その後、がんばって正看護師の資格をとって、いまは三つ目の病院。

 二つ目の病院に勤めている時に結婚して、わたしを産んでくれた(^▽^)/

 今は書けないけど、お父さんはいない。いない理由も含めて、いまは言いたくない。

 お母さんの病院はコロナウィルスの患者さんを引き受けて大変なんだ。

 だから、家の事はわたし一人でやっている。

「大丈夫だよ、もう中学二年なんだし!」

 そう言うと「そうだね、がんばれ!」と笑顔で出勤していったのが四月の三日。

 一度だけ帰ってきたんだけど、無念にも熟睡していたので気づかなかった(;^_^A

 

 先週の生協にはビビった。いくつかの品物が抽選になって、外れてしまったんだ。

 仕方なく、近所のスーパーに買い出し。

 ついてないと思ったんだけど、いいこともあった。

 なんと、お店の前でさくらちゃんと一緒になったんだ!

 さくらちゃんも生協の抽選に外れたものがあって、買い出し。

 ほんとは、ハグしたり、ピョンピョンしたかったんだけど、コロナのことがあるので辛抱。

 でも、そこは十三歳の女子中学生、ソーシャルディスタンスをとっているんだけど、ついつい近寄ってしまう。

 

 必要は発明の母!

 

 どっちが言い出したわけでもないんだけど、お互い持ってきたクリアファイルを顔の前に持ってきて防護面にした。

 さくらちゃんは、数少ない友だちだ。

 クラスが一緒だし、あ、正確には一緒だった。二年になってからは学校に行けていないから、まだクラス分からないしね。

 スカイプでは何度も話してるんだけどね、やっぱリアルに会って話すのは格別だ。

 買い物終わったあとも、近くの公園でニ十分も喋ってしまったよ(o^―^o)ニコ

 文芸部の事や、頼子先輩のこと、それに子ネコのダミアのこととか。友だちといっしょに同じ空気吸って話をするって、とっても嬉しい。

 いっしょに文芸部に入ってから分かったんだけど、さくらちゃんもお父さんが居ない。

 失踪したんだそうだ。失踪して七年もたつので失踪宣告(法律的に死んだことになる)して、苗字もお母さんのになって、中学にあがると同時にお母さんの実家であるお寺に引っ越してきた。

 スカイプで「お父さんのお葬式をやった」と言った時は、ちょっと胸が塞がった。でも「これでけじめついた(^▽^)/」と明るく言うので、わたしも「よかったね」と返した。

 わたしもさくらちゃんも、口には出さないけど、たいていのことは前向きに捉えようって生き方。

 

『もおおおおおおおおおおおおおおお、カビが生えそうよ!』

 ご機嫌斜めなのが頼子さん。

 

 こないだは、聖真理愛女学院の制服姿の写真を送ってきてくれたりして、実にアグレッシブな心意気を見せてくれた頼子さんだけど、ずっと缶詰の生活で爆発寸前。

 聖真理愛女学院の入学にはぜったい間に合わせたいし、日本が恋しくてならない頼子さんは女王陛下のお婆さまを説き伏せて、領事館での二週間に及ぶ隔離生活にも耐えた。

 でも今度は日本が緊急事態宣言。「解除されるまではお出ましになってはなりません」と女王陛下の命を受けた領事によって缶詰が続いている。

 頼子さんはヤマセンブルグの王位継承者なのだ。

 頼子さんに出会うまでは、王族とか皇族とかは、おとぎ話の世界の人間で、自由に気楽に生きているんだと漠然と思っていた。

 でも、去年の夏休み、エディンバラとヤマセンブルグに同行して大変さ加減が分かった。

 頼子さんは、日本語 英語 それにヤマセンブルグの公用語であるドイツ語に堪能だ。

 でも、頼子さんが、いちばん自由に話せるのは日本語。エディンバラやヤマセンブルグで英語、ドイツ語を喋る頼子さんのすぐそばで同席したけど、CA(キャビンアテンダント)のようによそよそしい。

「ぢかには会われへんやろけど、なんか、頼子さんのストレスを和らげるようなことを考えてみようよ!」

 児童公園のベンチ、クリアファイルの防護面越しに誓い合う留美とさくらでありました。

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・120「T字廊下の突き当り」

2020-05-04 06:21:57 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
120『T字廊下の突き当り』
            

 

 

 三十分もすると無礼講は手が付けられなくなった。

 

 落花狼藉の大騒ぎというわけではない、最初は隣近所で喋っていたのが、席を移動するようになり、移動した先では酒を酌み交わしながら皆口角泡を飛ばしての議論が始まる。激してくると、直垂姿の重役が割って入る。なにやら一言二言言うと、皆が手を打っての放歌高吟になる。それでも収まりがつかないと対立している双方から人が出て、扇子を刀に見立てての剣舞になる。

「ここの慣わしなのです。お酒が入ったまま論じていては判断を誤ります。しかし、いったん火のついた対抗意識には決着を付けなければ、やはりもめ事になります。それで、歌ったり踊ったりして、その場の優劣だけを決しておくのです。歌や踊りですから、負けても恨みにはなりません。生活の知恵ですね(^ー^* )フフ♪」

 瀬奈さんは美晴の傍に来て解説してくれる。瀬奈さんが居なければとっくに参っていただろう。

「勝負が付くと、勝者敗者の双方がやってきます。ご苦労ですが、双方に杯を渡して、このお酒を注いでやってください。一言二言なにか言って労っていただければ喜びます」

「は、はい」

 やがて、顔を真っ赤にした男たちが二人一組でやってくる、瀬奈さんが間に入ってくれるので丸く収まるのだが、酒臭いオッサンたちの入れ代わり立ち代わりには正直参ってしまう。

「瀬戸内家四十七代目様のお顔を見ることが叶って、もう言葉も……」

「はい、お盃をどうぞ」

「これはこれは……」

「きゃ!」

 書院番と言われるオッサンは杯を受け取ろうとして、そのまま美晴に覆いかぶさるようにして眠ってしまう。

「おっと、昔なら切腹ものですよ」

 瀬奈さんがあしらって、他のメイドさんたちが酔っぱらいを引き立てて行く。

 こんなことが十数回繰り返されるので、お酒は飲まずとも参ってくる。

「ちょっと風に当たりたいわ」

「楓さん、お願いします」

 瀬奈さんが声を掛けると愛くるしいメイドさんがやってきて肩に掴まらせてくれて廊下に出してくれる。

 楓さんは廊下の角を二つ曲がったところまで案内してくれる。廊下の幅が三倍ほどになっていて、廊下でありながら絨毯が布かれ椅子に座って休めるようになっている。

 庭を挟んだ館に光芒が建物を薙ぐようにさした。

 

「御屋形様がお戻りになられたようですね」

 

「大お祖母ちゃんが……会いたいわ」

 もう大お祖母ちゃんに会い、言うだけ言って、明日の朝一番にでも帰ってしまいたい美晴である。

 さっきの書院番の一言で分かる――わたしを四十七代目に据えて後を継がせようというのだ――

「お気持ちに沿えるように……瀬奈さんがお手配されています」

「え?」

 楓さんが目配せした先は廊下のT字路のようになっていて、横棒のところを人がやってくる気配。

 縦棒の所に居る美晴には足音しか聞こえないが、交差点に来たところで姿が見えた。

「あ、あれは……?」

 それは美晴と同じ空堀高校の制服を着た女生徒……その子がチラと美晴の方を見た。

 その女生徒は美晴にそっくりだった。

 そっくりは、そのまま廊下を進んで、宴たけなわの大広間に入っていった。

「さ、御屋形様のところに参りましょう」

 楓さんがニッコリと笑った。

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《ただいま》第十回・由香の一人語り・8

2020-05-04 06:15:44 | ノベル2


第十回・由香の一人語り・8    


※主な人物:里中さつき(珠生の助手) 中村珠生(カウンセラー) 貴崎由香(高校教諭)


 

 その手紙をずっと持て余していた……。

 私は、ひまわり園という施設育ちで、親を知らない。高校三年のとき、ダメモトで受けた奨学金に合格し、バイトしながらではあるけれど、短大に入り、公務員試験を通って、この科学教育センターに配属になった。
 ひまわり園では数少ない成功者の一人。で、ひまわり園では、私に卒園近い子供たちに講演をして欲しいと頼んできた。
「自分で考えて、答え出しなはれ」
 珠生先生に相談したら、ニッコリ笑って、そう言われた。

「ただいま……!」
 明るい声で、この中村カウンセリング独特の挨拶で由香先生が入ってきた。
「おかえりやす。お、お土産持参どすか?」

 駅前のタコ焼きがおいしそうなんで、つい。ペロリと舌を出して由香先生。もう、なんだか女学生みたいだ。ここの附属高校の制服着せたら似合うだろうな……笑いがこみ上げてきた。
「なにか、おかしい?」
「いいえ、なんでも」
 悩みは、頭の奥にひっこんでしまった。
「さあ、ほなら、ボチボチいきまひょか……」


 ああ、お母さんは前のままなんだ。改めて、そう感じた。

 あたしも昔とは違う。ダメと言われても、もう家をとびだすようなことはしない。言い負かされておとなしく従うこともしない。
 そう思い定めると、何かが壊れたような、それでいて落ち着いたような気がしてきた。

 でも、お母さんは一枚上手だった。

 二年ぶりに家出から帰ってきたときのあたしを見て「お帰りなさい」と一言だけだった。
 そして、生協の買い物袋を降ろしながら、こう続けた。
「帰るんなら、電話の一本も入れなさい。夕食の段取りが狂うでしょ」
 まるで、クラブ活動を早く切り上げて帰ってきたときみたいに日常的だった。

 いよいよ田中さんのことを打ち明けた時も、少し当惑したような顔をしただけ。

 頬杖ついて、コップの氷をコトリともてあそんで、口元だけで微笑んでいる……これが、お母さんのポーズ。
 昔は死ぬほどいやだった。でも、その拍子抜けするほど穏やかなポーズに、かえって親としての苦しみが感じられるほどには成長したよ。

「お母さん、ごめんね……」

 と、思わせておいて、どんでん返し! ええ、さっきの電話……クソババア!
 九回裏の大逆転!
 由香はアマちゃんです。

 なにか隠してる……お母さんが?
 そんな気がするんですか。
 え、幸子さんが田中さんに聞いてみる……いえ、自分でします。ええ、母ともう一度話をして……何かあるんなら、それもちゃんと聞いて……それでもダメなら……はい、もう大人なんだから……あ、それに田中さん、携帯は持っていませんよ……ええ、ペンションとか経営するんだったら必要だって、言うんですけど、あの人、こう言うんです。
「話は、ちゃんと相手の顔を見てするもんだ」
 ズレてるでしょ。
 そのくせ、あたしと話すときは、ほとんどあたしのこと見てないし……。

 え、なにがおかしいんですか?

 え、他の人には、ちゃんと顔見て話してる……携帯のパンフも見ていた?、ほんとですか!?
 え……「あの人」って言いました、田中さんのこと、あたし……!?
 
 もー、幸子さんたら!

 アハハ、ええ、少し楽になりました。
 大丈夫、ひとまず切ります……ハハ、手首じゃありません、パソコン。落ち着いたら、また幸子さんのネタに協力しますね。じゃ……。

 ……電話ぐらいしてこいよ……携帯なくってもさ……ペンションにだって電話あるでしょ、田中さん……。

 どこが気に入らないって言うんだ田中さんの!

 自分だって、若い頃はたいがいだったのに。親の言うことも聞かず好き放題やってきたくせに。
 お母さんの友だち口が軽いから「ここだけの話」っての、ずいぶん知ってるんだぞ。
 何人も男の友だちが居て、家出したことから、あっちの病気のことまで……揺れるだけで芯のない青春。そんな時代を送ってきたくせに。

 お母さん!

 でも、親は親、筋は通さなくっちゃね。そうでしょ、田中さん……。

 あ、電話!

「きょ、今日は、そこまでにしときまひょ!」

 珍しく、珠生先生が、慌てて止めた。
「いよいよ、核心……なんですね」
「多分ね。わたしにも、ちょっと迷いがおましてな。すんませんなあ、化けるほどカウンセラーやってながら情けないこっちゃ」
「いいえ、あたしも……今日は、帰りに秋物のクリアランスセールにでも寄ってきます。へへ、時間はたっぷりあるから、腰据えていきますね!」

 由香先生が帰ると、珠生先生は一冊の本を出した。
『そして、ただいま』と言うタイトルで、県立図書館のハンコが捺してある。
「これは……?」
「貴崎さんの話しに出てくる幸子さん言う人の書きはった、小説だす」
「ひょっとして、由香先生がモデルになってる?」
「はいな、家出少女がペンションで成長していく様を書いた青春小説。年上の同僚に恋して、明るく母親に報告にいくとこで、大団円になっとります」
「由香先生の、ここまでの話といっしょですね」
「読んだら、分かりまっけどな。かなり団塊の世代への批判が書かれてます。カタチは明るい青春小説やけどね」
「読んでいいですか」
「うん、どうぞ。ところで、ひまわり園の方は決めた?」
「ええ、……それが」
「行ってきなはれ。伝えるいうことは、伝えられるもんにも、伝えられるもんにも、大きな影響がおます。サッチャンの想い伝えにいきなはれ。きっと為になります!」

 この先生の言葉が私の背中を押した……。

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ここは世田谷豪徳寺・99『さくらのアイドリングな日々・2』

2020-05-04 06:04:33 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・99
『さくらのアイドリングな日々・2』   



 

「お暑い中、わざわざの取材ありがとうございます」

 帝都ドールの社長さんは、70ちょっとぐらいの実直そうなオジサンだった。この年代はオジイサンとオジサンに分かれるけど、確実にオジサン。まだまだ元気で頑張ってますって現役オーラがムンムン。
「ちょっとびっくりさせたかもしれませんけど、まだまだこれから。お二人とも目をつぶって両手を出してもらえますか……」
 言われるままに、目をつぶってプレゼントをもらうように両手を出した。

「ヒャッ!」
「エエ!?」

 はるかさんもあたしも似たような声を上げた。冷やっこくってプニプニしたものが手の上に置かれたから。

 目を開けて、もう一回「ヒヤッ!」と「エエ!?」 あたしの手の上には心臓、はるかさんの手の上には腎臓が載っていた。
「医療教育用のレプリカです。大学の医学部から頂いたデータを基に3Dプリンターで原型をおこし、シリコンで作ったものです」
「え、これが、あのドールさんたちの中に入ってるんですか!?」
 あたしのバカな質問に、セーラー服のお孫さんが健康的に笑ってくれる。
「これは、息子の会社で作ってます。元々のうちの本業です。昔の学校なんかにあったでしょう。人体模型とか臓器の模型とか」
「それが、この人間そっくりなドールさんたちになるんですか?」
「昔、ニクソンショックってのがあって、変動相場制になって円が高くなりまして、医療用の模型じゃやっていけなくなりましてね。苦肉の策で始めたのが、これだったんです。ま、工場の方にどうぞ」

 ショールームを抜けて廊下をいくと「関係者以外立ち入り禁止」のドアが自動で開いたのでビックリ。なんのことはない、モニターで見ていた社員の人が、向こう側から開けてくれたのだ。

「ウワー……」

 首のない女の子の体が天井から吊るされてゆっくりと回っている。以前テレビで見た肉牛の解体工場を思い出した。
 白手袋のオネーサンたちが、一体ずつ検品している。
「ここでハネられたらボツなんですか?」
「たまには出ますが、細かい傷は補修して、またラインに戻します」
「プロポーションもまちまちなんですね」
 なるほど、よく見れば、モデルさんみたいなボディーもあれば、なんとなく親近感の湧く体型のボディーもあった。
「これなんか、さくらちゃんに似てるかも!」
 はるかさんは切り替えが早い。はしゃぎまくってあたしを、そのボディーと並ばせた。
「この子は身長 158.5cm バスト 83.7cm(Cカップ) ウエスト 63.7cm ヒップ 86.4cmの日本女性の平均です」
 コンマ以下はとにかく、ほとんどあたしといっしょだった。
「一体ずつ違うんですよ。この子たちをお求めになるお客さんの中には女性の方もいらっしゃいます。娘さんが遠くに行ってしまった方や(遠くには、いろんな意味があるのは想像がついた)一人暮らしの方が家族の一員のように迎えてくださる方もいます。で、半分ほどがサイズや特徴をうかがって、それぞれに見合ったものを作っています。こんな感じです」
 社長さんが案内してくださった部屋には、なんと、はるかさんが座っていた。
「あ、あたしだ!」
 一応短パンとカットソーは着ているが、はるかさんそっくりの首がついていた。
「マイって子のマスクが似ていたんで、あとはメイクとウィッグで似せてあります。一か月もあれば完全にそっくりなものも作れたんですけどね」
「さくらさんのもできましたよ」
 マスクに白衣の歯科助手みたいなオネーサンが、あたしの首を持って現れた。
「ギョエ、あたしの生首!」

 で、ドールといっしょに、記念撮影。社長さんは、こともなげに「売れるなあ……」正直複雑な気持ち……。
「ご安心を。お二人は並の肖像権以外に、プロダクションが版権もってますから、商品にはできません」
 なんだか残念そう。
「でも、これだとオーダーメイドで高くて、値段の割には商売にならないんじゃないですか?」
「ハハ、さすが坂東はるかさんだ。うちの主力商品は、こちらです」

 次に案内された工場は、小さい子たちで一杯だった。

「BJDとかSDとか業界では言ってますが、ビスクドールの進化系です。1/3~1/6までのラインナップです。金属製の関節が入ったドールで、ヘッドは市販の他社ののものでも付けられるようにアタッチメントが付いています」
「なるほど、これなら、いろいろカスタマイズして遊べますね」
「こちらは版権を買って商品化したもので、来月から発売します」
 壁を曲がったコーナーには、真田山学院の制服を着た人形がズラリと並んでいた。はるか風と由香風の二種類があった。
「あの『はるか ワケあり転校生の7カ月』の人気は、まだまだ続きますよ。親しみの持てるルックスだし、これに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』のキャラも入れて学院シリーズで売り出そうと思ってます。

 で、それぞれはるか風と由香風をもらって帰った。家に持って帰るとお父さんが気に入ってしまい、ちょっと複雑な、それぞれの夏の始まりでした。


 

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乙女と栞と小姫山・35『キャミちゃん!?』

2020-05-04 05:56:45 | 小説6

乙女小姫山・35

『キャミちゃん!?』      
 

 

 激しい光が点滅します、小さなお子さんは、部屋を明るくし、画面から離れてご覧下さい。
 

 テロップが流れたあと、当惑した笑顔の栞とテーブルの上の一億円が映し出された。

 栞が、切り通しの薮の穴蔵から発見したお金は、総額一億円あった!

 この一カ月余りで五回もテレビに取り上げられた。一度目は、今は停職中の教師達による「進行妨害事件」、二度目は、その事件の記者会見、三度目が梅沢忠興という教育学者との「テレビ対談」、四度目は「MNB五期生合格発表の記者会見」、そして五度目が、この「一億円拾得事件」。他に、お尻丸出し抗議事件による動画サイトなども含めると、この一カ月、日本でもっとも注目された高校生であろう。

 もっとも、今回は事が事だけに顔やジャージの学校名にはモザイクがかけられたが、芸能新聞は遠慮無く実名と栞の顔を一面で流した。
 

 学校、正確には桑田先生から叱られ、MNBのプロデユーサーからも注意され、父親からも叱られた。しかし、本人はなんとも思っていないので、通り一遍の謝り方ですました。学校もプロデユーサーも納得したが、栞のことをよく知っている父親からは、さらに叱られた「栞は、真剣でないときほど、謝り方がきちんとしている」という親というか、弁護士ならではの観察眼からであった。
 

 驚いたことに、落とし主が、その日のうちに三人も現れた。そして、三人とも偽者であった。警察は大金であることもあり、鞄の特徴や、お札の状態については簡単にしか報道しなかった。

 鞄は二十年以上昔、海外のメーカーで作られた特殊なジュラルミン製で、耐水性、耐衝撃性に優れていた。また、お札は銀行の封帯ではなく、なぜか某国の雑誌を切って作った帯で百万円ずつまとめられていた。なぜ、某国というかというと、読者の中から「オレのだ!」と名乗り出る人が現れないようにするためである。じっさい、どこで調べたのか栞の家に電話までかけてきた者が何人かいた。うち一人は警察を名乗り、「もう一度状況を確認したいんですが」という手の込みよう。栞は慣れたもので「○○警察ですね、こちらからかけ直します」 で、ことごとくが、偽者であった。
 

 連休の予定がたたなかった。

 今年は京都の八重桜でも見に行こうかなと思っていたが、MNBのレッスンがいつから始まるか分からないのである。この業界は、たいがいそうだが、急に電話が入ってから「明日から」などと言うことがけっこうある。そうやって、本人の本気度を試し、この世界の厳しさを頭からたたきこむのである。

 嫌いでは無かった。学校のように「生意気だから」「ずぼらをかまして」というのではなく、はっきりとした業界の空気やシキタリというものが、底辺にあるようで、好ましく思えるのだ。
 

「栞、頼むから自分でブログ作ってくれないか」

 一億円事件の明くる日に、帰るなり、お父さんに言われた。

「なんで?」  

 そう言いながら、スカートを落とす(脱ぐというより、この形象が、栞の場合正しい)と、別なことを言われた。

「あのな、おまえも小学生じゃないんだから、もうちょっと恥じらいを持ちなさい」

「いいじゃん、親子なんだし。お父さんだって風呂上がりタオル一丁だから、種芋見えたりするんですけどね」  

 と、キャミとパンツだけで親に意見する。

「いや、もう、だからさ。ブログだよブログ」

「だから?」

「お父さんのメールボックスに、お前宛のがいっぱいで、仕事にならないんだよ」

「あ、ごめん。わたしアイドルだもんね。うん、すぐに作る」  

 そう言って、パソコンを立ち上げてみたものの、アイドルのブログなんて見たこともない。まあ、適当でいいや。カシャカシャと、それらしいものを作った。

 事件に絡むことは一切書かなかった。学校で食べた食堂のメニュー、そしてブログを作ったいきさつぐらいのものである。しかし、なまじ表現力があるので、ついさっきの父とのいきさつをオモシロオカシク書いてしまった。
 

 夜には、いっぱいコメントがきた。

「種芋ってなんですか?」「栞ちゃんて、お父さんの前でキャミ姿になるんですか!?」「今度、ぜひキャミ姿のシャメ載せてください」「どこのメーカーの着てるの。わたしは、オーソドックスにワコールです♪」「食堂のランチメニュー教えて!」
 

 明くる日には、頭に「種芋栞ちゃん」「キャミちゃん」などと勝手に愛称が蔓延した……。

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